ソロ狩人がグリムガルで頑張るお話   作:古本

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【対オーク】

 

 

 俺は次の標的をオークに定めたもののすぐにオークと戦闘したりはしなかった。

 カガミも言っていたがオークはゴブリンとは比べ物にならないくらい手強い相手であり、そんな敵に無策で突っ込んでいっても返り討ちにされる可能性のほうが高いからだ。

 

 そこで俺はデッドヘッド監視砦に偵察に行ったり、オークと戦ったことのあるパーティに話を聞いたりして情報収集をすることにした。

 情報収集で一日中使うわけではないから空いている時間で師匠に新しいスキルを教えてもらったり、腕が鈍らないようにゴブリン狩りに行って過ごすようにしたのだが、そうこうしているうちに色々と分かったことがあった。

 

 まずはデッドヘッド監視砦について。

 この砦は文字通り人間の動きを監視するために設置されているものであまり防御力は高くなく歴史的に見ても人間がこの砦を攻略したことも何度かあるらしい。とはいえ今は普通にオークが砦の支配者だ。

 デッドヘッドから西に四十キロ程離れた場所にリバーサイド鉄骨要塞という名前からして堅固そうな要塞がある。ここがオークの拠点になっていて、デッドヘッドが攻められればここから援軍が出てくるため人間がここを奪取してもすぐに取り返されてしまうらしい。リバーサイド鉄骨要塞というのは俺たちでいうところのオルタナに相当するのだろう。

 

 比較的攻略が簡単とはいえそれは戦略レベルの話で監視砦は個人がどうこうできるレベルではないので、パーティでオークを狩ろうとするならばデットヘッドの中ではなく砦を囲むように設置されたテントに住むオークを狙うのが定石だ。

 とはいえ何も考えずにテント群に突っ込んでいっても周りのオークに気付かれて袋叩きにされるだけなので流石にそんなことはしない。

 

 しばらく偵察していて分かったことだがオークたちは常にテントの中にいるわけではなく割と周辺の森に出ていたりすることが分かった。

 初めは襲撃を警戒して巡回しているのかと思っていたのだが、デッドヘッドが手薄になるほどに多くのオークが出る日もあれば数えるほどしか出ない日もあってその動きに規則性を見いだせなかったのでオークたちが勝手に動いているだけのようだ。

 

 そうして外に出るときは必ず同じテントに住んでいる者と一緒に出ていた。一つのテントには2~5匹のオークが住んでいて、そんなテントが櫓の周りにいくつか密集している、そしてそのテント群がデッドヘッド要塞砦周りに点在しているというのがデッドヘッド周りの状況だ。

 そのテント群というのはどうやら族ごとによって分かれているようで、櫓の周りのテントの多寡によってその族の大きさを知れる。

 どうやらオークは帰属意識は強いらしく一目でどこの族に所属しているのかという目印がある。例えば髪を全員同じ色に染めていたり、顔にタトゥーを入れたりしているのですぐにどの個体が仲間かということが分かるのだ。

 

 そこまでわかってくると気を付けたほうが良い一族というのも認識できるようになる。それは最もテント数の多い族で全員耳に銀色の耳輪を付けている族だ。一度だけしか見ていないがその族の長らしきオークが明らかにヤバい雰囲気持っていた。普通のオークでさえ成人男性を優に超す体格を持っているのにそのオークはそれのさらに一回り大きく、顔には傷があり如何にも歴戦といった感じだった。とてもではないがあれと戦いたいとは思わない。

 

 オルタナにて色々な義勇兵から話を聞いたところ、銀の耳輪をしている一族は、仲間を義勇兵に殺されたときに報復しに来るという噂もあるくらいなのであの族は相手にすまいと心に決めている……。

 

 閑話休題。

 そのような感じで狩りの準備を進めてきて狩りの狙いを定めた。

 狙うのはオークが森に入ったとき、その場にいるオークの数が多くなければ待ち伏せて奇襲を仕掛けるのだ。こちらがやたらとうろついていればオークに見つかる可能性が高くなる。だからデッドヘッドからある程度離れていてオークたちが来るものの複数の群れとは同時に遭遇しにくい場所をいくつか見つけておいてそこで待ち伏せをする。

 

 そう決めたはいいものの、オークの数が多かったり例の銀の耳輪をしていたりでなかなか条件に合う群れに会わず、待ち伏せを始めて数日が立った。今日で実に四日目になるが流石にそろそろ狩りがしたい。

 というのもここで待ち伏せしている数日間、収入がゼロなのだ。すぐにどうこうなるわけではないがこれが続けば生活すら厳しくなる……。だから早く来てほしい……。

 

 そんな俺の願いを白神が聞き届けてくれたのか、俺がいつものように茂みで待機しているとオークの気配があった。

 急いで茂みから顔を出し、それと同時にスキル〈速目〉を使う。明瞭になった視界にオークの姿が映る。

 

 いち、に、さん……。

 三匹か。出来れば初めは二匹が良かったが、贅沢は言っていられない。やろう。

 

 いよいよ巡ってきた機会に逸る気持ちを抑えながら別の茂みに潜んでいるハクに合図を送る。ハクももうオークたちには気付いていたようで俺の合図を見るとオークを睨みつけながら前傾姿勢を取った。

 血気盛んな相棒がいきなり飛び出してしまわないように注意しながら矢筒から矢を取り出して静かに番える。

 

 オークたちはまったく俺たちの様子には気が付いていない様子で、俺には理解できない言葉を話しながらゆっくりと俺たちのいるところへと向かってきた。そのうちの一匹は弓を持っている。どうやらオークたちはこうやって森に入っては野生動物を狩っているらしく、弓を持っているオークは珍しくない。初めに狙うのはあいつにしよう……。

 〈速目〉に続けて弓の命中率を上げるスキル〈止目〉も使う。

 

 深呼吸をして狙いを定める。狙うは顔面。

 命中率は下がるがオークの頑丈な肌は矢すら弾く。確実にダメージを負わせるなら急所を狙うべきだった。

 

 オークが近づいてくる。

 あと五十歩、四十歩、三十歩……。

 

 二十歩!

 

 その瞬間、俺は弓弦を離す。

 放たれた矢は真っ直ぐオークに向かっていき、オークの右目に突き刺さった。

 

 

「グモオオオオォォォォーーーッッ!」

 

 

 オークが目を抑えながら大きな悲鳴を上げる。

 攻撃を受けたことを瞬時に理解した残りのオーク二匹がすぐさま自分の腰に差していた剣を抜いてあたりを見渡す。流石に動きが速い。

 

 弓持ちのオークが目を抑え顔を伏せつつも、矢筒から矢を取り出した。戦意を失うどころかまだまだやる気らしい。

 残った左目に怒りを滾らせながら顔を上げた瞬間、トンっと眉間に矢が突き刺さる。

 そいつは矢が当たるとビクンと身を震わせてそして何が起こったのかすら分からず困惑した表情のまま後ろに倒れていった。

 

 よし、上手くいった。

 

 予想よりも素早く一匹目を排除出来たことを喜びつつ、三度矢をつがえる。

 二本の矢で仲間をやられ、憎き射手を位置を割り出した二匹が剣を持っていないほうの腕を顔の前に掲げながら俺のほうに向かって走ってくる。そのうち俺に近いほうに向けて矢を放つ、が矢は腕を滑って逸れていった。ならばと無防備な腹に向かって矢を放つと、矢は突き刺さりはしたものの殆どダメージを負っていなかった。

 

「くそッ」

 

 分かっていたつもりだったがこんなにも矢が効かないとは思わなかった。オークの頑丈さもそうだが使っている弓自体の威力不足を痛感する。顔をガードされている以上これ以上矢で攻撃しても無駄だ。

 矢を捨て剣鉈を引き抜くとオークはもう至近だった。

 

 オークが片手剣を大きく振りかぶって振るってくるのを、俺も剣鉈で迎撃。

 キーンッという凄まじい音と共に衝撃が俺の腕を走る。まるで岩か何かを殴ったかのような感触。

 

 なんとかつばぜり合いに持ち込んだが、オークは余裕の表情なのに俺は渾身の力を込めなければ今にも押し切られそうだった。

 そしてそんな俺に二匹目のオークが迫ってきた。

 対面にいるオークによって抑え込まれている俺はこの攻撃を避けることも弾くこともできない。勝ちを確信したもう一匹のオークがニヤリと笑って大きくその長剣を振りかぶったーー瞬間、そいつが悲鳴を上げた。

 

 茂みに隠れていたハクがオークの剣を持つ右手に噛みついたのだ。

 対面のオークがその悲鳴に意識を取られた瞬間、俺は師匠にもらったナイフを抜きそのままオークの足を斬りつける。オークが怯み、曲刀の圧力が減じたので腹を思い切り蹴り一度距離を取る。

 

 剣鉈を右手に、ナイフを左手に構えながらちらりとハクのほうを見やると、ハクはまだ右手首に噛みついていてオークが何とか振り払おうとしているものの食らいついていた。ハクの鋭い牙の間からだらだらと血が垂れていて、あのオークの意識は完全にハクに向いているようだ。

 

 ハクの様子を見つつも視界に収めていた正面のオークが動く。

 一歩足を進めながら真上に構えた片手剣を振り下ろしてくる。それを右手の剣鉈で横からたたくようにして弾き、そのまま身体を半回転させながらナイフを裏拳気味にオークの背中にぶっ刺す。が、あまり深くは刺さらなかった。

 ならばと剣鉈を振りかぶったところでオークが身を低く屈めた。

 

 ヤバいと思った瞬間オークが下から突き上げるように体当たりを仕掛けてきた。あまりに距離が近かったせいで避けきれずオークの肩が腹に食い込む。

 

「ぐっ……!」

 

 何とか距離を取ろうとするが、オークは体当たりの勢いのまま左下から片手剣を斬り上げる。それをバックステップして避けるとオークが返す刀で上段からの振り下ろし。それは避けきれないとみて剣鉈とナイフを交差させて何とか防御する。

 腕から体に伝わる物凄い重圧にこんな攻撃は何度も受けられないと察して何とか攻撃に移る。剣鉈とナイフを傾けて片手剣をそらすとそのまま剣鉈を振るう。が、オークはその攻撃に対して驚異的な反応でをみせ、一瞬で片手剣を引き戻して剣鉈を防いでしまった。

 

 とはいえ体勢的に俺のほうが有利だったので、俺が剣鉈をぐっと押し込んでゆくと剣鉈と片手剣は合わさったまま両者の位置は腰のあたりまで低くなっていく。 

 上半身が無防備になったので俺は順手で持った左手のナイフをオークの首筋に向かって振るう。

 

「刈り払いッーー!」

 

 ナイフによって放った〈刈り払い〉はオークがひょいと身を仰け反らせることによって簡単に避けられてしまう。しかし、ナイフの刃渡りは短いので元々避けられることは予想済みだ。

 俺は振り切ったナイフを手の内でひっくり返し、持ち方を逆手に直す。そしてそのまま一歩踏み込みながらナイフをオークの首目がけて差し込む。

 この動きにオークは反応出来ず、「く」の字描くような軌跡をたどったナイフはするりとオークの首筋に突き刺さった。致命傷だ。

 

 

「グガアアアアァァァァッっーー!!」

 

 

 その時、大きな怒りの声が響き渡る。

 ハクに噛みつかれていた最後のオークだ。俺が二匹のオークを殺したのを見て逆上したのだ。オークは自分の腕ごとハクを傍の木に叩きつけて乱暴にハクを振り落とすと、落とした長剣を左手で持って俺に向かって走り出してきた。

 

 俺はナイフから手を放し腕甲に仕込んであった棒手裏剣ーー鍛冶師に作らせたもので大きな釘のような形をしているーーを抜き取る。

 

「星貫ッ!」

 

 狩人のスキル〈星貫〉。これは投げナイフを投げるスキルで、義勇兵崩れに投げナイフを使われてから師匠に習ったものの一つだ。

 スキルのよって放たれた棒手裏剣は真っ直ぐオークの顔面に向かって行くが、オークが腕で払うと簡単に弾かれた。ダメージは与えられなかったがこれでいい。一瞬、オークの視界が腕で隠された隙に俺は手を地面につく寸前まで身を低くしてオークに向かって走る。

 

 オークが腕を顔の前からのけた頃にはもう反応できない位置まで近づいていた。そしてそのまま剣鉈で足を払う。足を傷つけられたオークは怒声を上げながら、長剣を思い切り振り下ろしてくる。それを俺は両手で構えた剣鉈で何とか防ぐ。

 怒りに身を任せた攻撃だったからか、技術はないがとてつもなく重い一撃に思わず膝を折ってしまう。オークは長剣を振り上げるとガンガンと何度も振り下ろしてくる。

 このままじゃヤバい、そう思った時オークに飛び掛かるものがあった。ハクだ。

 

 オークがハクに気を取られた間に何とかその場から離れる。オークがハクを振り払おうと無茶苦茶に身を震わせるとハクを弾かれてしまった。まだ木に叩きつけられたダメージが残っているのだろう。

 オークがハクに向かって長剣を振り下ろそうとしている。止めを刺す気だ。

 

 そうはさせじと俺に背を向けたオークに向かって突っ込んでいき、後ろから膝を斬ってやてオークを怯ませた。

 そしてその隙を見逃すハクではなかった。ハクは一瞬動きの止まったオークに飛び掛かるとそのまま首を食いちぎる。えぐられたように肉がそがれたオークの首から血をドバドバと吹き出した。

 

 オークは首に手をやりなんとか出血を抑えようと試みるも努力むなしく血が止まることはなく、死を悟ったオークは恨めし気に俺たちに手を伸ばすと、糸が切れたようにどうっと倒れた。

 

 

 

 

 

 

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