ソロ狩人がグリムガルで頑張るお話   作:古本

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【救援】

 

 

 初めてオークを殺し、義勇兵としての童貞を切った日から俺は何度かオークの狩りに成功していた。

 醜悪な顔をしたモンスターはやはり危険な相手で戦っていてひやりとする場面も何度かあったが、リスクがある分リターンも見込める。オークはきちんと整備された武器は勿論、個体によって装飾品なんかも持っていたりするので中々の稼ぎになるのだ。

 

 ゴブリンでは毎日狩っていても場合によっては日々のパンすら心配しなければならないがオークなら一度狩ればしばらく何もしないでも生活ができる。実力の付いたパーティがゴブリン狩りなんかしなくなるというのも頷ける話だった。

 とはいえ、オークを狩ったことによって一度は温まった懐もカガミに酒を奢ったり、不足していた日用品を買い足したり宿を移したりしているうちにすぐに目減りしてしまったので俺は週に数回のペースでデッドヘッド要塞砦周辺で狩りにいそしんでいる。

 

 今日も狩りに来ていたのだが、中々条件に合うオークの群れを見つけられなかった。切羽詰まっているわけではなく必要以上のリスクを冒すこともないので今日は少し休んでからオルタナへ戻るつもりだ。

 

 木の根元に腰掛けながら革袋を取り出して水を飲む。それから椀状にした手に水を注いでハクの口元に持って行ってやると、ハクも嬉しそうにぴちゃぴちゃと舐め始めた。

 その間手慰みにナイフを取り出して右手でもてあそぶ。師匠にもらって以降、長くこれを使っているが最近は正直少し物足りなさを感じる。今までは手数を増やすために左手に持って主に攻撃を逸らしたり受け止めることに使っていたが、それはゴブリンを相手にしているときの話でオークが相手では恵まれた体格から繰り出され思い攻撃を受け止めるには少し心許ない。攻撃にも使っているが至近距離から急所に差し込む位でないとオークには致命傷は与えられないし刃渡りが短く回避されやすいのでもっとリーチが欲しい。

 

 愛着があるし、物も良いので手放す気はないがこれは元々サブウェポンにするといいということで師匠にもらったので、戦闘の際に二本の得物を使うスタイルが多くなった今もう一本新しく剣鉈を手に入れてもいいかもしれない。

 それに俺はソロなので出来るだけ多くの武器を持っていたいという事情もある。実は棒手裏剣を手に入れた理由にそう言う訳もあったりする。以前、ゴブリンに剣鉈をぶん投げたことがあったがそういう武器を手放してしまった時敵に襲われてしまうとヤバい。ソロで活動している以上自分の身は自分で守らなければならないので、生命線である武器は持てるだけ持っておきたいのだ。

 

 そんなことを考えているとハクが水を飲むのをやめたのに気が付いた。まだ水は残っているのに珍しい。

 

「どうした、ハク。もう水はいいのか?」

 

 ハクは俺の呼びかけに答えず、耳をピンと立てるとじっと森の奥を見つめている。

 まさか敵が来たのかと弓を手にしてあたりを見渡すがそれらしい姿はない。それに敵が来たのであればハクはもっと分かりやすく伝えてくれる。

 

 俺がこのままオルタナに帰ると決めたならハクは大人しく従うだろうが、そんな反応をされては気になってしまう。ハクと出会ったときと状況が似ているなと思いながら俺は腰を上げた。いざとなればさっさと逃げてしまえばいいだけだしな……。

 

 

 

 

 

 

 ハクの先導にしたがって少し歩くと、ハクが捉えた音が俺の耳にも聞こえてきた。剣戟と怒号。誰かが戦闘をしている……。

 それが分かってからさらに気を使って慎重に進む。やがて事が起こっている現場を目視できる所まで来た。そしてそれを見た瞬間、俺はここに来たことを早くも後悔していた。

 

「まじかよ……」

 

 俺の目の前に広がる光景、それは義勇兵がオークと戦っている姿だった。

 義勇兵は五人、オークは四匹だ。

 

 別に義勇兵とオークが戦っているのは珍しくない。ゴブリンしかいないオルタナ近くの森ならともかく、ここは稼ぎのいい狩場として駆け出しから中堅にかけての義勇兵がよくオークと戦闘しているのだ。

 実際に俺もここでいくつかの義勇兵のパーティと見かけ、時には一緒に食事をしながら情報を交換したりもした。

 

 今戦っている義勇兵のパーティーは初めて見る顔ぶれ。動きから見てオークを戦いなれていない感じがする。かなり苦戦しているようだ。

 義勇兵の間には殺されそうになっている義勇兵を見かけたら、出来る限り助け合うべきだという不文律があり、俺も助勢できるならしようとは思っている。思っているがしかし、今回は戦っている相手が悪い。

 

 パーティーが相手にしているオークたちの耳に光るのは銀色の耳輪。

 義勇兵の間で半ばアンタッチャブルの存在と化しているあのオークの一族だ。

 それでも見殺しにするのは寝覚めが悪いのでいざとなれば加勢するつもりだが……。出来れば関わり合いになりたくない。

 

 戦況としては義勇兵のパーティの前衛として戦士がオーク二匹、狩人と盗賊が一匹ずつ相手にしていて、その後ろでは神官と魔法使いが援護している。

 戦っているオークたちの後ろには一匹のオークが倒れてる。恐らくあれは彼らが自力で倒したのだろう。だからと言って、この場が義勇兵パーティに優勢なのかというとそんなことはなかった。

 前衛でオーク一匹と戦う盗賊の少女は短い短剣しか装備しておらず完全に押されているし、狩人の少年は左腕を斬られたのか腕から血を流しながら戦闘を続けている。前衛中央でオーク二匹と渡り合っているすっぽりと兜をかぶった聖騎士は直剣と盾を上手く使ってよくオークたちの攻撃を凌いでいるものの多勢に無勢でかなり苦しそうだ。

 

 よくよく観察してみると聖騎士を攻撃しているうちの一匹は少し小さかった。小さいと言ってもオークにしてはという話で、俺より少し背が低いくらいの大きさだ。

 ほかのオークと比べると小柄だが、だからと言ってそいつが弱いわけではなかった。むしろオークの中で一番強い。聖騎士に向かって手に持った曲刀で鋭い斬撃を何度も放っている。それを嫌がって聖騎士が小柄なオークに向かって何度か直剣を振るうがそれをもう一匹がうまくカバーし、その隙をつくようにして攻撃を続け聖騎士を着実に削っていた。

 

 そうこうしているうちに状況が変わる。

 盗賊の少女がオークの強烈な一撃を受け流しきれず体勢を崩したのだ。オークはすかさず少女の腹に思い切り拳を叩き込んだ。少女はかひゅっという空気を飲み損ねたような妙な声を上げて後ろに吹っ飛んでいく。肋骨くらいは折れたかもしれない。それほど強力な攻撃だった。

 

「エリ!!」

 

 それを見た神官の青年が慌ててエリと呼ばれた少女に駆け寄る。

 

「待て、オキト!!」

 

 それを止めようと女の声が飛ぶ。しかしそれが聞こえているのかいないのか神官はそのまま狩人に治癒魔法を唱え始めた。

 そうなると浮いた一匹は……。

 

「くそっ!」

 

 全滅が見え始めた状況のせいで四の五の言ってられなくなった。思わず悪態を付きつつ剣鉈を抜いて隠れていた茂みから走り出す。ハクも俺の行動を見て駆け出し、すぐに俺を追い抜いて行った。

 盗賊を蹴飛ばしたオークは前衛である盗賊と最後の砦である神官がいなくなった魔法使いに向かってずんずんと進んでいく。魔法使いはいきなりの事態に硬直しているのかその場に突っ立ったままだ。そんな魔法使いを何とか助けに行こうと無理に大振りの攻撃を仕掛けた聖騎士は例の小柄なオークに冷静に対処され、むしろ手に持った直剣を手から弾き飛ばされてしまった。

 

 このまま行けばすぐにでも魔法使いと聖騎士が殺され、タンクとアタッカーをなくしたパーティはなし崩し的に一人ひとり殺されていきパーティは全滅してしまう……。それを悟ったのか義勇兵たちの顔が絶望に染まる。

 

 しかしそうはならなかった。

 

 オークが魔法使いの女の前まで迫ったその時、ハクが後ろから飛び掛かり膝に噛みついたのだ。オークが悲鳴を上げ、歩みを止める。

 それを見て俺はそっちはしばらく大丈夫だろうと判断して剣を失った聖騎士のほうに向かう。

 

 聖騎士とそれを囲んでいた二匹は、突然悲鳴を上げたオークに気を取られていた。戦闘中にあるまじき一瞬の場の停滞。だが俺には好都合だ。その隙を利用してするすると後ろから近づいていく。そして小柄でないほうのオークの背後を取り、地面を蹴る。

 

「ーー猛虎ッ!」

 

 〈猛虎〉は最近教えてもらったばかりの剣鉈スキル。前方宙返りから斬撃を放つスキルで狩人スキルの中でも最も火力の高いものの一つだ。

 そんなスキルは後ろからの奇襲であることも相まって完璧に決まり、俺の剣鉈はオークの後頭部をパックリと裂いた。俺の全体重と勢いの乗った強攻撃に流石のオークも耐え切れず、割れた頭蓋骨を露出させた頭から血を吹きながらゆっくりと倒れていく。

 くそっ、これで俺もこいつらから恨まれるな……。こうなったらこの場にいるオークを全滅させ、口封じするより他はない。

 

「あ、あんたは……」

「話は後だ! こいつは俺が受け持つからさっさと剣拾ってこい!!」

「……感謝する! しばらく頼んだ!」

「一応言っておくがあの白狼は俺の仲間だから手を出すなよ!」

「ああ、分かっている!」

 

 驚いた表情で突然の闖入者である俺を見る聖騎士だったが、俺が味方であることは分かったのだろう。礼を言って少し遠くまで弾かれてしまった直剣を拾いに行った。

 そして俺が相対するのは小柄なオーク。先ほどから見ていたがオークの中でこいつが一番の手練れだ。警戒しつつ剣鉈とナイフを構える。

 小柄なオークもいきなり現れ仲間を殺した俺をじっと観察するように見てくる。戦いの中にあっても冷静さを失わない嫌な視線だ。

 

 にらみ合いが数秒続いたが動き出したのはほとんど同時だった。

 俺は距離を詰めながら〈斜め十字〉で斬り込む。が、小柄なオークは俺のスキルによる二連撃をいなすように曲刀で受け流した。こんなにも完璧に攻撃をいなされたのは初めてだ。驚いている間もなく、オークがすかさず放ってきた突きを首をかしげることによって避ける。オークは突きから横薙ぎへと急に曲刀の動きを転変させた。俺の首に曲刀が迫る。急いで横に身を投げ出すようにして〈穴鼠〉で攻撃を回避。

 穴鼠の勢いを殺さず立ち上がり、横から剣鉈での攻撃。

 

「ーー刈り払い!」

 

 オークは素早く引き戻した曲刀で俺の剣鉈を受けた。攻撃を止められたがもう一度仕掛けてやろうと剣鉈を引き戻そうとした瞬間に直感、咄嗟に左腕でガードを取る。ほとんど同時にオークの蹴りが放たれた。

 

 何とか腕でガードできたものの腕に痺れが走る。

 オークは蹴りを引き戻すと俺を休ませないとしようとするかのように、曲刀を左から水平に薙いできた。それを身をかがめて避けその低姿勢のまま下からナイフを突き出す。が、それはオークがバックステップしたことで腹を浅く切り裂くにとどまった。

 

 一度距離がおかれて仕切り直しだ。

 たらりと頬を血がつたう。先ほどの突きを避けきれていなかったらしい。分かっていたがは改めて目の前の敵が油断ならない敵であることを再確認する。

 相対するオークから目線を切らないようにしつつ周りの状況を確認する。

 

 魔法使いに向かっていたオークはまだハクが戦っていた。ようやく自分を取り戻した魔法使いが魔法でハクの援護をしている。神官に回復してもらったらしい盗賊の少女もそちらの援護に向かっているので、あちらの戦闘は心配いらなそうだ。

 一方、狩人は未だに一人でオークと戦っていた。オークも敵の増援に焦っているのか必死の攻撃を繰り返しているので、片手しか使えない彼はかなり苦戦している。俺よりもそっちのほうが危なそうだな。

 直剣を取り戻してこちらに向かってきていた聖騎士に声をかける。

 

「俺は良いから狩人のほうに向かってやれ」

「……すまん! すぐに戻る!」

 

 聖騎士もどちらのほうが追い詰められているのかは分かっていたのだろう、すぐに狩人の援護に向かった。

 

 

 

 

 

 

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