ソロ狩人がグリムガルで頑張るお話   作:古本

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【不覚】

 

 聖騎士が狩人のほうに走っていくが、それを見届けぬうちに小柄なオークがいきなり距離を詰めてきて、曲刀を振り下ろしてくる。それを俺は刈り払いで迎撃。両者の剣は硬質な音を立てながら弾かれる。

 その隙に二刀を持った利点を生かして、ナイフで突きを放つ。だがそれはなんとオークが素手のまま握って止められる。

 

 流石に驚いたが瞬時にこのままナイフをつかんでおくのはまずいと判断してさっさとナイフから手を放す、と同時に先ほどまでナイフを掴んでいた左手のあった場所に振り下ろされる曲刀。

 あと少しでも遅かったら俺の手首がサヨナラしていたであろうことに冷や汗を流しつつ、結果的に大きく隙をさらした小柄なオークに反撃をする。速度を重視して顔に向かって突き。オークは首を振って躱すがすかさず袈裟懸けに斬撃。

 オークが咄嗟に後ろに下がったせいで直撃にはならなかったが確実にダメージを与える。

 

 体勢を整えられる前に距離を詰める。オークがそれを嫌がって曲刀を振るってくるがかがむようにしてそれを躱しオークの横をすり抜けるように移動。そしてオークの鎧の後ろ襟を掴み後ろに引っ張りつつ横から膝を狙って蹴りを入れる。 

 オークは体勢を崩し、後ろ向きに倒れこむ。反撃に倒れながら曲刀を振るってくるがそれを冷静に避けて曲刀を振り切った所を狙って武器を持っている手首に向かって蹴りを放つ。

 鉄板を入れ補強されたブーツによる強力な蹴りはオークの右手から曲刀を吹き飛ばした。曲刀は少し離れたすぐには手の届かないところにからりと落ちた。

 

 勿論武器を取りに行かせる隙を与えるはずもなく、すぐに武器をなくしたオークに馬乗りになる。

 馬乗りになった俺を何とか振り落とそうと無茶苦茶に体を動かすオークだが、それをなんとか抑え込み、剣鉈を逆手に持って構える。俺が何をしようとしているのか悟ったのだろう、オークが歯茎を見せながら威嚇してくるがそれを無視して剣鉈を振り上げ、喉元に向けて真っ直ぐに振り下ろすッ!

 

 しかしその切っ先は喉元に到達する前に止まった。オークが右手で首をかばったのだ。剣鉈は掌を完全に貫通したもののそれより先には一切動かない。

 オークは攻撃を凌いでやったとばかりにニヤリと笑り、動きの止まった俺に向けて左手を向ける。その手には俺から奪ったナイフが握られていた。

 こいつは狙っていたのだ、武器をなくしたと思い込んで俺が不用意に近づいてくるのことを。

 

 しかし、その奇襲攻撃が俺に傷を与えるよりも俺が突き立てた棒手裏剣がオークの下顎にするりと入る方が早かった。

 実は俺がオークに馬乗りになる前に抜いて左手に隠し持っていたのだ。

 

 驚愕の表情を浮かべたオークが咳き込むと口から血があふれ出た。

 オークの体がびくりびくりと動く。最後のあがきとばかりにナイフを俺に突き立てようとしたのか震える腕が僅かに動くがナイフが俺の体に到達する前に身体の力が抜け、左腕もぱたりと地に落ちた。

 

 奇しくも似たような狙い……。

 正直危なかった。意外とあっさりと決着がついたが、命を落としても全く不思議はないぎりぎりの戦いだった。

 

 手強かったオークが完全に絶命したのを確認して立ち上がる。

 オークに突き刺さった剣鉈と棒手裏剣を引き抜き血を拭ってからしまう。オークの手からナイフも回収し、ついでに俺が蹴飛ばしたオークの曲刀も拾っておく。

 

 そしてあたりを見渡して状況を確認する。

 まずハクたちのほうを見ると、ハクと盗賊が攻撃を仕掛けークの注意を引いた瞬間に魔法使いが放った火球がオークの顔面に直撃。数秒、物凄い悲鳴を上げたがそれが致命傷となったようでぱたりと倒れた。

 

 聖騎士が向かったほうでは、聖騎士が慎重に立ち回りオークの兵とを自分に向けている間に狩人の傷を神官に直させ、回復した狩人と共にオークを追い詰めているところだった。あの分では手助けはいらないだろうとしばらく様子を見ていると何度か攻撃を受けながらも優位に戦闘を進め、最後には聖騎士の直剣がオークの心臓を貫くことで戦闘が終わった。

 

 

 

 

 

 

 戦闘が終わったことを確認して、さっき回収したオークが使っていた曲刀を眺めてみる。

 剣鉈と比べると刃渡りが少し長くフォルムはスリムだ。斬ることを目的として作られていることがよくわかる。

 頭蓋骨を割り、何度もオークと刃を合わせた剣鉈は帰ったら鍛冶師にメンテナンスを頼まねば使用に若干の不安を覚える位なのだが、曲刀は刃こぼれどころか傷一つない。かなり質のいいものなのだろう。光に透かすようにしてみると刀身は青みがかっているようにも見えた。

 手に取って何度か素振りをしてみると振りやすく中々具合がいい。

 

 よし、これは売り払わずに自分で使おう。そう決めて曲刀を腰に差し込む。

 戦利品の分配についての話し合いはまだだがこのオークは俺が殺したのだし恐らく文句は言われないだろう。

 

 にしてもこの曲刀もそうだがこの小柄なオーク、持っているものの質が妙にいい。鎧も今までにないほど作り込まれたものだし、耳につける耳輪も他のオークが付けているものよりも装飾に力が入っている感じがする。もしかしたらこいつは族の中でも高い身分の者なのかもしれないな。面倒なことにならなければいいが……。

 

 オークの死体の装備を見ながらそんなこと考えているとカシャカシャと足音が聞えたので視線を上げると聖騎士が俺のほうに歩いて来ていた。

 俺の視線に気が付いたのか聖騎士が被っていた兜を取ると豊かな長髪がふわりと広がる。声で分かっていたが無骨な全身鎧で身を包んだ聖騎士は女性だった。女性としてはかなり身長が高い。絶世の美女という訳ではないがはっきりとした目鼻立ちは意志の強さを感じさせる。

 彼女は俺の近くで立ち止まると彼女は笑顔を浮かべながら俺に声をかけてきた。

 

「本当に助かった。あんたがいなけりゃどうなってたことか」

「いや、構わない。困ったときはお互い様だ」

「そう言ってくれるとありがたい。アタシはアンドウ。このパーティのリーダーをやっている」

 

 そう言いながら聖騎士のアンドウは手を差し出した。

 その手を握りながら俺も名乗る。

 

「俺はサクだ。あっちの白狼はハク」

「白狼を連れた狩人……。あんたもしかして一匹狼か?」

「……最近そう呼ばれていることを知った。もしかしてそれって結構広がってるのか?」

 

 もしかしたらカガミが勝手に言ってるだけかと思っていたが初めて出会う義勇兵も知っているとは……。

 思わず嫌そうな顔をしたのが分かったのかアンドウが笑いながら言う。

 

「ハハハ、正直そこまで有名ってわけじゃないと思うよ。アタシ達よりも後に義勇兵になったのに早くも二つ名を持ったルーキーなんて気になるに決まっているだろう? だからアタシはたまたま知っていたってだけさ」

 

 アンドウのその言葉を聞いて少し安心する。二つ名持ちというのは化け物じみた強さを持つやつばっかりらしいのだが、俺はそんなたいそうな奴ではないのでそんな奴らと同類を思われたらたまったもんじゃない。

 しかし彼女たちは俺よりも先輩らしい。まぁそれもそうか。少し前にまたこっちに来た奴らがいるという話を聞いたがこの短期間でここまでは来れないだろう。因みに当然のように一人だけなんてことはなく十数人一緒にこっちに来たらしい。俺ってどんだけイレギュラーなんだよ……。

 

「にしても噂の一匹狼はもうオークを倒しているとはね。今回初めてオークを狩ろうと思って来たんだけどまさか全滅しかけるとは思ってなかったよ。これでもかなり実力は付けてきたつもりだったんだけどね……」

 

 俺が不幸な身の上を嘆いているとアンドウが落ち込み始めた。確かに意気揚々と戦闘しに来てパーティが全滅しかけたのだからリーダーは落ち込んでしまって当然か。

 だが実力を付けてきたというアンドウの言うことは嘘ではないのだと思う。このパーティは別に弱くない。特に聖騎士であるアンドウなんかはかなりの実力者だ。

 

「まぁ、今回は相手が悪かったな」

「そうなのか? オークはみんなあれだけ強いのかと思っていたが」

「いや、こいつらはオークの中でもかなり強かったよ。特にこいつは」

 

 そういって足元の小柄なオークの死体を指さす。

 こいつともう一匹のオークが巧みに連携を取りながらアンドウを拘束し続けたのが今回アンドウパーティが全滅寸前まで追い込まれた原因だろう。普通のオーク相手だったら二匹と戦ってもアンドウは危なげなく倒して他のメンバーの救援に向かっていたはずだ。

 

「あとはいきなり数の多いのオークの群れを相手にしたのは判断ミスだった思うが」

「やはりそうか。いや、初めはオークが一匹でいたから奇襲を仕掛けたんだ。しかしそいつは斥候だったみたいですぐにあいつらが来てそれで……」

「……ここのオークが単独行動することはまずない。少なくとも二匹以上でないとこのあたりを歩き回らない」

 

 少しでも調べていれば分かることだ!

 俺のじとりとした目に気付いたのがアンドウがうっと声を漏らす。

 

「確かにアタシ達はちょっと驕っていたかもしれないね。いままで苦戦することもほとんどなかったから」

「俺が偉そうに言うことじゃないけどこれからは気をつけろよ。今回だってかなり危なかったんだから」

「ああ、そうだね。肝に銘じておくよ」

 

 神妙そうにしているアンドウを見ながら、これからの自分の行動について考える。

 

「にしてもしばらくここでの狩りは控えないとなぁ」

「ん、なぜだ? まだここで活動するならいろいろと教えてもらいたかったのだが」

「何を悠長な……。やはり知らずに戦ったのか」

「知らない? 何をだ?」

 

 本気で分からなそうなアンドウの様子に嘆息しつつも応えてやる。

 

「今俺たちが殺したオークについてだよ。耳輪をつけていることが特徴のオークの一族、名前は確かアッシュ族だったかな、は仲間を殺されると殺した義勇兵に報復しに来るという話がある」

「報復だと?」

「そうだ。それに俺が倒したこのオーク、族の中でもどうも身分が高い気がする。だとするとかなり厄介なことになりそうだ」

 

 俺の話に面食らっていたアンドウだったがようやく自分たちが面倒な状況におかれていることに気づいたのだろう。

 笑顔を浮かべていたその顔が徐々に真剣さを帯びてきた。

 

「その報復に来るという話は確かなのか?」

「いや、あくまで噂だから真偽は分からないがわざわざリスクは取りたくない。それに報復に来るとしたら、確実に殺せるように大人数で来ても不思議はないだろ。考えただけでもぞっとする」

 

 今、自分たちを殺しかけたオークが大挙して追いかけてくる場面を想像したのかアンドウは顔をわずかに青くさせて周りを見渡し始めた。

 

「おいおい……。ならさっさとここから離れたほうがいいんじゃないか」

「そうだな、確かに長居は無用だ。だけど流石にすぐには来ないだろう。ここにいたオークは俺たちが全員殺した、つまり目撃者はいないわけだからな。正直俺たちがこいつらを殺したことがばれる可能性は低いと思ってる。だから狩場を移すのは念のため、くらいの話だよ」

「そうか、そうだよね」

 

 アンドウは俺の言葉にほっと息をつく。

 すぐには危険がないと安心したのだろう。そう、取り逃したオークでもいるのなら別だが殆ど危険はないはず「おい、オークの死体が一体足りないぞ!」……だった。

 少し離れていたところで作業をしていた狩人のあげたその言葉に俺とアンドウは思わず顔を見合わせた……。

 

 

 

 

 

 

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