ソロ狩人がグリムガルで頑張るお話   作:古本

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【死闘】

 

「決闘?」

「アア、ソウダ。人間相手ナラバ普通言葉ヲ交ワス事スラナク皆殺シニスルガ、我ガ息子ヲ殺シタ貴様を我ハ戦士デアルト認メヨウ。戦士同士ガ決着ヲ付ケルノナラバ決闘コソガ相応シイ」

 

 巨躯のオーク、ドガラ・アッシュの言葉を頭の中で反芻する。

 決闘というからには俺はこいつと一騎打ちすることになるのだろう。……はっきり言って分が悪すぎる。

 なにせ目の前のオークはそんじょそこらのオークとは全くの別格。こいつを倒せる奴がいるだろうかと思えるほどの正真正銘の化け物なのだ。

 

 しかし、悪い提案ではないのかもしれない。

 俺たちは今二十を超えるオークに囲まれているのだ。この決闘を断り、普通に戦闘が始まった場合、ドガラ・アッシュ含めた二十を超えるオークと戦わねばならないのだ。そう考えると一騎打ちというのはまだましな選択肢なのかもしれなかった。……こんな化け物との一騎打ちがましに思える現状とは。

 

「俺がお前との決闘に勝ったらどうなる?」

「フム? 貴様ガ勝ッタラ?」

 

 ドガラ・アッシュは聞いたことのない概念を聞いたかのようにそう聞き返した。

 自分が負けることなど想像すらしていなかったらしい。こいつと俺の力量差を考えると仕方ない事なのかもしれないが普通に腹が立つな。

 

「万ガ一、貴様ガ勝ッタナラバ我ガ同胞ト息子ヲ殺シタ事ヲ不問ニシ、我ガ殺サレタトシテモソレヲ理由ニ復讐スルコトヲ禁ジヨウ」

「俺だけじゃなくてついでにそれにこいつらも入れといてやってくれないか?」

 

 そう言ってハクやアンドウたちを指さす。

 

「ヨカロウ。我ガ同胞ニコノ場二イル者ニ手ハ出サセナイ」

「感謝する」

 

 俺の言葉にドガラ・アッシュは思ったよりも簡単に頷いた。

 多分、自分が負けることを考えていないからなのだろうが、有難いことには変わりない。

 

「ダガ、我ガ勝ッタ場合ニハソコノ犬含メテ皆殺シニスル」

 

 ドガラ・アッシュは気負いなくそう言い切った。

 しかし、これは当然の事というかそもそも決闘しなかったらそうなるはずので、ドガラ・アッシュにとってメリットはないようなものだ。それなのに俺との決闘にこだわることは不思議だが……。

 何にせよ、俺にこの決闘を断るという選択肢は残っていなかった。

 

「……俺、狩人のサクはドガラ・アッシュの決闘の申し出を受ける」

 

 俺がそういうとドガラ・アッシュはニヤリと笑ってオークの群れに何事かを叫んだ。

 恐らく決闘の条件というか、自分が負けてもこいつらに手を出すな、みたいなことを言っているのだろう。

 オークの群れはざわつき始めるが、ドガラ・アッシュが一喝するとすぐに静かになった。彼らの目に浮かぶのは信頼と畏怖。彼らの長が俺に負けることなんて夢にも思っていないだろう。

 

 オークたちが動き出して、俺とドガラ・アッシュを中心に輪を作る。即席の決闘場という訳だ。

 アンドウたちも黒ローブにせっつかれて俺から離れ輪に加わる。

 

 そんな彼女たちの顔は暗い。

 自分たちの命が今日出会ったばかりの人間の決闘にかかっているのだから当然と言えた。ましてその決闘の相手は真の化け物なのだ。

 

 最後まで俺の傍にいたのはハクだった。

 この状況が分かっているのかいないのか、ハクは心配そうに俺のことをじっと見つめてくる。俺はしゃがみ込んでハクの頭を撫でる。

 

「俺は大丈夫だから。向こうで少し待っていてくれ」

 

 ハクはそれでもしばらくの間、名残惜しそうに俺の周りをぐるぐると回る。しかし最後は俺の手に頭をこすりつけるようにしてからアンドウたちのほうに向かっていった。やはり賢い子だ。

 アンドウが任せろとでもいうように頷いてきたので俺も頷きを返す。

 

 そして俺はドガラ・アッシュに向き直った。

 彼は悠然と立っていて緊張など全くしていないようだった。

 

「すまん、待たせたか」

「ソレクライ構ワヌ。我ハ戦士に寛大ダ」

「そうかい、ありがとよ」

 

 面と向かって戦い始める決闘に弓は不利だと判断して、弓や矢筒、それから背負っていた雑嚢なんかを外してアンドウたちのほうに放って身軽になる。

 

 体が問題なく動くことを確認してから一つ大きく息を吐く。

 いつものように視力を強化するスキルを使い、そしてしゃらりと剣鉈と青みがかった色の曲刀を引き抜く。そう曲刀。目の前のオークの神経を逆なでするかもしれないが出し惜しみをして勝てる相手ではないのは間違いないと考えて剣鉈と曲刀の二刀流で戦うことに決めた。

 

 それを見てぴくりと眉を動かしたドガラ・アッシュも腰に帯びた二本の曲刀を引き抜いた。途端に増す重圧。

 彼が左手に持つのは普通の鉄ではありえない真っ白な刀身の曲刀。右手に持つのは黒曜石のようなぬらりと濡れるような黒色の刀身をした曲刀。間違いなく二刀とも業物だった。

 

 偶然にもお互いに両手に得物を持った二刀流で相対する。

 

「アッシュ族ガ長、ドガラ・アッシュ」

「……義勇兵、狩人のサク」

 

 向かい合った両者が名乗りを上げることでいよいよ決闘が始まった。

 

 

 

 

 

 

 最初に動き出したのは俺。

 もともと体格で劣っているのにオークに攻撃され続ければ俺は耐えられない。主導権を握るべきだった。

 

 ドガラ・アッシュは曲刀を構えすらせず、その場から一歩も動いていなかった。

 走り寄ってから曲刀での全力の刈り払い。

 

 走った勢いに鋭い踏み込みから繰り出された斬撃は我ながら強力なもので、油断からか構えてすらいないドガラ・アッシュに直撃するはず……だった。

 しかし、俺が曲刀を振り切った瞬間、弾き飛ばされていたのは俺の体だった。

 

 何が起こったかすらわからなかった。

 さっきまでだらりと下げられていた黒刀が振り上げるのを見てようやく、自分の攻撃が黒刀で弾かれたことを認識した。

 予想外の事態に一瞬動きの止まった俺にドガラ・アッシュは突っ込んできて、曲刀を振るってくる。

 

 右から迫ってくる白刀。

 慌てて引き戻した曲刀で受けようとした瞬間、これだけでは止められないと直感。急いで左手に持つ剣鉈も合わせて白刀での攻撃を止める。両手で迎え撃ったのにもかかわらず押されているのは俺だった。

 その圧力に耐え切れず、地面を蹴って穴鼠で逃げようとする、がドガラ・アッシュの蹴りが飛んでくる。避けきれず蹴りが腹に刺さり、俺は後ろに転がっていく。

 

 このままではまずいと、何とか体勢を立て直し、立ち上がった瞬間目の前に迫る黒刀。瞬時に剣鉈と曲刀を交差させて何とかその一振りを防ぐ。

 しかし、ドガラ・アッシュの武器は一つではなかった。俺が両手をふさがれている状況で俺の右腕に振るわれる白刀。俺は何とか腕甲を刃のほうに向けることしか出来ず、数瞬後白刀が俺の腕に叩き込まれる。

 

 腕に走る衝撃と共にパキパキッ、と何かが折れる音がした。

 白刀はあまり深くまで刺さっていない。俺は背筋を使ってなんとか黒刀を弾き飛ばして距離を取る。

 

 右腕の状態を確認する。骨折したかと思ったが見えたのは露出した骨ではなく、腕甲に仕込んでいた三本の棒手裏剣の断面だった。棒手裏剣はいわば鉄の棒なので防御力の増強になるかという思惑もあって腕に差してあったのだが、これに命拾いした。

 

 しかし、そんな事に喜んでいられる状況ではなかった。

 これまでの攻防で理解した。俺とドガラ・アッシュの間には隔絶した実力差がある。筋力、速度、そして技術の全てに置いて俺が勝っている点はなかった。

 このままじゃ負ける。

 

 焦燥ばかりが募るが打開策を考える暇さえ与えらない。

 ドガラ・アッシュが走り寄ってくる。そして叩き込まれる強力な斬撃。何とか防ぎ、反撃するが俺の攻撃は容易く避けられる。

 剣撃がいなされるならと蹴りを繰り出してみても全くダメージを与えられた様子はない。

 

 やがて攻撃をする事すらままならなくなり、全ての動作をドガラ・アッシュの攻撃を回避するためだけに使う。

 〈刈り払い〉や〈斜め十字〉を攻撃ではなく迎撃のために使い、受けきれない攻撃が来るとなったら〈穴鼠〉や、バックステップでひたすら距離を取った。

 しかし、それでも完璧に防御することなどできるはずもなく俺の身体にはいくつもの傷が刻まれた。致命傷となるようなものは流石にまだ食らっていないが、攻撃をひたすら受け続けている現状、それも時間の問題と言えた。

 

 そうして幾度となく剣を合わせていると、攻撃を読もうとしているからか相手の思考のようなものが分かるような感覚に襲われることがある。

 今まさに、その瞬間が訪れた。

 

 冷静に二刀を振るい続けるように見えるドガラ・アッシュ。しかしその内心は俺への殺意と憎悪に溢れていた。そしてその源にあるのは仲間と息子を失ったことによる失意と怒りだった。俺を戦士として認め、決闘にこだわったのも息子の死を少しでも意味のあるものにしようとする親心だったのだ。

 

 目の前のオークは化け物なんかじゃない。息子の死に嘆き、怒るただの父親なんだ。

 俺はそれに唐突に気づいた。気付いてしまった。

 

 知らず剣鉈と曲刀の動きを一瞬止めてしまう。

 ぎりぎりの所で何とか保っていた均衡が崩れるーー。

 そしてその明確すぎる隙をドガラ・アッシュは見逃さなかった。彼は黒刀を振るい、俺が握る剣鉈と曲刀を一振りで上に弾きあげた。

 

「しまっ……!」

 

 そして無防備になった俺の身体に向かってドガラ・アッシュは白刀を思い切り振り下ろす。二本の得物を弾かれてしまった以上俺はどうすることも出来ず白刀が俺の身体を引き裂くのを見守るしかなかった。

 

 白刀で俺の身体を切り裂いてもなお、息子を殺された父親に容赦はなかった。

 白刀を引き戻すや否や、俺の胴に蹴りを叩き込む。ボクッという不可思議な音を立てて俺の身体に叩き込まれた蹴りによって俺は後ろに吹き飛ばされた。

 

 その瞬間、一気に襲ってくる恐ろしいほどの激痛。

 

 

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いッーーーー!!!

 

 

 鉄臭い息を荒く吐きながら、剣鉈を握ったままの左手で傷を押さえる。するとすぐにその左手が赤く染まった。

 蹴られた部分を触ってみると、肋骨があるはずのその場所はぐにりとへこむ。肋骨が完全に折れていた。

 

 どちらも内臓には至ってはいないもののかなり深い傷。

 血が止まる気配はなかった。

 

 

 ーーあれ、俺、もしかして死ぬのか……?

 

 

 自分が死の淵に立たされていると認識したその時、俺の体を駆け巡る()()

 

 それは死にしたくないという生への執着だった。

 

 どこまでも原始的で、だからこそ純粋で途方もなく強大な我欲(エゴ)

 

 

 それを自覚したとき、俺は吠えていた。

 息も絶え絶えで僅かな酸素すら惜しい現状、悪手でしかないそれは俺の中の迷いを吹き飛ばす。

 

 息子を殺された親の怒り? 俺は自分の都合で他者を殺すクズ?

 

 

 ーー()()()()()()()

 

 

 俺は生き残る。

 その過程でする必要のある事ならなんだってするし、誰だって殺してやる。

 だからどんな理由があろうとも俺を殺そうとしているこいつは絶対に殺す。

 

 吹っ切れた俺はもう一度咆哮し激情のままにドガラ・アッシュに向かって走り出す。

 その瞬間、自分の中の何かがかちりと切り替わったような音が聞こえた気がした。

 

 先ほどまで感じていた耐えがたいほどの痛みは鈍くなり、それなのに感覚は鋭敏で身体は今までにないほどよく動く。

 そして下りてくる、世界がゆっくりと動くように見えるあの感覚。

 

 ドガラ・アッシュは、突っ込んできた俺を迎撃するべく両の刀の振るう。

 世界が遅くなる不可思議な感覚のおかげで恐ろしく速いその斬撃がいつになくよく見える。僅かな時間差を持って斬撃が襲ってくる高度な技。

 

 まず俺は白刀に剣鉈を添えるようにして僅かにその軌道をずらし、その動きのままに黒刀の根元に剣鉈をぶつけ動きを止める。

 二刀の攻撃をいなすと間髪入れず曲刀で袈裟懸けに斬撃。

 

 攻撃した直後だったドガラ・アッシュは曲刀を避けることすらできず、曲刀は鎧と共にドガラ・アッシュの体を切り裂いた。

 

 動きが突然変わり、初めて当てられた攻撃にドガラ・アッシュが大きく目を見開いたのが見えた。

 反撃が飛んでくる前に腹に後ろ蹴りを叩き込みその反動でドガラ・アッシュの間合いから離脱する。

 

 しかし、仕切り直し、なんて悠長なことは言っていられない。俺の流血量からして俺に残された時間は短い。短期決戦しか生きる道はなかった。

 直地の際に曲げた膝を一気に伸ばして俺は低い体勢のままドガラ・アッシュに向かって駆け寄る。

 

 低い位置にいる俺に向かって放たれる白刀を跳ねて避け、懐に飛び込むと同時に剣鉈で突き。それは黒刀で防がれるが、それを気にせず曲刀で足を払う。

 

 これで体勢を崩せるかと思ったのだが、オークは小揺るぎもしない。それどころか白刀を握ったままの拳で俺の顔を殴ってくる。武器を振るうよりも早いその攻撃は予想できなかったためにそれをまともに食らってしまう。

 急に動きが変わった俺に早くも対応してきていた。

 

 ふらつきそうになるのを必死に抑えつつ、体を回転させながら剣鉈を振るう。剣鉈はオークの顔を斬りつけるが咄嗟に顔を引かれたせいで浅い。

 追撃することなく剣鉈を引く。

 

 理由は、下から掬い上げるように放たれた白刀による攻撃。

 これを剣鉈と曲刀両方で受け、その動きに逆らわないように後ろに向かって両足で地面を蹴る。俺の身体は浮き、後方宙返りをしながら距離を取った。

 

 しかしドガラ・アッシュは俺に時間を与えなかった。開けられた距離を取り戻すように追撃を仕掛けてくる。

 一瞬で距離を詰めたドガラ・アッシュが凄まじい速度で振るうのは黒刀。それを剣鉈で受ける。凄まじい衝突音。

 

 瞬間、剣鉈からぴしり、という音が聞こえた。

 

 やばい、と思ったその瞬間、剣鉈が砕け散った。

 ゆっくりと流れる視界のせいで砕けた剣鉈の破片の一つ一つすら認識できる中、ドガラ・アッシュが黒刀を引き戻し、すぐに突きを放ってきたのが見えた。

 

 俺は回避ではなく、半ばで折れた剣鉈を投げつけることを選択。回避しなかったせいで黒刀による突きが俺のわき腹をえぐった。

 星貫の要領で投げた剣鉈はドガラ・アッシュの顔面に回転しながら飛んでいき、ドガラ・アッシュはそれを白刀で弾き飛ばした。

 

 ダメージを与えられなかったものの、これでよかった。

 俺が狙っていたのは黒刀。剣鉈に対処していたせいで黒刀を戻す暇はなく、黒刀は未だ俺のわき腹に突き刺さったまま。

 

 俺はそれを素手のままぐっと掴み、わき腹と手で挟みこむようにして固定する。

 当然のように黒刀の刃は俺の手やわき腹に食い込み血が流れだすが、黒刀の動きは止められた。

 

 ドガラ・アッシュも流石に予想外の動きだったのか一瞬動きが止まる。俺はすかさず、右手の曲刀をコンパクトに振るう。

 曲刀の刃が落ちる先は黒刀を握るドガラ・アッシュの右腕。

 

 狙いに気づいたドガラ・アッシュが右腕を引こうとするが力を込めてその動きを妨害する。引ききられ手とわき腹の傷が深くなるが妨害は成功してドガラ・アッシュの右腕はほとんど動かなかった。狙い違わず曲刀はするりと右腕に入り、そのまま右腕を両断した。

 断面から吹き出す血飛沫。

 

 それが俺にかかるよりも早く勘を頼りに振り下ろしたばかりの曲刀を持ち上げると、曲刀の柄と白刀の刃が衝突した。ドガラ・アッシュは自分の右腕が落とされたのにもかかわらずすぐに白刀での反撃をしてきたのだ。恐るべき意志力だった。

 

 白刀を止められてもドガラ・アッシュの目に戦意は煌々と燃え盛っていた。

 

 そんな彼が選択した攻撃は蹴り。

 狙いは股間であると知れた。その瞬間直感する。あの蹴りをもらったらやばい。

 

 巨躯のオークの蹴りは俺の骨を砕き、機動力をなくした俺はなぶり殺しにされる。しかし、間合いに飛び込んでいる現状前後左右どこにも逃げ場はなかった。

 

 強力な蹴りが目前に迫る中、俺が選択した行き先は()

 その場で跳躍し、蹴り上げられた足の上に自分の両足を乗せる。

 

 俺の体は、オークの蹴りによって上空に跳ね上げられる。

 空中でなんどか回りながらなんとか姿勢を整えて、両手で曲刀を握った。そう、これはただの回避ではなかった。回避であると同時に攻撃の予備動作なのだ。

 

 そしてこれが俺に放つことのできる最後の攻撃であると悟った。

 体を斜めに切られた傷に加えてわき腹からの流れ出す血の量は夥しい量で正直言ってもう倒れていても何ら不思議はない。これ以上の戦闘行動は不可能。

 

 だから、この攻撃に全てを懸ける。

 

 空中にいながらドガラ・アッシュを確認すると左手の白刀を構え、俺にその切っ先に向けていた。右手を失ったあいつも理解しているのだろう。この攻撃を制したものが勝つと。

 

 俺の体が重力に従って落ち始めると同時に、腹に力を入れ集中し、そして叫ぶ。

 

 

「猛虎ォォオオオオォォォォォォォッッッっっっーーーー!!!!!」

「グラアアアアァァァァアアアァァァッッッッッーーーー!!!!!」

 

 

 俺の全体重と重量を乗せた、最強のスキルを命を削りながら放つ。

 

 俺の全身全霊の攻撃に対抗して、ドガラ・アッシュも腕の筋肉を隆起させ凄まじい速度で白刀を振るった。

 

 曲刀と白刀がぶつかり、そしてパリンッという音と共にーーー

 

 

 ーー白刀が砕けた。

 

 

 最後の障害を砕いた曲刀はそのまま突き進み、その刀身はドガラ・アッシュの頭から股までを一直線に突き進んだ。

 

 俺は曲刀を振り下ろした体勢のまま着地する。

 もう指一本動かす気力すら残っていなかった。が、しかし、ドガラ・アッシュが未だに立っている気配は感じる。

 

 あれで倒しきれなかったのか……。

 胸中に絶望感が広がったその瞬間、頭上からぽつりと言葉が落ちてきた。

 

 

「……見事」

 

 

 かすれた声でそう聞こえた瞬間、どさりと何か重いものが倒れる音がした。

 

 

 ーー勝った……のか?

 

 

 曲刀を杖に、震える足で立ち上がる。

 視界に飛び込んできたのは倒れ込んだドガラ・アッシュ。血まみれのその身体はぴくりとも動かない。

 

 完全に死んでいた。

 死体を見ても自分がこいつを殺したことが信じられなかった。

 

 安心からか、膝から下がなくなったかのように突然膝が崩れる。

 地面に倒れる、そう思った時俺の体を支えてくれるものがいた。ハクだ。ハクが俺に寄り添って倒れそうになった所を助けてくれたのだ。

 

 直ぐにアンドウも来て肩を貸してくれる。

 

「大丈夫か!?」

「……あぁ」

 

 俺の声はかすれきっていて自分の声でないような気がした。

 

「すぐにオキトに治癒させる。……問題はあいつらがそれを許してくれるかだね」

 

 その言葉にはっとする。

 そうだ、俺は今オークに囲まれているのだ。しかも、俺は彼らの族長とその息子を殺した憎い相手ということになる。ドガラ・アッシュの命令があったからと言って怒りに任せた彼らに殺されない保証はどこにもなかった。

 

 気力を奮い立たせて、オークたちのほうに顔を向ける。彼らはやはりというべきか殺気立っていた。特に先ほどまでドガラ・アッシュの一番近くにいたオークが盛んに吠えたてている。

 

 これはまずいかもしれない。

 そう思って曲刀を握りなおすが握力は殆ど残っておらず、ずるりと滑り落ちそうになる。持っているだけでやっとという有様だった。

 

 しかし、最悪の事態は避けられた。

 殺気立つオークの集団に、黒ローブが何事かを叫んだのだ。

 

 するとオークが一匹、また一匹とその場から離れ始めた。

 それでもしばらく騒ぎ続けるオークもいたがその数は減っていき、最後まで吠えていた例のオークも周りのオークに拘束されてデッドヘッドのほうへと帰っていた。

 最後に黒ローブがこちらをちらりと見やってからその場からかき消えた。

 

 危機が完全に去ったことを悟った瞬間、俺は意識を失った。

 

 

 

 

 

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