ソロ狩人がグリムガルで頑張るお話   作:古本

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矛盾、誤字脱字があれば教えてください。




【目覚めよ】

 

 

 

 

   「ーー目覚めよ(アウェイク)

 

 

 

 

 

 どこからともなく声が聞こえたような気がして瞼を上げる。

 ぼんやりとした灯りはあるものの闇に覆われており周りの状況はほとんど把握できない。

 

 地面はごつごつした岩のようでここは洞窟かなにかだろうか。

 

 

「どこだよ、ここ……」

 

 

 思わず口からついて出た言葉は誰からも言葉が返ってくることなく消えた。

 

「あのー、誰かいませんかー?」

 

 

 そう呼びかけてみるもやはり返答はない。

 明らかに人の気配がしないので半ば予想はできていたが、やはり訳の分からない状況で独りぼっちだということを認識できてしまったことには精神的にクルものがあった。

 

 落ち着け、こういう時こそ冷静に頭を回すべき……。

 

 

 俺は誰? ーーサク。そう、サクだ。よくあいつから女みたいな名前だって笑わr……あいつ? あいつって誰だ? だめだ思い出せない。

 ここはどこ? --分からない。

 なぜこんなところへ? --分からない。

 どうやってここに? --分からない。自分でここに来たのか、それとも誰かによって連れてこられたのかそれすらも。

 

 結果分かったことと言えば自分の名前だけ、他の記憶、自分がいままでどこにいたか何をしていたかすらも思い出せなかった。

 今の状況に関しても分かることは、殆どない。というか情報が少なすぎるので判断のしようがない。

 つまり、ここでぼーっとしていてもまったく意味がないということだ。

 とりあえずこの訳の分からない状況で何の進展もないまま無為に時間を過ごすというわけにもいかない。

 

 

 仕方ない、気乗りはしないが動くべきだろう。

 

 

 分からない事だらけではあるがひとまずの方針は立てられたので、さっきよりは幾ばくか冷静になって周りを見られるようになった。

 

 目に入ったぼんやりとした灯りというのは蝋燭にともった火だった。

 蝋燭に位置はかなり高く手は届きそうもない。

 

 蝋燭はある方向にむかって一定に並べられている。

 

 逆の方向を見ると暗闇に包まれた空間が広がっていることが分かったが、この状況では蝋燭のあるほうに向かっていった方がよさそうだ。

 暗闇の中を歩き続けるなんて想像するだけでも気が滅入る。

 よし、行くか。

 

 

 立ち上がり壁に手をつきながら蝋燭の明かりに従って歩いてゆく。

 地面は思ったよりも歩きやすくてありがたい。

 

 

 

 かなりの時間歩いた気がする。

 ほとんど変わり映えしない光景だったので時間の感覚がかなり曖昧だ。一時間ぐらいは歩いた気がするが本当はもっと短いかもしれない。

 

 そんなことを考えていると灯りが見えた。

 蝋燭の光とは違うかなりの光量がある明るさだ。

 

 気が逸り歩く速度が速くなる。

 

 近づいてみるとランプが見え、その灯りは鉄格子の扉を照らしていた。

 

 鍵がかかっているかもしれないと思いながら手をかけると予想に反して扉はすんなりと開いた。

 扉の先は階段が続いている。

 

 階段を上がる。

 

 上がった先にはまたもや鉄格子の扉。

 まるで牢獄みたいだ。

 

 先ほどと同じように押してみるが今度は鍵がかかっていたようで開かなかった。

 

「誰かいないのか!? 開けてくれ!」

 

 半分ダメもとで叫んでみたところ驚いたことに扉の先で影が動いた。

 その陰が俺のもとに近づいてきてようやくはっきりと姿が見えた。

 そいつは男でなんと鎧を着ていた。もっと言えば腰には剣らしきものまで差している。

 

 思わず唖然とする。

 鎧に剣? そんなもの初めて見た。時代錯誤にも程がある!

 

 知らず口を開けていると、ガチャリ、という音がして扉があいた。

 鎧姿の男が開錠してくれたらしい。

 

「出ろ」

 

 一言だけそう言って俺が通れるように道を開ける。

 その言葉に従って扉をくぐるとそこは石造りの部屋になっていた。

 出口のようなものは見当たらないが、これからどうするのだろう。

 

 そんなことを思っていると鎧の男が何かのレバーを操作をして、部屋に振動が走ったかと思うと正面の壁がゆっくりと沈み込み人が通れる穴ができた。

 

「出ろ」

 

 再び男がそういったのを聞くや否や俺の足は穴へと向かっていた。

 その穴をくぐると漸く外に出た。

 

 今は朝方なのか、空は薄暗い。

 だがそれが太陽の光というだけで有難い。やはり一人で日の光の当たらないところにいるというのは想像以上に心を疲れさせるものらしい。

 

 振り返ると塔があった。俺は今まであそこにいたのだろう。

 ふと先ほど出てきた穴に目をやると地面から壁がせり出すように出てきて穴がふさがりかかっていた。

 

 って、

 

「ちょ、まじかよ。待ってくれ!」

 

 

 そう呼びかけるも全くふさがるスピードは落ちることなく完全に閉まってしまい、もう壁の部分と見分けがつかない。

 

「おいおい、これからどうすりゃいいんだよ……」

 

 

 久しぶりに見た人間にしてこの状況を説明してくれそうな人間との接触が立たれてしまったことで途方に暮れる。

 土地勘もなく頼れる人間もいないところでどうしろと?

 

 

 

「そんな困った貴方を助けに来て差し上げました。感涙に咽び泣いてもいいんですよー」

 

 ふと近くでそんなふざけたような声が聞こえた。

 

 

 バッと振り向くとそこにはツインテールの少女が一人。

 いや待て、さっきまでは人気すらなかったんだぞ? それなのにこんなに近くに近づかれて気づかないなんてことがあり得るのか?

 

 

「そんなに警戒しないでくださいー。元気ですねー。ようこそグリムガルへー。案内人のひよむーですよー。よろしくねー。きゃぴっ!」

 

 えぇ、なんだこいつ。

 いや、ちょっとまてこいつは今重要なことを言わなかったか? そう、

 

「グリムガル?」

「そうですよー。まぁそんなことは事どうでもいいので早速仕事しちゃいますよー。ついて来てくださいー」

 

 そういうと少女はくるりと背を向けて歩き始めた。

 こうなっては仕方がない。少女についていくしかないだろう。

話はそれからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 城塞都市と形容したくなる壁に囲まれた街、丘一帯に広がる膨大な数の墓らしき白石、明らかに文明レベルの低い服を着た人々、その人々がやり取りする赤銅色で小さな通貨らしき金属の欠片、そしてなにより()()()

 

 ひよむーに連れられ歩いているさなかに目の当たりにしたものの数々に俺は違和感を覚える。そう、それらを初めて見たかのように。

 

 というか、明らかに俺の知っているものではない。

 まぁ、俺は今、記憶喪失のように何も思い出せないので知っているもくそもないのだが。

 それにしたって今俺が身に着けている服装ーー白いシャツに黒いスラックスーーには見覚えがあり、なんの違和感もないのでやはりこれらのものを初めて見たという俺の感覚は間違ってはいないのだろう。

 

「どこなんだよ、ここは……」

「ここはオルタナですよー」

 

 半ば無意識に口から出た言葉だったので、返事が返ってきて少し面食らった。

 

「オルタナ、それがこの国の名前か?」

「ちがうですよー。この国はアラバキア王国って名前ですよー。オルタナっていうのはこの街の名前ですー。親切に教えてあげるひよむーちゃん優しいっ!」

 

 

 さっき話しかけたときは悉く無視されるか、独特の口調で煙に巻かれていたのだが、ひよむーは今になってなぜか俺の質問に答えてくれる気になったらしい。

 この調子なら、いろいろと話を聞けるかも知れない。

 

 しかし、その思惑はひよむーが突然立ち止まり「じゃーん! よーやく到着したですよー!」と声を発したことで行動に移せなかった。

 

 

 

 

 ひよむーが立ち止まったのは白地に赤い三日月の旗を掲げる石造り二階建ての建物。

 そして指さす先にあるのは、年季の入った看板だった。

 

 

「こ、こ、がっ! かの有名なオルタナ辺境軍義勇兵団レッドムーンの事務所ですよん!」

 

 

 確かに剥げかかっている看板にはオルタナ辺境軍義勇兵団レッドムーンと書いてあるのでここが目的地で間違いないのだろう。

 

 

 

 

「ささ、早く中に入ってくださいー」

 

 そうひよむーに促され中に入ると、そこは酒場のホールにようになっており奥のカウンターに男が一人腕組みして立っていた。

 

「それじゃ、ひよむーはこの辺で! まいどのことですけど説明等々よろしくお願いしますね! ブリちゃん!」

「はいよ」

 

 

 そういうとひよむーは早々に外に出て行ってしまった。

 ここにのこされたのはブリちゃんと呼ばれた男と俺の二人だけになった。

 

 

 

 なぜかあたりに緊張感が立ち込める。

 ブリちゃんは俺のことをじっと観察していたが俺もブリちゃんから目を離せない、というのもこの男色々とおかしいのだ。明らかに男なのだが、緑の髪に黒い口紅、やけに長いまつ毛に囲まれるのは驚くほどきれいな水色。割れた顎に頬紅まで差した厚化粧。

 明らかにヤバイ。

 

 

 

「ふーん。珍しいわね」

 

 

 ようやくブリちゃんが口に出したのはそんな言葉だった。

 その言葉に含まれるのは、驚きに、ーー落胆?

 

「まぁ、いいわ。歓迎するわ。アタシはブリトニー。オルタナ辺境軍義勇兵団レッドムーン事務所の所長兼ホストよ。所長か親愛の情を込めながらならブリちゃんと呼びなさい。いい?」

「あ、ああ」

 

 若干気おされながらも頷いておく。

 こんな濃いやつに話しかけられて戸惑わない奴はいない。

 だが今は聞かなければならないことが山ほどある。今聞いた言葉を整理しながら口を開ける。

 

「所長、辺境軍と義勇兵ってのはなんだ? 俺はなぜここに連れてこられた?」

「あら、そんなにいっぺんに言われても答えられないわよ?」

 

 所長はそう言って笑う。

 

「頼む、教えてくれ」

「んー、戦力的にはあんまり期待できないとはいえ、ちゃんと答えてあげるからそんなにがっつかないの」

 

 うん、嫌な予感しかしない単語が聞こえてきた。

 

「戦力?」

「そうよ、戦力」

「てことはやっぱり俺がここに連れてこられた理由は義勇兵とやらにするため?」

「あら、察しがいいわね。そうよあんたはこれから義勇兵になるの。でも選択の余地はまだあるわよ」

 

 そういって所長はにやりと笑って、人差し指を立てた。

 

「あんたは、今から選ぶことができる。義勇兵になるか、否か。とはいっても最初は見習い義勇兵として一人前の義勇兵を目指してもらうことになるけどね」

「で、義勇兵ってのは何をするんだ?」

「戦うのよ」

 

 所長は当然のことのように言った。

 

「この辺境には、アタシたち人間と敵対してる種族や、モンスターって呼ばれる怪物どもがうようよいるの。そいつらを駆逐、制圧するのが辺境軍ってわけ。でもそんなに簡単な仕事じゃない。実際、辺境軍はこのオルタナと前線基地を維持するのに手一杯なの。そこでおはちが回ってくるのが……」

「義勇兵って訳か。つまり義勇兵は辺境軍が守備に戦力に割いているせいで手の回らない場所の敵対種族の数を減らすのが仕事ってことか」

「おおむね、そういうとこ。もっとも辺境軍も守備一辺倒ってわけじゃないのよ? 遠征して敵対種族の拠点を攻撃することもある。でも軍隊ってのは色々と制約がある。例えば遠征の際の兵站なんて莫大な量がいるし金もかかる。でも義勇兵は違う」

「どう違うんだ?」

 

 

 ある程度予想はつくが、、、

 

 

「アタシたち義勇兵は、基本六人までのパーティーを組んで敵地に潜入、視察、攪乱、戦闘を行うことによって敵対種族の弱体化を図る。とにかく各自が己の才覚、判断で情報を収集し敵をたたくってわけ。これがアタシたち義勇兵団レッドムーンの仕事よ」

 

 

 なる、ほど。いいように言っているが、義勇兵というのは軍にいいように使われる便利屋のようなものなのだろう。

 少数ということは確かに敵に気づかれないというメリットがあるがそれ以上にリスクが大きい。情報にない強い敵がいれば間違いなく被害が出る。

 いや、それも織り込み済みなのだろう、軍から被害を出さずに安い義勇兵の被害でもって敵の戦力を図る、撃破できれば儲けもの。いやになるほど合理的だ。

 

 

 

「義勇兵にならなかったらどうなる?」

「どうにもならないわよ。さっきも言ったけどあんたは選択することができる。義勇兵団に加わりたくなければここから出て行って二度と戻ってこなくていいわ」

 

 

 こんな見知らぬ地域にで、コネも、金も、知識もない状態で街に出る?

 冗談じゃない。俺は今得体のしれない男以外の何物でもない。こんな明らかに不審な男を雇ってくれる職場が見つかるか? 見つかったとしてもまともな仕事じゃない。

 そう、例えば義勇兵とか。

 

 

「義勇兵団に入ったらどうなる?」

「見習い義勇兵になるなら、銀貨十枚、十シルバーあげるわ。これがあれば当面暮らせるはずよ」

 

 

 そう言って所長はカウンターの上に小さな革袋と銅貨のようなものを置いた。

 その銅貨のようなものには三日月が彫られている。それを所長が摘まみ上げて言った。

 

 

「これは見習い義勇兵身分証明章、通称・見習い章。文字通り身分を証明するものだから、もらったらなくさないように。まぁ持ってても大したことはないんだけどね。でもアタシから二十シルバーで買える団章を買って、一人前の義勇兵になれたらそれなりの特典があるわ」

 

 そう言った所長は「義勇兵は何をするのかも自分で情報集めて判断しろってのが流儀なんだけど、当面は団章を買って一人前になることが目標になると思うわ」と付け加えた。

 

「で、どうする?」

 

 そう首をかしげながら聞いてくる所長。

 かなり不気味なのでやめてもらいたい。

 

 

 というか、選択の余地があるとは言っていたがこれでは実質、選択肢は一つしかない。いや、一つの選択肢を選ばざるを得ないといったほうが正しいか。

 一つの選択を選ぶことを半ば強制されている状況に身を置いていることは気に入らないがこの状況では仕方がない。

 

 

「やるよ、義勇兵」

「了解よ、はい」

 

 

 と言って所長は見習い章と革袋を投げてよこす。

 それを受け取って革袋の中を確認してみると、銀貨の名のとおりその硬貨は銀色に輝いていた。

 

 

「これ以上もう言うことはないわ。ここに居られても邪魔だから、さっさと行きなさいな」

 

 

 所長の言う通りこれでもう、この場所に用はないはずなのだが俺はまだこの場から動く気はなかった。

 

 

 

 

 さっきから所長の話を聞いていたが、嫌な予感、というか最悪の未来になる、ような気がする。恐らくこのままここから出ていくのは悪手だ。

 頭の中で情報を整理して、今どうするべきかを考える。この世界でどうやったら俺は生き残れるのか、を。

 

 

 うん、為すべきことは決まった。

 このオカマに殺されないといいのだが。

 

 

 俺は意を決して、所長に頭を下げる。

 

 

 

「ーーーー所長、金を貸してくれ」

 

 

 

 ここからが正念場だ。

 

 

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