ソロ狩人がグリムガルで頑張るお話   作:古本

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【手習い】

 

「見習い君、わたしは悲しい」

 

 

 スズランは受け取った革袋を見てしばらく固まった後、およよと泣きまねをしながらそんなことを言い始めた。

 

「は?」

「見習い君はグリムガルに来たばっかりだから知らないかもしれないけどね、お金を盗むことはいけない事なんだ。勿論、騙したりとったり、奪い取ったりしてても同じことだよ」

 

 

 俺に人差し指を突きつけながら諭すように言ってくるスズラン。

 こ、こいつ……!

 

 

「そんなこと言われなくても分かってるわッ。一応言っておくとその金は俺が犯罪行為をして得たものじゃねぇよ」

「……見習い君、嘘はいけないよ。嘘つきは泥棒の始まりって言ってね。あっ、見習い君は、もう……」

 

 

 スズランはそう言って悲しそうにそっと目を伏せる。

 う、うぜぇ……。

 

 

「だ、か、らっ! 俺は犯罪もしてないし嘘も言ってないって言ってんだろッ!」

「えー、でも今日グリムガルに来て真っ当な手段で二十四シルバー稼ぐなんてはっきり言ってあり得ないよ。普通は八シルバー出すのでもすっごく躊躇しながら出すのに、その三倍なんて。そこまでいうのなら話は聞いてあげるけど、嘘だって分かったら、わたしもついてってあげるから一緒に憲兵さんにごめんさいしよ、ね?」

 

 

 なんだろう、すっごく腹が立つ。

 この女、わざと俺のこと煽ってるんじゃないだろうな。

 

 

「分かった分かった。それでいいから話を聞いてくれ」

 

 

 できるだけ冷静になるように努めながら、今までのことの話していく。

 

 

「ーー。そういうわけだ。信じられないなら所長にでも古着屋の店主にでも聞いてくれてかまわない」

「いや、さすがにそこまで言われると嘘じゃないことくらいわかるよ。疑って悪かったね、見習い君」

 

 

 スズランがぺこりと頭を下げて謝ってくる。

 あのブリちゃんが…とか気になることを呟いているのが聞こえたが、一応信じてもらえたみたいだ。

 

 スズランは銀貨の入った革袋をしげしげと眺めている。

 

 

「にしてもよくギルドに入るのに二十四シルバーもぽんと出そうと思ったね」

「いや、別に悩まなかった訳じゃないんだけどな。でも俺に必要なのは義勇兵としての知識だとか技術だと思ったんだよ。それに八シルバーだと一週間訓練を受けられるらしいけど、一週間後一人でモンスターと斬りあって生き残れると思わなかったからな」

「なるほどねー、君なら結構なんとかなりそうな気もするけど」

 

 

 スズランはそう言ってくれるが、やはり金の使い道はギルドに突っ込むので正解だったと思う。

 ほかにも武器とか防具とかの装備に金をかけてもいいかとも思ったのだが話を聞いてみるとギルドに入れば一応装備一式を貰えるらしいし、ベテランにマンツーマンで教えてもらえる時間というのは何よりも貴重なものなはずだと思ったので借金までして得た所持金のほぼ全財産である二十四シルバーをギルドで使うことにしたのだ。

 

 

 

「まぁ、なんにせよ疑いが晴れたようで何よりだ。それで、八シルバーより多く渡してその分教えを乞うことはできるのか?」

「ああ、そうだったね。それは問題ないよ。流石に見習い義勇兵がっていうのはあまり聞かないけど転職するときなんかは多く出したりすることもあるみたいだしね」

 

 

 初めて聞く単語が出てきた。

 

 

「転職?」

「うん、そうだよ。義勇兵はギルドを途中で変えることができるんだ。ああ、暗黒騎士はギルドの掟で駄目だったはずだけど。とにかく、義勇兵の中には元戦士の魔法使いとかもいるってことだよ。あんまり聞かないのは確かだけどね」

 

 へぇ、そんなこともできるのか。俺もパーティーを組むとか状況に変化があればそれに応じて職を変えることも可能ってことだよな。

 まぁ、今のところそのつもりも予定もないが。

 

「そうなのか、そういえば暗黒騎士はギルドの掟とやらで転職できないって言ったよな。狩人ギルドにもそういうのがあるのか?」

「うん、勿論あるよ。まぁそれを含めて今から狩人のこと教えていってあげるよ」

 

 

 そういうとスズランは俺に向かって手を差し出した。

 今度こそ意図しているのは握手だろう。

 俺も手を伸ばしてスズランの手を取った。

 

 

「改めて、これから君の助言者(メンター)を務めることになるスズランだよ。私のことは師母(マザー)か師匠とでも呼んでね」

「了解だ。俺の名前はサク。これからよろしく、師匠」

 

 

 そういうと、スズラン、いや師匠は握手した手をぶんぶん振りながらウィンクしながら言った。

 

 

「うん、よろしくね、サク君。さっき疑ったお詫びもかねてサービスして色々教えてあげるよ! まぁその分びしびし厳しくいくから覚悟しといてねっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「確かに色々教えてくれるとは言ったが」

 

 

 狩人ギルドにて、師匠に本当に様々なことを教えてもらった。

 

 ギルドの掟で食事の際に祈りと共に食事の一部を白神エルリヒに捧げなければならない事、弓の撃ち方に剣鉈の使い方から、森の歩き方まで多岐にわたる。

 

 

 スキルも教えてもらった。

 

 具体的には、

 弓スキルとして<速目>、

 剣鉈スキルとして<斜め十字><刈り払い>、

 回避スキルとして<穴鼠>、

 狩猟スキルとして<追跡術>などだ。

 

 恐らく俺の払った金額では普通教えてもらえないスキルの数だと思う。

 

 

 

 だが、それに加えて他にも師匠はあることを教えてくれた。

 正直言ってこれが一番嬉しかったかもしれない。

 

 

 それは傷薬の作り方だ。

 森になる薬草だとか、オルタナの市場で売っているものを使った塗り薬の制作方法を教えてくれたのだ。

 神官のいない君には必要になると言って。

 

 

 師匠が作ったものを怪我をしたときに使わせてもらったが効き目は抜群だった。

 浅くない傷口がたった一晩で目立たなくなるまで治ったのだから、その効能は恐ろしいほど。

 

 

 そんな重要な知識を簡単に俺に教えていいのかを聞いたところ、師匠は笑ってこう言っていた。

 

「これはわたしが趣味で学んだものをギルドに関係なく君に教えてるだけだから問題ないよ。それに正直、こういう傷薬は義勇兵にとって必要性は薄いからね」

「え? こんなに効き目があるのに?」

「うん、効き目があるといってもそこまでの即効性はないし、何より普通にパーティーを組んでいたら神官がいるからね。神官の魔法は傷薬よりも早く確実に傷を治すから戦闘中でも使える。それに魔力を消費するだけでお金や手間もかからないし。だから君みたいなちょっと特殊な状況じゃないと重宝されることはないんだよ。だから遠慮しないでいいよっ」

 

 

 そういうわけで素直に頭を下げて教えてもらった。

 ありがたい話だ。

 

 

 

 スキルや色々な知識を得たのでこれでかなり義勇兵としてやっていける可能性が上がったのではないだろうか。借金した甲斐があったというものだ。

 

 

 だが、教えてもらったスキルというのはあくまで型のようなものでしかなく、これから実践で使っていかなければそのスキルの本来の力を発揮することはできないという。

 だからこれで慢心するわけにはいかない。

 

 

 

 それでも今回教えてもらったことは間違いなく義勇兵としての俺の血肉となるはずだ。

 師匠には感謝している。……まぁその分訓練は滅茶苦茶つらかったが。

 

 

 

 

 

 

 さて今日はギルドで教えてもらう訓練期間の最終日だ。

 昨日、師匠から訓練の最後に、明日の朝ギルドの前で街に出られる恰好で待ってろと言われたので朝早くから師匠のことを待ちながらボーっとしている。

 訓練中は師匠に言われることをほとんど休みなくやっていたので、こういう何もしない時間は久しぶりかもしれない。

 

 

 外に出られる格好と言われても、持っている服は初日に来ていた服しかないのでそれを着ている。

 

 

 ふと、後ろからかすかに足音が聞こえてきたので振り返る。

 と、そこには白いワンピースを着た笑顔の師匠が近づいてきていた。

 

 

「あららー、見つかっちゃったか。成長したね」

「ここはお陰様で、とでもいうべきかな。って言っても師匠がわざと足音立ててくれてたから分かっただけなんだけどな」

「まぁね、でもそれに気付けるだけでも大したもんさ」

 

 

 師匠はそう褒めてくれるが、師匠が本気で隠密行動をすると息がかかる位置のいても気づかないので俺なんか大したことないとしか思えないんだよな。

 まぁ、訓練中に気配を隠した師匠にボコられ続けるという鬼畜の所業を受け続けたので多少はよくなっていると信じたいが。

 

 

「で、師匠。こんなとこに呼び出してどうするんですか? 今から森に行く訳でもないみたいだし」

「喜びたまえ、サク君! 今から街にデートに行くよっ」

 

 

 その言葉を聞いた途端、自分が渋い顔になるのが分かった。

 あ、これ面倒な奴だ、と。

 

 今までずっと師匠と一緒にいて分かったことだが、師匠は狩人としてはすごく優秀なのだがたまにすごくウザくなる。人をからかうのが趣味みたいなものなんだろう。

 狩人ギルドで師匠にからまれているときに、偶然すれ違った狩人らしき髭面の男性に同情するように見られたので、あぁ、この人も被害にあってるんだなと思って謎のシンパシーを感じたのを覚えている。

 

 

「もぅ、つれないな。これでもわたしとデートしたいって人は沢山いるんだよ?」

 

 

 そう言って、口をとがらせる師匠は確かにぞっこんになる男がいるのも納得いくほどかわいらしくはあるが、ここ数週間笑いながら木刀で殴られ続けた俺は師匠にそういう魅力を全く感じられない体になってしまった。

 おのれスズラン、清きわが身を汚しおって……。

 

 

 てか、この人童顔だからそんな感じしないけど多分年齢は二十代後半なんだよな。

 そう考えると可愛らしい仕草も痛く見えるのだから不思議だ。

 

 

「ーー()()()?」

 

 

 

「…………師匠は美人ですからねー、あ、そのワンピースすごい似合ってますよ。よっ、オルタナ一の美女」

 

 名前を呼ばれた瞬間、背筋に悪寒が走り抜けた。

 師匠の顔を見ると、目の笑っていない笑顔が。慌てて師匠を誉めるが逆効果だったかもしれない。師匠が笑顔のまま小さく舌打ちして誤魔化したな、とぼそりと呟くのが聞こえた。こ、怖っ……。

 

 師匠はお腹が真っ黒なのでたまにこうなる。

 それに加えて察しが良すぎるので性質が悪い。

 こういう時は下手に触れないのが正解ということがわかっているので別のことに意識が向くように水を向ける。

 

 

「んんっ、で、街に出るっていうのはどういうことなんだ?」

 

 

 そう聞くと、師匠はしばらく俺を睨んだ後、溜息をついて話し出した。

 よかった、ひとまずは許されたらしい。

 

 

「そのままの意味だよ。今日はオルタナを回るよ」

「それは分かったけど何をしに?」

「サク君も知ってると思うけど訓練終了時に基本的な装備を渡すことになってるし、サク君にも勿論それを渡すんだけどね。装備は消耗品だし、特に矢なんて毎回回収できるわけじゃないから自分で補充できるようにしとかないといけないでしょ? だから私が使ってたお店とかを教えてあげようと思って。それに装備の値段とかの知っておいたほうがいいからね」

 

 

 

 

 

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