ソロ狩人がグリムガルで頑張るお話   作:古本

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【街案内】

 

 

 

 師匠に連れられてオルタナの街に繰り出すことになったのだが、北区にある市場に行くのではないかという俺の予想に反して、師匠は市場で足を緩めずそのまま南区にまで足を踏み入れることになった。

 

 

 南区には義勇兵団事務所があるので一応来たことはあるが初日以降足を踏み入れることはなかったので何があるのかいまいち把握していない。

 

 

 俺の手を引きながら歩く師匠は殆どオルタナを歩いたことのない俺に気遣ってくれているのか、あれは何だとか、あそこにはこういう時に行けば便利だとかを教えてくれる。

 師匠の話によると南区には様々な職人たちが腕を振るう工房が沢山ある職人街があるらしい。

 確かに今も鍛冶屋が鉄でも打っているのかのかカーンカーンという音がそこかしこから聞こえてくる。

 

 

 そんな職人街をきょろきょろしながら歩いていると、弓と矢の意匠の看板が下げられている店があり、師匠はそこでようやく立ち止まった。

 

 

「ここがわたしが現役時代によくお世話になってたお店だよ」

「へぇ、なら狩人の装備を売ってるのか?」

「そう、剣鉈とか弓矢とか狩人の使うものを取り扱っているお店なんだよ」

 

 

 そう言うと、師匠は店に向けて歩き出した。

 

 

「どうもー、やってるー?」

 

 

 そんな常連の飲み屋にでも来たかのような軽い掛け声とともに扉を開いた師匠に続いて店内に入ってみると目に入ってきたのは、大小さまざまな弓や矢に剣鉈等々所狭しと置かれている狩人が使う道具の数々だった。

 弓は大きさだけではなくそもそもの形状が違うものも多く、矢もそれに合わせてそれぞれ長さや矢羽根などの差異が色々あるようだ。剣鉈も反りの大きなものや殆ど直刀のようなものまで本当に様々な種類がある事が分かる。

 

 

 俺がそんな風に店を物珍し気に見ていると、店の奥から男が顔を出してきた。

 

 

「いらっしゃい……ってスズランか、よく来たな!」

「うん、こんにちはオルバさん。今日はジャンさんはいないの?」

「ああ、兄貴は工房にこもってるはずだ。今日は俺が店番だ」

「そっか、ちょっと残念だな。二人に紹介しようと思って連れてきたのに」

「紹介っていうとその後ろの坊主のことか?」

 

 

 顔見知りなのだろう、師匠と親しげに話すオルバと呼ばれた男が俺の方を興味深そうに見てくる。

 オルバは筋骨隆々の大男で、スキンヘッドに髭を生やしている迫力のある人物だった。

 

 

「そう、この子はサク君。わたしがメンターとして教えている見習い義勇兵だよ」

「ほぅ、そうなのか。よろしくな坊主。俺はオルバ、しがない職人だ」

「ああ、師匠も言ってたがサクだ。よろしく、オルバさん」

 

 

 そう言うとオルバは近づいてきて俺の手を握りながらニカッと笑った。

 その厳めしい顔つきに反して笑うとどこか愛嬌があり人のよさを伺わせた。

 

 

「しがない職人なんて謙遜してるけどね、オルバさんとジャンさんはオルタナでも五指に入る職人だよ。事実私の装備の殆どは二人の作品だしね」

「よせよスズラン。まぁ腕のいい狩人にそういわれてるのは悪い気分じゃないがな」

 

 

 照れたように笑うオルバはその言葉の通りまんざらでもない様子だった。

 

 

「にしてもスズラン、お前さんがここに人を連れてくるのは珍しいな。というか初めてじゃないか? 坊主はそんなに見込みがあるのか?」

「うん、なかなかに優秀な義勇兵になるはずだよ。いい意味で諦めが悪い」

「ほう、そこまで言うのか、ならうちのお得意様になってくれる日も近いかもしれないな」

「そうなってほしいと思ってここに連れてきたってのもあるんだよねー」

 

 

 諦めが悪いって……まぁ褒めてくれているんだろうが凄まじく微妙な気持ちになる。確かに負けず嫌いなところがあるのは自覚しているけども。

 というか、今の俺ではお得意様にはなれないってな言い方だな。

 てことはこの店はある程度ベテランをターゲットにしている店なのだろうか。

 

 

「やっぱりここの商品は高いのか?」

「ん、まぁな。確かに見習い義勇兵が通うにはちと厳しいかもしれん」

 

 

 店内を見渡していると店に置かれている商品であろう矢が目に留まった。

 その矢は矢羽根が立派で軸として使われている木材も濃い茶色のような色合いをしていて、他ではちょっと見たことのないような素材でできているようだった。

 端的に言えばかっこいいの一言に尽きる。

 

 

「へぇ、じゃあ例えばこの矢はいくらなんだ?」

「それか? それは大体二シルバーってとこだな」

「二シルバー? それだと俺が市場で見たものと同じか若干安いくらい値段じゃないか?」

「あー、サク君。多分君は勘違いしてるよ。二シルバーは矢一ダースじゃなくて一本の値段だよ」

「……は?」

 

 

 

 その言葉を聞いた途端思わずそんな間抜けた声が漏れた。

 一本二シルバー? たいてい狩りに行くときは二ダースくらい持っていくのが普通だからそれをこの矢でそろえようと思うと全部で四十八シルバー要る計算になる。

 

 確かに矢は意外と高い。

 市場で売っている普通の矢ーー勿論十分に実戦に耐えうるものだーーでも一ダース大体二、三シルバーはする。

 それでも一本二シルバーというのはあまり聞いたことのない値段だ。

 普通の矢の十倍以上の値段と言うことになるのだからそりゃびっくりもする。

 

 

「ははは、まぁその矢はうちにおいてあるもののなかでもかなり品質のいいものだからな」

「……これ、買う奴いるのか?」

「勿論だ。腕のいい義勇兵は武器に糸目をつけないからな。それこそ、坊主のメンターのスズランもこのランクのものを使ってたぞ」

 

 

 師匠に目を向けるとえっへんとでもいいたげに胸を張っていた。

 傍目には凄腕の狩人とは思えない仕草に思わずしらけた目で見てしまうが確かにすごい。

 

 

「まぁ、素材を持ち込んでくれたらそれなりに安くしてやれる。それに矢は消耗品とはいえ回収したらそのまま使えることも多いし鏃が残ってたら安くで仕立てられるからな。坊主もしっかり回収しとけよ」

「あ、ああ。それでもここの矢を使えるようになるのは大分先になると思うが……」

「ま、スズランがここにわざわざ連れてきたくらいなんだ。さっさと一人前の義勇兵になってここで金を使ってくれや」

 

 

 そういってオルバは茶目っ気たっぷりにウィンクしてみせた。

 嫌になるほどそのウィンクは様になっていたのだがそれに反応できず俺はその言葉に顔を引き攣らせるのみだった。ここを常連になるにはどれだけかかるのだろうか……。

 矢でそれだけの銀貨が吹っ飛ぶのだから、弓や剣鉈の値段はあまり考えたくない。

 まぁ、ここにある武器は男心くすぐるものばかりで、素人目にも品質のいいものばかりなのだからその値段に文句をつける気はないのだが。

 

 

 

 

 そのあともいろいろと店の中を見て回ったのだが、あまりに高額な装備の数々に少々気疲れした俺は色々と話を聞かせてくれたオルバに礼を言ったあと師匠に先んじて店の外に出た。

 

 

 店の中にはひどく心惹かれるものもちらほらあったが、当然のように見習い義勇兵ごときには手の届かないものばかりだった。それこそそれらの装備を買えるようになることを目標にしてもいいかもしれない。

 もしかしたらそう思わせることが師匠がここに俺を連れてきた理由なのかもしれないな。

 

 因みにさっき話に出ていたジャンというのはオルバの兄らしく、そのジャンが剣鉈や矢の鏃などの鍛冶をして、オルバが弓や矢を作るという役割分担をして兄弟でこの店をやっているそうだ。

 

 

 

 店の外で待っていると扉の開く音がして、スズランが出てきた。

 スズランは先ほどまで持っていなかった鞘に入ったナイフを持っていた。

 

 

「待たせたね、サク君」

「いや、それは構わないんだが、それは何なんだ?」

「ふふふ、まぁそんなことはいいじゃないか。まだ色々見て回るとこあるんだし、はやくいこっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのあと店を出た後はオルタナを見て回った。

 

 オルタナは周りを塀に囲まれた城塞都市なのだが意外と広くはない。

 オルタナは天望楼という高い建物、ここオルタナの領主でもある辺境伯が住んでいるそうなのだが、これを中心として東区、西区、南区、北区に分けられるそうだ。

 

 

 大まかに言って東区には高級住宅街、西区には貧民街、南区には職人街、北区には市場がある。

 ギルドが北区にある狩人である俺たちは基本的に南区と北区以外に足を運ぶことはあまりない。

 

 

 そういうわけで、今日師匠と見て回ったのはやはり南区と北区が中心だった。

 

 オルバの店のほかに教えてもらったのは、革の装備を作ってもらえるらしい所や携帯食料を売っている露店、色々と遠出をするときに重宝する道具の売っている雑貨屋等々、これからオルタナで過ごしていく上で知っておくべき場所ばかりだった。

 

 

 あとは、美味い飯を出してくれる食堂も教えてくれ、そこで飯を奢ってもらったりもした。

 ここで長く過ごしているスズランのおススメしてくれた食堂だけあって確かに美味い料理ばかりだった。

 話を聞いてみると見習い義勇兵でも少し奮発すれば普通に食べに来られるくらいの値段で食べられる食堂らしいのでまた来てみようと思う。

 『狼のしっぽ亭』、覚えておこう。

 

 

 

 

 そんなこんなでオルタナを一通りまわった俺たちは狩人ギルドにまで戻ってきていた。

 ここを出たのはかなり朝早くだったのだが、もう日は落ちかけていて辺りは暗くなり始めていた。

 

 

「さて、今日は一日オルタナを回ったけどどうだった?」

「ああ、楽しかったし、色々店を教えてもらったのはすごくありがたかったよ」

「そう? ならよかったんだけど」

 

 

 本当に今日見聞きしたことは凄く有意義なものだったと思う。

 淡く微笑む師匠に本心からの言葉を言う。

 

 

「あ、そうだ。これ、サク君にプレゼント」

 

 

 そういうと師匠はオルバの店で受け取ったナイフを俺に差しだしてくる。

 

 

「え、いいのか? それあの店のものなんだろ? だったらすごい値段するんじゃ」

「これはわたしがまだ駆け出しの頃に使ってたナイフをジャンさんに手直ししてまた使えるようにしてもらったものだよ。だからそんなに大したものじゃないから遠慮せずに貰ってよ」

「いや、それでも師匠の思い出のものなんだったら俺がもらうわけには……」

「だーかーら、そんなに遠慮しなくていいんだよっ。どうせわたしはもう使わないなら君に使われたほうがそのナイフも本望だろうしねっ」

 

 

 そういいながらナイフを押し付けてくるので少しためらいながらも受け取る。

 抜いてもいいか、と目線で問いかけると師匠は頷きを返してきたのでナイフを鞘から抜いてみる。

 

 

 ナイフは大体刃渡り二十センチ弱とナイフにしては大振りで、刃はそこそこ肉厚でかなり頑丈そうなのが伺える。

 その両刃は曇りなく輝いており新品と比べても遜色ない品質に見える。

 

 

 

「さっき言った通り、これはわたしが駆け出しのときに露店で見つけて衝動買いしたものなんだよ。買ったはいいもののこの大きさだからねー、意外と使いどころがなくて結局殆ど使わなかったんだ。それをこの前思い出してジャンさんに手直しを頼んでたんだ。まぁ質が悪いものじゃないし一応剥ぎ取りにも戦闘用にも使えるはずだから君にあげるよ」

「そうなのか、なら大切に使わせてもらうよ。ありがとう」

「うん、使わないなら売ってもらってもかまわないし」

「いや、そんなことはしないが」

 

 

 

 手に持ったナイフを見ながら少し思索にふける。

 確かにこれは、戦闘用にはするには少し短く解体用にするには取り回しずらそうなので使いどころが限られそうだ。

 だからあまり使わなかったというの言葉は本当なのだろうが、このナイフ、安いものには見えない。

 駆け出しの頃に買ったのならかなり無理したのではないだろうか。

 

 

 そんなものを狩人ギルドでメンターを務めたとはいえ、俺にポンと渡してくれるようなものなのだろうか。

 ナイフのことだけならまだしも今までの師匠の行動、金額に見合わないスキルの数や製薬の方法、色々な店への顔合わせなど俺にとってはありがたい話だが少し肩入れがすぎる気がする。

 

 

 そんなことをしてくれる理由はいくつか考えられるが、、、

 

 

「ん? どうしたの、サク君」

 

 

 そんなことを考えていると無意識のうちに師匠のことを見つめてしまっていたらしく、師匠は小首をかしげて不思議そうにしているが、この人のことだ。俺が師匠の行動に疑問を覚えているのはわかっているのだろう。

 その上でこんなことを聞いてくるということは……。

 

 

 

「……いや、なんでもない」

 

 

 

 この三週間お世話になりそれなりに親しくなったとは思うが、それでもたかが三週間だ。

 簡単に過去に踏み込んでいい理由にはならない。

 

 

 師匠に色々な事を教えてもらった。今はその事実だけ知っていればいいだろ。

 それにどんな思惑があれ、師匠にしてもらったことは何ら変わりなく感謝しかないのだ。

 

 

 

 

 

 俺は今まで世話になったお礼にと、師匠に深く頭を下げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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