ソロ狩人がグリムガルで頑張るお話   作:古本

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今回オリジナル設定があります。



【密猟】

 

 義勇兵が森のどこかでゴブリンとでも戦闘でもしているのかとも思ったが恐らく違う。

 ここ数週間このあたりで活動している義勇兵の話は聞かないし、聞こえてきた唸り声はゴブリンとは似ても似つかない。

 ならば本職の狩人が野生動物を狩りに来ているのか、その線も薄いだろう。

 聞えてくる怒号は明らかに狩猟の時のものではない。

 

 

 となると残る選択肢は……。

 聞えてくるこの唸り声の正体が俺の予想通りだと面倒なことになるな。

 

 

 兎にも角にも一度何が起こっているか確認をするべきだろう。

 何事もなければそのまま帰ればいいのだ。

 

 

 そう決心した俺は立ち上がり足音を忍ばせながら物音のするほうへ近づいて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 木の陰に身を隠しながら顔だけを出して、状況を確認する。

 

 

 そこには二人の人間と一匹の獣が対峙していた。

 

 

 その獣は犬のように見えた。

 狩人ギルドで見た狼犬に似てはいるが全然違う。体毛は殆ど真っ白で体躯は逞しく、それでいてシャープだ。

 人を寄せ付けないような孤高の雰囲気があり、そしてなにより白神エルリヒに非常によく似ている。ーー白狼だ。

 

 

 

 白狼は白神エルリヒの眷属とされていて、狩人はその姿を見られるだけで幸運とされている。信仰の対象、とまではいわないが敬われている存在だ。

 

 

 まず自分から人間に襲い掛かってくることのない白狼が敵意剥き出しで人間と向き合っている状況。

 ましてや、その白狼の足に矢が突き刺さり、男たちの片割れの左腕に噛み傷が、さらに後ろにいる男の傍らに移動できるように車輪の取り付けられた檻があるとくりゃ猿でも何が起こっているか分かる。ーー密猟だ。

 

 

 白狼は狩人だけでなく一般的にも神聖な生き物とされているため、オルタナでは基本的に狩猟することは禁止されている。しかし、一部の好事家の間ではその美しい見た目から白狼は人気があるらしく非合法なルートを使って売買が行われているらしい。

 

 オルタナの法で密猟は禁止されているのでもし密猟者を捕まえることができたら褒賞金が出るらしい。

 狩人ギルドでは、密猟者を見つけたらそれを止めることが推奨されている。推奨とはいってもよほどの事情がなければ密猟を止めろと言われているので実質義務のようなものだ。

 それに俺も狩人の端くれなので、心情的にも見逃したくはない。

 

 

「おい、ヤン! こいつ噛んできやがったぞッ!」

「はぁ、そりゃ狼なんだから噛みついてくるくらいするだろ。キース」

 

 

 木陰から観察していると、二人の男が話し始めた。

 話から腕に噛み傷のある盗賊風の男がキース、弓を持った狩人風の男がヤンというらしい。

 

 

「くそッ、楽な仕事って聞いてきたってのによぉ、これじゃ割に合わねぇ」

「ぐちぐち言ってないでそいつから目を離すな。今前衛はお前しかいないんだぞ」

「そりゃ戦士の役目だろうが。俺は盗賊だぞ」

「うっせぇ、お前が分け前減るっつって声かけるの止めてきたんだろうがッ」

 

 

 ブツブツ言いながらキースは白狼と向き合い右手に持ったダガーを構える。

 そのとき、俺はあることに気付く。

 構えたダガーがかなり古ぼけている。使い古したというよりは単に露店で安売りされている中古のものを使っているという風情だった。

 

 

 よく見ると、ヤンも含め装備の質がかなり低いようだ。具体的にはギルドで支給される初心者装備よりも何枚かレベルが落ちる位の代物。

 はっきり言ってまともな義勇兵が身に着けるものではない。

 

 

 それに白狼を前にしてキースは腰が引けているように見える。いくら盗賊で前衛に慣れていないとはいってもこれは不自然だ。

 

 

 これからこいつらの正体は大体見当はつく。所謂「義勇兵崩れ」なのだろう。

 義勇兵崩れというのは、グリムガルに来て義勇兵になったはいいものの何らかの理由で義勇兵としての活動をしていない、なおかつ他にろくに真っ当な仕事もしていない者のことを指す。

 

 

 例を挙げるとモンスターとの戦闘で大怪我をしてトラウマになったとか、血を見るのがどうしても駄目だとか、単に義勇兵の仕事に嫌気がさしたとか、理由は様々だ。

 義勇兵崩れの中には非合法な手段を用いてでも金を稼ぐやつもいるらしく、オルタナの治安が悪化する一因だともいわれている。

 目の前のこいつらはそういう連中なのだろう。

 

 

 とりあえず、放置することはできないので声をかけてみることにする。

 万が一、億が一こいつらがただの義勇兵の可能性のないでもないしな。

 

 

「おい、お前ら何をしている?」

 

 

 木の陰から出て声をかけると、ヤンとキースは目に見えて狼狽え俺のことを睨んでくる。

 

 

「だ、誰だッ!?」

 

 

 問いかけは無視して一方的に話しかける。

 

 

「白狼の狩猟が禁止されているのはお前たちも知っているだろう? そのうえでもう一度聞く。お前たち何をしている?」

「くそッ、なんでこんなところに狩人が居やがる。狩人が森の見巡りしてるっていう噂、まじだったのかよ」

「……いや、装備から見てこいつは駆け出しだろう。ここで活動している見習い義勇兵がいるって話を聞いたことがある」

 

 

 まずいな、俺のことを知っているのか。

 

 

「は? それってまずくねぇか、こいつの仲間がオルタナまで俺たちのことを伝えに走ってていると面倒なことになる」

「……多分その心配はねぇ。そいつはソロって話だ。狩人ってことも一致してる。こいつのことで間違いないはずだ」

 

 

 やっぱり俺が一人ってこともばれてるよなぁ。

 俺のことなんか知らないと思って、複数人のパーティだと思ってくれると踏んで姿を見せたが完璧に悪手になってしまった。

 にしても見習い義勇兵がソロってのはやはり目立つんだなぁ。

 そして、俺が一人だと分かればこいつらはーー

 

 

「なら、こいつさえ始末しちまえば俺らのことはばれねぇってことだな」

「そういうことだ、やるか」

 

 

 持っていた武器を俺のほうに向けながら近づいてくる二人。

 まぁそうなるよなぁ……。

 

 

 仕方ないので<速目>で動体視力を向上させてからナイフを抜き構える。

 殺人を犯すつもりはないので一応剣鉈を使わないつもりだ。

 

 

 

 俺が臨戦態勢に入ると、キースが気勢をあげながら突っ込んでくる。

 

 ヤンの方は狩人らしく、一歩引いて弓を構えているようだった。

 普通狩人の役割はそうなんだよな。初手から肉弾戦が始まってしまった現状を嘆きたくなるが愚痴を言っても仕方ないので意識を切り替える。

 

 

 とりあえずヤンからの矢を防ぐためにキースを盾にするような位置取りを心がける。

 ナイフは右手に逆手で持ち、左手を軽く前にだすようにして構える。

 

 

 剣鉈を抜かない俺を見て油断していると見たのかヤンはニヤつきながら俺の手首に向かってダガーを振るってくる。

 

 

「オラッ、死んどけ新人ッ!」

 

 

 左手首を狙ってきたそれを左足を一歩引くことで避け、お返しとばかりに俺もナイフをフック気味に振るう。

 ヤンが身を仰け反らせて避けたので俺は追撃にローキックを放つとヤンはそれを大きく後ろに跳んで避ける。

 

 

 --やはり、こいつは実戦慣れしていない。

 

 

 回避行動がいちいち大袈裟すぎる。

 距離をとると相手の攻撃は避けられるが、単純に自分の反撃も届かなくなるわけだから上手な人ほど回避行動は小さくその行動が攻撃にすぐ移れるように動くものだ。

 

 

「おい、キースッ! 射線が通らねぇ、そこからどけ」

「チッ、お前が動きゃあいい話じゃねぇかよ」

 

 

 キースが文句を言いながらも横に跳ぶと、ヤンが矢をつがえてこちらを見ているのが分かる。

 俺はすぐには動かず、ヤンが矢から手を離した瞬間に横っ飛びする。矢が風切り音を上げながら顔の横を通り冷や汗を流す。

 矢というのは当然なことだが手元を離れると真っ直ぐに飛ぶわけだから矢を放つよりも先に動くよりも少し待ってから避けたほうが被弾は避けられる。……まぁ、かなりギリギリだったわけだが。当たらなかったので無問題だ。

 

 

 俺が跳んだのは勿論キースの方だ。 

 俺が矢を避けたのを見て目を見開いて驚いているキースに向かってナイフで突きを放つ。

 

 

 キースは避けきれず肩口にナイフが突き刺さり、そのまま袈裟斬りーーが浅い。

 見るからにひるんだキースだったが、それでも反撃に俺が突き出す形になった右の手首を狙ってきたので腕を引くことでそれを避ける。

 

 

 

 キースと睨みあいながら、少し構えを変える。

 脇を締め顎の近くで拳を構えていたのを、少し腰を落としてナイフを持っていない左手を前に出す。

 左手を目立たせるように左右にゆらゆらと揺らしながら、キースとの距離をじわりと詰めてゆく。

 

 

 キースは俺の動きが挑発だと感じたのが、明らかにイラついたような表情をしている。

 俺が歩みを続け、お互いの間合いに入った瞬間にキースが動く。

 

 

 キースの腕が鞭のようにしなりダガーが振るわれる。

 ダガーが落ちるは俺の左の手首。手ごたえを感じたのかキースの口元が吊り上がる。

 しかし、次の瞬間血が噴き出たのは俺の手首からではなくキースの右腕からであった。

 

 

「は?」

 

 

 あまりにも自分の予想とは違う結果だったからかキースが間の抜けた声を漏らす。こいつは俺が腕を前に出したのをチャンスだと思ったのだろうが、それは俺の誘いだった。

 

 キースが先ほどから執拗に手首を狙ってくるのを見て盗賊のスキルに手首を狙うものがあったことを思い出した。こいつはそれしか習っていないかこの場で使えるスキルが他にないと予想して、手首を狙いやすいように無警戒に左手を出すと案の定食いついてきた。

 

 来ることが分かっている攻撃なんて食らう道理はないし、そのまま右手のナイフでカウンターを仕掛けるのも容易だった。正直キースの腕前が大したことなかったのもカウンターが成功した大きな理由だが。

 

 

 血の流れる自分の右腕を呆けたように見ているキースにさらに近づき、左手で拳を作って思い切り鳩尾を殴る。

 キースは息を詰まらせその場で崩れ落ちた。

 

 

 それとほぼ同時に<穴鼠>で跳んできた矢を避ける。

 キースが倒れたその先でヤンが弓を構えたのが見えたのであわてて回避したのだが間に合ったようだ。矢はかなり右に逸れていったので<穴鼠>せずとも当たらなかったかもしれない。

 

 

 それはともかく、もう一人を無力化しなければ。

 急いで体勢を整え、離れたところにいるヤンに向かって疾駆する。 

 

 

 俺が走っていくとヤンは今まで二度も矢を避けられたからか知らないが、慌てて弓を捨て空いた手を腰のあたりにやった。

 このままヤンは剣鉈を抜き、白兵戦になるだろう。一撃で決めるべく速度を上げながら走る。

 

 

「くそッ、これを使うつもりはなかったんだがなッ」

 

 

 ヤンが腰から取り出し、その手に持たれているのは剣鉈ーー()()()()

 <速目>で向上した視力により手に握られているのが剣鉈やダガーよりも小さい投げナイフだということが分かる。

 

 

 ヤンが投げナイフを振り上げるのが見える。

 急いで回避しようとするが、全力で走っていたせいで急には回避行動がとれないッ!

 

 

 ヤンが手を振り下ろすようにして投げナイフを投げる。

 その投げナイフは吸い込まれていくような軌道を描きながらトスっという意外と軽い音とともに俺の太腿に直撃した。

 

 走っているのに回避行動を取ろうとしていた時に足にナイフが刺さった衝撃により俺は思い切り体勢を崩す。

 慌てて肩を入れ込むようにして受け身をとったことで地面と正面衝突とはならなかったが、被弾した足の痛みのせいですぐに動けそうにない。

 

 

「くッ」

「キースの野郎、見習いなんかにやられやがってよぉ」

 

 

 ヤンは俺のことを見下すように見ながら俺に近づいてくる。

 

 

「お前も見習いにしちゃぁそこそこやるようだが、その状態だと反撃もできんだろう」

 

 

 ヤンは勝ちを確信しているのかにやにやと口元を歪ませて、いたぶるようにそう言った。

 何とかこの状況を打開できるものがないか周囲を見渡す。ーーその時、ヤンの後ろに白いナニカが見えた。

 

 

「ククッ、ここには俺たち以外誰もいない。助けがくるなんて甘いこと考えても無駄だぜ。お前はもうすぐ動けなくなる」

「……いや、そうとも限らないぜ」

「ハッ、負け惜しみはそこらへんにしておけよ。助けなんか来るわけねェんだから……ッ!? グアアアァァァッ!!!」

 

 

 ヤンの足元には歯を剥き出しにして思い切り足に噛みつく白い毛玉が。

 そう、白狼がヤンの後ろにまで回り込み最高のタイミングでヤンに襲い掛かってくれたのだ。

 

 

 その白狼の行動に報いるべく、投げナイフを引き抜き足に力を入れて立ち上がりヤンの方に近づいていく。

 ヤンは白狼をなんとか振り落そうとしているが、白狼は全く離れる様子を見せずむしろもっと歯が食い込んでいるようだ。

 ゆっくりとだがヤンのすぐそばにまで来るとようやくヤンは俺がここまで来ていることに気が付いたようだった。

 

 

「な、来ただろ? 助け」

「お、おいちょっと待ってくれ。な、頼むよ……」

 

 

 ヤンが情けなく笑いながらそんなことを言ってきたので俺もニコリと笑い返しながら側頭部に向けてナイフの柄頭を思い切り振るった。

 

 

 

 

 

 ヤンが完全に気絶したのを確認すると、その場に腰を下ろす。

 流石にくたびれたな、とため息をついていると白狼が近づいてきているのが見えた。

 

 

「……よぉ、正直お前がいなかったらやばかったよ。ありがとう」

 

 

 狼が人間の言葉を理解しているはずもないのだが、目の前のこいつは俺の言葉が分かっているかのように黄色い目で俺のことをじっと見つめてくる。

 手を伸ばしてみると甘えるように頭をこすりつけてきた。

 

 

 白狼は人間には基本なつかないと聞いていたので少し驚いたが、触るのを許してくれているようだったのでそのまま頭をなでるとしっぽを振って喜んでくれているようだ。かわいい。

 そのまま白狼の体を見ていると前足に矢が刺さっているのが見えた。

 

 

「そういやお前怪我してたな、ちょっと見せてみろ」

 

 

 そう言うと、白狼がごろんと横になったので矢の刺さった前足を見えるようなった。そこを見てみるとあまり深く刺さっているわけではなさそうだったので、矢を引き抜いてやる。

 

 白狼は身じろぎしただけで騒がない。本当に賢い子だ。

 俺の傷薬を塗っていいのかわからなかったのでそのまま包帯を出してそのまま巻いてやる。

 

 

 最後に巻きつけた包帯を結んでやる。……結んで……。

 

 

「あれ、うまく結べない。いつもなら普通に出来る…の……に」

 

 

 普段なら普通にできるのに何故かなかなかうまくいかない。

 あれそれに…なんでか急に…眠気が……。

 

 

 体が平衡感覚を失い、背中に衝撃が走ったことで自分が倒れたことに気付く。

 それでも異常な眠気はさめず、瞼が徐々に落ちてゆく。

 

 

 

 白狼が心配そうに俺の顔をなめているのが視界に映ったのを最後に俺の意識は闇へ落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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