死に目に魂貰いに来るタイプのロリババア   作:Pool Suibom / 至高存在

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研究したり考察したり干渉したりガーデニングしたりする話です。物語の起伏らしい起伏はちょみっとしかないぞ!


第一話「黎き森の女王」
隠居の反対って陽居?


 

 

 マルスリグルと呼んでいる赤色の花。その球根を潰して煎じたものを、沸騰した清水の中へ入れる。煎じ汁は程なくして球状に凝固し、鈍い赤色の光を放ち始める。刺激臭が辺りに漂い始めるが、数分と経たぬ内に甘い香りに変わっていく。

 火力を下げて湯の温度を下げていくと、マルスリグルの球はゆるやかに周囲の水を吸収し始めた。吸収した分、大きくなる。美しい球体の形を保ったまま、拳大の大きさにまで育った辺りで湯が尽きた。

 

 先ほどまで沸騰した湯の中にあったにも関わらず、常温より少し温かいくらいのマルスリグルの球を取り出して、麻袋に入れる。鈍い光はしかし、麻袋を通さない。袋の中を覗いた時のみ、まるで光る眼玉のような球体が複数、こちらを覗き返しているだけだ。

 

 小屋を出て、庭に広がる畑にそれを持っていく。

 等間隔に掘られた浅い穴。そこにマルスリグルの球を一つずつ入れて、土を被せていく。数にして十八。九つが二列。

 その全てを埋め終わって、一息。

 

 ぎゅるん、と……マルスリグルの球を埋めた所から、新しい植物が姿を現した。

 それは茎を太く、花弁や枝葉のほとんどない異形の花。茎の太さは30cmから40cm程で、マルスリグルの球と同じく鈍い赤色を放っている。月明かりを透かして見れば、どくんどくんと脈動している事がわかるだろう。

 

 また数分、眺めて待つ。

 

 すると、乾いた……破れるような音がその植物から鳴り始め、段々と、目視でわかる程の"罅"が入り始めた。植物の茎に、卵の殻のような罅が。

 罅は次第に大きくなっていく。横軸よりは縦軸を多く広がっていくその罅は、ようやくその中身が生まれる事を許した。

 

 ずるり、と出てくる──赤い花弁を頭につけた、少女たち。手足の先は絡まった蔦のようになっているものの、顔や胴体はヒトそのもの。衣服の一切が無いその少女たちは、呆けたような顔でその場に座り込み、こちらを見上げてくる。

 

「──素晴らしい」

 

 特に意味のない指パッチンをして少女たちに簡素な衣服を纏わせ、小屋に帰る。別に鳴らさなくても出せる。

 

 さぁ、次の実験に移ろう。

 

 

 

 

 人間、何で働くか、って話なんだよな。要は食わなきゃ生きていけないわけで、食うには労働がいるから働くわけで。そこが取っ払われたのなら、働かない道を選ぶのは当然というべきか。

 俺はチートを貰った。なんか至高存在とかいう奴に。もう会うことは無いだろうって言われたからもう気にしてない。気にしなくていいことまで気にしていたら身が持たないしな。

 

 貰ったチートは、【衣食住からの解放】と【不老不死】である。チートォ!

 体温調整しなくていいし食べなくていいし排泄しなくていいし病気にもならない素晴らしい体で、老けない死なない寝放題! の素晴らしいチートである。

 ただまぁ一応代償というか原動力? みたいなものは必要で、前者は何もないんだが、後者は"魂の摂取"を必要とする。俺はこの"必要"って言葉が大っ嫌いで、だってこれがあると労働しなきゃいけなくなるからホントに嫌いで、でも問答無用の不老不死っていうのは至高存在さんとやらでも難しいから、仕方なく、なのだそうな。ホントは上げたいんだけどね、って言われた。良い人やったわ。

 

 で、"魂の摂取"ってなんぞ、って所なんだけど、文字通り魂を摂取する事で寿命を延ばせるんだと。

 これが人間相手限定とかだったらクソ面倒だったんだけど、緩和に緩和を重ねて「どんな魂でも魂と見做す」にしてくれたから、これは諸手を挙げて喜ばざるが得ない山の如し。一寸の虫にも五分の魂という奴で、虫だろうが植物だろうがなんでも良いんだと。しかも摂取といっても食べる必要があるわけじゃなくて、死に行く肉体の傍にいれば自動的に魂を掠取してくれると来たもんだから、ノーウェイノーウェイ。

 

 元から人間社会にいたいと思っていなかった俺は、こうして深い深い森の中で隠居生活をしている。寿命の短い虫が周囲で死ねば、自動的に俺の寿命が延長されるって仕組み。無論森の中にいる動物や他植物たちもその対象だけど、主な対象は虫だわな。

 ただ、虫の魂というのは魂でこそあるものの、規模的には動植物には劣るようで。一寸の虫にも五分の魂じゃないらしいのだ、この世界では。差別か区別か。知らんが。

 

 寿命に余裕こそあるものの、なんかもっと効率のいい手段無いかなぁ、とくるくる考えていたその時、ピコンと光りますは天啓の電球。

 無いなら、創っちゃえばいいんだ、ってぇ話でして。

 

 どんな魂でも魂と見做してくれるのだから、人工のそれでも良かろうばい。

 そう思って着手したのが生命創造。理系で良かった。実験が楽しい。

 着手から数百年。残念ながら、ゼロから有を作り出す、というところには未だ至れていない。何かしら元手が必要なのだ。その辺はまたなんか切っ掛けでもあるだろうから、今は保留。

 しかし魂の規模を広げる事には成功した。

 

 それがさっきやっていた【魔物娘化】である。

 その辺の植物とその辺の動物の細胞因子をいい感じに配合したり強化したりして、規模の小さい動植物や虫の魂を、規模の大きい魔物へと変化させる。魔物娘にするのは普通に俺の趣味。

 これをすることで、こいつらが死んだ時の寿命蓄積値がどんと跳ね上がるのである。小さな手間で大きな見返り。ローリスクハイリターン。出来ればノーリスクが一番なんだけど、無から有を生み出す実験はまだ成功していないので見送りで。

 

 この森がどれほど拡大しているのかは知らないが、至る所で魔物娘に出会えるだろうってくらいの数は生み出している。知能がどれくらいあるのか、とか、人間に殺された、狩られた、とか、その辺は知らん。あいつらの生活に興味は無いし、死んだら俺の寿命になるので早いか遅いかの違いでしかない。

 ただ俺の周囲で死んでくれないと困るから、この森から出ようとしたり、連れ出そうとするやつにはキッツいお仕置きをする事にしている。割と殺したりする。寿命で死のうが俺が手を下そうが結果は同じだからな。

 

 そういう所以あってか、創造主でありながら恐怖の対象として、魔物娘たちはあんまり俺の家に寄ってこない。家っつーか小屋っつーか。食事も排泄も必要ないから、実験道具を置いておく物置程度の場所なんだけど。 

 つまり謀反を起こされる心配もない安全地帯であるというワケである。元々怪我も病気もしないから心配はないんだけどね。でもほら、木槍とか矢とか向けられたら怖いじゃん。ストレスとか感じたくないバブ~。

 

 そんな感じで、ビバ隠居生活である。

 この先数百年、いや数千年くらいの寿命ストックがあるので何にも切羽詰まってないし、この森に棲み続けていればさらに増えていく素晴らしい仕様。必要がないだけで食事も睡眠も出来る。排泄だけ出来ないけどまぁそれはそれとして、研究も続けてりゃある日突然無から有を生み出すきっかけに恵まれるだろう。

 

 いやほんと、素晴らしいな。

 宇宙圏で酸素と水なしで光だけで生き永らえる生物になりてぇ! って常々思ってたけど、地上にも楽園はあったんだ!

 

 ──こんだけフラグ建てたら、なんか素晴らしい研究切っ掛けとか起きねえかな。

 

 

 

 

 起きた。

 

 可燃性ガスが年中噴出している湖のある方向に、いきなり凄まじい規模の魂が入り込んできた。なんじゃこりゃ、魔物娘なんてメじゃねえ。これを取り込めば数百年の蓄積値が入ろうというソレは、湖を避けて、何故かウチの方へ一直線に進んでくるではないか。

 何か目印でもあるのか? 魔物娘達の生態も生活も知らないから何とも言えないんだが、もしかしたら道なり看板なりがあるのやもしれん。あったとしても「あっちにいっちゃダメ」とか「通行止め」の看板だろうが。

 

 特に気負う事無くその魂の接近を許してみれば、俺の小屋のある広場の入り口でその歩が止まったのを確認した。森の中に突然小屋があったら誰だって驚く。俺だって驚く。驚かないんじゃね?

 しかも灯りがついているものだから、尚更驚くだろう。

 

 ……明かりがついているからここに向かってきた説。あると思います。

 

「誰かッ……! 誰か、いるんだろう! 頼む、助けてくれ!」

 

 そしてすんぎょい久々に聞いた自分以外の"言葉"になんか変な感動を覚えた。魔物娘達も言語を有しているっぽいんだが、如何せん関わる機会がないし、関わる気が無いし。

 こうして直接、俺に向かって投げかけられる言葉なんて珍しいオブ珍しい。というかこの世界に来てから初めてかもしれん。至高存在のいた空間をこっちの世界と表現するかどうかによって変わってくるとは思うけど、人間生物に話しかけられたのは初めてだ。今日を記念日にしよう。カレンダーとか作ってないから来年の今日がいつなのかわからんけど。

 

「頼む……子供がいるんだッ! もう、死にかけている。いるんだろう、誰か……いるんだろう!」

 

 声の主は必死に懇願している。押し入って入ってこない辺り、やっぱり俺が怖い存在だってのは魔物娘達の痕跡物からわかっている感じかな? それを押し通してでも助けを求めているのは、余程その子供とやらが大事なのか。

 んー、だったら何故入ってきたんだ。あの入り口、可燃性ガスを吸い込めば2分ちょいで人間生物は絶命すると思うんだけど。あそこから入る必要があった。

 

 ……追われていた系?

 

「頼む……お願いだ、黎き森の女王よ!」

 

 ……。

 ……?

 

 いずいっとみー?

 

「女王よ! 我が魂を捧げます……ですから、どうか、我が子をお救いください!」

 

 しかも俺が魂を欲しているのを知っている?

 なんだ、魔物娘達はそこまで知能があるのか?

 

 ……んー、とりあえず出て行ってみよう。くれるらしいし。

 

 がちゃ。

 

 

 

 

 追われていた。

 追っていたはずだった。けれどそれは罠で、追い詰めたはずの奴の手には最愛の子がいて。

 片腕を犠牲に助け出した子は、衰弱しきっていて。追手は苛烈さを増し、その中には見知った顔がいくつもあった。警備の者、騎士、冒険者──。何故、とは問わない。わかるのは一つ。国内に逃げ場はないということだけ。

 

 なら、国外に逃げるしかない。

 それも国の目が届かない場所へ。判断は早かった。国の西。大陸の中心。袋小路ではあるが、誰にも手出しが出来ぬ魔物の棲処。

 

 怖き森。黒き森。黎き森。

 刺激をしてはならないと、手出しをしてはならないと、大陸の全てで不可侵条約が結ばれた最古の森へ。

 

 森は来るものを拒まない。だが、去るものを許さない。事実、魔物以外……この森から出てきた者はいない。この奥に何があるのか、何故魔物が出てくるのか、何もわかっていないその森の、唯一の御伽噺があった。

 

 黎き森の女王。

 とある国に住まう魔物の血を引く一族の長老。凛とした女性の姿をした彼女は唯一、人間の血が混じらない純血種……つまり、森から出てきたそのままの魔物だ。

 彼女曰く、森の中心には女王が住むという。すべての魔物の母。母でありながら恐怖の対象として黎き森に君臨し続ける女王が。

 

 選択肢はなかった。その話が人間を森に入れさせないための嘘だとしても、事実出てきた人間はいないのだから、何か別の脅威がいるのだろう。

 どの道行ける場所が無く、もし、本当に女王がいるのなら──我が子を助けられるかもしれない。

 子の衰弱は明らかに毒の類によるものだった。森の女王ならば薬草の一つを持っている可能性は高い。代償が何になるかはわからないが、それでも、希望があるのなら。

 

 

 毒霧の湖を越えて、森の中心を目指す。森に入った辺りで追手はいなくなっていたが、依然、上空に目がある。気球が一つ、飛んでいる。しかしそれを気にしている余裕は無いし、降りても来られないだろうと踏んで走り抜けた。鬱蒼と茂る森は、だがそこら中に道らしきものや目印のようなものがついていて、ここにも文化があるのだと知らされる。

 研究者としての本分が調べたい欲として顔を出すが、今はそんなことを言っていられる場合ではない。

 

 そうして夢中で駆け抜けて、ようやく、辿り着いた。

 本当に。本当にあったのか。感動と畏敬と、少しばかりの、恐怖。

 

 一体であれだけの甚大な被害を齎す魔物を無数に生み出す女王の棲み処。

 それは簡素な小屋。あそこにいるのか。

 

 腕の中で、我が子が血を吐いた。

 

「頼むッ」

 

 普段であれば多少の礼節は備えもしたのだろうが、焦りはそれを蹴飛ばして、自らの口から懇願を吠えさせた。みっともなく、誇りも無く。人類を幾度となく脅かし、殺戮の限りを尽くす魔物の長に、頭を垂れて願い続ける。

 女王よ。森の女王よ。お願いだ、頼む、我が子をどうか救ってくれ。

 

「我が魂を捧げます……!」

 

 上級の魔物は魂を食らう。女王がそうであるとは限らないが、差し出せるものなどそれくらいしかなかった。その程度で我が子を救えるのなら、何も問題はないのだ。

 

 ──扉が開く。

 

 あ、という声が出たのかどうか、わからない。

 ゆっくりと開いていく扉の先には──少女がいた。

 

 少女だ。幼い、まだ親の庇護下にあって然るべき少女。

 それが、こちらを見ている。

 それが、私を見ている。

 それが。

 

 口を開いた。

 

「──聞くが」

 

 鈴を鳴らすような、木々がざわめくような、川のせせらぎのような──美しい声。

 ああ、一瞬でも見た目で侮った自らを後悔する。これは、女王だ。我らが相手取る魔物とは比べ物にならない──人類種の敵わぬ相手だ。

 

「魂を売る意味を、理解しているか」

 

 問いだ。脳よりも早く口が答えを紡ぐ。

 

「はい」

「そうか。良いだろう、助けてやる」

 

 たったそれだけだった。

 いつの間にか私と我が子の眼前に女王はいて、その小さな手が我が子を撫でた。

 

 目に見えて、子の顔色が安定する。さらに女王は私の腕にも手を翳し、次の瞬間には一切の感覚がなくなっていたそれに子の熱を感じた。

 

「……とりあえずはこれでいいだろう。あと数日、毒抜きと神経系の治療をやる必要があるな」

 

 女王はそう呟いて、再度私へ視線を投げた。

 

「名は?」

「ぁ……ウィナン・ディスプと言います」

「ディスプ。数日はここにいる事を許す。ここで傷を癒せ。その子の治療は俺がする。お前の腕の治療もな。それで、お前は俺に魂を捧げると言ったな」

 

 少女の姿で、随分と男らしい口調だった。

 そのアンバランスさは、しかし面白いと思うには状況が状況過ぎて。

 

「はい」

「……ふむ。今は要らん。だがいつか必ず貰う。この強大な規模は、お前かと思っていたが、その子供のようだ。お前たちはここで傷を癒し、外へ帰れ。必要なものがあれば持っていけ。命以外であればなんでもくれてやる。そうして、外で国を拓け」

「はい……は?」

「お前は俺に魂を売った。俺は対価として治療を取った。よってお前には既に俺への服従という使命が発生している。守る守らないは自由だが、守らなければどうなるかくらいわかるだろう。まぁ、安心しろ。特に俺から何か指示を出すということはない。お前に課せられる使命は、この森を出て、国を拓く。それだけだ」

 

 何を言っているのかわからない、ということはない。

 けれど、何を言われているのか、という疑問はあった。私が国を拓く? 一介の研究者に過ぎぬ私が?

 

「食料は自由にその辺の畑から取れ。毒性があるものは隔離してある。あぁ、それと。森の中にいる魔物……達とも親睦を深めておけ。これから長い時を過ごすのだからな」

 

 それだけ言って、女王は小屋の中へと帰っていった。

 

 残されたのは状況が掴めない私と、指をくわえて眠る我が子。

 

 そして、遠巻きに私達を見ていたらしい、無数の魔物たち。

 

 私達は、命からがら救い出されるように、その場から運び出された。

 

 

 

 

 不労所得、いいですよね。

 

 我が魂を捧げます、と言われてピンと来たのは悪魔の契約である。悪魔の契約というのは、簡単に言えば悪魔が力を与えるなり悪魔が使い魔になるなりする契約を結んだ後、その契約内容履修後に魂をいただく、という奴。使い魔になるのはNGとして、力を与えて働かせる、というのは素晴らしいアイデアなんじゃないかと思った。

 

 まずディスプと名乗ったこいつを外に帰らせる。その時とりあえずありったけの魔道具やら薬草毒草やらを持たせて、多分追われたりなんだりしてたんだろうコイツを自衛が出来る状態にする。さらに幾人かの魔物娘を付かせて、魔物娘が普通にいる国を拓かせる。どうやって拓くかは知らん。勝手にやってくれ。

 ちょうど森も手狭になってきたなぁ、と思い始めていた頃だったのでこれ幸い。国を広げるのも発展させるのも魂を生み出すのも全部ディスプがやってくれて、俺はそこで生まれた魂の掠取を行うだけ。

 

 百年とちょっと前に森が急速に拡大した事があって、俺の"周囲"という範囲から森がはみ出てしまうんじゃないかと危惧した時に作った中継器的な役割をする植物をディスプに持たせ、街路樹的なアレでこういい感じに魂吸取機的なアレでアレがアレしてアレ。

 

 人間っちゅーのは増える生き物だ。人口爆発人口爆発。そして虫よりも魂の規模が大きい。おせっせを沢山してもろて、俺の糧になってもろて。不労所得サイコー! というのが俺の目論見。

 

 そのためなら赤子の毒を抜くのも、おっさんの腕を治すのも、なんら苦労には思わない。

 

 さて、と。

 そいじゃま、数百年ぶりに最初の魔物娘ちゃんに会いに行きますかね。

 移住の話、通してもらいましょか。

 

 

 

 

「何を、しに来た……」

「ほー、随分と上手く言葉を操るんだな」

 

 今日は森が騒がしかった。人間が森へ入ってきたから。それも血の匂いをふんだんに漂わせて。

 人間は女王の小屋へと向かうと、何かを話して、森へ受け入れられたのがわかった。女王の加護が備わったのだ。

 そうであるのならば、あの人間は我らの子も同然だ。我らは助け合って生きていかなければならない。はじめに生まれた私。そして次に生まれた三人。かけられた言葉は、争うな、というものだった。

 

 "森から出るな"と"争うな"。これだけがこの森のルール。

 それを破ったモノがどうなるかは、言葉に出来ぬ程、残酷だった。

 

 故に、我らは人間であろうと助けなければならないのだ。

 

「ファムタ。森の外に出てみたいと思ったことはあるか」

「……無い」

「俺が外に行け、と言ったら、出て行く気はあるか」

 

 ──森の、外。

 木々の隙間から覗く事しか出来ない、外の世界。そこに。

 

「……ある」

「それじゃ、お前が幾人か見繕って、あの人間についていくやつを決めろ。あの人間……ディスプと言うんだがな、あれの怪我とあいつの子供の毒抜きが終わり次第、お前たちを伴って森の外で国を拓かせる。その後の事は知らん。好きに生きろ。あんまり国外で死んでほしくはないがな」

 

 それは。

 あまりにも、唐突で……恐ろしい魅力を持つ話だった。

 

 外に行ける。好きに生きる。

 女王の縛り無く、好きに。

 

「以上だ。……あぁ、もし、この森に帰って来たくなったら、いつでも帰ってきていいぞ」

「来たくならない」

「そうか。それじゃあ、数日後。心の準備でもしておくといいさ」

 

 女王はそれだけを告げて、自らの小屋の方へと帰っていく。

 

 自由。

 ……初めて、得るもの。

 植え付けられた知識だけが知っていた、自由を。

 

 私は、手に出来る、らしい。

 

「……すばらしい」

 

 そう、呟いた。




無から有を生み出したい系女子

黎き森はくろきもりって読むぞ! くらきもり、こわきもりって読む場合もあるんだ!

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