死に目に魂貰いに来るタイプのロリババア   作:Pool Suibom / 至高存在

12 / 24

ヒトの過ちにより崩壊は始まった。

黒キ海を止める手立ては残っていない。

願わくは、最後の希望は

朝陽集う、夜明けの森へ


オーマ・ウォロッソ──[訳]






一つの時代の終わり(誰も思い通りに行かない)

 アジュ・ルビーィズ。

 そこでは──今、すべてが終わろうとしていた。

 

 枯れていく。青々と茂っていた植物が、建物の木材が、水路の水が。

 そして、生き物も。

 

 まるでどこかで増えた()()()()でも払わされているかのように、生命が失われていく。人々は藻掻き苦しみ、しかしどこに何を、誰に言葉も伝える事の出来ぬまま、息絶える。

 さらには、国の中心。

 住宅街のど真ん中。丁度国の中心に位置したとある一軒家が、()()()。轟音を立てて、沈む。沈んでいく。家が──家具が、そして中にいた、死んでしまった生命が。

 残るのは大穴。ぽっかりと、真っ黒い穴が出来上がった。シンクホールだと、女王が見れば言ったかもしれない。それが──続けざまに、アジュ・ルビーィズの各地で起き始める。

 

 沈む。沈む。沈む。

 崩壊する。崩落する。黒に飲まれていく。

 

 やがて穴だらけになったアジュ・ルビーィズの土地を、端の方から崩していくものがあった。

 黒き海──その波が、大地を削っていく。穴に流体が流れ込み、穴を広げ、更なる崩落を呼ぶ。

 もう命は残っていない。人間種も、動物も、植物も。全て、すべて。そしてその亡骸を、黒き海が削り飲んでいく。飲み込んでいく。飲まれたすべてはさらに細かく砕かれ、沖へと引き摺り込まれて"滝"より落ちる。

 

 また、変わった。

 大陸の地形が。それは──明らかな、大崩壊の始まりであった。

 

 

 

 

 シオンは一人、魔王国のとある場所に来ていた。ルビーィズの軍が全滅していた事や女王が中々現れない事を受けてか、この国に欠片くらいはあった「いつもと違う空気」は完全に払拭され、元の色合いを取り戻している。

 そんな魔王国の、片隅。

 スラムと呼んで差支えのない場所。魔王国にはこういう場所がいくつかあって、けれどそれらが救われる事は無い。弱いから。強くなければ飢えて死ね。魔王国に住むのであれば、当たり前。

 

 そこに。

 

 シオンはいた。

 

「懐かしい、といって良いのかな」

 

 見据えるのは──ボロボロの、しかし他の建物よりは幾分かまともな、集会場のような場所。シオンは躊躇なく足を踏み入れる。

 中にいた襤褸切れを纏う者達が一瞬シオンを見て、すぐに興味を失くした。シオンが可愛らしいからだ。見た目が小綺麗な時点で、関わらない方が良い。ここにいる者達の自衛。人間種の、自衛。

 

「……当たり前だけど、みんな……もう、土の下ね」

 

 シオンがリリアンであったのはもう300年も前の事だ。リリアンよりも年上であった人間種など、一人たりとて残っているはずがない。

 だからこれは、ただの感傷。

 

 シオンは進む。集会場の奥の方へ。

 そもそもの話だ。

 

 そもそもの話──リリアンは、魔王に嫁がなければ人間種のコミュニティから追放されると、それが嫌なら魔王の心を手に入れろと言い渡され、苦心していた。

 まだ若い……というか、学舎にいるような年齢のリリアンに、だ。

 

 何故か。

 それはリリアンが類まれなる容姿をしていたから。絶世の美女とさえ言われる程、妖艶で、男の心を掴む美貌を持っていた。美しすぎて、人間種とは思えないと……異端であると、排斥されるくらい。

 

「……先祖返り、ね」

 

 そう、言われた。リリアンの何代も上の代に混じった魔物種か亜人種の血が、突然リリアンの時に発現したのだと。けれど、莽の旅人たちとして世界を回っている間に、先達の魔物種から……とりわけファムタとファールから、魔物種の始まりを聞いた。魔物種のルールなるものも聞いた。女王によって作り出されたことも、魔王国の始まりの事も。

 

 先祖返り。

 "そう"なるには、些か血が()()()()()()()()。そう結論付けることが出来たのは、亜人種の学者オーマのおかげだ。もしリリアンの血筋に魔物種が混じった事があるというのなら、先祖返りなどではなく普通に亜人種であるはずだと。先祖返りであるというのなら、もっともっと、もっと前の時代に混ざって、さらに拡散していなければおかしいと。

 

 だから。

 

「よい、しょ……って、もう、言わなくてもいいわね」

 

 古びた扉を開ける。長らく開いてなかったのだろうそこは、確かに、カムフラージュがされているから、知らぬ者ではそれが扉であるとさえ気づけないだろう。他種族から"巧妙"だとか"狡賢い"と言われる、人間種の知恵。

 現れるは地下への階段。埃塗れのそこを、静かに下りていく。

 

 暗い。

 一切の光の挿し込まない作りになっているそこは、本来であればカンテラや蝋燭を持って降りていく場所だ。魔物種の目でもなければ、この真黒の世界では、何も見えずに足を踏み外す事だろう。

 そうして、しばらく歩いたところに、もう一つ。扉があった。

 

 門前に一人、誰かが扉に背を預けるようにして座っている。

 

「……本当に、要領の悪い人」

 

 呟く。

 この場所を知っていて、この場所を自らが死ぬ最後の時まで守りたがる者など、一人しかいない。

 

「ただいま、お父さん。……開けるね」

 

 物言わぬ躯を脇に退けて、重い石の扉をゆっくりと開く。

 そも──何故、魔王国に人間種がいるのか。亜人種は各国の人間種から迫害を受けてきたから、難民という形でこの国に逃げ延びた。それはわかる。魔物種は元からいて、じゃあ人間種は何故。

 群れなければ、個では弱い人間種。それがなぜ、魔物の巣窟にいたのか。

 

 簡単だ。

 

 元からいたのだ。元から、ここにいたのが、人間種だった。

 

「……これが」

 

 前国王は女王から国を拓けと言われ、自らの追手のいる国の反対側に魔王国を拓いた。けれどそこには初めから小さな村が存在していて、それを食い潰す形で、魔王国は成った。前国王には女王から下賜された薬やら植物やらがあって、それは恐ろしく強力で。人間種は頷かざるを得なかった。

 けれど、ここだけは。これだけは守り通すためにと、この地下室の上に集会場を作り、たとえ周囲がスラム化しようと、離れる事は無かった。

 

 扉を開けた先。そこには、一冊の本が、まるで祭壇のような形の石の台の上に置かれている。

 

「……悪魔の書」

 

 酷薄に笑う何かの書かれた、書物。

 

 シオンはそれを──手に取った。

 

 

 

 

「始まりましたね。大崩落──大陸が、飲まれます。ファムタさん、ファールさん」

 

 言う。

 オーマは、悲しそうに、笑って言う。

 

「行きなさい。黎き森へ。あそこは──あそこだけは、安全なのですから」

 

 そう言って──オーマは、事切れた。

 "寿命"? 違う。"魂"が抜けたのだ。総量に空いた穴を埋めるために、今を生きる生命の"魂"が、摘まれた。

 窓の外の黒き海が、街の西端を飲み込み始めるのが見える。視界の片隅で建物が一つ、地に沈んだ。

 

「ファール」

「ファムタ」

 

 二人は互いを呼び合って、直後に走り出す。

 世界の中心。ではなく、彼女の墓があるところへ。

 

 最後は、一緒に。

 

 

 

 

 大陸全土は地響きに包まれていた。

 恐ろしい音と共に、何かが崩れる音が鳴り続ける。

 

 人間種のいない辺境で眠りこけていたとある魔物種の姿がフッと消える。そこには大きな穴が開いていて、そこから魔物種が這い上がってくることは、無かった。

 

 農作物の育たなくなった事で捨てられた廃村。唯一の植物は、可憐に揺れる青い花の花畑だけ。食用にならないその花は、ただ綺麗なだけの命だ。

 それが、一斉に萎れていく。萎びて、そして直後、地面が割れた。入り込んだ黒い流体が、無残にも花畑を削り飲み込んでいく。流体に飲まれた花が浮かび上がる事は無い。そうして、花畑も、廃村も、ものの15分足らずで完全に削り取られた。

 

 上空から見る者があれば、恐怖におびえる事だろう。

 大陸が目に見えて縮んでいっている。その収縮速度は──あと、半日と経たずに。

 

 すべてが飲み込まれるだろう程の。

 

 

 

 

 リンゼスでも、それは起きていた。

 

「何事……!」

「お婆様!」

 

 ティータは自らの邸宅から、それを見た。

 国が崩壊していく。それは比喩ではなく、崩れ、砕け、壊れていくその様を現わした言葉。

 

 あれだけ立派だった王城も、理路整然とした城下町も、すべてが壊れていく。

 

「こんなことをするのは……女王! 何故ですか、私はしっかりと黎樹の拡散をしていたというのに!」

 

 今や国中にある黎樹に向かってそう呼びかけるも、その黎樹ですらも黒き海に飲み込まれていくのが見えた。黒き海。黒き海が、ここまで迫ってきている。

 判断は早かった、と言えるのだろう。ティータはすぐに娘達を呼び寄せんと振り返って──絶句した。

 

「お婆……さ、ま……!」

「ど、どうしたというの!? あぁ、あぁ、そんな、死んで……!?」

 

 先ほど自らを呼んだ娘以外、全員。

 喉を掴んで、涙を流して──息絶えていた。"森"の亜人種はもう、ティータの腕に抱かれたこの子しかいない。

 

「フィリア……嘘でしょう、息を……息を、して」

「ぁ──、っ──」

 

 そうして、その子さえも。

 首を掴んで……眼球が裏返って。

 死んだ。生命活動を、終了した。

 

「く……女王! 女王!! 黎き森の女王(ドーレスト・ホルン)!!」

 

 いつか、女王の襲来に怯えていた姿はなんだったのかというくらいの、憎しみ。

 まさに鬼の形相と言って差し支えのない表情のティータは、黎き森の方へ向き直り──その身を浮かせた。

 浮遊術式──それを用いて、ティータは黎き森へ向かう。全速力で──大切な娘達の、仇を取るために。

 

 その背後で。

 

 ティータの邸宅が、崩壊と共に、黒き海へと飲まれていった。

 娘達の亡き骸も──リンゼスも。

 

 

 

 

 黎樹がどんどん消えていってるんだが?

 え、何何燃やされた? いやいや、樹木と銘打っちゃいるが、火が付いた程度で燃え尽きるような構造にはしてないぞ?

 しかも大陸全土から……末端の方から、すんぎょい速度で消されてる。

 

 あれこれなにこれ不味い奴?

 

 意識を末端に集中、ぅ、うわ、だめだ。消えた。じゃあもうちょっと手前の……も、消えた。

 いやいやどういうこっちゃねん。何? 伐採業者でもいるの? 黎樹伐採令でも出た?

 

「女王! ちょっと、この子取ってくれないかしら! このディアスポラって子!」

「……」

「はーなーしーなーさーいー!」

 

 かなり近いが、魔王国の端末に実体を持たせて、家から家へと昇っていく。軽い身体って便利。ひょいひょいひょひょーいと昇って、一番高いっぽい……あー、なんつーんだっけこれ。鐘楼? みたいなのの屋根に乗って……ワオ、と驚きの声が出た。

 

 黒い……なんだあれ。コールタール……? にしては粘性の低い……なんだあれ。キモ。

 とにかくよくわからない液体が、えーと、めっちゃ迫ってきてる。黎樹とか関係なしに全部飲み込んできてる。これはヤバイヤーツですね。

 

 何がヤバイって、"魂"の回収が出来ない。遠目になんかの動物が黎樹付近で黒いのに飲み込まれたのが見えたんだが、その"魂"が俺の元に入ってきていない。"魂の摂取"が発動しないって事は、あの動物が死んでないか、もしくは、あの黒いのに飲み込まれた事で"魂の摂取"の範囲外に行ってしまったか──あるいは、"魂"自体が消滅したか。消滅なんかするのか知らんけど。

 

 いやいや、と。

 いやいやいや。さっき再生者とかいう最高効率の手段を見つけたとはいえ、まだ再現は出来てない。俺がほとんど趣味とはいえ積み重ねてきた研究成果を、まさか誰かが横取りしようって魂胆じゃあるまいな。さっきのサキュバスとか!

 夢の中でああいうの使って……その、色々だろ! 色々! 知ってるんだぞ!

 

 というわけで、緊急事態であると判断。国外にも魔物娘いっぱいいるし、あれに飲まれたら余りの勿体なさに泣いてしまうかもしれない。

 

 意識を戻す。

 

「はーなーれーろー!」

「……」

「何なの……」

 

 とりあえず出せる限りの分身を黎樹の根元に出す。マルチタスクは無理なので、その視界をモザイクアートよろしく結合。うわぐっちゃぐちゃ。だけどまぁ、見えるっちゃ見えるな。

 

 目についた魔物娘を全員転移! 勿論森の中へ。さらに漏らしがないかを確認して、もう一度見て……。

 結構な大所帯に戻ってしまうが、仕方ないだろう。この森の中で縄張り争いなんかをして死んでくれる分には俺の糧になるし。あ、喧嘩はするな、って言ってたっけ。

 ……ま、生きるためならオッケーとかにしておくか。あとで。

 

「な、なに今の……助けて、助けてって……」

「シオン! 良い所にきたわ。この子を引き剥がすの、手伝ってくれないかしら!」

 

 黎樹が無い所は見えないのがマジで不便。魔王国、結構ブラックボックスあるな……まぁ魔王国にいたファムタに黎樹を拡散しろ、って言ったから、灯台下暗しよろしく魔王国が疎かになるのはわからんでもない。

 って、うわぁ、もうだめだ。森の外部、とりあえず人間種や亜人種がいるところに伸ばしていた黎樹が軒並み飲まれてる。恐ろしすぎるだろ。

 

 ……あれ、そういえばキマイラ娘ズとファムタにファール、あとティータも見てねえな。

 

 おいおいおいおい!

 あいつらこそダメだって! 一番"魂の規模"蓄えてんだから!

 

 どこだ、どこにいる?

 

「おい、ホルン! なんだよ、まだ何か用があるのかよ!」

「……フィルエルは……置いてかれちまったねぇ」

 

 いない。いない。いない。いない。

 どこにもいない。もうアレに飲まれたってことか?

 

 ……勿体ねえ。本気で。

 

「くそ……俺が何したって言うんだ」

 

 その時、ずしんと森が激震した。

 魔王国の反対側──あの溶解した国の方から、黒いやつが迫ってきている。この森の中から見えるって事は、相当だな。もうキマイラ娘ズは無理だ。諦めるか……もったいない。とっとと収穫するべきだった。

 

 そして観察の結果わかったのだが、黎樹は、黎樹だけは飲み込まれるだけで済んでいる。黎樹の生えている場所が大地だから、それが崩れると根こそぎ持っていかれるっぽいんだけど、黎樹そのものが砕けた様子はない。意識を向ける事は出来ないから分身が飲まれてるっぽいか? 本来は観葉植物みたいな根が切断されている状態でも分身は置けるんだけど、ありゃダメだな。

 けれど、黎樹が砕けない、という情報さえありゃ対処は出来る。

 

 倉庫にある、ありったけの成長促進剤。

 

 これを惜しみなく、全て地面へと降り注ぐ。

 すると黒いアレのぶつかる音とは別の、地面を蠢くモノが発する地鳴りが響き始めた。

 

 黎樹の根だ。恐ろしい速度で成長をする根が、森の外周部に到達。そこでうねうねと絡み合い、交じり合い、まるで防波堤のようにして森を守る。

 地面を根で強化し、周囲を幹で防護。外側の黎樹の上に見張り役の分身を出して──うわー。

 

 一面、黒。

 なんだこれ。どういうこっちゃ。どういう……どういうこと? マジでわからん。

 

 黒い……水? か。水だな。黒水が、この世界の大陸を全部削り取って……というかこの星? 大陸? なんか変だとは思ってたんだよな。一日中昼だったり一日中夜だったりすることがたまにあって、いやぁ研究が楽しすぎて一日経ったかどうか覚えてないぜもしかしたら一瞬だったのかもなぁなはは、とか考えてたんだけど、アレはマジで昼が続いてて。

 

 一応黎樹で堰き止めは出来てるな。うん。

 んー。でも、悲しい。

 

 超、悲しい。

 

 キマイラ娘ズ……最古の魔物娘ちゃん……あとティータ……。

 めちゃくちゃ巨大な"魂の規模"持ってる奴ばっか失くした……。つら。

 

「……ん?」

 

 魔王国側。少し離れたところに……なんじゃありゃ。丸い……白い、丸い奴がある。いや、丸い奴としか表現できないんだって。なんか丸い奴が……ある。

 

 んー?

 

 んー。

 

「……ファムタ!」

 

 その丸い奴にはなんか四角い入り口が開いていて、その入り口に、今一番愛おしかった姿があった。

 丸い奴は黒水に削られるたびに修復を繰り返しているが、どんどん押されてきている。このままじゃ、砕けるのも時間の問題だろう。

 

「待ってろ、今助けてやる!」

 

 歓喜である。

 大事なものを全部失くしたと思っていたら、一番大事なものだけが見つかったのだ。嬉しく思わないはずがない。あいつさえいれば、だって何体でも複製できる。一番"魂の規模"が大きい奴だから、複製すれば失った分も取り戻せる。

 

 まさに神の御導き……至高存在さんの御導きだ。

 

「秘蔵品だ──ほら、飲め!」

 

 本体に意識を戻して、倉庫の奥の、超頑丈に作った金庫の中身を取り出す。

 

 それは、丸いガラス玉の中に入った、血液。

 俺の血だ。【不老不死】のチートのおかけで一切の外傷を負わない俺が流した、唯一の血。

 

 それを、四分の一ほど取り出して、地面に注ぐ。

 

 効果は絶大だった。

 

 先ほどの成長促進剤なんてメじゃない程に、まるで巨大な樹木の腕のようになった幹の集合体が、少し離れた場所にある白い丸いのに直進する。それは白い丸いのに衝突するとグーにしていた拳を開くように広がり、瞬く間に白い丸を根と枝と幹で覆い尽くしてしまう。腕は中の白い丸に圧力を与えないように、しかし隙間が出来ない様に何重にも何重にも成長し続ける。

 

 ファムタ……ファムタだ!

 多分ファールもいるだろう。良かった……本当に良かった!

 

 これでやり直しが効く!

 

 あとは……上も閉じるか。黒水が昇って入ってきたら嫌だし。

 ……キマイラ娘ズと、ティータ。他にも"魂の規模"はそこそこだけど、俺の作り出した半分くらいの魔物娘が、黒水に飲まれてしまったんだと思うと……。うう。つらい。悲しい……。

 

 せめて早めに摘んでおけば……放し飼いにしたのが間違いだったか……。

 

「女王……落ち込んでいる、の?」

「ん……シオンか。……シオンか?」

「え、ええ。そうだけど……」

「……」

 

 ん?

 なんだこいつ。なんだこの、"魂の規模"。違和感……?

 いや、まぁ別に今はどうでもいい。えーと、とりあえず。

 

「まだ、喧嘩は無しだ。けれど状況次第で、まぁ。生き残るためであれば、解禁するよ。まだダメだからな」

 

 釘だけは、刺しておかなければ。

 

 

 

 

「くそ……なんだ、なんなんだこれは! アイオーリ! たっ……テリアン! 誰か、いないのか!」

 

 それは、泳いでいた。

 あらゆるものを削り取る黒き海を──一人の人間種が。

 

「魔王国も、飲まれてしまっている……幻術ってわけでもなさそうだ。というか、チクチク痛いなこの水は……!」

 

 泳ぐ。泳ぎ続ける。

 何もない無の果てを。

 

「おーい! 誰か! 誰かいないのか!」

「女王! こんなことをして、何が目的──」

 

 それは浮いていた。

 黒波の上を樹木の女が。

 

「……えーと」

「魔王国の、フィルエル、様?」

「あ、はい」

 

 生命は、まだ。

 

 

 

 

第二話「莽の旅人たち

第二話「玉莽れ時」




玉莽が時で「おおまがとき」と読むんだけど、大禍時は黄昏時だから、それを捩る形で玉莽れ時と書いているぜ! だから読みはたそがれどきなんだ! はは!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。