死に目に魂貰いに来るタイプのロリババア   作:Pool Suibom / 至高存在

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もしかして俺、なんかやっちゃいました?

 悪魔との取引には、裏があった。それに気付くことだって出来たはずだ。けれど、既に契約者は──悪魔を召喚せしめた研究者の集団は、「自らの魂が世界に影響を及ぼす可能性」の全てを消費しきっていたから、気付くことが出来なかった。その時点で研究者たちは凡人ですらない、ただの木偶の坊になっていたのである。

 

 悪魔たちは言った。法則を与える代わりに、もし死を迎えた場合の"魂"と、一部の居住スペースを貰う、と。

 

 人類の見落としは二つ。死を迎えた場合にある、"死の定義"が曖昧であるという事。そして一部の居住スペースに、広さに関する指定が無かった事。要らない土地ならいくらでも余っているから、と安堵した代表者は、しかしそのいくらでもが、まさか──世界全土を指すなどと、夢にも思わなかったのである。

 

 気付いた時にはもう遅かった。

 悪魔たちの作り上げた扉。そこから溢れ出る、黒い魔物たち。どれもが異形、どれもが醜悪。それらは瞬く間に世界を侵略し始め、土地という土地を占領した。人類は機械で立ち向かったけれど、無駄だった。魔物は無機物を食らう。食らって生き延びる。再生もするし、再起動もする。

 銃弾も、爆弾も、砲弾も、魔物には通じない。電撃を浴びせても、火炎を放射しても、高圧水で穿とうとしても、ダメだった。術式を用いた転移術だけが唯一有効打に思えたけれど、どこかへ飛ばされた魔物はその場所で活動を再開するから、対症療法にしかならない、

 

 食糧問題の時、人類は本末転倒な方向──医療を発展させ、寿命を延ばすという手段を取った。

 魔物によって人類が滅亡の縁に追いやられたその時、人類はまたしても──逃げる選択肢を取る。即ち、地下への移住。チップ化した人類は全体の7割で、残りはまだ脳のまま。けれど、待っている時間は無い。

 地下開発は迅速に行われた。情報の伝達速度にラグが無くなったことや、強引な意思統一が出来るようになったことは、主に開発工事においての必要日数を大幅に縮め、ほぼひと月で地下に巨大な空洞と、地盤を強化する補材を整える事に成功したのである。

 そうして人類は、地下へと移住する。チップ化した7割の人類と、それが追いつかなかった2割の人類が、地下へ。その頃にはもう地上は魔物の楽園になっていて、ヒトの住み得る場所はどこにもなかった。

 

 ただ一つ、とある火山を除いては、だ。

 

 地下に移住した9割の人類。けれど残り1割。チップ化も、義体も、何もかもを拒み、時代遅れと称された者達がいた。彼らに明確な名前は無かったけど、闇夜にも似た魔物に対し、暁天だとか朝焼けの、だとか……まぁ、聞くも恥ずかしいような、ちょっと格好つけて名乗ってしまった感じの呼称が文献に残されている。達筆で。

 彼らは各所に拠点を作っては魔物たちと抗戦し、危うく成れば逃げ、再度立て直しては抗戦するという、ともすれば泥臭い足掻きを繰り返したとされている。

 紅炎の奇跡(ノルー・イェストル)。それが、彼らが外周を回るようにして抗戦を続けた火山の名である。無論、自ら達を暁天だとか朝焼けのだとか呼称していた筆者と同筆者である事は言うまでもないだろう。

 

 ああ、けれど、データの共有を行えない人間と言うのは──確実でない手段でしか意思疎通が出来ない個々というのは、やはり信用に欠けるものである。

 

 残された人類にはしかし、裏切り者がいた。

 

 悪魔信奉者──。

 研究者たちによって召喚された悪魔は、言わずもがな人類の敵である。なんせ、その配下にある魔物を世界に解き放った張本人たちなのだから、当然。

 けれど、それでいいと。それが正しいのだと、妄信する者たちがいた。肉体は肉体であるべきだと……それを選ばない人類はヒトに非ず、滅ぶべきだと唱えるその過激派。彼らは悪魔を裁定者として仰ぎ、自分たちをこそが人間種であると主張する。人類種から分かたれた人間種。地下へ行った者達を人工種として蔑み、嘲笑う。

 

 朝焼けの者達と悪魔信奉者は対立した。

 魔物との生き残りをかけた闘いの最中であるにも関わらず、彼らはいがみ合い、罵り合い、分裂する。朝焼けの者達は自ら達の手で一刻も早く人類を再建すべきだと言い、悪魔信奉者はヒトでなくなった者達を先に滅ぼすべきだと言うのだ。

 両者ともに勝手にしろ、という風には出来なかった。残された人類は少なく、協力しなければ魔物を撃退する事も敵わない。朝焼けの者達も悪魔信奉者も、互いが必要である事は間違いなかった。相手の意見は飲めないけれど、戦力は必要だと。

 

 そんな、美味しそうなもの、悪魔が逃すはずもない。

 

 悪魔はまず、信奉者たちに接触した。

 ──悪魔の血を飲んでみる気はないか、と。それを飲めば力が手に入る。身体能力の向上、知能の増加。術式の扱いも各段に上手になる……と、つらつらメリットを並べる。信奉者たちは受け入れた。これで朝焼けの者達がいらなくなる、と。

 

 悪魔は次に、朝焼けの者達に接触した。

 ──自分たちと契約する気はないか、と。人類と契約したのは一部の居住スペースで、全部ではない。だから、それを明け渡す代わりに、魔物と共存できるようにしてやろう、と。

 

 果たして、悪魔信奉者たちは魔物にも勝る身体能力や術式の干渉強度を手に入れ──しかし、デメリットが生じなかったのは、極一部の者だけ。適合者とされた、見た目の一切が変わらなかった者達を除いて、角が生えたり、耳が生えたり、顔が獅子になったり、足が蛇になったりと……今世に蔓延る魔物と同じような特徴が信奉者たちの身体に現れるようになったのだ。

 身体能力は確かに向上した。けれど最早、ヒトではなくなった。それが──亜人種の始まり。

 適合者は悪魔信奉者の1割に満たぬ数だ。悪魔の言葉に嘘は無かった。適合者だけはそのままの見た目のまま身体能力の向上が見られたし、知恵が回るようになって、術式の──「自らの魂が世界に影響を及ぼす可能性」も広がった。

 

 嘘は言っていない。言わなかった事があるだけ。

 

 それでも尚、悪魔信奉者は──適合者は、悪魔を信奉し続けた。自ら達こそが真の人間種であると、一切信じて疑わずに。その狂信は異教徒への敵意にも発展し、朝焼けの者達さえも滅ぼすべき対象に入れる。亜人種と共に人間種は、朝焼けの者達に完全な敵対宣言をしたのである。

 

 反対に、朝焼けの者達は契約を拒絶した。その手には乗らないと。そしてその残された土地こそが最も重要であるのだと見抜いた。紅炎の奇跡(ノルー・イェストル)さえ無くならなければ、人類が完全に負ける事は無いのだと。

 だから徹底的に戦った。悪魔信奉者たちとも、魔物とも。戦って、戦って、けれどやっぱり、段々押されていく。無理なのだ。悪魔信奉者たちが敵に回ってしまった今、もう押し返せるだけの戦力が無い。亜人種と化した信奉者たちと人間種を名乗る信奉者たちを相手取って、疲弊して。

 

 そうして、そうして、ついに最後の一人となってしまって──折れた。

 

 朝焼けの者達を名乗る、暁天の最後の一人。

 彼の名を、リーアム・ディスプ。その後世界中に散らばっていく亜人種や人間種の中に唯一人混じった、最後の人類である。

 

 

 

 

 天より注いだ黒い液体は、量としてみればそこまででもなかった。住宅街の一切を潰し、真黒の池として鎮座している以外は特に動く様子もなく、被害としてみれば、いくつかのフレームボディの損失と区画の破損程度に収まった。どうしようもないという結果が一瞬、多少の混乱を招いたが、すぐに情報が共有され、都市は落ち着きを取り戻す。すべてが平静を取り戻すまでにかかった時間はたったの二時間ほど。意思を統一した人類というのは、ああこうあるべきなのだと誰もが誇らしく思った事だろう。

 

 だから、見落とした。

 

 統一されていたから──誰もが黒い液体に注目して、これをどうにか解明せんと躍起になっていた。その裏で、液体の落ちてきた穴から蛇のような、触手のような、あるいはひび割れのような──あまりに、あまりにも無数の枝が伸びてきている事に、誰一人気付かなかったのである。

 否、気付く者はいた。いたけど、共有しなかった。

 

「なぁ、アレって」

「──女王っ!」

 

 フィルエルとティータ。

 出来なかった、が正しいだろう。彼らはまだ、脳のチップ化を行っていなかったから。

 そしてその伝達不足は、もう、当然の様に……悲劇を生む。

 

 恐ろしい速度で伸びてくる枝の一部が一番高いビルに到達する。次の瞬間、ビルから明かりが失われた。突然の停電。否、灯りだけでない。中にいる人類……機械達もまた、完全に停止している。目視こそ叶わずとも、ビルが都市のネットワークの全てから切断されたという事実は、平和になりかかっていた人々を叩き起こす。

 

 そのまま枝はビルの外壁へと絡みついていき、後から後から、うにょうにょ、ぐにょぐにょと生理的嫌悪を催す見た目の根や葉があふれ出してくる。もっとも生理的嫌悪を催したのはどこぞの魔王のみで、人工知能達からは生理的嫌悪などという感覚はとっくに消えてなくなっているのだが。

 

「魔王様! あれは、あれはなんですか!? あれは──自然神の御姿なのでしょうか!?」

「ああ、見てください! 森が……木が! 生命がお怒りだ……! 鋼鉄と合金とチップで出来た機械共に、裁きの鉄槌を下してくださるのだ!」

「自然派こそ人間のあるべき姿! 機械に魂を売った愚か者どもめ、そのまま朽ちて果ててしまえ!」

 

 新・魔王城に住む、自然派の者たちがやいのやいのと騒ぎ立てる。アレと自分の森を一緒にされたからだろう、ティータの目がどんどん冷たくなっていくのだが、自然派の者達は気付かない。ただ一様に天を仰ぎ、空を蝕んでいく根の姿に涙する。

 

 枝は一番高いビルを完全に拘束すると、それを一つの幹とするように、まるで太陽に向かって身を広げる樹木のように、その身を伸ばしていく。サカサマの木。反転した樹木。

 一つ、また一つと明かりが消える。人類がこれをも解析しようと沢山の考察を繰り返すが、黒い液体と同じく答えが出ない。こちらはどうしようもない、ではなく──完全に未知。見た目は樹木だ。けれど、動きはあまりに動物的で、意思さえ感じられる。

 ただ落ちてきただけの黒い液体とは違う。あれは。あれなるは──こちらを捕食対象として、狙いに来ている。

 

 また一つ、建物から明かりが消えた。

 

「……どうする。アレ、黎樹だよな」

「個人的には今すぐにでも女王の元へ行ってその胸を刺し貫いてしまいたいところですが──"森"の魔物種として、警告しておきます。アレに触れるのは止めた方が良い」

「でもこっち来てるぞ」

「なっ──なんで貴方はそんな呑気なんですか!」

 

 枝は都市全土に広がりを見せている。

 当然、新・魔王城の方にも伸びてきている。ティータがフィルエルを呑気だと罵るが、本当に呑気なのは観察対象から視線を外して肩を竦めていたティータの方である、など、フィルエルは口が裂けても言えなかった。

 

 黎樹の枝が、新・魔王城に取り付く──前に。

 

 ザバァッ! と、新・魔王城の敷地内にある小さな池から、水が持ち上がった。

 

「主。主! 久しぶり!」

「……それ、聞こえてるの?」

 

 水は何かのフレームだろうスクラップを一緒に持ち上げていて、その両者が声を発した。

 一瞬の、間。あるいは「えーとはいはいなんだって?」とでもいうような、躊躇いのようなもの。

 

 直後、枝先に一人の少女が現れた。

 白いワンピースを着た少女。少女はキョロキョロと周りを見渡し──水とスクラップを見て、口を開く。

 

「えっ、何? SF?」

 

 困惑だった。

 

 

 

 

 ようやく黒水が抜けきって、黒水に触れていない黎樹の進行が可能になった。トンネルに使っている黎樹は周囲の黒水を堰き止めているから分身が抜けちまうし、先ほど栄養源を突き止めた根も抜け落ちた黒水で濡れているから分身は置けない。諦めて後続をどんどん行かせて、手ごたえのあった栄養源を片っ端から吸い取っていたら、なんか声が聞こえた。

 ほらあれ、伝声管? パイプの中を伝って声が届く奴。あんな感じの声。ちょっと前にファールを作った時があったけど、あれの前後辺りに似たようなのを聞いた気がする。ファムタとジャクリーンといた時に聞いた声の感じに近いな。

 ……ジャクリーンとか。懐かしい言葉、よく覚えてたな俺。亜人種だっけ? ……えーと、ほら、あれだ。あれ……。そう、猫! 猫の亜人種!

 

 そんなことはどうでもいいのである。

 

「はいはいちょっと待ってくれよ~、っと」

 

 なんか呼ばれたように思うので、今やってる作業をパパっと終わらせにかかる。アイオーリと同じような自動回収装置をいくつか作っていたのだ。"魂の規模"はアイオーリには劣るけど、それなりにデカい奴らをポンポンポンと。ポッドが一列に並ぶ姿は、なんだか畑みたいである。確かに魔物娘は作物みたいなところあるし。

 って、あぁこうやってすぐに思考が逸れるの、俺の悪い所だよな。

 

「えーと……? ん、アルディーカ、か? アレ」

 

 黒水に塗れていない根で以て見る地下世界。視界いっぱいに広がる透き通ったスライム娘が、全長30m程。そんなにデカくなれるように作った覚えないんだが。そしてその肩には……これまた見覚えのない金属に身を包んだオーゼルが乗っている。

 この狭い視界じゃなんもわからんな。とりあえずれっつらごーが良いだろう。

 

 と。

 

 夜景。都会の街並みをタワーの上とかから見下ろすとこんな感じだよな、っていうビルの立ち並ぶ地平と、なんか浮いてる丸いのとか、ちっさいのとか、あと光の粒とか。

 

 SFだ。サイエンスフィクション! サイエンスファンタジー! スペースファンタジー!

 

 いやいや。

 んなワケ。

 

「主! 主! 頑張った! アルディーカ。帰れない。オーゼル。アルディーカ」

「アルディーカもデカくなりすぎだろ。オリジナルより"魂の規模"が大きくなってるじゃないか。"寿命"と"経験"の増大が凄いな。まだ旅に出てからそんなに経ってないはずなんだが」

「……アルディーカ。揺れると、落ちる」

「あ。謝る。嬉しい。主。会えた」

「"感情"の増大……これは、喜色か。へぇ、どんと伸びるわけじゃなく、じわじわ膨らんでいくのか……それは知らなかったな。ふむ、まぁとりあえず、先に森に帰すか」

 

 枝葉を伸ばし、アルディーカの体内へ入れる。瞬間、アルディーカとオーゼルは消えた。あの水溜まりに落ちる事だろう。丁度水が少なくなっていたし、水が足されて万々歳かもしれない。オリジナルのアルディーカもあそこにいるけど、特に問題は無いだろ。喧嘩になったとしても、さっきのアルディーカが勝つだろうし。

 オーゼルは……アイツ、泳げるのか? 水泳機能とか付けた覚えないけど。……戻って確かめるべきか? バックアップにとってある"魂の規模"の小さいオーゼルより、今のオーゼルを複製してバックアップにした方が良い、よな。

 

 よし、一旦戻って──。

 

 ……。

 

 ──は? はぁ?

 ……あー!

 

「ティータ! それに、ディスプの息子!」

 

 目の前にあった金属の城。

 そこに死んだと思っていた二人がいた。や……やった! すげえ嬉しい!

 ティータもディスプの息子も、"魂の規模"が物凄い事になってる。まぁティータに関してはディアスポラを越えないくらいだから置いておくにしても、ディスプの息子。コイツだよ。

 

 なんだ、この規模。あの後何回死んで、何回蘇ったんだ?

 俺の1/100くらいには匹敵するぞ。凄まじいな、おい。

 

「女王……っ!」

「何をしに来たのだ、女王! いや、それよりタッシュは……テリアンはどうなった! アイオーリは、生きているのか!」

「テリアンとアイオーリ? あぁ、生きてるぞ。別に、殺す理由もないしな。むしろ貴重な存在だから、ちゃんと栄養も取らせてる」

「そうか! それはありがたい! ……ん?」

 

 さて、こいつらを持って帰って研究するのは当たり前として、ちょっとこのSFチックな場所も調べてみたい欲求がある。見た感じ無機物で──それに"魂"を乗せている。じゃあ、ここが悪魔の巣か。俺の予想通り、悪魔は無機物に"魂"を乗せる法則を有していて、だから俺にはそれが使えなかった。

 法則の所有権って、どうやったら渡せるんだろ。とりあえず適当なのを採取して、上で研究するか。あ、ディスプの息子……どうやって転移しよう。黎樹の種を埋め込むか? ……排出されてぶつ切りになったりしたら面倒だな。というか、ちょっとグロい。

 じゃあ精査するか? ……まぁそれが一番良いか。

 

「じょ、女王よ! 黎き森の女王(ドーレスト・ホルン)よ!」

「うわ、久しぶりに聞いたなソレ。もしかして俺を呼んでるのか?」

「ティータさん、やはり言葉が通じるぞ! あれは本物か?」

「……昔の女王は、多少、言葉が通じる事がありました。本物である事は間違いない。けれど……」

「おい、なんだよディスプの息子。こう見えて俺は忙しい……いや、忙しくは無いんだが、やりたいことがいっぱいあるんだ。暇じゃない……いや、暇は暇だな。うん。暇じゃないとおかしいし」

 

 やだやだ、忙しいとか暇じゃないとか、使いたくない言葉一位。そうだ、ここの調査とかどうでもいいじゃないか。"魂"が乗っているのは見えているし、どうせ無機物であるって事以外結果は出てこない。ゼヌニムとかいうのを探すついでにここにある"魂"全部貰ってくってのはどうだろう。多分悪魔の貯蔵庫とかそんなんだろ、ここ。 

 まぁ他人のものを横取りするのは多少気が引けるが……俺も黒水に魔物娘達を横取りされたし、あとは悪魔たちが黒水からなんかを横取りすれば、いい感じの三つ巴になるだろ。ヘーキヘーキ。

 

「女王よ!」

「だからなんだよ要件は早く言え」

「何故、世界を壊さんとする! 何故、人類を脅かさんとする! お前の目的はなんなのだ!」

 

 ……ん?

 え、待って、何?

 

「何一つ身に覚えがないんだが……あ、目的は健康長寿だよ。長寿祈願」

 

 もしかしてアレか、俺の知らんところで魔物娘達がなんかやっちゃったか?

 

 

 

 

 白いワンピースの少女の姿は、各地でも目撃されていた。

 何の機構も持たずに宙に浮くその姿は未知である──かのように思われたが、複数の発信により詳細なデータが共有される。

 死に目の妖精(ポンプス・イコ)黎き森の女王(ドーレスト・ホルン)

 黎き森と呼ばれる場所で凄惨な人体実験を繰り返し続けるマッドバイオロジスト。魔物種と呼ばれる肉体を持つ生命を作り出しては弄び、殺して殺して殺して、最後には捨てる──悪しき狂人。

 

 魔物を生み出す、という言葉に、大人は震えた。

 人類がここへ移住してくる際の、その原因となったものこそが魔物だ。それを生み出す者となれば、決まっている。

 

 悪魔だ。悪魔が、とうとうここまでやってきたのだ。

 

 契約は履行したはずだ。居住スペースはちゃんと与えた! むしろ騙されて、けれど抗う事無く差し出したのに!

 不満が溜まる。ストレスが溜まる。

 それはそれぞれが全体に波及し、増幅し、倍々になってまた増える。

 

 そんな都市の様子に──白いワンピースの少女が、振り返った。

 

 

 

 

「──、ぐ、っはぁ……っはぁ……!」

 

 地表──黎き森。

 その中心にほど近いところにある女王の家の庭で、数十人の魔物種がガラス瓶より助け出されていた。女王が意識を分身体に飛ばしたのを狙って行われた救出劇は、見事に成功したのである。

 

「母上!」

「……あぁ、ああ。みっともない、ところを……みせちまったね」

「いいえ! いいえ! ご無事で──何よりです!」

 

 いずれも強大な魔物種。そのどれもが裸に剥かれ、怪しげな装置によって苦しんでいた。

 助けたのは、シオンとテリアン。そして草食動物の魔物種達。随分と数を減らした──死体を啜る肉塊(カンレムス・キャントッサ)による被害は甚大であったけれど、こうして勇気を振り絞る事が出来るくらいには、彼女らの仲間意識は強いものとなっている。

 

 そして。

 

「……クソ、許さねえ、あのチビ」

「ようやく目を覚ました? そう、女王は最悪よ。その所業を許してはいけない」

 

 テリアンが牙を剥く。尊敬する母親をこんな風に辱めたというその事実は、その屈辱をここでようやく目の当たりにして、女王への感情が全て、ふつふつと込み上げる怒りに変わっていく。自らの夢を叶えてくれた──憧れの魔物種にしてくれた、という感謝は、しかしアイオーリに手を出された憎しみで、簡単に砕かれた。

 

 ガラス瓶に入れられていた魔物種は酷く疲弊している。

 けれど、ずっとここにいるわけにはいかない。いつ女王が戻ってくるかわからないからだ。

 

 テリアンが腹いせにだろう黎樹の枝で女王を殴るが、黎樹の方が折れてしまった。何をしても壊れることの無かった黎樹が、簡単に。そしてテリアンの手もまた、裂ける。

 

「あぁ、何をしてるのよ。女王に物理的な攻撃が一切意味をなさない事、説明したでしょ?」

「……じゃあ、この怒りはどこにぶつけりゃいい」

「今は抑えるの。……みんな! あらかじめ伝えていた通り、移動を開始するわ! 家族でいない者がないか、ちゃんと確認して!」

 

 未だ森は黎樹によって囲まれていて、出口などない。

 けれど黎き森にいれば、女王の手から逃れる事は出来ないだろう。

 また捕まって──今度は全員、あのガラス瓶に入れられてしまうかもしれない。

 

 じゃあ、どうするか。

 答えは出ていた。

 

「これから──悪魔の世界へ行くわ。みんな、はぐれないようについてきて」

 

 この世界から、出てしまえばいい。

 

 




暁天は「ぎょうてん」と読むぜ! 彼らは自分たちを朝焼けの旅団とか暁天の一柱だとか日の出団とか自称してたんだ! 最後の日の出団だけダサいな! はは!
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