死に目に魂貰いに来るタイプのロリババア   作:Pool Suibom / 至高存在

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基本、魔物娘と女王以外はダーク寄り


争いの種を蒔く(物理)

 30年の歳月は経た事だろう。

 女王より知恵と道具と国民を授かった私は、拓けと言われた国を広げる事に邁進した。魔物の住まう国。他、迫害を受けている種族や難民を受け入れる、最後の希望と呼ばれる国を。

 治世を敷く、というつもりはなかった。否、出来なかった、が正しいだろう。一貴族に腕を買われる程度の研究者が王になどなれるはずもない。周囲にいるのはモノを知らぬ魔物だけ。好きにしろと一度(ひとたび)言えば、弱いものが淘汰され、強い者だけが生き残る……凡そ希望などとは呼べない国になっていた。

 

 あの森は争いが禁止されていたという。争いを起こせば、女王に処刑されるのだと。

 あの森は外に出る事を禁止されていた。森から出ようとすれば、直後には見るも無残な死体になっていたという。

 

 それが、この国では解禁されている。

 この国がある限り、魔物たちは自由を謳歌できる。故にだろう、始めは私に対しての敬意など欠片たりとも無かった魔物たちが、私を"王"と呼び始め、この国を"魔王国"と呼称するようになったのは。無論女王から授かった道具無しでは魔物たちに歯向かう事すら出来ないし、寿命という点においてもそろそろ私は限界だ。

 あくまで敬意ではなく舞台として、私を王に据えている。

 

「大丈夫ですか、父上」

「……ああ」

 

 30年だ。

 あの時毒を受けて衰弱していた我が子も、凛々しい男へと成長した。異母となるが姉妹とも仲良くやれているようで、もう、私の庇護は要らないのだろうことが分かる。

 

 ひとつ、咳をした。

 

「父上!」

 

 咳か。血か。

 これが寿命であるのか、病であるのか。最後までわからなかった。私が延命を断ったからだ。この国に亡命してきた者の中にも腕の良い医者は多数いたが、どうも、違う、と。

 私の本能が言うのだ。

 

 私は、ここまででいい、と。

 

「……フィル。フィルエル・ディスプ」

「──……はい」

 

 言葉を紡ぐ唇が重い。言葉を浮かべる脳が重い。最愛の息子を見やる瞼が、重い。

 

「お前に、王を継ぐ。次の王はお前だ。好きにやれ」

「……はい」

「最期に、あの木を……こちらへ持ってきてくれないか」

「木、ですか?」

 

 部屋の隅に置いてある、一本の小さな木。

 この国の象徴にもなっているその木は、国中の至る所に生えている。

 

 椅子の横に置かれたその木の枝葉に、重い手を添えた。

 

「……いいか、フィル。私はこの生に満足している。他人が見れば、幸福とは程遠いだろう事はわかる。だが、あの時、お前を守る事が出来た……お前を生かすことが出来た事実を、心から、嬉しく思う」

 

 目を閉じる。

 

「皆に知らせるのは、明日の朝にしてくれ。今日は静かなまま、眠りたい」

「……わかりました」

「国を頼んだぞ」

「っ、はい!」

 

 フィルエルが執務室を出て行くのを感じて、とうとう、体の力を抜ききった。鼓動が弱くなっていくのを感じる。

 

 充実した人生ではなかっただろう。あの国で研究者を続ける事と比べても、どちらに傾くかわからない程、上手く行ったとは言えない人生だった。なんとも私らしい。

 このおいぼれが、今や魔王。人類に恐れられ、最優先討伐対象として名を馳せる魔王国の王。

 

 なんだ、それは。

 

「──素晴らしい」

 

 ふと、声がした。

 長らく聞いていなかった声。少女の声だ。

 

 顔どころか、眼球を動かす事も出来ないこの身体は、彼女の顔を見る事さえままならない。

 

「なるほど、経験値か。ディスプ。お前の魂の規模はあの時より拡大している。これならば上質であると言えよう。礼を言っておこうか。お前のおかげで、また一つ知恵を身に着けた」

「……女王よ」

「なんだ」

 

 ぶっきらぼうに。彼女は言う。

 あの時は笑えなかったが、今なら、笑って逝けそうだ。

 

「私は……使命を、果たせました、でしょうか……?」

 

 国を拓け。そう言われた。

 私は、ちゃんと。

 出来ましたか。

 

「ああ。十二分の出来だ。誇っていいぞ」

 

 なら。

 

「良かった」

 

 ふと、体が軽くなるのを感じた。あれだけ重かった全身が、羽のように軽く。

 私はそのまま、ふわふわと浮いて──女王の手の中へと落ちる。

 

「確かに受け取ったぞ。ああ、全く――素晴らしい」

 

 私はそこで、終わった。

 

 

 

 

 "魂の摂取"についての研究が進んだ。一寸の虫にも五分の魂が何故成り立たないか、という所で悩んでいたのだが、どうも"寿命"と"経験"が関係しているらしい。RPG的に言えば経験値。XP。他者を殺すとか戦うとかそういうのじゃなくて、概念的なものでしかない"経験"をどれだけ経ているか。それが魂の規模に大小をつける。

 あの森は平和だ。食い物は潤沢で目に見えた敵が一人。「喧嘩をするな」と言ってあるので争いは起きず、故にあの森で生まれた魔物娘達は平和なままの一生を送る。

 虫よりも寿命が長いから魂の規模も大きいが、森の外界にいる人間と比べると天と地の差が生まれてしまう。圧倒的な経験値不足。さっきチラっと外の国の魔物娘達を見てきたけど、生まれたばかりの幼子が森の成体を凌駕する魂の規模を有していた。

 

 そりゃ効率が悪いわけだ。

 短絡的にこの国を今全滅させれば数十万年の寿命が手に入る。森を全滅させたところで数万年にしかならない。それくらいの差がある。この国にはもう中継器が敷いてあるから良いのだが、そうなってくると欲が出てくるのが人間というもので。

 

 国外で死んだ命……勿体ないよなぁ。

 

 大陸の中心にあるっぽい俺の森と、それに隣接したこの国。土地面積はそんなに大きくない。ここに住まう人間や魔物娘達は全体から見れば少ないのだろう。大陸全土、あらゆるところの魂が回収できれば、俺の不労所得は倍々ババーイに増えていくはずだ。

 

 うん、うんうん。

 考えても考えても良いことずくめだぞ。デメリットが全く見当たらない。

 

 そうと決まれば中継器の量産である。いや、自分で育てるより種の状態でばらまく方が良いか?

 この国から……こう、いい感じに全国に……あいや、この国貿易とかしてんのかな。全然知らねえや。

 

 ……困った時の、最初の魔物娘ちゃんである。

 

 

 

 

 湯船に浸かりながら、お気に入りの本を読んでいる時だった。

 何か嫌な予感がして、咄嗟に防護の術を浴室に張る。ぐしゃあ、と潰された。

 

「よぉ、入浴中だったか。随分と人間文化に染まったな」

 

 膝の、上。

 重さは全く感じないけど、体温を感じる足がちょこんと乗っている。直立。簡素な白いワンピースを着ているだけの、何百年と前から変わらぬその姿。あの森を出てから濃くなった日々は森の数百年を凌駕する密度を誇っていて、たった30年会わなかった事がどれだけ私のストレスを失くしていたか、という事に思い至らされる。

 

「女王……何をしに来た」

「へえ、言葉も流暢になってる。それに、魂の規模は……凄いな。随分と自由が楽しかったとみる」

「世間話をしに来たのなら、出て行って。私はこの生活を満喫してる。女王の顔は見たくなかった一生本当に本気で一切」

「ああ、それで構わん。今回はお前に頼み事があってな。これ、適当に旅人とか商人に渡してくれ」

 

 そういって放られた麻袋を、受け取らない。壁に当たって落ちたそれは、中からいくつかの黒い……種を覗かせた。

 

「……黎樹(レイジュ)の種?」

「ん? なんだ、既に同じものがあるのか」

「女王が……王に持たせたレイジュが、実をつける。その果実がこの種を持っている」

「へぇ、それは知らなんだ。じゃあなんだ、既に世界中に拡散しているのか?」

「国外にはまだ。国内でも高級品だから」

 

 へぇ、なんて言いながら種を見る女王。元から私達の事に何て興味が無いのだ。国の事だってこれっぽちも知らないのだろう。

 

「それだけ?」

「ああ、それだけだ。国外に出してくれりゃいい。戦争に行く兵士に食わせておく、とかでもいいぞ」

「この国に戦争なんてないけど」

「へぇ、平和な国なんだな」

 

 これじゃ、王も浮かばれない。あれだけ女王のために、女王のためにって言ってあくせく働いていたのに。女王は欠片も興味が無い、なんて。

 

「じゃあ出て行って欲しい。見ての通り、私は今お風呂。読書もしてる」

「ああ、邪魔したな。また用が出来たら来るよ、ファムタ」

「もう来ないで欲しい一生来ないで欲しい」

 

 溶けるように女王が消える。

 ……転移阻害の術を誰かに倣う事に決めた。国中に敷くべきだ。

 

 ……この種、売ったら凄いお金になるな。

 

 

 

 

 森の人(?)口は昔に比べてかなり減った――ということは、全くない。構成比はがっつり変わっているだろうが、今も尚森の中は至る所に魔物娘がいる。

 俺が作り出し続けてるからな。

 

 ゼロから有を、無から有を作り出す実験は、未だ難航している。動植物や虫を魔物娘にする事はもう片手間に出来るくらいの習熟を経たけど、無機物から魔物娘に、となると難しいオブ難しい。スライム娘とかゴーレム娘とか作りたいんだけど全然命宿ってくれねえんだこれが。

 あ、いや、あくまで魔物娘の創造は俺のノーリスクハイリターンが目的であって、決して、決して! 魔物娘そのものが好きだから作ってるってわけじゃないからな! いや好きだけど、別に作り出して鑑賞したい、とかは思ってない。本当だ。

 

 ゴーレム娘とスライム娘は、増やすのが簡単そうだから、という理由で今熱心に研究をしている。生み出す手段さえ見つかれば、適当な山の中に一匹ぶち込んでおけばわんさか増えそうだし、適当な水源の中に一匹垂らしておけばものっそい増えそうだし。

 あと人間の魔物娘化もやってみたい。手元にいないし、研究に必要なのは一人や二人じゃないから面倒が勝ってやってないんだけど、いつかやってみたい。

 

 

 さて、ディスプのおかげで魂の規模は、その蓄積値は、そいつの経験値によって左右される、という事が分かったわけだが。

 じゃあ今度は"どういう経験値が一番効率が良いのか"ってところが知りたくなるよな。

 ディスプの場合、森に来たあとはなんやかんやして国を拓いた、という経験で、通常の魔物娘の100倍近い規模を持っていた。じゃあ国をひっくり返した、とか、国を乗っ取った、壊した、とかならどれだけ入るんだろう。ファムタの言っていた事が正しいなら、あの国はまだ一度も戦争を経験していない。

 

 悲しみ、あるいは怒り、憎しみ。それらを経験した経験値は、魂の蓄積値は、いったいどうなるんだろう。

 あるいは喜びや快楽の方が質として勝るのか。

 

 いやはや、飽きないな。趣味として素晴らしい題材だ、魂というヤツは。

 実益もあって面白い。俺にデメリットが無くてサボっても問題が無い。

 

「素晴らしい」

 

 種の行く末で何か面白そうなことがあったら、終わり様にだけ行ってみよう。研究の発見があるやもしれんし、観察の発見があるやもしれん。常日頃いるのはノーサンキューだ。面倒くさい。

 

 俺の道行に幸あれ。そして頑張れファムタ。お前にかかっているぞ!

 

 

 

 

 古来より黎き森は魔物の棲み処として知られていた。元来大陸には動植物と人間くらいしかいなかったから、魔物というのは当時の人間にとってさぞ異形に映ったことだろう。

 魔物。魔物種。

 その全てが女性である事と、平均して長い寿命を持つ事。強大な術を使用する事や、身体能力も高い事。そして、ほとんどの場合において人類種と敵対する事。

 魔王国以外の国で魔物種について学ぶのであれば、これらが"もっとも大事なこと"として覚え込まされる。教え込まれる。

 

 "とある国のとある一族"以外の魔物はまだ基本的にヒトとして認められておらず、動物や虫を見るが如く図鑑などまでが流通している始末。魔物種と出会ったことの無い者はそれを下卑た心で見る事もあるが、一度でも敵対した者ならそっと諭してくれるだろう。「やめとけ」と。

 

 ただ、いつの時代も考える事は一緒というべきか。

 

 既に大陸全土において、ほとんどが貧民層の括りではあるが、亜人種というものが蔓延っていた。

 魔物種の血と、人間の血。"とある国のとある一族"もまたこれに該当するのだが、つまり混血の、魔物でも人間でもない亜人種が、各国の貧困層に一定率は存在するのだ。

 そのほとんどが、過去に討伐された魔物の特徴と合致している、と言えば……まぁ、皆まで言う事はないだろう。

 

 亜人種は人間から迫害を受けている。誰が生んだとも知れぬ彼らは、少なくとも人間種には無い特徴――角や翼――を持った、一目でわかる異形であるから。異形が隣人である事を受け入れられる人間と言うのは、少ないものだ。人間とは群れの生き物であり、安全と排斥は表裏の関係にあるがために。

 悲しいかな、魔物側は魔物側で、こちらは完全な実力主義。人間の血が混じってしまっている亜人種では純粋な魔物種には到底及ばず、亜人の最後の希望と周辺諸国から呼ばれている魔王国であっても、被支配層としての生活を享受せざるを得ないのである。

 

 ただ、希望は確かにあった。

 

 現国王とその姉妹。

 国王は人間で、姉妹は亜人であるのだ。

 姉妹は黎き森出身の魔物と国王の子であるという。その待遇、そして力は、他の亜人とは一線を画すもの。境遇は変わらないはずなのに、差がある。ではその差はなんだ。

 そう考えた時に、思い当たるものなど一つしかなかった。

 

 王家の血、である。

 

 魔王国を建立した前国王。そして魔物種に並び立つかという腕を持つ現国王。彼らの血が、余程特別なものであるのだ、という噂が広まるのに、そう時間は要さなかった。前国王亡きあと、ひと月足らずで魔王国のほぼすべての亜人女性達が、現国王に娶ってもらう事を考え出したくらいには。

 現在の自分たちの境遇をどうにかする、してもらう、という発想に至らないのは、あるいは"王に逆らってはならない"という本能の刺激だったやもしれない。根底の最奥、魂に刻まれた囁き。

 

 その血欲せども剣は向けず。

 

 それこそがこの、愛憎塗れた"魔王の嫁探し事件"の真相――あるいは、原因である。

 

 

 

 

 さて、黎き森から外へ出てきた魔物種はざっと数百人が存在し、その全てが魔王国にいるわけではないものの、半数くらいがこの国で自由を謳歌している。魔物種は亜人種と違って余裕があるのは、この国でなくとも自然界で生きていけるためだろうか。本当にどうしようもなくなれば森へ帰るという手段もあった。また外に出られるかわからないから、それを取る者は極僅かであろうが。

 彼女らは別に、豪勢な居を構えているだとか、国に優遇されているとか、そういうことはない。むしろ他から見れば質素ななんでもない住宅街で、隣人と井戸端会議をしている、といった、その辺の平和な国の人間たちと変わらぬ生活をしている。

 

 彼女ら一人一人が周辺諸国の軍隊を一人で相手取れる強大存在である、ということは、既にあんまり認識されなくなっていて、むしろ"マイペースな優しいお姉さん達"といった安全よりの評価を受けている現状だ。

 

 ファムタもまた、その一人だった。

 魔物種からは未だ微かな畏敬と同情みたいな目線を貰う事も多いが、亜人種からは平均して優しいお姉さん扱いである。ファムタ自身に争いを起こす気が無い事と、絶対に森に帰る事だけは嫌だ、という思いが今の彼女を形作っているのだが、そんなことはおくびにも出さない。

 ただ亜人種や魔王国で生まれた魔物種の幼子が「森って所に行ってみたいなぁ」と言った時だけ、表情を消して「やめておいた方がいい」と言うくらいである。

 

 そんなファムタの耳に、最近変な噂が届くようになった。

 

 ──魔王様が嫁探しを始めた。

 ──魔王様との間に生まれた子は、とても強い子になる。

 ──魔王様は亜人種を好んでいる。

 

 全て亜人種が話していた事で、ただ秘密の共有、といった感じで教えられたそれに、ファムタは久方ぶりの頭痛を覚えた。

 

 前国王と現国王。彼らは王家の血でもなんでもない、ただの人間だ。前国王が国王足り得たのは、女王が与えた諸々のせい。現国王が魔物種に並びえるのは、赤子の時分に毒抜きと共に与えられた滋養強壮の(身体能力爆増)研究植物のせい。魔物種の自分たちが怪我をしたときなどに使うポーションの原料を、赤子の時分の七日間、口にしているのだ。本来は体が弾けてなくなってしまうその規模も、女王の加護のせいで耐えられる。

 つまり現国王が強いのは現国王限定のことであって、その子供には多分、特に何も受け継がれないだろう、という事実。多分ファムタ以外、黎き森の魔物種であれば全員気付いているその事実を、しかしまるで「夢のある話」みたいに話してくる亜人種に告げるのは迷われた。

 

 わざわざ夢を壊す事と、生まれた子が育ち切ってから夢破れる事。

 どちらがいいか。

 

 ファムタは後者の方が良いと、そう判断した。

 

「この話を聞きつけて、大陸全土から選りすぐりの娘達が魔王様へ嫁ぎにくるみたいなの。魔王国は貴族制度のない国だから、外国の誰とも知れぬ女でも可能性はある、って大盛り上がりよ。勿論、私達もね!」

 

 数年前からファムタに懐いた亜人種の少女が、元気いっぱいに話してくるその姿に、ファムタはなんだかいたたまれなくなって、話を逸らすことにした。

 

「そういえば、国王がデミャン*1好き、というのはどこから?」

「だって、魔王様は王家のお姉さま方にデレデレじゃない。ほら、この間人間のキシが来た事があったでしょ? その時の一番前にいた人が、悔しいけど凄く綺麗なヒトだったわ。けれど、魔王様は欠片も興味を示さなかった。きっと魔王様は、人間には興味が無いのだわ!」

 

 なんとも夢見がちな憶測に、しかしそれはあるかもしれないな、と考え直す。

 あの親子は人間の国に身を追われ、その命を落としかけていた。前国王が人間に対しての嫌悪を吹き込んでいてもおかしくはないし、実際、この国に来た他国の騎士大隊に対しても、冷たい態度を取っていたのは事実だ。まぁあれはほとんど攻め込んできたようなものだから、受け入れる態度なんて取るはずがないのだけど。

 

「ファムタさんも、どう?」

「どう、って?」

「勿論! 一緒にアタックするのよ、魔王様に!」

 

 ファムタは額に蔓の手を押しあてた。確かに自分は前国王と子を成さなかった魔物種であるから血のしがらみは無いが、まさかそんなことを勧められるとは。思いもしなかった。本当に。

 ただこの純粋な目を……どうしたものか。

 

「遠慮しておく。私は魔物種だから、一人で増えられるの。学校で習うでしょ?」

「う……なんか……習ったような、気がする……! あんまり覚えていないのだけど!」

 

 結果、ファムタはきっぱり断る事にした。

 仮に自分と現国王が交わってしまった場合、本当に強い子が生まれる可能性がある。曲がりなりにもファムタは最古の魔物種で、女王の加護と女王の研究成果によって最大限の強化が為された、他の魔物種に比べても尚特異な存在である。そんなのは自分一人で良いと、果実を作る気もない。

 

「一応、応援してる。頑張って」

「ええ! 必ず魔王様のハートを射抜いて見せるから!」

 

 じゃ! と元気よく去っていく少女の後ろ姿に、一つ溜息を吐いた。

 

「周辺諸国から旅人が来る、というのは、朗報」

 

 カバンに入れた麻袋。

 いい感じに、誰かに押し付けようと画策するファムタだった。

 

 

*1
亜人種の別名。亜人種は基本的に蔑称であるため




レベル高いヤツの魂程寿命が沢山延びるってこと。

ウィナン・ディスプは国を拓いた程度で魂の規模がここまで大きくなったんだな!

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