死に目に魂貰いに来るタイプのロリババア   作:Pool Suibom / 至高存在

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破滅の名前

「女王! おい、女王よ!」

「うるっさいな! 聞こえてるから叫ぶな!」

 

 そんなやり取りがあった。

 地下へ伸びる黎樹の枝から、もうめっちゃ叫ぶ声が聞こえて仕方なしにそこへ向かえば、ディスプの息子がなんか叫んでるようで、とりあえず話を聞くことにした。

 ところどころ声が小さくて聞きづらかったんだが、何度も聞きなおして聞きなおして聞きなおしまくった。呼びかける時はあんなにうるさかったのに対面すると声が細くなるとかコミュニケーション能力不足が過ぎるだろ。

 

 で、ディスプの息子はあの場所に新しい魔王国を拓きたい、んだそうだ。

 いや勝手にしろよ、とか思うのは俺だけだろうか。

 それで、黎樹の枝が国を侵食するのを止めて欲しい、と言い出した。ああ、そういうことね、と俺も納得。じゃあ国に普通に植えてくれれば黎樹の枝はひっこめるよ、という取引を交わした。あの時はちっさすぎて気付かなかったけど、あそこ地縛霊以外にも普通に生き物いたんだな。"魂の摂取"が出来る分にはこっちも何も言う事ない、どうせ魔物娘じゃないし。って事で、地下には手出し無用という事になった。

 

 じゃあ森の栄養源をどうするか、っていう根本の部分に話は戻る。

 黒水のせいで大陸がなくなって、森が欲している栄養源が無くなったのがそもそもの問題。俺の血液を存分に吸ったから、黎樹以外の植物もめちゃくちゃ生き生きとしてるんだけど、それがいつまでも続くかっていったらンな事は無くて。

 上の、悪魔たちがいた世界に伸びたままの黎樹からは、どーにも何にも奪い取れない。あそこには栄養らしい栄養がないっぽいのだ。使えねえ。

 

 それじゃあとうとう八方塞がりだ。

 

 こうして行き詰まってしまったら、どうすればいいか。

 そう、フラグを建てまくるのである。至高存在さんは俺を導いてくれるからな!

 

「いやぁ、盗まれた魔物娘も回収できたし、マルダハとティータの"魂のなる木"の実り具合も順調。ディアスポラがいきなり俺の身体を舐め始めるのだけはちょっとうーん、なんだが、まぁ順調。あ、そういえば」

 

 思い出した。

 その時、俺の前に降り立つ影があった。

 

「お! 噂をすれば!」

 

 ファムタだ。

 

 

 

 

 久しぶりに対面して──ファムタは、女王がどういう存在なのかを肌に感じていた。

 恐ろしい程に大きな"魂"。小さな少女のその体に、この森全体よりも遥かに巨大な"魂"が宿っている。以前はそんな事、感じ取れもしなかった。今は何故か、わかる。

 

「──食ったか」

「!」

 

 少女が零した言葉は、ファムタの虚を突いた。

 ファールがいない、という事は誰が見てもわかるだろうけど、そこまで。

 

「そっか。友達を食べたか、お前。……俺、仲良くしろよって言ったよな」

 

 冷たい声だ。

 冷たい。背筋の凍るような声だ。

 

「……食べてと、言われた」

「そうか」

「うん」

 

 沈黙。

 静寂。

 

「名前を教えて欲しい」

「ん? ……最近よく聞かれるな……」

「貴女の好きなものを教えて欲しい」

 

 聞く。

 知らないと、嫌えない。

 愛情が無いと、嫌えない。

 

 あの悪魔の言葉は……ファムタの心に、何かを生んだ。

 

「ディムだよ。ファムタ。で、好きなもの? んー、ぐーたらして、ごろごろして、気になったことを調べる、くらいか?」

「ディム」

 

 初めて知った。

 ここで初めて、名前を知った。

 

「ああ、ディムだ」

「ディム。嫌いなものは何?」

「労働。必要。仕事。仕方ない。暇じゃない。……そういうの、全部」

「ディム。好きな食べ物は何?」

「んー、これといって、っていうのは無いんだが……まぁ普通に甘いモンは好きだよ。森にもほら、生ってるだろ。紫と緑の縞模様の果実」

「……あれは、毒があるけど」

「そうなのか? 知らなかったな。ま、効かなけりゃ全部美味いよ」

 

 からからと笑う。女王は、ディムは、笑う。

 ファムタの言葉を受けて楽しそうに。

 

「ディム、好きな色はある?」

「好きな色……? ……緑、とかかな? 一応、一番使う色は緑だし……あ、白も好きだな。ほら、これ。シンプルだけど、良いだろ?」

「ん。ディム、好きな人はいる?」

「好きな人ぉ? ……いー、ないな? うん。いない。いたことも……まぁ、あるっちゃあるけど、今はいないよ。別に寂しくも無いしな」

「嫌いな人は?」

「それはいないよ。嫌うほど、周囲に愛情が無い」

 

 嫌えない。

 愛情がないと、相手を知らないと、嫌えない。

 どこがだろうか。何がだろうか。

 ああ、やはり悪魔は嘘つきだ。

 

「ディム。私の事、どう思ってる?」

「えぇ……思春期か? んー、どう思ってるか、か。んー。んっんー。んー」

 

 少女は顎に手を当てて、その手の肘にもう片方の手を当てて、口を山なりにして悩む。

 

 そして。

 

「んー? ──まぁ、丹精込めて育てた、一番美味しそうな果実、かな?」

 

 ──あぁ、悪魔とは、どこまでも心に入ってくる。

 

 中途半端に知っていたら、多分、ファムタは女王に絆されていたかもしれない。

 けれど、そこまで言ってくれるなら。

 

 十分だ。

 

「ディム。少しの間、目を瞑っていて欲しい」

「ん。いいぞ」

 

 何の疑念も無く、何の抵抗も無く。

 女王はその目を閉じた。

 ファムタはゆっくりと少女の元へと歩み寄る。

 

 もう一度、思い返す。

 今さっきまで話していた少女を。どこにでもいる、なんでもない少女。けれど、やはりどこか、自分たちとは違う少女。

 

 ディム。

 ねぇ、私の名前。知ってる?

 

 その意味を。

 

「ん──」

 

 その唇に──口づけを、落とした。

 

 

 

 

「──ねぇ、ホマリア。これで満足?」

「……」

「貴女を放逐した黎き森の女王。貴女を愛さなかった、貴女に目を向けなかったあの女王。そして──貴女に向けなかった愛を、何も知らずに貰った妹ちゃん」

「……別に、妹じゃないし」

「ふふふっ、そうね、血のつながりは無いものね。ねぇ、ホマリア。これで契約は、完了?」

「……女王は、死んだ?」

「まさか。あれが死ぬわけがないでしょう? 至高存在によって送り出された異界の"魂"。法則の独占と新規作成を担う端末。あくまで至高存在は舞台装置だけど、だからこそ、その意思を遂げる者が存在する」

「……女王が死んでないなら、まだ、契約続行」

「あら? でも、貴女の願いは"黎き森の破壊"だったじゃない」

「……じゃあ、私の身体、使っていい。けど、私も一緒にいる」

「へぇ、悪魔を身に宿すと言うの? ふふっ……愛って、怖いわね? 初めから与えられないそれを貰えなかったからって──悪魔に魂を売ってまで、復讐を遂げようとするのだもの」

「……リリス」

「ええ、分かったわ。付き合ってあげる。ふふっ、めくるめく復讐の世界で、たおやかなダンスを踊りましょう」

 

「女王が死ぬまで──永遠に」

 

 

 

 

「……!」

 

 ファムタにキスされた、ってのはまぁ置いておこう。そんなに重要じゃない。

 その瞬間に起きた事の方がヤバイ。この、この地響きは。

 

「──クソ、前兆無しとか──薄々そうじゃないかとは思ってたけどさ!!」

 

 轟音が鳴る。轟音が、上がってくる。

 地鳴り、地響き。揺れている。地面が揺れている。

 

「ファムタ、逃げろ! オーゼル、アルディーカ! どこだ!」

 

 黎き森の端にある、可燃性ガスが噴き出る毒の水溜まり。

 そこから、気泡が……飛沫が噴出した。しかしそれは、始まりに過ぎない。

 

 それを驚いた目で見るアルディーカと、アルディーカの複製体と、オーゼルの複製体を捉える。無機物魔物娘はまだ改良の余地があるはずだ、死なれちゃ困る!

 黎樹の種による模倣転移術を発動。家の中に無理矢理ぶち込んで、黎樹で全体を固める。伸ばして伸ばして伸ばして伸ばす。固めて、覆って、形なんか適当で良い、出来るだけ隙間を失くして球体を造れ!

 

 あぁ、クソ、ファムタには──黎樹の種を埋め込んでない。

 

 なんでコイツ、俺から離れたんだ。キスしたまま、近くにいろよ! そうすれば飛ばせたのに──もう届かない! クソ、なんで──そっちへ行く! そっちは、一番危ないのに──。

 

「……さようなら、ディム。私達の──お母さん」

 

 直後。

 

 直後だ。凄まじい爆音と共に、()()()()()()()

 

 薄々、気付いていた。この森の形や地質を調べていたから気付いていた。

 ここは、火口だ。けれど地熱の一切が感じられない程にまで死んだ火山。だったはずなのに。クソ、キスされた瞬間に噴火とか、三流作家が過ぎる。

 確かにあの湖が、その体積を減らしていた。だから、地下の方で何かしらの動きがあったんだろうことはーー水が抜け落ちるような変動があったのだろうことは考えちゃいたさ!

 けど、普通なんかもっとハッキリとした異常あるだろ!

 

 ああ、オレンジ色が立ち昇る。それは当然の如く、森の木々を燃やし、焦がし、倒して進んでいく。

 黒煙が広がり、大地が割れる。これは、まだ来るな。まだ、まだ大きいのが来る。

 

「……まだ、行けるだろ」

 

 そうだ、まだ諦めるな。

 黎樹は燃えない。黒水が大陸を飲み込んだ時、俺は一度絶望した。育てた魔物娘が全て死んでしまったと、俺の知らぬ所で、"魂の摂取"の出来ない所で、バックアップも取っていない魔物娘が半数近く失われたと絶望した。

 そして何よりもファムタとファール、キマイラ娘ズ、ティータといったより"魂の規模"の大きいものを失ったことを後悔した。

 

 キマイラ娘ズは、もう無理だった。地下にコピーがいたけど、ダメだった。

 ティータは戻ってきてくれた。自分から。

 ファムタとファールは、助け出すことが出来た。ファールはいなくなったが──。

 

「生きてる。まだ助けられる!」

 

 煌々と光る紅炎に突っ込む。

 この身は、この体は──【不老不死】だ!

 

 事実、熱くも痛くも無い体は溶岩の中を駆け抜け、掻き分けられる。ただ、どれほど黎樹を用いても、視界が全てオレンジでは探しようもない。

 

「ファムタ! どこだ! 返事をしろ!」

 

 先ほどファムタが歩いていった方向。どこだ。どこだ。

 家の方は問題ない。黎樹が完全に溶岩を防いでいるのを確認している。今はファムタの捜索にだけ気を裂け。

 ファムタは植物の魔物娘だけど、"魂の規模"は十分にある。燃焼が起こるまでに多少の猶予はあるはず。だから、探す。探して保護して、マグマから隔離すればまだ希望はある。

 

 掻き分けて、掻き分けて。

 あぁ、視界が悪い!

 

「ファム──」

 

 いた。

 いた、けど。

 

「……ディアスポラ?」

「あ」

 

 降りしきる炎の中──ディアスポラが、ファムタの腹を……貫いていた。その小さな腕で。

 

 "魂の摂取"が、死に行く森の木々や動植物、虫達の"魂"を回収し──その中に、一際大きく、強いものがあったのを感じた。

 

 死んだ、か。

 まぁ、マグマで死ぬのも、何に殺されて死ぬのも同じだけど。"魂の摂取"は特に問題なく発動してるみたいだし。

 

 はぁ、勿体ない。柄にもなく焦って、まぁ。

 せめてバックアップ取っておきたかったなぁ。勿体ねえ……。

 

「な、何も言わないのですか?」

「ん?」

 

 噴火は続いている。

 俺は【不老不死】だからいいとして、こいつはどういう原理で燃えないんだ? やっぱり悪魔か。

 

「これ、お前の仕業だったりする?」

「いいえ。……リリスの仕業かと」

「リリス……あぁ、そう。いつ止まるとか、わかるか?」

「さぁ……?」

 

 ディアスポラは、俺の前に傅く。察して足を引く。

 

「何故避けるのですか!」

「舐められたくないから」

「えぇ!? あ、いや……ところで、主よ。こんなものを()()()のですが」

 

 この悪魔、どうやったらディアスポラから退去するんだろうな。あとでもっといろいろ試す必要がありそうだが。

 そんなことをつらつら考えていると、ディアスポラはその手……ファムタを貫いていた方の腕を差し出す。その拳は、握りしめられている。

 

 この流れるマグマの奔流の中、まさかそのまま拾ったものを見せてくるわけじゃねえだろうなと思っていたら、本当に手を開き始めたのでディアスポラを転移。悪魔のいた世界へ伸びるところ、つまり溶岩の届かぬところまで持ってきて、分身体を出した。

 

「で、なんだ」

「ええ、それが……これです」

 

 その手の中。

 そこには、種が二つ。黎樹の種、じゃないな。これは……。

 

「ファムタの、種か?」

「ええ、そうです。魔物種は自己増殖をするもの。そのために作り出した種子でしょう」

「……それが、アイツの腹にあったって?」

「はい。自分で作り出した種子を、我が子のようなこれを、自分で食べていたみたいですね」

 

 ディアスポラから、それを受け取る。

 ファムタの種子か。そういえばあいつ、自己増殖してないんだよな。一回も。

 

 ……新しく作るかぁ。どうせそのつもりではあったけど、森が()()だもんなぁ。

 

「ディアスポラになんかメリットでもあったのか、これ」

「ディム様の命令なく、忠実な働きをするのが下僕の務め」

「……それじゃ、前のディアスポラに戻ってくれ。なんかもう、面倒」

「ん」

 

 俺の意思に忠実ならこんな種じゃなくてファムタを確保しておいてほしかった。

 まぁ、いいや。もう仕方ない。流石にこれを前にウダウダ言うほど、現実が見えないわけじゃない。

 

 未だに、火山は噴火を続けている。幸いにというべきか、黒水は溶岩を削れないらしい。むしろ押されて、あー、溶けてる? 元々液体の癖に。いや、水銀も熱せば赤熱して溶けるか。いやあれは酸化して戻ってを繰り返すんだっけ? まぁなんらかの金属なんだろうけど、よくわからんな。

 そうして……新たな陸地が出来上がっていく。ああけど、無機質の火山灰って全然栄養無いんだよな。大丈夫か? こう……なんも育たない荒野になられても困るんだが。んー。

 けど、そうか。ティータとマルダハの"魂のなる木"って、複製素材が木筒でいいから、しかもあれほとんど劣化しないから、追加の素材は特にいらないんだよな。しいて言えば"魂のなる木"に与える生命維持用の栄養がアレだけど、黎樹に溜め込んだ分身体から持ってくればいいか。

 最悪の場合は、ディスプの息子との取引でどうにかしよう。ティータとマルダハの栄養程度なら分けてくれるだろ。

 あ、そういえば地下への黎樹トンネル。……今閉じておこう。だいぶ遅いだろうけど。

 

 はぁ。

 なーんか。最近、色々失ったなー。まぁ自分で収穫したのはいいにしても。

 ……やる気、大分失った感ある。"魂のなる木"の様子はちゃんと見つつ、向こう数百年はゆったりするかぁ。

 

 ふぅ。

 

 

 

 

「それで、何の法則を解放したのかしら?」

「んーとねー、まず、魔物種の創造ね。あれを女王の独占から解放して、世界由来にした。女王も作れるけど、勝手に、適当なところから生まれるのよ」

「……それは、我らに何のメリットが?」

「魔物種と契約が出来る。女王を気にせずにね!」

「……ふむ、考え様か」

 

 どこか。

 テーブルを囲んで、ソファに座った三人が話している。

 二人は悪魔の身体を。

 もう一人は……スライムだ。

 

「あと、"善悪"の解放」

「なぁに、それ」

「んー。過去の地獄は、"魂"から"記憶"を分けて並ばせて、それが善なら7日後にすぐ送り出すし、それが悪ならものすごーく長い年月を経てから流転に回されるんだけど、あの女王が出てきてから、肉体の死した"魂"ならなんであれすごーく長い年月を経てから流転に回される仕組みになっちゃってたんだよね。それはまぁ、人類が自ら肉体を捨てるとかいう自殺を図るから、悪人の量が増え過ぎたってのもあるんだろうけど……それが死んでも尚、仕組みが戻らないみたいだから、解放をしたの。善なる"魂"は蓄えられたとしても7日間だけ、それが終われば流転に入る。悪なる"魂"はものすごーく長い時間を地獄で過ごして、その後に流転に入る。元通りにねー」

「それは、悪魔にメリットがあるのか?」

「こっちはあんまり無いかな。ただこれをやらないと、新しい命が生まれないから。新しい命が生まれないと、私達の遊び道具も無くなっちゃうじゃない?」

 

 スライム……リリスは、うにょーんと体を伸ばしたり、前に座るゼヌニムとラヘルの体型を真似たり、あられもない格好にしたりしている。

 ゼヌニムはゼヌニムでそれをつついたり、抓んでみたり、手を入れてみたりと落ち着きがない。

 

「私達が契約した人類は死んだか」

「それは貴女達の責任でしょ? 整理整頓をしなさいっていつも言ってるのに、契約者の脳がどれかわからなくて置いてくるとか……はぁ」

「ごめんねぇ。だって、あの樹や白いコに飲まれたら、死んじゃいそうだったから」

「……すまぬ」

 

 リリスがうにょんうにょんと伸びて二人を叱る。力関係は、リリスの方が上にあるようだった。

 そう、もう悪魔と人間の契約は切れている。悪魔を召喚した研究者の集団。彼らもまた人格をチップに転写し、脳を捨て、その脳を遊ばれていた。"一部の居住スペースを貰う"、"もし死を迎えた場合にその魂を貰う"という契約はその脳に宿る魂に紐付けられていたのだが、今回の死に目の妖精(ポンプス・イコ)の増殖及び黎樹の侵食、黎き森の女王(ドーレスト・ホルン)の襲撃事件によってそれらを紛失。

 先ほど、契約者全員の死亡が確認された。脳だけとなったそれを、黎樹の枝が圧し潰したのだろう。

 

 悪魔側は黒キ海を引かせなければいけない。だって、今いる人類や魔物種、そして黎き森の女王(ドーレスト・ホルン)は契約に一切関係がないのだから。そういう所を守るのが悪魔だ。契約に関係のない者には、あんまり、迷惑を掛けない。

 

「あぁ、それと被創造物の長寿化。アレは解放じゃなくて封印になったわ。ま、私としても異論は無かったし」

「魔物種も魔物も、か?」

「ええ、そうよ。魔物はまぁ寿命なんてないようなものだけど、黒キ海の上であっても無制限に生きていられる、って風には出来なくなっちゃった。代わりに魔物種も、何百年も生きる、なんて風にはならないわ。まぁあの女王が生かし続ける、というのなら話は別なんだけど。延命治療までは封印出来ないし」

「死者の蘇生は?」

「元から蘇生はしてない、って。女王がやってるのは転生。生まれ変わりだから、蘇生じゃないの一点張り」

「ふむ。となると、あの女王はいずれ、悪魔の魔物種、などというものも作り出すやもしれんな」

 

 一瞬。沈黙が流れる。

 

「……そういえばマハラス、帰ってきてないのよね」

「……」

「ちょっと見てみたさはあるかも」

 

 水の魔物種の身体を手に入れたリリスが言う。適合者のそれではなく、契約による乗っ取り。

 それは、けれど魔物種化とは経路の違うものだ。

 

「じゃ、女王から善なる"魂"が出て行って、私達も黒キ海を引き戻して……また新しい世界が芽生えたら、新しい遊びを始めましょう」

「だな。クナンも食われたようだし」

「クナンは……悪しき魂でしょうねぇ。ふふふ、地獄ってどんなところなのかしら」

 

 立ち上がる。ゼヌニムとラヘルは立ち上がって。

 

「それじゃあまた会いましょう。元気でね」

「面白い数百年だった。これから退屈な日も続こうが、また出会える日まで消えていない事を祈ろう」

「ウィナンは多分善なる魂だから、7日後に探しに行くことにするわ!」

「……色ボケめ」

 

 去っていく。

 どこかへ、どこかからどこかへ。

 

 少なくともこの場からはいなくなった。残ったのは、リリスだけ。

 

「……」

 

 リリスはうにょうにょと形を変え、ある人物の姿を取る。

 それは黎き森の女王(ドーレスト・ホルン)。白いワンピースのあの少女の姿を取って。

 

 パチン! と弾けた。

 

「いつまで、保つかしら?」

 

 楽しそうに笑って。

 彼女もどこかに消えていった。

 残されたテーブルもソファも、まるで元から存在しなかったかのように、消える。

 

 消えた。

 

 




リリスは可愛い女の子が好きだ。昔は小さな体であんなことやこんなことをしていたようだが、今はスライムの身体を手に入れてしまったな。まぁ、野暮なことは言うな、という事だ。

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