死に目に魂貰いに来るタイプのロリババア   作:Pool Suibom / 至高存在

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話数表示がないのは、まだ1話だから。


魂を売られて喧嘩も売られる

 植物というのは成長のために欲しいものの方向に伸びていくもので、基本的には日光が欲しいから背を高くするし、水や栄養が欲しいから広く根を張る。劣悪な環境であれば、稀に移動手段を得るヤツやら虫を食う奴やらが現れるけど、基本的には高く広くが植物というものだ。

 ではこの森はどうだろう。

 木々の背は高く、草花も鬱蒼と茂っている。しかし俺の小屋の周辺には全く枝葉を伸ばして来ない。別に剪定しているとか、除草剤を巻いてるとかそういうことはないのに、だ。枝葉も根も、俺の小屋周辺には存在しない。魔物娘達が何かやってるのかとも思ったけど、今の所小屋周辺にそういった力の動きは見受けられないから、森自身が避けている、としか思えない。

 

 果たしてそれは個であるのだろうか。

 木々の一本一本が、草花のひとつひとつが、本能的にそうしているのか――あるいは、森という群が、本能的にそうしているのか。

 

 ちょっと気になった。

 気になってしまって、魔物娘化をすることにした。

 

 結果から言えば、森は森として──つまり群として存在していた。森全体に対して魔物娘化の手順を取ったにも拘らず、一体の魔物娘しか生まれなかったのだ。

 その魔物娘は明らかに他の魔物娘たちとは一線を画す魂の規模を有していて、しかし欠点があった。

 森がその魔物娘を守りたがるのだ。植物に母性なんぞというものがあるのかは知らないが、事実としてその魔物娘は森に守られていた。こちらからその魔物娘にアクションを起こそうものなら、たちまち森が魔物娘を隠してしまう。捕捉こそ簡単だが、わざわざ自分の住みやすい空間を壊してまで捕まえたいかと問われると悩み所。

 群体であれば魂の規模が大きくなる、という例をサンプルとして取っておきたかった感は否めないが、面倒くささとデメリットの方が目立ったために断念。

 

 結構昔の話だ。いつの間にかその魔物娘は森の外へ出てしまっていて、恐らく森自身が彼女を逃がしたのだろうことが伺えた。

 勿体ない事をしたなぁ、とその時は思ったものだ。

 

「それがまさか、お貴族様をやっていたとはなぁ」

「ひっ……」

 

 ファムタ曰く黎樹と名付けられた俺の中継器は、魔王国の全土に街路樹、あるいは観葉植物として植わっている。成長の遅い木で、30年経ってようやく実をつけるものがいくつかあるかないか、という程度のそれは、果実が大変美味なのだとか。まぁほとんどが俺に入ってくるとはいえ、魂を蓄えた果実であるのに間違いはないからなぁ。それを美味と取るかというと疑問が残るが、体に良い事は間違いない。

 

 黎樹が俺の中継器足り得る原理として、あれは俺の魂の何百万分の一を溶け込ませてある事に由来する。種の時点でその規模の俺の魂が分身として宿っているから、"魂の摂取"の条件である"周囲の魂を掠取する"に該当するのだ。無論分身は不老不死でもないし、衣食住からの解放もされていないから、例えば黎樹が切り倒されたら分身も死ぬだろう。

 ただ死んだ所で分身は俺に戻ってくるだけだし、溜め込んでいた魂の蓄積値が欠けることも無い。デメリットのあるものなんか作らんからな。最大限おれがサボれる仕組みにしている。

 

 基本的に分身は意識を持たない。眠っているといえばいいか、必要なのは"俺である"という事実だけ故に自我を持たせていないのだ。だからディスプの時やファムタの時のように分身を伝って俺の意識を浮かび上がらせる事をしたとしても、肉体の再現はほとんどできない。俺の肉体は至高存在製の特別なものなのだ。むしろ分身を使って中空から生きた人間を生み出せるのなら、俺は既に無から有を作り出す実験に成功していると言えてしまうだろう。

 

 そういうワケで、黎樹あるところであれば俺はスッカスカの体と言えど、実体化できる。

 実体があるとどうなるか、というと。

 

「じょ……女王、様、ご機嫌……麗しく……」

 

 平身低頭。猛虎落地勢。

 昔、森から逃げ出した唯一の魔物娘──"森"の魔物娘が、そこにはいた。あの頃から幾分かは成長したか、少女から高校生くらいの姿になっている。後ろには幾人かの少女。皆同じ特徴を備えた……しかし八割を人間としているらしい、亜人種とかいうヤツ。

 

「ティータ」

「は……はい」

「森から出ようとした者の末路を知らんお前じゃあないだろ?」

 

 "森"の魔物娘、ティータはファムタに比べて何代も後の魔物娘だ。既にその頃魔物娘達は「外に出てはならない」ということを知っていたはずで、こいつが知らなかった、という事もない。

 "森"が逃がさなければ、同じ末路を辿っていたはずだ。

 

「ぁ……」

「まぁ、俺も鬼じゃあないんだ。既に生活を手に入れてるヤツに、今更森に戻れ、なんて言わないさ。魔物娘のための国を作ってやるくらいには寛容だ。だから、ティータ」

 

 麻袋を取り出す。

 入っているのは勿論、黎樹の種だ。

 

「お前に償う気持ちがあるなら、これを世界中にばらまいてくれ。何、期限は設けないさ。気ままに、適当に。な?」

「い……命に、代えまして、でも……!」

「それじゃあ、元気でな。ああ、諸々片付いたら、森にも帰ってやれよ? 森が寂しがってるからな」

「……はい」

 

 一度だって目を合わせない魔物娘に、苦笑する。

 実体があると、こうなるのだ。ファムタもティータも──嫌悪感マシマシ。ただし服従。目の前に俺がいる、という恐怖は、とてつもないものらしい。

 

 ふと、心配そうにティータを見つめている亜人種たちに目を向ける。

 

「お、お願いします! あの子達は、どうかあの子達だけは、お見逃しください!」

 

 すると今までびくびく震えていたティータが、突然声を荒げて俺と亜人種の間に入ってきた。あー、なんだったか。愛情、とかいう奴か。……ふむ、目に見えて魂の規模が上がっている。これはどっちだ? 恐怖か愛情か。どっちの経験値がティータの魂を拡張している?

 

「亜人種、と言ったか」

「女王! どうか!」

「どうだ、魔物種になってみる気があるやつはいないか?」

 

 ちょうどいい、とは思っていた。これだけ人数がいるなら、一匹くらい貰ってもいいだろうし。人間種と亜人種、どちらもまだ魔物娘化を試していない。ティータの血を引いているなら、森の薬品とも親和性があるだろうし。ぞ、とした表情になるティータ。爆発的な魂の拡大に、なるほど、と独り言ちる。

 愛情との比較がしたい。するにはどうするべきか。

 

「……いないか。じゃあ、適当に見繕うか」

「──逃げろ、お前たち!」

 

 何かに囲まれる。四角い、薄い膜のようなもの。随分と脆そうなそれは、しかし一瞬でも俺の視界を奪った。複数の足音が遠ざかるのを感じる。膜を触って少し押してみると、ぱらぱらと割れてしまった。目くらましの魔法? かな。そういうの全然わからないんだけど。

 あれだけいた亜人種はその全てがいなくなっていて、あれだけ震えていたティータだけが一人、腰に佩いていた剣を抜いて──その切っ先を、俺に向けていた。

 

 表情は既に恐怖でなく──覚悟を決めたソレ。

 

「二秒も保たないか……! くそ、化け物め!」

「そんなにアレらが愛おしいのか」

「当たり前だ! 我が子を愛さぬ親がどこにいる!」

 

 人間ならまぁわからんでもないんだが、お前魔物娘じゃん。……いや、人間社会に馴染めば全員こうなるのか? でもお前親いないじゃん。とか。思ったりしないでもない。

 まぁ、良いか。サンプルは取れた。

 恐怖と愛情、どちらが勝るのか、というサンプル。確かに。

 

「んー、勿体ないな」

「何?」

「ここでお前を殺すのも良いんだが、お前はまだまだ"魂の拡張"の余地がありそうだし……何より、あの種を広めてもらいたいんだ。あの亜人種たちのことは、潔く諦めるよ」

 

 そういっても、剣を納めないティータ。まぁ、それは別に良い。

 亜人種なんて多分そこら中にいるんだろ? 人間ってそういう生き物だからな。見目麗しい魔物娘にそういう感情を抱くのはまぁ、わからんでもない。だって俺がそうだもん。可愛いよな、魔物娘。

 そんじゃま、帰るとしますか。

 

 あ、いや。

 

「ま、ふと目に着いた奴を拾う事はあるかもしれないが──」

 

 瞬間、俺の胸には剣が刺さっていた。

 素晴らしい。恐怖も凄まじい拡張だったが──こちらの方が、何倍も。

 

「この手応えは……分け身か」

「俺に手を出したのはお前が初めてだ。誇っていいぞ」

 

 ハリボテの身体が溶けていく。良いサンプルだ。

 魔物娘は、悲劇的状況で愛情のために覚悟を決めると、凄まじい拡張を見せる、と。それに、愛情は恐怖を凌駕するのだと。十分な成果だ。今度、似たような状況を作ってサンプル数を重ねよう。

 

「種の拡散を忘れるな。それをしている限りは、見逃してやる」

「……二度と、私達の前に現れないでくれ。私はもう黎き森の魔物ではないんだ」

「それも──お前次第──だ──」

 

 じゃあ、頑張ってくれ。

 

 

 

 

 森から出る、という事がどれほど恐ろしい事なのかは、十分に知っていたはずだった。先達とでも言えばいいか、あの森には自分以外の魔物が数多くいて、それらによれば、森から出ようとした魔物は見るも無残な手法で処刑されるらしい。

 

 私にはいくつかの運の悪い事柄があった。

 ひとつ、その処刑を実際に見た事がなかった、という事。話には聞けども、その頃には外に出ようとする愚か者は一人としておらず、故に恐怖心は薄かった。

 ふたつ、木々の隙間から、馬車を見てしまった事。当時は馬車というものさえ知らなかったから、見たことの無い双頭の生物だと勘違いして、大いに好奇心を刺激された。

 みっつ、森が私に味方をしてくれた事。女王の手から、森は私を守ってくれた。魔物は基本的に親というものが居らず、あるいは自らの種子で増やしたそれを子と呼ぶ者もいるが、やはり亜人種や人間種が持つ親子という概念とは違うものだと私は思っている。ただ、森だけは。私にとって、親とでも呼ぶべき愛情を感じ取ることが出来ていた。

 

 衝動的に、あの馬車を追いかけたいと思った。薄まった恐怖心は一歩を踏み出す事に躊躇を見せず、感知するはずの女王の網に、森が穴をあけてくれた。

 出ることが出来た、と言う感覚はなくて、ただ夢中で追いかけて──気付けば、当時の人間としては珍しい、魔物を相手に物怖じしなかった最初の夫と恋仲に落ちていた。

 

 まさかそれが、大陸のとある国の王子だとは露知らず。

 

 

 

「大丈夫ですか、お婆様……?」

「ああ──問題はない。お前たちも、……無事でよかった」

 

 女王の去った、静寂の満ちた部屋。事の収束を悟ったのか、逃げろと言ったにも関わらず部屋へと戻ってきた我が子達に苦笑しつつ、床に落ちた麻袋を拾い上げる。中を見れば、黒々と光る種子が詰まっていた。

 

「それは……」

「黎樹と呼ばれる木の種だ。一粒で数千万はくだらない……まぁ、劇薬だよ」

「危ないもの、なのですか?」

「少なくともお前たちに食べさせたいとは思わないな」

 

 私は"森"の魔物だから、わかる。この種は純粋な植物ではない。どこか私達魔物種と同じ感覚と女王の気配が混在する、一つの命だ。

 これを世界中に拡散する、というのは……中々に憚られる。少なくとも私の家に置いておきたいものではない。だが。

 

「……?」

「……潰した刃も鉄は鉄、か」

 

 それをしている限りは、見逃してやる。

 言葉が響く。大事な子供たちと、世界。どちらが大切か。

 

 決まっていた。

 

「すまない、ガーディ。私は、お前との子供の方が、国よりも大事なんだ」

 

 謝罪は既に亡き夫へ。この悪魔の種を世界へ届けよう。

 魂を売る、とは。正にこういう事なのだろうな。ああ、反吐が出る。

 

 ああ、どうか女王よ。世界の片隅で、ひっそりと死んでくれ。それが世界を平和にするのだから。

 

 

 

 

 ただ。

 亜人種である娘達にとっては、魔物種になる、という提案は、酷く魅力的に映ったという。

 

 

 

 

 研究は一つの境を越えた。

 などと言えれば良かったのだが、越えかかっている、が正しいだろうか。

 ここ数年、俺が研究に熱を入れていた二つの魔物娘の内の一つ、スライム娘がなんとか形になったのである。

 

 製法としてはまぁ、あんまり進んだとは言えない。媒介にしたのは血。俺の、ではなくその辺の動物の、である。血液の魔物娘、というのがもっとも精確だろうが、基本水をはじめとした水分を周囲に纏う事で見た目が完全にスライム娘だから許してくれ。スライム娘らしく、赤いコアという形で血液結晶が見えてしまっているのもグッド。

 ただ正直、魂の規模は想定の水準には至らない、というのが現実だった。

 ぶっちゃけ、今まで作った魔物娘の中でもかなり弱い部類に入る。いやまぁ陸上であればの話で、水中であれば生物的強さはそこそこくらいにはなるんだが、うーん、という感じ。魂の規模は陸上だろうと水中だろうと変わらないわけで。

 

 んー、これを量産しても、得られる蓄積値は微々たるものだ。まぁ森の中にある毒の泉にでも放り込んでおきますかね。あの泉、何やら地下水に繋がっているようで、ワンチャンそこから拡散できるだろう。適当に頑張ってくれ。

 

 ゴーレム娘がこの結果に終わらない事を祈って、研究を再開するとしますかね。

 

 

 

 

 各地に現れる白いワンピースの妖精、という噂話を聞いた時、ファムタは嫌な顔を隠そうともしなかった。

 亜人の子供がウワサするそれは、祖父母の家に現れただとか、力尽きて倒れる騎士の元に舞い降りるだとか、総じて"人の死に目に現れる存在"として知れ渡っているらしい。

 自身の姿が見られることに頓着するような性格ではないというのはわかりきっているにしても、何故妖精などというファンタジーな存在として知れ渡ってしまっているのか。あの悪辣な性格を知れば、妖精ではなく悪魔やら死神やらだとわかりそうなものなのに。

 

死に目の妖精(ポンプス・イコ)は、死者の魂を狙う悪魔からその魂を守ってくれるのよ! とても可愛らしい容姿をしていて、けれどとても強いの!」

 

 そう楽しそうに話す亜人種の子。逆じゃないのかな、とファムタは思った。

 死者の魂を狙う悪魔が、ソイツだよ。確実に。

 

「ファムタさん、こういう御伽噺はお嫌い?」

「嫌いではない。ただ、白いワンピースというと嫌いな知り合いを思い出す、というだけ」

「ファムタさんに嫌われるなんて、とっても酷い人なのね」

 

 うん。そいつがソレ。

 

「国王のお嫁さんにはなれそう?」

「それが……最近国に来たデミャンの女の子が、とっても可愛らしい子で、魔王様が熱心に口説いている、というらしいの……。ファムタさん、知っている? リンゼスの有名なお貴族様らしくて」

「うわ」

 

 思わず声が出た。

 黎き森の魔物であれば、誰でも知っているだろう。逃亡者。リンゼスのティータ。魔王国が出来る前は羨望の目が向けられていた彼女も、今では憐みとしてしか呟かれないその名前。女王に敵対して得た自由が、今ファムタ達の享受する自由に勝るとは到底思えなかった。

 亜人種ということは、それの娘か。人間との子を設けたとは聞いていたけれど、何故わざわざ女王に近づくような真似をするのか理解できない。

 

「なんか、親御さんの反対を押し切って嫁ぎにきたらしいわ。悔しいけれど、覚悟の違い、という奴なのかしら、あの子はとっても真剣で……身を引いてしまったわ。私も、私の友達も」

「ふぅん。真剣」

「でも、諦めたわけではないのよ! 私も真剣に魔王様を好きになれる理由を見つけて、再アタックするのだから!」

「そこからなんだ」

 

 死に目の妖精(ポンプス・イコ)に魔王の嫁取り合戦。それに黎樹の種と……全く。

 蔦の手足をまとめて手の形状を作り、目の前で息巻く子の頭を撫でる。

 折角得た自由。好きに使いたいのに、どうしてこう心労が絶えないのか。前国王の時もそうだったし、今はちょっと、この可愛らしい子が心配でならない。凄く面倒くささが勝る。

 

「あなたは、そのままのあなたでいてね」

「?」

 

 ファムタは願う。どうかこの子に幸あらんことを。

 そして私に幸あらんことを。もっと。いっぱいの。そしてダラけられるやつ。

 

 ……女王に不幸あれ。最大の。




起起起起起起承起起起起起起起起転起起起起起起結くらいの構成ですよこの小説

ジャクリーンは亜人種だから、とっても短命だぞ! 魔物娘にとってはな!
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