死に目に魂貰いに来るタイプのロリババア   作:Pool Suibom / 至高存在

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エグめの描写が入ってくるから気を付けて!


無関心の外道

 "寿命"と"経験"が魂の規模を拡大する、というのは散々述べた通りであるのだが、この世界の法則であるらしいそれは、転生をしたとはいえこの世界の住人となった俺にも適用される。"魂の摂取"による延命は、魂の規模を拡大していると言い換えても何ら間違いではなく、ひっくり返して"寿命"が延びて"経験"が積まれている、という仕組みになっているようなのだ。

 至高存在が俺に与えた【不老不死】の仕組みがこれで、【衣食住からの解放】もまた"経験"に左右されるものであることが発覚している。RPG的なヤーツに当てはめると、レベルが高いとスタミナが減りにくい、状態異常耐性が高くなる、とかそんな感じ。

 左項が上がったら右項も上がる。そういう等号で繋がっている。

 

 なら、減らしたらどうなるのか、という部分に着目するのは当然の思考回路であると言えると思う。

 

 無論俺に試すわけじゃない。試すのは魔物娘だ。いっぱいいるしな。

 

 実験は三つ。「寿命を減らしてみる」、「経験を減らしてみる」、「魂の規模を削ってみる」。

 

 寿命を減らす、というのはまぁ、簡単だった。毒やらなにやらを与えればいい話だから。同じ種族の魔物娘を、成体と、その種子から生まれた直後のものを用意して、散々っぱら弱らせた後、全く同時に死なせて俺に蓄積する魂の規模を測る。「生きた年数」と「寿命」は微妙にニュアンスが違って、つまり「これまでどれだけ生きたか」と「これからどれだけ生きそうか」という話。「生きた年数」はどちらかといえば"経験"側に含まれるものだ。

 未来予知、運命云々の話じゃなくて、「どれだけ元気でいられるか」みたいな話なので、明日の朝事故死する、殺害される、とかいう場合でも魂の規模自体は大きく見えるのが難点。

 

 結果、身体の衰弱と比例して魂の規模は小さくなっていくことが分かった。つまり病弱な者や身体に障害のあるもの、あとは老い先短い年寄りなんかではあまり魂の蓄積値が得られない、って事だ。 

 経験の薄い森の魔物娘では、死の直前、成体は森の動物と同じくらいの、幼体に至っては虫と同程度の蓄積値しか得られなかった。

 "魂の摂取"を行うのであれば、健康体に限る、という実験結果になった。

 

 次に経験を減らす、というのをやってみた。

 経験というのが些か概念的で、とりあえずいくつかの実験方法をとる事にしたのだが、まず思いついたのは記憶だ。経験なんて言うくらいだから、それを経験した記憶が消えれば"経験"側も消えるんじゃないか、と。

 森の魔物娘の経験など微々たるものだとはわかっていたが、人間を調達するのはあまりに面倒が勝ったため、仕方なく実行。生きた年数が同じ魔物娘二匹の片方に記憶喪失の薬を投与し、完全に記憶を失ったタイミングで双方を殺して魂の蓄積値を測る。

 実験の結果としては、思ったより変わらないな、というものだった。

 森の外に出た事が無いとはいえ百何年を生きた魔物娘だ。その消去された分の記憶はそこそこの重みがあるんじゃないかと思っていたのだが……なんとも、期待外れというか。これが濃密な記憶を持つ人間だったら違うのかもしれないので、この実験は一旦保留になった。

 

 もう一つ、経験を減らす方法を思いついたので、それも試す。

 先ほどは記憶。今度は感情である。

 愛情。恐怖。殺意。覚悟。これらが魂の規模を跳ねあがらせるというのはわかっているから、じゃあそれを失えば経験も減るんじゃないか、と。

 これも森の魔物娘達では感情の濃度に欠けるんじゃないか、という危惧もあったけど、まぁまぁ、生物的恐怖はどんな場所においてもあるもんだろうと割り切る。

 

 これまた適当な生きた年数を同じくする魔物娘を用意して、まず二人に処刑宣告を言い渡す。疑問と恐怖を浮かべた魔物娘の片方に感情を殺す薬を投与し、片方には何もしない状態で、今度は弱らせずにすぐに殺す。感情を殺される、ってわかったら恐怖が倍増して実験サンプルとして成り立たなくなるからな。出来る限り条件は同じにしないと。

 こっちの実験結果は上々だった。

 明らかに感情のあるやつの方が、魂の蓄積値が多い。恐怖によって拡大した魂の規模は、感情の一つや二つを失くした程度で縮小してしまうらしい。恐らく愛情も同じと見た。森の魔物娘でコレなのだから、外の魔物娘や亜人種であればどれほどのものが見込めるか楽しみでならない。

 

 "魂の摂取"を行うなら、感情豊かで長い年数を生きた、健康体の魔物娘。これが最高効率である、ということが分かった。

 

「……素晴らしい、が。しかしそうなると、アレは……?」

 

 しかしここで、ふと疑問が生じる。

 いつかディスプが来た時の事だ。あー、子供の名前。なんといったか、いやもう覚えてないからいいのだが、その子供は毒を投与されたことで衰弱しきっていた。

 だというのに未だ鮮明に覚えている程の魂の規模を有していた。寿命も無ければ経験も無い状態で、あれだけの魂の規模というのは……やはり、どう考えてもおかしい。

 

 それとも人間種は法則が違うのだろうか?

 

「……ふむ、今度試してみるか」

 

 面倒ではあるが、今度は人間種か、亜人種で。

 もし人間種の方が魔物娘の長い寿命を圧倒的に凌駕する経験密度を持っているというのなら、俺は効率的な方を取る。そうなっても魔物娘を作るのはやめないけどな。人間社会に溶け込むのは嫌だし。

 

 

 さて。

 

 最後に、魂の規模を削ってみる実験である。

 

 

 

 

 魂の規模の可視化、というべきか、実際に視覚的に見えているわけではないのだが、感覚としてコイツはこれくらい、アイツはこれくらい、というのが分かるようになった。最初はわからなかったんだが、"魂の摂取"を繰り返している内にわかるようになった、という感じ。

 ではこれに干渉できないか、と考えるのは普通だと思う。とりあえず増やすのは出来なかった。"魂の摂取"以外で魂の規模に直接干渉する術は今の所見つかっていない。先の実験のように間接的なものはいくらでもあるのだろうが、直接増やすとなると現状は無理。というか多分一生無理なんだと思う。それが出来るなら、至高存在は俺に無条件の不老不死を与えられただろうから。

 

 で、減らす方。

 これは出来た。"魂の摂取"も周囲の魂を削るようにして掠め取るものだから、それを模倣する事から始めた次第。削ったモノを俺以外の魔物娘に植え付ける、というのは出来なかったのだが、削るだけなら割と簡単に出来た。硬い土塊を指で削っていく感じに近いか。

 俺の技術不足なのかそもそも無理なのかどうかはわからないが、一気にスバーンと断ち切ることは出来ず、ガリガリと削っていくのみに収まってしまっている。これが大変非効率で、この方法で相手を殺したり弱らせたりするくらいなら、直接やった方が百万倍良い、という結論で終わっている。

 

 魂の規模は縦横軸として球体のような形を取っていて、横幅が経験を、縦幅が寿命を表している、っぽい事はわかっている。だからディスプなんかは平べったい魂の規模をしていて、寿命は全くないのに経験だけが膨大だから巨大な天使の輪っかを頭に浮かべているようでちょっと面白かった。いつか色付きで見えるような技術を作りたいものだ。

 逆に森の魔物娘は縦幅のなが~~い楕円である。どう削るにも寿命を先に削ってしまうから、みるみるうちに衰弱して行ってしまって、すぐに替えの魔物娘を用意しなければいけなくなかったのが多少面倒だった。

 

 実験の成果として魂の規模から寿命や経験に干渉する術を得たものの、使う機会はあるかなぁ……といった感じ。正直今回の実験は感情に関するもの以外、ほとんどが失敗に終わったと言ってしまえる結果だと思う。まぁ研究なんてのは失敗続きが地だから特に気にしちゃいないんだが、最近すこしばかり停滞気味だなぁ、というのが所感。

 無から有を作り出す実験も全く進んでいないし、何かきっかけでも起きないものか。

 

「……素晴らしい。順調だ。順風満帆とはこれ正にこの事だ。ああ素晴らしい素晴らしい」

 

 こんな感じでフラグを建立すれば、ディスプの時みたいな切っ掛けが来るんじゃないかって言う。

 

 

 

 

 来た。

 

「……女の子?」

 

 場所は森の、俺の小屋の前。

 ぺたんと地面に座り込むのは──全裸の少女。年の頃は中学生……高校生くらいか? 人間の年齢の見立て、出来なくなってきてるな。 

 少女は突然現れた。ディスプの時のように追われてきたとか、森を抜けてきたとか、そういうことは無く、出現した。

 

 無から現れたのだ。

 

「名前、あるか?」

「えっと、ジャクリーン。あなたは?」

「なんだ、記憶があるのか。生まれたばかりではない……無から現れたわけじゃないのか? ふん、喜び損だな。じゃあアレか、転移術とかそういう……なんか、魔法でもあんのかね。知らんけど」

 

 無から現れたわけじゃなかったっぽい。がっくり。

 

 それによく見れば……亜人種、という奴か。人間じゃないな。猫の亜人種? んー、猫の魔物娘は作ったが、外に出した記憶はない……ああいや、むかーし、魂の規模を減らす実験に使ったやつを森の外に捨てた事はあったか。……あの状態から生き延びて、人間と交わったのか? 

 ふむ。そうそう、ずっと疑問には思っていたんだ。この森から逃げ出した魔物娘は唯一ティータだけ。だから"森"の亜人種が沢山いる事はおかしくはない。だが、それ以外の種族がいるのはどういうことだ、と。ファンタジーよろしく亜人種が人間よりの種族であればそんなに興味も惹かれないんだが、魂の規模を見るにどう見ても魔物娘と人間の混血である。

 つまり、今多種多様に存在する亜人種は、過去に魔物娘と人間が交わった結果の産物であるということ。

 俺はティータしか逃がしていないのに、魔物娘が外に出ていたというのは……おかしな話である。

 

 つまるところこれは俺のミスか。実験体として魂の規模をすり減らした魔物娘は、蓄積値を測るために殺す事も多いが、数を重ねるだけのために使用した個体は適当に森の外に捨てる事も多かった。最近は勿体ない精神が大きいからそんなことはしないんだが、昔は結構ノンエコロジーな生活を送っていたわけである。

 いやはやそれがまさか、生きてここまで種を繋いでいるなんて思いもしなかった。

 んー、ということはなんだ? もしかしたらどこかに、昔捨てた魔物娘たちがいて、魂の規模を拡張している可能性もあるわけだ。基礎的な寿命は長いはずだからな。生きている確率も高そう。うんうん、回収しないのは勿体ないよな。お残しは許されん。

 

 それに。

 

「転移術、ね。これで外に出たってやつもいるのかもしれないな……」

「きゃっ! ちょ、ちょっとそんなペタペタ触らないでよ……っていうか、なんで私ハダカなの!?」

 

 魔物娘の生態や人間社会に興味が無いから、それを知る事さえしなかったツケとでもいうべきか。学習なんてたとえ俺がデメリットを被ろうとも行うつもりはないが、なんだか魔法みたいなものが存在しているのは事実らしい。ティータの目くらましの奴とか、ファムタが風呂で本を読んでいたのも同じ感じか? 濡れてなかったもんな、アレ。

 そして別々の場所に生き物を飛ばす術。ふむふむ。

 

「君、名前は!? ダメよ、レディの身体に触れるのは魔王様の特権なんだから!」

「……ジャクリーンと言ったか」

「ええ、そうよ! 三度目だけど、あなたの名前は!?」

「魔物娘になってみる気はあるか?」

 

 とりあえず、良いサンプルが手に入った。外に出向いて亜人種を見つけてくる苦労が消えたのは幸いだ。そして、この少女を殺すのも無し。ジンクスと言えばいいか、フラグを立てた後に来た切っ掛けは、いい感じに外に返した方が良い気がするのだ。ディスプがそうだったから、というだけの理由だが、まぁファンタジーだから縁掛けも意味があるだろ。

 

「魔物に、なる? ……あのね、あなたは、まだ幼いからわかんないと思うけど、デミャンは魔物にはなれないのよ? ああ、わかった。ここ、とっても田舎なのね。学舎が無いんだわ。んんっ、仕方ないわね、お姉さんがお勉強を教えてあげます!」

「なる気はない、ということか」

「なれるものなら是非なりたいけど、無理なものは無理なのよ? わかるかしら」

 

 そうか、成りたいか。

 その言葉を待っていた。そうだよな、誰だって可愛い魔物娘にはなりたいよな。

 

「七日間、こちらで出す食事を食って生活しろ。あとは、そうだな……お前にかけられた転移術の解析もさせてもらう。それが条件だ」

「え!? ご飯をくれるの? そんな、悪いわ。あ、ううん。だからこそ、頑張ってお勉強を教えるべき、ということよね」

「衣服はその辺の魔物娘達に聞くと良い。ああ、お前たち。今日から七日間、この娘は森の仲間だ。()()()()()()?」

 

 傷をつけるなよ、と釘を刺して。

 早々に小屋へと戻る。亜人種の魔物娘化に関する薬品は、既に考案済みだ。まぁ投与自体は初になるから何が起きるかわからないという懸念事項はあるが、死んでも特に問題はない。ボーナスみたいなもんだからな。感情の豊かな娘だから、経験の規模もそこそこあるようで俺にメリットさえあるのが良い。

 

「え、ちょ、ちょっと! 四度目だけど、あなたの名前は!?」

「亜人種としての最後の七日間、ゆるりと楽しむと良い」

 

 どうせ記憶は引き継がれないのだからな。

 

 

 

 

 親しくしていた亜人種の子が消えた。

 

 愛憎乱れる魔王子の嫁取り合戦。そこには当然、嫉妬がとぐろを巻いて居座っている。あの子は明るいけれど、同じくらい頭が弱い。策略謀略を以て魔王子に嫁がんとしている者たちにとっては、さぞ面倒な存在に映ったことだろう。目障りと言った方が正しいか。どちらも同じか。

 

 とりあえずは魔物種の皆に、そして自身に繋がりのある方々の亜人種に彼女の行方を問うも、答えは無かった。亜人種の子がファムタに会いに来なくなったのは六日前。毎日のように今日あったことの報告をしに来ていたものだから、一応気になりはしていた。

 だが、ファムタは恐らくこの国においても最長を生きる最古の魔物種で、性格自体も面倒くさがりだ。森で幼体がいなくなる、なんてことは少なくはなかったし、魔王国へ移住してからも亜人種はすぐに姿を消す部類の存在。まぁ、そういうこともあるかな、と諦めていたのだが。

 

「……服だけが見つかった?」

「ええ、学舎の女生徒の服だけが、ぽつりとね。ほら、貴女の探していた……えーと、女の子? 確か学舎に通うくらいの年齢だったな、と思って」

 

 ファムタよりは何代か後の世代とはいえ、同じ魔物種。それも亜人種や人間種に友好な部類の*1友人に、その話を聞いてから、少しばかりの──嫌な予感が過ぎり始めた。

 

「転移痕は調べられた?」

「鑑識が言うには、具体的な距離は掴めないけれど、方向としては……あっち、だっていうのよ」

 

 その指が向く方向。友人もまた、額に皺を寄せた表情をしていて、恐らく自分もそうであるのだろう。

 だってその方向は。

 

「黎き森……」

 

 帰りたくない故郷ランキングNo.1である、その場所だった。

 

 

 

 

「ねぇ、アルタさん。イコちゃんはどうしてあそこに住んでいるの? ご両親は?」

「……イコ、というのは、()()のことか」

「うん、あの白いワンピースの子よ」

「それがアレの名なのか?」

「私が名付けたの。今魔王国には死に目の妖精(ポンプス・イコ)っていう妖精さんが現れるんだけど、噂で言われてる姿にそっくりだから!」

「……アレがどうして森にいるのか、親が何なのか。全くわからない。わかるのは……アレが、私達の敵であるということだけだ」

「敵? どうして? あんなに可愛い女の子なのに」

「いずれわかる。明日にはわかるだろう。知らない方が幸せでいられることはあるんだ、ジャクリーン」

 

 あと──半日で。

 

 

*1
基本魔王国の魔物種は温厚だが、友好的であるかは別である




むしろ平常心で向き合えるファムタが異常

イコちゃんという呼称を使うのは今の所ジャクリーンだけだぞ! 魔王国の民も、ポンプス・イコと呼んでもちゃん付けはしないからな!

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