死に目に魂貰いに来るタイプのロリババア 作:Pool Suibom / 至高存在
多分描写が無理な人います。キツいと感じたらすぐにブラウザバック推奨です。
あるいは何も読まずに一番下までスクロールしても、大体の話の流れはわかります!
さて、女王の元から見事救出されたジャクリーンの身体には、いくつかの異変が起きてしまっていた。ファムタとファールが歪ながらぎこちない姉妹として知られるようになったように、ジャクリーンにも歪な部分が出るようになったのだ。
その一つが、頭脳明晰化とでも言えばいいのか、急激な知能指数の上昇である。
ファムタから見て、ジャクリーンはひとえに馬鹿の部類だ。頭の弱いだとか明るくて元気だとかそういう濁し言葉を使うまでも無く、馬鹿の類だ。類、だった。
それがどうだろう。あの森から帰ってきてから、なんと学舎における最高成績優秀者を飾ったというのだ。普段の話す言葉の端々にも思慮深い言動を見せるようになり、その可愛らしい性格こそ変わらないものの、どうも女王の影がちらついてしまって、ファムタも、そしてファールも気が気でなかった。
また、身体能力の向上も見て取れた。無論魔物種には届かないものの、学生の身でありながら人間種の戦士程度の身体能力を見せるようになったのだ。本人曰く「全然疲れなくなった」とのこと。
医者と、ファムタの信頼の置ける学者に人道的な調査をしてもらったところ、全身に平均して行き渡っているはずの生命力、あるいは"あらゆるものの源"とでもいうべきチカラが、心臓と脳に集中してしまって降りてこないのだという。
だから、ファムタ達にはそんな素振りを全く見せなかったのだが、実は手先が不器用になってしまっていたり、温度や痛みに対しても鈍感になっていたりと、医療的検査を進めていくうちに沢山の不調を発症している事がわかった。
ジャクリーンは大丈夫、なんて笑っていたのだが、ファムタとファールの心境はどん底である。
もう少し自分が早く動いていれば、あるいは女王のものだろうその処置の進行を薄められたやもしれない。それは重く圧し掛かる可能性だった。
日常生活に支障が出るほどの感覚喪失である、と診断されて、すぐ。ファムタとファールは同時にある提案をした。
つまり、私達と一緒に住まないか、と。
亜人種の学生というのは、齢10を越えた辺りで寮へ入る。魔王国の土地はそこまで大きくないから、住める場所が少ないのだ。立場の弱い亜人種が一軒家を構えている事は滅多になく、ほとんどの場合が集合住宅にて過ごしている。
学生もまた、移動の負担が無い者を除いて、学舎に隣接した学生寮に入寮するのは当たり前の事になっていて、親離れが人間種に比べても早い。
そうなってくると、今度はおかしな見栄、あるいは矜持の世界が顔を出す。つまり、親離れは当たり前なのだから、親元にいるのはカッコ悪い、という共通認識だ。これは男女双方にあるもので、16を数えるジャクリーンが今更両親の元へ帰るというのは、陰口の対象にさえなる。ジャクリーン当人もいい顔はしないだろう。
だが、
亜人種の立場が弱いというのは散々述べてきた事だが、だからこそ魔物種や人間種に見初められるのは、学業を疎かにしてでも祝福される事。亜人種同士の恋仲は見向きもされない*1が、魔物種の、さらに言えば"古種"に囲われたというのなら、たちまち憧れの対象だ。
そして、その事実を抜きにしたとしても、ファムタ達の提案はジャクリーンにとってあまりに魅力的だった。だってジャクリーンは。
かくして
──ジャクリーンが、寿命で亡くなるまでは。
犯行の償いとして救出を手伝ったといっても、ジャクリーンのその後を考えれば、向上した知能や身体能力を差し引いたとしても依然釣り合うものではない。それは多分、ターニア自身も分かっている事だった。けれど、引き留める親の反対を押し切ってまで魔王に嫁ぎに来たという目的は、反省をしたからと言って捨てきれるものではない。
むしろ障害となり得たジャクリーンが魔王を諦めたのであれば、これ幸いにとアプローチを再開するのは当然の帰結であった。
しかし、悲しいかな。いつだって世界は不平等だ。巨悪の悪事はまったく、これっぽちも裁かれる気配がないのに、比較して小さなその悪事の償いは、それでは全く足りなかったのだという事実を突きつけられることになる。
それは、魔王国にしては珍しく、雷の降る夜だった。
雷という現象の原理解明は既にされていて、だから人々は構う事無く日常を過ごす。避雷針の技術が完全なものにまで発達しているから、落雷の心配をする存在は一人だっていなかった。
ターニアも同じく、雷が鳴っている、ということ自体には些細な気を向ける事はあれど、怖がることはない。
ならば、この動悸はなんだというのか。
ターニアの心臓が、否、もっと大切な部分が、強く震えている。
「ん? ……亜人種か。というか、ティータのとこにいた奴じゃないか」
それは突然現れた。
雷の光った瞬間。ホワイトアウトのその隙間に、白いワンピース姿の少女が立っていた。
妨害や牽制などの前に、自身が逃げるべきだという判断を下すことが出来たのは、褒められて然るべきだ。手放しの称賛を受けることが出来たであろう。逃げるために使用したのが、転移術でなければ。
ふわ、と抱き留められる。しかしそれは母の腕などではなく、複数の人肌──女王の腕に連れられた、意識のない魔物種の三体。いつのまにか転移術は強制終了させられていて、再度の発動も出来なくなっていて。
ターニアが口を開く前に、刺激臭が彼女の脳へ辿り着き、その意識を刈り取った。
また一つ、神鳴りが響く。
そこにはもう、女王も、ターニアも、魔物種も。
初めからいなかったかのように、何もなかった。
キマイラ娘達はそれぞれコンセプトが存在している。たとえばファムタであれば植物のキマイラ娘。見た目はマンドレイクに近いか。手足が蔦の少女で、ポニーテールの先に花弁がある。特に叫んだりしないし、それを聞いたところで死にゃしないがな。
次に作ったのは動物のキマイラ娘だ。森にいる動物をありったけ突っ込んだ、一番想像に難くないキマイラ娘。ただし鳥類を混ぜると"再誕"の手順が面倒になるため、翼はついていない。蛇の尻尾もないな。あくまで哺乳類のキマイラ娘だ。
その次が虫のキマイラ娘。ただ、こいつは昆虫と虫の区別を付けずに"抽出"を行ったせいで、結構な数の失敗をした。虫さん生態複雑すぎなんだよな。とはいえ試行錯誤の果てに晴れて魔物娘として生み出す事が出来たのだから、人間やってみるものである。
最後が鳥類のキマイラ娘だ。
本当は水棲生物のキマイラ娘とか爬虫類のキマイラ娘もやりたかったのだが、森に海があるわけでもないし、可燃性ガスの泉にはほとんど生命が住んでいないしで水棲生物は断念。爬虫類もトカゲと蛇くらいしか見つからず、これが洞窟でもあればそれらの種類にも恵まれたのだろうが、地表では数が揃わずにこれも断念。
その頃になると単数種の魔物娘の創造に成功していて、キマイラ娘を創る必要がなくなった、というのもあるな。単数種の魔物娘は自己分裂に近い形で増える事が出来るのもわかって、じゃあこれを揃えていこう、となった次第だ。
で、その最後の鳥類のキマイラ娘だが、うーん、まぁ簡単に言うと、飛ぶことはできなかった。重量的にキツいんだろう、翼はあれど飛べないヒトガタという、残念な結果に終わってしまった。その後に作った単数種の魔物娘で鳥類のものの中には飛べるヤツもいたから、使った鳥が悪かったのかもしれないが……うーん。
何度か作り直してはみたものの、飛べるようにはならず。まぁハナから実用的なソレなんて求めていないし、見た目がハーピーっぽいので良しとした。
そんな、ファムタを除くキマイラ娘三匹。
これらが魔王国に住んでいるとわかったので、黎樹を伝って回収しにきたわけである。
そうそう、この模倣転移術だけど、原理としては大分簡単な部類。俺が黎樹を伝って分身できるのとほぼ同じで、つまり対象の"魂の規模"を完全に覚えた状態で一度完全分解し、黎樹を伝わせたその先で再構成する、っていう、詳しくは知らないが多分転移術とやらと同じ仕組みだ。
あくまで分解であって殺すわけじゃないから"魂の摂取"も発動しないし、同質の魂は互いにくっつこうとする性質があるから再構成も容易。結構いい感じに出来たんじゃないかって言う自負がある。
今はまだ俺が作った魔物娘しか運べない。亜人種や人間種の"魂の規模"を完全に把握しているわけじゃないからな。俺の感知能力をもう少し鍛えないと、それは行えない。
手際よくキマイラ娘ズを回収する。寝てるところに気化した昏睡薬を嗅がせるだけだ。睡眠から気絶に変わったそれらを黎樹の所に運び出して、あとは転送。それだけでいい。
そんな感じで運び出している最中の事だった。
ふと、この間感じたばかりの気配を覚えて観葉植物になっている黎樹から出てきてみれば、いつぞやのティータの娘がそこにいた。ティータの娘は俺の顔を見るなり突然淡い白い光を纏いだすではないか。これ幸いとばかりにその身柄を確保する。
俺の元にジャクリーンを
ついでに人間種も適当に浚っていく。ディスプの息子は色々強化しすぎて純粋な人間種かと問われると微妙な部類になってしまったので除外。特例はサンプルとして扱いづらいんだ。普通の奴が良い。
ということで、ファムタとファールを送った黎樹の近くにあった広場でぽつんと佇んでいた人間種を確保。雨に打たれていたから"寿命"が多少縮んでいたが、これくらいなら薬でどうとでもなる。
「素晴らしいな」
こうして、すべての用事をきれいさっぱり終えた俺は、転送の出来ない亜人種と人間種を連れて鼻歌を歌いながら森へと帰るのだった。
気分は上々である。
目を覚ました時、まず初めに感じたのは、水。
口、鼻、目、耳──喉にも、肺にも、胃にも腸にも。水があった。水が入っていた。
けれど、苦しいとも、つらいとも、痛いとも感じない。空気を吐き出すか吸い込むかをするはずの肺は全身を漬ける水を行き来させるばかりで、それだけだ。水によって滲んだ視界も、数度瞬きを繰り返せば、段々とはっきりとしたものになってくる。
そうして視認できるようになったそこは、なんだか小汚い物置のような、散らかった倉庫のような場所。勝手に拡縮を繰り返す肺は自らの意思で止める事が出来ず、ターニアが動かせるのは瞼と眼球のみだった。体は、一切が動かない。
自身の身体を見下ろす事も出来ない状態で、五分くらいが経過しただろうか。ふと、物置にソレが入ってくるのが見えた。
白いワンピースの少女。
黎き森の女王だ。
身構えようとしても、身体は動かない。声も出ない。ただ、目だけが見開かれる。
「……意識が戻った? おかしいな、確実に三日は昏倒するはずなんだが。さては"森"か? ……ふむ、まぁ動けんだろうし、いいか。えーと、アウラスナッテの花弁は……んー、もう少しだな。ラドミド草はいい感じに煮詰まってる。もう火を止めて良い頃合いだな」
女王はターニアの方を一度見たにも関わらず、一切の興味を示さずに机の上に向かう。様々な色をした液体がいくつかの容器に揃えられ、粉や固形物と混ぜられる度に色を変え泡を噴き凝固し液化しているのが見て取れる。
何故かターニアの頭は、全く知らないはずのそれらが
「ふむ。"魂の規模"の集中具合も十分だな。それじゃあそろそろ、抽出に移るとしますかね」
ごぼ、という音がして、全身を覆っていた水がどこかへ排出されていくのを感じる。体内にあったそれまで強制的に排泄され、ターニアは羞恥心が隠せなかった。依然として苦しさや痛みはなく、同じように体を動かす事も出来ない。
どうやらターニアは透明なガラス瓶のようなものの中にいれられていたようで、それがターニアを完全に拘束しているらしかった。
シュゥ、と、今度は空気の抜ける音が響く。丁度首のあたりで瓶に亀裂が入り、そこから外気が入ってくるのを感じた。卵を割るようにして頭部周辺のガラス瓶が開く。久しぶりの酸素に、しかし肺は動かない。苦しさも痛みもなく、ただ、眼球だけが、わなわなと震える。
ガラス瓶のフレームが無くなって、少しだけ視界が開けた。
それによって隣にもターニアと同じように捕まっている存在がいる、というのが見て取れる。見て取れた。見た。見て、確認した。
横顔でなく、正面の顔を、サカサマに。
何か言葉を発する間もない。そもそも喉が動いてはくれないだろうが、発そうという気になる事さえない一瞬で、ターニアの首は切断される。決死の思いで止めてくれる魔物種などいるはずもなく。ただ作業の結果として、ターニアの首は床へ落ちる前に抱き留められた。
生物というのは脳から完全に血液と酸素が抜けきるまで、切断された状態であっても首の方に意識がある。それは本来であれば極短時間のはずだが、女王の薬液は素材の保存のためと血液の流出を防ぎ、瞬時に漬けられた別の薬液によって酸素の供給も開始される。
今度こそ眼球を動かす酸素を失ったターニアの首は、瞼を閉じる事も出来ないままに、女王の所業を眺め続けるしかなかった。正面から見ることの無い、衣服纏わぬ自身の身体。その胸に大穴が開く。無造作に穿たれたそれはターニアの横に置かれ、これもまた、どくどくと鼓動を鳴らし続ける。
そして女王は次に、ターニアの隣にいた者に手を掛けた。
見た事がある。ないわけがない。ジャクリーンという予期せぬ障害が現れるまで、強敵として競い合っていた、人間種の少女。魔物種寄りの亜人種であるターニアに追い縋る程の知能と強さを持つその少女は、しかし窮地に立たされていた。魔王との婚姻が出来なければ、家族の縁を切られると。
魔王国はあくまで実力主義の社会だ。だが、数の少ない人間種の国民は、身を寄せ合って生きている。それが最も種としての力を発揮できると知っているからで、だからこそ、異端者は排斥される。
少女は美しい容姿をしていた。人間種とは思えぬほどに。あるいは特徴こそ発現していないものの、恐らく先祖返りとして、亜人種なのだろう。
ターニア自身が亜人種だから、何が問題なのかと思う所もあるが、自らの境遇に置き換えてみたら納得もする。"森"の亜人種は特別だ。"森"の魔物種たるティータを嫌いな娘はいないし、姉妹の全員が家族の絆を抱えている。それを失うのは、怖い。
一人だけ追い出される、なんて。家族から出て行けと言われるなんて。半ば家出に近い形……反対を押し切って出てきた身であっても、それが怖いというのは理解できた。
そんな、死に物狂いで努力を重ねていた少女の首が、すとん、と落ちる。
こちらは意識がまだ戻らない状態で、安らかに眠っているような顔で、ターニアの目の前にそれは置かれた。キスもたるや、という距離で──その美しい顔が、しかし、首から下のない状態で。
程なくして少女の胸にも大穴が空き、脈打つ臓器が添えられる。
「ん、おっけ。よしよし、傷も無いな。うーん、我ながら完璧な仕事ぶり。……仕事? 仕事じゃないから! 仕事とかいうとモチベ下がるから! 止め止め!」
幸いであったのは、首だけとなったターニアに、聴覚の類が残されていなかった事だろう。生命維持に必要な部分以外は既に機能を停止していて、直に目も見えなくなる。
ただしたり顔で何度もうなずく悪魔だけが、ずっと、ターニア達を見下ろしていた。
濃密な"魂の規模"が確認できるパーツを薬液に漬け、煮沸する事30分ちょい。
ゆっくりとそれらから染み出した血液の混じる赤色が、薄い青と薄い緑の中間色みたいな水の色を朱色に染めていく。水の色が変わらなくなってから5分くらいで"抽出源"を網杓子で取り出して、適当に保管。残った赤色の水は程なくして球状に凝固し、赤い光へと変貌する。ツンとした鼻を衝く刺激臭は、少しずつ甘い匂いに変わっていく。
それを頃合いとして少しずつ火力を下げていけば、球体は周囲の薬液を我先にと吸収し始めた。30秒くらいですべての薬液を吸い尽くした二つの球体は、片手の拳をもう片方の手で覆った時くらいの大きさになっていて、赤い光が脈を打つ。
それぞれを"抽出元"の胎の中へと戻し、木の台の上に寝かせて、誕生を待つ。
一時間はかかったか。まぁ元の生物が大きければ大きい程"再誕"は時間がかかるから予想の範囲内だ。
腹部の縫合痕にある縫い糸が、少しずつほどけていく。ゆっくり、ゆっくり。
眺める事、さらに一時間。ようやく、手が姿を見せた。
美しい白磁のような指先は完全に人間のソレ。段々に現れてくる腕や肩、そして顔、胸と、その全てが人間らしい見た目をしていた。
ただ、亜人種の魔物娘の方だけ、臍の部分が"抽出元"と同じく樹の洞のようになっている。人間の魔物娘は完全に人間の見た目だな。
そうしてずるりと這い出た二体は、きょろきょろと辺りを見渡す。
そして俺を見つけると、こてん、と首を傾げた。
「んー、名前は……マルダハとシオン。亜人種の魔物娘がマルダハで、人間種の魔物娘がシオンだ」
さて、名前も決まったことだし、魔王国に返してやるか。流石に"抽出元"が森の生物じゃないからな、居心地悪いだろ。
その日、魔王国から幾人かの失踪者が出た。
王家の三姉妹の母親達。異国から来た魔王の嫁候補。近年"もっとも美しい人間種"として、学生の身分ながらも選ばれたとある少女。
計
そして数十年後には、もう二人。
ちなみにですが、
注.
これから先も、これと同程度か、それ以上の描写が入ってきます。R18Gに届かないよう細心の注意を払いますが、今の時点でキツいという方があれば、ここで読むのを止める事を推奨いたします。
ジャクリーンは猫の亜人種だな! 猫耳が生えているぞ! 人間種の耳はないんだ!