死に目に魂貰いに来るタイプのロリババア 作:Pool Suibom / 至高存在
優越感と憐憫の対価(笑顔はプライスレス)
「素晴らしい……」
呟く。
ついに完成したのだ。研究の、一つの節目。
無機物の魔物娘──ゴーレム娘が。
なんか、どう頑張っても、どうやっても、無機物に"魂"を宿らせることは無理っぽい、という所で落ち着いた。色々と進展のあったときから100年か200年くらい頑張ってみたんだが、絶対の法則として無理っぽい。至高存在さんに問い合わせをしたいところなのだが、何分連絡手段がわからん。電話番号もわからん。どうしようもない。
でも夢とは捨てきれないものである。いやまぁ実際の所"魂の規模"の拡大は留まるところを知らず、【不老不死】に蓄積した寿命は数十万単位にまで昇っているから、やらなくてもいいことなのだが。
でも、これ別に遊びみたいなもんだからなぁ。なんだろ、1000ピースパズルが残り数ピースなのに形が違って悩んでる、みたいな。やんなくていいことだけど、やんないとすっきりしない、みたいな。そんな感じ。
んじゃあどうにかする方法を考えよ、って話なのだが、ま一番簡単なんは一からピースを作っちゃう、って所だよな。現存する
妥協オブ妥協。
それでいいのか趣味人よ。
「いや、別に良いだろ」
折角チートっていう妥協しても何も失わない力を貰ったんだから、つかわにゃ損だろ子々孫々。
ということで、さっそく着手にかかる。
無機物に"魂"は乗せられない。だが、"魂"が複製できるものである、というのは既に発見してある法則だ。なら、複製した方の"魂の規模"を変えずに段階的に肉体側を無機物に変えていけば、最終的に完全無機物のゴーレム娘が出来上がるんじゃないだろうか、というアプローチ。
しかしこれは、心臓と脳が無機物に代わった時点で定着しなくなる。"再誕"以前に球状の凝固が起きなくなるのだ。だからここに、新しい要素を加える。
血液と言うのは無機物と有機物の混合物だ。俺はこれに"魂"を宿らせる実験に成功していて、その成果は今なおどっかの水中にいることだろう。
ここから、有機物を取り除いていく。ただし、煮沸だのなんだのといった通常の物理法則によるものではなく、転移術で。模倣転移術もそこそこの習熟度になってきていて、触って確認した相手であれば、初見であっても転送できる程にはなった。
転移術が対象を完全に精査する必要があるのは、そうしないとぶつ切りで置いていってしまうためだ。以前ジャクリーンがここに来た時衣服を纏っていなかったのは、術者の技量が低かったというのが大きい。随分と血液も失っていたし、胃液も減っていた。あと少し足りなければ部位欠損があっただろうな。
とまぁそういう理由でそこそこ難度の高い技法のようなのだが、それは言い換えれば、自分の出来る範囲においては自由度が利く、という事である。
つまり、何を残し、何を送るかを選別できる。
転移した部分と転移しなかった部分は"ぶつ切り"になるから、その一瞬だけは無機物にも"魂"が乗っている状態になる。放っておけばすぐに離れるけどな。
"魂"の宿る血液を、有機物を取り残して無機物だけを転移術で飛ばす。
"微かに魂の宿る無機物水"を作り出すのである。
また、肉体に"魂"が定着しなくなるのは心臓と脳のどちらもを失った状態なので、どちらかまでなら全体の半分の"魂"が残る。その空いた空洞に"微かに魂の宿る無機物水"を送り込んで、模倣転移術の壁*1で密閉。肉体側に作用する転移術と違って、模倣転移術は"魂の規模"に干渉する術だ。そこに無理矢理循環を起こさせて、定着したことにする。
そこまでできれば、あとは心臓を摘出して、同じように"微かに魂の宿る無機物水"を送り込めば完成だ。
よし、手順は頭に入れた。手順書も書いた。
マニュアルよーし! さぁ、実験開始だ。
クレイテリア。それが、僕の名前。
でも、隣の子も、クレイテリア。その隣の子も、クレイテリア。
その隣の子も、その隣の子も、その隣の子も、その隣の子も、その隣の子も。
みんな、クレイテリアだ。
「あーと、一番新しいのは……いたいた。おーいクレイテリア。行くぞ」
クレイテリアが連れていかれる。僕、じゃない。隣の子でもない。
あの子は、最新のクレイテリア。僕は、最古のクレイテリア。
僕らは蟻の魔物種だ。だから、見た目が似ている奴と群れでいることには慣れている。
けれど、それが自分であるというのは。
ただ、救いはあった。新しく生まれたクレイテリアは、必ずどこか、"石"が混じっている。それは指だったり、指と耳だったり、指と耳と足の指だったり。少しずつ増えていく混じり石は、は、僕らに違いを生んでいた。
それだけが、自分を自分だと……
みんな。
どのクレイテリアも、自分が"石混じり"だと自覚すると、最初の内は耐えていても、次第に顔を伏せたまま立ち上がらなくなって、倒れていく。
女王はクレイテリアに目を止めることなく、新しいクレイテリアを作り続ける。僕と最新のクレイテリアにだけ強制的に栄養を取らせてくるから、僕らは生き続ける。
女王曰く、バックアップは取っておかないといけないから、らしい。意味は分からない。
虫の魔物種はそもそもが強い部類じゃない。力比べなら負けないし、寿命だって人間種や亜人種には負けないけれど、それだけだ。魔物種全体の中で見れば確実に弱い括りで、だからこそ同じ蟻の魔物種たちと群れで行動する。
でも、クレイテリアは、こんなに数がいるのに何かをしよう、という気力に欠けていた。
でもその体は、その混じり石は、確実に本物のクレイテリアではないということを現していた。少なくはない優越感と、そして憐憫。僕がクレイテリアであるという事実は、だからこそ僕らの間に軋轢を生んでいる。どうせ自分は本物ではないのだ、と。
女王が小屋から出てくる。この高い高い金属の壁に囲まれた部屋の中に、また一人。クレイテリアが増えた。先ほど連れていかれた一人と、増えた一人。増えた一人は下半身のほとんどが石になっていて、余りに憐れだった。
クレイテリアは「増えたのは僕じゃなくて、君の方だろ?」とか、「嘘だ、だって連れていかれたのは僕で」とか、「僕は女王が"抽出"を行っていたことまで見ていたんだぞ!」とか、酷く錯乱している。今まで通り、増えたほうに、増えた自覚がない。
バランスが保てなくて、上半身で這う事しか出来なくなったクレイテリアが、涙を流して周囲を睨んでる。混じり石の比率が少ないクレイテリアを見て、恨みの籠った表情をするんだ。
そして最終的に、その怨みは僕に来る。
これもまた、いつも通り。今まで通り。
「僕が、クレイテリアだよ」
「──……ッ!」
僕だって頭が悪いわけじゃない。
あの偽物のクレイテリアが、僕と同じ思い出を持っているというのはわかってる。
多分あのクレイテリアは、その記憶は、女王に連れてこられてからずっと、身体の混じり石が増えていった、という風になっているんだ。段々動かせる場所が減っていって、とうとう下半身まで、と。今まで何度も繰り返したんだ。この問答は。だって、次に連れていかれるのは、あのクレイテリアだから。
最新のクレイテリアは、毎日のように事実を嘘だと吐いて棄てて、頭のおかしくなりそうな現実を生き続けていると勘違いする。本当はさっき生まれたばかりなのに、ずっとずっと。
心から。
僕が、本物のクレイテリアで良かった、って。そう思う。本当にね。
この最悪な日々は、さらに続いた。
来る日も来る日もクレイテリアは増えて行って、僕から生まれたクレイテリアなんかは既に死んじゃっている。生きる希望を失くして、女王も興味が無いから、そのままね。
ほとんどのクレイテリアが身動ぎ一つしない毎日を送ってる。女王が無理矢理体内に転送してくる栄養剤のせいで、僕と最新のクレイテリアは否が応でも生き続ける。もう嫌だと思っても、勝手に元気になってしまう。その上で、殺し合いが起きないようにだろう、僕らは鎖に繋がれていて、動き回る事は出来ない。
ただ囲いの対角線上で、僕を睨む最新のクレイテリアと、ただそれを見返すだけの日々を送るしかない。
最新のクレイテリアはもう顔の半分以外を全て混じり石にしていて、女王曰く「いや、心臓は動いてるぞ?」とのことだけど、もう魔物種というには無理がある風体になっていた。
だから、喋る事も出来ない。ただ片方の眼球だけが、仇敵を見るかのように僕を睨み続ける。
「クレイテリア~っと。ふぅ、結構時間がかかったが、あと二、三回で終わりそうだな」
女王が来た。動くことのできない最新のクレイテリアを担いで、小屋の中へ連れていく。踏まれた小石の中に、かつてクレイテリアだったものが混じっている、なんてこと、女王は思いもしないんだろうな。もしくは、知ってても興味が無いか。
あと二、三回。
それが終わったら、僕は……どうなるんだろう。
「素晴らしい……」
小屋から、そんな声が聞こえた。
女王が出したその感嘆の声は、けれど僕には悪魔がニヤけているようにしか聞こえなかった。
ゴロ、と。まるで物でも捨てられるかのように、連れていかれたクレイテリアが小屋から排出される。女王曰く「いやだから心臓だけは動いてるぞ?」らしいそのクレイテリアは、当たり前だけど何も言わない。睨むことだってしない。ただそこに、物言わぬ石像となって、置かれている。
「……僕は、僕が、クレイテリアだ」
呟いた。
栄養剤は今も尚僕を健康体で保たせている。連れてこられる前よりも健康かもしれない。もし、このまま。何もされることなく帰してもらえるなら。
僕は別に、女王の所業を誰かに言うような真似はしないし、それを咎めたいとも、復讐したいとも思わない。だって僕は、連れてこられて長期間閉じ込められて、健康にしてもらった。
ただそれだけだから。
「それじゃ、今日からお前はオーゼルだ。んー、クレイテリアとは姉妹になる、のか? いや、同年代の友達……娘ではないよな。有機物と無機物なワケだし。ま、なんでもいいか」
女王と共に、ソイツは出てくる。
体は、その形は、やっぱり僕だ。クレイテリアの身体。ハダカで、だからこそ細部まで同じなのがわかる。けれどその材質は、石。混じり石の──ううん、完全な石になった、クレイテリア。
「よし、オーゼル。ちょっとそこで待ってろ。じゃ、クレイテリア。最後の締めに行くか」
終わり、じゃないのか。
終わり、じゃないのか。
終わったんじゃ──ないのか……。
「まぁすぐに終わる。何度も繰り返したからな、最適化は済んでるよ」
女王は、そう。
まるで何かを成し遂げたかのように、快活に笑った。
目を覚ます。
最初に連れてこられた時を思い出した。あの時もいつの間にか意識を失っていて、こうやって目を覚ましたんだっけ。
それで、隣には石混じりになったクレイテリアがいた。あの時は大層驚いたものだ。けれど僕は、本物のクレイテリアで。心から安心したことを覚えている。
隣を見る。やっぱりそこには、クレイテリアがいた。動悸が、少しだけ。
ハダカのクレイテリアを、見まわす。調べる。動悸がする。
なんで。どうして。
おかしい。おかしい。おかしい!
心臓がうるさい。元気にされた心臓が、跳ねるように騒ぐ。
無い。
無い。
無い。無い。無い。無い。
無い!
「混じり石が……無い。そんな、じゃあ」
今度は急いで自分の身体を触って確かめる。目視できる範囲には無い。じゃあ後ろ。足の裏、お尻、背中、後頭部。まさか臓器? 体を外から押してみて、探す。探す。
探す。無い事を祈って探す。動悸が、苦しい。胸が。激しく脈打つ。
「ん? 起きたのか。ふむ、まぁ元気な方を取っておくのが良いよな」
「じょ──女王、僕は、クレイテリア、だよね?」
「うん? クレイテリアだろ、お前。まさかファムタじゃあるまいに」
そ──そうだ。そうだ、よね。
僕はクレイテリアだ。記憶に断絶は無いし、何より僕の方が先に起きた。前もそうだった。僕が先に起きて、石混じりのクレイテリアが後に起きた。
だから僕は、本物の。
本物の、クレイテリアだ。
「よし、どちらも完璧に一致しているな。んじゃ、お前はバックアップ行だ、クレイテリア」
僕と、眠っているクレイテリアの手を触っていた女王が、そう言った。
うんうんと頷いてから。
僕の方を見て。
「ぁ……」
「ああ、こっちのクレイテリアはちゃんと元の場所に戻すぞ。オーゼルもクレイテリアといたほうが絵になるだろうし。クレイテリアにもしもの事があった時用に、お前は健康体を維持させるから安心しろ。死ぬことは無いぞ」
「ぃ……い、ぃや……嫌だ……!」
言葉を絞り出す。
動揺と恐怖で、舌が上手く回らない。
違う。これは、この匂いは、女王の使う弛緩剤だ。
体に力が入らなくなる。起こしていた上体が、そのまま倒れようとして──女王に優しく抱き留められた。
「おお、言った傍から傷をつけるところだった。んー、これ、即効性があるのが良いんだが、ありすぎるのが問題だな……。今度改良するか」
けれど女王はもう、僕を見ていない。
そのまま。
僕は、ガラス瓶に収められて、暗い暗い物置の片隅に。
本物のクレイテリアは、僕なのに。
僕、なのに。
僕は。
「えーと、オーゼル、でいいんだよね。クレイテリア、じゃなくて」
「……そうだよ」
「うわ、結構流暢に喋れるんだ。どうなってるの、その口と喉」
「……知らない。あと、オーゼルだけど、クレイテリアの記憶と、……ホマリア、かな。多分。記憶は、ぐちゃぐちゃ」
「ホマリア……? うーん、心当たりないなぁ」
「……僕も、無い。でも、だから、二人合わさってるから、クレイテリアじゃなくて、オーゼルで、いい」
「わかった。それじゃ、とりあえず巣穴に戻る? みんながオーゼルを受け入れてくれるかは……うーん、どうだろ。君もクレイテリアの記憶があるなら多分」
「……無理。僕らは、蟻の魔物種以外に対して、当たりが強いから」
「だよね」
じゃあ。
「魔王国ってところ、行ってみる?」
「……女王が、許すかな」
「僕が頼んでみるよ! 大丈夫、殺されやしないさ。だって僕は」
──本物のクレイテリア、だからね。
オーゼルとクレイテリアが魔王国へ行きたいと言ってきたので、オーゼル側のバックアップも取った上で好きにしていいと告げた。これであいつらがどこぞで死んでも、無機物の魔物娘化の実例は消えない。
実の所、単数種の魔物娘の自己増殖だって、俺にとっては予想外だった。いや植物種が増えそうだな、ってところまでは思いついてたんだが、まさか番がいない状態で哺乳類の魔物娘や鳥類の魔物娘が増えるとは思わねえじゃん。未だにそこについては、ちゃんとした原理がわかってないし。あれだ、母体の神秘ってやつ? 知らんが。
増えたのを確認した時は、結構舞い上がったものだ。
ただ自己増殖で増えた魔物娘は、幼体と呼んでいる程に"魂の規模"が小さい。成長すれば成体の時と同じようにはなるから問題は無いんだが、如何せん年数がかかる。だからこそ俺は"複製"の成功にあれだけ歓喜したわけだな。
既に黎樹の"魂の摂取"可能範囲は大陸の四分の一くらいにまで拡大していて、魔王国周辺であればどこへ行ってどこで野垂れ死のうと掠取は可能だ。
ファムタやティータが頑張っているかどうかは知らないが、黎樹の種をばら撒こうと決めた時点以降魔王国へ向かった魔物娘達には、その体内に黎樹の種を仕込んである。消化の出来ないそれは、排泄物として対外に排出されることだろう。
やっぱり種を運ぶといったら便だよな。植物に倣う事は多い。
あとはオーゼルが自己増殖を繰り返しまくって、無機物の魔物娘が量産されれば、無から有を作り出す実験は完成だ。最後の最後が魔物娘任せになってしまうのは、まぁしょうがない。時間以外の解決方法が無い事柄ってのは結構あるもんだ。俺も万能ってわけじゃないしな。【魔法でなんでも出来る能力】みたいなチートでも貰えばよかったやもしれん。
……いや、貰っても多分使わないな。なんでも出来たら何にもやらなそう。仕事しなくて趣味まで失ったら、人間として失格だよな。
そういえば、クレイテリアを置いておく囲いを作ってみて思ったんだが、俺の
【衣食住からの解放】によって家としての機能は一切要らないんだが、物置兼居住スペースになっているせいか、物が溢れてきて仕方ない。クレイテリアとオーゼルのバックアップなんか、人間大のポッドが二つ並んでるんだ。狭い狭い。
んー……じゃ、久しぶりに家、建てるかぁ。
これまでの魔物娘に関する研究や実験で、「凝るのは楽しい」という知見を得たので、いい感じの家を建ててみよう。外見だけな! 中身は全部倉庫でいいだろ。
……家の魔物娘とか、作れんのかな。
「出生率が低下した村、ね……」
「どうかしたの、シオン。この依頼書、なにかおかしいかしら?」
「いえ。ちょっと気になっただけだから」
「ふぅん。あ、ファムタさん達行ってしまうわよ」
「うん、今行く。先に行っていて、マルダハ」
見遣るのは、森の方。
自分たちが生まれた森。黎き森。
「……今は、無理」
その反対。今自分たちが向かっている方に、目を向ける。
幾人かの女性が、自分を心配そうに見つめていた。
「……でも、いつか」
今は決意を秘めて。
未だ世界に唯一人の、人間の魔物種である彼女は、希望の方へと歩を進める。
いつか。
必ず。
僕っ娘はいいぞ
クレイテリアは蟻の魔物娘だけど、すっぱいものが苦手らしいぞ! 蟻酸はすっぱくないのかな!