死に目に魂貰いに来るタイプのロリババア   作:Pool Suibom / 至高存在

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気分を害したって言ってくる人いるけど、注意したからね! 今後もエグいよ! 気分を害するなら読まない方がいいよ!

※R15表現が最後の方アリです。いんもらーる。


二兎追う者一石二鳥

 魔王様は人間種ではない。

 

 何を当たり前の事を、と言われてしまうだろう。魔王国以外の人間にとっては、魔王国は魔物種と亜人種の巣窟で、その頂点に君臨する魔王が人間ではない事くらい、わかりきっているじゃないかと。

 だが、建国の王であり魔王様の父であった前国王は、人間だった。亜人種からしても短いと感じるたった30年だけ王の座に就き、病か老衰かは明かされていないが、亡くなってしまったのだ。

 

 魔物種の子は魔物種になる。魔物種と人間種の子は亜人種に、魔物種と亜人種の子も亜人種に。亜人種と人間種の子も亜人種になって、人間種と人間種の子は人間種になる。魔王国に住まう者なら、幼年期に学舎で必ず習う遺伝子の話。

 前国王の奥方が魔物種や亜人種だった、という話は聞いていない。

 聞いていないし、何よりそもそも、魔王様の身体に特徴として出てくるべき魔物種のそれが一つだって存在しない。先祖返りの可能性はゼロではないが、その容姿は、良くも悪くも人間種に収まっていると言えた。

 

 けれど、魔王様は人間種ではない。

 

 だって──500年も生きる人間種なんて、いるわけがないのだから。

 

 

 

 

 200年から300年程前から、(くさむら)の旅人たち、と呼ばれる少数の集団が大陸の各地を訪れている事が確認されている。魔物種のみで構成されたその旅団は、目的に「安住の地を探している」らしく、見つけるために旅を続けているのだと、訪れた国や村の住民に話している。

 魔物種であるというのに人間種に敵対しない珍しさからか、はたまた問題の解決能力からか、莽の旅人たちは住民に歓迎されることも少なくはない。

 その中でもシオンと名乗る、一見して魔物種であるとはわからない少女は、莽の旅人たちの中でも一番人気であると言えるだろう。そういった格付けをしてしまうのは人間種の性であるのだが、手を出すような真似をする者がいなかったのは幸いだろうか。友好的であるとはいえ魔物種。もし敵意を持たれたらと想像するに、被害の甚大さは恐ろしいものになっていただろうから。

 

 とにかく、そのシオンという少女は、莽の旅人たちの中でもとりわけ人気で、その物憂げな雰囲気や知的な言葉遣い、そして圧倒的な強さに惹かれ──皆が彼女の秘密を、その出自を暴かんとしてしまうのは、時間の問題であったと言えるだろう。

 むしろ200年も300年もよく保っていたものである。ただ、悲しいかな。人間種は群れの生き物であっても完全な統率が取れるというわけではなく、いつだって必ず、欲に負けた「ぬけがけ」が、全体に負債を背負わせるのである。

 

 

 魔王国の建国から500年。

 魔物種の巣窟ということもあってか、幾度となく討伐隊の組まれたそこは、しかし国を挙げての戦争、というのに恵まれた事は無かった。恵まれた。あるいは、ふっかけられた、だろうか。戦いよりも縛られない日々を過ごす事の方が楽しかったから、少なくとも魔王国の魔物種は他国を侵略する、なんて面倒なことをする者がいなかったのだ。

 その姿を腑抜けだと、平和ボケだと馬鹿にする声も確かにあった。森から出て、しかし魔王国へ移住せずに周辺諸国を襲いに行った魔物種たちだ。女王の支配下であったストレスの反動からか、はたまた人間種や亜人種を見下していたからか、魔物種の半数ほどは今なお人間種の天敵として恐れられている。

 

 きっかけは"恋心"だった。

 シオンという魔物種に惚れてしまった一人の王族が、その出自を調べるために、幾人かの護衛を引き連れ自国を出て、魔王国へ訪れた。魔王国にも少ないとはいえ人間種がいるから、その訪問自体は珍しがられたものの、拒絶されることなく通された。

 通されて、しまった。

 

 魔王国内の人口比率は、魔物娘が10%、人間種が5%。そして残った85%を亜人種にしている。

 完全な実力主義のこの国は、奴隷や従者、あるいは"愛玩動物"が制度としてでなく存在していて、決して平和であるとは言い難い。人間種と亜人種の暗黙の了解として「魔物種には喧嘩を売らない」というのがあるくらいで、この国には遠慮も配慮も存在しない。生き残りたければ、強くなれ。強くなければ飢えて死ね。

 それが魔王国だ。

 

 それは勿論、他国からの訪問者にも適用される。

 

 結果から先に言えば、その王族は死んだ。護衛の部下が有能であったのが最大の不幸だろう。シオンという少女の出自を唯一知っているとされる魔物種を努力で見つけ出し、見つけ出してしまい、それを王族に報告してしまった。

 200年、300年前の出来事だ。人間種の寿命は50年から80年。亜人種は150年程。文献に残っていないというのなら、一番信憑性に富むのは魔物種の記憶である。

 

 王族はかの魔物種にシオンについてを聞きに行って、話す事は何もないと一蹴され、しつこく聞き縋って、殺された。

 その程度で、と思うかもしれない。でも、それが魔王国なのだ。魔物種は温厚だが、人間種に親密なわけではない。友好的なものも一部分だけは存在するが、ほとんどが「温厚なだけ」である。邪魔だと思えば一旦は飲み込んでくれるだろうが、しつこければ対処をする。

 況してやそれが、自らの友人たちに関する話であれば、多少、過敏な反応になるのも仕方がないというものだ。

 

 斯くして戦端は開かれる。

 これまた有能で無能な護衛の部下が、黙っているという選択肢もあっただろうに、忠義に篤く王族の死を国に伝えてしまったものだから、国側も腰を上げざるを得なかった。

 

 アジュ・ルビーィズ。それが国の名前で、この戦争の名でもある。

 

 

 

 

「戦争? ……魔王国と?」

 

 それは、言外に「馬鹿なの?」というニュアンスを多分に含んでいるのだろう聞き返し。否、シオンがそんなこと言うわけがないと男どもは言うかもしれない。

 例の王族の不憫さと言えばいいのか、彼の者が国を出た後すぐ、莽の旅人たちはルビーィズを訪れていた。

 

「殲滅されて終わりじゃないかしら」

「ええ、ですから……助力をいただけないか、と」

「……言っている意味が、よくわからないわ」

 

 今度こそ、冷たい目線だった。

 シオンと話しているのは国の重鎮の一人。彼もまた莽の旅人たちを好む人間種であるが、その容姿というよりは、問題の解決能力に重きを置いている。どころか亜人種を目に見えて差別する程には、魔物種の異形たる見た目を嫌悪しているのだが、おくびにも出す事は無い。

 自身の好悪と評価を分けるくらいはできる男だった。

 

「魔王国との戦争に、お力添えをいただけないかと言っているのですよ」

「私達が魔物種である、というのは、知っているわよね」

「ええ、勿論です。……ですが、魔王国を好いてはいないのでしょう?」

 

 これは多分、男でなくとも気付くことだ。莽の旅人たちは、魔王国の話をあまり好いてはいない。話をはぐらかすし、シオンとマルダハに至っては口を開こうともしない。余程嫌な思い出があるのか、はたまた何かをしでかしてしまったのか。

 どちらにせよ彼女らが魔王国を嫌っているのだろうことは確実に思えた。

 

「お断りするわ。私達は、あの国に近づきたくはないのよ」

「それは残念です。……ところでシオンさんは、死に目の妖精(ポンプス・イコ)という妖精をご存じでしょうか」

「っ!」

 

 わざとらしくしょんぼりした男が、ふと思い出した、とでもいう様に、その名を口にした。

 

 シオンの反応は劇的だった。驚き。怒り。あるいは憎しみ。あらゆる負の感情が折り重なったようなそのに、男は満足げに微笑む。

 

「……知っているわ。死に際をうろつく妖精。白いワンピースの少女で、彼女が現れる事は、身近な誰かの死の合図だと」

「ええ、そうです。その死に目の妖精(ポンプス・イコ)ですが」

 

 ──戦場となるだろう平地に、ぽつんと佇んでいる姿が発見されたそうですよ。

 

 男は笑みを深めて、そう言った。

 

 

 

 

 黎き森の女王(ドーレスト・ホルン)は全知全能ではない。万能ですらない。

 それは莽の旅人たちにとっての共通認識だ。

 御伽噺に知られる"魔物たちの母"であることは認めたくなくとも事実だし、恐ろしい知識量と薬品の在庫数、そして黎樹を用いた神出鬼没さや耐久性能は、確かに脅威ではある。

 けれど術式に対してはかなり疎かったり、魔物種のことについても全てを知っているわけではなかったりと、"隙"とでも呼ぶべきものが沢山ある。女王はあくまで自分の事にしか興味が無いから、その興味範囲外で起きた事を調べようとすらしないのだ。

 

 それは、反撃の嚆矢として、明確にすべき部分であった。

 

「魔王国との戦争、ね。随分と……愚かな事を考えるもんだ、人間種ってやつは」

「うん。そこには同意します。けど」

「女王が出た、と。今度は何をするつもりか……」

「戦場は、たくさんの命が死ぬ。でも女王は、死体にはあまり興味を示さない」

「するとすれば……やっぱり、()()()()()()()"群れ"の魔物種の創造、かしら」

 

 土壁の囲いで作り上げた簡易居住スペースに、十人はいた。

 ファムタとファール。シオンとマルダハ。そして"哺乳類"の魔物種であるアウラとオーロラ、"蟲"の魔物種であるモアレとファサラド。"鳥類"の魔物種であるタブラとラサ。

 シオンとマルダハ以外、それぞれが対を為して同じ顔をした、不思議な空間だ。

 

「"人間"の魔物種、って事か。恐ろしい話だね」

「戦争はもう止まらないのか」

「ええ。人間種にとっては面子、あるいは矜持というものが、命よりも大切にされるの。悲しい事にね」

 

 女王は全知全能ではない。思い込みの勘違いもよくするし、理解したと思った事の奥行きがさらに広がっていたことだってザラなのだ。

 

 その証拠が、シオンとマルダハだった。

 

「シオンはだから、そうして私と競い合ったんだものね」

「懐かしい話ね」

 

 覚えていた。

 人間種だった頃の記憶と、亜人種だった頃の記憶。

 亜人種のある学者は記憶は脳に宿る物だと力説していたが、ここに証拠がある。首を落とされ、元の脳を失ったはずの魔物種二人が、過去を覚えている。

 それは実は、女王自らの気付いていた"魂の規模"に纏わる事実であるのだが、女王自身が"抽出元"とも魔物娘とも対話をしないから、わからなかった話。

 

 女王には粗があって、隙があって、知らない事が沢山あって──ならば、完全とは程遠い。

 あの巨悪を、世界より失くすことは出来るのだと。その確信が、莽の旅人たちにはあった。

 

「どっちがいいと思う?」

「残酷な選択ね」

「非道な天秤ね」

「"集めるのを阻止する"か"集めたものを奪う"か」

「……」

 

 何故女王が黎樹を拡散したがるのか。それについて、莽の旅人たちは長らく研究を続けていた。そもそも女王が何故魔物種を作り出しているのか、それすらも彼女らはわかっていない。かつてファムタがジャクリーンの噂話に対して思った「逆じゃないの、それ」という言葉が真実であるなどと露知らず、しかしこれが女王の中継器の役割を果たしている所までは掴んでいた。

 つまるところ女王は大陸全土を黎き森にしようと目論んでいて、それに対抗するためには"黎樹の入ってこれない土地"を創る必要があると。少なくともそこまでは、わかっているから、それを目的に動いている。

 

 その調査の中で、気になる事例が散見されることがあった。

 黎き森はこの大陸の中心部に位置するのだが、そこから離れれば離れるほど、つまり大陸外縁部に行けば行くほど、国というものは少なくなってくる。あるのは町村ぐらいで、中でも小さな町や村、あるいは集落の"出生率"が、年を追うごとに低下しているという話がそこかしこであるのだ。そしてそれは今に始まった話ではなく、記録されている限りでは100年程前から少しずつ、少しずつ、新しい子供が生まれなくなってきているのだと。

 さらに比例して、家畜の出産率や農作物類の収穫率も下がってきていて、廃村となった場所も少なくはないと。

 

 これが極一部の地域で起きている事なら、飢えて死ぬのは弱いからだと切って捨てていたかもしれない。魔物種として、本当に危なくなったら奪えばいい、という心は、シオンとマルダハ以外に根付いているものだ。

 けれど、ここまでの規模で、ここまで同じ現象であるとなると、自然と原因の推察が出来てしまう。

 

「命には、限りがある。私達は……いくつもの命を持っている」

 

 アウラが自らの胸に手を当てた。

 彼女と、その半身たるオーロラは"哺乳類"の魔物種だ*1。それは複数種の魔物種とされる他四人も同じで、祖母に"森"の魔物種を持つマルダハもまた、その感覚を持っている。

 唯一シオンだけがその感覚を有さないが、長年連れ添った家族のような存在の言葉を疑う事は無い。

 

「単数種の魔物種は、一人でいるなら、問題こそないんだと思う。けれど魔物種は自分だけで増える事が出来てしまう上に中々死なないから、本来亜人種や人間種、それに動植物が法則としていたはずの命の総量の法則を乱してしまう。それが多分、この問題の原因」

 

 世界には限りがある。大陸の外には海しか存在せず、海の先は、滝となって落ちるのみだ。この小さな世界は、そもとして保有する命の総量が少ない。それが、何度も話に出ているとある亜人種の学者と莽の旅人たちが話し合って出した"答え"だった。

 誇大妄想家と罵られた亜人種の学者は、名をオーマと言う。

 

「……問題は、"問題があるのかどうか"って事よねぇ」

 

 女王はこの世にいてはいけない存在だと思う。復讐の気持ちもあるし、これ以上その被害を出さないために、討伐すべきだとも思う。

 しかし、女王が魔物種を作り出す事が──魔物種にとって、何か不都合になるだろうか。

 

「人間種が少なくなったところで、亜人種が少なくなったところで……困りは、しない」

「今回の戦争でもし、本当に"人間"の魔物種が作られるとしたら、次に生まれる人間種はどれだけ減るのかな」

「一つの国が兵を挙げて戦争を行うのだから……それは勿論、一つの国の半分くらいの量は、減るんじゃないかしら」

「戦争には亜人種も出ると思う?」

「魔王国を守るために、出ると思うわ。……そうしたら、"亜人"の魔物種も?」

 

 究極的には、やっぱりどうでも良い話に見えた。

 彼女たちの目的はあくまで女王の討伐であり、世界を救う事ではないのだから。

 

 けれど。

 

「……王家も……あの子達も、戦争に出る、と思う?」

「……出る前に終わる、とは、思う」

 

 懸念。あるいは杞憂なのかもしれない。

 ただ事実として魔王国には置いてきた娘達がいて、そうでなくとも、口を噤んで自分たちを見送ってくれた友人が、沢山いる。

 ルビーィズとの戦争には勝てるだろう。魔王国側は、もしかしたら無傷での勝利を収めるかもしれない。

 けれど、女王が相手となるのなら。

 

 女王の所業の是非ではなく、友人や家族の安全の問題。

 

「シオンとマルダハは、残ってもいい。思い入れは、ないでしょ」

 

 ファムタが言う。シオンの家族は人間種で、とっくに死んでいる。マルダハは魔王国に繋がりのある存在を有していない。魔王国にだって大した思い出は無いだろう。あの重鎮の男は嫌っている、などとほくそ笑んでいたが、好いても嫌ってもいない、が正しい。何の感慨も持っていない。

 だから、来る必要はないと。

 

「いえ、行きます。みんなの故郷を守るためなら」

 

 そしてもう一つ。

 確かめたい事があるから。シオンは、それだけは内に秘めたままに。

 

「私も行くわ。風の噂によれば、魔王様も元気にしているらしいのよね。少しあって、話したい事があるの」

「あぁ、それは私も気になっていた。あの男、まだ生きているらしいな。人間種か、本当に」

「赤子の時に女王の強化を散々に受けた人間種。あたしらにしてみれば、なんで女王があの人間種を助けたのか、ってのも気になるところなんだが……」

「決まったね。でも、ルビーィズに味方をするわけじゃないよね」

「勿論。魔王国を……いえ、大事なみんなを、女王から守りに行くのよ。良く知らない人間種のためじゃ、ないわ」

 

 アジュ・ルビーィズの戦い。その行く末は──さて。

 

 

 

 

 無機物の魔物娘の創造に成功した事で、魔物娘の幅がぐんと広がったように思う。オーゼルもしっかりと自己増殖を行っているのは確認済み。俺はこの世界の法則の一つに打ち勝ったわけだ。いやまぁ打ち勝つのが目的じゃないし、今までが負けていたわけでもないんだが。

 家の魔物娘、というのはまぁ、出来なかったんだが。あの時の俺はどうにかしていた。だって家って基本的に有機物じゃん。普通に木材の魔物娘が出来るわ。だめだねー人間調子に乗ると。後々冷静になっていや馬鹿だろって思うようなことも必死に取り組んじゃうんだ。wikiをくれwikiを。

 

 ただ、"微かに魂の宿る無機物水"の研究成果を用いて、ブラッシュアップというべきか、スライム娘の改良版を作る事には成功した。今度こそ血液をコアにしない、液体の魔物娘だ。例のごとく種としての強さは虫の魔物娘と同じか低いくらいなんだけどな。でもこれ、酸性の液体とかを纏えばこう……アシッドスライム的ななんかになるんじゃね? 知らんけど。

 

 いつも通り可燃性ガスの噴出する泉……湖……水溜まり? に放しておいた。

 

 無から有を作り出す実験はとりあえずこれでendって事になる。くぅ疲。

 

 

 さて、元の研究というべきか、"魂の規模"の拡張についての実験に戻ろうと思う。

 "魂の規模"はたとえ生まれた状態の、謂わば無の状態からであっても、記憶が複製されていたり巨大な感情を抱きさえすれば、"経験"の横幅がぐんと拡張する事が確認されている。ファール含むキマイラ娘ズ#1がそうだし、オーゼルもそうだな。一応クレイテリアもか。

 ただ、移植先に既に"魂"が存在していると、"魂"は定着しない。"魂"は同質であればくっつこうと、異質であれば反発する。

 

 話を戻して、この法則を元に考えてみた事がある。

 

 ──興奮剤って、"魂の規模"を増やせるんじゃね?

 

 感情が爆増する事で"経験"が拡張されるなら、感情を昂らせる薬を用いればひいては"魂の規模"の拡張に使えるんじゃないか、という。

 興奮剤ってのは、アレだ。その、こう、色々とカーッとなるやつ。あんまり口に出しづらい奴。いやまぁ合法のものもいくつかはあるから一概にってわけじゃないんだが。あ、この世界ってそういう法律あんのか? あっても関係はないんだけどさ。

 勿論一時的に昂った感情は時間と共に萎んでいくんだろうが、昂っている状態で摘み取ればいいんじゃないか、っていう、そういう話。

 

 まぁ無理だったわけなんですが。

 

 "魂の規模"には、形というものがある。球状であると、前に述べた。けれどそれは、感情と言うのが足並み揃えて発達していくから、であるようなのだ。勿論ばらつきはあるけれど、怒りや憎しみが発達したら、その裏面には喜楽や快楽が追随する。悲しさばかりを持っているように見えても、裏には深い愛情とやらがあったりする。

 そういう風に、見えていなくとも伴って育っていく感情、というのが"魂の規模"の球状を作っているらしかった。

 適当な魔物娘に興奮剤を使用してみたところ、"魂の規模"は刺々しい形になったり、大きく棘が生えたり*2、一点は膨張して他が縮小したりと、球状が保てなくなってしまった。

 "魂の造形"とでもいうべきかな。そういういびつな状態で"魂の摂取"を行ってみても、蓄積値は元の状態と変わらない。あれだけ興奮していたのに、あれだけ怒って、あれだけ嘆いたのに、特に普段と変わらない蓄積値しか得られなかった。

 

 が、何も得られなかった、というワケじゃない。

 

 いつも通り魔物娘を見繕う時に成体と幼体のどちらもを10匹くらい用意したのだが、双方共に"魂の造形"の膨張収縮の変化幅が最大になった時の"魂"の質が、非常によく似たものになる、という実験結果が得られた。普通は個体ごとにそれぞれあるはずの"魂の規模"が、興奮剤による最大感情の時だけ誤差があるかないかくらいにまで似通る。薬が抜けた時、元の"魂の規模"の質が多少の変化を起こしている事も分かっている。

 そしてその実験を行った後、家の中の一室に入れておいた魔物娘全員が互いを好き合っている姿が観察されている。自己増殖を可能とする魔物娘が、である。これは謂わば、同質の"魂"がくっつき合おうとする法則の現れなんじゃないかと俺は睨んでいるわけだ。

 

 その後も興奮剤の投薬を繰り返してみると、やはり初めはバラバラだった魔物娘達の"魂"の質はどんどん似通ってきているようで、この実験を繰り返せば"魂"が融合して、一匹の魔物娘になるんじゃないだろうかという推測を立てた。

 一匹一匹の恐怖や愛情を拡長するより、10匹分の一匹の拡張を行った方が、遥かに楽である。

 それは勿論10匹、50匹、100匹と増やしていければ効率は跳ね上がっていく。

 

 さらにこの法則は、魔物娘だけでなく、人間種や亜人種にも適用できるんじゃないか、と。

 

 うんうんうんうん。

 いいことづくめ!!

 

 やっぱり思いついたら何でもやってみるべきだな!

 

 

 

 

 ずっと、おかしいな、とは思っていた。

 だって貴女は、私で。私は貴女で。

 

「ファムタ」

「……ファール」

 

 皆には言えない。

 けれど、どうして、こんなにも。

 ジャクリーンに感じていたものとは違う。こんなにも。こんなにも。

 

「……自分なのに」

 

 どうして──愛おしいと、思ってしまうのか。

 

 

 

*1
亜人種の学者によって動物の系統というのは事細かに別たれているのがわかっている。

*2
はっきりと視認できるわけではないが




ガールズラブだもの!!

※私用により明日6/10(wed)の更新はありません。
予約投稿じゃない事に驚いたな!

莽の旅人たちという名前は自分たちで名乗ったわけじゃなく、とある学者が、ならばこういう名前はどうでしょう、といって付けた名前だったりするぜ!

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