共闘開始、列車の鬼覚醒――
※無限列車序盤~中盤戦
※誤字報告ありがとうございました!
「杏寿郎」
「やはり来ていたか、狛治。後ろを切り離したのだな!」
「鬼を剥がせばただの車両だからな。乗客の避難に手っ取り早い」
「もっともだ!」
ぎょろりとした獅子の瞳が友を映して笑う。言葉をかわすあいだも二人の周りには剣跋と乱打が飛び交い、まるで演舞でもしているようだ。
「お前は前方へ行け。外から見たこの列車、まるで生き物のようだったぞ。先頭車両が頭なら、頸もその辺りだろう」
女性客に刺さりそうな肉槍を蹴り砕き、狛治は羅針が感知した殺気へと拳を放つ。この車両の肉塊は、おおかた杏寿郎の刃に切り裂かれ、再生に集中しているようだ。再度促せば、杏寿郎はひらりと一足で六車両目へと移り乗った。
「お前はどうするのだ」
「この車両も切り離す。すぐに追うから、気にするな」
「うむ、頼んだぞ!」
金属がぶつかり合う音と共に、炎柄の後ろ姿があっという間に車両を駆け抜けていく。後方車両は完全に狛治に任せるつもりなのだろう。
「主、いけますか?」
【いつでもよいぞ】
狛治の中で不敵にひびく少女の声。床から剣山のごとくつきあがる触手を避け、天井を蹴って連結器に鋭い踵落としを入れれば、それは粘土のようにひしゃげて崩れた。離された車両が一気に失速する中、乗客を護りながら、四方に血を散らし、再度の陽光を迸らせる。
【なんぞ、嫌な予感がするなぁ……狛治、早う行こう】
金烏はいつもどおりの落ち着いた声音だが、当代一の巫女の嫌な予感は必ず当たる。急がねば、と前方から外に飛び出す狛治だったが、線路に着地する刹那、羅針に引っかかる殺気を紙一重で避けた。
「!?」
【これはこれは、なんとも醜い】
狛治がいた場所に深々と突き刺さるのは、ひと際太く鋭い触手だった。否、すでに触手とはかけ離れた毒々しさをもつ、凶器そのものだ。ざらりと鉄の光沢をもつ甲殻に覆われたそれは、俊敏なしなりで再び鎌首をもたげた。
ここで足止めされれば、前の車両から引き離されるばかりだ。二度目の突き刺しを蹴り上げ、一瞬の溜めを作る。そして突き上げた乱打―鬼芯八重芯で砕くなり、滅式の応用で前へと飛んだ。
すでに列車は蒸気ではなく、鬼の力で動いている。その証拠に、かろうじて輪郭だけが残る車体は、蠢く鉄の檻へと化していた。羅針の探知で探れば、すでに炭治郎は先頭車両の入り口に到達しており、二両目後方は伊之助が、三両目は善逸がそれぞれ乗客を守っているようだ。杏寿郎の気配は後ろの三両を激しく前後しており、鬼の攻撃が激化しているのが感じ取れた。
六両目の後部に捕まり、片手で扉を引きはがす。中は鉄の残骸が散らばり、蠢く肉の壁が斬撃を入れられた名残で血液を流していた。杏寿郎の姿はないため、そのまま二両を進み、連結部分を砕く。
【狛治、乗客を護れ!】
鬼を剥がす術を、と五両目内に戻った狛治だったが、金烏の声と同時に察知した殺気に、全方面に乱打を繰り広げた。
「ちいっ」
致命傷になりうる触手の槍は砕けたが、何人かの人間は眠ったまま手足を貫かれている。明確に、守り切れなかったのだ。
四方を囲まれた二両は、空間も視界も足りない。それならば、と頭上の広い範囲を薙ぎ払うことで車両一つの屋根を吹き飛ばした。もう一両の上半分も、全力の横蹴りで削り取る。悪あがきか、先ほどの長い槍が飛んできたが、あえて肩に受けて固定する。
「主、今です!」
【わかっておる、悪鬼退散!!】
狛治に刺さっていた槍がぼろぼろと崩れていく。これで四両、乗客の半分以上を救出したことになる。列車を乗っ取った鬼にとって、乗客は餌であり、鬼狩りに対する人質なのだろう。まだ死人が出ていないのが不思議なぐらいの猛攻だ。
遠目に見える列車の前半分はガタガタと揺れており、今にも脱線しそうな様子だ。ここまで届く轟は、善逸が戦っている音。そしてこの距離をして肌に突き刺さる剣気は、間違いようもなく炎柱のものだった。
「杏寿郎がいて、まだ頸を切れていないのか」
【無限列車の鬼は本来なら下弦の壱だが、喰らった人間の数からして、上弦に繰り上がっておるかもしれんなぁ】
ぎり、と短い牙をかみしめる狛治と、彼の目から状況を見つめる金烏。また追いつかなければと駆け出した護鬼だったが、深い木々の合間に突如として【立ち上がり】吼えた異形の形に、足は止めないまま鋭く息をのんだ。
グオオオオオオオオオッ!!
巨大な肉の塊が直立し、体中からあの槍の触手を生やして自らの体内を突き刺している。腹の中で戦っている鬼狩りたちを攻撃しているのだろう。もはや列車の名残もない巨体は醜く蠢いており、今にも手足でも生やしそうだ。そして、何よりーー
「適合しきれていない」
そうつぶやいた狛治の顔には、僅かな哀れみが浮かんでいた。
※ ※ ※
いきなり足場が垂直になり、炭治郎はかろうじて脇の座席の背もたれをつかんで落下を免れた。機関室への扉を切り開けた瞬間、列車が揺れに揺れ、世界がぐるりと回ったのだ。
「うわぁっ、伊之助、大丈夫か!?」
「俺は元気だ!! でも他のやつらがやばいぞ!!」
ぶらさがりながら視線を巡らせれば、半数以上の乗客が座席から投げ出され、何名かは荷物まじりに折り重なって、三両目に続く扉の方に落ちてしまっている。伊之助も炭治郎と同じように座席につかまっていたが、器用に座席の背もたれに乗り移り、手近なけが人の様子を見ていた。
鉄の触手による攻撃は一旦収まったが、列車そのものが咆哮をあげるという異様な状況に戸惑いを隠せない。それに、炭治郎の鼻は充満する腐った血肉の臭いでおかしくなってしまいそうだった。
「どうにか、この人たちを避難させたいけど、どうしたらいいんだ」
背もたれに片膝をつき、刀を握る手に力をこめる。窓の名残から確認した地上への距離は、とても受け身も取れない人間を放り出せるものではなかった。
グオオオオオオオオオッ!!
またもや暴力的な叫びが上がり、ぶわりと車内に殺気が満ち溢れる。炭治郎は咄嗟に身構え、外から襲いかかる鉄の槍を幻日虹でかわした。続けざまに追ってくる切っ先を、乗客をかばいながら捌くも、足場が安定しない空間では傷が増えていくばかりだった。
「うおおおおおっ、猪突猛進!!」
下では伊之助が同じように奮闘しているが、彼の方が守る人数が多い分、避けきれていない。隣の、今やひとつ下の車両でも、善逸が繰り出す雷の轟音がひっきりなしに聞こえていた。ビリビリとここまで空気を震わせているのは、さらに下を護っている炎柱の戦闘だろう。
「炭治郎聞こえるか!」
槍をまたひとつ切り落としたところで、外から良く知る声が届いた。
「狛治さん、聞こえてます!」
窓の外をのぞく余裕はない。しかし狛治が、この立ち上がった列車の足元にいるのは理解できた。
「乗客を窓から投げ出せ! 合間をあける必要はない、全てこちらで受け止める!」
「えっ、そんな大丈夫なんですか!?」
「無茶苦茶だぞ睫毛野郎!!」
「いいから、早くしろ! 杏寿郎、善逸も聞こえているな。お前たちもやるんだ!」
「よもや、とんでもないぞ狛治!」
杏寿郎の声も聞こえてくる。そして、何かを外に投げ出す音も。鬼の臭いであまり外の様子まで嗅ぎ取れなかったが、杏寿郎も、そして善逸も客を避難させることを優先しているようだった。触手の攻撃は緩まない。炭治郎は迫りくる波を切り払い、機関室から転がり落ちて座席に引っかかっている車掌の襟首をつかみ、室外へと放り投げた。
次々と放り出される乗客たちを、触手の攻撃が襲うのを嗅ぎ取り、まさかと窓の外に頭を出す。そうして少年が見たのは、正確な衝撃波で落下中の人間への攻撃を弾きながら、器用に何人も受け止めては地面におろす護鬼の姿だった。
「うわぁ」
「すげえな!! よし、どんどん落とすぜ、がはははっ」
汽車の乗客全員を外に出すことに鬼殺の剣士たちが尽力する中、開け放たれたままの機関室からは、絶えず腐臭が漂っており。ズルリ、ズリュリとまだ誰にも気づかれることなく、金属と滑る肉がこすれる不協和音が広がっていくのだった。
【登場人物紹介】
狛治/猗窩座
主人公。列車の中で戦う任務だったはずが、巨大怪獣との戦いにシフトチェンジしそう。不死身なので怪我は怖くないが、乗客の命を護るのに結構必死な護鬼さん。
恋雪
ヒロイン。引き続きお留守番。自分もいつか狛治と五感を共有したい、かわゆい奥さん。
金烏
ラスボス系巫女さん。まさか大正時代にリアル怪獣バトルに参加することになるとは思っていなかった。戦闘は狛治にお任せ。ダイナミック乗客投げを即興で考えついた狂人。
竈門炭治郎
原作主人公。列車でうたたねしそうになったら鬼に襲われ、ただいま反撃中。先頭車両は目前、臭いが酷すぎる。機関室の扉をやっと開けたと思ったら、列車が列車じゃなくなった。お守り装備済。
我妻善逸
列車でうたたねしたら鬼に襲われ、依然寝たまま反撃中。三両目担当。壱の型六連での戦いは、もはや立体機動並み。急に列車が立ち上がったため、ちょっと怪我をした。お守り装備済。
嘴平伊之助
列車でうたたねした瞬間に鬼に襲われ、怒りの反撃中。鉄のミミズとか何それ新しい。二両目担当。列車が立ち上がった際、転がりまくった乗客たちを助けるのにてんやわんや。お守り装備済。
煉獄杏寿郎
列車でうたたねしそうになった瞬間に鬼に襲われ、柱として恥ずかしい。かまぼこ隊と合流すべく先頭車両を目指していたら、急に列車が立ち上がった。最初に乗客を投げた人。お守り装備済。
魘夢
新米上弦の陸。上弦の欠員補充のため繰り上げ選別が行われ、原作開始四年前にめでたく昇進。なお、他の下弦は累が退治された後に解体された。過剰に血をもらったうえに乗客を食べまくり、ついにはメガ進化したが……