Everything I Need   作:アマエ

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鬼殺隊登場、そして帝都へ――

※原作開始数週間前→零話の続き→原作開始数週間前




弐話

とんでもない誘いを受けたその晩、竈門一家は全員で囲炉裏を囲んで遅くまで話し込んだ。実際のところ、宮城におわす方の意向であるため結論は決まっていたが、炭治郎に寄せられた期待に葵枝が不安を拭えなかったのだ。けれども、炭治郎自身が鬼の祖から家族を守るという強い意志を示したため、その話は不安を残しつつも打ち切られたのだった。

 

そして、あくる朝。

 

子供を六人連れての引っ越しは困難するかと思いきや、下の幼い子らは、狛治たちと共に訪れた若者らに運ばれ、少ない荷物も引き取られたため、むしろ炭や小物を売りに行くときよりも楽な移動となった。新たにやってきた三名は、揃って暗い色の洋装に帯刀しており、日本刀を初めてみる子供たちに囲まれるという一幕があったものの、その興奮も無事過ぎ去っていた。

 

「皆さんは狛治さんの仲間なんですか?」

 

炭治郎が花子を背負う若者―真菰と名乗った木彫りの狐面を頭に載せた女に問いかけると、彼女はおっとりした瞳をちろりと向け、首を横に振った。

 

「ううん、私たちは鬼殺隊から派遣されたの。護鬼(もりき)さんの主が私たちの主と懇意になさっていて、同じ目的のために協力してるのよ」

 

「鬼殺隊、ですか。狛治さんが言っていた【鬼を狩る者たち】って……」

 

「私たちのことよ」

 

「鬼殺隊は特殊な武器と呼吸方法を駆使して、人間でありながら鬼と渡り合う剣士の集団だ。政府非公認の組織だが、まぁ、暗黙の了解で帯刀を黙認されているんだ」

 

二人のやりとりに、先頭を恋雪を背負って歩く狛治が補足する。

 

「護鬼さんの主が取り計らってくださったおかげで、だいぶ活動しやすくなった。鬼退治にも大きな戦力を投下していただいて、大変感謝している」

 

口元に大きな傷がある宍色髪の青年―錆兎は口調こそ固いが、炭治郎のみが嗅ぎ取れる臭いから、彼が心から感謝していることがわかった。

 

六太を片手に抱き、もう片手に竈門家の荷物を抱えた錆兎は、水の呼吸を使う甲の位の剣士だ。彼と真菰、そして出発してから一言も発していない、茂を肩車した美青年―義勇は、三名とも同じ師に師事した兄弟弟子だった。

 

「先日の任務でも、護鬼さんに世話になったんだ。なぁ、義勇」

 

「ああ」

 

「前蹴り一発で鬼が木っ端になったのは爽快だったな」

 

「ああ」

 

「任務後の手合わせも実に有意義だった。最後に立ったまま気絶してしまったのは、男として恥ずかしかったが……」

 

「もうごめんだ」

 

錆兎の言葉にぽつぽつと返していた義勇だったが、最後の部分のみ、無表情と言葉少なさとは裏腹に非常に感情豊かな臭いをさせた。炭治郎でなければわからなかったことだが、どうやら狛治との手合わせは熾烈を極めたようだ。

 

鬼とも戦いとも無縁の生活だった竈門一家は、時々出てくる物騒な表現や恐ろしい鍛錬の一幕にひいたり笑ったりしながら歩いていたが、麓の村を通り越してからは、背負われていない子供たちから順に口数が減り、街道上で日が暮れる頃には、葵枝も額に汗をかいて歩みを遅くしていた。ただ一人、狛治に勧められてヒノカミ神楽の呼吸法をしていた炭治郎だけが、あまり疲れを見せずにいた。

 

「次の町で自動車を手配してるから、もう少し頑張って」

 

「はぁ、はぁ、だ、大丈夫です」

 

「ぜぇ、まだ歩けるよ。自動車に乗るの、楽しみだ」

 

真菰の励ましに頷く禰豆子と竹雄だったが、健気な答えに反して、顔色は悪い。朝から一度しか休憩していないため、体力の回復が行えていないのだ。天気が良い日でも気温は低く、白い息を吐くごとに足が重くなっているだろう。

 

「日の入りが早いな」

 

ぽつりと義勇が呟いたとおり、真冬の太陽はすでに山の影に沈みつつあった。子供たちを連れた移動にしては破格の距離を稼いだが、車に乗り継ぐ町まで、まだ一刻はかかる距離だ。

 

「織り込み済みだから問題ない。錆兎、義勇、真菰、いけるな」

 

「「「応」」」

 

恋雪をそっと下ろした狛治が、かわりに右手に禰豆子を、左手に竹雄を抱え上げる。真菰が花子を義勇に手渡し、小柄な体に見合わない力で葵枝を横抱きにすれば、残るは炭治郎だけとなった。

 

「炭治郎、お前なら俺たちについてこれる。町まで頑張れるか?」

 

「は、はいっ。でも恋雪さんはどうするんですか?」

 

華奢な恋雪はもとから山道を一人歩きできないため背負われていたのだ。まさか置いていかないだろう、と狛治に問うと、彼は愛おしげに妻を見やって言った。

 

「大丈夫だ。恋雪、すまないけれど、先に戻っていてくれないか」

 

「わかりました。主様に何かお伝えすることはある?」

 

「すべて順調で、今夜中に到着すると」

 

「ええ。それじゃあ、お屋敷で待っています。あなた、気をつけてね」

 

にっこり笑った恋雪は、次の瞬間、その姿を消していた。

 

「え……?」

 

信じられない出来事に絶句する炭治郎。しかし狛治も錆兎らも平然としており、それぞれが抱える竈門家の者たちが目を白黒させるのもどこ吹く風だ。結局、何も聞くことができないまま、走り出す彼らの背を負うことしかできなかった。

 

 

※ ※ ※

 

 

鬼と少女を客間にとおし、ソファに座るよう促した金烏は、庭先と廊下と室内が血の汚れで大惨事になっていることを意識から締め出し、彼らの向かいのチェアーによじ登るように腰をおろした。赤袴のしわをするりと撫でて正しつつ、二人を見つめる。見つめ返す濃灰と黒蜜色の瞳はそろいの不安を浮かべていた。

 

「さて、私に聞きたいことが山ほどあると言っていたが、全てを答えるにはそなたの時間が足りん。わかっておるな、狛治、いや、名も知らぬ鬼よ」

 

金烏の冷めた眼差しに、猗窩座はこくりと頷いた。鬼舞辻無惨の血は、すでに体内に数滴しか残っていない。いつ体が崩壊してもおかしくない状態なのは、己が何より理解していた。

 

「なれば、最初に選択するのだ。私のものになって世のために働き徳を積み、家族とともに来世に渡る日を早めるか、このまま鬼舞辻の狗として塵となり地獄に直行するか。ちなみに……」

 

言葉を区切りにんまりと笑う金烏に、猗窩座は胡乱気に目を細めたが、続く言葉になけなしの血色で頬を染めた。

 

「私のものになるならば、恋雪に生前と変わりない体を与えたうえで、祝言を上げさせてやるぞ」

 

この時点で、賢しい子供は勝利を確信していたが、ダメ押しとばかりに続けた。

 

「それに、後ろでハラハラしておるそなたと恋雪の父親と話ができるようにもしてやろう」

 

「親父と師範も、ここにいるのか?」

 

「うむ。そなた、見るに堪えんほど罪状まみれなくせに、かわゆい女子と親と師匠に見守られて、とんだ果報者だなぁ」

 

そうか、と涙ぐむ猗窩座に恋雪がよりそい、その様子にほわほわと気が緩みそうになる。金烏は顔を引き締め、三つ目の利点を口にした。

 

「最後に、これは私にとっても重要なことだが……私に仕えれば、そなたはさらに強くなれる。いや、必ずやなってもらう。私の寿命が尽きる日まで、人を食わず、日光に当たっても頸を落とされても死なず、この国を、御上を、民草を護る鬼として戦ってもらいたいのだ」

 

金烏の望みは、深々と下げられた頭と噛みしめるように述べられた「俺なんかで良いのなら」という言葉に叶えられることとなり。

 

かくして、十二鬼月・上弦の参であった猗窩座は去り、残ったのは新たな鬼。血の呪いのかわりに使役の呪(しゅ)を刻まれた、狛治という名の護鬼だった。

 

 

※ ※ ※

 

 

帝都の裾ともいえる立地の町に到着したのは、日が完全に落ちた時分だった。

 

抱き上げられたまま、経験したことがない速度の全力疾走で運ばれた竈門一家は、町の入り口にとめられた大型の自動車に感動する気力もなく、座席に下ろされてもぐったりしていた。必死で狛治たちの背中を追ってきた炭治郎も、足を止めるなり通常の呼吸に戻ってしまい、その場で白目をむいて崩れ落ちた。

 

「わあ、炭治郎だいじょうぶ?」

 

「男が情けない、とは言えんな。使い慣れない呼吸でよく頑張った」

 

「見どころがある」

 

水の呼吸の剣士たちに口々に労わられ、家族と一緒に車に乗せられた炭治郎だったが、残念ながらもう何も聞こえていないようだった。

 

「あの、ここからはどうするのですか?」

 

満員になった車の中から、炭治郎を膝枕した葵枝が不安げに尋ねる。隊士たちの様子から、一緒に乗ってはいかないのだと悟ったのだ。

 

「俺たちの役目はここまでだ。貴方たちはこのまま車で帝都に入り、目的地を目指してもらう。引き続き護鬼さんが付き添うから心配無用だ」

 

「この車は八咫烏のお屋敷が手配したものだから、運転手さんに任せておけば大丈夫だよ。長い移動お疲れさまでした。ゆっくり休んでね」

 

錆兎と真菰が疲れ切った親子をねぎらって声をかけ、義勇は無言のまま目礼する。

 

「何から何まで、本当にありがとうございます。その、炭治郎は鬼殺隊に入るかもしれないので、その時にはどうかよろしくお願い申し上げます」

 

「ああ、炭治郎は根性があるし、もう知らない仲ではない。鬼狩りは危険が付き物だが、できるかぎり支えよう」

 

厳しい錆兎だが、さすがに葵枝に対して突き放すことはせず、静かに頷いて車のドアを閉めた。すぐにエンジンがかかり、寝静まった町に小さく音がこだまする。狛治も本来荷物をのせるための車の上の部分に猫のように飛び乗り、剣士らにひらりと手を振った。

 

「錆兎、義勇、真菰、世話になったな、ありがとう。またすぐ会うと思うが、それまでの武運を祈っているよ」

 

「護鬼さんもご武運を」

 

「またね!」

 

「(ここまで強行軍だったにも関わらず、文句ひとつ言わずについてきた子供たちを早く休ませてやらなければ。夜も遅いし、きっと町中でも危険だ。少しでも早く屋敷に着けるように)もう行け」

 

端折られすぎた義勇の一言も、長い付き合いになればご愛敬だ。

 

ゆっくりと動き出した車は、その天井部分に胡坐をかいた狛治を載せて帝都を目指す。僅かな街頭に照らされた夜は、まだ始まったばかりだった。

 

 




【登場人物紹介】

狛治/猗窩座
主人公。様々な好条件に一本釣りされ、めでたくジョブチェンジした。恋雪は俺の奥さん。

恋雪
ヒロイン。幽霊なので、自在に実体を解いたり主人のもとに瞬間移動したりできる。狛治さんのお嫁さん。

お父さんズ
今回もセリフなし。

金烏
結構真面目に勧誘して、その条件としてかわゆい若夫婦を爆誕させた人。プチグレーなラスボス系巫女さん。

仲良しな水の呼吸の三人衆
錆兎と義勇の階級は甲、真菰は丙。錆兎と義勇は親友でライバル。凪を完成させたことで義勇の方が次期水柱に内定しており、納得してないのは本人だけ。しれっと救済されてる人たち。

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