Everything I Need   作:アマエ

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刀鍛冶の里へ、上限の影ーー

※刀鍛冶の里防衛戦前の様子





弐拾漆話

 

 

ベベンと琵琶の音が鳴り響き、童磨は無限城へと降り立った。招集されるのは数か月ぶりだが、その前が十二年、そのまた前が百年以上前だったことを顧みれば、異常な頻度だ。

 

「童磨殿、ご壮健で何よりです」

 

「おお、玉壺も相変わらずだなぁ」

 

美しい壺から頭だけ出している上弦の肆に、童磨も朗らかに返し、きょろりと辺りを見回した。こうして鬼舞辻無惨に呼ばれるのは、上弦の鬼がまた欠けたということだろう。最初に姿を消した上弦の参・猗窩座は主替えをしたことが発覚したが、その後にいなくなった新米の上弦の陸は鬼殺隊と件の裏切り者に討伐されてしまったのだ。

 

「うーん、順当にいくとあの子たちが死んだのかな」

 

「恐ろしい、我らも随分と減ってしまった……この不吉な流れを断ち切らねば」

 

「半天狗殿は相変わらずか。そう気を揉まなくとも大丈夫さ。仲間が死ぬのは悲しいが、弱い順から消えただけ。猗窩座殿は、まぁ、恋でもしたんじゃないかい?」

 

涙ぐんだり笑ったりとひとしきり表情筋に仕事をさせ、上弦の弐はけらけらと周りを見やった。

 

「はて、黒死牟殿はいずこかな?」

 

「上弦の壱様は最初に御呼びしました。ずっとそこにいらっしゃいますよ」

 

琵琶鬼・鳴女の静かな声にあわせるように、空気に溶け込んでいた気配がわずかに主張する。すぐ近くの個室に座す男鬼の姿に、童磨は大仰に驚いた。

 

「黒死牟殿、そんなところに隠れていたのか!」

 

「騒々しい……無惨様が……御見えだ」

 

ゆっくりとした口調の上弦の壱がそう言うなり、鬼たちはそろって膝をつき、天井を仰いだ。頭上に現れた強大な気配は間違えようもない。上下さかさまで薬の調合をしている男こそ、鬼の祖・鬼舞辻無惨だった。

 

「妓夫太郎が死んだ。また上弦の月が欠けた」

 

涼やかな無惨の美貌に、びきりと血管が浮き上がる。手にしていた試験管が微塵に砕け、その破片は重力に逆らわず降り注いだ。城全体が揺れるような怒気に、へらへらしていた童磨でさえも声をかけることはできなかった。

 

「自滅した魘夢、人間に切り刻まれ無様に死んだ堕姫、鬼狩りを一人も殺せず討たれた妓夫太郎。いずれも役立たずだった。お前たちも同じだ、私はお前たちに期待しない」

 

「またそのように悲しいことをおっしゃいなさる。俺が貴方様の期待に応えなかった時があったでしょうか」

 

怒り心頭な無惨に軽い口調で言い返せる童磨は、ある意味の勇者だ。しかし無惨は彼に視線さえ向けず、新しい試験管に毒々しい色の液体を流しこんだ。

 

「お前は、あの裏切り者と遭遇しておきながら、みすみす見逃した。お前もだ、黒死牟」

 

「返す……言葉もない……」

 

「次こそは必ず連れ帰りましょう。太陽を克服した鬼を、貴方様に献上するとお約束いたします!」

 

「いつも口ばかり達者なことだ。私は、貴様らの存在理由がわからなくなってきた」

 

無惨から立ち上る殺気がいよいよ黒い茨になりそうな時、玉壺が必死に体を伸ばし、声高に言った。

 

「無惨様!! 私は違います! 貴方様が望まれる情報の手がかりをつかんでおります」

 

鬼の祖の禍々しい赤眼がぎゅるりと異形を見据え、次の瞬間、玉壺の頭は無惨の手の中にあった。美しい主人の顔が間近にあることで、玉壺は状況も気にせず夢心地だ。

 

「言え」

 

「は、はい! 鬼狩り共の刀を作っている刀鍛冶共の里の場所を把握しました。産屋敷の所在をしる者がいるやもしれませぬ。そうでなくとも、里を全滅させれば新たな日輪刀が打たれることはありますまい」

 

「……玉壺」

 

「はい!!」

 

「万全に用意をしてから、半天狗と共にその里を殲滅してこい。失敗は許さん。手こずるようなら鳴女に呼びかけろ。黒死牟と童磨を向かわせる」

 

それだけ言って琵琶の音とともに消えた無惨が去り際に捨てた頭を、童磨は雑に受けとめて自らの目前にかざした。

 

「ど、童磨殿、放してくだされ」

 

「全面戦争とは胸が躍る! 玉壺、是非俺を呼んでくれ。むしろ最初から一緒に行こう!」

 

信者から奇跡と称えられる虹色を爛々とさせる童磨。答え次第では何をするかわからないような笑顔を浮かべていたが、自分の右ひじから先が玉壺の頭ごとずるりと落ちたことに、あれと眉をあげた。

 

「童磨……我らは……呼ばれるまで待機だ」

 

黒死牟は害意も悪意もなく、淡々とそれだけ言って刀をおさめる。そして童磨にもう目もくれず、風のように掻き消えた。床に落ちた玉壺も頭部に生えている手で琵琶の鬼のほうへと走り、半天狗を道連れに消えてしまう。

 

一人だけ残された童磨はつまらなさそうに鳴女を見やったが、彼女は無言で弦をつまびき、彼を現世の住処へと戻したのだった。

 

 

※ ※ ※

 

 

何人もの隠の案内で刀鍛冶の里に到着した甘露寺蜜璃が最初に向かったのは、自分の日輪刀を作成した鍛冶師ー里長・鉄珍のもとだった。彼女が扱う刀は、一般的な刃物ではない。至極薄く、しなりによる変幻自在の攻撃を可能とする特別な武器なのだ。そのため、研ぎに出す際にも製作者に頼む必要があった。

 

「よろしくお願いします! 私はお宿にいますから、終わったら鎹鴉か隠に言伝をお願いします」

 

「ほいほい、任せておきなさい」

 

信頼できる手に刀を預け、るんるんと宿へと向かう。大正の女性にしては非常に大柄であるが、愛らしい顔立ちと奇抜な色ながら豊かな髪、そして倒錯的な隊服で丸見えとなっている肢体が、蜜璃を非凡な美女に象っていた。

 

この天女のごとき美しさなら、町を歩けば引く手あまたかと思いきや、実は真逆だ。蜜璃の現実離れした容姿に大抵の者は萎縮してしまい、また、非凡を嫌うこの国の気質は彼女にとことん優しくなかった。

 

(ゆっくり温泉に浸かって、美味しいものをたくさん食べて、素敵な殿方に出会いたいものだわ)

 

蜜璃が夢見る理想の相手は、彼女よりも強く、それでいて優しく、願わくば見目が整った男だ。最初の条件がすでに相当の高望みだが、それを指摘する者はいない。うっとりとまだ見ぬ相手を思い浮かべながら歩いていると、前方から声をかけるものがあった。

 

「蜜璃殿じゃないか。奇遇だな」

 

若々しくも落ち着いた声音に、蜜璃はぱあっと笑顔を浮かべる。

 

「狛治さん、こんにちは! こんなところで会えるなんて嬉しいわ!」

 

辺りが輝いているかと錯覚するほど喜ぶ少女剣士に、声をかけた男は子供を見るような目を向ける。短い黒髪にけぶる睫毛の美しい目元をした、洒落た羽織に薄花色の着流し姿の男ー護鬼狛治は、蜜璃の師である煉獄杏寿郎の友であり、御上に侍る使役鬼。そして、鬼殺隊の共闘者であった。

 

「俺も嬉しいよ。先日は、恋雪にぱるふぇが美味い店を教えてくれてありがとう。あの後二人で行ったんだが、恋雪ひとりでは食いきれなくてな、俺も少しいただいた」

 

「まぁ、狛治さんお店のものが食べられるようになったの?」

 

「恋雪が匙ですくってくれた分だけな」

 

「きゃあああ素敵っ、あーんってしたのね!?」

 

「あ、あぁ」

 

豊満な胸元で手を握りしめる恋柱に、狛治がややひきつった笑みで返す。明らかに気圧された様子に、蜜璃は「あらやだ私ったら」と赤くなった。

 

「そういえば、狛治さんはどうしてここに?」

 

気を取り直して話題を変えれば、護鬼も何もなかった風に応じる。

 

「【八咫烏の家紋の御方】より里の護衛を仰せつかったので、しばらく滞在するんだ。あの方の嫌な予感は必ず当たるのでな、念には念をと、産屋敷殿も快く案内をつけてくれた」

 

「嫌な予感……じゃあ、私も警戒しなくちゃね」

 

「ああ。もしもの時は頼りにさせてもらうよ、蜜璃殿」

 

「まかせて!」

 

蜜璃がむんと握ってみせた拳は、本気を出せば男の柱以上の威力をもつ。狛治は初対面でその特異な体を手放しに誉めてくれた【素敵な殿方】だ。そして、外見こそ自身と同年代の護鬼夫婦が、まるで妹や娘にするような優しい目を自分に向けていることを蜜璃は知っていた。そんな相手に頼りにされれば、どれだけでも頑張れるのだ。

 

「それじゃあ、また後でな」

 

狛治は笑って、ひらりと手を振って里長の館の方へと去っていく。そのまっすぐ伸びた背中をきゅんきゅんしながら見送って、蜜璃も宿へと足を向けた。日頃の隊服から着替えて温泉にいく予定なのだ。

 

(あの妻帯者の余裕が素敵! どっしり構えた旦那様みが素敵!! 恋雪さんの名前を言う時のとろりとした声が何より素敵っ!!)

 

天まで上るような気分は、風呂上りに逆立った髪の少年に話しかけて無視されるまで、ぽわぽわと蜜璃の胸の内を温めていた。

 

 

※ ※ ※

 

 

時は少し遡り、狛治が刀鍛冶の里に出立する一刻前。

 

遅い朝の活気に彩られた【八咫烏の家紋の屋敷】では、庭先で巻き藁が細切れになる騒音や、下働きの者たちが掃除をする音、女官たちが様々な業務にあたる声が飛び交っている。その中には、扉が閉ざされた祈祷の間から漏れる少女の声がひっそりと混ざっていた。

 

「……急急如律」

 

襦袢姿で上半身をもろ肌脱いだ青年の前に、巫女服姿の少女が御幣を掲げて立っている。その斜め後ろには、薄紅の着物姿の可憐な少女が正座して、二人の様子を見守っていた。

 

巫女の少女ー金烏が真言を唱え終えると、何度目かの白光が青年ー狛治を包んで消えていく。入れ替わるように逞しい胸や背中に朱の文様が浮き出てきたが、それも血色がよい肌に溶けるように薄れていった。

 

狛治の美しい眦に戦化粧のように残り薄れていった色に、金烏は満足げに頷く。

 

「よし、これで万全だ。あとはそなたの働きひとつであるぞ、狛治」

 

「お任せください。必ずやご期待に応えます」

 

「戦闘が始まれば、恋雪とともに見せてもらうからなぁ、存分に励んでおいで」

 

一度平伏してから居住まいを正す狛治は、まさしく戦に赴くつわものだ。この頃やわい表情をするようになった年若い主を案じていた彼だが、出陣前の作戦会議と今しがた施された様々な術で、すべて杞憂であったと思い知った。金烏の苛烈かつ揺らがない軸をはっきり感じ取ったのだ。

 

「そなたは日ノ本の民を護るものだ。刀鍛冶共を頼んだぞ」

 

「はっ」

 

「さて、私は日々の仕事に戻るが……恋雪、見送りは任せてもよいな」

 

「はい、主様」

 

きびきびと御幣を片付けて退室した金烏は、これから執務にあたるのだろう。竈門炭治郎に痣を発現させようとしていた時ほどではないが、今回も夜通し狛治に術を施していて疲れているだろうに、平凡な立ち姿はまるで隙が無かった。

 

「ねぇ、あなた、主様活き活きとされていたわね」

 

「ああ、まるで悪ノリする子供のようだったな」

 

護鬼夫婦が仲睦まじく部屋を辞せば、かたんと戸が閉まった祈祷の間に静寂が広がる。しかし、金烏のように【よく見える】目を持つ者なら、重ねがけされたあらゆる呪(まじな)いの残滓が、いっそ禍々しい色合いで漂っている様子が見えただろう。

 

狛治が座っていた大きな正方形の布には、金烏の血を混ぜた墨で描かれた五芒星がひとつ。そして、その中央には黒ずんだ赤い文字で【惡鬼滅殺】と記されていた。

 

 




【登場人物紹介】

狛治/猗窩座
主人公。恋柱は恋雪と仲良しなので好感度が高い。やわくなった主を気にかけていたが、まったく心配いらなかった。大分ヤバヤバのヤバに色々と盛られている。半天狗と玉壺のことは嫌いとしか覚えていない。惡鬼滅殺!! 

恋雪
ヒロイン。留守番組。蜜璃ちゃんとは何度か女子会やかふぇとーくをしており、かなり仲良し。内心、某蛇柱応援している。主様が狛治さんを術まみれにするのを、うっとり見守っていたかわゆい奥さん。惡鬼滅殺、です!

金烏
脱ラスボスルート済巫女さん。留守番組。愛と正義()に目覚めたため、刀鍛冶の里での犠牲者ゼロを目指すべく、狛治を呪(まじな)い的に盛りまくって送り出した。手段を選ぶとは言ってない。鏡越しの観戦に有一郎も呼ぶ予定。惡鬼滅殺!!

甘露寺蜜璃
狛治さん『みたいな』殿方と是非結婚したい、恋に恋するキュートガール。恋雪を愛する狛治こそが理想であり、それゆえに完全に恋愛対象から外している。キュンキュンはする。煉獄の継子時代から狛恋に懐いている。

鬼舞辻無惨c/w上弦の月
パワハラ会議は通常運転。無惨様は護鬼の活け造りをご所望。これが禰豆子なら踊り食いだった。半天狗と玉壺は刀鍛冶の里を強襲、黒死牟と童磨は呼ばれたら参戦という命を受けた。何気に原作よりも数段ハードモードな条件だが……?

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