Everything I Need   作:アマエ

39 / 53


刀鍛冶の里防衛戦前日、戦う者と観戦する者ーー

※刀鍛冶の里にて、開戦前日まで




弐拾捌話

 

 

刀鍛冶とは、火の神を信仰し刃を打つ、ある種の神職である。彼らが祀る神は、金屋子神とも金山彦とも、もしくは全く別の様々な姿と名を持つが、その中の天目一箇神という一柱は天照大神の孫にあたる古き神だ。

 

「鉄珍殿、そろそろ顔をあげてくれないか。我が主は尊き系譜の御方だが、俺自身は大層なものではない」

 

「いいえ、いいえ、貴方様が纏っておられる眩い陽炎はまさしく大神の御加護! 本来ワシらのようなものが目にしてよいものではございませぬ」

 

面通しするなり畳にひょっとこ面をすりつけて平伏した小さな翁に、狛治は三回目になる言葉をかけたが、またもほぼ同じ台詞で断られた。平伏しているのは里長だけではない。その脇に控える面をつけた男二人も感極まった様子で体を伏せていた。

 

「いや、これは主の術によるものなんだが」

 

「護鬼様に警護していただけるとは……勿体ないことでございます」

 

「はあ。それなりに不自由を強いることになるが、いいのか」

 

「夕刻から日の出まで、この館に集まるだけでございましょう。何も不自由などございません」

 

伏せた頭に向かって一度説明した内容は、ちゃんと理解されていた。もうそれでいいか、と普通に接されることを諦めた狛治は、会話を切り上げてその場を辞した。

 

経緯はどうあれ、金烏がたてた作戦に必要不可欠な住人たちの協力は得られた。あの様子なら、毎夜一か所に集めて護ることができるだろう。絵物語では上弦の肆と伍が里を襲ったが、実際そうなるのであれば、街中での混戦だけは避けたかった。

 

(半天狗と玉壺。まったく興味がなかったうえに、入れ替わりの血戦を挑んでもこなかった連中だから戦法がわからん。主が見せてくださった絵物語の闘いでは、どちらも相応に厄介だったが)

 

下がり眉を寄せて考えながら里長の館を出れば、外はすでに夕暮れ時。金烏曰く、現実と絵物語はある程度の整合性があり、細部が変わっても大きな流れはそうそう分かたれない。このため、上弦二体による襲撃が近日中の晩である可能性が高いというのが、年若い主人の読みだ。

 

すでに里全体が羅針の探知範囲内にあり、今のところ己以外の鬼の気配はない。琵琶鬼が直接、上弦を送り込んできたとしても、対応までの時差はそうないだろう。

 

(蜜璃殿は今晩里を離れる。炭治郎は俺より先に里長のところに寄っていたようだし、玄弥のことは本人から聞いた。明朝には時透無一郎が到着、それから一週間前後の夕暮れ以降に上弦が襲撃、夜半あたりに蜜璃殿が駆けつける)

 

金烏に見せられた記憶の大筋は十分すぎるほどだ。不安要素があるとしたら、ここに狛治がいることによる変動と、これまでの接触がほぼ皆無の霞柱だろうか。無一郎に関しては、柱たちから聞いた人物像から不安定な子供だとしかわからない。その原因が己の行いにあるため、狛治は多少の負い目を感じていた。

 

(予定通りに運べば、無一郎と蜜璃殿はこの戦いで痣の者になる。鬼舞辻との決戦に不可欠な戦力強化だ)

 

狛治は戦う覚悟がある者がその命を費やすことを厭わない。力なき者は己はおろか、大切な者も護ることができないと知りすぎているからだ。

 

(鬼舞辻無惨に打ち勝つには、人が強くなるしかない)

 

狛治と有一郎という過剰戦力を有する金烏が、なぜ単独で鬼舞辻を倒しに動かないのか。その理由は明らかで、自分たちだけでは勝てないからだ。金烏は、上弦の壱を倒すまでに柱の半数が脱落したと語った。現実主義かつ結果主義な少女巫女は、誰より正しく戦況を理解しているだろう。

 

「ままならんものだな」

 

「どうしたんですか?」

 

思わず突き出しかけた拳は衝撃波ではなく風圧を生んだ。びゅうと前髪が舞った拍子に傷跡が現れる。きらきらした眼差しで護鬼を見上げる少年は、目が合えば満面の笑みを浮かべた。

 

「こんにちは! 甘露寺さんから、狛治さんが来てるって聞いて、待っていました!」

 

「ああ、こんにちは、炭治郎。すまなかったな……考え事をしていた」

 

「本当だ、物凄く眉間が寄ってる。悩み事ですか?」

 

力になりたいと全身で語り掛けてくる相手を笑顔であしらい、子犬をともなうように宿に入れば、通された部屋でさらに二人が待ち構えていた。

 

「狛治さん、本当に来てたんだ。た、助かった」

 

「玄弥くんひどいわ! 私にはおしゃべりしてくれないの?」

 

「あ、いえ、その……」

 

食事が山と積まれた前に、湯気がでそうに赤面した不死川玄弥と、その横にほぼ密着してぷんぷんしている甘露寺蜜璃の姿がある。それだけで何が起こっているのかを察し、狛治は炭治郎を小脇に抱えるようにして二人の向かいに腰を下ろした。

 

「蜜璃殿、袷を直したほうがいい。玄弥、お前も赤くなってないで注意してやれ。女性に肌を晒させたままなのはいただけないぞ」

 

「う、うん」

 

「あら、ごめんなさい、私ったら」

 

蜜璃が肌蹴まくった胸元と脚を隠している間、玄弥は座布団ひとつぶんの距離を避難していた。

 

「四人も知り合いが集まるなんて良い偶然ですね、狛治さん」

 

「そうだな、嬉しくはあるが、それだけでもない。蜜璃殿にはもう話したが、俺が来たのは里の警護のためだ。我が主【八咫烏の家紋の御方】の命で派遣されたんだ」

 

狛治の言葉に、にこにこしていた炭治郎も、赤い顔のままの玄弥も、浴衣をきっちり直した蜜璃も一変して背筋を伸ばす。この場にいるのは、いずれも闘う者なのだ。

 

「鬼が来ますか」

 

炭治郎の問いに、狛治はすました獣のような顔で頷いた。悩むのは後回しにして、今は来る戦いに備えるしかないのだと、内心で牙をむき出し嗤っていた。

 

 

※ ※ ※

 

 

庭先に所狭しと乱立した巻き藁の合間を、銀の軌跡が抜けていく。百以上ある的の内、藁が赤く色づけされたものだけを狙った斬撃だ。

 

バラバラとした音とともに、細切れとなった藁と木材が地面に散らばる。右手に太刀、左手に短刀を手にした有一郎は、転がった木っ端を確認した後、辺りを見まわし、ため息をついた。左方の椿の木の枝がひとつ、切断されて落ちているのを見つけたのだ。

 

「さすがに手数二倍になると制御が厳しいか」

 

有一郎が立つ場所から落ちている枝まで5メートル以上の距離がある。それでいて、女性の腕ほどの太さの枝の断面は滑らかで、吉光の短刀から飛んだ斬撃の切れ味を物語っていた。

 

まだまだだなぁと独りごちて、大小の刀を鞘に戻す。もう日がだいぶ昇っており、そろそろ昼食が用意されている時間だ。井戸がある水場で体をぬぐい、さっぱりした少年は、屋敷のほうから飛来した白い烏に、はてと目を向けた。

 

『有一郎、昼餉が済んだら祈祷の間においで』

 

「はい、金烏様」

 

式神から聞こえた少女の声に、珍しいなと思いながら即答する。今は狛治が不在にしているため、何か別の戦闘任務でも言いつけられるのだろうか。外のことは弟以外さして興味がない有一郎だが、戦いであるなら話は別。吉原での一件を挽回する機会を待ち望んでいるのだ。

 

『狛治の任務先に時透無一郎が来ておるから、そなたも遠視したいかと思ってなぁ』

 

「無一郎が!? 今すぐ行きます!!」

 

その名を聞くなり薄浅黄の瞳が輝き、有一郎の体は屋敷の方へと飛びださんとする。しかし、即座に届けられた少し冷えた制止で急停止した。

 

『まてまてまて。そなた、昼餉を完食してからでなければ部屋にいれんからな。』

 

「……はい」

 

思わず拗ねた声音が出たが、金烏はくすくすと意地悪い笑いだけ残して式をかき消した。残された有一郎は、烏が消えた場所をじとりと睨み、まずは厨房へと足を向けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「む、無一郎がグレた……嘘だ、あのぽやぽやで危機感がない優しい無一郎が……」

 

「有一郎君、大丈夫よ、しっかりして」

 

「大丈夫なわけないよ、ううっ、無一郎はあんな辛辣なこと言わないしやらない!」

 

「そなたを真似ているのではないか? ところどころ昔のそなたに似ているような」

 

「……ぐすっ、おれのせい?」

 

「主様、意地悪を言わないでください」

 

「おお、すまぬなぁ」

 

金烏を挟んで手鏡を覗き込んでいた恋雪と有一郎だったが、有一郎と瓜二つの少年が里の子どもに手を挙げたあたりで、片や畳にふせて嘘だ嘘だと否定に入り、片やそれを慰めるのに必死になっている。その様子を見て茶々をいれた金烏は、恋雪の平坦な一言で大人しく遠視へと目を戻した。

 

「有一郎、そなたが死にかけた時、あの弟は怒りに我を忘れて鬼を倒した。しかし、瀕死のそなたのことはどうすることもできず、狛治らがやってきた時には、虚ろな目でそなたの傍に倒れていたそうだ。そなたはもう死に体で、無一郎もそれを悟っていただろうなぁ」

 

穏やかに語る金烏に、涙目の有一郎が顔をあげる。鏡の中では、いつしかやってきた炭治郎と無一郎がもめている様子が映っており、ぼんやりした表情のくせに尖った態度の弟に視線が吸い寄せられた。

 

「産屋敷からの文で知ったが、無一郎は己が双子であることを忘れているそうだ。そなたが死んだと思い、悲しみのあまり記憶を封じてしまったのか。一人は寂しいゆえ、己に兄を投影しているのかもしれんなぁ」

 

金烏の声は遠く、しかしはっきりと聞こえていた。有一郎が見守る中、無一郎は炭治郎を昏倒させ、お面の子供から何やら奪い取っている。その後のからくり人形との戦闘から、一応理由があったのだろうと察せられたが、それにしても酷い態度だ。言われてみれば、昔小屋に訪ねてきた産屋敷あまねに水を浴びせようとした己に似ているかもしれない。

 

「金烏様」

 

「ならんぞ、有一郎」

 

「まだ何も言っていません」

 

「刀鍛冶の里には向かわせぬ。そなたの弟も、狛治たちも、これから上弦の鬼と戦うのだ。心乱させるわけにはいかんからなぁ」

 

鏡面から振り向きもしない金烏は取り付く島もない。恨めし気に巫女服姿の背をみつめる有一郎だったが、恋雪にそっと手を握られ、唇をかみしめた。

 

「主様、その先の予定もお話しいただけませんか? 狛治さんが戻ってきたら、有一郎君とどこに行くかを」

 

「なんだ、もう言ってしまうのか? 弟の雄姿を見せてからと思っておったが」

 

「お願いします」

 

普段、ほとんど金烏に物申すことない恋雪だが、こういうところは夫である狛治と同じだ。そして、花が浮かんだような可憐な眼差しに弱いのは、狛治だけではない。仕方がないなぁという顔で、金烏は口を開いた。

 

「有一郎、そう気をもまずとも、そなたの弟との面会はすでに取り付けてある。狛治が戻ったら、鬼狩り共の本部に案内してもらうとよい。それになぁ」

 

平凡顔に浮かんだ笑みは、はじめて有一郎に向けられた優しいもので、思わず涙が引っ込む。物凄く普通だけどそこはかとなく可愛い、と失礼なことを考えたのは口を裂けても言えないが、そんな思考も続く言葉で吹き飛んだ。

 

「無一郎は、兄のことがこの世で一等大好きだ。この私が言うのだ、そなたは何も心配せず、弟を応援しておればよい」

 

 




【登場人物紹介】

狛治/猗窩座
主人公。里長に会うなり平伏され拝まれてしまい、【よく見える】人の反応に戦慄した。なお、里長の目は太陽オーラと某大神風な戦化粧が見えている。馴染みの剣士たちと仲良くしつつ、里の防衛には余念がない。惡鬼滅殺!! 

恋雪
ヒロイン。留守番組。いつでも狛治さんの武運を祈っている。有一郎がしょんぼりしたので、お姉さんみが増した。かわゆい。惡鬼滅殺、です!

金烏
脱ラスボスルート済巫女さん。留守番組。観戦の準備は万端。有一郎のこともちゃんと考えてる。私も丸くなったものだ(ふふん) 惡鬼滅殺!!

時透有一郎
弟の姿を見れると聞いてルンルンだったが、色々とひん曲がってしまっている様子に頭を抱えた。金烏が言うことを疑わない程度には囲い込まれている。

竈門炭治郎
痣者として産屋敷の注目を浴びている。原作どおり蛍さんに刀を打ってもらうため里にやってきた。狛治だけでなく姉弟子の蜜璃と同期の玄弥もいてとても嬉しい。蜜璃とは、一か月だけ煉獄のもとでともに師事した仲である。

甘露寺蜜璃
思春期には刺激が強すぎる恋柱。与ラッキースケベキャラなだけで、けして痴女ではない。むしろ純で大変可愛いお嬢さんである。狛治さんの言葉が気になったので、本部に報告して里での滞在を延長した。

不死川玄弥
脇差のメンテで里に来たら、炭治郎に鉢合わせた。蜜璃と初対面で鼻血吹きそうになった。原作と異なった環境なので性格が丸いが、見つめ合うとお喋りできないのは変わらない模様。狛治製目玉のソーダ漬けを所持。

時透無一郎
記憶障害と兄の面影を追い求めているせいで色々とひん曲がっているが、ほぼ10割金烏のせい。大方原作通り。

刀鍛冶の皆さん
本連載では日輪刀を打つ鍛冶師は天照大神の孫である天目一箇神を信仰している設定のため、【良く見える】目をもつ里長は加護盛りまくった狛治が大神の御使いに見えた。生存フラグをせっせと立てている。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。