双子と祖先のおままごとーー
※ 時透兄弟c/w使役鬼な黒死牟のif番外編。宮仕えお祖父ちゃんが曾々々々ry孫を可愛がってます。
霞柱な無一郎はいません。
時は明治。武士の時代は終わり、宮廷においても帯刀する者が消えて久しい。しかし、何事にも例外は存在するもので、宮城の一角の屋敷では、着物姿の侍が主に首を垂れていた。
「上弦の弐の討伐、見事であった。ふふっ、流石は私の刀だ、次も期待しておるぞ」
「はっ、ありがたき幸せ」
「他に所在がわかっているのは上弦の陸だが……吉原か。そなた、色町の潜入は向かなさそうだなぁ」
文机を背に座る少女は、まだ12、3歳の子供だ。彼女の名は金烏。白に赤の巫女姿で楚々とした居住まいだが、その容姿は平凡以外に形容しがたく、どこにいても周りに埋没しそうである。しかし、彼女こそが八咫烏を祖とする古き一族の当主にして当代きっての異能者、そして最強の鬼の使役者であった。
やんごとなき少女の正面、部屋の入口から少しだけ進んだ場所で顔を伏せている男は、まるで戦国時代からやってきたような舛花色の着物に袴姿だ。癖がつよい黒髪を一つに結いあげ、体の左横に大小の刀を腰から外して置いている。涼やかな切れ長の瞳に通った鼻梁、薄く形良い唇。左の額と右頬下に広がる痣さえ紋様のように整った、一振りの太刀のように美しい若武者だ。彼の名は継国巌勝、かつて黒死牟と呼ばれた悪鬼だった男である。
「ご命令とあらば、いかなる場所にも参る所存にございます」
「しばし考えるゆえ、今日はもうさがってよい。双子がそなたの帰りを心待ちにしておったぞ。早う顔を出してやるがよい」
金烏の言葉に、美しい姿勢がぴくりと揺れる。一度深く頭を下げた男は、御前失礼仕ると述べて部屋を辞していった。
巌勝の気配が完全に遠ざかり、品よく整えられた室内にチチチと庭の小鳥のさえずりだけが届くようになると、金烏は肩を落として息を吐きだした。あの剣鬼は、明治の世になっても主家に仕える侍のつもりでいる。そうしたほうが格段に扱いやすいため、あえて誘導したとはいえ、生まれつき人の上に立つ振る舞いをしてきた金烏でなければ、早々に破綻していただろう戯れだ。
(主従ぷれいも楽ではないなぁ)
文机に向き直り、書きかけだった紙面に筆を滑らせる。数百名の信者を抱える宗教の本部が半壊し、その教祖が行方不明となれば、立派な警察沙汰だ。ある意味事件の黒幕である少女は、偽りない労いの心をもって警視総監への手紙をしたためるのだった。
※ ※ ※
巌勝が離れに向かっていると、ふいに前方がばたばたと騒がしくなり、寸分違わない可愛らしい声が言い合っているのが聞こえてきた。足音をたてて我先にと近づいてくる気配は大変良く似ている。
「この前は兄さんが先だっただろ、今日は僕の番!」
「順番なんて決めてないじゃないか! あっ、じいさま、おかえりなさい!」
「おかえりなさい!」
同じ長さの黒髪を流している子供とひとつに結っている子供が走ってくる。動きやすい作務衣姿なのをいいことに大股で駆けてくるのは聊か行儀が悪いが、巌勝は普段引き結んでいる唇を緩ませて二人を見守った。
先日12歳になった双子の少年は、まだ巌勝の胸ほどまでしか背丈がない。しかし日々鍛錬している彼らがお互い負けじと呼吸法まで使って飛び込んでくれば、元・上弦の壱といえど腰に力を入れて身構える必要があった。
準備万端といった風に両手を広げて待つ姿目がけて子供たちが突撃する。僅かの差で先にたどりついた髪を流している方―無一郎が巌勝の背に腕を回してぎゅうぎゅうと抱き着き、その背中ごと髪を結っている方―有一郎がさらに腕を回す。結果として挟まれた無一郎が「きゅぷっ」と気が抜けた悲鳴を上げたが、有一郎はすまし顔でさらに力を込めていた。
「ただいま戻った、二人とも元気にしていたか」
「はいっ」
「ぷはっ、兄さん酷い! おじいさま、僕ちゃんと毎日鍛錬したよ」
「俺もした。今日は無一郎に勝ったんだ!」
「昨日は僕が勝った!」
もともと口数が少ない巌勝を圧倒する勢いで双子がしゃべる。三人して団子になって離れに向かう中、巌勝は二人の頭や肩を優しくなでていた。
「そうか。では着替えたら剣を見てやろう。私に一撃入れられたら、明日は浅草に出かけるとするか」
「本当? じいさま、俺すき焼きが食べたい!」
「僕は寿司がいい!」
「では、昼餉も夕餉も外でいただくとしよう。お前たちが私に一撃入れたらな」
「「わぁい!」」
時透有一郎、無一郎の双子の兄弟は、巌勝が人間であった頃にこさえた子供の子孫だ。継国の家名は失われたものの、あどけなく整った白い顔は巌勝との血縁が色濃く表れている。四百年が過ぎた今になって子孫と巡りあう奇縁。それは剣技を極めるためだけに生にしがみついてきた鬼に、新たな道を示した奇跡でもあった。
何百年も一人で過ごしてきた剣鬼が、今では寝相が悪い子供たちに布団を取られたり蹴られたりしない夜の方が落ち着かないほど、家族との生活に馴染んでいる。任務でしばらく離れている時も、夜になれば彼らがどうしているか思いをはせるほどに。
「おじいさま、顔が人間のままだよ」
巌勝に横からしがみついている無一郎の薄浅黄の瞳がじっと見上げてくる。逆側からは有一郎も同じ顔で見つめていた。己の顔に手をやった男は、ああと今更気づいて擬態を解く。外ではずっと人間に扮していたのだ。
美しい若武者の額と頬骨の下に切れ目が入り、白い皮膚の下にきょろりとうごめく球体が浮き上がる。そして、整った鼻筋と口元はそのままに、四つの瞳が開眼した。所狭しと六つ目が配置された顔は、形相こそ恐ろし気なものではないが、誰が見ても妖怪変化の類だ。しかし、変貌を目の当たりした子供たちは嬉しそうに笑って巌勝の腕に抱きついた。
(よもや、このような日々を過ごすことになろうとは)
黒死牟として悪逆の限りをつくしていた頃は、想像だにしなかった生活だ。宮城に侵入したあの夜、年端もいかない女童の術中に落ち、主替えをさせられたのは屈辱でしかなかったというのに。
(御方様を主に戴き、私は再び侍になれた。一家の長として、立派な跡取り達を育てることができている。全ては御方様のお導き、ありがたいことだ)
一年と少し前、金烏に子孫の存在を教えられた巌勝が樵小屋を訪ねると、布団の中で事切れている女とぼろぼろの男の死体に縋って泣いている二人の子供がいた。親戚だと嘘ではない自己紹介をして何があったかを問えば、兄の有一郎がとぎれとぎれ一家を襲った不幸を語った。
その時点で、巌勝に思い入れはなかった。一目で子供たちが己の血を引いているとわかったが、それだけだ。遠い昔、家と家族を捨てた時、情も一緒に捨てた。夫婦を埋葬し終えて、双子を帝都に連れ帰ったのは、金烏が望んだから。本当にそれだけだったのだ。
宮城に双子が住まうようになって、金烏の命で彼らを育てる傍ら、剣の稽古をつけ始めた。変化があったのはそこからだ。
心優しく大人しい無一郎は、その性格に反して殺人剣の才があった。鬼狩りの才能が飛びぬけているとも言えた。呼吸を操る才も並外れており、あっという間に全集中の呼吸を身に着けた。
勝気で弟思いな有一郎は、剣技の一点のみにおいて巌勝の弟・縁壱を彷彿とさせた。万能型ではないが、一振りで幾重もの剣戟を飛ばす者は、巌勝の長い生においても初めてだった。
本来なら刀を一生手にすることがなかったであろう子供たちは、巌勝によく懐き、特に有一郎は昔ついぞ現れなかった月の呼吸の後継となった。巌勝が元人食い鬼だと知っても、彼らは変わらず慕い続けてくれている。縁壱によく似た眼差しを受け、やっと固く握りしめていた蟠りを手放せるところまで来たのだ。
「ああ、私はようやく報われた……」
無意識にこぼれたつぶやきに、双子は貌を見合わせた。
「じいさま、どうしたの?」
「おじいさま、泣いてるよ」
口々に気遣ってくる子供たちを抱きよせ、立ち止まる。そして、幸せでも泣けるのだと、六つの目元をぬぐわれながら思い知ったのだった。
【登場人物紹介】
継国巌勝/黒死牟
剣豪鬼。金烏を主君と仰ぎ、宮仕えな侍生活を謳歌している。実は金烏につかまった時、毒抜き拷問耐久レースに加え深層心理をえげつないレベルで踏み荒らされ、豆腐メンタルがおから状態になった。おからメンタル→ストックホルム→主従プレイと展開した結果が現状である。完全に金烏の掌で転がされており、全てが己を飼いならすための演出に過ぎないと気づく日はこない。
時透兄弟
お祖父ちゃんに甘やかされてる双子。12歳。随分前から居場所を金烏に把握されており、両親が死んだ直後に巌勝が訪れるようタイミングを計られていた。巌勝のために用意された演出。なお、本人たちは心からお祖父ちゃんを慕って懐いている。無一郎は月の呼吸の素養がないため、いずれ自分で霞の呼吸に近いものを派生させる筈。
金烏
主従プレイ中の巫女さん。代替わりの数分の間に、何故かハチャメチャに強い六つ目鬼が宮城に忍び込んできたので、即効ゲットした。原作知識から豆腐メンタルの面倒くさい奴だと解釈していたため、速攻メンタルブレイクする作業に入った恐ろしい女(当時よんさい) 主従関係での巌勝は従順で優秀なので、彼女なりに可愛がっているが、この世界線の金烏が人の心を育むことはない。