救援に現れた喜助の背後から心臓を抉らんとローレンスが迫る。
「おっと!」
気配に気が付いた喜助がそれを回避する。
「危ないっすねえ」
おどけた様に喜助が言う。それに対してローレンスは無表情だった。何も感じていないというわけではない。警戒しているからこそ余計な感情を表情に出さないようにしている。
「浦原喜助……藍染様から話は聞いている。曰く、自身の頭脳を越える唯一の存在だとか。あの方も大概だがお前も恐ろしいな。何をしてくるのか検討も付かない」
「買い被りですよ、アタシはしがない駄菓子屋の店長っす。少なくとも破面のトップが相手をする価値もない」
「謙遜だな。だが一つだけ間違っている。俺はトップじゃない」
そう言われ喜助が訝しげに目を細める。喜助はローレンスの霊圧を感じ、並の隊長格を凌ぐと言っても大袈裟でないと判断していた。
「嘘はよくないっすよ。そんな霊圧を出しておきながら」
「事実だ。藍染様が作った破面の中でも取り分け優れた力を持つ十人。
「へえそうなんすか? いや~色々教えてくれますねぇ」
「今の内容、知られて問題があるとも思えないな」
「おやそうですか? ある程度戦力を測れるかもしれませんよ」
事実喜助はローレンスの言葉から一つの見識を得ていた。
(
まだ底の見えない藍染の束ねる虚の軍勢。少しでも情報が欲しいというのが喜助の心境だった。
「測れたのか?」
「まっ、多少は……」
「多少なら問題はない」
「そっすか……じゃあ、まあいくッスヨ」
喜助の紅姫から紅く鋭い斬撃が放たれる。それをローレンスが虚閃で相殺する。
発生した爆炎を目隠しに響転を使い距離を詰めたローレンスの手刀が喜助を貫こうと迫る。
「啼け、紅姫」
ローレンスの眼前に紅い血で作られたような盾が出現した。血霞の盾と呼ばれる喜助の技だ。紅い盾にローレンスの手刀は弾かれ体勢が崩される。そして、その隙を見逃す喜助ではなかった。
「切り裂き紅姫!」
血霞の盾より無数の刃が撃たれる。
「ちっ!」
響転で無数の斬撃を回避していく。恐ろしいほどの反応速度と判断力だと喜助が驚く。とはいえ、これだけの斬撃の乱れ撃ちだ、しかもローレンスは体勢を崩していた為に初動が僅かにだが遅れた。そんな状況では流石の破面とはいえ全て避けきるのは至難の技だ。
どこまで避け続けるのか、そう思った喜助だが次の瞬間驚愕した。
ローレンスが涼やかな声でソレを口にしたからだ。
「縛道の三十九、円閘扇」
ローレンスが円形の盾を作り紅姫の斬撃を防いだ。
(まさか破面が鬼道を!?)
「破道の八十八、飛竜撃賊震天雷砲」
縛道から続けてローレンスは破道を使用した。ローレンスの右手から雷の砲撃が撃たれた。しかし、喜助も過去に護廷十三隊。その隊長の任を預かった死神だ。
「縛道の八十一、断空」
驚愕したとはいえ即座に対応に移った喜助の正面に防壁が出現する。断空。それは八十九番以下の破道を完全防御する術だった。血霞の盾では防ぎきれないと判断した喜助は詠唱破棄しこの術を使った。
「驚いたっすね……まさか鬼道を使ってくるとは。しかも、結構いい腕してますよ」
「―――詠唱破棄の断空で止めておいてよく言う」
ローレンスの鬼道はまだまだ粗削りではある。だが、護廷十三隊の並の隊長格を越える霊圧を持つローレンスだ。いくら断空とはいえ詠唱破棄した術で簡単に止められるとは少し予想外だった。
「……素手では無理か」
「ッ!?」
そう言い刀の柄に手を添える。喜助も厳戒態勢に入っていた。喜助が確認している限り鬼道を使う破面はローレンスただ一人。そんな特異な存在が他に何を隠し持っているのか。その聡明な頭脳をフル回転させあらゆる状況を想定する。
だが、ローレンスの刀が抜かれることはなかった。
二人の間を遮るように赤い光弾が走った。
「おいローレンスゥ!! ソイツは俺の獲物だ!!」
「……はぁ」
割り込んできた巨漢の破面。ヤミーの怒声を聞きため息をつきながらローレンスは柄から手を離した。
「お前がやるのか?」
「当たりめえだ」
「今のお前じゃ難しいぞ?」
「俺がこんな野郎にやられる訳ねえだろ!」
「そうかい、好きにしろ」
そういい後方に下がる。喜助は変わらず鋭い眼光で見ているがローレンス自身は既に手を出す気がないと手をひらひらと振りアピールする。勿論それを簡単に信用する喜助ではないが、敢えて無視して少し離れた場所からルピとヤミーの戦闘を観察することにした。
「……なんすかねえ? 今の技は」
ローレンスの手を出さないアピールを信用したわけではないが、一先ず目の前のヤミーと呼ばれた破面を倒すのが先決だと意識を切り替えた。
「知らねえなら教えてやる。今のは
「本当に教えるのか」
そう言いながらヤミーが再び
(ほう……)
ローレンスは何かに気が付いたが、ヤミーはそのまま地に落ちた浦原を虚弾により何度も追撃していく。そしてルピの戦況も動き出していた。
「やれやれ、ボクの邪魔してくれた奴だからボクが殺してやろうと思ってたのに」
つまらなそうにルピが言う。
「ま、しょーがない。こっちはこっちで楽しもうか」
喜助の攻撃により一時は脱出できた乱菊だったが。今再びルピの触手により拘束されていた。
「ホント話にならないよね。せっかくゲタ帽子が助けてくれたのにスーグに捕まっちゃうんだから。ま、八対三じゃ無理か」
アハハと笑いながら三人を虚仮にする。それを冷めた眼差しで見つめていた乱菊が口を開いた。
「……あんたさ、ずーっと思ってたけど随分お喋りなのね」
「―――それが何さ?」
ルピの嘲笑が止まった。
「私お喋りな男って嫌いなのよね。なんか気持ち悪くって」
その言葉がルピの癇に障ったのだろう。
「お姉さんさ、今ボクに捕まってること忘れてるでしょ? キミが今生きているのは僕の気まぐれだよ……だからさぁ、機嫌を損ねたら直ぐに串刺しだよ!」
背中の触手を操り乱菊の命を刈り取ろうとその形状を変化させ迫ろうとする。
「―――な、何だよコレ……?」
だがその触手が乱菊に届くことはなかった。ルピは背後から氷で拘束されたからだ。
「一度攻撃した相手に気を抜きすぎなんだよお前は。残心って言葉知らねえのか? 向こうの白髪頭は気が付いていたようだが」
「……ッ!? 何で言わないんだよローレンス!!」
「一人で相手すると言ったのはお前だろう」
何食わぬ顔でローレンスがそう宣うとルピの表情が憤怒で染まった。
「氷輪丸は氷雪系最強。水さえあれば何度でも蘇るさ」
冬獅郎の意思に応えるように周囲に冷気が充満していく。
「無駄だ仕込む時間は山ほどあった。お前は俺に時間を与えすぎたんだ」
無数の巨大な氷の柱がルピを囲むように出現した。
「お前の武器がその八本の腕なら、俺の武器はこの大気に在る水全てだ」
「な……」
氷雪系最強の斬魄刀『氷輪丸』。その名に恥じない圧倒的なスケールにルピが言葉を失う。
「千年氷牢」
冬獅郎が静かに告げた宣告を合図に氷柱がルピに直撃し閉じ込めた。
(ルピも慢心が過ぎるな。死神の隊長格があの程度で殺せる筈もなかろうに)
一方ヤミーは喜助の携帯用義骸による変わり身。そして
(なるほどさっきのはアレか。携帯用義骸とは面白い物を作る、それにこの短時間で
「さて、次はお前だぜ」
冬獅郎が氷輪丸の切っ先をローレンスに向けて言い放った。周囲には乱菊、弓親、一角もいる。一角は不満そうな顔をしている。あくまで一対一で決着を着けたいというのが彼の本心なのだろう。だが、冬獅郎はそれを認める訳にはいかない。
ヤミーは既に手玉に取られている。ルピもまだ無事だろうが自力であの氷から脱出するのは難しいだろう。となれば自分が動くしかないとローレンスが再び戦闘態勢に入ろうとした。
だが再び動く前に彼の優れた
「ここまでか……」
「何? それはどういう―――」
冬獅郎の言葉を遮るかのようにガルカンタが開いた。その場にいた三人の破面が
「……残念だったね隊長さん。ボクのこと殺せなくてさ」
ルピが
「隊長さん、僕の顔を忘れないでよね。次会ったら絶対キミのそのちっこい頭ネジリ切って潰してやるからさ!」
「ゲタ帽子! テメーは俺がぶっ殺すぜ!」
「捨て台詞にしてももう少し気の効いた台詞は言えないのか」
「「んだとォ!!」」
ルピとヤミーの怒声を最後に孔は閉じた。