番外十刃の破面   作:霧島楓

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今回セロについて独自解釈が含まれています。


vs剣八

 虚夜宮(ラス・ノーチェス)の外。虚ろな砂漠の中で向かい合う二人の男。

 一人は白髪の破面ローレンス・ロイス。もう一人は死神の男。ボロボロになった死覇装に白い羽織を着た男だ。二メートルを超える長身に眼帯を付け髪の毛を十一本の束にまとめそれぞれに鈴をつけている男だった。

 向かい合い優れた探査回路(ペスキス)でソレを感じ取った。

 

(底がまるで見えない……)

 

 この感覚に陥ったのは二人目だ。一人は自らの主である藍染惣右助、そして目の前の更木剣八。以前戦った浦原喜助も恐ろしいとは感じたが、その時は向かい合っただけでここまで感じることはなかった。

 

「お前が更木剣八か……」

「テメエか? ローレンスって破面は? 一角から聞いてるぜ。強いらしいな?」

 

 刃の削れた斬魄刀を肩に担ぎながら好戦的な笑みを浮かべる。

 

「がっかりさせんじゃねえぞ?」

 

 片手で刀を振り下ろす。

 洗練された剣術―――ではない。どちらと言えば喧嘩殺法―――いや、野性的と言う方が正しいかもしれない。洗練こそされていないがそれ故に恐ろしいほど力強さを感じる剣だ。

 それを抜いた刀で受け止める。互いの溢れ出す霊圧によりクレーターができるが互いの身体にその刃は届かない。

 自分の剣を正面から受け止められる。そう分かった剣八は実に嬉しそうな表情をする。

 そして、そのまま連続で何度も攻撃を仕掛ける。

 

(単純な力比べでは勝てないな)

「はぁ!」

 

 剣八の斬撃を渾身の力で弾くと即座に虚閃(セロ)を放つ。紫色の閃光が剣八に直撃するが。

 

「軽いなあ!」

「なっ!?」

 

 剣八は自身から垂れ流す霊圧で虚閃(セロ)相殺しながらかき分けるように前進してきた。そのままローレンスの首に向けて刀を振るった。

 響転(ソニード)で即座に距離を取る。虚閃(セロ)は使い勝手がいいもののある程度力量のある死神に対しては決定打に欠ける事は多々ある。それは分かっていたのだが―――。

 

「……まさか足止めにもならないとは」

 

 込めた霊力が剣八の霊圧に負けて受け止められるだけならまだしも、そのまま前進してくるとは思ってもみなかった。

 

(使うか)

 

右手を握りこみ爪で皮膚を破る。破れた皮膚から血溢れだしローレンスの準備が整った。人差し指を剣八に向け、己の血を媒体にソレを放った。

 

王虚の閃光(グラン・レイ・セロ)

 

それは破壊の極光。それは本来十刃(エスパーダ)にのみ許された王者の虚閃(セロ)だ。自ら血液と霊力を混ぜて放つソレは破壊力に特化し通常の虚閃(セロ)の光線よりもはるかに大きく、威力は空間を歪ませるほどのものとなる。その威力故に天蓋の下での使用は固く禁じられているのだが、剣八の底知れぬ強さに対抗するために禁を破った。

 閃光が剣八を飲み込む。爆炎が立ち上がり空間が歪む。普通ならそれでローレンスの勝利は決まる。直撃を受けたものは魂魄の残滓すら残すことなく消滅するだろう。

 ―――それが普通の死神であったなら

 

「はっはははは!!!」

 

 それはまるで地獄の底から聞こえてきたようにローレンスは感じた。空間の歪みの中心地に死覇装が破れ、眼帯の外れた剣八が立っていた。

 

「はっははは!! 痛ぇな、全身が軋むように痛ぇ!!」

 

 空間を歪ませる程の大出力の一撃。剣八は己の身一つで受け切った。とはいえ流石に無傷とはいかなかったのだろう。体の所々に傷や火傷のような痕がある。

 

「ッ! 正真正銘の怪物だな更木剣八」

「大した威力じゃねえか! 眼帯が取れなかったらやばかったかもなあ!!」

「―――その眼帯やはり、お前の霊力を喰っていたか」

 

 探査回路(ペスキス)で眼帯に妙な気配を感じていた。その答えは半ば予想はしていたものの事実として目の当たりして戦慄していた。

 

(まったく本当に普通の死神連中は段違いだな)

 

 眼帯の食らう霊力の量は普通の死神なら命に係わるレベルだ。それだけではなく王虚の閃光(グラン・レイ・セロ)によって受けた怪我も決して軽いものではない。普通なら戦闘に支障が出てる。そういうものだが―――剣八は違う。

 普通という常識がまるで通じ出ない。

 

「さあ行くぜ」

 

 再び剣八の野性的な剣が襲い掛かる。

 

(なんて霊圧だ―――! 押し潰される)

 

剣八の圧倒的な霊圧にローレンスはただ驚いた。先ほどまでもかなりのパワーだったが、眼帯が外れ霊力の枷から解き放たれた剣八の攻撃は一撃一撃が必殺の威力を持つ。

 

「縛道の六十一、六杖光牢」

 

 剣八の猛攻を凌ぐために縛道を使用するものの。

 

「っ!?」

「ほお、報告通り鬼道も使えるのか、おもしれえ。斬り甲斐があるってもんだ」

 

 光の拘束具は剣八の肉体に届くよりも前に彼の垂れ流す霊圧により消滅した。

 

(卍解を習得していなくともこの力とは……藍染様が警戒している訳だ)

 

「いいねぇ、楽しくなってきやがったぜ!」

 

眼帯の外れた剣八の戦意に呼応するように吹き出す霊圧の圧力が強くなっていく。

 

「どうやら、今のままでは勝ち筋は無いな……ここで使うことは禁止されているが仕方あるまい」

「あん?」

十刃(エスパーダ)の四以上の数字持ちと俺は天蓋の下での帰刃(レスレクシオン)を禁止されている」

 

 それを言うなら王虚の閃光(グラン・レイ・セロ)も同じなので一回も二回も変わらないとローレンスは刀剣解放を決断した。その言葉を聞いた剣八はただひたすら楽しそうに凶悪な笑みを浮かべる。

 

「そうかい、だがよお、俺が気になってんのはそこじゃねえ……その決まりに見合うほどてめぇが強いのかってことだ」

「試してみろ―――」

 

               削れ、蛟竜毒蛇(ヴェネノ)

 

 解号と共にローレンスの身体が変化し霊圧が噴き出す。

 肉体は右肩より一対の黒い翼が現れ、白い髪が腰の辺りまで伸びる。そしてその霊圧は異質と言ってもいい。どこまで深く禍々しい気配を持ち圧砕せんとばかりに重く圧し掛かるソレは並の隊長格を超えていた。それこそ一般隊士程度であればそれだけで魂魄を砕きかねない、そんな霊圧だ。

 ―――しかし

 

「―――中々心地いい霊圧じゃねえか」

 

 しかし今ローレンスの目の前にいるのは普通の死神ではない。同じ死神からも怪物と恐れを抱かれた男だ。この禍々しい霊圧を浴びてもより強い者と戦いに心を躍らせる。更木剣八とはそういう男だ。

 

「さて―――行くぞ」

 

 ローレンスの一撃が剣八に深い切り傷を与えた。

 

「てめえ、何しやがった?」

 

 ただ切られただけではない。ローレンスが刀を振るった瞬間、剣八の霊圧が弱まった。普通に切られただけならここまでの深手は負わなかったはずだ。

 

「能力としては地味でな。ようは、お前の眼帯と同じようなものだ。霊力を削る。そして切れば霊力を削りその効果は残留し広がっていく。毒のようにな」

 

 唯一回復できるとすれば井上織姫くらいのものだろう。今更ながらに本当に特異な娘だと感じていた。

 だが今井上織姫はここにはいない。死神にしろ虚にしろ霊力は力の源だ。霊力を削るということは霊圧も削れる。剣八が常時垂れ流しにしている霊圧の鎧も抜けて肉体に傷つけられるうえに制限もつけられるのであれば勝ち筋も見えてくるだろうと考えていた。

 

「そうかい、悪かねえ手だがよぉ―――それ以上に俺が強くなればいいだけだ!」

「そうだ、単純な方法。ヴェネノの阻害を越える霊圧を放出すればいい……お前がヴェネノの毒を越える霊圧を発し続け俺を殺すかお前の霊力を全て削り俺がお前を殺すかだ」

「なるほどな、たまにはこういうのも悪くねえ」

「あの男と同じだな」

 

 ローレンスの脳裏に一角の姿が映し出される。あの男もこのように戦いを楽しんでいた。その時の事を思い出しながら人差し指を向けた。

 

「これがもう一つの本来十刃(エスパーダ)のみが使える虚閃(セロ)だ」

 

 黒虚閃(セロ・オスキュラス)

 

 名の通り黒い閃光。威力は王虚の閃光(グラン・レイ・セロ)には及ばない。だが、その性質は速力と貫通力に長けた虚閃(セロ)

 

(奴の霊圧の壁を突破できるか)

 

 ローレンスの想像通り貫通力に長けたこの技は剣八の僅かに弱まった霊圧を突き抜け肉体の一部を僅かに抉った。

 

「―――やるじゃねえか!!」

 

 だが、それでもこの凶獣を止めるには至らなかった。痛みも恐怖も感じずに刃を振るい続ける。殺戮本能の化身のような男だと思う。

 

(ヴェネノで霊力を削り続けても黒虚閃(セロ・オスキュラス)では奴を確実に倒すには火力が足りない―――なら確実に防げない状況で王虚の閃光(グラン・レイ・セロ)を撃ちこむしかない)

 

 当然剣八には伝えていないが一度に削れる霊力には限界がある。だが相手の肉体を切ればその分削れる量は増加していく。

 

(最悪のパターンは奴の霊圧がこのまま増加し続けて、削った状態でも傷つけられなくなることか)

 

 実際刀剣解放してもローレンスの戦法はそれほど変化しない。通常攻撃は体術及び剣術。最大火力は王虚の閃光(グラン・レイ・セロ)、鬼道による搦め手。

 

「おら行くぜ!」

 

 剣八が膨大な霊圧を放出しながら突進してくる。もはや斬撃に当たらなければ、などと言っていられない。あの噴き出した霊圧を纏った体当たりだけでも圧砕されそうな勢いだった。

 

(スタークのように連射できればまだ対応もできるものを―――)

 

 響転(ソニード)を利用した連続高速移動で剣八を撹乱する。

 

「縛道の二十一、赤煙遁」

 

 ローレンスが周囲に煙幕を発生させる。視界は完全に封じられるが、探査回路(ペスキス)に長けている彼は剣八の動きが手に取るようにわかる。さらに響転(ソニード)で剣八の頭上に移動し脳天から串刺しにするように攻撃を仕掛ける。

 目晦ましの中からの攻撃だが

 

「おらぁ!!」

 

 気合と共に振るわれた剣八の斬撃、その剣圧により煙幕が消し飛ぶ。

 

「上かよ」

 

 剣八が頭上に向かって刃を振るいローレンスの刀とぶつかり合う。

 

「ちっ!」

 

 ガリガリと掘削機のように剣八の霊圧を削る。自分の力が削られるという感覚すら彼にとっては楽しいのだろう。特に霊圧を削るために遠距離からチマチマやるのではなく直接攻撃だというのが気に入っていた。

 楽しい切り合いだ。そう心から思っているのだ。霊圧を削られるために確実に防げるかは分からない、直接切られれば自分が弱体化する。その緊張感のおかげで実に楽しい切り合いだ。と

 

(普段から霊力喰わせていたせいか―――傷一つじゃあまり効果がなさそうだな)

 

 自ら刀を引く、後ろに飛び下がりながら再び黒虚閃(セロ・オスキュラス)を撃つ。

 だが―――

 

「慣れたぜ」

 

 刀を黒虚閃(セロ・オスキュラス)に叩きつける。その剣圧により散らされた。

 

「貫通力はあるようだがあの空間を歪めたあれくらいの威力がなきゃ意味ねえぜ?」

「二度目だが正真正銘の化け物だな―――」

 

 だがローレンスは不思議と恐怖は感じていなかった。かつて戦った斑目一角。戦況的に不利であったにも関わらず楽しそうに笑う一角をローレンスは理解できないでいたが―――今なら分かる気がした。

 この圧倒的な力を持つ男にどのように挑むか。

 

「へっ! いい顔するじゃねえか。てめえもイケる口かよ」

「―――」

 

 知ってか知らずか一角と同じ言葉を口にする剣八に口角が吊り上がっていた。

 

(そうだな―――確かに、少し楽しい)

 

 この男―――更木剣八をどのように倒すか。考えるのが、試してみるのが楽しくて仕方がない。今、ローレンス・ロイスは戦いの愉悦を覚えていた。ウルキオラ程ではないにしろ表情の変化が少なかったローレンスは今獰猛な獣のような表情を浮かべ剣八を見つめていた。

 

「行くぞ―――死神」

「来やがれ破面」

「破道の九十、黒棺」

 

 詠唱破棄で放たれた重力の本流が剣八を襲う。詠唱破棄故に完成度の低い黒棺は剣八に対して明確なダメージを与えるまでには至らなかったが。それでも一時的に動きを止め、目を晦ます程度の効果は発揮した。

 剣八は無造作に刀を振り重力の本流を振り払う、そしてローレンスは右手から平突きを放つ。

 剣八の斬撃がローレンスを刻むがソレを無視して剣八の腹部を貫く。そのまま横薙ぎに変換する。

 今までのローレンスならばこれで一度距離を取っただろうが、今は違う。そのまま立て続けにもうひと振り斬撃を加え剣八の足を切り裂いた。

 

「ハッハー!!」

 

 初撃に加えて二度の斬撃。計三度切られた剣八は蛟竜毒蛇(ヴェネノ)に効果で自身の霊力が蝕まれているのを感じ取った。

 

(確かにコイツは並の連中じゃ一発でもやべえだろうな)

 

 だが自分ならまだ戦えると気にもせず刀を振るう。目の前には変わらず獰猛な笑みを浮かべたローレンスがいる。目の前に切り甲斐のある敵がいる。余計なことを考える暇などないと―――。

 

 黒虚閃(セロ・オスキュラス)

 

 一方ローレンスは再び黒虚閃(セロ・オスキュラス)を放った。先ほどは相殺されたが、その時以上に蛟竜毒蛇(ヴェネノ)による傷は増え、さらに至近距離となれば流石の剣八でも対応は難しいだろうろ考えたからだ。

 

「がぁッ!」

 

 その考えは正しかった。至近距離で放たれた高速の黒虚閃(セロ・オスキュラス)は剣八の脇腹を抉った。剣八としては珍しいほどの重傷の怪我だ。もしかしたら死ぬかもしれない―――。一瞬とはいえ剣八がそう感じてしまうほどだった。

 それ故か、剣八は殆ど無意識にソレを行っていた。

 

(イケるか?)

 

 そう思った瞬間―――ローレンスに悪寒が走った。

 剣八が両手で刀の柄を握っていた。

 刀を両手で握る。至って普通の行動だ。確かに剣八は今まで片手で刀を振っていたが特別驚くようなことじゃない。だがローレンスは気が付いた。それが彼の優れた探査回路(ペスキス)によるものか、或いは生存本能によるものなのかわからない。

 だが気づいた。この斬撃を受ければ自分は死ぬ―――。

 だが、すでに響転(ソニード)による緊急離脱も間に合わない。

 ローレンスは殆ど反射的に動いていた。剣八の一撃を受けててあふれ出ている血。それを媒体に王者の虚閃(セロ)を撃った。

 

 虚王の閃光(グラン・レイ・セロ)

 

 紫色の破壊の極光とただ噴き出す剣圧がぶつかり合う。虚圏という世界を滅ぼしかねない。そう錯覚するほどの力の奔流だった。

 爆風が収まり土煙が晴れると、そこには隕石の激突でもあったかのような巨大なクレーターができていた。

 中心部いた二人の内一人は力なく横たわり、もう一人は立ち続けていた。

 

「……………………―――本当に怪物だな、更木剣八」

「はっ! てめえも似たようなもんじゃねえか―――」

 

 倒れていたのはローレンスだった。両手が吹き飛び白い死覇装は破れ上半身が露わになっておりそこに仮面紋(エスティグマ)が見えていた。回復しなければ戦えないだろう。一方で剣八は立っているものの目に見えて重傷だ。王虚の閃光(グラン・レイ・セロ)黒虚閃(セロ・オスキュラス)の直撃を二度づつ受けた彼は脇腹は抉れたまま、左腕は千切れかけ全身火傷ののような痕がある。再起不能と診断されるレベルの怪我だ。

 ローレンスは負けたもののどこか晴れ晴れとしていた。全力の王虚の閃光(グラン・レイ・セロ)を撃って負けた。全力を出した言ってもいい。それで負けたのなら仕方がない。自分の死を受け入れるには充分な理由だろうと。

 

「あばよ。久しぶりに楽しい戦いだったぜ」

「―――殺さないのか?」

「あん? てめえもうしばらくは動けねえだろう?」

「だから殺しておけばいいだろう」

「はっ! やなこった。殺してほしけりゃ殺されるほど強く成りな」

 

 言うだけ言って剣八は虚夜宮(ラス・ノーチェス)に向かい去って行った。

 

「―――普通死神が(ホロウ)を見逃すか……」

 

 ローレンスは砂漠に横たわりながら静かに笑った。

 




 この後ノイトラさんは眼帯なしで霊圧が上がりまくってる剣ちゃんに瞬殺される予定です。
 次で最終話ですが少し難航しているので遅れます。
 
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