「ああ、どうやら蛹籃の時は終わったようだ」
藍染の全身を覆っていた蛹のような仮面が罅割れ崩れていく。
「有難い。尸魂界の終焉を私自身の目で見ることができる」
正に蛹から羽化した蝶の如く、崩玉と融合を果たした藍染がその姿を現した。その霊圧を感じ取った黒崎一護は自らの心が折れそうになるのを感じていた。あまりに異質。自分が戦ってきた数々の強者達を遥かに超える。そんな存在の霊圧を感じ取れてしまった故の諦め。
「君は此処へ置いていく。君を喰らうのは全てが終わった後でいいい」
そう言い残し市丸ギンの開いた穿界門を通り尸魂界に侵攻しようとした藍染を止めたのは紫色の閃光だった。
「……誰に刃を向けているのか分かっているのかい? ローレンス」
自らを飲み込む紫色の
「それはこちらの台詞です藍染様。何故ハリベルに刃を向けたのですか?」
その言葉に微笑みながら返した。
「必要なくなったからだが?」
その言葉を聞き、ローレンスは以前より薄々感づいていた結論を出した。
「なるほど……我々は捨て駒で当て馬だったというわけですか。貴方が崩玉と一体化する為の―――」
表情こそ変わらないが何処となく苛立たし気にそう言うローレンスに藍染は面白そうに見る。
「理解が速くて助かるよ。ただ一つだけ誤解があるな。ローレンス君だけは私の予想を遥かに上回った。鬼道は勿論。今の私を知覚できる
「……」
「ちょうど良かった―――尸魂界に侵攻する前に、少し慣らしておこうか」
「―――削れ、
ローレンスはいきなり刀剣解放を行う。当然だ。最初から全力を出さねば勝てる相手ではない。そんな事はよく分かっていたからだ。ただ強い。その一つの要素だけで
「今更そんな技に意味など無いよ」
だが愛染は通常の
「
流石のローレンスもこれには驚愕していた。とはいえ
(―――何なのだろうこの感情の昂ぶりは?)
ローレンスは自らの内から湧き上がる感情に自問自答していた。奥の手の一つとも言える技をあっさり破られた。その答えを得るために己の経験を振り返り一つの結論に達した。
「俺は貴方を理解しようと思ったことはただの一度もなかった。それほど遠くにいる―――ただその存在に憧れていた」
「なるほど、確かに私を理解しようとはしていなかったようだね。憧れは理解から最も遠い感情だからね」
「ええ。ただひたすら強い。それだけで十刃を束ねていたその強さに憧れていた」
ローレンスは今楽しいのだ。その強さに憧れた男と正面から戦うこの瞬間が。どのようにこの男を超えようかそれだけを考え己の力を振るうこの瞬間が楽しくて仕方がないのだ。
思えばローレンスが鬼道の中で黒棺を好んで使用したのもそれが原因だろう。藍染が九十番台で最も好んで使用するために。憧れたのだ。あのようになりたいと。九十番台の鬼道を使いこなし、圧倒的な強さで他社を纏め上げる藍染を。そして今、その憧れを乗り越えたいと願っている。
ローレンスの掌から黒いエネルギーが放出される。
それを藍染はよく知っていた。
「……私に黒棺とはね」
自らが好んで使用する九十番台の鬼道。その性質をよく理解している。その威力の今日も理解しているが―――今の藍染は既に崩玉と融合し死神という枠を超えている。仮にローレンスが十全の威力で黒棺を使ったとしても対応しきる自信があった。
「ただの黒棺だと思いますか?」
「なに?」
「まだ俺は九十番台を完璧に使いこなせるわけではない。だから扱えるように改造しました」
葬列黒棺
威力は低く範囲も狭いが連続発生する黒棺。威力が低いといっても一発一発の威力は並の死神や虚であれば一撃で戦闘不能にできる程度の威力はあり、範囲も狭いがそれはあくまで一発当たりの範囲だ。連続発生させられる範囲自体は広く、単純な射程範囲は広がっているとも言える。総じて多対一の戦いに置いては友好的と言えるだろう。
「面白いが―――悲しいかなそれでは私にかすり傷一つ付けられはしないよ」
だが今は一対一の戦いであり、相手は並の死神とは桁違い強さを持つ藍染惣右介だ。しかも今は崩玉と融合しさらなる高みへと到達している。彼の言葉の通りこの程度の威力では傷一つ付けられない。
「ええ、今の貴方の霊圧を感じれば分かります」
ローレンスもそれは重々承知だった。
だが連続発生する黒棺はその性質上目隠しにも障害物にもなりうる。つまりそれ自体に必殺の力がなくとも、自身の持つ最大火力の技を確実に当てるための繋ぎになればいい。それがローレンスの目的だった。
黒棺を目隠しに放つ。重力の奔流を引き裂き藍染を飲み込んだ。
探査回路《ペスキス》で感じ取り続けている藍染の霊圧は未だ健在だ。霊圧を感じ取ることはできていたが、崩玉と融合した藍染の霊圧は既に霊圧とは異なる別のナニカのように感じられた。それ故に
「全く、更木剣八といい、貴方といい―――破面泣かせにも程がある」
苦笑いを浮かべてしまうローレンスの前に応えは出た。
「ふふ、やはり予想以上だよ。ワンダーワイスの前座として創り出したが、やはり崩玉は素晴らしいものだ」
空間を歪めるほどの一撃。それを受けて愛染は無傷だった。
「俺はワンダーワイスを生み出すためのモルモットというわけだ。だが、窮鼠猫を噛むという諺を知っていますか? あまり舐めてると怪我するかもしれませんよ」
「縛道の八十一、断空」
「君は本当に予想以上だよ。私に何度も剣を振らせる処か、縛道まで使わせるとはね」
「くそっ!」
思わずローレンスが悪態をつく。それも仕方のないことだ。
「破道の六十三、雷吼炮」
詠唱破棄にも関わらず凄まじい雷撃がローレンスを襲う。それを
ローレンスが雷吼炮の対応をしている内に瞬歩で距離を取る。
「故に送ろう。これが今の私のが放つ全力の鬼道だ―――破道の九十九、五龍転滅」
大地が裂け、巨大な龍を象ったエネルギー体が出現する。
最後の破道。禁呪に限りなく近いと言われる最強の攻撃鬼道。ローレンスも知識としては得ていた。だが使うことはできなかった。完全詠唱を以てしても不発に終わっていたのだ。それが霊力によるものなのかどうか当時のローレンスには分からなかった。が、今実際にそのスケールの大きさに自身ではまだ扱える筈がないと理解した。霊力は足りていてもその巨竜を制御できない。そう理解した。
「最期の攻撃になるか」
それで臆することなどなかった。今の彼は藍染に命じられたままに戦っているわけではない。自らの意思でこの底の知れないと感じた男に挑んでいるのだ。今更圧倒的な実力差を見せ付けられ、どれだけ驚愕しようとも己の戦意が高まるだけだ。
その心に存在するものは一つ
―――そうだ、この力を超えたい!
より強い者を超えたいという強い渇望。その渇望が彼に力を与えた。
ローレンスの姿が変わる。片翼を除けばほとんど人と変わらない見た目だったのが今異形へとその姿を変え始めていた。翼は両翼へと増え、白銀の外殻に覆われる。そして胸部に人間で言うところの心臓部には孔が空いている。まさに白い悪魔とでも言うべき風貌だった。
「まさかキミもそれができたとはね」
掌から撃ち出される破壊の極光。一度通用しなかった技が今の藍染に通用するのだろうか? と問われれば答えは否。通用するはずがない。
だが、それは今までのものと決定的に違う。
撃ち出された閃光は一つではなかった。ローレンスの掌が起点にその周辺から無数に連射されている。
第一十刃、コヨーテ・スタークの
今のローレンスンの攻撃は
「これは!?」
ここにきて初めて藍染の顔色が変わった。
彼の放った全力の最強鬼道、五龍転滅。仮に
だが、今二種のエネルギーは拮抗している。否、むしろ五龍転滅が少し押されている。
「そうか、
以前の刀剣解放では
これを繰り返されてはさしもの最強鬼道であろうとそう簡単には押し切れるものではなかった。
「君は実によく戦ったよローレンス」
だが、藍染にはまだ余力があった。
「正面から喰らい尽くしてやろう―――破道の九十九、五龍転滅」
「なん……だと……」
最も難易度の高い鬼道。それを詠唱破棄した処か二重に重ね掛けしてくる。そんな非常識を平然とやってのける藍染。鬼道を扱えるが故にローレンスはありえないと思うが、同時にこの男なら出来てもおかしくないと納得してしまった。巨龍がその姿を現す。
「今は―――超えれそうにないな」
限界まで
もはやローレンスにできるのはそれだけだ。もしもっと速く
「っち……」
やがて
これにて完結でございます。ここまでお付き合いいただきありがとうございました。剣八戦までは書いてあったので投稿始めて四日でヨン様戦も書ききれるかな? と思っていたのですがヨン様の扱いが異様なほど難しく時間が掛かってしまいました。というか結局しっかり描き切れてるとは思えない出来でしたがこれ以上自分では無理だと判断せざる終えない状況でした。これだけのキャラを生み出して魅力的に描けるのは本当にすごいですね。
そういった点も含め自分で読み返してみてあまりBLEACHのバトルっぽくないなとか思っているのですがお楽しみいただけたでしょうか?
ちなみに個人的に書いてて楽しかったのは剣八戦です。まだBLEACHが連載してるときにセロを掻き分けながら前進する剣八を想像して書いてみたかったんですよね。
当初の予定では剣八戦の前に一護とのバトルを入れようと考えていて途中まで書いていたのですが着地点に持っていくには全くと言っていいほど説得力がなかったため断念いたしました。ストーリー性無しのバトルのみ書いていた障害でローレンスの対人関係や性格に関して掘り下げれなかったのが原因です。藍染は勿論織姫とかスターク、ハリベル、ウルキオラ、ノイトラ、グリムジョー辺りとの関係性に関しては一応自分の頭の中には補完ストーリーはあるのですが。
ローレンスの造形に関して
コンセプトとしては死神と破面の基本性能のみでの戦うというものでして。帰刃に関しても基本性能をゴリ押しするための能力として考えてたものでした。要は通常攻撃で相手にデバフかけるような能力ですね。使いようによっては結構凶悪になりそうな気もするのですがガチンコ勝負しか書けなかった作者を許してほしい。
結局剣ちゃんにしろヨン様しろ想定以上の霊圧でゴリ押しされれば負けてしまうという結果に……そして挙句の果てには主人公勝てたのが模擬戦のノイトラのみという―――。いや、相手が悪すぎたんや、五人中三人が特記戦力な人だし、うん。
性格面に関してはスタークとウルキオラを足して2で割ったような奴が一角や剣八との戦闘で影響を受けたといった所です。
もう少し掘り下げて書いてみたいという気持ちもあるので、その時は是非よろしくお願い致します。
最終的な設定
ローレンス・ロイス
身長・184cm
体重・70kg
孔の位置・胸(心臓)
仮面の名残・喉元
階級・番外十刃
虚閃などの色 紫
帰刃・蛟竜毒蛇(ヴェネノ)
解号・削れ、
霊力霊圧を削る毒。相手に傷をつければその傷に毒が残留し霊力を削り続ける(簡単に言うと剣八の眼帯)。複数の傷を与えればその分効果が上がる。霊力を削るという性質上鬼道等の攻撃も弱体化可能。削った霊力は周囲の霊子に変換される。クインシーとの勝負になると削った霊子を利用されまた削っての繰り返しになる