憎悪の手を握る   作:suiさん

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Prologue あいつの声が止まらない

 常盤ななかは神浜マギアユニオンを信用しない。

正確には、彼女たちの組織としての在り方に恭順できない。

 

マギアユニオンのリーダーである環いろはに不満があるわけではない。

彼女はマギウスの動乱を沈めた第一人者であり、親しい間柄ではないが好感が持てる人格だとは思う。

かつて自分のチームから追い出した深月フェリシアが、彼女の元に流れ着いた事で協調性を学び、狂犬から忠犬に生まれ変わった実績もある。

自分とは異なるリーダーの器を持つ魔法少女であるとも思う。

 

キュウべぇとの協調路線は個人的に気にくわないが、組織が掲げる理想に異を唱えるわけでもない。

マギウスの功であるドッペルの効果を広げ魔法少女全体を救うという考え方も、魔法少女の互助組織としての機能も、彼女たちらしい優しさを感じさせる。出来る限り協力してあげたいと思う。

マギウス達が登場する前の神浜——縄張りと魔女、グリーフシードを巡り魔法少女同士で奪い合う泥沼を蘇らせない為にも神浜マギアユニオンは必要な組織だと思う。思ってはいる、が……

 

 神浜マギアユニオンが広く緩い網のような形をしている事。

繋がりが広ければ広いほど目の届く範囲は狭く、薄くなる事。

そして内側から組織を崩さんとする悪意が紛れ込み、尊いはずの信頼に亀裂が走り、やがて悲しみを生む事。

それをよく知っているななかは、環に加わらない事を選択した。

 

 そう、ななかはよく知っている。

数多くの弟子を育ててきた父が高弟に裏切られ、華道家として積み上げてきた全てを奪われた姿を見て。

協力関係にある筈の人々が、ほんの少しの不信や疑惑から対立し、争い合う姿を見て。

理解の及ばない、理解してはいけない精神構造、理由の無い底無しの悪意を見て。

これら全ての元凶であり、ななかの人生を狂わせた1人の魔法少女を見て。

ななかの目の前で自ら命を断ち、今でも悪夢の中に現れ嗤い続ける女——更紗帆奈を見て。

 

 だから自分の背中を預けるに値するのは広い繋がりではなく今の仲間、即ち志信あきら、夏目かこ、純美雨の3人だけであるという考えを固めた。

神浜マギアユニオンも、ユニオンに加わらない遊佐葉月達のグループも仲間じゃない。敵対者では無いし、気安く話せる仲ではあるし、互いに協力し合う。今後も仲良くしていきたいと思う。それでも彼女達は仲間じゃない。

 

〝私が心を許せる仲間はかつて私が自ら選び、同じ敵を追う為に集ったあの3人のみ〟

仲間への信頼と強い拘りの裏には人の形をしたトラウマ、かつての〝敵〟の姿がべっとりとこびりついている。

更紗帆奈の不快な笑い声が、いつまでも脳裏から離れずにいる。

 

 だから、ななかにはこれから起きる出来事が予測できなかった。

最も背中を預けてはいけない相手と、“敵”と共に戦わねばならない事態に陥る事が。

 

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