憎悪の手を握る   作:suiさん

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Chapter1 再会なんて望んでない

 きっかけはななかの元に届いた一通の招待状だった。

と、言ってもそれ自体は鏡の魔女の手下が魔法少女達に送り付けるもの。

神浜に住む魔法少女なら誰もが何度も投げつけられるものであり、誰もが一度は鏡の魔女の結界、通称“果て無しのミラーズ”に足を運んだ事がある。

 

 つまり、それ自体は珍しいものではない。

招待を受けるまでもなく各々がミラーズへ赴き探索や調査を行い、中には鍛錬目的で通うものもいる程に日常の一つになり、とある事情から出入りを自粛するようになった現在。

招待状は最早魔女の手下のしょうもない攻撃手段でしかなく、皆が軽くあしらい、無視し、捨てる。ななかもそういう魔法少女の一人だった。

その日飛んできた招待状に貼り付けられた“二枚目”に気が付くまでは。

 

『結界の最深部に閉じ込められました、助けてください。』

 

***

 

 馴染みのファミレス、ドリンクバーの隣、四人掛けの席。ななか達がいつも会合に使う場所。

ななかは本日の議題として二枚目の招待状を取り出し、仲間たちの意見を聞くことにした。

 

「もし本当なら大変な事だよ、ボク達で助けに行かないと!」

 

 真っ先に声を上げたのは志伸あきら。

困っている人は絶対に放っておけない性分の彼女が最初に声を上げることはわかっていた。

あまりの人の好さに危うさすら感じるが、その善性に支えられてきたななかは、彼女の危うい面も含めて支えていきたいと思っている。

 

「本当なら、ネ。コレどう考えたって怪しいヨ。鏡の魔女が手を変えてきたか、あるいは悪意ある誰かの罠と考えるのが妥当ネ」

 

 独特の訛りが入った日本語で反論するのは中国から来た魔法少女、純美雨。

あきら同様の熱く優しい心に冷静さを併せ持つ彼女は、いつでも感情的になりやすいあきらを一旦諫める。年長者としてチームの誰に対してもしっかり物を言える彼女は頼りになる。

 

「でも……ななかさんは行くつもりなんですよね?」

 

 少し遅れて発言し、ななかの意思を確認したのはチーム最年少の夏目かこ。

控えめだが周りをよく見て、話をよく聞き、最短でななかの意を酌んで発言する。

友情に篤く、いつも周りに気を回してくれる彼女が愛おしくもあり、少し申し訳ない気持ちもある。

 

「その通り。これが今までのミラーズに見られなかった新しい動きだからです」

 

 仲間たちが喋り終わるのを待った後、ななかは毅然とした口調で話し始める。

 

「手紙が真実ならば差出人を救助し、結界の最深部とやらか何なのか確かめる必要があります」

 

「そしてこれが鏡の魔女、或いは何者かの仕掛けた罠であるのなら……他の魔法少女に害を及ぼす前に私達でカタをつけましょう」

 

 ななかは仲間たちの顔を見て、その意思を伺う。

あきらは拳を強く握って笑い、やる気十分の姿勢を示した。

かこもななかと概ね同意見のようで、小さく微笑んで頷いた。

しかし美雨だけは肯定の意を見せず、少し考える仕草をした後口を開いた。

 

「私、戦いに行く事には異論ナイヨ。でもそれ、つまり調整屋の自粛令無視する事になるネ。話つけに行くカ?」

 

 調整屋。神浜マギアユニオンに所属する八雲みたま。

鏡の魔女を巡る過去の騒動で鏡屋敷の管理人の立場を持った魔法少女。

そして、〝まやかし町〟の一件からミラーズへの探索を自粛させた張本人。

 

「あぁ、そっか……流石にみたまさんを通さずにやるのは……」

 

「いいえ、調整屋への連絡は不要です。私達の手で行いましょう」

 

 ななかはあきらの発言を遮り、一層の決意を感じさせる声でそう話す。

 

「なっ!?」

 

「ななかさん!?」

 

 会合の空気が変わった。

今まで協力関係にあった調整屋への義理を通さない決断に動揺するあきらとかこ。

美雨は渋い顔をしながら会話を続ける。

 

「調整屋、信用できないネ?」

 

「ええ、少なくともミラーズに関する事では」

 

 ななかはみたまがあまり好きではない。

曖昧な態度と笑顔を巧みに使い、本心を隠し続ける彼女がどこか気に食わなかった。

特にミラーズに関わる彼女の言動に不審なものを感じ、ななかは早い段階から疑いの目を向けていた。

 

「でもさ、ミラーズ探索の自粛ってまやかし町の一件があったからでしょ? 実際あれは大変な事だったわけだし、そんなおかしい事でもないんじゃ…?」

 

 あきらの言う事は正論ではある。

まやかし町、大東区西町で鏡の魔女の手下が成長してもうひとつの鏡の魔女となった事件。

この場にいる全員がその奇妙な事件を経験し、状況整理の為に時間を置きたいという話に賛同した……ななか以外は。

 

「あの日、彼女は〝一般人が1人が犠牲になる〟と口にしていましたが、結局それが誰だったのか、本当に犠牲になったのかは何度聞いても答える事はありませんでした。

鏡の魔女がまやかし町、即ち大東区西町に現れた理由も知らない訳ではなさそうでしたが……」

 

「みたまさんが大東区の人だから……?」

 

 かこは弱ったような声でななかに問う。チームの中では神浜マギアユニオンに友好的なスタンスなので疑いを向けるのが心苦しいようだ。

 

「そうです、彼女は鏡の魔女について知っているのに明かしていない何かがある。 そして自粛の体を取り、私たちを真実から遠ざけている……だから今回、ミラーズの最深部という鏡の魔女の真実に迫るような事は阻止してくるはず、私はそう睨んでいます」

 

 かこに悲しい顔をさせるのは辛いが、これは絶対に譲れない決断。 マギアユニオンに属さないと決めた以上、彼女達と協力しながらも信用しすぎてはいけない。

 

「少し意固地かもしれませんが、私は心から信頼する人間と動きたいのです。 どうか私の我儘に付き合ってください」

 

 深く頭を下げ、主張を終える。

 

「まぁ……そんな風に言ってくれるなら……悪い気はしないけど」

 

 あきらは顔を赤くして頬を掻き、照れ臭そうに答える。

 

「ななかの言い分はわかたヨ、でも私にも考えるところはあるネ。 私達だけで手に負えない思たら、こっちの判断で調整屋と神浜マギアユニオンに声かける事視野に入れるヨ……それでイイカ?」

 

「ええ。 それで構いません。 八雲みたまが信用できないとは言いましたが、マギアユニオンとは良い関係を続けていきたいと思っていますので

 

「そ、それなら……私も特に異論はないです」

 

 マギアユニオンとの対立の芽がないと知り、緊張の糸が解れたかこが美雨に続いて同意する。

「……理解していただけて本当に良かった、ありがとう」

 

 ななかは頭を上げ、柔らかい笑みを浮かべる。

復讐の為に魔法少女になり、過酷な戦いに身を置く修羅になる事を決意した。

それでも、信頼する仲間と気持ちが通じあった時、この瞬間こそが真実だと思う。

この瞬間の為に突き動かされているのだと、強く思う。

 

「では、そろそろ動き出しましょう。 陣形と配置は以前の基本形と変わりなく、逸れた場合の対処と撤退のタイミングもいつも通りです。行きましょう!」

 

 ななかは顔つきを少女から剣士に戻し、仲間と共にミラーズへと向かう。

大きな節目であり、ここから向かう先にも今までにない戦いが待っているだろう。

それでも戦える、互いを信じ合う仲間と共にならどんな相手とでも今まで通りに戦える。

そう思っていた。

 

あの女に再会するまでは。

 

***

 

 

 馴染みのファミレス、ドリンクバーの隣、四人掛けの席。ななか達がいつも会合に使う場所。

ななかは朦朧とした意識で座席に横たわっていた。

ひどく眠い、後頭部がジンジンと痛む。

記憶もおぼろげで、自分がどういう状況に置かれているかいまいち思い出せない。

 

 靄のかかった頭を動かし、自分が何故ここにいるのか思い返す。

ここでの会議を終え、4人でミラーズに向かって、それから……?

そこから先がどうしても思い出せないが、今ファミレスの座席に横たわっている事と繋がらない。

もしかしたら全部夢で、会合の途中で眠ってしまっていたのかも……

そんな事をぼんやりと考え、身体を少しづつでも動かそうとした時に声が聞こえた。

 

「あっは!やーっと目が覚めた?可愛い寝顔にキスしてやろうか、それともナイフで傷つけてやろうか……って迷ってた所だよ〜?」

 

その声を聞いた瞬間、全身の毛穴が開くような感覚を覚えた。

頭の痛みと靄が一気に吹き飛び、危険を感じた身体が一瞬で起き上がった。

恐怖、怒り、そして憎しみ。

心の奥底でずっと眠っていた感情が多量の冷や汗と共に滲み出す。

これは仲間の声じゃない。この声は、二度と聞くことはなかったはずのこの声は……!

 

「お久しぶり~♪ あたしのコト覚えてるかな? 常盤ななかちゃん!!」

 

「更紗……帆奈……!!!」

 

 目覚めたはずのななかの眼前で、悪夢がけたたましく嗤い出した。

 

 

 

「ぷっ!……っく……っふふふ……ははははは…………」

 

「あっははははははっあははははははははははははははははは!!!」

 

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