憎悪の手を握る   作:suiさん

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・今回からガールズラブタグを取り付けました。ああ百合さ、百合だともよ。
・今更ですがこのお話における鏡の魔女の設定は独自解釈のオリジナルでありマギアレコード本編のものとはたぶん異なります。


Chapter3 正しさなんて測れない

「魔女を殺す…?まさか貴女の臭い口からそんな言葉が出てくるとは思いませんでしたね」

 

 かつて魔女退治に全く関心を持たなかった、帆奈らしからぬ発言にななかは内心困惑していた。

仮に目の前のこいつがミラーズのコピーだったとしても、自らの大元である鏡の魔女を殺せば共に消えるはず。

至近距離まで近づいた帆奈の顔を押し戻し、嫌悪感を抑えて思考を巡らせる。

 

「そう?あたしはただ、あたしを取り巻くもの全部ぶっ壊してぶっ潰して塗り潰して!……グチャグチャにしたいだけだよ。前も言ったでしょ?」

 

 笑顔でろくでもないことを語る帆奈を前に、ななかは頭を抱えてため息をつく。

正気を失った者の考えなどわかるはずもない。

 

「私が貴女の話に乗るとでも?貴女の様なクズは永遠にこの結界に閉じ込めておくべきでしょう」

 

 だが、この帆奈の正体が何であれ結界の外に出すわけにはいかない。

何より、帆奈と手を組むという行為自体がななかにとって苦痛でしかない。

 

「あー?あぁ、あたしがまた神浜で暴れるのが怖いわけだ?別に今の神浜なんてどーーーでもいいんだけどねー……そいつらから聞いたよ、マギウスだのイヴだのワルプルギスだの……ドッペルだのって、つまんない話をさ」

 

「そいつら?……!!!」

 

 帆奈の発言の意味を悟り、立ち上がり周囲の座席を見渡して青ざめた。

誰もいないと思っていた自分達以外の座席には布をかけられた何かが横たわっていた。

布はマギウスの翼の下位構成員が纏っていたローブで、黒羽根用、白羽根用の他に青いラインの入った見慣れないものもある。

ピクリとも動かず、魔法少女としての気配が全く感じられない。つまりそういう事だろう。

 

「まさか貴女、彼女達を…!?」

 

「ちーがうーって!あたしをなんだと思ってるわけー!?いやね?あんたより前にここに迷い込んできたやつ結構いてさぁ、外の状況聞きがてら鏡の魔女殺し手伝ってもらってたんだよね。でもこいつらぜぇぇんぜんダメ!!!能力カスだし魔女の手下にも勝てないモブキャラばっかりでほんとさぁ……」

 

 マギウスはかつてミラーズのコピーを連れ出し、拠点の防衛に使っていたことがある。

つまりマギウスはミラーズの調査を独自で行っており、ここに横たわる彼女達はその時逸れた尖兵であるとななかは推測した。

 

 他者に依存する事でしか生きる事が出来ず、マギウスの里見灯花達に利用され、流れ着いた先で帆奈に利用され命を落とし、モブキャラと揶揄された冷たい肉塊達。それらに囲まれて嗤う帆奈。

誰も訪れない奥の奥にあるこの空間が、誰もが目をそらす神浜の暗部に思えた。

 

「そしたら、そしたらだよ!?まさかあんたがやってくるなんてさ!!やっぱ、あたしとあんたは運命の赤い糸で結ばれてるんだね❤」

 

「もういい、結構です」

 

 ななかは机を叩いて立ち上がる。衝撃で一度も手をつけていないコップの水が溢れる。

一刻も早くこの場から立ち去りたい。

 

「あれぇ?ここまでラブコールしてんのにまだノってくれないのぉ?」

 

「貴女と組む理由と、信じる道理がない!!」

 

 怨敵がまるで恋人相手のように話しかけてくる状況に耐えきれず、ついに声を荒らげてしまう。

 

「じゃあさ、自分の能力で確かめてみなよ。あたしが今のあんたの敵かどうか、今倒すべき本当の敵は誰かってさ!」

 

 ななかが魔法少女となった時に手に入れた固有の能力は〝真の敵を見極める〟というもの。

自分達の人生を捻じ曲げた敵を暴き復讐するための力、結果的には更紗帆奈を追い詰めるための能力だった、しかし……

 

「敵意を感じない……今の敵はこいつではない……!?」

 

 額からの冷や汗が止まらない。

能力が示す今の〝真の敵〟はこの結界の主、鏡の魔女。恨み積もる目の前のクズは自分に対して今、一切の敵意がない事がわかった。わかってしまった。

 

「わかってくれたかな?まぁ、どーーしても組みたくなーい!……ってワガママ言うなら別にいいけど、ここから一人で出られるわけ?出る方法知ってるわけ??協力してくれないなら協力してやんないよ???」

 

 帆奈の言う事に反論できない、だがななかの矜持は激しく反発する。

真に心の通い合った仲間とだけ組むことを信条としているのに、この世で最も信頼できない人間と組めるはずがない。

 

「あたしは鏡の魔女を殺したい」

 

 帆奈が右手の人差し指を立て、ななかに見せつける。

 

「あんたはここから出たい」

 

 次に左手の人差し指も立て、右の人差し指と交差させる。

 

「これってWIN-WINってやつでしょ?あたしと組んだ方が得策だと思うけどなぁ〜?」

 

 最後に左右の指をくにゃくにゃと絡ませ、意地の悪い笑みと共に囁く。

言っている事に対して仕草が不穏で、より一層信用したくなくなる。

それでも、ななかの理性は理解している。おそらく自分よりこの場の歩き方を把握している帆奈と組むのが利口だと。

 

「どうするのどうするの?ど・う・す・る・の❤」

 

「ここを出るまで……鏡の魔女を倒してここから出るまでです!!」

 

 自分の胸をぎゅっと掴み、腹の底から湧き上がる憎悪を押し殺す。

荒い息を必死に整え、脳から理性を絞り出すようにして叫んだ。

 

「交渉成立!これからよろしくね、相棒」

 

 ななかの言葉を聞いて帆奈は立ち上がってにっこりと目を細め、右手を伸ばし握手を求める。

ななかの内心をわかっていて踏みにじるような仕草で頭に血が上り、伸ばされた右手を左手ではたき、毅然と睨みつける。

 

「貴女に相棒と呼ばれる筋合いはない!!」

 

「うわっ、悲しー!信用ないねぇ、仲良くやろうぜ?相棒❤」

 

 目の前のクズは自分が嫌がる顔を見て楽しんでいる事が嫌でもわかる。

頬にもう一発くれてやろうかと思ったあたりで冷静さを取り戻し、振り上げた右手をゆっくりと下ろした。

 

「これ以上御託に付き合う気はありません、鏡の魔女の元に案内しなさい」

 

「せっかちじゃん?別にゆっくり語り合いながら、なんなら殴りあいながらでもよかったんだけどなぁ〜?」

 

 帆奈はおどけながら自分の飲み残したコーヒーを、ななかが手をつけなかったグラスに注いだ。

透明な水が黒く濁り、溢れ出して机に溢れる。

ななかはもう帆奈の奇行にいちいち付き合ってやる気はない。

 

「しゃーーないなぁ、ついてきなよ!」

 

 ななかが構ってくれない事を悟り、帆奈は軽くため息をつく。

空になったグラスを投げ捨て、親指でファミレスの扉を指した。

 

 扉の前に並び立つななかと帆奈。

本来のファミレスなら自動ドアだが、この結界では重く分厚い扉に変えられていた。

 

「ここを開けると鏡の魔女が感づくから、みんなこっそり開けてたんだけどさぁ……」

 

「今から倒す相手を恐れる事などありません。正面から挑むのみです」

 

「いいね!モブキャラ共とは覚悟が違うよ!やっぱあんたを巻き込んで正解だった❤」

 

 それぞれが自分のソウルジェムを取り出し、魔法少女へと姿を変える。

 

 一瞬の静寂。二人は一呼吸置いて眼前の扉を見据えた。

先にななかが小太刀を抜き一閃。扉のある壁面に横一線の白い斬撃が入る。

続く帆奈が杖から黒い電撃を放ち、壁もろとも扉を吹き飛ばす。

 

 ファミレスを模した奇妙な空間、神浜から忘れられた悲しき残骸から二人の魔法少女が逃げ出した。

外は今まで見たことのない異形の結界、隣には人生の宿敵。

最低最悪の共闘が幕を開ける。

 

 

「あくまでここを出るまでの間の共闘です、ふざけた動きをするようならいつでも斬り捨てる用意がある!!」

 

「あっは!吠えるじゃん?出来もしない事をさ!!」

 

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