憎悪の手を握る   作:suiさん

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更紗帆奈魔法少女ストーリー、散花愁章の「瀬奈みこと」と
ミラーズストーリーの「瀬名みこと」は同一人物として扱います。


Chapter4 私達は戻らない

 鏡の魔女の元へと行かせまいと、魔女の手下と魔法少女のコピーが隊列を組んで行く手を阻む。

それでも、ななかと帆奈の足が止まることはない。ただひたすら前に進むのみ。

ななかは正面の敵の動きを見切り、まるで舞うように隊列の隙間に潜り込む。

 

「散りなさい」

 

 優雅な回避行動がそのまま冷徹な攻撃にシフトする。

両手に一本づつ持った小太刀と回避行動で生まれた遠心力を用いて、腕や足にあたる部位の関節を斬り飛ばし、最後に首を狙う。

異形の手下達も人の形をした魔法少女のコピーも分け隔てなく、まるで椿の花のように頭を落とす。

ななかの得意とする対多数戦術だ。

 

「ヒュー!かーっこいいねー!もっと殺せ!ぶーっ殺せー!!」

 

 一方の帆奈は雷球と野次を飛ばしてななかの死角に回った敵を撃ち落とし、近づいてきた敵は杖で殴り、時には素手で首を絞めて殺す。

 

 ななかは帆奈との連携に期待していなかった。

だが彼女は予想に反して一人で勝手に突っ込むことも無ければ後ろからななかに襲いかかる事も無い。

援護と自衛に徹し、ななかを支え続ける帆奈はコンビでの戦い方を熟知しているように見える。

 

 和泉十七夜曰く、かつて帆奈は瀬奈みことという名の魔法少女と共に活動していた時期があったという。

帆奈が自らの存在を秘匿する為、暗示の魔法を用いて改竄したという十七夜の記憶に信憑性はない。そう思っていた。

だが、もしかしたら帆奈は本来正気を持った魔法少女で、なんらかの理由で今のように成り果ててしまったのでは……ななかは戦いながらそんな事を考えていた。

今はいない瀬奈みことの行く末、キュウべぇに唆された魔法少女が行き着く定め。

帆奈と戦った当時は考える事も無かったが、今なら魔法少女の正気が腐り落ちる理由がいくつも思い当たる。

 

「動きが鈍いぞ〜?もうバテたのか〜?かんばれ❤がんばれ❤」

 終始馬鹿にした口調で野次を飛ばす帆奈を見て、ななかはすぐに思い直す。

一瞬でもこのクズに同情を向けてしまった事を深く恥じた。

たとえ過去に何があったとしても今のこいつは救えない狂人で、人生の敵。

他人の過去を読めない、時間の針を戻せない自分には目の前にある事実だけが真実だ。

 

「余計な口を叩く暇があるならもう少し働いてもらいたいものですが。ご自慢の暗示魔法で」

 

 首が落ちた残骸を蹴り飛ばし、帆奈に悪態で返事をする。

これは今の帆奈の手の内を探るカマかけを兼ねている。

 

「それがさぁ……色々あってあれ使えなくなってさぁ……」

 

 帆奈はやや気落ちした口調で、意外にもすんなりと答えた。

そしてこれはななかの予想通りの状況だ。

目の前の帆奈が逃げ延びた本人でもミラーズのコピーでも、かつて自分達を散々弄んで苦しめた暗示魔法を今は持っていない。帆奈の持つ固有魔法の上書きはストックが効かず、一度に一種類しか持てないという制約があるからだ。

つまりここからもし敵対した際、倒すのはそう難しくないという事を意味する。

 

「まぁでもさ、この場所に限ってそう悪い状況でもないんだよねコレ」

 

 帆奈は突然前線に走り出し、敵が密集している中へと突っ込んだ。

当然、帆奈に四方八方から攻撃が集中する。

 

「あたしの能力ってさぁ、ミラーズのコピー共相手でも使えるんだよねぇ……」

 

 帆奈の身体を光線が焼き、コピー魔法少女が手に持った刃が突き刺さる。

しかし本人は少しも痛がる様子がなく、ただ不気味に笑うのみ。

ななかはこれがさっき絞め殺したコピー魔法少女、粟根こころの固有魔法「耐える力」であると察しがついた。

 

「で、あたしここに居てそこそこ長いわけじゃん?つまりさ……」

 

 帆奈を刺したコピー魔法少女、伊吹れいらは少しも怯まない様子を見て狼狽えた。

 

「だいたいの奴の能力は把握してるし……」

 

 帆奈はれいらのコピーの首をへし折り、突き飛ばして腹に刺さった剣を抜く。

抜いた剣で近づいた敵を数体斬り裂くと、剣先から青い炎が吹く。

くるりとその場で身体を回し、剣を天高く掲げると更に炎の勢いが増し、周囲の敵を焼き払う。

炎の勢いはさらに増し、帆奈本人すら包んで燃え上がる。

 

「乗り換え放題、使い放題ってワケだよ!!!」

 

 その言葉と共に、下から上に突風が吹いたように炎が掻き消える。

そこに残されたのは先ほどまで敵だったものの灰と、傷が完全に癒えた帆奈の姿。

これは伊吹れいらの持つ固有魔法、浄化の炎によるものだ。

ななかはここまでの動きを見て、帆奈が一種類の能力しか持てない事と暗示の能力を失ったのが真実であると確信を得た。

帆奈が誰の能力を自身に上書きしたかさえ見逃さなければ、不意を突かれることはない。

だが、それはあくまでこの結界の中、周囲にコピー魔法少女がいない状況においてななか1人で戦った時に限る。

こいつを結界の外に出してはいけない、斬るタイミングを誤ってはいけない。

そんな事を考えながら、帆奈の観察を続けた。

 

「あたしはワイルドカードなんだよ?こんなにお役立ちな相棒他にいないと思うけどな〜?もっと優しくして〜?」

 

 ななかの視線を感じて、帆奈は嬉しそうに駆け寄ってくる。

一方で敵の増援はさらに続き、じわりじわりとななかと帆奈を取り囲む。

全方位から襲い来る敵を迎撃しているうちに、2人は背中合わせの形になった。

 

「仲良しになろうよ〜?ねぇ〜?」

 

「無駄口を叩くな、と言いました」

 

 ななかが自分を心底嫌っているのをわかっていて、背中越しに馴れ馴れしい言動を繰り返す。

そんな嫌がらせを無視して、ななかは結界のさらに奥へと突き進む。

余計な思考を振り切るように。

 

***

 

 進撃を重ね、数え切れないほどの敵を斬り殺し、ななか達はついに鏡の魔女の本体へとたどり着いた。

天井、床面、壁面の全てが鏡になった奇妙で広い部屋。

その中央には鏡で出来た大きな多面体が待ち構えていた。

脈動しているようでもあり、寝息を立てているようでもあり……

それが安らかな気持ちでいる事が、なんとなく感じ取れた。

 

「まさか、これが……」

 

「……そうだよ、これが鏡の魔女。魔女の手下が成長してミラーズのあっちこっちに沸いてる鏡の魔女、そのオリジナル」

 

 帆奈の声色は今までにない真剣なものだった。

それほどまでに手強い相手なのか、或いは彼女にそうさせる何かがあるのか……

 

「さぁ〜先生❤殺っちゃってください!!」

 

 顔を向けた時、帆奈はよく知る不快な笑みに戻っていた。

ななかは横のクズを無視し、目の前の魔女を倒すために頭を働かせる。

 

 魔女は不気味に脈動するだけで、何も仕掛けてくる気配がない。

手下の奇襲に備えて周りを見渡しても、どの方面にも鏡があるだけ。

心のざわつきを感じさせる、合わせ鏡に映るななかと帆奈の姿が……

 

 ななかがふと気がつくと、鏡に映る自分の姿が幼い頃の姿になっている。

隣には生きていた頃の父の姿があり、かつての幸せだった日々がそこにあった。

過去がななかの脳裏に反射し、今の自分がそうであるかのように錯覚する。

尊敬する父と母、順調な人生、憎しみとは縁のない順調な人生。

 

「くだらない……」

 

 ななかの意識が両手の小太刀を振り回し、美しい思い出を隅から隅まで斬り刻む。

過去を否定するつもりはない。全ては自分が自分である証明であり、大切な記憶だ。

だがななかは知っている。全ては過ぎ去ったものであることを。

ななかは知っている。これが鏡の魔女のやり口であり、かつて似たような幻覚を見せられたことを。

ななかの能力は倒すべき敵を知っていて、どうするべきかを知っている。

ななかは、過去には戻らない。

 

「果て無しのミラーズの果てがこれか……まさに底が見えたというものです」

 

 鏡の魔女の戦い方は果て無しのミラーズで受けたものと同一、今更意表を突くものではない。

意識を現実に戻したななかは次の手を誘う為に一歩近寄ると、今度は左右の鏡にコピー魔法少女が映る。

現れたのは夏目かこ、志伸あきら、純美雨。これもかつてミラーズが仕掛けてきたパターンの一つ。

かことあきらの姿を真似た化物がななかの左右に回り、挟撃を仕掛ける。

あえて最愛の仲間の姿を使うこのやり口は、ななかぎ一番嫌うものだ。

 

「ななか!どうしてその女の隣に!?」

 

「裏切ったんですか……更紗帆奈の側についたんですか!?」

 

 コピー魔法少女達が攻撃とともに口を開き、ななかの動揺を誘ってきた。

偽物達の言葉は不本意な理由で帆奈と組んでいる今、もっとも言われたくないものだった。

 

「前に言ったはずです、彼女達を騙るなと!!!」

 だが、それが仲間達本人の言葉ではないことは理解している。理解しているはずだった。

怒りと共に小太刀を抜き、左右からの攻撃を受け流そうとした時に異変が起きた。

 

「なッ……!?」

 

 ななかの反応より早くあきらの拳が突き刺さり大きく体勢を崩す。

続くかこの杖も直撃で受けてしまい、後方に吹き飛ばされる。

 

 痛みに負けている暇はない。

すぐに身体を起こし、向かってくる2人に勝つべく思考をフル回転させ、小太刀を構え直した。

 

「いっ……たァ!!なんだよクソッ!!思ってたのと違うじゃん!!!」

 

 帆奈も美雨に強い一撃を食らったらしく、ななかの隣で血を流して蹲っているのが見えた。

 

 今まで余裕の態度を崩さなかった帆奈が苦戦する程に敵は強い。

あきらの戦闘パターンは理解し尽くしているはずなのに、それを遥かに上回る速度でねじ伏せてくる。

敵の強さが今までの比ではない……だが、それだけだろうか?

はっきりとしない違和感の根元を探るべく、今度はななかから先に攻撃を仕掛ける。

相手は帆奈を追ってきた美雨だ。

 

「堕ちたカ、ななか……!!」

 

 偽物のその言葉を聞いた瞬間にまた手と足が一瞬動かなくなり、攻撃のチャンスを逃してしまう。

カウンターに対する防衛は間に合ったものの、受けたダメージと心理的動揺は小さくない。

 

 

 仲間のコピーなど今まで何度も斬ってきたはずなのに、声を聞いたらどうしても一瞬脳が止まってしまう。

過去の象徴である思い出は斬る事ができても、未来の希望である仲間の姿を攻撃する事に今更躊躇いを覚えている。ななかは自分に起きた異変をそう解釈した。

ここに来て己の未熟さが顔を出し、恥と焦りで動きがさらに鈍る。

 

 本来ならここで罵声の一つでも飛ばしてきたであろう帆奈も既に疲弊しきっている。

ななかが再び視線を向けた時に見えたのは、あきらから脳天に致命的な一撃を喰らう一歩手前の状況だった。

 

「チッ……何をボサっとしているの!!」

 

 ただでさえ状況が良くないのに、手数を失うわけにはいかない。

焦燥と瞬間的な判断が帆奈を手助けすることへの嫌悪感を上回り、片手の小太刀をあきらに向かって投げつけた。

今度は動きが曇らない。真っ直ぐに飛んで行った小太刀はあきらの腕に突き刺さり、その攻撃を中断させる。

ななかに助けられる事は予想していなかったらしく、帆奈はただ目を丸くしている。

 

「……へぇ〜?やぁ〜っとあたしと仲良しになりたくなったの?」

 

 状況を把握するとすぐに普段のにやけ面に戻り、憎まれ口を叩く。

あきらに刺さった小太刀を引き抜き、そのまま胸を貫いて沈黙させた。

 

「ふざけている余裕はもうありません」

 

 あきらが倒されて美雨が動揺している隙を狙い、ななかは帆奈の隣に立つ。

敵の視線が自分に向かず、声をかけてこない状況なら動きが鈍らないと仮定し、帆奈を盾にする事を考えていた。

 

「しばらく敵の攻撃を防ぐ事だけしていなさい、さっきのように私が死角を……」

 

「じゃああたしからも協力したげる❤」

 

 今度は帆奈がななかを無視して前に出る。

ななかが投げた小太刀で腕を斬り、多量の血を流して不気味にニヤついた。

 

「な、なにを!?」

 

「痛ったぁ!!……ふふっ、あたしコレ嫌いなんだけどさぁ……」

 

 ダメージによって帆奈のソウルジェムが濁り、真っ黒に染まる。

本来なら魔法少女が魔女になる深刻な状況、だが帆奈はそうならない事を知っている。

かつてマギウスによって作られ、今でも神浜に在り続ける〝魔女にならない仕掛け〟自動浄化システムを知っている。

帆奈が死んだ後に作られ、本来な彼女が使う事などあるはずがないものを知っている。

魔女の代わりに現れる力、ドッペルを知っている。

帆奈という存在は、過去に留まらない。

 

「魔女にならない方法?ドッペル??最初にザコキャラ共から聞いた時はマジでがっかりしたよね……」

 

 小太刀を投げ捨て、血まみれの両手を大きく開く。

脊髄をへその緒に似た管が突き破り、先端が次第に形を作っていく。

 

「あんたも、あいつらも!!一番大事な真実をさ、一番美味しくてニガイところをさ!!一番つまんない方法で!!知っちゃったわけだ!!!」

 それはまるで帆奈の脊椎から悪意を吸い上げるように膨らみ続け、やがて一つの形が出来上がる。

顔面を複数のベルトで拘束された巨人ーーこれが帆奈が魔女になる代わりに現れた怪異、帆奈のドッペルだ。

 

「こんなクソみたいなもんがある事自体ムカつくんだよね!!!あんたもそう思うだろ!!!!」

 

 帆奈の笑みは次第に怒りに変わり、天を仰いで大声で叫び始める。

今までと同じく、狂人の心中などななかは理解できなかったが

この叫びは自分に向けられたものではない事だけが、なんとなくわかった。

顔を覆われたドッペルが声無き雄叫びをあげるその様は、まるで自分以外の全てに対する反駁のようだった。

 

「死ねよ、お前ら」

 

 今まで一度も聞いたことがない冷酷な声と共に、帆奈のドッペルが巨大な掌をあきらとかこに振り下ろす。

偽物の2人は声を上げる暇もなく叩き潰され、その姿を消した。

 

 今度は鏡の魔女本体の全ての鏡面にあきら、かこ、美雨の姿が映される。

壁面と合わせ鏡になった時、それらは無数の実態となり現実に顔を出す。

本物に匹敵する、或いはそれ以上の能力を持ったコピーが更に数を増して襲いかかる……考えうる限り最悪の状況が眼前にある。

 

「まだドッペルは動かせますね!?」

 

 ななかにもドッペルは使えるが、魔女に連なる力であり不確定要素の塊であるそれを戦略に組み込む事は出来なかった。

帆奈とそのドッペルについて思うところは山ほどあるが、今はこれに頼る以外に道がない。

 

「んあー?……あぁー、そうだったね」

 

 ななかの声を聞き、まるで目が覚めたかのように平静を取り戻す。会話はまだいまいち成り立っていない。

この不安定な情緒はドッペルの副作用なのか、ただ帆奈が狂っているからなのか……いずれにせよ、自分も使おうとは思えない。

 

「じゃあ、ここからは超協力プレイ❤」

 

 帆奈は動くが、ななかの意を組む気配が見られない。

ドッペルは敵の群れではなくななかの方を向き、身体から伸びるリードをななかの首に巻きつけた。

 

「!!!」

 

「お友達のツラ斬るの辛そうだからさぁ、力を貸してあげるよぉ?思うままぶっ殺せるようにさ!!!」

 

 リードを通じてななかに〝なにか〟が流れ込む。

それはななかの身体を勝手に動かし、目の前の敵達を斬り刻んでいく。

偽物達の言葉に身体が戸惑う事はもうなくなっていた。

 

 帆奈から流れ込む〝なにか〟は脳まで侵食しようとしている。

生命本能が危険を訴え、精神を研ぎ澄まし必死に自我を保つ。

誰かの声を聞いている余裕も、自ら声を出す余裕も無い。

 

 2人の力を用いて、凄まじい速度で敵を葬る。

だが、ここには連携も信頼も無い。

 

「つれないなぁ?身も心もあたしに委ねてよ❤」

 

「ふざっ……けるなァ!!!」

 

 帆奈に対抗するために強く保った自我は更に研ぎ澄まされ、刃の如き鋭さを持つ。

普段心掛けている丁寧な言葉遣いはもう頭にない。

ただ鏡の魔女を倒すだけでは終われない。

このままこいつの好きにさせるわけにはいかない。

 

 憎悪で研いだ自我を持って身体のコントロールを強引に奪い返す。

握った小太刀を手放し、首に絡んだドッペルのリードを掴む。

 

「はぁ?誰がそんなことしろって言ったよ!?」

 

「黙ってろ!!!」

 

 リードが巻きつけられた首と握った両腕にありったけの力を込め、接続されたドッペルと帆奈ごと壁に叩きつける。

 

「アガッ!?お、お前ッ!!!ちょ、痛い痛い痛い!!!」

 

 ドッペルの巨体が何度も何度も壁と床と天井の鏡にぶつかり、その鏡面に無数のヒビを入れる。

最早鏡としての機能を果たさないそれらがコピー魔法少女を写すことはもうない。

 

 鏡の魔女は変わらず脈動し続ける。

コピー魔法少女も結界も既にズタボロだというのに、焦る様子がまるで無い。

或いは、最初から本体は何も見ていなかったのかもしれない。

 

「デェェェヤァァァァッ!!!!」

 

だが、それもここで終わる。

ななかは最後の力を振り絞り、絶叫と共に帆奈とドッペルを鏡の魔女に叩きつけた。

 

「やぁめぇろぉおおおおおおおお!!!……ん?これはこれで好都合かな?」

 

 最後の攻撃に集中するあまり、帆奈の不穏な一言を聞き逃してしまう。

これが最善の一手であり、最悪の一手でもある事にななかはまだ気付けない。

 

 ドッペルが鏡の魔女に直撃し、その表面が粉々に砕け散る。

魔女の中は不気味な程に暖かい光に満ちていて、砕けた鏡の反射が眩しくななかは目を覆ってしまう。

魔女の表面が砕けた後、何が起きたかななかは把握する事が出来ない。

ただドッペルを解除した帆奈がその中に飛び込み、何かをした事だけが辛うじて見えた。

首を絞めるような、抱きしめるような……激しさも殺意も無い、不思議な動きが見えた。

 

「ハァ……ハァッ……ウッ……!!」

 

 ちぎれそうになるまで酷使した首と腕が痛み、ななかはその場に蹲る。

今にも飛びそうな意識を何とか保とうと必死に荒い息を吐き、脳に酸素を送り込む。

 

 だが、ななかの固有能力は休ませてはくれない。

この場における真の敵である鏡の魔女を倒した今、敵を見極める能力は新たな敵が現れた事を告げる。

新たな敵とは言うが懐かしさがある感覚、かつて追っていた父の仇の感覚。

目の前の更紗帆奈こそが倒すべき敵であると、能力は改めてななかに告げた。

 

 同時に、かつて帆奈に暗示の能力を受けた時の忌々しい感覚を思い出した。

思い出し、それが先程まで受けていたものによく似ている事に気がついてしまった。

それはコピー達の言葉で身体が固まってしまった時。

帆奈のドッペルがななかの身体を無理やり動かした時と重なる感覚。

 

 そして、酸素が足りていない頭に嫌な予想が次々と浮かんでくる。

帆奈が自分をここに招いた理由。帆奈が鏡の魔女を倒したい理由。

鏡の魔女が魔法少女だった頃に持っていた固有能力。

 

 鏡の魔女の正体。

 

 ななかは拾った小太刀を痛む腕に持ち、疲れ切った身体で帆奈の元に駆け出す。

予感に結論を出す時間はない、今ここで動くしかない。

恐怖、怒り、そして憎しみ。

帆奈に再会した時に噴き出した感情に従い、あの女を斬らなければならない。

取り返しのつかない事になる前に。

 

「はい、ストップ」

 

 帆奈の首に小太刀が当たる一歩手前、帆奈の声が聞こえた瞬間。

ななかの身体は完全に固まり、動く事が出来なくなる。

かつて帆奈と戦った時のように。

 

「残念だったねぇ〜?気づくのがちょっと遅かったねぇ〜?」

 

 

「今回も、あたしの勝ち❤」

 

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