いつかあなたの隣に立ちたいと 作:書架の山に埋もれる者 -雪華-
━━━━━━これは、記憶だ。
皆は大地を蹂躙する厄災、と聞くと何を思い浮かべるだろうか?竜巻か?地割れか?私が相手をした厄災は、そんな些細な自然災害ではなかった。其れは生きていた。
そもそも人が立ち向かえる存在ではなかったのだ。
天を貫かんとする柱に巻き付いたその巨大な体躯、私なんて奴の牙一本サイズのちっぽけな存在。遥か上空より睥睨せしその紅い瞳に写る私は、其れにはどんな風に写っただろうか。
まさに絞蛇竜に睨まれた釣りカエルだ。私がニトロガスガエルなら一泡吹かせてやれただろうが、私は凡人、ただ喰われるのを待つだけの存在だ、だが━━━━
例え釣りカエルでも、自身の数倍の体躯を持つ化け鮫や水竜を釣り上げるという所を、
「魅せて、やろうじゃないか!」
竦む両足に鞭打って、目の前に聳え立つ厄災に私は吼えた。普段狩りをするモンスターとは格段に違う殺気、少しでも油断すれば咬み砕くという現実を、其れは天に向かって咆哮することで突きつけてくる。
あまりの爆音に途端にその場に蹲る。頭が割れそうだ。
竦み上がる私の心臓を、鬼人薬を呷ることで押さえつけ、幾多の視線を乗り越えてきた背中の相棒、天廻龍の素材で作った白金の薙刀―操虫棍を抜刀する。
まずは力を集めなくては、操虫棍は始まらない。
大抵のモンスターは頭が赤、背中が橙、足が白と相場が決まっている。背中にはどう足掻いても届かないだろうことを瞬時に察した私は、背後で煩い尻尾を睨んだ。
相手に背を向けることになるが、そこはそれ、巨体からの攻撃は大振りだ。如何様にも避けられるだろうと踏んで手始めに段差から跳躍し、左手の刃を長大な尻尾に叩きつける。
するとどうだろう。先刻まで私を睥睨していた大蛇は情けない悲鳴を上げながら崩れ落ちたのだ。俗に言う、特殊ダウンである。
あまりの呆気なさに一瞬呆けたが、気を取り直す。下顎を地面に叩きつけられ、目を回した大蛇の頭が頭上にある。これ幸いと頭から赤、尻尾から白を採取。本領発揮には及ばないが、それでも十分だ。
頭に向かい縦回転斬りを3回、袈裟斬りを左右1回ずつ、横回転斬りを2回、手の中で薙刀を回転させながら、踊るように斬撃を繰り出す。幸い肉質も柔らかいようだ、肉を抉る感触が心地好い。
だが、いつまでも倒れている相手ではない。開眼し頭を起こして、そこが定位置なのか、身体を巻き付けた岩の麓に頭を戻すと喉を撓め、咆哮。そして、何かが駆動するような音を響かせながら、その場から移動を始めた。
「背中が前を通るな…有難いこった」
眼前を通り過ぎる背中の突起に猟虫を飛ばす。が、予想外れて採取できたのは赤だった。思わず舌打ち。
「おいおいセオリーと違うじゃねぇか」
悪態をつきながらも手は止めない。幸い的はデカいのだ。移動中はひたすら斬れば良い。
しかし相手も古龍。ただ斬らせるためだけの移動ではない。
不意に頭上を影が覆う。
半ば反射的に横に飛ぶと、青い炎を振りまきながら地面に突き刺さったのは隕石か。火竜のブレス程のサイズの隕石は脈動しながら、こちらを潰せなかったことを悔やむかのようにキン、と音をたてる。
たまったもんじゃない、頭上に注意しながらの狩りを強いられるのは。移動の時以外も気にかけなければ命がいくつあっても足りなさそうだ。
先刻より段差一段下がった位置に陣取った大蛇は、斯くして私を睨む。相変わらず隕石は落ちてくるが、斬らねば勝てぬのも道理。
お誂え向きに背後に置かれた右手鉤爪を、先程と同じ連携の斬撃を重ねる。件の大蛇は横で舌をチロチロさせながらこちらを睨んだままだ。もしかしなくともコイツ、攻撃しないんじゃないか。
「余裕だな」
頭の方に視線を向け、独り言ちたのが悪手だった。
左手の肉を断つ感触が消え失せ、何事かと視線を戻すと、大蛇の両腕は発射を待つ撃龍槍のように撓めている。
先程まで睨み合っていた筈の大蛇の顔が眼前にある、大きく口を開いて。そこから先は想像するまでもない。
マズイ、喰われる。
咄嗟の納刀、横っ跳び。
爪先を大蛇の牙が掠め流血する。貫くような痛みが全身に駆け巡る。悲鳴をあげそうになるも下を噛み、装備をものともしない威力に毒づく。
だが、こんなか擦り傷なら日常茶飯事だ。それに毒づく暇があるならまだ舞える。
数多の古龍を、モンスターを、乗り越えてきたのは、
「伊達じゃないんだよッ!」
着地してすぐ獲物を地面に突き立て、跳躍する。技の余韻で硬直する大蛇に向かって空中で斬撃、大蛇が怯む。
顔の後辺りから橙を回収し、連撃を紡ぐ。三色揃えば本領発揮だ。片足の痛みをものともしない一連の連撃を叩き込んだところで、大蛇が起き上がり、先刻の草食竜のような移動とは比較にならない速度で、足場の下に消えた。
「来るか」
咆哮を上げながら大蛇が開口し構える。今度は顎を左右に90度傾けた噛みつきだ。これを2回。今度は十分に距離を取り難なく回避し、同様に硬直する後頭部に連撃を叩き込む。
技を終えた大蛇は移動を開始する。頭上からは隕石のオマケ付きだ。頭上に注意しながら連撃を叩き込む。気の遠くなるような、攻防の繰り返し。幾ばくかの移動を経て、武器の斬れ味と体力、集中力をすり減らしながら攻防は続く。
そして耐久力をすり減らした相手の尻尾を切断した時、それは訪れた。
大蛇が再度、足場の下に消える。また移動か、そろそろ半日経ったんじゃないか。そう毒づきながら携帯食料を貪り食う。一度呼吸を整えようと、砥石を取り出したその時だ。
大蛇が、否、厄災が、唸りながらその鎌首を擡げる。口内に青白く迸る何かを溜めながら。
ブレスか、マズイな。喰らえばひとたまりもないが、予備動作が長すぎる。火竜の単発ブレスとは訳が違うだろう、その口から放たれたのは鋼龍の竜巻にも匹敵する奔流だ。
其れが一筋の帯となって殺到する。逃げ場が無い。砥石を投げ捨てるがもう遅い。死が、迫る。
━━━━━━━━いや、道はまだある。
瞬時に身体を翻し、背後の崖に身を投げた。先刻の戦闘で高さは確認済みだ。落下ダメージを前転で殺しながら着地。頭上を青い奔流が通り過ぎる。
「間一髪だな」
独り言ちる。あの威力の大技だ、連発はしないだろう。立ち上がろうとして、開幕に食らった足を着の際に痛めていることに気づく。
「ちとマズイな。大技の直後だ、追撃は無いだろう。代わりのもので補強するしか…」
だが、しかし。それを嘲笑うかのように。
先刻と同様の唸り声を上げながら、死の奔流を口内に宿した厄災が鎌首を擡げる。後ろは奈落だ。もう回避する場所がない上に、大地を抉るあのブレスでは、この場所は直撃コース。
厄災が、嗤った、気がした。
「甘いな、ってか?そのまま返すぜ。あまり狩人を、人間を舐めるなよ!」
厄災に、強気に、笑い返す。
アイテムポーチから大樽爆弾Gを2つ引き摺り出し、壁になるように設置。そして爆風に身を任せ、思いっきり横に飛ぶ。
私の奥の手、爆風回避だ。
以前この回避方法を旅団の仲間に話した時は絶句された。だがこの方法なら、爆弾のダメージは受けるが相手の攻撃は比較的最小限に抑えられる。そして私が身につけている炎王龍の装備なら、爆風くらい微風だ。難なく2度目のブレスを交わし、迷いなく前方の崖から身を投げた。
こちらの崖下はベースキャンプに直結している。1度体制を建て直すべきだ、補給もしたい。私は重力に身を任せた。
◇◇◇
一通りの補給を終え、崖を登ると大蛇が左手側に待ち構えている。先程と違う景色があるとすれば、右手側の地形が崩れているところだろうか。流石は大地の全てを覆す古龍、と言ったところか。
私がベースキャンプにいるうちに、地形を破壊したのだろう。
決戦は近い。
「足、討伐まで持ってくれよ」
鬼人薬、強走薬を呷り、スイッチを切り換える。
大蛇の咆哮を前転して躱し、頭に跳躍斬り。数を増す隕石を躱しながら、斬撃を紡ぐ。もう被弾は許されない。慎重に、迅速に。相手を斃す事だけを考える。
「隕石が厄介だが、噛みつきは見切った。腕の薙ぎ払いも跳躍で躱せる。行ける、行けるぞ」
おそらく勝利は目前だ。獲物を振るえ。刃を走らせろ。
旅団の仲間に、バルバレで待つ仲間たちに、朗報を届けるために、武器を振るう腕を止めるな。
噛みつき後の後頭部への斬撃。隕石の着弾点を見極めながら、腕の薙ぎ払いは跳躍で上に避ける。頭に斬撃を叩き込もうとしたところで、不意に大蛇が舌を伸ばした。
何だ?空中では軌道を変えられない。被弾もやむなし、右手で庇いながら、しかし左手の斬撃は頭に当てつつ、刺し違えるように舌に接触した瞬間だった。
「?!くそ、麻痺かッ!」
一瞬で全身に麻痺毒がまわる。空中にいた私は受け身も取れず叩き落とされる。同じく一瞬怯んだ大蛇だか、その隙を逃す相手では無い。厄災が右腕を薙ぎ払うと、私は紙屑のように吹き飛ばされる。一瞬で肺の空気が無くなり、意識が飛びかける。
「…カハッ」
だが、しかし。相手は選択を間違った。
今の攻撃で、拘束は解けた。
アイテムポーチから丸薬を取り出し、噛み砕く。
両者共に獲物を構え睨み合う。長きに渡る狩りの末に、この攻防が最後だと、本能的に察していた。
私を仕留めるための追撃を、大蛇の両腕は発射を待つ撃龍槍のように撓め、大口を開いて大地を喰らう。
私は獲物を後ろに右手を前に中腰で構える。横回転斬りを2回挟み、操虫棍の真髄を━━━━━━━
━━━━━━飛燕切りを、射出された相手の鼻面に叩き込んだ。
〜
「それで、そこからどうなったんですか?」
時は過ぎ去り、アステラ集会所酒場、星の船。私の昔話に耳を傾けるのは新米ハンター諸君だ。
「もちろん討伐したさ。私もハンターを初めて長いが、後にも先にも彼のような長大なモンスターは見たことがないな。あの長さを持つ体躯のモンスターが地に倒れる姿は圧巻だったとも」
私は先の狩り、ダラ・アマデュラ討伐戦において、普通の回避では避けられない攻撃を目にしてから、ランスを担ぐようになった。
やはり盾による防御というものは良いものだ、特攻近接剣士から見て霞龍の舌が伸びるように。歳を重ねすぎた私は、今では立派な老齢ハンターだ。
爆弾回避とかいう体に負担をかける変な技は使うな、と大団長からも念を押されてしまっているため、盾を手離せない身体になってしまった。
こんな形でも5期団の主力なのだ、皆に迷惑は掛けれまい。一緒に付いてきた、過去の私を知っている筆頭ルーキー君でさえ、かの筆頭ランサーと見まごう程だったと、私のプレイスタイルの変貌ぶりに唖然としていたものだ。
……おっと、話が逸れたな。
「私達も瘴気の谷で骸となった蛇王龍を見た時はこんなに大きなモンスターがいるのかって、絶句しましたけど、あれを倒しちゃうってやっぱり先輩は凄いです!」
面と向かって褒められると、この歳になっても照れくさいところがある。無邪気な後輩たちを軽くあしらい、飲みかけの酒を飲み干す。吹きさらしの酒場に吹く風が心地好い。
「そういえば…」
「ん?どうかしたか」
「先輩は、彼女を知ってますか?最近セリエナで腕を上げているっていう、先輩と同じランサーなんですけど」
「ああ、噂は知っているとも。かの『白のランサー』だろう。生憎名前は覚えていないが。アステラで新米ハンターたちの指導をしているが全員の名前を把握するのは苦手でね…そろそろボケてきたかもな」
態とらしく戯けてみせる。
「もう。ーーっていうらしいですよ。なんでも、龍歴院の主力ハンターとして、二つ名モンスターを全制覇した記録も持ってるとか、この前の異界からの魔物も一人で退けたって言うし。とにかく、色んな記録を持ってるんですよ」
「へぇ。そりゃ凄い…が、尾ヒレが付いてそうな勢いだな。それでも、そこまでの噂ができるということは、余程、強いんだろう」
自然と頬が緩む。そんなに強いなら、今は同じランサーとして肩を並べて狩りをしたいものだ。
「あ。先輩にやけてますよ」
「仕方ないだろう。幾つになっても強者の存在というものは、心躍るものだしな。機会があれば、話してみたいな」
そう、可能であるのなら。
━━━━━いつか、かの白のランサーと…
To be continued…
こちら皇我リキさんのTwitter企画、題して「モンハンの短編を皆で同時投稿してハーメルンの新着小説一覧をモンハン作品で埋めるテロ行為」(長い)に参加した結果できあがった短編になります。このツイートが昨日の夜RTで回ってきまして、面白そうだなと思っちゃいまして、4時間程で書いちゃった一晩漬けとも言えないシロモノになりました。
匿名を使用して投稿してくださいとの事で、大層な古龍の名前をクジで引いてしまってですね、老山龍になりました。ハーメルンのアカウントは持ってるんですけど、それはまたいずれ。
このモンスターを選んだのは、単純に私のハンター人生の中でいちばん思い入れがあるモンスターだからです。大変だったのは作業ゲーとも言われがちなこのクエスト、戦闘描写が難しいなって。その辺上手く伝わっていたら、嬉しいです。あと書いてみて思ったのは、キャラクターを喋らせるのが苦手だなって。致命傷だな。日本語がおかしい所は初投稿ということで、許してくださいまし。
そうそう、日本語と言えば一週間くらい前にTwitterで話題になったモンハン諺。知っている人もいると思います。作中に2つ程、散りばめてみました。特に冒頭の方の1つは、上手く表現出来たんじゃないですかね。ええ自画自賛ですとも。
最後にこの短編、これは実際にあった、とあるハンターの記録です。ちなみに作中にモロに答えが書いてあります。
ヒントというか答えになるかもですが、この主人公、ゲームで言うところのサブ垢になります。長くなりますが(既に長いですが)、私はMH4からモンハンの民になりました。4Gまでは男性キャラを、X〜今作までは女性キャラをメインで使用してきました。作中の「白のランサー」が今の私のメインキャラ、作中主人公が過去の私のメインキャラ(現在はワールドのセカンドデータ)という設定です。アイスボーンになってからサブ垢を触れてないからアステラ止まりというメタ設定ですね。同じソフトのメインとサブなので、2人は絶対に出会うことは無いけど、いつかどこかで、同じ舞台に立たせてあげたいなと思った次第です。
ここまで読んで頂いて、本当にありがとうございました。小説を書いてみたいなという僅かな思いがなかったと言えば嘘になりますが、いい経験になりました。稚い文章ですが、宜しければ感想お聞かせくだい。ありがとうございました。
現在、続編を執筆中です。今暫く、お待ち頂けると幸いです。