いつかあなたの隣に立ちたいと   作:書架の山に埋もれる者 -雪華-

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兆候

━━━━━夕暮れ時。アステラ集会所酒場、星の船。その日の狩りの成果を肴に酒を煽るハンターや、忙しなく配膳に勤しむアイルー、クエストの受注処理をする受付嬢が、山頂に腰を下ろした船に集う時間。

 今まさに地平線へと沈みつつある夕陽、夜の帳を見せ星が輝き出す西の空を一望できる集会所は本日も程よい賑わいのようだ。

 

 私は今日も新米ハンター諸氏の訓練を終え、船の喧騒を背景音楽に、船尾に備え付けられた特等級の自室にて、酷使された老体を寝具に預け天蓋を見上げていた。

 

 近頃は話題の新天地、渡りの凍て地の調査も一段落着いたということもあり、かの『白のランサー』に感化された新米達がアステラの訓練所の門を叩く頻度が増えたように感じる。

 口伝のみの伝承の主の討伐、不可解な『歌』の解明、その主の討伐。マスタークラスの爛輝龍の討伐。真の姿を表した冥灯龍の討伐。討伐、討伐、討伐……。

 

「よくもまぁここまで、名を轟かせる者も居たものだ」

 

 以前、尾ヒレが付いてるのではと疑った、かの新たな英雄。この偉業を成し遂げたのが自分より若い、しかも女だと言うのだから、若い者もまだまだ侮れんと独り言ちる。

 終ぞ話ができる機会は無かったが、噂だけは聞き及んでいた。老体に寒冷地は堪えるという理由で前線から下がって長いが、これは故郷バルバレからウルク装備を取り寄せてでも会ってみたいという衝動に駆られる。

 

「いや、セリエナに赴けば防寒着は貰えるんだったか?しかしなぁ…私も教官を引き受けた身、そう何日も訓練所を開ける暇は無かろうよ」

 

 さて、そろそろ腹が空腹を訴えてきた。酒場に向かうとしよう。物思いを中断し、扉を開き外に出ると、喧騒が波のように押し寄せてくる。扉から近い席に座る訓練生からかけられる声に軽く対応しながら、船の中央のカウンターを目指す。

 

「今日もお疲れ様ですニャ、穿鬼殿。ご注文はどうするかニャ?」

 

「今日は一段と腹が減っていてな。今日のオススメを大盛りで頼む」

 

「りょーかいだニャ!暫くお待ち下さいませニャ〜」

 

 配膳アイルーに注文をして、席に座り一息つく。活きのいい返事を残してスタコラ階下の厨房に消えるアイルーを見送った私は、待ち時間に明日の講習の内容でも纏めておこうと、カウンターに肘をつき目を閉じ考えを巡らせようとしたその時である。

 

 

 

「穿鬼さん!穿鬼さんはいらっしゃいますか!?」

 

 

 西に備え付けられた昇降機から、私の聞き間違いでなければ、私の名前が呼ばれた気がする。それもかなり切羽詰まった声音で。

 一瞬で静まり返った集会所の客の目線は、唐突な闖入者に釘付けである。数秒たじろいだ言伝役の彼女はそれでも臆することなく要件を述べる。

 

「緊急招集です!至急団長の元へお越しください!」

 

「わかった。直ぐに向かおう。」

 

 

 今度は私に視線が向けられる。この群集心理も湯に浸かったギンセンザルの群れを眺めてるようだと考えるほどには冗談を言う余裕もあるらしい。隣に座っていたハンターに配膳アイルーに詫びを入れるよう伝え、今夜は飯抜きかと悪態を漏らしつつ、私は集会所を後にした。

 

 

◇◇◇

 

 

「食事中すまんな、穿鬼殿」

 

 作戦本部に到着するなり、私に話を降るのは拠点アステラの総司令だ。植生研究所の職員もいる。手振りで言伝役を下がらせ、此方に向き直る。

 

「残念ながらまだ一口も食えておらんよ、司令」

 

「そうか、それはすまない。これでも食っておけ。少しは腹の足しになろう」

 

 そう言ってアステラジャーキーを投げ渡される。片手で受け止め、一口齧る。塩味の効いた旨味が口内に広がった。

 

「さて、それでは早速だが本題に入ろう」

 

「内容については、僕から説明致します」

 

 

 続く研究所職員の話はこうだ。

 

 

 

 先程、3期団団長から翼竜を使った緊急を要する文書が届いた。

 

 曰く、瘴気の谷で確認されている屍套龍が陸珊瑚の地にて観測されたらしい。かの龍が陸珊瑚下層にある瘴気の谷から上がってくることはほぼ無く、異例の事態と言えるだろう。

 

 それだけならセリエナにいる精鋭ハンターを飛ばせば良かろうものだが、谷から上がってきたのは屍套龍だけでは無い。

 

 谷の暴走骨車ラドバルキン。

 常時赤熱化状態を獲得したオドガロン。

 青い爪を持つティガレックス。

 口腔と長く発達した尾に硫晶を纏わせたディノバルド亜種。

 

 それらが続けざまに観測された。加えて、導虫を伴わせた観測によると、全固体が歴戦個体だという。

 

 谷からは以上な量の瘴気が上昇してきており、常人では谷に入るのは危険と判断した3期団団長が現在は谷への一切の立ち入りを禁じている。

 

 この事態に先立ち、セリエナは現状最高戦力である『白のランサー』と、ソードマスター、筆頭ルーキーを陸珊瑚の地へ派遣したとの事。そして過去に名を轟かせた英雄である穿鬼殿に、白羽の矢が立った、という流れである。

 

 至急、陸珊瑚の地へ赴くようにと。

 

 

 

「事態は急を要します。一刻も早く、陸珊瑚の地へ向かってください。翼竜は既に、食事場の北に手配してあります」

 

「ヴァルハザクとラドバルキンは兎も角、残る3体は特殊個体とみていいだろう。加えて青き爪を持つティガレックスだが、この個体は旧大陸でも観測されている荒鉤爪ティガレックスだと推測される。特徴が酷似しているからな。穿鬼殿は知っているだろうか?」

 

「生憎だが私は初見だ。私はバルバレの出でドンドルマから直接アステラへ来たからな。知識としては知っているが、詳細まではわからんな」

 

「かの『白のランサー』はベルナ村の出だというぞ。件の二つ名を持つ相手の情報は彼女の方が1枚上手だろう。現地に赴き彼女らと連携を取り、陸珊瑚の地に出現した5頭を討伐する任務を穿鬼殿に言い渡す」

 

「了解だ、司令。直ぐに装備を整え現地に向かおう」

 

 即座に踵を返し、自室へと向かう。瘴気の谷で何かが起こっているのは間違いないだろうが、今は目前の事態の収拾が先決だ。

 このような形ではあるが、かの『白のランサー』と相見える戦場に立てるのだ。些か複雑ではあるが、願ってもない好機と言っても過言ではないだろう。

 自然と頬が緩む。

 

「事態は宜しくないが、面白くなってきたじゃないか。件の新たな英雄と背中を預け戦える機会が来ようとは…」

 

 自室へと戻った私は、必要なアイテムと装備を掻き集める。選んだ相棒はガイラクレスト・惨爪。装備のEXカイザーのスキルと伴われることで決して落ちることがない斬れ味を実現させた、近接職御用達の装備構成である。

 準備を済ませ食事場へ向かうと、総司令と先程集会所で会話をした配膳アイルーがいた。

 

「ニャ!穿鬼殿、ご注文頂いたメニューをすぐに食べられるように賄いにしておいたニャ!」

 

「助かる。このままだと空腹でぶっ倒れそうだったからな」

 

 冗談を交えて返答する。漏れる失笑は司令からだ。私も苦笑いしながら食事にありつく。

 

「悪いな、穿鬼殿」

 

「何、気に病むことは無い。訓練所を数日開けることにはなるが、直ぐに帰ってくるさ。それに状況を鑑みるに、適役は『白のランサー』と歴戦の猛者2人、あとは私くらいだろうからな。司令の孫も腕の立つ大剣遣いだが、彼はセリエナの総司令だ。戦場に出す訳にはいくまい」

 

「愚問だったか」

 

「そういう事だ。あとは任せておけ。戻ったら一杯やろう、『白のランサー』も呼んでな」

 

「ニャ!宴の準備は任せろニャ!」

 

「頼むぞ」

 

 そう言って配膳アイルーと拳を突き合わせ、席を立つ。

 

 

 

「では司令、行ってくる」

 

「あぁ、頼む」

 

 

 

 交わす視線、言葉は端的に。

 司令とは長い付き合いだ。その一言で、私の想いは伝わっただろう、翼竜の手網に手をかける。

 

 目指すは陸珊瑚の地。

 私は手網を引き、夜の空へ飛び立った。

 

 

 

 

To be continued…

 

 

 

 

 

 




お久しぶりです。匿名者ラオシャンロン改め、雪華(せっか)といいます。以後お見知り置きを。

小説を書くのが楽しすぎて、続編を紡ぐに至りました。お手に取っていただいた方、ありがとうございます。不定期に更新して参りますので、宜しくお願い致します。

前話でも書いた気がしますが、このお話では陽気な推薦組=過去作の筆頭ルーキー君という解釈なのです。お手数おかけ致します。

次話も現在執筆中です。今暫くお待ち頂けると幸いです。
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