いつかあなたの隣に立ちたいと   作:書架の山に埋もれる者 -雪華-

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ほとんど戦闘描写です(:3_ヽ)_


老齢のランサー

───緑青色の大太刀が、右手に握る盾を抜け、右肩の防具を浅く抉った。私の首を掻っ攫うべく、質量を持った死が迫る。

 

「……っと。危ねぇな」

 

 首を左に倒しながら、盾で大太刀を上に押しのけるようにして回避。後方に跳び距離をとるも、此方の構えを崩すべく、奴の剣戟は止まることを知らない。

 度重なる剣閃を躱し、時には盾で捌き続け、隙あらば攻勢にという戦法で凌いで来たが、眼前の硫斬竜には悪手だったようだ。中々隙を見ることが叶わず、このように防戦一方になってしまった。

 

 額に伝う汗の臭い。むせ返る硫晶の匂い。陸珊瑚の地に漂う瘴気の匂い。そして、あちこちに散らばる死のにおい。

 

 死線を嗅ぎ分ける嗅覚は、失敗を許さない防戦の最中に衰えたらしい。数瞬の油断が、先刻のように死神の手を招く。

 

 意識を研ぎ澄ませ。奴の太刀筋を見極めろ。納刀が遅いランスでは、悠長に回復を挟む暇は無い。矛を納めている時間があるなら、我武者羅に的を貫くことに集中しろ。

 

 

◇◇◇

 

 

 眼前に屹立するは硫斬竜、ディノバルド亜種。の、特殊個体……で良いのだろうか。

 通常種とは異なり、長く発達した尾に加え、口腔にも硫晶を纏わせている。通常種ならば硫晶の量が過剰になれば、動きが鈍くなることを嫌って牙を使い"研ぐ"行為をするのだが、かの竜はそれをしない。むしろ其の質量を利用するのだ。過剰を超え尋常ではないまでに硫晶を纏わせたその形状は総てを鏖殺する斬馬刀の如く。

 

 本来の硫斬竜が太刀のように尻尾を扱う侍であるとするならば、この特殊個体は斬馬刀のように辺り一帯を殲滅する野武士だろう。

 

 本来の硫斬竜に通用するセオリーがどこまで有効か見ものだな。どちらにせよ、油断は禁物だが。

 

 奴が大気ごと薙ぎ払うように、緑青色の大太刀を振るう。こちらを挑発するかのように、不規則にその長刀を揺らめかせた奴の赤い双眸と視線がぶつかり合った。

 

「……行くぞ、硫斬竜」

 

 私は振るわれた尻尾に左手のクラッチクローで張り付き瞬時に接近すると、奴の背に跨って左手の槍、ガイラクレスト・惨爪を突き立てた。

 

 ランスは基本的には攻撃より防御を得意とし、盾で相手の攻撃を捌きながら反撃を狙う武器だ。しかし、相手によっては防戦一方になると体力的に危険な場合も存在する。今のように。

 故に、私は攻勢に出る。そもそも竜のスタミナと人間のスタミナを同じ天秤で測ること自体が間違いなのだ。相手のペースに合わせていては、先に此方の限界がくるのは明白。

 

 突き立てた槍をそのまま、肉ごと抉り取るように薙ぎ払う。螺旋状の形状をもつガイラクレスト・惨爪ならば、甲殻を削りながら突き進むのは容易い。

 

 奴が苦悶の咆哮をあげる。背中に張り付く煩わしい虫ケラをすり潰すように、珊瑚の壁に背を叩きつけるも、もうそこに私は居ない。背中に意識を向けた瞬間を狙って頭部に跳び移り、剥ぎ取りナイフを奴の右目に突き刺した。

 

 奴の絶叫が響き渡る。

 至近距離で大咆哮を受けた私は流石に振り落とされたが、これで奴の視界の半分は封じた。

 

 基本的に硫斬竜含めディノバルドの尻尾で薙ぎ払う攻撃は、右回りの攻撃が主となる。故に、右側の視界を物理的に潰すことによって奴の攻撃を制限できると踏んだ訳だ。

 

「さぁ、どう出る。硫斬竜さんよ」

 

 

 

 右目に剥ぎ取りナイフが突き刺さったまま、奴が此方を憎悪の目で睨む。苛立つように大地に尻尾を叩きつけながら、怒りの咆哮をあげた。動く度に眼球に刃が食い込み、辺り一体に血飛沫が飛び散る。

 

 急所の痛みをものともしないのか?一瞬の動揺を挟むもそれを押し殺し、次の手に備える。

 

 奴が跳躍し、此方を脳天から叩き割るべく、緑青色の大太刀を振るった。

 其れを腰を落として盾を引き絞り、しゃがみ込んで受け止める。盾の表面が大太刀の摩擦で青く発火したところを見計らい、大太刀を受け流しながら力を溜めた左手の槍で尻尾の付け根を穿つ。

 

「むん!」

 

 気合いと共に肉に槍を押し込む。切断には至らなくとも、螺旋状の刃によって相応のダメージは与えたはずだ。引き抜き、死角になった右側に回り込み追撃を加える。血風が舞う最中、その槍で突き刺し、薙ぎ払い、穿ち抜く。

 

 

 不意に視界を濃密な紅が覆った。

 奴の右眼から迸る血だ、と気づいた時には既に遅く、視界が妨げられるのを嫌って閉じなかった目に奴の血が侵入する。

 

「……ったく、器用な事をしやがるな!」

 

 悪態をつけるくらいには心の余裕を残しながら、飛び退り前方に盾を構え追撃に備える。

 自分で奴の視界を潰すべく眼を穿ったのは良いものの、まさかその血を利用して此方の視界を潰しにかかってくるとは、相当に知能を有しているのだろうと推測できる。

 私の中で奴に対する脅威の度合いが引き上げられた。

 

 

 

 しかし、一瞬でも視界を潰されれば、攻撃の優位はあちら側に傾くのも必然。

 

 

 

 前方に構えられた陳腐な障壁など恐るるに足らず。

 硫晶を纏った牙を剥き、横凪に噛みつきが襲い来る。

 

「ぐっ?!」

 

 次の瞬間、右半身に強い衝撃。

 咥えられたと悟ったときには、既に左手が動いていた。

 

 

 硫斬竜が其の顎に力を込める寸前、左手の槍を後方に投げ捨て、ポーチからこやし玉を二個引っ掴むと鼻面に押し込んだ。

 奴は堪らず大口を開き後退ると、手近な水溜まりに顔面を突っ込む。我ながらえげつない撃退方法だが、胴体が永遠に泣き別れになるよりはよっぽどましだ。

 

「まったく……これでも五十路過ぎてる上に、ご老体に片足突っ込んでる身なんだがな……狩場に立てなくなったらどうしてくれる」

 

 竜が人語を理解していないとはいえ、私は愚痴らずにはいられなかった。

 

「そろそろ終わらせるぞ、硫斬竜さんよ。いつまでも顔面が臭いのは堪らんだろうからな!」

 

 剛毅に吼える。

 勢い良く大地を蹴飛ばし、腰を落とした神速の吶喊を仕掛ける。狙うは奴の尻尾の付け根だ、こちらに無防備に背を向けている今が好機。尻尾に蓄積したダメージも相当のものだろう。今こそ、その根元を穿ち抜く!

 

 しかし相手も油断はしていない。こちらの足音を拾うや否や、回頭する勢いを以て尻尾を横一閃し迎撃する。

 

 振るわれた尻尾は、その場に急停止することで、危なげなく盾で受け止める。次第に硫晶で重量が増してきているな。盾越しに肘に抜ける衝撃に辟易しながらも、一瞬がら空きになる付け根に抜け目なく刺突をくれてやり、続く噛み付きはガードダッシュで押し退けると同時に、すれ違いざまに横頬を強打する。

 

 仰け反った硫斬竜が苛立たしげに唸ると、あろうことかその尻尾を研いだ。

 

「斬馬刀ではこちらの動きを捉えきれないと踏み切ったか?だが甘いな。有利を捨てたが運の尽き、このまま仕留めさせてもらう!」

 

 地面を抉りながら接近する斬り上げには臆することなく前進し、右手の盾で受け流しながら距離を詰める。右脚を軸に反時計回りに廻転し、逆手に持ち替えた槍を振り被り―

 

―螺旋の矛先を持つ槍を、残りひとつの視界に突き立てた。

 

 

 

 勢い良く噴き上がる鮮血。

 痛みに堪らず悲鳴を上げる奴の声音に負けじと声を張り上げ、機を伺っていた"彼ら"に合図を送る。

 

 

「視界は封じた!」

 

「任せよ!」

 

 頼もしい返事とともに、珊瑚の影から銀色の鎧が躍り出る。

 空中で鞘から雌火竜の太刀を抜刀した彼は、重力を伴った渾身の一閃で硫斬竜の尻尾を根元から両断した。

 

「御免」

 

 奴の絶叫が木霊する。

 痛みのあまり横倒しになり、暴れる奴に油断なく近づいた特長的なオレンジ髪の青年がシビレ罠を設置、捕獲に成功した。

 

 狩場に漸く、静寂が訪れる。

 

 

◇◇◇

 

 

「いつから気付いておった?」

 

「ん?ああ、奴の鼻面にこやし玉を叩き込んで距離をとった時だな。ピンク色の珊瑚の隙間にオレンジ髪が見えた」

 

 少し時は経ち、特殊個体の硫斬竜の捕獲に成功した私達は、手頃な岩に腰を預け一時の休憩に浸っていた。

 

「あの穿鬼さんで押されてるのに、俺らが乱入してもできることなんて知れてるっスからね。万が一のために閃光玉は準備してましたけど、やっぱり流石穿鬼さんッスね」

 

「どんな時でも周りに意識を向けるのが上級者ってもんだからな」

 

 他愛ない会話を続けながら、回復薬グレートを呷る。カラカラに乾ききった喉に、ほろ苦さを含んだ水分がしみ渡った。

 

「ところで件の"白のランサー"はどうした?」

 

「彼女なら、おそらく今頃ティガレックスの特殊個体の狩猟中だ。彼女の腕だ、直に合流できるだろう。心配は要らん」

 

「そうか」

 

「儂とそこのエイデンでヴァルハザク、ラドバルキンは狩猟済だ。今捕獲し終えたディノバルド亜種の特殊個体を除けば……」

 

「残るはオドガロンの特殊個体だけっスね!」

 

「了解した。ならサクッと討伐して、彼女との合流が先決だな」

 

 そうと決まれば話は早い。休息が名残惜しいがそうも言っていられないな。足に力を入れ、ゆっくりと立ち上がろうと―

 

「む」

「来おったな」

「ッスね」

 

 鍛え上げられた索敵能力が、風の音の中に不自然な葉擦れ音を察知した。視線で合図し合い、油断なくそれぞれの武器に手を伸ばす。

 

 

 次の瞬間。

 

 

 視界の端から赫色の閃光が躍り出た。

 鋭牙と殺意を剥き出しにした噛み付きを、右手の盾で迎撃。その強烈な衝撃音を合図に、ソードマスターとエイデンが距離をとる。

 

「探す手間が省けたぞ、惨爪竜」

 

 衝撃で僅かに後退させられるも、大盾は前に、矛先を後方に下げ油断なく構える。

 ソードマスターは太刀を腰だめに構え、エイデンは片手剣を抜刀。準備は万端だ。

 

「行くぞ!」

「応!」

「了解ッス!」

 

 意気軒昂。

 それに応えるように、眼前の惨爪竜が咆哮を轟かせた。

 

 

 

 

 

 

To be continued…

 

 

 

 




えー。
大変長らく、お待たせしてしまい…_:( _ ́ω`):_

申し訳ないです。お久しぶりです。雪華といいます。
はじめましての方、以後お見知りおきを。

言い訳を致しますと、
リアル多忙にいろんな試験や、諸々の予定に加え遊びたい欲が重なり、執筆が滞っておりました(´・ω・`)
物書きに有るまじき…m(_ _)m

次話も現在執筆中です。今暫くお待ち頂けると幸いです。
……次は今作よりも、なるたけ早めに出せるように善処します(戒め)

それでは。
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