何処かわからない暗い空間に俺は居た。そして、しばらくするとだんだんと周りが明るくなってくる。
「あら、起きたみたいね」
目の前に映し出されたのは金色の綺麗な髪の毛をした美少女。その顔には何処か見覚えがあった。
「おっ、起きたのか」
次に現れたの黒い髪の毛をオールバックにした小太りのおじさんだった。こちらも見覚えがある。
「餓鬼がこんな所で倒れていたんだ?」
「わからない……」
「まあ、今はいいんじゃない? とりあえずご飯にしましょ」
「そうだな。坊主、食べられるか?」
「ああ……え?」
身体を起こして視界に入った姿見を見詰めると、自分の姿ではない若い少女のような少年の姿が映し出された。その鏡に映った少年は俺が手を動かすと同時に手を動かしていた。どうやらこの金色の髪の毛に青い瞳の少年は俺のようだ。完全に別人だ。
「大丈夫? 持ってきてあげようか?」
「い、いや、平気」
起き上がって改めて10歳くらいの少女とおじさんを見る。
「そう言えば自己紹介もしてなかったな。私はサーギュラントという」
「あたしはイアリよ」
この時点でほぼ確定だ。どうやらここはポリフォニカの世界みたいだ。まあ、イアリも好きなキャラだからいいけど……これからどうするか、凄い悩むな。まあ、適当に名前を決めるか。
「多分……レイ……記憶がないからわからない」
「これはまた面倒な拾い物をしたわね、パパ」
「まあ、条件次第でここに置いてやっても構わねえよ」
「条件?」
ご飯を食べながら自己紹介とこれからの事を相談しているのだが、条件か。なんだろう?
「そうだ。お前には神曲楽士(ダンティスト)になって貰いたい」
「神曲楽士(ダンティスト)……」
「パパ、神曲楽士(ダンティスト)ってのがどんなのかも忘れてるんじゃない?」
「おっと、そうだな。神曲楽士(ダンティスト)ってのは……神曲を演奏して精霊の力を使役する特殊技能者の事だ。まあ、演奏家だな」
それから神曲楽士について教えられる。簡単にに言えば神曲と呼ばれる音楽を演奏して精霊に力を与えて使役するモンスターテイマーみたいな職業だ。
「なれるかわからないけど、できるならやってみたい」
どうせこの世界に来たのなら楽しまないと損だろう。
「なら色々と教えていってやるか。ああ、先ずは文字が読めるかだが……」
「どれ?」
「この本を読んでみろ」
分厚い本を渡されたのでそれを読んでみる。どうやら、文字は問題無く読めるし書けるようだ。日本語と変わらないみたいだな。なのですらすら読んでいける。それもどんどん知識が入ってくる。
「とりあえず読めるよ」
「じゃあ、今日中にそれを読んでおけ。私は仕事に行ってくるからな。イアリ、後は頼むぞ」
「は~い」
サーギュラントが出て行った後、食器を片付けていくイアリ。ゲームや小説で描かれたイアリティッケからしては信じられない光景だった。
「あっ、そうそう」
「?」
「ちゃんと出来なかったらお仕置きだからね♪」
こっちに振り向いて笑顔で宣言するイアリ。その表情は嘆きの異邦人に居た頃のイアリティッケを思い出させるには充分だった。
「わ、わかった……」
「ん。頑張ってね。それと、食べたい物があるならいいなさいよ」
「何でもいいよ」
「わかったわ」
それから俺は椅子に座って必死に読んで頭に叩き込んでいく。気が付けば数時間立ち、イアリも居なかった。しかし、色々と不思議な事がある。こちらに転移したとかはどうしようもないので放置しておく。俺が気になってるのは明らかに知識を一瞬で吸収できる事。そして、神曲を奏でられると確信している事だ。そう、まるでゲームみたいに。
「そう言えばポリフォニカはTRPGになっていたな……まさか、ステータス」
そう呟くと脳裏に画面が映し出された。
グランドレベル/3
神曲楽士/1
ジーニアス/2
特技
《神曲演奏》《癒しのレスピレ》《死神のバガテル》《異常な集中力》《戦術指揮》《マルチワーク》
完全にTRPGのステータスを所持しているようだ。問題は初期作成という事とだろう。支援タイプはそれで問題はないしな。これはまだいい。しかし、初期作成か……これからの経験値次第だろう。入手方法がわからないがな。後は特殊な才能も設定可能か。楽器単体で神曲を奏でるどころか歌で神曲を奏でられる。どれも選べるみたいで楽しい。100ポイント以内で設定できるようになっている事を考えると才能なんだろうな。とりあえず、歌を50にしよう。楽器は才能と努力次第だからいいだろう。半分を使って精霊文字の方を修得しておこう。歌と精霊文字は完全に特殊技能だからか、明らかに他のよりポイントが高い。他のは10もあれば余裕で修得できるのにだ。
「ぐっ!?」
修得した瞬間、頭の中に精霊文字の知識が流れ込んでくる。無茶苦茶頭が痛くなって俺は意識を失ってしまった。
次に気が付くとイアリがこちらを心配そうに看護をしていてくれた。
「起きたみたいね」
「心配をかけたみたいだな」
「全くよ。アンタには色々として欲しい事があるんだから、無理してるなら言いなさいよ? いいわね」
「ああ……でも、もう大丈夫だ」
「そう。でも、今日はもう寝てなさい」
「いや、もっと勉強を……」
「却下よ。大人しく寝るか気絶させられるか選びなさい」
「大人しく寝させて頂きます……」
「よろしい。アタシがみま……監視してやるから絶対に寝るのよ」
イアリに見守られながら眠りについた。なんだかイアリがツンデレっぽい。
次の日からはひたすら本を読んで神曲楽士の事を覚えていき、色んな楽器を練習する。基本的に家に居てサーギュラントから出された課題をこなして行く感じだ。サーギュラント本人は病気でベッドで寝ている。イアリは学校に行っている。それと驚いた事にこの家の家事は基本的にイアリが全部やってくれている。何処ぞの紅いわがまま精霊とは違うようだ。そんなこんなで日が経ち、二年の月日が過ぎた。
「ただいまー」
「おかえり、イアリ」
夕方近くになり、イアリが赤いランドセルを背負って帰ってきた。そう、ランドセルを背負ってだ!
服装は何時もの如くゴスロリなのだが、なんていうか凄く可愛い。元が精霊なだけあって超が付くほどの美少女なのだ。悪い大人に持ち帰りされないか心配だ。まあ、丸くなっているとはいえ、殺戮する黎明(スロータラス・ドーン)という二つ名を持ち、幼く残忍な性格で人間は解体すると楽しい玩具くらいにしか考えていなかったイアリなので容赦無く殺されるだろうが。天敵の精霊文字以外は問題ないと思う。
「レイ、洗濯物は取り入れてくれた?」
「ああ、ちゃんと取り入れて畳んでおいた」
「そう。じゃあ、今日は手の込んだ料理でも作ろうかな。何がいい?」
「パエリア」
「パエリアね。どうせならサーモンのムニエルもしようかな」
白いエプロンを着けたイアリが台所にある台に乗って調理を開始する。俺はそれを見ながら演奏を行なっていく。ギターと歌による演奏だ。声帯を自由にできる技術もあるので好き勝手に色んな声を再現する。今は水樹奈々の声を再現して歌ってみる。そう、なのはの劇場版の曲だ。
「♪」
イアリはそれを聞いて楽しそうに料理を行なっていく。時たま間違って手を切ったりしているが、神曲を演奏しているので直ぐに治る。サーギュラントはもう神曲を弾けない身体になっているので代わりに俺がイアリに弾いてあげているのだ。むしろ、その為に俺はここに置いて貰い、超一流のサーギュラントに教わっている。俺が来た時には既に余命がわかっていたらしい。サーギュラントとしては自分が死んだ後のイアリが自分の後を追ってくるのが心配で俺に色々としてくれた。もちろん、イアリが俺を気に入ってくれればだけど。
「イアリ、これからどうするんだ?」
「……それはパパ……サーギュラントが死んだ後だよね?」
「そうだ。言いたくないけどそろそろ俺の神曲での回復も限界が来ている」
「普通は神曲で精霊ならまだしも人が回復するなんて無いんだけどね。サーギュラントはアタシに暴走して死んで欲しくないって言うのはわかってる。だから、アタシも死ぬつもりはないわ」
「じゃあ、どうする?」
「サーギュラントの計画通りにアタシはレイと精霊契約(スピリチュアル・コヴェント)をするわ。いいわよね?」
「そりゃ、こっちとしては始祖精霊クラスの上級精霊と契約できるんならありがたいけど、いいのか?」
「いいわよ。それにレイは手間のかかる弟みたいな感じだしね」
「身長的には俺が兄だろ」
「じゃあ、お兄ちゃんね。うん、これは中々いいわね。まあ、レイの神曲もサーギュラント程じゃないけど、結構いいし、何よりあのおばあちゃんの神曲楽士と同じく神曲を歌えるのがいいわ。ふふ、今度は負けないわよ」
「あははは……始祖精霊に喧嘩を売る気かよ……」
「駄目?」
「いや、構わないよ。時と場所さえ考えてくれればね」
「その辺は学校で習ったから大丈夫よ。それより、もう一曲お願いね」
「任された」
それから神曲を奏でていく。それから1年後、サーギュラントが死に俺はイアリ……イアリティッケ・シン・ゴルオットと正式な精霊契約を結び、神曲楽士の免許を得る為に第三神曲公社付属のトルバス神曲学院へと入学した。試験?
イアリティッケを連れて行ったので楽勝だった。ただ、手続きが非常に面倒だった。例えば犯罪者だったサモン・サーギュラントとイアリティッケ・シン・ゴルオットの契約解除と新たに俺が契約した事の手続き。そして、イアリの犯罪を消して貰って俺が責任を持つ事が決定された。四楽聖の権力も使わせて貰ったので問題は無かった。