というか、買おうと自宅周りの本屋に探しに行ったら全滅してたよ!
という訳で、しばらく1年生の時の話しになるかも知れません。
試験などを終えて、俺とイアリティッケは第三神曲公社付属のトルバス神曲学院が在る将都トルバスから凰都ヴィレニスにあるサーギュラントが残した自宅に戻ってから二日。あちらでは学生寮に入る予定だし、こちらは残しておくのであまり準備する物がない。サーギュラントの残してくれた遺産は少ないのでここを維持する為にも出来る限り早めに神曲楽士の資格が欲しい所だ。その為の勉強もしている。流石に神曲を奏でられても歴史とか授業があるからな。
「……ただいま……」
「イアリ、お帰り」
イアリティッケが学校から帰って来た。手には何時もあるスーパーの袋ではなく、お弁当屋さんの袋があった。イアリティッケはそれをテーブルの上に置いたら、位牌の前で線香を焚いて黙祷する。綺麗な顔に一筋の涙が流れる。
「ん」
数分でお祈りが終わったのか、イアリティッケが立ち上がってこちらにやって来る。そして、ソファーに座っている俺の前に来るとそのまま俺の横に座って身を預けて抱きついて来る。俺はイアリティッケの頭を優しく撫でてあげる。
サーギュラントが死んでからイアリティッケはサーギュラントの部屋で泣いて居るか、俺の傍に居て抱きついたりしてぼーと一日を過ごす事が多くなった。まるで人の温もりを感じるように。幸い、神曲を毎日何時も以上に与えているのでイアリティッケが消滅するような事は起こらないのでそれだけは安心だ。
「学校はどうだった?」
「ん。止めてきたわ……もう行く意味もないし、トルバスに行くって言っておいた。あちらでも学生をする訳じゃないんだから問題はないわ」
「そうだな」
「ええ、私はレイとずっと一緒よ。だから、居なくならないでね……貴方で最後だから……」
サーギュラントの願いで俺と契約したが、本当は一緒に死ぬつもりだったんだろうな。それを我慢してイアリティッケは一緒に居てくれるのだ。サーギュラントはイアリティッケを娘のように扱い、娘として幸せになって貰いたかったからこんな事をしたんだろう。
「そうだな。俺もイアリを誰かに与えてやる気はない」
「そう……ならいいわ。でも、一緒に居てくれるなら代わりアタシに好きにしてもいいわ」
「イアリ?」
「? 男性ってエッチな事が好きなんでしょ?」
「誰に聞いた?」
「こないだおばあちゃんが自慢してたわ。自分はフォロンとラブラブだって。どうせなら私も色々と経験してみたいわ。あのおばあちゃんに負けるってのもムカつくし、サーギュラントは手を出してくれなかったから」
「まあ、親が子供に手を出したら不味いからな」
「あたしは別によかったのに……全く、勝手に死んじゃって……」
「イアリ……」
「ねえ、あれを使って神曲、聞かせて」
「いいのか?」
イアリティッケが指さしたのはサーギュラントが使っていた単身楽団(ワンマン・オーケストラ)だ。単身楽団(ワンマン・オーケストラ)は読んで字のごとく神曲楽士が単独で楽団規模の演奏を行って表現の幅を広げ、神曲の効果を高める目的のために使用する物だ。具体的な効果は楽士が使う主制御楽器、スピーカー、その他のパートを受け持つ補助演奏装置に加え音響などを調整する制御卓、それらを繋ぐ可動式の各アームからなる。展開時は広がったアームのために楽士は蜘蛛を背負っているような感じに見える。また、軽量化のため楽器や各種装置は最低限の持ち手部分などだけで構成され、本体部分やコンソール類などはSF物などであるような空中投影された立体映像の物が出現するので、実物の楽器や機器がそのまま丸ごと入っているわけではない。
「いいの。パパの事を忘れる事は出来ないけど、アタシはレイの為にも前に進まないといけないから。契約者にアタシの不手際で迷惑かけるなんて嫌だから。だから、しばらくアタシに付き合って」
「ああ、わかった」
俺は打楽器タイプの単身楽団を手に取って起動する。サーギュラントからこれも習っていたので問題は無い。どうせならけいおんの奴を歌おう。
「俺のでいいんだよな?」
「えっと、パパのとレイの両方がいい」
「言っておくが歌わないとあのレベルの演奏は出来ないぞ?」
「わかってる。それでもいいから」
「そうか。じゃあ、始めよう」
イアリティッケの事を思って作られた曲を演奏していく。やっぱり、イアリティッケは悲しそうな表情をしている。出来れば笑顔でいて欲しい。いや、出来ればとかじゃなくて笑顔でいて欲しい。だから、俺は今の全力でサーギュラントを模倣し、イアリティッケの為だけに演奏する。
「…サギュ……」
ポロポロと涙をこぼしながら演奏を聞いている。サーギュラントが持っていた曲全てを演奏するに10時間掛かった。そして、その次に俺自身の歌を神曲に乗せて歌っていく。腕や手の感覚は無く、身体はただ演奏で魂を表現する為の物となる。明け方に全てをやり終えた俺は燃え尽きた。
「大丈夫?」
「大丈夫に……見える……か?」
「見えないわね。全く、頑張りすぎよ。馬鹿ね」
イアリティッケが単身楽団を外してくれた。その後、ベッドに運んでくれる。小学生のようなイアリティッケだが、その正体は戦略級兵器(核など)に例えられる始祖精霊とタメを張れる上級精霊だ。よって、俺の身体なんて簡単に持ち上げられる。そもそも精霊は精神体であり、エネルギー生命体なのだ。
「んー汗も凄いからお風呂ね」
「イアリ、何故服を脱がしている?」
「お風呂に入れるから」
「いや、自分で入るから」
「無理でしょ。大丈夫、パパの介護で慣れてるから」
「いや、そういう問題じゃ……」
容赦なく裸に向かれて風呂場に運ばれる。運ばれた風呂場では風呂椅子に座らせられる。鏡にを見ると、イアリティッケの身体が光に包まれて一糸まとわぬ姿へと変わる所だった。
「お、おい」
「何、襲いたくなった? 別にいいわよ」
「襲わない!」
とりあえず目を瞑る。
「そういえば、こういう時はどうするかってあいつらが言ってたっけ。ああ、思い出した」
何かをする音がした後、背中に暖かくて柔らかい物が触れる。思わず目を開けると、イアリティッケが泡まみれになっていた。しかも、その状態で身体を擦りつけてくるのだ。
「そーぷぷれいとか言ってたかしら? さっきのお礼にたっぷり楽しませてあげる」
「いや、いいから!」
「却下よ。それとも何? 私の身体じゃご不満? 確かに幼児体型だけど……ぐすっ」
「そ、そんな事ないから! イアリは最高だ!」
涙きだしたイアリティッケに慌てていう。精霊がネガティブに入るとそれだけで大変なのだ。
「そう、良かった」
あっさりと鳴き声なんて嘘のように元気な声になって身体を使ってくれるイアリティッケ。その気持ち良さと疲れから眠たくなってくる。
「マッサージもしてあげるから、全部任せて寝なさい」
その声に導かれて俺は眠っていく。そして、次に目覚めた時は朝になっていた。どうやら丸一日くらい寝ていたようだ。
「んんっ……起きた?」
斜め下から声が聞こえて来る。そちらを向くと、あられもない姿のイアリティッケが俺と同じ布団に入って抱きついていた。いや、気づいていた。ただ、現実逃避していただけだ。
「なんで一緒の布団に?」
「1人は嫌だから」
「不安なのか?」
「うん。不安ね……だから、しばらくは一緒に寝る。……ダメ?」
「いや、駄目に……駄目じゃない」
不安そうに上目遣いで見詰めてくるイアリティッケに勝てそうにない。俺がそういうと凄く嬉しそうに笑った後、自分の頭をグリグリと擦りつけて匂いをつけるようにしていく。なんていうか、猫みたいだ。
「あっ、ご飯食べる? 作るけど」
「出来たらお願いしたいかな」
「わかったわ」
ベッドから起き上がったイアリティッケの姿は前のボタンを止めていない大きめのYシャツとショーツだけだった。お腹とか胸とか色々と見えている。しかも、そのままパタパタと移動してエプロンを付けて料理を初めてしまった。
「目玉焼きとソーセージ、サラダに食パンでいいわよね?」
「ああ、それでいいよ」
「わかったわ。まあ、他にできそうな食材はないのだけれど」
「今日の午後にトルバスに向かわないといけないからな」
あちらで入寮手続きや楽器店の場所など探さないといけない。まあ、今回の試験だって学園長に直訴みたいな形で無理矢理ねじ込んで貰ったからな。イアリティッケと契約だって学園長が保護責任者になってくれているからの特例だ。まだ神曲楽士の資格も持っていない俺じゃどうしようもない。だけど、そこに四楽聖シダラ・レイトスが責任を持って学園で面倒を見る事と、俺が神曲を弾ける事を保証してくれたからこそイアリティッケの犯罪は保留されている。そして、最終的に俺が神曲楽士の資格を取ってから何件かの依頼を只働きする事と嘆きの異邦人事件の事を詳しく説明する事で司法取引が成立してはれてイアリティッケは自由になる。それまでは俺から離れる事も許されていない。そんな事を考えながら、トルバスに持っていく神曲楽士関連の荷物を纏めていく。
「ご飯できたわよ」
「ああ、ありがとう」
2人でサーギュラントの位牌の前にお供物をした後、お祈りをしてからテーブルに付いてイアリティッケが作った美味しいご飯を食べていく。これが終わったら本格的な引越し作業だ。昨日を無駄にしたせいで本当に急がないといけないからな。