食事を終えた後、荷造りを完了させてしっかりと戸締りをする。その後、近所に住んでいる人達に挨拶してから大家さんに家の事をお願いする。ここはアパートなのであまり面倒ではない。賃金さえ払っておけばいいんだから。
「フェデル、家の事よろしくお願いね」
「ええ、構わないわ。掃除もちゃんとしておくからね」
「よろしく」
ここの大家の契約精霊であるフェデル・ロン・タイトマンデル。身長179cmの女性型フヌビック。二十代から三十代手前の美人さんだ。基本的に彼女がこのアパートを管理している。大家が神曲楽士なだけあって、ここは防音設備完備で、演奏所が各部屋に小さな物ながら存在する。もちろん、大きな場所も何個かあり、定期的にコンサートなども行われている。それとどちらかというとここは精霊よりで、働いてお金を稼いだ精霊がここで神曲をご馳走して貰ってお金を落としていくシステムとなっている。つまり、時間限定で空いている精霊のレストランのような場所だ。
「レイ君も頑張ってね。というか、行かないでも資格取れるよね?」
「まあ、後は知識的な事だけですが、ちょっと事情がありますからね」
レイトスさんと相談したが、やはり実績だけでなく後ろ盾が確実に必要なのだ。イアリティッケの事は前例が存在するし、比較的まだ簡単だったらしいがな。ちなみに前例は皆さんがご承知の通り、コーティカルテ・アパ・ラグランジェスだ。彼女はフォロンと協力して政府にとって有益な事をしている。世界を救ったといっても問題無い存在だ。まあ、何が言いたいかというと、彼女の御蔭で俺とイアリティッケはレイトスさんの居る学校に通い、しっかりと卒業すれば彼が後ろ盾になってくれて問題無く社会に適応できるのだ。
「そういえばトルバス神曲学院ならうちのとこのアズサも入学だね」
「そうなんですか?」
「ああ。丁度、さっき駅に向かって行ったよ。今から向かえば間に合うかもね」
「会ったことないしね……」
「アタシはあるけどレイはないわね。基本的に部屋から出ないし……」
「引きこもってたしねー」
「仕方無いだろ。こっちは勉強で忙しかったんだから」
「お葬式の時、あの子は全寮制の学校に行ってたし仕方無いんだけどね。まあ、向こうでよくしてやってくれよ」
「わかった」
「そうね。あっ、そろそろ時間よ」
イアリティッケの言葉に懐中時計を見ると確かに時間が危なくなってきている。
「それじゃあ、行ってきます」
「行ってくるわ」
「はいはい、いってらっしゃい」
フェデルさんに見送られながら、俺とイアリティッケはスーツケースを持って走る。近くにあるバス停にはバスが停まっているのが見えてしまう。
「ちっ! 何時もはもっと遅いのに!」
「イアリ、先に行って止めてくれ」
「任せてっ!」
イアリティッケが金色の三対六枚の羽根を出して空を低空で飛んで急速にバスへと近づき、閉まろうとするドアを掴んで止めてくれた。その少し後に追いついて、急いで乗り込む。すると、他の乗客や運転手から見詰められるが完全に無視する。
「全く、何時も遅れてるバスがなんでこのタイミングで時間より早く来てるのよ?」
「知らんが、まあ乗れたからよしとしよう。最悪、イアリティッケに運んでもらわないと行けなかったし」
「いやよ」
空いている席に座ると、俺の膝の上に当然のように座って来るイアリティッケ。他の席は殆どが埋まっているのでこれは仕方無い事でもあるが、視線が非常に痛い。イアリティッケは視線を無視して身体を俺に預けて精霊雷で物を作っては消していく。結構複雑な物も作り出している。
「よくそんな物を作れるな……」
「練習したからよ。料理で使う道具は全部作ってるの。前は力の使い方が悪くてサーギュを危ない目に合わしちゃったしね。だから色々と練習してたの」
「そうか、頑張ったな」
「えへへ、当然よ。アタシはもう誰にも負けないんだから!」
イアリティッケの頭を優しく撫でながら考える。しかし、精霊雷を物質化して作る道具は色々と便利だよな。
「じゃあ、それで戦うのか?」
「つ、使い方があんまりできないわ」
「ふむ……刃物は作れるのか? 剣とか」
「できるわよ」
「一度に何個か作って飛ばす事は?」
「そりゃ、アタシの精霊雷で作ってるから可能だけど、それがどうしたの?」
「ああ、いい方法がある」
俺はイアリティッケに思いついた方法を教えていく。それを聞いたイアリティッケはあくどい笑みを浮かべて、楽しそうに笑う。それは嘆きの異邦人時代の殺戮する黎明(スロータラス・ドーン)という二つ名に相応しいサディスティックな笑みだった。
「ふふふ、今度は負けないわよ……」
教えた方法は出来ればかなり有利になるだろう。というか、イアリティッケが始祖精霊並みのエネルギー総量を誇っているからこそできる技だ。金髪だし性別以外はあってる。
『次は~メニス鉄道~凰都ヴィレニス駅前~終点、凰都ヴィレニス駅前でございます』
アナウンスが聞こえ、目的地へと到着した。バスから降りてこの凰都ヴィレニスは異界の文化(特に日本)が多く流入しており、和服なども存在する。俺やイアリティッケの服も和服の物がある。食べ物も色々とある。そして、何よりも……
「ねえ、これ美味しそうね」
「じゃあ、こっちも買うか」
「ええ、旅の楽しみよね」
そう、寿司などの駅弁が売っているのだ。それを購入してチケットも購入する。チケットで改札に入り、ハリポタみたいなホームを移動して停まっている列車に乗り込む。
「何処か空いてるコンパートメントを探さないとな……」
「でも、あるのかしら?」
「さあ?」
人が溢れかえっていたから、無いかも知れない。イアリティッケと別れて頑張って探したが、何処にも無かった。仕方無いので一人でコンパートメントを使っている場所でもいいか。出来れば他人がいない方が良いが。そう考えていると、反対側からイアリティッケが戻ってきた。
「知ってる子が一人で居たから許可を貰ってきたわ。大家の子ね」
「そうか、わかった。じゃあ、そっちに行こうか」
「ええ、こっちよ」
イアリティッケに導かれて移動した先には何処かで見たような女の子が居た。だが、それはこちらで見た子じゃない。その子は長く黒い髪の毛をツインテールにした可愛らしい女の子。そう、その姿はぺろぺろとよく言われていた子だ。ナカノ・アズサ……けいおんの子が居た。