「……れ……れ……い……れい…レイ……」
「……れ……い……れい……さん……おき……」
イアリティッケとアズサの声が聞こえる。まどろみの中、声に従って無理矢理目を開けると、そこには心配そうにしている二人の顔があった。
「やっと起きたわね」
「よっ、よかった……あっ、お医者さん呼んできますね」
ナースコールという言葉に周りを見渡すと知らない天井だった。部屋も白で統一されていて、口には酸素マスクが取り付けられている。
「っ!?」
「無理しない方がいいわよ。アズサを庇ったせいで背中に結構大きな火傷の跡ができてるから。それ以外はアタシの防御が間に合ったらから平気だけどね」
「……そう……か……ゴホッゴホッ」
「だから無理しないの。それとここはトルバスよ。どうせだから移して貰ったわ。お金はあの二人とレイトスが立て替えて出してくれたわ」
どうやら、無事だったが今度は借金が出来たようだ。というか、俺は保険に入っていない。これは不味い。慰謝料が凄まじい額になる。この場合は何処かに請求できるのだろうか?
「とりあえず今は寝なさい」
「……わか……た……」
イアリティッケの言葉に従って、もう一度眠りに付く。その後、アズサが医者を連れてきたそうだが、眠ってしまったので知らない。だいたい眠っていた期間は1週間で、退院に2週間程かかるらしい。残念ながら入学式には出れない。普通ならな。だが、そこは俺だから……癒しのレスピレを自分に使って回復する。背中の火傷の跡だけは残るけど仕方無い。とりあえず反則の方法で回復してその他もろもろの検査をして一週間で退院できるようにした。病院を出てから一番の問題を考える。
「さて、借金か……」
「大変ね。治療費三千万とはまた大金ね」
「はぁ~」
「これでも安い方よ」
「確かに」
本来はもっとしたのだが、ルシャゼリウス市警の二人がやって来て事情を話してくれた。連中の狙いがとある要人の持っていた特別な楽譜を狙って襲撃を仕掛けてきたそうだ。護衛の為に様々な神曲楽士や精霊課から人員を送り、その大半を使って囮を多数放っていたそうだ。そして、この列車に一般人として乗ってきた護衛対象が持っていたらしい。連中から慰謝料が支払われる事になったのだが、それは保険適応分の料金しか含まれて居なかったのだ。つまり、残りの金額は自腹となる。ルシャゼリウスの二人は悪いと思って個人的に貸してくれたので助かっているが、問題はレイトスだ。多分、結構な仕事を只働きに近い金額でする事になるだろう。
「とりあえず、寮に行きましょうよ」
「そうだな」
トルバスの街を歩き出すと、直ぐに左手にイアリティッケが抱きついてきた。
「イアリ?」
「お兄ちゃんと一緒よ」
「兄妹設定?」
「あら、恋人設定でもいいわよレイ」
「まあ、どっちでも変わらないしどうでもいいかな」
「しかし、移動手段が欲しいな」
「バイクがいいかしら」
「高いんだよな……」
「何を言っているの? 買うお金が無いのなら、その物を作ればいいのよ」
「……できるの?」
「このイアリティッケ様に不可能はないわ」
こちらを見上げて微笑んでくるイアリティッケ。だが、最後にぼそっと多分と付け加えた。
「努力すればできるわ。それに実物を見ながら精霊雷で作ったり、実物を元にして改造したりすればいいのよ」
「万能だね……いや、それはそれで便利だけどね」
「でしょ? 使える物はなんだって使うわ」
「免許はあるし、乗れるなら乗りたいね」
「じゃあ、廃材を探してみようかしら」
「まあ、今はそれよりもお腹がすいたかな。近くで食べていかない?」
「駄目よ。寮に退院祝いに料理をたくさん用意しているのだから」
「そうなの?」
「ええ。ルシャゼリウスのマティアとマナガも呼んであるわ。レイトスの所に例の件で用事があったそうだから丁度良かったのよ。いえ、合わせてくれたんでしょうけどね。何気に気にしてたから」
「そっか、じゃあ帰らないとな」
「ええ」
たどり着いた場所は原作でフォロンが住んでいた格安の寮がリフォームされた場所だ。建物も綺麗になっているが、部屋の窓辺はそのままで防音完備になっている。ここは特待生や、一部事情のある子が住む場所となっている。要はお金が無い子達が自分達で食事や掃除などを行う代わりに格安なのだ。もちろん、普通の寮は料理人が居る食堂とかがあるので料理までする必要はない。俺の場合はイアリティッケがいるから大丈夫だけどね。
「さて、到着だな」
「そうね。ほら、入りましょ。先ずは食堂よ」
「わかった」
フォロンの時とは違って、こちらにも一応食堂兼談話室がある。要は皆で集まれる場所だな。イアリティッケと一緒にそこに入る。すると、
「「「「退院おめでとう!」」」」
既に先にいたマナガとマティア、アズサがクラッカーを鳴らしながら言ってくれた。もちろん、隣に居るイアリティッケもだ。
「あの、庇ってくれてありがとうございました……」
「別にいいよ」
アズサはあれから何度も感謝してくれるが、自分の意思で身体が動いただけだからアズサに責任はない。まあ、アズサはアズサでそう思ってないだろうけど。
「お二人もありがとうございます」
「気にしないでください。巻き込んでしまったのはこちらですから」
「私の方にも責任はありますからね。もっとうまくやってればこんな事にはならんかったと思っとりますんで」
「こちらも不甲斐なく申し訳ない」
「むしろ、神曲楽士の資格をまだ持っていない学生の方に協力してもらったのはプロとして不甲斐なく思います」
「あんたら、何時までも譲ってるんじゃないわよ。それに他に目的があってきたんでしょ?」
「まあ、それもありますな。学長からお二人に協力を願えとね」
「……また面倒な。まあ、構わないけどね」
「助かります。具体的な内容はまた今度お願いしますが、簡単に言えば緊急時の戦力になっていただきたいのです」
「イアリ、いいよね?」
「問題無いわ。むしろ得意分野ね」
「そりゃ、アレだけの破壊を起こしたら得意分野でしょうよ」
イアリティッケが作り出したクレーターの事だろう。アレは大変だろう。
「皆さん、料理が出来たので運んでください」
「わかりました」
「手伝うわ」
「それじゃあ、俺も……」
「お兄ちゃんは座ってて」
「主賓は座ってください」
「それがいいと思います」
「どっしりと構えて女の子達に任せようや」
イアリティッケ、アズサ、マティア、マナガの順に注意されたので、大人しく座る。マナガは立ったままだが。
「そういえばアンタが座ったら壊れるわね。ちょっと待ってなさい」
「いや、何をする気で?」
「作ってあげるわ」
そう言った後、イアリティッケは精霊雷で大きな椅子を作り出す。しかも、肘置きと背もたれがつき、下がキャスターになっていて、回転する便利な奴だ。
「こいつはすげえな。でも、大丈夫なのか?」
「はっ、この程度の消費で堪える私じゃないわよ。それに疲れたら神曲を貰えばいいんだからね」
「そいつはそうか。じゃあ、ありがたく」
黄金の椅子に座ったマナガは色々と確認していく。それに合わせてイアリティッケも改造していく。
「この色さえどうにかなれば最高なんだがなー」
「それはそうですよね……」
マナガの言葉にアズサも賛同する。彼女の手には金色の包丁があったりする。いや、鍋とかも基本金色だったりする。
「うるさいわね! 精霊雷で作ってるんだから仕方無いでしょ! 色づけまでは大変なのよ!」
「……充分凄いと思いますよ……マナガよりは」
「そうだぜ。俺は不器用でな。嬢ちゃんと同じくらいの力は持ってるんだが……いや、こっちからしたらむしろその操作能力は驚きだぜ」
「ふん。数年間精霊雷を使って学生と専業主婦をやってたらこんなもん楽勝よ」
「いやぁ、才能がないと無理だって」
「アンタがだらしないだけよ」
なんだかんだいって、二人は仲がいいみたいだ。マティアはアズサと話したりしているし。
「さて、料理も準備できたし、食べましょう」
「そうだな。今日はありがとう。それじゃあ、いただきます」
お礼を言った後、全員で食事を行う。楽しい食事をしながら、交代で演奏していく。むしろ、最後はセッションしていた。この寮の住人は今のところ二人だけなので好き勝手に使えるので便利だ。マティアとマナガの二人も定期的に使わせて貰う事をレイトスから許可されているらしいので、こちらで泊まっていく事になっているそうだ。なんだか、色々と大変な事になりそうだ。