今日の出来事を考えながら、私はベッドで寝転がっていた。母親がいたら、制服がシワになるから早く着替えなさいと怒られていたことだろう。だがしかし、今母親は買い出しに出ており、家は私一人だ。
ぼーっと天井を見つめながら、告白してきた彼女のことを思い出す。あの子はりっちゃんがいるからと言っていた。それほどに私とりっちゃんは仲良く見えるのだろうか?
確かに、一番親しい友達であることは否定できない。だが、距離感自体は他の子と変わらないし、接し方を変えた覚えもない。たしかに見た目には気を使ってはいるものの、まるで創作の世界の住人のようなひと目で魅了する力が自分にあるとは到底思えない。なのに、男女問わず告白の回数は増えるばかりである。私はなりふり構わず魅了しまくる夢魔かなにかか?なんて考えて、ふっと失笑する。
それならどれだけ楽なことか。誰にでも好かれるような能力を持っているのであれば、食っては捨ててでも人生を謳歌できただろう。だが私は一般人。異能力系の物語の登場人物ではない。
私は怖いのだ。誰かから嫌われることが。こうもいろいろあった今ですら、りっちゃんと疎遠になることは嫌だとはっきり言える。結局は、嫌われたくない。今の居心地の良い空間を、保っていたい。私はそういう人間なのだ。
『じゃあ、私はあっちゃんのことを好きでいていいんだよね?』
お願いだからイマジナリーフレンドと化して脳内を占拠するのはやめていただきたい。
『ねえ、どうなの?』
好きでいて構わない……と思う。だって私は嫌われたくないのだから。嫌いになられるより、好きでいられたほうが嬉しいに決まっている。
『じゃあ私の気持ちを肯定してくれるんだね』
そうはならないだろ……と言いたいところだけど、そろそろ言いくるめられそうだ。いけないいけない、自分の意思をちゃんと持て私。
『むぅ……』
どうやら私の脳内の占拠犯は、現実の彼女よりも随分と感情が出やすいようである。いやいや、何を考えているんだ私は。このまま部屋にいると気が滅入りそうだ。
『どんなあっちゃんでも、私は好きだよ』
頭をぶんぶんとふってイマジナリーりっちゃんを消し去り、玄関から飛び出るように外に出た。
夜の静かな風が、私の火照った脳を冷ましてくれる。冷静になってきた。
今なら断言できる。私はりっちゃんのことが好きだ。友達のラインを超えてしまうほど、私はりっちゃんのことが好きだ。
でも、その好きっていうのは付き合いたいとかそういう好きじゃない。LOVEとLIKEの違いってわけじゃない。私はりっちゃんを愛してるし、それがただの友達に抱く感情とは違うことも認める。でも、パートナーとしての好きというより、家族などに抱く好きなんだと思う。
決して千切れることのない深い絆。私はりっちゃんにそれを求めていた。そりゃ恋人だのなんだのって言われるわけだ。たぶん私の『好き』というのは、親族以外に求めるものじゃないんだと思う。なんなら、家族に対してすらそう思わない人だっているだろう。
でも、それが私なのだ。どうやら人と違うのはりっちゃんだけじゃなかったようだ。ようやく、自分がわかった気がする。
私はおもむろに携帯を取り出し、チャットに『今電話できる?』と書き込んだ。数秒せずについた既読に苦笑いしながら、私はりっちゃんに電話をかけた。
「突然どうしたの?」
りっちゃんの声は震えていた。
「伝えたいことがあるの」
「……!?あっちゃん今どこにいるの」
「ああ、外の音が入ってた?今、家の近くを散歩してるとこ」
「なんだ。家に帰ってないのかと」
「家出するような性格じゃないよ」
「うん、でも心配で」
「そう……ありがとう」
「……あっちゃん?」
「ん、なに?」
「なんだかその……雰囲気がいつもと違う感じがして……」
「私はいつもどおりだよ」
「う、うん……それで伝えたいことって?」
「そうだった。えっとね……」
少し顔に熱が籠もるのを感じる。そういえばこういう言葉を人にぶつけるのは初めてかもしれない。
「私ね、りっちゃんのことが好きみたい」
「……!?」
ドンガラガッシャンと電話越しに音がする。
「りっちゃん?大丈夫?」
「ごめん、無事。ちょっとお皿おとして鍋ひっくり返して包丁が壁に突き刺さったけど」
「それは果たして無事なのか……?」
「そ、そんなことより急にどうしたのあっちゃん。やっぱり様子がおかしいよ」
「いやいや、いつもどおりだって。ただちょっと、自分の気持ちがわかっただけだよ」
「好きだなんて……じゃああっちゃんは私と……」
「残念だけど、その好きじゃないんだよ」
「それはLOVEじゃなくてLIKEってこと?」
「違う違う。ちゃんとLOVEだよ」
「じゃあどういうこと?」
「確かに愛してるんだけど」
「もう一回言って?」
「確かにりっちゃんのことを愛してるんだけど」
「……」
「でも、恋人になりたいだとか、そうは思わない」
「それは本当にそう思えてるの?」
「間違いないよ。でも、恋人というより家族になりたいの」
「つ、つまりはえっと……同性婚が認められてる場所さがさないと……」
「ちょっとまって!謝るから。言い方が悪かった!家族ってのになりたいってことじゃなくてね?家族みたいに切れない縁を結びたいってことでね?」
「安心して。式場はもう見つけてあるの。絶対思い出に残る式にするからね?」
「りっちゃん、聞いてる?」
「……あはは、冗談です」
「なら良かった。聞いてないのかと思ったよ」
「それで、あっちゃんは私にどうしてほしいの?」
「どう?って別に」
「何もなし?告白しておいて?」
「まあ、私の気持ちを伝えたという意味で告白だけどさ……」
「無責任」
「無責任はそっちでしょう?一方的に私に告白してきたのはりっちゃんの方でしょ」
「うっそれは……」
「だから、これは私からのお返し。これで終わり。両方とも自分の気持ちを吐露した。それで終わりにしない?」
「……終わり?」
「うん、終わり。わがままな二人がたまたまぶつかっただけ。それだけのことだよ」
「私の気持ちは否定しないの?」
「私だって、自分の気持ちを否定されたくはないよ」
「じゃあ、私はあっちゃんのことが好きなままでいいの?」
「ご自由にどうぞ。でも、私だって自分の気持ちを曲げる気はないからね」
「自由に……わかった。あっちゃんの気持ちは尊重する」
「それならよし。それじゃ、おやすみ」
「うん、おやすみ」
=*=*=*=*=
その後りっちゃんとどうなったかって?それは話せない。
いや、話せないっていうのは少し違うかも。だって私も知らない、これからのことなのだから。
これは、二人の自分勝手な少女たちが、二人の気持ちをぶつけ合っただけの、高校生活のたった一幕のお話。
予定より数話早いんですけれど、これで完結となります。ここまでお読みいただき、ありがとうございました。