私の想い人はすぐ隣にいる【完結】   作:畑渚

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 りっちゃんの過去を知る友達にメールをした次の日、私はとある人物と待ち合わせしていた。もちろんりっちゃんには内緒である。

 

「突然どうしたんですか?」

 

「いやぁごめんね。少し気になることがあってさ」

 

 放課後の校舎裏に呼び出したのは、りっちゃんと同じ学校から進学してきた後輩だった。同級生の子からの情報では、前の学校での噂話なら彼女は一番詳しいとのことだった。

 

「ああ、梨花先輩ですか」

 

 まるで何も気にしないかのように、後輩ちゃんはスラスラとりっちゃんの過去を語る。彼女がいかにして中学時代を過ごしたのか、その末路から今に至るまで、事細かにだ。明らかに出どころもわからぬ

 

「まあ、だいたい私の知ってる範囲だとこの程度でしょうかね」

 

「ありがとう。ああ、もう一ついい?」

 

「はい、なんでしょう?」

 

「どうして私にこんな教えてくれるの?」

 

 彼女は驚いたように一度動きを止めて、それから口を開く。

 

「それは私がおしゃべりだからですよ。あっもし何かおもしろい話があったら是非教えて下さい!」

 

 おしゃべり好きというのは共感が持てるかもしれない。差し出されたQRコードから、チャットアプリの連絡先を交換する。

 

「でも、私そんなに面白い情報はないよ?」

 

「そうですか?例えばそうですね……梨花先輩が髪をばっさり切った理由とか知りませんか?」

 

 前言撤回。知っていながらこうやって聞いてくる子に共感を持てるとは言いたくない。

 

 

=*=*=*=*=

 

 

 目立ちすぎた、と気がついたのはもう手遅れになったときだった。

 

「なに?あんたってそういう趣味なの?」

 

 冗談交じりではあってもそう言われたのは、少なからずくるものがあった。

 仲のいい友達からきた「噂になってるよ」というメッセージをうけとって、私はベッドに転がりこむ。そんな噂になっていることを、勘の良いりっちゃんが知らないとは思えない。

 

 

 りっちゃんはどう思うのだろう

 

 

 ふと頭によぎるのはそんなことだ。メッセージを送る画面を開いて、何度か文字を打ち込みなおす。数分悩んだあげくに、結局なにも送らずに閉じた。スマホを投げ捨てるようにおいて、枕に顔を埋める。ああ、もう何も考えたくない。いや、考えないのはもうやめにしたのだった。

 

 とりあえず課題でもするか

 

 ベッドから起き上がって机に向かう。確か数学の面倒な課題がでていたはずだ。しばらくうーんとノートとにらめっこをすれば、すぐに眠気がやってくる……

 

「ごはんよ~」

 

 ……。ママの呼ぶ声が聞こえるまで、結局一文字も進まないままうとうととしていただけだった。

 

「何かあったの?」

 

「ううん、べつに」

 

「まったく、あんたは昔っから変わらないわね」

 

 食卓では、そんなママのありがたい言葉を頂いた。余計なお世話である。むしろぶっちゃけてしまったほうが、ママが気を使ってくれるのではないかなんて考えつつ、今日のおかずのハンバーグをつっつく。

 

「私があんたくらいの時期はもっとこう、いろいろとスれてたのに。ほんとに私のお腹から生まれたのかってくらいね」

 

「何の話?」

 

「うん?あなたがよくもこんなまっすぐに育ってくれたなって」

 

 にこにこと笑みを浮かべるだけのママからは、真意もなにも読み取れない。

 

「ママには関係ないでしょ」

 

「あら、遅めの反抗期?これはお赤飯ね」

 

「やめてよ」

 

「冗談よ。あなたももう高校生なんだから、そろそろ恋愛の一つでもしてみなさい。少しはそのカタすぎる背中がほぐれるかもね」

 

「恋愛なんて……」

 

 無駄だと言おうとして、言いよどむ。近所にすらオシドリ夫婦と評判高いうちのママにその言葉が届くわけがない。

 

「……ごちそうさま」

 

「はぁ。青春ねぇ」

 

「ママは何もしらないくせに」

 

「やーね。娘が考えてることくらい察しがつくわよ」

 

 嘘だ、なんて言い返しそうになるのをこらえる。

 

「何も知らないくせに」

 

「どうせ梨花ちゃんと何かあったんでしょう?そのくらいしかわからないけれど」

 

 ズバリと言い当てられて私は動きが固まる。

 

「ほら、さっさと食器を下げてフロにでもはいってらっしゃい」

 

「ああ……うん」

 

 特に気にしている様子もない。どうやらりっちゃんから告白されたということまではわからないようだった。わかったらそれはそれで実の母にエスパーの疑いをかけることになるけれど。

 

 

=*=*=*=*=

 

 

「えっと……」

 

 その日は、いつもの朝とは違った。靴箱に、一通の手紙が入っていたのだ。まさかと思って開いてみれば、それはいわゆる恋文というやつだった。

 

「おはよ、あっちゃん」

 

「ん、ああおはよう」

 

「……なにかあった?」

 

 今日もりっちゃんは目ざとい。

 

「まあ……ね」

 

 困った表情を貼り付けて私は手紙を取り出して見せれば、なるほどというふうにりっちゃんは頷いた。

 

「あれ、もっとこう、反応するって思った?」

 

 不思議そうにしているのが表情に出ていたらしく、りっちゃんはそう瞳を覗き込んでくる。私は目線をそらしながら、

 

「りっちゃんからしたら複雑な気持ちじゃないの?」

 

「なんで?」

 

 にこにこと笑みを浮かべるりっちゃんについ「性格わるい」なんてつぶやいてしまう。

 

「あっちゃんが可愛いことなんて知れたことだからね。それにいままでも告白されてきたじゃん」

 

「まあ、そうだけどさ」

 

「ああ、安心して。あっちゃんを一番愛せるのは私だから」

 

 そう堂々と宣言するあたり、自信が見て取れる。

 

「もし私がこの手紙の主と付き合うっていったらどうするのさ」

 

「そんなことは起こり得ないからね。心配するまでもないんだよ」

 

「なんでそんな」

 

「自信があるかって?」

 

 りっちゃんは私の手を握ってくる。

 

「それは私が一番あっちゃんの近くにいて、あっちゃんの一番だって自覚があるからだよ」

 

「別に私はりっちゃんが一番だなんて――」

 

「現に……」

 

 りっちゃんは無理やり私の言葉を奪う。

 

「告白に失敗したあとでも私とこうやって話をしてくれるでしょ」

 

「それは……その」

 

「親友だから?」

 

「そう。それ」

 

「あっちゃんは親友から好意を向けられるのは嫌?」

 

「いっ……ああやめやめ。ほらホームルーム始まるしまた後でね」

 

 あぶなかった。このまま誘導尋問のようにペラペラと喋らされそうだったが間一髪で思いとどまれた。

 

「課題はやってきた?」

 

「もちろん」

 

「……」

 

「あっちゃんもしかして」

 

「ミセテクダサイ」

 

「もう、しょうがないなぁ」

 

 りっちゃんからもらったノートを高速で読みながら気を紛らす。だから見えてない。りっちゃんがずーっと先程の手紙を見つめているところなんて見えない。

 

 

=*=*=*=*=

 

 

 放課後。りっちゃんを教室に待たせておいて私は呼び出された場所へと行く。

 

「あの……」

 

「ああ、うん」

 

「来て……くれたんですね」

 

 来なくてもいいならそう書いておいてほしかった。

 

 ”女の子”を外で待たせるほど、私は鬼畜ではない。たとえそれが初対面のはずで恋文を送ってきた相手であってもだ。

 

「ひと目見たときから……ずっと気になってました」

 

「ねえ」

 

「ずっとこの気持ちを抑えておくべきかとおもってたんですけど、このままじゃいけないと思って」

 

「待って」

 

「す……好きです。私と付き合ってください」

 

 聞く耳もたず。私の制止を聞かずにその子は言い切った。

 

「ごめんね。私は」

 

「あの女がいるからですか」

 

「えっ」

 

「梨花さんでしたっけ。あれがいるから私はダメなんですか」

 

「そ、そういうわけじゃ!」

 

「……じゃあ私じゃなんでダメなんですか?」

 

「そもそも私は恋人を作るつもりは」

 

「ないのに気があるフリをしてるんですか」

 

 何をいっているのだこの子は、と彼女の顔を見る。羞恥かそれともべつの感情なのか赤く染まった顔は、控えめにいっても男子がほうっては置かないぐらいに可愛かった。

 

「ようやく、顔を見てくれましたね」

 

 彼女はまぶたから流れる雫を拭って、それから頭を下げた。

 

「ごめんなさい、少し熱くなりすぎました。末永くお幸せに」

 

「いやだからりっちゃんとはそういう関係じゃ……いっちゃった」

 

 彼女は私の言葉も聞かずにどこかに走り去っていってしまった。

 これも噂の弊害というのなら、さっさと決着をつけなければいけないのかもしれない。

 




エンディングに悩む日々。もう少し時間をください
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