チルノ&大ちゃんのアトリエ ~目覚めし幻想の錬金術士~   作:すくすくAlma

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サブストーリーを書きました。読んでいただけると嬉しいです!

※お話の注意点※

・【重要】チルノ&大ちゃんのアトリエ ~目覚めし幻想の錬金術士~ の世界観として数ある並行世界のうち一つの可能性に焦点を当ててそれを舞台としている部分があります。よって既に存在している歴史やモデルとなった人物やキャラクターの生涯とは大きく異なる出来事を描いている場面が非常に多く存在しています。またこれは東方projectを原作としていながらも私なりの物語を組み立てる上で独自の設定等も付け加える、既存の設定を変更するというような事も行っています。それ故、二次創作とは謳っていますが原作に思い入れの強い方にとって非常に受け入れ難い作品となっています。今回のサブストーリーだけでなく本編のストーリーにもこの世界観は適用されるのでお読みになる際は以上の点を理解し、それでも構わないという方のみ閲覧していただく事を 強く 強く 推奨致します。

・過去編です。
・本作品の『独自の解釈』がより強めに出ています。
・オリジナル要素も非常に強めです。
・一部、暴力、性的表現あり

これらに耐性のある方のみお進みください。


サブストーリー
SSA 御子は紅淵に零ゆ 前編


蝉がけたたましく鳴く頃であった。

 

布妃十(ふひと)様、どうぞこちらへ。」

 

()(でい)から

 

駕籠(かご)へ乗るよう促される中。

 

整った身なりの女性は足を止める。

 

 

 

彼女の眼には道に膝をつく男に

 

寄り添う健気な小娘が映った。

 

 

 

 

「おじさん! 無理しないで…

 この前腰を痛めてたじゃない!

 その荷物私が持つから!」

 

 

 

なんと世話焼きな小娘か。

 

滑稽にも見えていた。

 

 

 

小娘の名は『(あざみ)』と云う。

 

 

布妃十

()(ばん)よ、あの娘は。」

 

 

布妃十と呼ばれる女性の傍に

 

一冊の書物を抱えた少女が居る。

 

紗判

「はい、()()(いん)家の養子である薊です。

 『上様』によって里の『()()』に

 選ばれたようです。」

 

布妃十

「ほう…あれがそうか…クフフ…」

 

布妃十は薄く笑みを浮かべると

 

薊から視線を外し駕籠に乗る。

 

そして駕籠はその場から姿を消した。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

薊は捨て子であった。

 

赤子であるにも関わらず

 

目をくっきりと開けては

 

泣き喚く事も一切無く…

 

その深紅の瞳で何かを凝視していたという。

 

 

 

それが気味悪がられ、

 

結果として捨てられてしまったのだ。

 

 

 

そんな薊をヒトが住む里の

 

八廻院家の当主、八廻院 ()(もん)

 

拾い育て、今の小娘に至る。

 

 

 

「すまないなぁ薊ぃ。

 俺ぁしっかりしてないからよ。」

 

「もう! 具合が悪いなら

 無理しちゃだめだからね?」

 

 

 

吾門の育て方が功を奏したのか

 

薊は非常に明るい性格で

 

困った者が居れば迷わず助け

 

布妃十に評される通り、

 

世話焼きな娘に育った。

 

 

 

ヒトが住む里、その中でも

 

身分の低い者達からは

 

特に気に入られており、

 

信頼も厚い。

 

 

 

「ふふんふんふ~ん…」

 

八廻院家は貧しい家柄である。

 

当主の吾門と娘の薊、

 

そして息子の (しゅう)(せん)

 

三人は先祖代々住んできた屋敷で

 

質素な生活をしている。

 

年季の入った屋敷は

 

今にも崩れそうなほど

 

柱や骨組みが老朽化しているが

 

もちろん直す金など無いものだから

 

放置されている。

 

幸いにも薊が掃除好きなため

 

建物は清潔に保たれているものの

 

流石に寿命が来ている。

 

 

 

薊が鼻歌を歌いつつ夕飯の

 

準備をしている中、

 

入り口の戸が勢い良く開いた。

 

「ねーちゃん! 戻った!」

 

短く尖った黒髪の少年が

 

薊を見るや否や大声をあげる。

 

彼こそが八廻院 秋蝉。

 

吾門の実子で薊の弟である。

 

「おかえり、セン。

 今日はどこに行ってきたの?」

 

薊は手を止めて少年の目の前で

 

しゃがみ込むと彼の衣服に付いた

 

埃を落としていく。

 

秋蝉

「えっとね! 湖に行ったよ!

 昼間に霧がぶわってなる所!」

 

「またそんなところに行って…

 妖怪に襲われたらどうするの?」

 

秋蝉

「へっへーん大丈夫だよ。

 何てったっておいらには

 ねーちゃんが居るからな!

 妖怪なんて怖くねーや!」

 

薊が授かった『御子』という役職は

 

今に伝わる巫女に似て非なるもの。

 

里の警備を主として

 

神聖なる行事を執り行い、

 

里の外に巣食う妖怪にとって

 

抑止力にならねばならない。

 

 

 

「またそんな事言って。

 私が傍に居なかったら

 妖怪だって関係無しに

 襲ってくるんだからね?」

 

秋蝉

「わかってるよねーちゃん!

 でもおいら逃げ足だけは早いんだ。」

 

「あぁもう…

 そういうことじゃないよ…」

 

秋蝉の無鉄砲さに頭を痛くする薊。

 

そんな二人の様子を

 

黙って見守る初老の男…

 

彼が吾門である。

 

吾門

「結構結構、しかしだなセン。

 薊はおまえの身を案じている。

 お姉ちゃんを困らせるんじゃないぞ。」

 

秋蝉

「ぐ…分かってるよ父さん。」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

里の皆が寝静まった頃。

 

薊は夜警のついでに湖へ赴いた。

 

湖は昼、霧に包まれて

 

ほとんどその姿が

 

見えなくなってしまうが

 

夜は美しい光景が広がっている。

 

月光が湖面に反射して

 

白い光がゆらゆらと揺れる。

 

(何かを忘れている気がする…)

 

薊は湖を呆然と眺め物思いにふける。

 

 

 

(どうでもいいことは

 いつも忘れてしまう。

 私は覚えが良い方では無いから

 多くは覚えていられない。

 だから必要の無い事は

 忘れてしまうのに…)

 

岸の地面に尻をつく。

 

(とっても大切な事で…

 どうしても思い出さなきゃ

 いけない事のように感じる…

 何がどうしてかなんて

 これっぽっちもわからないけれど。)

 

薊が湖面を眺めていると

 

足音が聞こえてきた。

 

「誰…!?」

 

瞬時に反応し、

 

立ち上がって身構える。

 

薊の目の前には肩まで掛かる

 

水色の髪を後ろになびかせる

 

青い服の少女が居た。

 

 

「あなたがルゥの生まれ変わり?」

 

少女は幼く甲高い声で

 

薊に話しかける。

 

「何の事…生まれ変わり?」

 

 

「なんだ…わたしの勘違いか…」

 

「君は? 里じゃ見ない。妖怪なの?」

 

 

「わたしはエーリ。

 グラキエーリ・スピルヘイム。

 ルゥはわたしの事を

 妖精の類いって言ってた。」

 

「妖精…妖精って妖怪…?」

 

エーリ

「妖精は妖怪とは違うよ。

 わたし達は自然そのもの。

 あなた達人間の恐怖とかから

 生まれる妖怪とは別だよ。」

 

「なるほど…?」

 

薊は身構えるのをやめる。

 

「私は薊…八廻院 薊。

 人間が住む里で御子って

 お仕事をしてる。」

 

エーリ

「アザミ…あざみ…ふふ!

 なんだか面白い名前!」

 

「え、面白い? うーん…?

 そんなに面白い名前かな…」

 

エーリ

「遠くから来たわたしとしては

 あなた達の名前は皆面白いよ。」

 

「あー…そういうこと。」

 

エーリは薊に近づいて

 

すぐ傍で座り込む。

 

エーリ

「そういえば薊は

 どうして起きてるの?

 あそこの人間は寝ているのに。」

 

「お仕事だから。

 里が妖怪に襲われないように

 こうやって見回りをしてるの。」

 

薊もエーリの隣に座り込む。

 

エーリ

「ええ? それって大変じゃない?

 薊の他にそのお仕事の人は?」

 

エーリの問いに薊は首を横に振る。

 

エーリ

「そっか…何だかお仕事の邪魔

 しちゃったみたいでごめんね?」

 

「そんなことないよ。

 ほとんど終わってたし

 ここでちょっと考え事してたから。」

 

エーリ

「考え事?」

 

「何かとっても大切な事を

 忘れてしまっている気がして…

 頭の中がもやもやするんだよね。」

 

エーリ

「そう…なんだ…」

 

薊はエーリのどこか残念そうな表情に

 

疑問を抱いてはいたが詮索はしなかった。

 

「ここ、好きなんだ。

 昼間は何にも見えないけれど

 夜はこうやって星と月の光が

 水に映し出されて…」

 

エーリ

「…わたしもここ…お気に入りだよ。」

 

しばらく二人は黙り込んで

 

目の前の景色を堪能する。

 

 

 

「エーリ、妖怪の事どう思う?」

 

エーリ

「どうしたの? 急に…」

 

「私達人間にとって里の外は

 危険しかない。

 妖怪は人間をいたぶったり

 殺したり…食べたりするから

 外には出ちゃいけないって

 小さい頃に教えられるんだ。」

 

エーリ

「…」

 

「私は全部が全部そうじゃないって

 ずっと思ってきてた。

 妖怪や里の外に居る者の中には

 話したり手を取り合えるのだって

 居るはずだって思ってきた。」

 

薊はゆっくりと腰をあげて

 

湖の方へ数歩出る。

 

「こうやってヒトじゃない

 エーリともちゃんと話せた。

 だから確信したよ。」

 

エーリ

「薊…」

 

「…私がヒトと妖怪の

 橋渡しになってみせる。」

 

 

 

薊の発言と同時に

 

水の弾ける音が響き渡り、

 

湖から何かが飛び出した。

 

 

 

エーリ

「危ない…!」

 

「え…」

 

薊の目の前には二本の角が

 

頭部の両側から生えた巨大な蛇…

 

狂暴そうな妖怪が湖面から

 

生えるように佇んでいた。

 

エーリ

「だめ!」

 

エーリが叫んだと同時に

 

目の前の妖怪が薊を

 

丸呑みにせんと襲いかかってきた。

 

「っ!?」

 

薊は反応出来ず地面に

 

尻餅をついてしまった。

 

絶体絶命の中、

 

エーリは間に割り込み薊を庇った。

 

 

 

「はッ…! エーリッ!!」

 

直後に薊が見たものは

 

腰より上が消え失せた

 

エーリの姿だった。

 

「え…嘘…そん…な…」

 

上半身を妖怪に食されてしまったのか。

 

下半身だけが立った状態で残っている。

 

「あ…あ…ああッ…うわぁああああ!!」

 

誰かが殺される瞬間に

 

立ち会った事が無い薊は

 

あまりに衝撃的な出来事に

 

思わず声をあげてしまう。

 

もちろんそれは妖怪を

 

惹き付けるだけの自滅行為。

 

 

 

「私のせいで…私が…」

 

項垂れて涙を流す薊へ

 

妖怪は容赦なく襲いかかる。

 

 

 

その時だった。

 

エーリ

「薊! 早く逃げて!」

 

エーリの声が響いた。

 

「え…!?」

 

薊が顔を上げると

 

目の前で妖怪の動きを抑える

 

エーリの姿があった。

 

下半身だけではない。

 

しっかりと元の姿で戦っている。

 

「ど、どういうこと…?」

 

エーリ

「いいから早くッ!!」

 

「う、うん…!」

 

薊が離れた事を確認すると

 

エーリは背中から

 

羽のようなものを生やして

 

全身を蒼く発光させる。

 

「何…光って…」

 

距離を取った薊が振り返って

 

光を確認した時だった。

 

大蛇の姿をした妖怪は

 

エーリと接触している部分から

 

徐々に凍結していき

 

瞬く間に氷漬けになってしまった。

 

 

 

出来上がった氷像を前に

 

エーリは地面に手をついて

 

息を荒くする。

 

エーリ

「はぁ…なんとか…なった…」

 

「エーリ! 大丈夫なの!?」

 

薊は急いで駆け寄り

 

エーリを抱き抱える。

 

「冷たッ…それより今のは何…?

 いったい何をしたの?」

 

エーリ

「あはは…妖精の力ってやつ…

 わたしはこういう力を持ってるんだ。」

 

「妖怪を凍らせる力?」

 

エーリ

「ちょっと不正解っ

 何でも凍らせちゃうんだけどね。」

 

「すごいよエーリ!

 でもさっきあの妖怪に

 食べられてたのに

 どうして生きてるの?」

 

エーリ

「えっとそれはね…」

 

 

 

妖精の身体は

 

少々特殊な構造をしている。

 

基となる元素の塊同士を霊気が

 

くっつき合わせていき

 

その結果としての集合体が

 

最終的に姿として映し出される。

 

 

エーリ

「人間の身体と違って特定の

 元素が基だから壊れやすいんだけど

 直すのも簡単なんだよね。」

 

「?????」

 

エーリ

「流石にわからないよね…困った…

 まぁとにかくわたしは大丈夫!」

 

「ほ、本当に?

 身体のほとんどが

 無くなってたけど…」

 

エーリ

「でもほら! この通り!」

 

エーリは両手を広げて

 

必死にアピールする。

 

薊はようやく安堵の息を漏らす。

 

「よ、よかったぁ…」

 

エーリ

「思ったんだけど

 あれくらいの妖怪で怖がってたら

 御子のお仕事なんて出来るの?」

 

「う…やっぱり思いますよねー…

 実は生の妖怪を見たのも初めてで…」

 

エーリ

「………えぇ…?」

 

 

 

御子は妖怪から里を護るという

 

重要な役割があるのだが

 

任命された薊にそのような力は無く

 

ましてや妖怪など噂話で

 

聞いた程度でしかない。

 

 

 

エーリ

「でも里の中では御子として

 皆を不安にさせないように

 頑張ってるんだね。」

 

「う、うん…でも

 妖怪…本で学んだのと全然違うよ…

 あんな大きくて狂暴な蛇だなんて…」

 

エーリ

「何もあれだけが妖怪の姿じゃないよ。

 人間が怖がる見た目なら

 いくらでも居るからね。」

 

「うぇ…あんなのに

 里を襲撃されたらどうも出来ないよ…」

 

エーリ

「な、情けないなー…」

 

「だっていきなり御子にされたんだもん!

 任命したお偉い人にだって

 一度も顔を合わせたことないし!

 そもそもテキトーに

 私を選んだんじゃないの?」

 

エーリ

「う、うーん…それは違うと思うけど。」

 

「どうしてそう思うのよ。」

 

エーリ

「何となく。 薊は普通の

 人間じゃなさそうだし。」

 

「え、どこが?」

 

エーリ

「ひみつー」

 

「き、気になるんだけど…」

 

 

 

結局、エーリが問いに答える事はなかった。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

里に戻りもう一度見回りを行う。

 

「いや、なんでついてきたの…?」

 

エーリ

「え、だめなの?」

 

「だめ…ってわけではないけど

 いいのかな…いいのか?」

 

エーリ

「大丈夫大丈夫っ

 遠くから来た旅人

 って事にしといてよ。」

 

「い、言っとくけど

 里の人を凍らせたりしないでね?」

 

エーリ

「そこは心配しなくていいよ。

 ちゃんと制御出来るから。」

 

松明の炎がぼんやりと辺りを照らす。

 

寝静まった後の里は

 

静寂に包まれており

 

二人の声が良く響いていた。

 

エーリ

「薊ってオバケとか苦手?」

 

「うぇ!? な、何がどうだって?」

 

『オバケ』という単語を聞いただけで

 

たじろぐ薊を見てエーリはにやける。

 

エーリ

「図星っぽいね…」

 

「もうやめてよー

 だいたいオバケなんて妖怪に

 パクパクされちゃったって聞くし

 里の中になんか居ないって。」

 

エーリ

「確かに妖怪が成長するために

 食べる事はあるけどオバケも

 わざわざ危険な外には

 出ないんじゃない?」

 

「ぐ…確かに…

 でもみ、見たこと無いしっ。」

 

エーリ

(本当に嫌いなんだ…)

 

 

 

「あの…」

 

その時、後ろの方から女の声がした。

 

「ひぇっ…!?」

 

エーリ

「…?」

 

薊が恐怖で固まっている一方、

 

エーリは振り返って声の主を見る。

 

そこには和装の女性が立っていた。

 

里の人間だろう。

 

 

 

 

「これは…御子様でしたか。

 お声掛けしてしまい

 申し訳ございません…」

 

「え、あ、あぁ!

 怜花さん! よかったぁ…」

 

薊は声の主が誰か分かった途端、

 

急に元気になって怜花という

 

女性と対面する。

 

「どうしたんですか?

 起きるにはまだ早いですよ?」

 

怜花

「え、ええ…わかっているのですが

 先ほど床に就いていたら

 物音がしたのです。

 起きた時には漬け物瓶が

 姿を消していて…」

 

「何ですって…!?」

 

エーリ

「オバケの仕業じゃない?」

 

「う…違うって…」

 

怜花

「あの…そちらの方は?」

 

「彼女はエーリです。

 遠方から遥々この里に

 やってきた客人です。」

 

エーリ

「はじめまして。」

 

エーリはにこりと笑顔を

 

怜花に向けると一礼する。

 

怜花

「これはご丁寧に…

 怜花でございます。」

 

二人の挨拶が済んだ所で

 

漬け物瓶の所在について

 

話し合いが始まった。

 

 

 

「心当たりは無し…怜花さんが

 恨みを買うなんて有り得ないと思うし

 全然関係無い誰かが盗んだのかな。」

 

エーリ

「賊なんて居るの? この狭い里に。」

 

「居るかどうかはわからないけど

 出てもおかしくは無いかな。

 貧しい人も沢山居るし…」

 

怜花

「以前、布妃十様に

 献上する漬け物を

 盗まれた事がございます。」

 

「え…!?

 それでどうしたんですか?」

 

怜花

「売るために同じものを

 いくつか作っていたので

 事なきを得ましたが…」

 

エーリ

「布妃十…? 献上…?」

 

「あ、えっと…

 あの大きな屋敷に住んでる

 偉い人の事だよ。」

 

薊は指先で少し遠くに見える

 

立派な屋敷を指し示す。

 

「里の掟は布妃十様が

 決めてるってお父さんが言ってた。」

 

エーリ

「へぇ…そうなんだ…」

 

怜花

「献上に要求される品も

 最近は厳しくなっていて…」

 

「怜花さん…」

 

エーリ

「よくわかんないなー

 何かしてくれてるわけでも

 無いのになんで

 あげなきゃいけないの?」

 

「それは…偉いから?」

 

怜花

「里の者は皆、

 昔からそうだったと…」

 

エーリ

「………なるほど…」

 

エーリは声を低くしながら

 

目を細め、考え込む。

 

エーリ

(ルゥが居なくなってから

 やりたい放題ってわけか…

 偉いとか掟とか里の皆に植え付けて…

 これはわたしが手を貸して

 あげないとだめっぽいな…)

 

「エーリ? どうしたの?」

 

エーリ

「まずは情報を手に入れないとね。

 里の人達みんなに漬け物瓶が

 無くなった時間に何をしていたのか。

 また誰が盗みそうなのか。」

 

「よし! そういうことなら

 御子の地位を利用して

 とことん調べてみるよ!」

 

怜花

「いいんでしょうか…」

 

「大丈夫です!

 犯人は私がきっちり怒りますから

 怜花さんは安心していつも通りの

 生活をしていてください!」

 

怜花

「薊様…あなたに

 そう言っていただけると

 心が安らぎますわ。

 どうかよろしくお願い致します。」

 

「はい! 任せてください!」

 

 

 

エーリ

(善人しか居ないと思ってる辺り…

 わたしが助けてあげないと

 すぐに死にそう…)

 

薊の本質を垣間見たエーリは

 

その危険性を認識し、

 

何かと危なっかしい彼女を

 

見守る事にした。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

見回りを終え、

 

薊はエーリを連れて家に戻った。

 

「何も無いけどくつろいでよ。」

 

エーリ

「お邪魔するね。」

 

吾門と秋蝉は既に床に就いたようで

 

静まり返っている。

 

「ねぇ、エーリはいつかどこかへ

 行ってしまうの?」

 

エーリ

「どうしたの急に…?」

 

「あ、あまり笑わないでよ?

 その…私、友達が居なくて…」

 

エーリ

「………」

 

「その…エーリみたいに

 こうやって話せる子に会ったの

 はじめてで惹かれたっていうか

 なんかいいなって感じたっていうか…」

 

妙に照れくさそうに喋る薊を

 

エーリは真剣な眼差しで見つめる。

 

エーリ

「笑わないよ。

 わたしも同じだから。」

 

「え? 同じ?」

 

エーリ

「わたしもかつては独りだった。

 怖い人間に捕まって好き放題にされて

 自分がどうして妖精として

 生きてるのか何もわかんなくなったよ。」

 

「…エーリ…」

 

エーリ

「でも、そう…薊みたいな人が

 わたしを助けてくれた。

 希望も何も無い檻の中から

 助け出してくれた。

 だから今こうして薊の前に居られる。」

 

エーリは薊に近づくと両手を取り

 

ぎゅっと握る。

 

エーリ

「君は悪い人じゃない。

 わたしも君みたいな人は

 居心地が良いから。」

 

「じゃあ…その…

 私と友達になってくれますか…?」

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

エーリが人間に扮して一週間が経過した。

 

 

 

薊と手を組み、里に住む人間達から

 

効率良く情報を得ると

 

漬け物瓶を盗んだ犯人が浮上する。

 

 

 

瓶が何故か布妃十の屋敷にある事

 

 

あの夜に屋敷だけ明かりが

 

灯っていたという目撃情報

 

 

屋敷で働く健児の一人が着ている衣服から

 

漬け物瓶が放つものと同じ臭いが確認された事

 

 

 

これらから犯人は布妃十の屋敷で働いている

 

健児の一人が怪しいという結論に至る。

 

また布妃十が命令したのではないか

 

という疑惑も浮上した。

 

 

 

八廻院家にて

 

「里の皆から献上品を取ってるのに

 盗みまで働くなんて…

 いっぺん懲らしめてくる!」

 

エーリ

「まぁまぁ落ち着いて…

 まだ決まったわけじゃないよ。」

 

「これだけ判明したのに

 まだ言えないの?」

 

エーリ

「うん…健児の人が本当に

 その時間に怜花さんの漬け物屋に

 忍び込んだのか証拠が足りない…」

 

「う…じゃあもう手詰まり?」

 

薊が落胆した直後、

 

八廻院家の戸口が開かれた。

 

 

 

布妃十

「ほう、ここがかの御子が住まう

 八廻院の棲家とな?

 なかなかにしがない有様よのう。」

 

「布妃十様…!?」

 

布妃十

「おぬしが薊か。話には聞いている。

 何でも御子の分際で

 妾の屋敷に踏み込んだ挙句、

 健児を罪人と疑っている。」

 

「それは…その…屋敷に

 盗まれた瓶があって…」

 

布妃十

「あれは漬け物屋にかつて

 献上された物。

 妙な言いがかりは止せ。」

 

「っ…」

 

エーリ

「健児の衣服についた染みは?

 どう説明するのかな?」

 

「ちょっとエーリ!」

 

薊は慌ててエーリの口を塞ぐ。

 

布妃十はニタリと

 

不気味な笑みを浮かべ見下ろす。

 

布妃十

「ほう、貴様が例の客人とやらか…

 妾に物怖じしないとは面白い。」

 

「あの申し訳ございません…!

 この子ここに来たばかりで…その!」

 

布妃十

「フ…構わん。

 問いに答えてやろう。

 古い漬け物瓶を健児の一人に運ばせたのだ。

 あの染みはその時に付いたものだろう。」

 

エーリ

「その瓶が古いものであると

 どうしてわかるの?」

 

布妃十

「何…?」

 

「エーリ…? どういうこと?」

 

エーリ

「ちょっと気になってね

 怜花さんに漬け物瓶を

 見せてもらってたんだ。

 そうしたら気づいたよ。

 あれ、みんな見た目が違うんだ。」

 

「あ…そういえば!」

 

布妃十

「………ほう…」

 

エーリ

「ついでに瓶を作った人にも

 確認は取っておいたよ。

 作った年によって色、模様が

 異なるようにしているらしい。」

 

「な…私が知らないうちに

 そんな情報を…」

 

エーリ

「それで見たんだよね

 健児が屋敷で運んだっていう

 その瓶の色と模様。

 見事に一番新しいものだった。

 どう説明をつけるつもりかな?」

 

布妃十

「クク…カッハッハッハ!!

 なかなかに面白い小娘だ。

 しかしそれで妾を貶めるなどと

 思い上がりも甚だしい。」

 

「え、エーリ!」

 

エーリは布妃十を睨んだまま。

 

薊はどうにかエーリに謝罪させようと

 

あたふたしている。

 

布妃十

「残念だが、妾が健児に

 運ばせたなどという証拠は無い。

 健児を切れば良いだけの事よ。」

 

「なっ…!?

 運んだ人は何も悪くない

 じゃないですか!?」

 

エーリ

「薊、残念だけど言う通り。

 罪を犯したのは健児の人だよ…」

 

「そ、そうだ!

 布妃十様が皆に事情を説明すれば…」

 

その時、布妃十が薊の目の前に立ち

 

顔を近づけて囁いた。

 

布妃十

「貴様…能無しか…?」

 

「え…?」

 

布妃十

「何故、妾が数いる健児の一人の為に

 そのような事をせねばならぬ。」

 

「え、それは…だって…」

 

布妃十

「つまらん。

 貴様のような小娘は虫唾が走る。」

 

そう吐き捨てて布妃十は

 

出ていってしまった。

 

「………」

 

エーリ

「薊…」

 

「言わないで。」

 

エーリ

「………」

 

「わかってるの…

 私がそういう人間だって…」

 

二人の間に重い空気が流れる。

 

エーリ

「薊、ちょっと外を歩こうよ。」

 

「え? いいけど…」

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

薊とエーリの二人は湖の畔を歩く。

 

エーリ

「前に言ってたね。

 ルゥの事について話すって。」

 

「う、うん…急にどうしたの?」

 

エーリ

「いいから聞いて薊。

 わたし、あなたに聞いて欲しいの。」

 

「うん…」

 

 

 

エーリ

「ルゥはわたしを悪い連中から

 救い出してくれた人間。本名は

 ルーネ・リーデ・フォン・カムテルトケーシス

 ここから西をずーっと行った国の人なの。」

 

「恩人なんだね…」

 

エーリ

「うん。わたしは妖精として素質があって

 この力をヒトに利用されてたんだ。

 命と力を吸い取られていたけれど

 そこにルゥが現れて助け出してくれたの。

 わたしはその時、ルゥを拒否したの。」

 

「え、助けてくれたのに?」

 

エーリ

「だってもしかしたらルゥがまた

 わたしを利用するんじゃないかって。

 疑心暗鬼になってたんだよね…

 でもその予想は大きく外れた。」

 

「いい人だったんだね。」

 

エーリ

「ルゥに聞いたの。

 『どうしてわたしなんかを助けたの?』

 そしたらルゥはにこりと笑って

 『困っている誰かを助けるのに

  理由も動機も必要無い。

  そこにあるのは自分の意志だけだ』って。」

 

薊はエーリの話を聞き目を見開く。

 

エーリ

「わたしは薊がルゥと同じような

 ヒトだと思ってる。だから

 きっとこれから布妃十にも逆らうし

 妖怪にだって挑んでいくんでしょ。」

 

「………」

 

エーリ

「薊はわたしが守る。ルゥとわたしが

 かつてそうだったみたいに

 わたしは薊を守り続けたい。」

 

湖の方向から風が吹き

 

二人の髪をなびかせる。

 

エーリ

「だから…自分を曲げないで。

 薊は薊らしく、自分の意志で

 布妃十の悪事を暴いて欲しい。

 お願いわたしを信じて!」

 

「あはは…責任重大だね。」

 

薊は一度息を吐く。

 

「エーリ、私の意志だけじゃないよ。」

 

エーリ

「…?」

 

「エーリが居なきゃ

 私は何も出来ないただの人間。

 だから私とエーリの二人で

 布妃十様の悪事を暴いて

 里の皆を守らなくちゃ…」

 

エーリ

「薊…」

 

「だから…御子のくせに

 頼りない私だけど…里の皆を

 守るだけの力も無い私だけど…

 どうかよろしくお願いします!

 一緒に戦ってください!」

 

薊は深々と頭を垂れる。

 

エーリ

「うん…! がんばろうね!」

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

それから二日後、事態は動き出す。

 

 

 

布妃十の屋敷にあった

 

盗まれた瓶が突如として姿を消した。

 

 

 

なお、この瓶は屋敷に運ばせた健児に

 

見回りを布妃十が命じており、

 

その健児によると

 

「深い夜に灯りがついていたにも関わらず、

 瓶の周囲だけが突然暗闇に包まれて

 暗闇が晴れた時には瓶が消えていた。」

 

ということらしい。

 

 

 

「妖怪の仕業…だよね…?

 ヒトがそんなこと出来ないだろうし…」

 

エーリ

「可能性は高いね。」

 

「でもそれだと私、怒れないな…」

 

エーリ

「心配するところそこ?」

 

「だって怜花さんには

 お説教するって約束しちゃったし!」

 

エーリ

「まぁそれは置いといて、

 手掛かりなんだけど夜中に

 布妃十が里の外に出てるのを

 見かけたんだよね。」

 

「え、私見回りしてても見えなかったよ?」

 

エーリ

「薊が寝てからだよ。

 しかも健児も連れていかないで

 たった一人で外に出てってた。」

 

「ええ!?

 それって布妃十様は大丈夫なの!?」

 

エーリ

「はぁ…普通に帰ってきてたよ。

 ただどこに行ったかまでは

 見失っちゃってわからなかった。」

 

「わかった!

 じゃあ今夜から尾行しようよ!」

 

エーリ

「いやいいよ。

 わたしが確かめておくから。」

 

「エーリ? 一緒だって言ったよね。」

 

エーリ

「…う、うんわかってるよ。」

 

「ふふーんじゃあ夜回りが終わったら

 ここに来てくれる?」

 

エーリ

「りょーかい。

 じゃ、また夜ね。」

 

「うん!」

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

昼頃に薊は小宮(しょうきゅう)の掃除を行う。

 

小宮とは人里から離れた位置に在る

 

『白の宮殿』に住まう『白の巫女』を

 

崇める為に人々が建てたもので分社のようなもの。

 

 

 

『白の巫女』は薊に

 

御子の役職を与えた存在であり

 

近辺の秩序を守っている神のような扱いを

 

人々からされている。

 

 

 

「………」

 

 

 

薊は小宮の前で一礼し、

 

入ってすぐの大部屋に

 

祀られている刀に手を掛ける。

 

 

 

祓面苦(ばらめんく)』と呼ばれる

 

この刀は祭具の一つであり

 

『白の巫女』の力が宿るとされ

 

御子が祭りなどの際にこの祓面苦を携えて

 

舞を行うことで厄災を払うと言われている。

 

 

 

小宮を掃除する際にはまず舞を行う。

 

薊は祓面苦を構える。

 

「………ふ…」

 

一度呼吸を整え舞を始めた。

 

 

 

小宮の静まり返っていた大部屋に

 

少女が足裏で床を叩く音が響く。

 

 

 

薊は特に乱れる事も無く淡々と続ける。

 

彼女自身、何度も舞に臨んでいるため

 

既にその所作は隅々まで洗練されている。

 

 

 

「はぁ…」

 

舞を一通り終えた薊は大きく息を吐くと

 

一度、小宮の入口を振り返る。

 

そこには柱から顔だけを出して

 

こちらを覗いていた者が咄嗟に引っ込む。

 

薊は特に驚く様子も無く、

 

その者が誰かわかっていた。

 

「セン、また覗きに来たんでしょ。」

 

秋蝉

「だ、だって!」

 

弟の秋蝉が思わず飛び出す。

 

「だってはナシ。

 お父さんの手伝いはどうしたの?」

 

秋蝉

「ん…その…ねーちゃんの舞が見たくて

 早めに終わらせてきたんだよ…」

 

「ふーん…そ、そっか。

 とにかく! ここは神聖な場所だから

 別の場所で遊んでて。

 お姉ちゃんはお仕事しなきゃだから。」

 

秋蝉

「うん、がんばってね!」

 

「ふふ…ありがとっ。」

 

薊は秋蝉の頭に手を優しく乗せる。

 

秋蝉

「なぁねーちゃん。」

 

「ん?」

 

秋蝉

「ねーちゃんは御子の仕事、

 イヤじゃないの?」

 

「………」

 

秋蝉

「夜遅くまで…オイラ達が寝た後にも

 ねーちゃんはお仕事して…

 それに最近はもっと忙しそうにしてるし…

 もしねーちゃんが倒れたりしたら…」

 

「…ありがとうセン。」

 

秋蝉の頭に手を乗せたまま撫でる。

 

「お姉ちゃん、その気持ちが嬉しい。

 でもね…私はセンの事も守りたいの。」

 

秋蝉

「どういう…こと?」

 

「怜花さんが盗まれたっていう漬け物瓶ね。

 もしかしたら妖怪の仕業かもしれなくて

 本当にそうだとしたら里の中に

 妖怪が潜んでいるかもしれないの。

 私はセンやお父さん、それに里の皆を

 守らなくちゃいけない。

 これは御子の役割ってだけじゃないの。

 私は皆のこと家族だって思ってるから

 何が何でも守りたいの。その中でも

 一番に守りたいのはセンなんだ。」

 

秋蝉

「ねーちゃん…」

 

「覚えてる? センが私のことを

 お父さんから聞かされた日。」

 

秋蝉

「………」

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

およそ二年前、八廻院家にて。

 

 

 

吾門

「セン…話がある…大事な話だ。

 薊もこちらへ来なさい。」

 

秋蝉

「何々ぃ?」

 

「………」

 

吾門

「いいんだな? 薊。」

 

「うん…」

 

秋蝉

「二人ともどうしたの?

 そんなに怖い顔して。」

 

吾門

「薊はな、捨て子でな。

 お父さんの子では無いんだ。」

 

秋蝉

「え…」

 

吾門

「薊はセンと違って

 お父さんと血は繋がっていない。

 本当のお父さんは別に居る。」

 

秋蝉

「………」

 

秋蝉は動揺を隠せず、薊の方を見る。

 

薊は黙って頷いていた。

 

秋蝉

「二人ともどうして隠してたの?」

 

吾門

「…おまえが薊を嫌いに

 なってしまうかもしれないと

 思ったからだ。幼い内にこの話を

 するのは気が引けた。」

 

秋蝉

「………」

 

「セン…あのね…

 別に騙すとかそういうつもりは

 無かったの…ただお姉ちゃんが…」

 

秋蝉は薊が言い終わる前に

 

勢い良く立ち上がる。

 

秋蝉

「二人ともふざけないでよ!!」

 

「セン…!?」

 

吾門

「………」

 

薊が驚いている一方、

 

吾門は動じる事無く秋蝉をじっと見つめる。

 

秋蝉

「ねーちゃんが腹違いだとか…

 血が繋がってないとか…

 そんなのどうだっていいじゃん!

 オイラはそんなのより…

 そんなのよりねーちゃんと

 お父さんに隠されてたなんて…!

 言ってくれなかったなんて…くっ!!」

 

秋蝉は戸を乱暴に開けて

 

出ていってしまう。

 

「セン…!

 お父さん! 私行ってくる!」

 

吾門

「…ああ…」

 

薊は家を飛び出して全力で

 

秋蝉を追いかけた。

 

 

 

 

 

秋蝉が行き着いた場所は

 

里の外れにある立派な一本桜。

 

 

 

木の下でうずくまっている

 

秋蝉を見つけた薊は

 

ゆっくりと近づいていく。

 

 

 

「…セン…ごめんね…」

 

ある程度の距離で立ち止まり声を掛ける。

 

秋蝉

「………」

 

「騙して無いって言ってたけど…

 黙ってたってことは

 センにずっと隠し続けてたわけだから

 結局騙してたってことになっちゃうよね…」

 

秋蝉は顔を上げて薊と目を合わせる。

 

「私も不安だったんだ…

 もしセンが知ったら私のこと

 お姉ちゃんとして

 見てくれないんじゃないかって

 ずっと怖かった…

 言い出す勇気が無かったの。」

 

秋蝉

「関係無いよ…そんなこと…」

 

「…うん…ごめんなさい…」

 

秋蝉

「そういうんじゃないって!」

 

薊に向かって詰め寄る秋蝉。

 

秋蝉

「そういうのどうでもいいんだよ!

 オイラはねーちゃんのこと

 好きで好きでしょうがないんだよ!」

 

「…せ、セン?」

 

秋蝉

「だいたいこんなに綺麗で

 しかも御子っていう立派なお仕事して

 がんばってるのに優しくしてくれる

 ねーちゃんのこと

 好きになれないわけないって!

 だからねーちゃんが実はお父さんの

 子供じゃないとかオイラには

 どうだっていいの!」

 

「…あ、えっと…そう…なんだ…

 うん…へ…へへぇ…」

 

薊は顔を真っ赤にして

 

両手の指をくっつけたり離したり

 

指の腹を合わせて擦ったり

 

落ち着きがない。

 

秋蝉

「ねーちゃん? あ、ごめん…

 強く言い過ぎた…」

 

「ち、違うよ?

 センは何も…うん…」

 

秋蝉

「何か顔が赤いんだけど

 熱でもあるの?」

 

「だって…とにかく!

 お父さんが心配するから

 さっさと帰るよ!」

 

秋蝉

「あ、ちょっと待ってよ!

 だってなんだって!?」

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

「あの時に関係無いって

 言ってくれて私すっごく嬉しかった。

 私にとってセンは何よりも大切な弟。

 だからあなたの事はぜっっったいに

 守る…いえ、守らせて…」

 

秋蝉

「ねーちゃん…あのさ…?」

 

「何?」

 

秋蝉

「ねーちゃんってよくオイラに

 『だって禁止令』してくるけどさ。

 あの日にねーちゃんが言った

 『だって』の後には何があったの?」

 

「………」

 

秋蝉

「ねーちゃん?」

 

「隠さないで言うね…

 センの好きってどういう意味?」

 

秋蝉

「え!? いや、意味とか無くない?」

 

「そう…一応教えとくけど

 その言葉はセンにとって本当に

 好きな人に使ってあげて?」

 

秋蝉

「いやねーちゃんのこと

 本当に好きなんだけど。」

 

「………」

 

秋蝉

「………」

 

「そっか…うん。嬉しい…

 じゃあお仕事あるから。」

 

薊は掃除用具が納められている

 

棚の方へ歩いていく。

 

秋蝉

「ちょっとねーちゃん!」

 

「あ~早くしないと

 お仕事終わんないな~!」

 

秋蝉

「もう…結局何なのか

 教えてくれないのかよ…

 オイラ帰ってお父さんに聞いてみる。」

 

「ふぇあ!? ちょっとセン待っ…」

 

薊が入口の方を見た時には

 

既に秋蝉の姿は無かった。

 

(………勘弁してよ…

 私がお父さんの子供じゃないって

 事より話し辛いじゃないの…

 あーもう! とにかく仕事仕事!)

 

薊は頬を赤く染めつつ掃除に取り掛かる。

 

その口元は僅かだが微笑んでいるようだった。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

エーリ

「なんでそんなにソワソワしてるの?」

 

「だって好きって言われたんだよ?

 ちょっと歳は離れてるけど男の子に!

 もう弟として見れないよ…

 エーリだって女の子だからわかるでしょ?」

 

エーリ

「いや…よくわかんないんだけど…

 わたしもルゥのこと大好きって

 いっぱい言ってたけど

 ルゥはそんなソワソワしてないよ。」

 

「ごめん聞く相手間違えました…」

 

エーリ

「しっかりしてよね。

 わたしは空から布妃十の屋敷を見てる。

 何か動きがあったら呼ぶから

 薊は続けて夜回りのフリをしてて。」

 

「フリって難しいなぁ…

 まぁでもその方が変に思われないよね。

 じゃあよろしくお願いします。」

 

エーリ

「任せて!」

 

エーリは薊にウィンクすると

 

背中から氷の羽を生やして

 

空高く飛んでいく。

 

「ほんとに飛べるんだ…

 本物の妖精とお友達の私って

 実は結構凄いのかな…?

 なんちゃって…気を引き締めないとね…」

 

薊は周囲を警戒しつつ里の中を追加で見回る。

 

(仮に妖怪に遭遇したらエーリを

 呼ぶしか無いんだけどね…)

 

足を止める。

 

背後に気配を感じて振り向いてみると

 

そこには着物姿の少女が一人。

 

(いつの間に後ろに…

 気づかなかった…

 確かこの子って屋敷に居た…)

 

紗判

「布妃十様には気をつけて。」

 

「え…?」

 

紗判

「あなたは…

 生きなきゃいけないから…」

 

「あの…どういうこと?

 君はいったい…あ…」

 

少女は夜の暗闇の中へ走り去ってしまう。

 

(何だったんだろ…

 布妃十様に仕えてる子…

 だと思うんだけど…)

 

エーリ

「薊…! 布妃十が出てきたよ…!」

 

入れ替わるようにエーリが

 

空から降りてきた。

 

「いよいよ…だね…行こう…!」

 

 

 

 

布妃十は里の南側より

 

森林の奥へ向かって歩いている。

 

 

 

薊とエーリは木の陰に隠れつつ

 

見失わないギリギリの距離で

 

尾行していく。

 

 

 

(こんなに奥まで…

 私だってここまでは

 来たことないのに…)

 

しかも布妃十は何の躊躇いも無く

 

ズカズカと進んでいく様を見て

 

不信感は更に増していく。

 

 

 

ただのヒトが何時、

 

妖怪が出るかもしれない森林の中で

 

特に警戒している様子も無いのだ。

 

 

 

エーリ

(…予想はしていたけど…

 やっぱり布妃十は…)

 

 

 

布妃十

「来たぞ。」

 

「…!」

 

 

 

布妃十が声を上げると

 

奥で六つの光が灯る。

 

 

 

黄色の眼が六つの異形。

 

胴体はいくつにも裂け、

 

それぞれの身体は細く畝っている。

 

脚部は萎んだ蕾のように小さい。

 

その様はまるで花が生きているようだ。

 

 

 

(何…何なの…!?

 あれって妖怪じゃない!

 あ…それより布妃十様が危ない!)

 

薊は布妃十を助けようと

 

身を乗り出そうとするも

 

エーリに腕を掴まれる。

 

「…エーリ…?」

 

エーリは首を横に振る。

 

「…でも…」

 

 

 

布妃十

「貴様らの望みは叶えてやった。

 こちらの望みを聞いてもらおう。」

 

(話してる…!? 妖怪と…)

 

布妃十

「八廻院 薊、そして水色髪の小娘を

 貴様らの手で消してもらう。

 水色はこの里に一人だけだ。

 わかるだろう。」

 

エーリ

(そういうこと…なるほどね…)

 

布妃十

「奴らは妾の素性を探っておる。

 既に貴様らのことを漏らした者は

 始末したがあの二人は貴様らにとって

 脅威に成り得る。どうだ?」

 

 

 

「…布妃十様が…そんな…」

 

 

 

布妃十

「む…」

 

薊が立てた物音に

 

布妃十と妖怪が反応する。

 

エーリ

「薊…!」

 

「布妃十様…どうして…」

 

薊は涙を浮かべ布妃十を見る。

 

 

 

布妃十

「…そうか、クックック…

 面倒が増えてしまったな。

 種である内に消さねばな。」

 

布妃十の顔は見えない。

 

ただその口元は薄笑いを浮かべている。

 

 

 

エーリ

(まずい…あの妖怪…

 根元の動きは遅そうだけど

 『腕』の稼働範囲も速度も

 相当なものに見える。

 薊を庇いながらは太刀打ち出来ない…)

 

 

 

エーリは即座に薊の腕を引っ張って

 

その場を離れる。

 

 

 

二人を逃がすまいと妖怪の胴体の

 

いくつかが触手のようにうねりながら

 

凄まじい速度で迫る。

 

 

 

エーリ

「くっ!」

 

エーリは背中から大量の粒のようなものを

 

妖怪に向かって放射する。

 

 

 

すると伸びながら二人を追っていた

 

胴体が半ば凍りつき動きを鈍らせる。

 

 

 

エーリ

「薊! しっかりして!

 とにかく走って!!」

 

「…!」

 

エーリの一声で薊は我に返り、

 

何とか妖怪からの追撃を撒く事に成功する。

 

 

 

 

 

里の門に辿り着いた二人はその場で

 

座り込んで息を切らす。

 

エーリ

「はぁ…はぁ…」

 

「はっ…布妃十…様…」

 

エーリ

「薊…」

 

「妖怪と関係があったなんて…

 そんなことって…」

 

エーリ

「薊、守るんでしょ…

 里の皆を守るんでしょ!」

 

「…!」

 

エーリは薊の両肩を掴む。

 

エーリ

「あなたは御子だよ。

 でもあなたの本当の気持ちは…!」

 

(私は…そうだ…センを…お父さんを…

 怜花さんも皆…守らなきゃ…)

 

エーリ

「薊…逃げないで…布妃十に

 負けちゃだめだよ…あの妖怪にも…」

 

「…うん…ありがとエーリ…もう大丈夫。」

 

薊は目を瞑ったまま立ち上がる。

 

「…守ってくれてありがとう。」

 

エーリ

「薊…?」

 

「あの妖怪には負けない。

 布妃十様は絶対説教して改心させるわ。」

 

エーリ

(ええ…)

 

「だって私にはエーリがいるもん!」

 

エーリ

「…!」

 

「でもちょっと…考える時間と

 祓面苦を取りに行かせて欲しいかな。」

 

エーリ

「祓面苦?」

 

「私が御子のお仕事で使ってる祭具だよ。

 あれ、『白の巫女』様の力が宿ってて

 妖怪も倒せるとか…

 私も少しは戦えるんだから。」

 

エーリ

「そんなものが…じゃあ取りに行こう。

 見た所、その祭具のおかげで

 あの妖怪は里に入れないみたいだしね。」

 

「え…私が見回りしてるおかげじゃなかったの?」

 

エーリ

「いやだって…

 薊を怖がってる感じしなかったよ…

 他にあいつらの実体が

 侵入出来ない理由無いし…」

 

「そんなぁ~がんばって見回りしてたのに~」

 

 

 

二人は駆け足で小宮に向かう。

 

 

 

 

 

布妃十

「…そう簡単には摘めぬか。」

 

薊とエーリの姿が消えた門に

 

布妃十と先ほどの妖怪が遅れてやってくる。

 

布妃十

「クハッ…なれば…

 こちらも手を打たねばなぁ。」

 

布妃十に反応するように妖怪は

 

六つの眼を煌めかせる。

 

 

 

 

 

 

 

少女達の命運は如何に…

 

 

 

to be continued ~




お疲れ様です。Almaです。
コロナ重症化して幻想郷入りしましたが現実世界に戻ってまいりました。

EP8から一年近く経ってしまいましたが未だにEP9出せて無くて本当に申し訳ございません。こちらのお話を先に投下することにした理由ですが今後の話のキーキャラクターになるルーネさんに焦点を当ててもう少し掘り下げておきたいと考えました。

もちろんルーネというキャラはチルノにとって敵となる勢力の頭目になるのですが、チル大のアトリエは「誰が善で誰が悪」という部分に関しては明確にせずそれぞれの正義をぶつけ合う作品というコンセプトで描いていくのでこれから先、ルーネがどんなキャラクターになってもその意志の「根源には何があるのか」という事が非常に重要になってくると私は考えています。

後編は少し時間を頂くかもしれませんがどうかよろしくお願い致します。
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