チルノ&大ちゃんのアトリエ ~目覚めし幻想の錬金術士~   作:すくすくAlma

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その④後半です。

※誤字・脱字、表現の誤りなどがございましたら遠慮なくお申し付けくださると幸いです。なるべく早く訂正致します。


EP4 こどもだったわたしへ

チルノ

「おーい!」

 

鈴奈庵を出たチルノと大妖精。

 

にとりとパチュリーが待っている

 

橋の辺りに戻ってきた

 

にとり

「おかえり、どうだった?」

 

チルノ

「大収穫祭だぜ!」

 

大妖精

「小鈴さんが解読してくれました。」

 

パチュリー

「それは良かったわ。

 無駄足にならずに済んだわね。」

 

大妖精はパチュリーに

 

小鈴から渡されたメモを見せる。

 

パチュリー

「…やはり、錬金術の本なのね。」

 

にとり

「…ふむ…

 でもあの子は錬金術なんて…

 今度私もこのメモ、見ていいかい?」

 

大妖精

「もちろんです!

 それはそうとにとりさん

 やはり顔色が悪いと思いますが…」

 

にとり

「…すまないね、嫌なことを

 思い出してしまっただけ…」

 

するとにとりの話を遮るように

 

聞き覚えのある声が入り込んできた。

 

 

 

天子

「そうでしょうね、河城にとり。」

 

 

 

声の主はこの前の天人だった。

 

チルノ

「…おまえ!」

 

にとり

「それはいったいどういう意味だい。」

 

天子

「言葉の通りよ?

 ま、忘れたい過去の一つや二つ、

 誰にでもあるでしょうけれど。」

 

パチュリー

「話は聞いたわ、

 なぜチルノの本を狙うのかしら?」

 

天子は少しを間を置く。

 

天子

「『幻想郷を救うため』

 とでも言っておこうかしら。」

 

パチュリーはその言葉を聞き、

 

眉をひそめる。

 

チルノ

「おいおまえ!

 この本を封印するとか言ってたな?」

 

天子

「ええ。」

 

チルノ

「アタイは絶対に許さないからな!

 この中に居るヤツがかわいそうだろ!」

 

天子

「………

 その中に封じられている妖怪。

 あんた達じゃ

 手に負えないと話したはずよ。」

 

チルノ

「関係あるか!」

 

天子

「………そう…

 どいつもこいつも

 そう言えれば、苦労しないわ。」

 

大妖精

「天子さん…」

 

天子

「一応聞いてあげる。

 この前返答を聞いたから

 端から期待なんてしてないんだけど。

 本をこちらに寄越しなさい。」

 

チルノ

「…お前、知ってるのか?」

 

天子

「何を?」

 

チルノ

「この中に居るの…

 にとりのともだちなんだぞ…」

 

にとり

「…チルノ…」

 

天子

「ええ、知ってるわよ。

 そして災厄でもある。

 あんた達よりも私達が

 預かった方が圧倒的に安全なのよ。」

 

パチュリー

「達…あなた以外にも仲間が…?」

 

天子

「おっと口が滑ったわ。

 さ、とっとと寄越して頂戴。」

 

チルノ

「…悪いけど、この本は渡せない…」

 

チルノは天子を睨みつける。

 

チルノ

「アタイには何が良くて何が悪いか

 よくわかんないけど、

 この本に封じ込まれてるヤツを

 アタイは黙って渡す気は無い。」

 

天子

「…」

 

チルノ

「そいつがどんなヤツなのか

 アタイはまだわからないけど

 これから話したい。」

 

天子

「あんたが

 期待してるようなもんじゃないわ。」

 

チルノ

「それはアタイが決めるよ。」

 

天子

「あんたにとって悪い存在だったら?」

 

大妖精

「それなら天子さんが

 一緒に居てくだされば…」

 

天子は少し驚いた様子を見せる。

 

天子

「…こっちにも事情がある…

 あんた達と馴れ合うつもりは無いわ。」

 

その表情は苦しみを感じている様子だった。

 

大妖精

「そんな…」

 

チルノ

「アタイは許さない。

 悪いからってボコボコにしたり

 封印しようとするのは

 いくらなんでもおかしい。」

 

天子

「…それがあんたの考え方ってわけね。

 なら私も成すべきことを成すまでよ。」

 

天子は腰の鞘から抜剣する。

 

刃はまるで炎のように揺らめいており、

 

実体があるとは言い難い。

 

『緋想の剣』

 

天子が愛用する武器であり、

 

脅威とされているものの一つ。

 

天子はこの剣を介して相手の

 

気質を見極めることを可能としており、

 

簡単に言えば、

 

相手の弱点を見極め、

 

常に優位に立つことが出来る。

 

にとり

「気をつけて、特にあの剣には…」

 

パチュリー

「…いいのかしら?

 あなた一人で。」

 

天子

「ええ、あんた達程度の相手なら

 私一人で十分だわ。」

 

チルノ

「なめやがってー!」

 

大妖精

「チルノちゃん挑発に乗っちゃ…」

 

天子

「…あんたにその本を

 持つ資格があるのか…

 見極めさせてもらうわよ!」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

チルノ達が天子と一戦交える頃。

 

魔法の森の中で

 

何かを収集する影があった。

 

???

「…なかなか悪くない…

 素晴らしい品質だ…」

 

霊夢の前から立ち去った

 

黒服の少女は地面から

 

周囲とは違う色の付いた草を

 

数本むしりとる。

 

???

「今はこれほどの品質を持つ

 材料が自然生成されるのか…

 やはり終末を迎えるには

 あまりにも惜しい。」

 

彼女以外はその場に居ないのだが

 

一人でぶつぶつと話し続ける。

 

???

「…博麗霊夢…大いなる母が

 あれだけの秀才をみすみす

 放っておくものだろうか…」

 

そこへ足音が近づいてくる。

 

アリス

「あら、こんにちは。」

 

???

「あ、こんにちは。」

 

たまたま通りがかったのは

 

アリスであった。

 

愛想良く挨拶をすると、

 

黒服の少女も立ち上がり

 

笑顔を向けて返す。

 

アリス

「初めましてかしら?

 ここには良く来るの?」

 

???

「初めまして、

 いえ、たまたまここで

 素材の収集をしていただけです。」

 

アリス

「素材? もしかしてあなた錬金術士?」

 

???

「おや、よく錬金術だとわかりましたね。

 ただ私はそのような立派な称号を

 名乗れるような者では無いのです。」

 

アリス

「そうなの? ふふ…私はアリス。

 アリス・マーガトロイドよ。」

 

???

「ルーネです。

 以後お見知りおきを。」

 

アリス

「素敵な名前ね、

 どう呼んだら良いのかしら。」

 

ルーネ

「あなたほどでは…

 お好きなさって下さい。」

 

アリス

「じゃあ、ルーネさん。

 良ければうちで

 お茶していかない?」

 

ルーネ

「お茶ですか、それは良い。

 是非ともお邪魔させていただきたい。」

 

アリス

「良かった、こっちよ。」

 

アリスはルーネを連れて

 

自宅へと向かう。

 

その様子を木の影から

 

何者かが見ていた。

 

 

 

ルーネ

「錬金術の師匠に?」

 

アリス

「そうなの、友人から

 頼まれてしまったものだから。」

 

ルーネ

「それは災難でしたね。」

 

アリス

「いえ、正直なところ

 楽しませて貰ってるし

 むしろ受けて良かったと

 今は思っているのよ。」

 

ルーネ

「ほう、ポジティブですね。」

 

アリス

「それとも違うわよ、

 それに私がポジティブなんて

 とてもじゃないけど言えないわ。」

 

ルーネ

「何か悩みが?」

 

アリス

「悩みというほどの

 事でも無いのだけれど…」

 

ルーネ

「お聞きしますよ。」

 

ルーネはハーブティーに口をつける。

 

アリス

「満足出来ないのよ。」

 

アリスはカップを持ちながら揺らす。

 

ルーネ

「…満足…ですか。」

 

アリス

「ええ、常に誰かに

 見られている気がするの。

 その度に『今の私じゃだめだ』

 って思ってしまって…

 今の自分に満足出来ないの。」

 

ルーネ

「それは悪いことなのでしょうか?」

 

アリス

「向上心が旺盛なのだと言えば

 聞こえはいいわ。

 でも周りとはどんどん

 離れていっている…

 そう感じるのよ。」

 

ルーネ

「…なんだかわかる気がしますよ。

 私もかつてそのような

 時期がありました。」

 

アリス

「そうなの?」

 

ルーネ

「ええ、随分と前の話には

 なってしまうのですが、

 宿敵とも言える相手が居たのです。」

 

アリス

「へぇ、いいじゃない。」

 

ルーネ

「ただ、彼女は天賦の才を

 持っていたため、私は

 気の遠くなるような努力を

 重ね続けることで、

 張り合っていたのです。」

 

アリスはカップを静かに置く。

 

ルーネ

「しかし私はそれに

 取り憑かれ続けた…その結果、

 周りが見えなくなっていき、

 遂には良き理解者であった

 友さえも離れていきました。」

 

アリス

「…わかるわ…

 そういう時は本当に

 盲目になるものね…」

 

ルーネ

「アリスさん、あなたは

 私と違って友人関係は

 上手くやっていそうですね。」

 

アリス

「まさか、私に

 そんな関係を築く力なんて無いわ。」

 

ルーネ

「とんでもない、

 あなたを一目見た時から

 私は感じとりましたよ。

 あなたの心の美しさを。」

 

アリス

「もう、買い被り過ぎよ。」

 

ルーネ

「謙遜なさらずとも結構です。

 故にあなたは

 巫女や魔法使い…様々な方と

 縁をお持ちなのでしょう?」

 

ルーネの問いにアリスは黙り込む、

 

先ほどまでの温かい空気は

 

一瞬で凍りつく。

 

アリス

「ルーネさん、

 霊夢と魔理沙を知っているの?」

 

ルーネ

「ええ、ちょっとした

 知り合いでしてね。」

 

アリス

「…知り合い…」

 

ルーネ

「実はあなたのことも

 話には聞いていたのですよ。

 話の通り、素晴らしい御方で

 とても満足しています。」

 

アリス

「…」

 

アリスはルーネの瞳をじっと見つめる。

 

その視線には強い疑念が込められていた。

 

ルーネ

「私はあなたを買い被ってなどいません。

 本心からの言葉なのですよ。」

 

アリス

「知ってるかしら、そういう奴が

 一番嘘をついているのよ。」

 

ルーネ

「心外ですね。」

 

アリス

「あなた新顔でしょ。

 あの二人とはどういう関係なの。

 いったい何時出会ったのよ。」

 

ルーネ

「おや、そこまで食って掛かられると

 私も委縮してしまいます。」

 

アリス

「それはどうかしら…」

 

その時、ルーネの持っていたカップが

 

床に落ち、割れた。

 

ガシャンという耳障りな音が

 

周囲に響き、それと同時に

 

ルーネの右手が突然、

 

天井から吊り下げられたような挙動を取る。

 

ルーネ

「これは…」

 

アリス

「私ね、そこらに居る連中

 よりも用心深いのよ。

 だからあなたが私の通る道で

 待ち伏せしてたのも知ってる。」

 

ルーネ

「待ち伏せ…?

 そんなにコソコソと

 隠れていたつもりは無いのですが。」

 

アリス

「どちらにしても同じことよ、

 あなた、最近私をつけてたわよね。」

 

ルーネ

「ふむ、あなたに興味がある…

 ただそれだけなのですが…」

 

アリスは椅子から立ち上がり、

 

両手をクロスさせる。

 

彼女が指を動かすと、

 

ルーネはもう片方の腕も

 

天井から吊り下げられたようになり、

 

足が床から離れる。

 

その様はまるで十字架に

 

張り付けられたかのように見えた。

 

ルーネ

「乱暴ですね…」

 

アリス

「あなたの目的は?」

 

ルーネ

「ある者への復讐ですね。」

 

アリス

「あら、案外あっさり喋るのね。」

 

ルーネ

「ええ、隠すことでも無いので。」

 

アリス

「…いったい誰に?」

 

ルーネ

「それは言えません。

 いえ、言えばあなたも

 運命のレールに

 乗せられてしまうことになる。」

 

アリス

「運命のレールね。

 そんなものは無いわ。

 虚言を吐くならもっと

 キツくしようかしら?」

 

ルーネ

「おや、魔法使いならば

 少しは関わりがあるのではと

 思っていたのですが…」

 

アリスは再び指を動かし、

 

ルーネの首を上に向かせる。

 

ルーネ

「これは魔法…では無いですね。

 あなたの能力ですか。」

 

アリス

「そんなこともわかるのね。」

 

ルーネ

「ええ、俄然興味が湧きましたよ。」

 

アリス

「復讐の相手は誰なのよ。」

 

ルーネ

「………」

 

その時だった、ルーネが薄い笑みを

 

浮かべた瞬間、アリスがルーネに

 

掛けていた術が解けたのだ。

 

ルーネは床に着地すると後ろのドアに

 

背中を押し付けて部屋を移動する。

 

アリス

「ちッ…待ちなさい!」

 

ルーネ

「………」

 

ルーネはそのまま侵入した部屋に

 

転がり込むが、

 

起き上がろうとした瞬間、

 

手足が床から離れなくなる。

 

ルーネ

「おや…」

 

アリス

「逃げられると思って…?」

 

ルーネが周囲に目を配ると

 

部屋の中に複数の小さな人形が居り、

 

ルーネの方向を向いて静止していた。

 

ルーネ

「これもあなたの技ですね。」

 

アリス

「ええ、この子達は私に忠実なのよ。」

 

ルーネ

「素晴らしい、一体くらい

 譲っていただけませんか?」

 

アリス

「あなたが何の下心もなければ

 あなたの為に作ってあげたけれど。」

 

ルーネ

「それは残念です…」

 

アリス

(さっき…私が張り巡らせていた

 糸が全て切れてしまった…

 でもこいつは一切動きが無かった…)

 

アリスは特に動き出す気配が無いルーネを

 

慎重に観察する。

 

アリス

(霊気の切断…つまり糸を切る為に

 霊気を身体から刃物状に放出させた…?)

 

ルーネ

「………」

 

二人は沈黙の中で睨みあう。

 

アリス

(上海を使って展開している

 このトラップは霊気では稼働しない…

 だから動けないのかしら…)

 

ルーネ

「よ…」

 

アリスがルーネの手足に目線を移した時、

 

ルーネは突然、立ち上がり距離を取り始める。

 

アリス

「!?」

 

ルーネが糸やトラップを

 

解除してしまう要因を考えていた所だった為、

 

アリスは一瞬動揺するが、

 

即座に距離を詰める。

 

ルーネ

「…!」

 

それを狙ったように

 

ルーネはアリスの顔面目掛けて蹴り上げる。

 

アリス

「甘い!」

 

しかしアリスはそれを先読みし、

 

一度身を引いてルーネの脚に糸を太めに

 

絡み付け、彼女を床に叩きつける。

 

ルーネ

「…っ…」

 

ルーネは受け身を取り、

 

身体への衝撃を和らげる。

 

アリス

「…な…」

 

ルーネを床に倒れさせることに成功したものの、

 

想定していた以上の重さが糸から

 

指、腕へと伝わり、

 

アリスはバランスを崩してしまう。

 

 

 

アリス

「痛っ…」

 

床に倒れそうになり思わず手を

 

先についた為、体重による衝撃が

 

腕に来てしまう。

 

アリス

「は…」

 

倒れるのが怖くなり、目を瞑ってしまった。

 

アリスが目を開いた時、

 

すぐ目の前にはルーネの顔があった。

 

アリス

「ひぇっ!?」

 

思わず変な声が出てしまう。

 

ルーネ

「あの…」

 

アリスがあたふたしているのとは

 

対称的にルーネは落ち着いた様子で

 

視線を下に向ける。

 

アリス

「あ、いや…その…ごめん…なさい…」

 

気が付くとアリスはルーネに

 

覆いかぶさるような態勢で、

 

胸元から下が押し潰すようにくっついていた。

 

アリスはすぐに退くと

 

申し訳なさそうに俯いていた。

 

ルーネ

「アリスさん、私は何もあなたに

 悪い感情を抱いているのではありません。

 あなたは良い方です。巫女さんもね。」

 

アリス

「何を以てそんなこと…」

 

ルーネ

「あなたは何故、

 私がつけていると知りながら、

 わざわざここへ招いてくださったのですか?」

 

アリス

「それは…あなたの話を聞きたかったのよ…」

 

ルーネ

「復讐の…ですか…」

 

アリス

「復讐を否定する気は無いわ…

 けれどあなたから

 あまりにも深い悲しみ…

 いえ、虚しさを感じたのよ。」

 

ルーネ

「………」

 

アリス

「だから話だけでも聞きたいの。

 もちろん、霊夢や魔理沙…

 他の誰かがあなたの復讐の相手と

 一致するかどうか確認するっていう

 目的もあったから…!」

 

ルーネ

「違いますよ。」

 

ルーネは起き上がると

 

真剣な眼差しでアリスを見る。

 

ルーネ

「私は幻想郷の住人に

 恨みなど抱いていません。」

 

アリス

「じゃああなたの敵は

 なんだと言うの?」

 

ルーネ

「………」

 

アリス

「…だんまりなのね。」

 

ルーネ

「…私の最終目的については

 申し上げられませんが、

 アリスさん、あなたのもとへ

 来た理由をお話しします…」

 

アリス

「理由?」

 

ルーネ

「はい、あなたでなければ

 ならない理由です…」

 

 

 

ルーネはアリスの手を取ると、

 

頭を垂れ、次のように述べた。

 

ルーネ

「あなたの力をいただきたい。」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

人里のとある小屋の中…

 

映姫

「錬金術…ですか…先刻、

 少々学ばせていただきました。」

 

???

「今回のケース。

 過去最高の結果になるだろう。」

 

映姫は外からの光が遮断された小屋の中で

 

そこには存在しない

 

大いなる母と呼ばれる者と対話を行う。

 

???

「アルス=マグナは繰り返す。

 我々も繰り返し動く。」

 

映姫

「過去の結果…私は存じませんが。

 我々の中に記憶がある者は?」

 

???

「『救世』『災厄』『聖性』『監理』

 彼らは原点回帰の影響を受けぬ。」

 

映姫

「…把握しました。

 比那名居が例の人形と交戦しています。」

 

???

「錬封本の確保を中止。

 イグノラムスには

 今後不干渉とする意向。

 手合わせが終わり次第、地子に伝えよ。」

 

映姫

「仰せのままに…」

 

映姫は椅子から立ち上がり、

 

扉を開け、外に出ていく。

 

映姫

「……はぁ…」

 

大きなため息を一つつきながら…

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

天子

「喰らいなさい…!」

 

チルノ達と激戦を繰り広げる天子、

 

緋想の剣を器用に使いこなし、

 

徐々に一行を追い詰める。

 

チルノ

「あっつ!!」

 

天子の放った斬擊を

 

回避したチルノであったが、

 

斬擊が発していた熱気に驚き

 

思わず尻餅をついてしまう。

 

大妖精

「チルノちゃん…!」

 

天子

「余所見してんじゃないわよ!」

 

大妖精

「はッ…!?」

 

天子はチルノに

 

注意が向いた大妖精が

 

生み出したわずかな隙を逃さず

 

距離を詰める。

 

大妖精

(やられる…!)

 

大妖精が天子の攻撃を覚悟した時、

 

天子は残像を残しつつ

 

大妖精から距離を取る。

 

天子の頭があった場所で

 

1発の弾丸が通り過ぎた。

 

にとり

「…くそッ…大丈夫かい…!?」

 

大妖精

「は、はい!」

 

にとりの拳銃から発射された弾丸は

 

天子に避けられてしまったものの、

 

大妖精への攻撃を防ぐことに成功した。

 

天子

「…へぇ…あんたには

 あんまり興味無かったんだけど。

 なかなか良い玩具じゃない。」

 

にとり

「玩具かどうかはその身体で

 試したらどうかな? 頑丈なんだろ?」

 

天子

「なかなか肝の据わったガキね。

 天人に大口叩くなんて。」

 

にとり

「それより良いのかな?」

 

天子

「…?」

 

天子の頭上に巨大な光の球体が現れる。

 

パチュリー

「余所見をしてるのは

 あなたの方だったわね。」

 

天子

「…こんな魔法で

 どうにかなると思ってるの?」

 

天子はその場から動かない。

 

チルノ

「あいつ、逃げないのか!?」

 

大妖精

「大した自信ですね…流石は天人…」

 

次の瞬間、天子は暴風の中へと

 

飲み込まれてしまった。

 

強力な風の魔法。

 

風による音の他、

 

周囲の建造物の軋む音がする。

 

天子

「こんなもんなの?」

 

しかしその音を遮るかのように

 

天子の声が響いた。

 

パチュリー

「…!」

 

局地的に生成された竜巻は

 

突然、炎の旋風と化し、

 

消え去ってしまう。

 

天子

「この程度じゃ私には

 傷一つ付けることは出来ない。

 本気を出したらどうよ?」

 

パチュリー

「…硬いわね…」

 

にとり

「DEFパラメータ的には

 私たちのレベルに

 合ってるんだけどな…

 バグってるのかこれ…?」

 

大妖精

「え、何の話ですか?」

 

チルノ

「じゃあアタイのも受けてみろ!」

 

チルノは両手を前に突き出し、

 

大きめの氷塊を生成し、

 

天子に放つ。

 

天子

「ふん、無駄無駄」

 

天子は目にも止まらぬ早さで

 

氷塊を斬りつける。

 

氷塊は天子へ到達する無く、

 

バラバラに崩れ落ちる。

 

チルノ

「な、なにー!?」

 

天子

「やわらかい氷ね。

 じゃあこちらの物も

 受けてもらおうかしら!」

 

天子は緋想の剣を

 

地面に突き立てる。

 

それから数秒後に

 

チルノは大きな影に包まれた。

 

チルノ

「お、おおおお!?」

 

上を見ながら

 

動揺するチルノ。

 

その頭上には

 

こちらへと落下してくる

 

巨大な石が見えた。

 

にとり

「要石か…ッ!」

 

『要石』とは

 

天子が扱う

 

ダイヤモンドのような形状をした石。

 

古くから地震を鎮める為の

 

石として扱われていたもので

 

地震の発生しうる地点に

 

設置することで

 

その地震を押さえ込む事が可能。

 

なお、抑え込むだけであり、

 

地震のエネルギーは

 

消滅しない仕様である。

 

 

 

天子は要石を自由に操れるのだが、

 

地震だけでなく、

 

敵に対して投げつけたり

 

上から落としたりといった

 

乱暴な使い方をする。

 

幸い今回は小さなサイズであった為…

 

大妖精

「ッ…!」

 

大妖精がチルノの上に浮遊し、

 

大きめの結界を張る事で

 

要石は勢いを殺され静止した。

 

チルノ

「大ちゃん!?」

 

にとり

「待ってろ!」

 

にとりは大妖精が展開した結界の

 

上で静止する要石を

 

リュックからアームを出し、

 

力づくで退かす。

 

大妖精

「くはぁ…!」

 

要石を抑えた大妖精は

 

酷く疲弊し、地面に座り込む。

 

天子

「へぇ、大した根性ね。」

 

チルノ

「おまえ!もう許さないからな!」

 

天子

「別にあんたに

 許しを乞いた覚えは無いんだけど。」

 

にとり

「大ちゃん…後ろに下がってな…」

 

大妖精

「すいません…にとりさん…」

 

にとり

「パチュリー、援護を。」

 

パチュリー

「任せて。」

 

にとり

(まずいな…現状では

 ヤツに十分なダメージを

 与えられるのはパチュリーだけだ…

 チルノは大ちゃんのことで

 まともには動けない…

 ルーミアが居れば…)

 

チルノ

「アタイの怒りの

 一撃を喰らいやがれ!」

 

チルノは右手に力を込めると

 

何かを投げる素振りをする。

 

天子

「…?」

 

何かを投げつけてくると

 

考えた天子だが、

 

チルノの右手は空だった。

 

天子

「…何よ、あんたそんな子供騙しが

 私に通用すると思って…」

 

言い掛けたところで

 

天子の腹部を目掛けて

 

地面から氷の棘が飛び出した。

 

天子

「ッ…!?」

 

天子は辛うじて緋想の剣で

 

棘を弾こうと試みたものの、

 

反応が遅れ、攻撃を受けてしまう。

 

 

 

それは慢心によるミスであった。

 

もちろん普段通りであれば

 

地中からの攻撃など

 

簡単に察知出来た。

 

しかし、相手は自分より

 

遥か格下の妖精、

 

知能もそこまで高いとは

 

思えない相手であった為に

 

天子は油断をしていたのだ。

 

天子

「…まさか、

 こんなくだらない技を

 受けるなんてね。」

 

天子の声は震えており、

 

まるで自身が油断していたことを

 

恥じているようだった。

 

チルノ

「へっ! アタイの攻撃なら

 天人だって倒せちゃうのね!」

 

パチュリー

「いえ…ほとんどダメージを

 受けていないわ…」

 

チルノ

「えぇ!? でもあいつ

 めっちゃ恐がってるけど?」

 

天子は拳を握りしめ、

 

帽子を深く被り顔を隠す。

 

天子

「この、私が…」

 

大妖精

「…! 来ます!」

 

大妖精の声が聞こえた直後に

 

天子から凄まじい霊気の圧が

 

襲いかかってきた。

 

チルノ

「ぐっ!?」

 

パチュリー

「っ…やはり侮れないわね…」

 

にとり

「おかんむり…って感じだ…」

 

天子の目から放たれた

 

圧倒的な威圧感。

 

天人としてのプライドにより、

 

チルノの攻撃を

 

かわし損ねた失態に対する

 

苛立ちが彼女を昂らせたのだ。

 

天子

「…さて…こっちの番ね。」

 

緋想の剣に纏われた炎が

 

青い光を放ちながら揺らめく。

 

チルノ

「うげ…

 あれを受けたらヤバそう…」

 

にとり

「ヤツの範囲に入らないように

 気をつけないとね…」

 

一行の警戒心が強まる。

 

天子

「妖精ごときが私の身体に

 1発与えた事は褒めてあげる。

 でも私に勝てるなんて

 思わないことね。」

 

チルノ

「言ったな!

 おまえだってアタイから

 逃げられると思うなよ!」

 

パチュリー

「挑発に乗らないの」

 

チルノ

「むっ」

 

チルノは天子を睨みつける。

 

天子

「弱い者の空威張りね。

 あんたには現実を

 見せてあげようかしら。」

 

天子は緋想の剣を

 

数回振り、

 

炎の斬擊を複数生成し、

 

チルノへ放つ。

 

にとり

「避けろ!」

 

チルノ

「うわ!?」

 

チルノはその場に伏せ、

 

やり過ごしたが、

 

斬擊が人里の建物に当たり爆発する。

 

パチュリー

「っ!? あなた…!」

 

天子

「評判? 知るか、

 地を這う者の分際で

 私の行為にケチをつけるなんて

 おこがましいにも程があるわ。」

 

にとり

「比那名居…これ以上

 我武者羅に暴れれば地上に

 降りられなくなるぞ…!」

 

天子

「それはどうかしら、

 あんた達がその本を

 頑なに寄越さなかったから

 こうなったんじゃないの?

 私が咎められる理由が無いわ。」

 

チルノ

「お、おまえ!

 ちょっと自分勝手過ぎないか!?」

 

チルノは立ち上がり身構える。

 

天子

「あんたに言われるなんてね。

 私は天人なのよ?

 こんなの勝手に入らないわ。」

 

にとり

「聞く耳持たずだな…」

 

チルノ達の攻撃を

 

悉く捌く天子。

 

天子

「もう油断はしないから。

 覚悟を決めることね。」

 

チルノの攻撃を受けたことを

 

相当気にしている様子で、

 

先ほどの小馬鹿にしたような

 

目線を発することが無くなった。

 

パチュリー

「…天人の矜持…」

 

にとり

「比那名居天子。

 君は幻想郷に恨みでもあるのか。」

 

にとりは一歩前に出る。

 

天子

「そんなもの無いわ。

 私はただ、私のやり方で

 私なりに穏便に済ませようと

 しているだけに過ぎないのよ。」

 

にとり

「ああそうかい、

 君は私とは加減の度合いが

 違うみたいだね。」

 

天子

「…何者であれ、自分以外の

 思考、観点を得ることなど出来ない。

 河城にとり、あんたと

 分かり合うことも無い。」

 

にとり

「そうだろうね。

 でも私はもう逃げないさ…

 臆病でも出来ることを

 片っ端からやっていかなきゃ

 ならないって…改めて学んだからね。」

 

拳銃を回し、構える。

 

にとりの瞳は目の前の天人を

 

しっかりと捉えて放さない。

 

天子

「今さら取り戻そうったって

 そんなに甘くないわ。

 逃げてばっかりだったんでしょうに。」

 

緋想の剣が淡い光を放つ。

 

にとり

「パチュリー…

 チルノと大ちゃんを頼んだ。」

 

パチュリー

「…! あなたまさか…」

 

にとり

(ああ…別にチルノ達のためじゃない。

 あの本には私の大切な…

 彼女をあの天人に渡したくないんだ。)

 

にとりは飛び上がり、

 

天子の足元を狙い発砲する。

 

天子

「どこ狙って撃ってるわけ?」

 

にとり

「狙い通りさ。」

 

天子

「ッ…!」

 

にとりの拳銃から放たれた弾丸は

 

側面に四角い緑色のライトが

 

見受けられる。

 

天子の足元へと撃ち込まれた時には

 

1秒ごとに緑色のライトが

 

点滅していたのだが、

 

天子が弾丸を視界に捉えた時、

 

ライトは緑から赤に変化し、

 

次の瞬間、大爆発を起こした。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

いつ頃からだろう。

 

誰のことも感じられなくなってきたのは…

 

 

 

 

「お父様! 見てみて!」

 

父に褒められるのが好きだった。

 

威厳があって、堅苦しい父が

 

私をちゃんと見てくれる時が

 

一番の喜びだった。

 

 

「よくやったぞ地子、

 お前は将来有望な子に育つだろう。」

 

父が声を荒立てる事は

 

日常においてほとんどない。

 

あまりにも表情に変化が無いものだから

 

喜怒哀楽を読み取るのも困難だ。

 

 

「まぁ! 素晴らしいわ地子!

 また1位を取ったのね。

 親として鼻が高いわ。」

 

父とは対称的に母は

 

感情表現が得意で、

 

包み込んでくれるような

 

優しい人だった。

 

 

 

私には才能があったのだろう。

 

父の血の中に

 

地を司る者としての才能が

 

紛れ込んでいたのかもしれない。

 

 

 

また私は学においても

 

優秀だったものだから、

 

周りからは慕われていた。

 

もちろん、上辺だけなのだけれど。

 

 

 

そのおかげで私には

 

友達が出来なかった。

 

同じ土俵に立てる者が

 

他に居なかったからだ。

 

いつの間にか

 

両親に褒められることだけが

 

私の生き甲斐になっていた。

 

 

 

 

 

なのに、

 

母が私の前から消えた。

 

何の言葉も遺さずに消えた。

 

 

 

父は自暴自棄になって、

 

私を褒めるどころでは

 

無くなってしまった。

 

 

 

焼け爛れた木々、

 

土が剥き出しになった草原。

 

吸うだけで肺が

 

焼けてしまいそうな空気。

 

 

 

我が家に出入りをしていた

 

災厄の予言者は

 

『滅びの光』を数日前に予言した。

 

大地を焼き、身体を溶かし、

 

魂を燃やし尽くす光。

 

 

 

私達は予め用意しておいた

 

シェルターとも言える場所で

 

光が収まるのを待っていた。

 

 

 

外から聞こえる終末の叫び。

 

断末魔。

 

助けを呼ぶ声。

 

私と父は必死に聞かないフリをした。

 

しかし母は違った。

 

 

 

 

母は父の制止を振り切り、

 

外へ飛び出していった。

 

 

 

そして母が戻る事は無かった。

 

私はその事実を受け入れる事が

 

出来なかった。

 

止めなかった父のせいだと。

 

 

 

母はあの光の中へ消えてしまった。

 

私と父を残して消えてしまった。

 

私は母が遺した帽子を被る。

 

溢れ出す涙をひたすら帽子で隠した。

 

そうして生きてきた。

 

 

 

誰にも弱みなど見せない。

 

ただ一つの答え…

 

失わない為には

 

自分自身を信じること。

 

例え世界に否定されようとも…

 

 

 

自分のことだけを信じるの。

 

そうするしか私には道が無いの。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

にとりが放った弾丸が爆発を起こし、

 

天子を飲み込む。

 

にとり

「…チッ…」

 

舌打ちをするにとり。

 

爆発による煙が収まった頃、

 

一行が目にしたのは

 

無傷で佇む天子の姿だった。

 

天子

「なかなかやるじゃない。

 甘く見て悪かったわね。」

 

チルノ

「…まだやる気なのか?」

 

天子

「あんたが本を渡してくれるなら、

 このまま退いてあげる。」

 

チルノ

「ダメだって言った。」

 

天子

「ええ、聞いた。」

 

睨み合うチルノと天子。

 

その様子を少し離れた位置で

 

見ていた大妖精。

 

大妖精

「…っ…」

 

拳を握りしめる。

 

パチュリー

「あなたのあれ、

 不発じゃなかったのよね。」

 

にとり

「ああ、きっちり作動したさ。」

 

パチュリー

「流石は天人ってところかしら…」

 

にとり

「…頼んだはずだけど…?」

 

パチュリー

「今さら何を言ってるのよ。

 それに…あの子は

 退く気なんてさらさら無いみたいよ。」

 

にとり

「にしても変だな…ヤツの力なら

 チルノから本を奪うことなんて

 容易いだろうに…」

 

パチュリー

「チルノに警戒している訳でもない…

 と思うのだけれど…」

 

にとりとパチュリーは

 

チルノの隣に立つ。

 

四対一

 

人数では勝っていたが、

 

その実力には天と地ほどの差があった。

 

 

 

天子

「ふ…地を這う者共が、

 揃いも揃って。」

 

チルノ

「アタイはお前には負けない…」

 

天子

「弱い犬ほどよく吠える…

 いい加減わからせてあげるわよ。」

 

天子はゆっくりと剣を構える。

 

瞳から放たれる威圧的な気。

 

にとりとパチュリーは理解していた。

 

自分達が圧倒的に不利な状況に

 

立たされていることを。

 

しかし、退かない。

 

隣にどれほど弱く、

 

どれほど自信過剰で、

 

何よりも思いやりのある

 

小さな小さな妖精を置いて

 

退くことなど出来ない。

 

チルノ

「アタイは…お前が言うことに…

 納得なんて出来ない…!」

 

天子

「…でしょうね。

 あんたがクソワガママ

 だって事は私が一番よく知ってるわよ。」

 

大妖精

「天子…さん…!」

 

チルノ

「いくぞ! 勝つのはアタイだ!」

 

天子

「妖精風情が図に乗るな!」

 

チルノと天子は駆け出し

 

距離を詰めていく。

 

にとりとパチュリーは

 

チルノの援護の為、

 

それぞれ銃器と魔法陣を

 

スタンバイする。

 

 

 

天子の緋想の剣が

 

チルノの上半身を捉えた時だった。

 

 

 

 

「もうやめてくださいよ!!」

 

 

 

声が響く。

 

それと同時に

 

周囲に白い膜のようなものが拡がり消える。

 

 

 

チルノ

「え…」

 

天子

「…あんた…今のって…」

 

チルノと天子は動きを止め、

 

声を発した主に目線を向ける。

 

その場に居た全員が一点に注目する。

 

 

 

大妖精

「もう…やめてください…! 私達は…

 誰かを救いたいだけなんです!」

 

天子

「妖精が…

 妖精ごときが何を言ってるわけ?」

 

大妖精

「そうですよ! 私達はたかが妖精です!

 天子さんのように強くは無いし

 頭も良くは無いです!」

 

チルノ

「いやアタイはこいつより…」

 

大妖精

「だからにとりさんやパチュリーさん…

 魔理沙さんや小鈴ちゃん…

 そしてルーミアちゃんに力を借りて

 ついに本の内容を知る事が出来たんです…」

 

にとり

「…」

 

パチュリー

「…」

 

にとりとパチュリーは

 

大妖精の言葉を聞き目を瞑る。

 

チルノ

「アタイ達は…助けたい…

 それだけなんだよ。」

 

チルノは手から出していた氷を納め、

 

天子から少し距離を取る。

 

天子

「…知ったような口を…」

 

大妖精

「教えてください天子さん!

 事情もわからないのに

 にとりさんの友達を

 易々と渡すわけにはいかないんです!」

 

天子

「事情…ね…」

 

天子は振り上げた緋想の剣を下ろす。

 

にとり

「比那名居、認めるよ。

 確かに彼女は先の異変では

 幻想郷を本気で消そうとしていた。

 君の言う通り、災厄そのものと

 言っても過言じゃなかっただろう。」

 

天子

「…」

 

にとり

「でも彼女は自らその本に

 封印される道を選んだ。

 美しいこの世界を守りたい…

 そう最後に言っていた。

 彼女がなお危険人物だという

 確証が…欲しいんだ…

 でないと私は到底納得できない。」

 

天子

「…私は…」

 

 

「これはいったいどういうことですか。」

 

天子の言葉を遮るように声が響いた。

 

声を聞いた途端、

 

その場に居た全員が緊迫とした

 

雰囲気に飲まれる。

 

映姫

「あなたに任せたというのに…

 何故、手加減をするのです?」

 

天子

「うっさい…私は地上の連中ごときに…」

 

映姫

「口だけは達者ですが…

 結果が伴わなければ

 戯言に過ぎません…」

 

天子

「言ってくれるじゃない…」

 

にとり

「地獄の閻魔様がわざわざ

 私達の元へ来るなんて

 どういったご用件で?」

 

現れたのは四季映姫。

 

彼女の鋭い視線は

 

チルノへと向けられる。

 

チルノ

「お、アタイに何か用か?」

 

映姫

「ええ、あなたのその本、

 我々が確保・管理する必要が

 無くなった事を

 お伝えしようと思いまして。」

 

チルノ

「かく…ん?」

 

大妖精

「つまりもう

 狙われないってことですか!?」

 

映姫は少し表情を和らげると

 

大妖精の目を見て頷く。

 

映姫

「我々は今後、その本そのものに

 干渉することはありません。」

 

天子

「はぁ!? 何言ってんの?

 勝手な事言わないでよ!」

 

天子は明らかに気分を害した様子を

 

見せながら映姫に詰め寄る。

 

映姫

「大いなる母の命です。」

 

天子

「っ…! あのクソババァ…」

 

パチュリーは天子と映姫の会話を

 

怪訝そうな表情で聞き入っていた。

 

チルノ

「やった…アタイ…守れ…て…」

 

そんな中、

 

チルノは力を使い果たしたのか

 

突然倒れてしまう。

 

大妖精

「チルノちゃん!?

 どうしたの!? チルノちゃん!!」

 

大妖精はチルノを抱き抱え、

 

必死に呼び掛ける。

 

映姫

「眠っているだけです。

 こちらの天人が

 色々とご迷惑を…」

 

天子

「チッ…」

 

映姫

「大妖精、話があります。

 ここで立ち話も何ですから

 場所を移しましょう。」

 

大妖精

「私…ですか?」

 

映姫は周囲に視線を送る。

 

気づくと人だかりが出来ていた。

 

にとり

「派手に暴れたからな…

 こいつは大変そうだ…」

 

パチュリー

「ええ…でも…」

 

パチュリーは

 

チルノと大妖精の様子を見る。

 

パチュリー

「四季映姫、あなたが

 この子達に危害を加えない

 保証はあるのかしら?」

 

映姫

「そんな野蛮な思想は

 持ち合わせていないのです。

 私はただ『正しいこと』に

 沿って行動するのみ…

 大妖精とは話をするだけです。」

 

パチュリー

「『正しいこと』…ですって…?」

 

パチュリーは映姫の発言に

 

疑問を抱き、目を細める。

 

大妖精

「パチュリーさん、大丈夫です。」

 

大妖精はチルノを抱えながら

 

ゆっくり立ち上がると、

 

パチュリーの方へ向き、

 

笑顔を向ける。

 

パチュリー

「大丈夫って…あなた…」

 

パチュリーの目には

 

無理をして笑顔を作る

 

大妖精の顔が映る。

 

大妖精

「チルノちゃん…

 お願い出来ますか?

 パチュリーさん…」

 

パチュリー

「…っ…わかったわ…」

 

パチュリーは

 

引き留めようとしたものの、

 

大妖精の表情を見て、

 

渋々、チルノを引き受ける。

 

にとり

「…私達に出来る事は

 この事態の収拾…パチュリー。」

 

パチュリー

「ええ、わかっているわ…」

 

映姫

「お手数ですがお願いします。

 あなたもお願いしますね?」

 

映姫は天子の肩に手を置く。

 

天子

「気安く触るんじゃないわよ…」

 

天子は映姫の手を払うと、

 

人里に出来た人だかりの方へと

 

歩いていく。

 

映姫

「さ、行きましょう。」

 

大妖精

「…はい…」

 

にとりとパチュリーは

 

去り行く二人の姿を見送る。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

チルノ

「ん…あれ…」

 

チルノは目覚める。

 

いつか見た、夢と同じ。

 

暗闇だ。

 

チルノ

「大ちゃん? ぱっちゅりー? にとりー!」

 

呼びかけてみるが、

 

返事は無い。

 

チルノ

「もしかしてまた夢か?

 じゃあこうしてっと…いててて…」

 

頬をつねる。

 

チルノ

「んぅ…だめだ起きれないぞ。」

 

 

 

???

「だれ…?」

 

 

 

声が聞こえてくる。

 

チルノ

「あ、あれ、

 アタイ今喋ったっけ…?」

 

自身と同じ声色、

 

???

「だれか…いるの?」

 

チルノ

「むむむ…アタイはここに居るぞ!」

 

正体のわからない相手に

 

チルノは返す。

 

???

「あたい…?」

 

チルノ

「気味悪ぃーな…今そっちいく!」

 

チルノは声が聞こえる方向に

 

ひたすら足を進める。

 

するとしばらくして

 

足元からパキパキと

 

氷にヒビが入るような音が

 

聞こえ始めた。

 

チルノ

「お、なんか空気が

 良くなってきたぜ。」

 

???

「あなたも? はじめて…

 みんな寒いって言うから…」

 

チルノ

「アタイは好きだよ。

 この方が元気出るしな!」

 

???

「不思議…わたしといっしょだね。」

 

チルノ

「おう! ってもしかしてレティか?」

 

???

「レティ?

 それはあなたのお友達?」

 

チルノ

「うーん、『ともだち』って

 言ったら『ともだち』だけど

 むしろ仲間って感じ!

 冬になると元気になるんだぜ!」

 

???

「冬だと元気に…?

 わたしは冬はきらい…」

 

チルノ

「え、なんでだ?」

 

???

「冬は終わりの冬だから…

 どうしてもすきになれないの…」

 

チルノ

「うーんそっか…

 なら今度アタイが

 冬を楽しくしてやんよ。」

 

???

「冬を…たのしく?」

 

チルノ

「おう! まかせとけ!

 あ、何か見えてきた!」

 

己と同じ声を持つ誰かと

 

話をしながら歩いていたチルノは

 

前方に何かが近づいている事に気づく。

 

チルノ

「…なんじゃありゃ?」

 

チルノが辿り着いた場所は

 

壁、床、天井、

 

二つ向かい合わせに置かれた椅子、

 

全てが氷で出来た部屋だった。

 

チルノ

「おお!? なんだこれスゲー!」

 

思わずチルノは興奮する。

 

そしてその部屋には窓があり、

 

窓から外を眺める一人の少女…

 

チルノはその少女を

 

見るや否や

 

チルノ

「えぇ!?」

 

盛大に声をあげて驚く。

 

少女はもう一人のチルノと

 

言わんばかりに

 

容姿がほとんどそっくりだった。

 

異なるのは大きい青リボンを

 

していないことと、

 

髪をセミロング程度に

 

伸ばしている所であった。

 

チルノ

「あ、アタイなのか?

 夢の中のアタイ? おっ?」

 

混乱するチルノ。

 

少女はこちらに振り返り

 

チルノの様子を見ると

 

クスクスと笑う。

 

???

「ほんとだ、不思議だね。」

 

チルノ

「アタイの真似したのか?」

 

???

「マネなんて出来ないよ。

 あなたとは初めて会ったし…」

 

チルノ

「たしかに、でもびっくりした。」

 

???

「えへへ…ほんと…」

 

お互い思わず笑みがこぼれる。

 

???

「わたしはエーリ、あなたは?」

 

チルノ

「チルノ! いい名前だろー?」

 

エーリ

「ちるの…ちるの、チルノ?」

 

チルノ

「どうした?」

 

エーリ

「なんだかなつかしい響き…」

 

チルノ

「懐かしい? アタイの名前がか?」

 

エーリ

「うん…なんでだろ…」

 

チルノ

「でもアタイがエーリに会うのは

 初めてなんだよな?」

 

エーリ

「…もしかしたらどこかで…」

 

チルノとエーリは揃って考え込むが

 

答えは出ない。

 

エーリ

「あ、よかったら座って。

 おはなししようよ。」

 

チルノ

「話? 何を話すんだ?」

 

エーリ

「チルノが話したいことでいいよ。」

 

チルノ

「そうだなー…」

 

 

 

 

大妖精の話

 

ともだちの話

 

悪戯の話

 

本の話

 

錬金術の話

 

 

 

二人は飽きることなく

 

話を続けていた。

 

エーリ

「ルーミア…大ちゃん…

 なんだかうらやましいなぁ」

 

チルノ

「だろだろー?

 アタイの自慢の『ともだち』だぜ!」

 

エーリ

「わたしにはここから

 眺めることしか出来ないから…」

 

チルノ

「眺める? 大ちゃんたちを?」

 

エーリ

「ううん、わたし自身を…」

 

チルノ

「エーリがエーリを見るのか?

 なんか変なのー」

 

エーリ

「変とは思わないけど…

 チルノみたいにたのしくはないかな…」

 

エーリは小さな手のひらを見て

 

表情を曇らせる。

 

エーリ

「ある時からここにいるけど

 それより前もひとりだった…

 ううん…ひとりになったんだ…」

 

チルノ

「お、じゃあよかったじゃん。」

 

エーリ

「え?」

 

チルノの一言にエーリは

 

虚ろな目を丸くする。

 

チルノ

「今はアタイが居るだろ?

 これでエーリは独りじゃないな!」

 

エーリ

「チルノ…」

 

チルノ

「なんか大ちゃんみたいに

 しっかり聞いてくれるから

 話しやすいんだよね。

 エーリが飽きるまで話してやんよ?」

 

エーリ

「ありがとう…」

 

エーリは俯き声を震わせる。

 

表情は見えなかったが

 

涙が頬を伝っていた。

 

チルノ

「お、おい泣くな!?

 アタイ何かまずいこと言った!?」

 

慌ててチルノは椅子から立ち上がり、

 

エーリに寄り添う。

 

エーリ

「ううん…そういうこと

 言ってくれたのチルノだけで…

 うれしくて…なんでだろ…

 うれしいのに…涙…出ちゃって…」

 

チルノ

「………」

 

チルノはこの光景に既視感を抱く。

 

チルノ

(ルーミア…みたいだな…)

 

長い間孤独だった者、

 

孤独故にその心は

 

傷つき易く、脆い。

 

表向きは気丈に振る舞っていても

 

心の中では自分に嘘をついて

 

無理をしている。

 

ルーミアと接して来たことで

 

チルノは無意識にそれを学んでいた。

 

エーリを抱き寄せて背中を擦る。

 

 

 

凍てつく部屋で少女の泣く声が響く。

 

 

 

 

 

エーリ

「…チルノ…わたし…

 あなたにおねがいがあるの。」

 

チルノ

「おう! アタイが

 ちゃちゃっと解決してやる!」

 

エーリ

「…そんなに簡単にいかないかも…

 それにここを出たらあなたは

 わたしのことを忘れてしまうし…」

 

チルノ

「大丈夫だって、

 アタイ天才だからな。忘れないよ。」

 

エーリ

「天才でもむずかしいかも…」

 

チルノ

「天才のアタイでも難しいだと?

 そう言われると逆に燃えてきたぜ!」

 

チルノはエーリの頼みに

 

期待を寄せる。

 

エーリ

「            」

 

しかしその頼みの内容を耳にした

 

チルノは動揺し、狼狽える。

 

チルノ

「エーリ? 何を言ってる?」

 

エーリ

「お別れだね…チルノ…」

 

エーリはチルノに向けて

 

不器用ながら精一杯の笑顔を作る。

 

その時、静まりかえっていた

 

氷の部屋が騒音を立てながら

 

崩壊を始める。

 

チルノ

「エーリ…だめだ…

 アタイの傍に居ろよ!」

 

チルノは必死に手を伸ばすが、

 

何かの力に引っ張られて

 

エーリから離れていってしまう。

 

チルノ

「くっ! エーリ!」

 

チルノはまとわりつく

 

力を振り払おうと

 

エーリの方へ全力で走るが

 

距離は開いていくばかり。

 

チルノ

「やらないからなッ!!

 そんな頼み…

 絶対やってやるもんかッ!!」

 

チルノの言葉は届いたのかどうか。

 

エーリはただ、

 

チルノを笑顔で見送る。

 

チルノには見えていた。

 

その笑顔が偽りであることが。

 

その顔が再び濡れていたことが。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

チルノ

「………ん…」

 

外から小鳥の鳴く声が聞こえてくる。

 

身体が酷く重い。

 

大妖精

「…チルノちゃん…?」

 

傍らに大妖精が座っていた。

 

祈るように手を固く結んでいた。

 

チルノ

「…エーリ…」

 

手を前に伸ばしたまま、

 

チルノは涙を流し、

 

ある者の名前を呟く。

 

大妖精

「………」

 

大妖精はその名前を聞き、

 

酷く動揺していた。

 

チルノ

「あれ、アタイ…

 どうして泣いて…」

 

大妖精

「…大丈夫だよチルノちゃん。」

 

チルノ

「大ちゃん…」

 

大妖精はチルノを優しく抱きしめる。

 

胸の奥に感じる深い悲しみ。

 

その原因がわからず困惑するチルノを

 

大妖精はただただ慰める。

 

大妖精

「…」

 

彼女の表情が陰りを見せる中、

 

チルノは大妖精の腕の中で

 

説明のしようが無い想いを

 

涙で吐き出すのだった…

 

 

 

to be continued ~




【皆様お疲れ様です】
コロナとか相変わらずバタバタしていますが、私は元気にやってます(たぶん)。

今回はチルノと天子にフォーカスを当てた感じですね。幼かった頃の天子、チルノが夢の中で出会った謎の少女エーリ。動画の方と全然違うのは、そもそもえくすとらとして番外編にしようとしていたものをほんへにぶち込んでいるからです(白目)。自分の稚拙な文章を読み返してみると、番外に分類してたところに重要なところがとことん詰め込まれてたので、こちらでポンポン入れてます…動画の方にも入れたかったんですけど動画時間と制作にかかる労力を考慮して………お許しください…

プロローグからもわかると思いますが(というかそもそも二次創作ですが…)素晴らしい原作の東方projectとはかけ離れた設定かつ、世界観もぶっ飛んでいますので、苦手な方は無理せず、他の創作者様の作品をご覧になった方が数億倍、時間を有意義に使えます。

私の下らない話もそこそこで、今回もキャラについて書き書きします。

【にとりについて】
結構人見知り。自分よりも格下相手やあまり興味の無い相手だと口が悪くなったり…以前はもっと酷かったみたいですが、裂空異変で過去の自分を見つめ直して多少マシになった。って感じです。実はチルノ達に当たりが良いのは錬金術によって生まれたアイテムに興味があるからだったりします。もちろん、本に封じられた友の身を案じているからでもありますが…

【小鈴について】
かわいい、なんかこう健気で快活で幼くておっ(語彙力)

【阿求について】
今後のストーリーの鍵を握っている人物です。転生に関して映姫様と繋がりがありますが、今作の阿求は幻想郷縁起を書き上げる他に何やら重大な使命を持っているとか…小鈴とイチャイチャさせたい。ちなみに私は阿求をのじゃロリおじさんにしたいのです。したいのです…
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