チルノ&大ちゃんのアトリエ ~目覚めし幻想の錬金術士~ 作:すくすくAlma
動画派の方、読む際はご注意ください!
アリス
「あなたは心を失ったの。」
ルーネ
「………」
アリス
「あなたは
ヒトに畏れられ…
祀り上げられ…殺された…
ヒトのために働いて
ヒトのために自分を殺したのに
あなたは認められるどころか
畏怖の対象にされた…そうでしょう?」
ルーネは遺産をポケットにしまう。
アリス
「だからあなたは
ヒトを道具同然に扱うことに
何の違和感も持てなくなった…」
ルーネ
「アリス。」
アリスはルーネから
名前を呼ばれた瞬間、
恐怖と哀しみが同居した
不思議な感覚に襲われた。
彼女は無表情ではあった。
声も普段と何ら変わりない。
しかし、故に恐ろしい。
アリスは覚悟を決める。
ルーネ
「…君の言う通りさ。
私はヒトを殺すことも
錬金術の材料にすることも
あまつさえ、君をそうすることも
躊躇無く完遂出来るよ。」
アリス
「ええ、それはよくわかった。」
ルーネは窓に寄り、
外を眺める。
ルーネ
「だからアリス…」
アリス
「…何。」
ルーネ
「どうか私を見ていて欲しい。
君のような存在があれば…
私は自分を抑えられそうなんだ。」
ルーネがこちらを振り返る。
アリスは彼女と目を合わせ、
ゆっくりと頷いた。
アリス
「わかったわ。
あなたがわざわざ私に
こんな記憶を晒したのだもの。
私はあなたを信じる。」
ルーネ
「…アリス…ありが…」
その時だった。
ルーネの右手が激しく痙攣する。
ルーネ
「…早いな…」
アリス
「どうしたの?」
ルーネはアリスの問いには答えず、
腰に提げた刀を抜刀する。
音も無く、漆黒に染められた鞘から
血のように紅い刃が顔を出す。
アリス
「何をする気!?」
ルーネ
「いい機会だ。
決意を固めるための儀式さ…」
ルーネは壁に自分の右腕を
押し付け固定すると
刀の刃先を右腕の
ちょうど真ん中の辺りに突き刺す。
アリス
「ひっ!?」
アリスは咄嗟に目を瞑るが、
耳に届いた音は
肉を切り裂く音ではなく、
機械が軋む音だった。
アリス
「え…何?」
ルーネ
「…この腕には
『レッドタブレット』が
埋め込まれている…
本来はこの『身体』の
本当の主が造り上げたものだけど、
『敵』に信号を送ると同時に
私の身体への干渉が出来る優れものさ…」
アリス
「『敵』って
あなたを利用していた
大いなる母?」
ルーネ
「ああ…だから
ここで…破壊する…」
ルーネは何度も刀で
機械を突き刺す。
同時に肉が抉られていき、
白い肌に覆われていた
ルーネの右腕は
見るも無惨な姿となっていた。
アリス
「くっ…!」
アリスは見るに耐えず
目を逸らす。
その刹那に音は鳴り止んだ。
ルーネ
「…終わったよ…」
アリスが恐る恐る視線を
戻すとルーネは
アリスには見えないように
右腕を左手で隠す。
ルーネ
「すまないね…
見苦しいものを見せた…」
アリス
「いいの…それより
もう大丈夫なの?」
ルーネ
「『レッドタブレット』は
機能を停止した。
もう大いなる母がこの腕に
干渉することはないよ。」
アリス
「そう…ちょっと待ってて!
救急箱持ってくるから!」
アリスは早足で別の部屋へと
姿を消す。
ルーネ
「ありがとうアリス…
君は本当に…
良い魔法使いだな…」
アリスに右腕を縫われながら
ルーネはアリスの手元を
興味深そうに見ていた。
アリス
「顔色一つ変えないのね。」
ルーネ
「痛みには飽きてしまってね。
この『身体』はヒトに
寄せてるから痛覚まで
そのまんまなんだけど…」
アリス
「痛みがあろうが無かろうが
あんな無茶をするなんて…」
ルーネ
「すまない。
アリスを傷つけたくなかった…」
アリス
「…そう…でも…
自分をもっと大切にしなさい。」
ルーネ
「ああ、善処するよ。
それにしても、流石は人形を
作っているだけあって
縫うのもお手のものだね。」
アリス
「こんな裁縫は
したことないけれど。」
ルーネ
「…」
アリスの手でルーネの
右腕に開いていた傷口は
無事に塞がれた。
ルーネ
「ありがとう、後は自然に
塞がるのを祈るよ。」
アリス
「それで、これどうするの?」
アリスは机の上に置かれた
血塗れの機械を指し示す。
ルーネ
「もう二度と起動は
しないだろうけど、
一応念のため、
粉砕しておくよ。」
アリス
「粉砕って…
一応聞くけどどうやって?」
ルーネ
「そのための左手…」
アリス
「素手かよ…」
ルーネはここぞとばかりに
無傷の左手を誇張する。
アリス
「また縫わなきゃいけなく
なりそうだからやめてね。」
ルーネ
「む…わかったよ。」
渋々アリスに従い
大きめの石を外で拾い
叩き潰すことになった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
魔理沙
「んで?
その『レッドタブレット』は
どうなったんだよ。」
アリス
「粉々になるまで
ルーネがボコボコに殴ったわ。
もう使い物にならないと思う。」
魔理沙
「そっか…
古代の遺産でアリスが見た記憶…
『敵』の正体はわかったのか?」
アリス
「ええ、大いなる母…
そう呼ばれている存在が
幻想郷と外界で
起こっている事象を
監視したり干渉しているの。」
魔理沙
「おいおいそいつは
信仰が厚い神なのか?
スケールがデカいな。」
アリス
「ええ…私も驚いたわ…
賢者達も存在を
知っていそうなものだけれど…」
魔理沙
「ん…? 待てよ…
そんな奴が消えたら
どうなっちまうんだ?」
アリス
「それは…世界の均衡が崩れて
大惨事になるかもしれないわね…」
魔理沙
「大いなる母ってやつが
どんな奴かこの目で見ねぇと
信用ならんな。どこに居るのか…」
アリス
「ルーネが言うには天界の頂点に
居座っていて今は不在だとか…」
魔理沙
「天界? つーことは
天子や衣玖の方が詳しいか。でも
今は聞ける状況じゃ無さそうだしな…」
魔理沙は大きなため息をつく。
アリス
「私たちも無意識のうちに
大いなる母の人形にされてる…
ルーネはその状況を覆したいのよ。」
魔理沙
「………まさか…」
アリス
「え?」
魔理沙
「『裂空異変』で
私たちを操ってたのは…」
魔理沙は突然、机を叩いて立ち上がる。
アリス
「ま、魔理沙!?」
魔理沙
「すまないアリス。」
魔理沙は胸の奥から
湧き上がる衝動に駆られ、
壁に立て掛けておいた箒を取る。
アリス
「魔理沙! 無理だけはしないでよ?」
魔理沙
「…わかってる。」
アリスの声に
一瞬立ち止まる魔理沙だったが、
玄関の扉を開き出ていってしまう。
アリス
「…魔理沙…」
アリスは窓から箒で彼方へと飛び去る
魔理沙を見送ることしか出来なかった。
彼女の背中に向かって伸ばした手は
酷く震えていた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
博麗神社、
縁側でお茶を啜る霊夢のもとへ
ルーネがやってきた。
霊夢
「…また来たのね。」
ルーネ
「ええ…気になりますからね、
あなたに後々動かれると
こちらも面倒ですから。」
霊夢
「へぇ、なんで
私が動くと思ったの?」
ルーネ
「なんでと聞かれましても、
あなたはそうでは無いのですか?
異変を解決するのが
巫女の仕事では?」
霊夢
「まぁ…そうね。
いままでもそうだし、
これからもそう。
だからあんたが異変を起こそう
って思ってんなら、
今ここでやる。」
ルーネは手に持った大きめの袋を
前に突き出す。
ルーネ
「よろしければ
団子一緒に食べます?
面白い話が出来そうなので。」
霊夢
「………こっちよ。」
霊夢は立ち上がり、
奥の居間へとルーネを歓迎した。
霊夢
「んで、単刀直入に聞くけど、
ほんとの目的は何よ。」
ルーネ
「本当の目的ですか。
『復讐』、これだけです。」
霊夢
「具体的に教えて欲しいもんだわ。
私、博麗の巫女なんだけど?」
ルーネ
「…はは…食えない人だ…」
霊夢は至って無表情で、
次々と積み上げられた団子を
ほおばっていく。
ルーネ
「大いなる母はこの幻想郷を利用して
アルス=マグナを起こす実験を
行おうとしているんです。
材料は、住人である存在全て。」
霊夢
「…」
ルーネ
「私はそれを引き起こすトリガー。
世界を黒に染める役割を持っている。」
霊夢
「紫から聞いてたけど、
あんたはどうして大いなる母に
逆らおうとしてるわけ? 動機は?」
ルーネ
「それは言えませんね。
今のフェイズでは。
現状、反逆には当たりませんし。」
霊夢
「ふーん…
ま、私は大いなる母だとか
あんた達には興味無いから、
迷惑になるようなら
ぶっ飛ばすだけよ。」
ルーネ
「出来れば、その調子で
大いなる母を倒してくだされば
こちらとしても
大変助かるんですがね。
あなたにその素質があればの話ですが。」
霊夢
「…喧嘩売ってるの?」
霊夢は目を細め、
ルーネを睨みつける。
ルーネ
「まさか…」
しかしルーネは動じず、
にこりと微笑む。
霊夢
「腹の探り合いね。
あんたが本性出さないなら
私も込み入った話を
する気なんて起きないわ。」
ルーネ
「そうですか、
機密事項を晒したのですがね。」
霊夢
「錬金術だかなんだか知らないけど
私は面倒なヤツは嫌いなの。
特にあんたみたいな
表面上だけ良い面してるヤツはね。」
ルーネ
「………ほう…何故そう思います?」
霊夢
「勘よ。」
ルーネ
「ならばあなたは
相当良い勘をお持ちだ。博麗の血を
引いてるからかもしれませんが。」
霊夢
「正直に話してくれれば、
あんたの『復讐』に
手を貸してやってもよかったけど。」
ルーネ
「楽園の素敵な巫女様が
こんな悪党に手を貸して良いんです?」
霊夢
「正義とか悪とか
自分の行動を正当化する根拠に
したいだけでしょ。
屁理屈こねるのは自由だけど
巫女だからとか変な理由付けて
人の行動を縛り付けないで欲しいわ。」
ルーネ
「違いない。
好きですよ、あなたのような人。」
山のように積み上げられていた団子が
いつの間にか消えていた。
霊夢
「話したいなら追加ね。」
ルーネ
「いいでしょう、ではまた来ますよ。」
ルーネはゴミを持ち、居間から出ていく。
霊夢
「………」
霊夢は沈黙の中、感慨に浸る。
霊夢
(大いなる母…ねぇ…
そんなのもあったかしら。)
霊夢がまだ幼い頃、
修行と並行し、
宗教について触れる機会があった。
博麗神社の数少ない
蔵書の一部の内容を思い返す。
遥か太古に存在した大国。
そこで神に仕える御神子が居た。
礼装に身を包み、
時には政治を担っていたと云う。
人々は神を崇め、
それに仕える御神子も同様、
女王として崇められるようになった。
しかし霊夢には
気になる情報があった。
大国の御神子が仕えていた神と
同等の存在として扱われていた
『白き御神子』の存在。
伝説や言い伝えであり、
ほんの一部でしかその言葉は
記されていなかったが、
神に仕えていた御神子の母にあたる
存在として
同じく崇められていたようだ。
その中で『大いなる母』という
呼称もあったと蔵書にあった。
霊夢
「伝説ねぇ…
そういうのは興味無いし、
信じても無いんだけど。」
とは呟いてみるものの、
ルーネの口から出た
同名の存在が気に掛かる。
霊夢
(ハッタリかましてる
ってわけでも無さそうだし…)
居間を抜け裏口から出る。
本殿の背にある
蔵の戸をピシャリと開ける。
霊夢
「どーこやったかしらねー」
蔵の中には宴会道具や、
祭事に使う備品、
霊夢の個人的な私物を含め、
様々な物が置かれている。
霊夢
「はぁー…めんどくさ…」
大きなため息を漏らす霊夢。
普段から出し入れしている
物であれば問題無いのだが、
今回探している書物は
少なくとも十年に近い期間、
一切触れていないのである。
恐らく埃が被っているだろうし、
そもそも場所がわからない。
霊夢
「今から大掃除ってのもねぇ?」
もちろんそんな気力は無い。
めんどくさい。
霊夢
「…仕方ない…アレで探すか…」
霊夢は目を瞑り、
気を高める。
霊夢
(たぶんうちの一族が
皆触ってるでしょうし
そのおかげで念が
込められてるはず…)
かつて読んでいた書物は
博麗の巫女に代々伝わるもの。
つまり、霊夢だけでなく
前の世代が
手にとっていた可能性が高い。
あらゆる存在は生きている間
念という霊気の一種を
持ち合わせており、
念は他の存在、物、場所など
様々なものへと移る。
例えばある職人が
工芸品を造った時、
その職人特有の念が
工芸品に染み移る。
霊夢のように念を
感知出来るのであれば、
その工芸品が誰が造ったのか
判断することも可能だ。
つまり博麗の巫女に
代々伝わる書物ということならば、
博麗の巫女が発する特有の念
だけに集中すれば
見つけ出すことが
出来るという算段だ。
幸い、蔵に置かれた備品は
宴会などで利用されるものが
ほとんどであり、
霊夢や巫女だけが
触れるものではない。
祭具も妖怪などに
運ばせたことがあるので、
書物を探す弊害にはならない。
霊夢
「…あー…そこね…」
霊夢は蔵の奥へ入り、
古びた棚の一番下の段に
置かれた書物に視線を向ける。
長らく出されなかった為か
埃が被っている。
霊夢
「うわぁ…なんかやだわ…」
霊夢は嫌がりつつも、
そこにあった書物を全て抱え、
近くにある作業台の上に
乱暴に置く。
霊夢
「けほっ!
そんなに出して無かったかしら…」
はたき棒を持ってきて
本の表紙に被った埃を払う。
霊夢
「ふんふん…巫女の務め上下…
幻想郷冒険録…
はぁ? なにこれ…」
書物の中には
外界の者が幻想郷に
迷い込んだ際に
持ち込んで来た物もあった。
霊夢
「うーんもっとこう…
埃被ってるくらいだから
ちゃんとしたもんは無いわけ?」
半分は表紙を確認し終わったが、
今のところ、探している書物には
出会えていない。
作業台に置かれた書物は
代々の巫女が読み漁ったらしく、
書物を特定するのは難しいようだ。
霊夢
「にしてもよくもまぁ
こんな変なもんを
由緒正しい家に
置いてたもんよねぇ。」
霊夢の言う通り、
どう考えても博麗には
関係無さそうなものや、
誰かの趣味で
集められたようなものまで
様々な書物がある。
先代より前の世代が
遺したものだろうか。
霊夢にとって博麗は
曲がりなりにも、
お堅いイメージがある。
霊夢
「ま、こいつらは後で
読むなりなんなり…
歴史に関するやつは…」
博麗のルーツに関わる書物は
作業台に積み上げた書物群の
一番下に位置していた。
霊夢
「なんでこういうのって
途中とかじゃなくて
一番最後に出てくるのかしらね…」
ぶつぶつと文句を言いつつ、
軽く埃をはたいて表紙を開く。
霊夢
「ビンゴって感じね…」
『御神子縁起』
古びた書物の表紙には
そう書かれていた。
霊夢
「ご先祖様がどーたらこーたら…
どうでも良いんだけど…」
そう言いつつも目的の書物を
手に持ち、蔵を後にする。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
チルノ
「ルーミアの持ってきた本に
めっちゃ色々書いてあるぜ!」
大妖精
「これなら上達も早くなりそうだね!」
チルノ
「ありがとな! ルーミア!」
ルーミア
「礼には及ばない…」
大妖精
「そんなことないよ!
本当にありがとう!」
大妖精はルーミアの手を取り
自身の手で包み込む。
ルーミア
「お…!?」
ルーミアの顔が真っ赤に染まる。
チルノ
「あれ、ルーミアまた風邪か?
もしかして大ちゃんがうつし…」
ルーミア
「うるさいばか!」
チルノ
「なんだとコラー!」
大妖精
「あはは…ルーミアちゃんったら…」
ずっと
ずっと
こんな日々が続けば良いと
思っていたのに。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
大妖精
「………主様…」
遠い昔、仕える主を失って
気が遠くなるほどの時間が過ぎた頃。
私は森の中を目的も無く
ふらふらと彷徨っていた。
「いずれ会うことになる。」
その言葉を受け、
私は妖精として生き続けてきた。
そんなある日、
私の前に人形が現れた。
ううん…
「私が見つけた」
と言った方が正しいのかもしれない。
まるで氷を体現したその様は
主様の生き写しだと確信した。
大妖精
「主様!」
しかし私の期待は簡単に裏切られた。
チルノ
「…なんだおまえ…」
妖精は肉体という概念を持たない。
元素や霊気の集合体であって
厳密にはヒトのように
定まった身体ではない。
それでも私やこの人形が
限りなくヒトに近い形を
保っているのには理由がある。
主様が妖精の基礎構造を分解し、
違った形で再構築したからだ。
大まかに言えば
一度、魂と元素、霊気に分解し、
元素と霊気を練り固める形で
肉体を形成。
その中に魂を入れ妖精として
新たに誕生させた。
つまり今まで様々な要素の
集合体であった妖精を
ヒトに近い構造に
造り変えたということだ。
そして目の前の人形は
肉体こそ主様そのものだが
魂は主様ではなかった。
私にはこの人形は主様によって
造られたものだとすぐに気づいた。
「いずれ会うことになる」
この言葉から導き出した答えは
大妖精
(主様の帰る場所…)
私はこの人形を守ると心に誓った。
なんと罪深い
この人形は主様のお姿で
汚い言葉を吐き
脳の無い行動をひけらかしている。
しかし主様の大事なお身体に
傷をつけるわけにもいかない。
表面も、心もだ。
だから私はこの無能の為に
心を殺し…
殺し…
殺し…
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
夜の帳が下りた。
大妖精は独り
森の中を彷徨う。
大妖精
「………」
どうしてこんなに胸が痛いのだろう。
息が出来ないほど苦しい。
身体中が痒い。
近くの木に寄りかかり
映姫との会話を思い返す。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
映姫
「あなたに命が下った…
『シナリオを次のフェーズへ』と。」
大妖精
「…ついに時が来てしまったのですね。」
映姫
「個人の私情を
挟むつもりはありませんでしたが
大妖精、あなたに伝えたい事があります。」
大妖精
「…?」
映姫
「大いなる母に掛け合ってみた所、
この命に強制力はありません。
あなたがご自身で判断して良いとの事です。」
大妖精
「…!?」
映姫
「生きる者には皆、権利があるはずです。
選択する権利…チルノと一緒に居たい。
あなたがそう思うのならば
あなたにはその権利がある。」
大妖精
「映姫さん…私は…」
映姫
「恐らく私は間違っています。
今あなたに伝えている事は
正しいことでは無いのでしょう。
それでも私は伝えたかった…」
大妖精
「………ありがとうございます。
もう少し…考えてから結論を出します。」
映姫はその言葉を聞き
一度深呼吸する。
映姫
「わかりました。
どちらに進んでも私は
あなたを否定する気はありません。
どうか後悔の無きように…」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
大妖精
「…決めたのに…どうして…」
涙が零れ落ちる。
いつからだろう。
主様と彼女に対する優先度が
等しくなったのは…
愚かな人形。
主様と比べるまでも無く
出来損ないの人形。
そう思っていたのに…
どうして心が満たされたのか?
彼女の笑顔…
奥底に潜む優しさ…
主様には無かったものが
彼女には備わっていたからか。
その答えを知る為の時間は
もう残っていない。
永遠に続くと思っていた
時間が遂に終わる。
大妖精
「チルノちゃん…ルーミアちゃん…」
不思議だった。
主様ではなく
人形の顔が浮かぶなんて…
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
チルノ
「へっへっへ!
今日こそは痛い目見てもらうからな!」
大妖精
「…」
この人形は相変わらず
私に絡んでくる。
控えめに言って目障りだったが
主様の為に付き合っていた。
ろくな知性も与えられていない
そこらに居る妖精と変わりない
この人形が私に敵うはずもない。
チルノ
「げっなんでわかったんだ…?」
チルノ
「くっそー!
明日は引っかかってもらうからな!」
チルノ
「ばかな!? 避けた!?」
子供騙しの罠…
くだらないお遊びに付き合うのも
一苦労だった。
慢心だった。
いや、情けだったのか?
一度だけ彼女の罠に掛かった。
落とし穴。
落ち葉に紛れて仕込まれたものだが
空間把握能力を駆使すれば
引っかかることはまずなかった。
でも私は穴に落ちた。
チルノ
「…!? おい大丈夫か!?」
彼女の反応に私は言葉を失った。
獲物の心配をするハンターが
どこにいるだろうか?
チルノ
「掴め! 今引っ張り出してやるからな!」
思考が止まっていたからか
あまりに不可思議な出来事に
混乱していたからなのか…
私は彼女の差し伸べた手を握った。
その日、私は彼女に対して興味が沸いて
彼女の傍に居る事を決めた。
チルノ
「名前ぇ? アタイはチルノってんだ。
誰しもが恐れおののく妖精だぜ?」
自信過剰な彼女は
傲慢な性格かと思えば
周囲を蔑んだり見下す事はほとんどない。
自分が力を持つ存在だと思い込んでいる故に
その力で周囲を助けようとするのだ。
無意識に。
酷く虫唾が走った。
この人形に主様の影を見たからだ。
しかし私が抱いた怒りという感情は
全く別の…憐れみ…
説明の出来ないもので
塗り替えられていった。
チルノ
「名前が無い!?
えー…じゃあなんて呼べばいいか…」
チルノ
「じゃあ他の妖精より
強いから…つようせい!」
彼女は阿呆だ。
チルノ
「え、だめ?
うーん…なんかすごい妖精。」
だが、
チルノ
「おし!
アタイよりちょっと大きいから
大きい妖精なんてどうだ!?
あ、でも大きくたって
強いのはアタイなんだからな!」
大妖精
「大きいだと変だから
『だい』って読んで
大妖精…なんてどう?」
チルノ
「おお! それだ!!」
退屈はしない。
むしろ何かが満たされている気がした。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
日が傾き始めた頃。
大妖精が霧雨魔法店から姿を消した事に
気づいたのはルーミアだった。
ルーミア
「…?」
大妖精はどこかに行く時は
必ず自分達に一声掛けていく。
ルーミアは屋内、屋外ともに
くまなく探したが
ついに大妖精の姿を
見つける事は叶わなかった。
ルーミア
「チルノ!」
チルノ
「お、おおっとっとっと!?」
ルーミアに大声を出され
錬金釜をかき混ぜていたチルノは
態勢を崩しかけ、よろける。
チルノ
「なんだよー?」
ルーミア
「大ちゃんが居ない!」
チルノ
「…!」
大妖精が傍に居ない。
その事実に今の今まで
気づかなかった自分自身に
チルノは驚いていた。
周辺や人里、紅魔館にも行き
大妖精の姿を二人で探した。
パチュリー
「見てないわ。
いつも一緒ではなかったの?」
ルーミア
「何も言わずに消えた…」
パチュリー
「…もし来たらあなた達の
元に連れて行くわ。」
チルノ
「ありがとぱっちゅりー! またな!」
ルーミア
「ま、待って!」
勢い良く図書館から出ていくチルノを
ルーミアは追いかける。
その様子を見ながら
パチュリーは目を細める。
パチュリー
「何か妙な胸騒ぎがするわね…」
にとり
「こっちの方は確認してないよ。
山の方は私に任せてくれ。」
ルーミア
「助かる。」
チルノ
「おし! ルーミア! 戻るぞ!」
必死の形相で来た道を戻っていくチルノ。
にとり
「何事も無ければいいけど…」
ルーミア
「…」
ルーミアは無言で頷く。
気づいていた。
先日から大妖精の様子がおかしい事に。
チルノとルーミアが騒いでいると
収めようと割って入る事が
いつもの動きだった。
だが黙って見ているだけという姿が
ほとんどになっていた。
チルノ
「大ちゃーん! どこいったんだー!」
ルーミア
「チルノ。」
チルノ
「どうしたルーミア!
大ちゃん見つかったのか!?」
ルーミア
「大ちゃんは私達を
嫌いになったのかも…」
チルノ
「な!?」
その結論に至る。
当然の事だった。
チルノとルーミアのやり取りに
飽きたか愛想を尽かした…
それか面倒になった。
このように考えるのは自然だ。
傍から見ればそうにしか見えない。
チルノ
「何言ってんだルーミア!」
ルーミア
「最近大ちゃんは
私達を見てるだけだった!」
チルノ
「そんなの!…そんなの…」
チルノも今になって気づく。
確かにルーミアの言う通り
大妖精の様子はおかしかった。
いつも通りだと言うのなら
自分達のやり取りに
「二人ともそこまでっ!」
「もう喧嘩はだめー!」
とか言って割り込んでくる。
チルノ
「会って見なきゃわかんないだろ!?」
ルーミア
「う…」
本当にそうなのか。
大妖精を見つけ、問いただすしかない。
チルノ
「とにかくもう一回探すぞ!
戻ってるかもしんないしな!」
ルーミア
「…うん…」
しかし日が落ち周囲が暗闇に包まれても
大妖精は見つからなかった。
ルーミア
「チルノ…」
チルノ
「ど、どうしたルーミア?」
ルーミア
「一旦、魔理沙とアリスに相談しよう…
私達だけじゃ見つけられないぞ…」
チルノ
「そんなのわかってるよ!」
チルノは焦りからか
大声を発してしまう。
チルノ
「ぜぇ…はぁ…」
ルーミア
「…霧雨魔法店に戻ろう。」
チルノ
「戻りたいなら一人で戻ればいいよ…
アタイは大ちゃんが
見つかるまで戻らないぞ…」
ルーミア
「だから…」
「おやおや、どうしたのかな?」
ルーミアの言葉を遮る一声。
その声の主はチルノの背後に陣取り、
肩を掴む。
チルノ
「あ…お姉さん!」
ルーミア
「…!?」
そこにはチルノと黒い本を探した
黒服の少女の姿があった。
ルーミア
「…あなたは…」
ルーネ
「…やぁ、何時ぞやの妖怪ちゃん。」
ルーミア
「あ…あの…」
チルノ
「なんだルーミア、
知り合いだったのか?」
ルーミア
「知り合いというか…」
ルーネ
「まぁそれは置いといて、
チルノちゃん…
なにやら酷く焦っているみたいだけど」
チルノ
「そうだ! 大ちゃんが消えたんだよ!」
チルノはルーネへ必死に訴える。
ルーネ
「大ちゃんって、
この前言っていたあの大ちゃん?」
チルノ
「そうそう!
でもどこにも居なくて…」
ルーネ
「なるほどそうか…
ふーむ…あっちかな?」
一度考え込むような仕草をして
指で方向を示すルーネ。
チルノ
「わかるの!?」
ルーネ
「勘だよ。」
ルーミア
「え、それ大丈夫なのか…?」
ルーネ
「勘というものは素晴らしいよ。
神経を最大限尖らせ」
チルノ
「あっちだな!」
ルーネの示した方向へ
一目散に飛んでいくチルノ。
ルーミア
「あ、ちょ…」
ルーネ
「ああそうか、君がチルノちゃんが
話していたルーミアちゃんだね。」
ルーミア
「え…う、うん。」
ルーネ
「私はルーネ。
趣味で錬金術士をやっている者だ。」
ルーミア
「錬金術士だったのか…
じゃあもしかして…」
ルーネ
「あの時君に食わせたのも
錬金術で創り出したものさ。」
ルーミア
「その…いろいろありがとう…」
ルーミアは恥じらいつつ
礼を口にする。
ルーネ
「礼には及ばない。
『彼女』と仲良くしてくれて
むしろこっちが感謝しているよ。」
ルーミア
「え…?」
チルノ
「おーい! 二人とも早くー!!」
ルーネ
「おや、いつの間にか
私も行くことになっていた…
行こうか、ルーミアちゃん。」
ルーミア
「え、あ…うん。」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ルーネが示した方向へ
しばらく森の中を進むと
突然目の前に謎の影が降りてきた。
チルノ
「うわお!?」
ルーネ
「ん…?」
「いやはやこんな時間に
急いでどうされたんですか?」
赤い瞳、黒いセミロング…
白い半袖のシャツと黒いミニスカに
身を包んだ女性…
「異変であればこの射命丸に
ぜひとも取材させてください!」
彼女は射命丸 文。
幻想郷では天狗と呼ばれる種族に属し、
高位の妖怪である。
チルノ
「げっ…今それどころじゃねーんだ!」
ルーミア
(タイミングが悪すぎる…)
文
「そう言わずにお願いしますよ~」
ルーネ
「ああ、それなら私が受けますよ。」
文
「え、あなたには聞いてないんですけど…」
ルーネ
「見ての通り、
チルノちゃんは今大忙しでして…
通してあげてくれませんか?」
チルノ
「そ、そーだ!
おまえに構ってるひまはねぇ!」
チルノは文の横を通り抜けて
走り去ってしまう。
文
「ええ…いつもなら
自信満々に受けてくれるのにな…」
ルーネ
「スクープにはなりませんよ。
たかが妖精の戯れ…
それよりも面白い話があります。」
文
「おっと聞き捨てなりませんね。」
ルーネ
「ルーミアちゃん、
チルノちゃんの事を頼んだよ。」
ルーミア
「うん…!」
ルーミアはチルノを追いかける。
文
「それで、面白い話とは?」
ルーネ
「ほら、あなたの…
なんだろう…同僚? 友達?
わかりませんがその方が
天界でえらい目にあったと
お聞きしたのですが。
それについてです…」
文
「ほう…?」
ルーネの言葉に表情を変える文。
文
「少し興味が沸いたわ…あなたにね…」
ルーネ
「それは良かった。
あ、団子食べます?」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
チルノ
「はぁ…はぁ…あ! 大ちゃん!!」
ルーミア
「本当に居た…!」
森の奥地、
周囲は月の光すら届かぬ暗闇。
その中で唯一光が差し込む場所がある。
夜空が見えるその場所で
大妖精は地面に座り込み
手を固く結んで祈っていた。
チルノ
「大ちゃん!」
大妖精
「…!」
チルノの声を聞き
顔を上げる大妖精。
チルノとルーミアは
大妖精に向かって動き出す。
大妖精
「来ないで!!」
チルノ
「え…」
ルーミア
「!?」
悲痛な叫びだった。
思わず二人は足を止める。
大妖精
「もうイヤなの!
チルノちゃん達と一緒に居るのは!」
チルノ
「大…ちゃん…?」
ルーミアの予想していた答えが
大妖精の口から発せられた。
チルノはその衝撃で固まる。
大妖精
「今すぐどっか行って!
見たくも無い…!」
ルーミア
「…大ちゃん…」
チルノ
「納得出来るかっ!」
ルーミア
「…!?」
チルノは一歩前に踏み出し
大妖精に叫ぶ。
チルノ
「アタイは…なんと言われようが
大ちゃんとは離れないからな!」
大妖精
「…うるさい…
うるさいうるさいうるさい!
私はもうチルノちゃんの
声なんて聞きたくない!
顔すら見たくない!
いたずらに振り回されるのもやだ!」
チルノ
「………」
大妖精
「もうわかったでしょ!?
私は独りでいたいの!
チルノちゃんとは
一緒に居たくないの!」
チルノ
「わかったよ、大ちゃん。」
ルーミア
「チ…チルノ…?」
チルノ
「アタイはいつも大ちゃんに
迷惑を掛けてた。
それはわかってたよ…」
大妖精
「なら…!」
チルノ
「でもっ…!」
チルノの足元が凍る。
チルノ
「アタイは独りじゃ何も出来ない。
誰かを助けることも
錬金術もいたずらだって。」
ルーミア
「………」
チルノの頬に伝う涙を
ルーミアは見逃さなかった。
チルノ
「アタイはさ…こんなんだから
大ちゃん以外と上手くいかなくて…
見つけてくれなかったら
きっと独りだった。」
チルノの肩に
ルーミアが手をそっと添える。
チルノ
「…でもさ…アタイだけじゃ
何にもできない…
こんなアタイだけど
大ちゃんが居てくれたから
いろんなヤツに出会えた。」
大妖精
「………だから…?」
チルノ
「大ちゃん…お願い…
アタイと一緒に居て欲しい…
大ちゃんの嫌だって思う所…
がんばって直すから…」
大妖精
(嫌なんかじゃない…
わかってる…けど…だけど…!)
チルノ
「お願いだよ大ちゃん!
アタイの所に戻って来て!」
距離は空いている。
それでもチルノは手を伸ばす。
握ってくれることを信じて。
大妖精
「チルノちゃん。」
チルノ
「………」
二人はお互いに目を合わせる。
大妖精
「
次の瞬間、三人が居る場所の地面に亀裂が
入っていき白い光が溢れ出す。
チルノ
「なんだ!?」
ルーミア
「まずい予感がするっ!」
ルーミアはチルノの肩を引っ張り退かせる。
大きな揺れと共に
白い光は森を覆う
枝葉を通り抜け
空に向かって伸びる。
上空から見ると
大妖精の居る場所を起点として
広範囲に錬成陣のようなものが描かれている。
チルノ
「ルーミアはなせぇ!!」
ルーミア
「放さない! この光に当たったら…」
ルーミアが白い光を危険だと
判断した理由、
それは本能によるものとしか
説明しようがない。
チルノ
「でも大ちゃんが!」
大妖精は陣の中心で
落ち着いた様子で空を見上げていた。
チルノ
「大ちゃん! だめ…行かないで!」
必死に手を伸ばすが
大妖精は動かない。
ルーミアはチルノを行かせまいと
必死に抑える。
大妖精
「………」
綺麗
満天の星空
???
「星空…か…」
大妖精
「はい、この景色…
私大好きなので。」
???
「不思議なものだ。
星芒が散りばめられただけの
一枚絵に過ぎぬ。」
大妖精
「お気に召さなかったでしょうか…」
???
「否、星彩如きで心動くのは何故か…
解き明かしてみたくなった。」
大妖精
「本当ですか!
ではまた…共にここへ参りましょう。」
そう…ここはあの約束の場所…
もう果たす事は叶わないけれど…
チルノ
「大ちゃんありがとう!
また一緒に見ようね!」
大妖精
「…!」
そっか…他にも約束…
してたっけ…
ルーネ
「君は本当に…不器用だね。」
大妖精
「…!?」
大妖精の真後ろに人影が在った。
大妖精
「何故…ここに…」
ルーネ
「アリス。」
次の瞬間、
周囲の白い光が歪み
揺れが収まり始めた。
大妖精
「何をする気ですか!?」
ルーネの背から黒い糸が
四方八方へと展開される。
霊気で構築されたそれは
木々を避けながら
伸びていき、
大妖精を起点にしていた
錬成陣の範囲を網羅する。
大妖精は遠くで巧みに黒糸を…
ルーネを操作する
アリスの姿を視界に捉えた。
黒糸が錬成陣から立ち昇る
白い光を貫き、遮る。
大妖精
「やめて…」
錬成陣は光を失い
遂に見えなくなってしまう。
大妖精
「どうして…!」
ルーネ
「迷いのある者が
こんな大規模な錬金術を
行えばどうなるか…
わかっているはずだ。」
大妖精
「…!」
ルーネ
「錬金術は術者の心象を
強く映し出す。
術者が不安定であれば
もちろん術もまともに発動しない。」
大妖精
「放っておいて
くれればよかったのに!!」
大妖精は後ろに振り向いて
ルーネに手をあげる。
しかし即座に反応され腕を掴まれる。
ルーネ
「…君は、無駄にしかけた。
チルノちゃんの想いも、
『彼女』の想いも、両方ともだ。」
大妖精
「くッ…」
チルノ
「大ちゃん!!」
程なくしてチルノとルーミアが
近づいてくる。
大妖精
「…チルノちゃん…
ルーミアちゃん…
私…私はッ…!」
ほろほろと涙が零れて止まらない。
ルーネ
「アリス、ありがとう。」
ルーネは大妖精の腕をそっと放し
アリスの元へ向かう。
チルノ
「もう大丈夫!
大丈夫だからな!」
大妖精を抱きしめる。
大妖精
「えぐ…どうして…
やだって言ったのにッ…」
チルノ
「そんなの関係無いよ!
言ったじゃん!
アタイには大ちゃんが
必要なんだって…」
大妖精
「…っ…そんなことないよ…
チルノちゃんは…もう…」
ルーミア
「このバカの面倒を
見切れるのは大ちゃんだけだ。」
大妖精
「ルーミアちゃん…」
ルーミアの瞳も潤んでいた。
ルーミア
「だから…居なくならないで…」
大妖精
「う…あぁ…」
三人は抱き合い
思う存分泣いた。
涙が枯れるほどに。
アリス
「あの錬成陣…
禁忌とされていた人体錬成…?」
ルーネ
「人体とまではいかないよ。
人形は創れるけどね。
とびっきり高性能な…」
アリス
「あの子を犠牲にして…か…」
ルーネ
「アリスが居てくれて助かったよ。
おかげさまで阻止できた。」
アリス
「いえ、私も感謝するわ。
あの子達が…
また三人で居られるのは
あなたのおかげだもの。」
ルーネ
「まるで保護者みたいだね。」
アリス
「…ふふ…教え子だからかしらね。」
三人の様子を
離れた位置から見ていた二人。
顔を見合わせ微笑んだその時だった。
水が凍りついた時に聞こえる音。
その異質な音に
最初に気づいたのはルーネだった。
次の瞬間、
ルーネの胴体から氷の棘が飛び出した。
血が噴き出る。
アリスの服に血が掛かった。
アリス
「…え?」
ルーネ
「おや…予想外だ…」
ルーネは胴体を貫かれた形だったが
動じる気配も無く
一方向に目を向ける。
そこにはチルノと似た風貌の少女が
こちらに向かって右手を
伸ばしていた。
アリス
「ルーネ! 身体が…!」
ルーネ
「落ち着いて、これくらいじゃ
この身体は落とせない。」
アリス
「でも…」
チルノ達も異変に気づき
こちらに合流する。
チルノ
「お姉さん!」
ルーネ
「大丈夫だ、何のことはない。」
ルーネは氷棘をへし折ると
突き刺さった残りの部分へ
手を当てる。
するとみるみるうちに溶けていき、
同時に傷が塞がった。
アリス
「え、なにその技術…」
ルーネ
「錬金術っぽいなんかすごい技。」
チルノ
「スゲー!」
ルーネ
「…大ちゃんどうやら
君のは成功されたみたいだ…
中途半端な形でね。」
大妖精
「…どういうことですか…?」
ルーネ
「君の大事な主様が
お目覚めになったということさ。」
大妖精
「そんなはずは…気配も…」
チルノと似た風貌の少女が
五人の前まで歩み寄り、
足を止める。
大妖精
「…まさか…あなたは…」
チルノ
「やい! なんだおまえ
アタイの真似しやがって
さてはアタイのファンだな!?」
ルーミア
「たぶんそれは無い。」
少女の瞳は
蒼く煌めき
その髪は水色で外にはねたロングで
チルノとは異なっている。
しかし服装は完全に一致していた。
「不愉快だ、不愉快極まりない。」
チルノと全く同じ声質の少女は
無表情でありながら
不機嫌である事を主張する。
アリス
「あなたがルーネを…?」
「如何にも、我の宿敵なる存在。
貴様から受けた借り、
この程度では清算されぬ。」
アリス
「…宿敵…あなたが…」
ルーネ
「大ちゃんが元々
失敗する事も計算に
入れていたか…」
ルーミア
「チルノのそっくりさん…
こいつは何者…?」
「我は『零王』。
大いなる母に随いし救世主。」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
遥か遠い過去
今は失われし高度な技術が
世の理を支配していた頃。
大いなる母は十の子を設け、
世界を十一の地域に分け隔て
それぞれ統治させたと云う。
十の子のうち
錬金術を極めた存在にして
十の子の統率者…
それが『零王』。
霊夢
「まさかとは思うけど…
そんな奴が復活
なんて洒落にならないわよ…」
霊夢は錬成陣が
見えた方向へ飛行していた。
異常な量の霊気が
一瞬にして放たれたのだ。
恐らく多くの住人が
それを感知したはず。
魔理沙
「霊夢!」
霊夢
「魔理沙?」
魔理沙
「天子を探してたんだが
今でけぇ光が見えてな。
お前も見に行くんだろ?」
霊夢
「ええ、ちょっと今回のは
見逃せないからね…
面倒くさいんだけど…」
二人は並んで飛びながら
チルノ達の元へ急ぐ。
霊夢は焦りと共に
胸騒ぎを感じていた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
チルノ
「れいおー?」
大妖精
「主…様が…」
チルノ
「え?」
ルーネ
「おはようエーリ、
寝覚めが悪かったみたいだが
早速この仕打ちは酷くないかい?」
零王は右手を下ろし、
腕を組むとルーネを睨みつけ
目を細める。
零王
「また貴様の戯言が聞けるとはな。
だが今の我には時間が無い。」
アリス
「時間? どういうこと?」
ルーネ
「彼女は大ちゃんが展開した
錬成陣を最大限に利用して
自分の魂を入れる
人形を構築したのさ。」
零王
「如何にも、不本意ながら
そこの人形を参考に
させてもらった。」
零王の視線がチルノへ移る。
チルノ
「え、アタイ?
やっぱ真似してんじゃねーかー!」
零王
「誰が望んで貴様などの
姿を模倣しようか。」
ルーミア
「…チルノが二人…」
ルーネ
「ま、でも無理矢理
構築したもんだから
そろそろ崩れちゃうってわけね。」
アリス
「魂だけの状態でいったいどうやって
あの錬成陣に干渉したの…?」
零王
「賭けではあった。
陣に近づかなければ
ならなかったからな。」
大妖精
「チルノちゃんが…」
チルノ
「お?」
ルーネ
「チルノちゃんが
錬成陣に近づいた時か。
大ちゃんをエサに…」
ルーミア
「どうしてチルノが関係あるのか?」
ルーネ
「彼女はチルノちゃんのリボンに
魂を封じられていたのさ。」
アリス
「何ですって?」
チルノ
「ええ、こいつに!?」
チルノはリボンに触れる。
零王
「劣悪な環境…
小娘を亡き者にしてやろうかと
何度考えた事か…」
ルーネ
「でもチルノちゃんが居なければ
リボンが移動出来ないからね。」
チルノ
「ってことはアタイを
乗り物にしてたんだな!」
零王
「如何にも、役には立った。」
チルノ
「このやろう…」
大妖精
「…主様…」
チルノ
「言っとくけど大ちゃんは
アタイのともだちだからな!
おまえの子分じゃないぞ!」
零王
「…」
零王はチルノと大妖精を
交互に見て
突然笑いだす。
零王
「友…友だと?
全く何をどう勘違いすれば
貴様のような発想が生まれるのだ。」
チルノ
「バカにしたな!
本当だからな!」
零王
「笑止! 人形同士
管理する者、される者の関係で
戯けた事を申すな。」
大妖精
「…主様、私はチルノちゃんを…
本当の友達だと思っています。」
大妖精は一歩前に出る。
大妖精
「確かに最初はチルノちゃんの事を
出来の悪い人形だと思っていました。
…頭悪いし…悪戯も下手だし…」
チルノ
「え、マジ…?」
大妖精
「…ごめんね…チルノちゃん…」
チルノ
「全然ゆるす!」
大妖精
「でも…チルノちゃんは
主様には無い良さがありました。」
零王
「貴様にそこまで言わしめる要素とは?」
大妖精
「彼女の魂そのものです。
チルノちゃんは呆れるほどお人好しで
困っている者を
放っておくことが出来ません。
自分の罠に掛けた相手に
助けの手を差し伸べるほどです。」
アリス
(え、それどういうことなの?)
ルーミア
(それは…バカじゃないか…)
大妖精
「だからこそ、彼女は痛みがわかる…
寄り添える心を持っているんです!」
零王
「…理解した。」
大妖精
「でしたら!」
零王
「貴様がこの人形に侵された事は
把握出来た…不良品から与えられた影響…
興味はあるが我に時は残されておらぬ。」
大妖精
「…主様…!」
その時、零王を起点とした
新たな錬成陣が展開される。
ルーネ
「…おっと…そう来たか…」
アリス
「何!? 何なの?」
ルーネ
「どうやら大ちゃんとチルノちゃんを
材料に完全な肉体を錬成する気だ。」
ルーミア
「…! させない!」
ルーミアは零王に向け光線を放つ。
しかし弾道が捻じ曲がり
外れてしまう。
ルーミア
「な…!?」
チルノ
「こっちはどうだ!」
チルノは零王の後方の地面から
氷棘を発生させるが
氷棘の先端が砕け散ってしまう。
チルノ
「げ…当たらねぇ!?」
零王
「…貴様らの力は
封じられている時間を使い
じっくりと計算させてもらった。」
アリス
「ルーネ! また陣を…」
ルーネ
「いや…
さっきみたいにはいかない。
彼女をどうにかしないと
止められないよ。」
アリス
「そんな…」
チルノ
「なら直接…ッ!」
チルノは手先に冷気を集中させ、
刃状の氷を生成する。
零王
「ほう、我にそのような愚物で
抗うと申すか…付き合ってやる。」
零王が指を鳴らすと
彼女の足元から身体ほどの大きさを誇る
氷の剣が現れた。
零王
「脆弱なその身体で
如何にして抗うか見させてもらおう。」
剣の柄を取り、構える。
チルノ
「いくぞ! アタイの本気…
おまえにぶつけてやるぜ!」
チルノの身体から冷気が放たれる。
両者が睨み合い
周囲の空気が凍り付いていく。
その様子を大妖精は
複雑な気持ちで見守っていた。
大妖精
(チルノちゃん…)
アリス
「私達は…」
ルーネ
「手出しは無用だろう。
チルノちゃんは勝つさ…」
アリス
「根拠は?」
ルーネ
「勘さ。」
ルーミア
「チルノ…」
零王
「…来い…心を得し人形よ…」
チルノ
「うおおおッ!!」
皆に見守られながら、
人形が主へと闘いを挑む。
己の想う者を守るために
星空の下で命を散らす。
依代として造られた人形。
それを見守ってきた人形。
彼女らはこの日、遂に妖精となった。
to be continued ~
【皆様お疲れ様です】
生きるのがつらいです(主に仕事で)
新たに現れた敵、果たしてチルノちゃんは勝てるんでしょうか。一応ですがEP4でチルノちゃんの夢の中に出てきた女の子と同一人物です。
動画作りたいけど圧倒的時間不足ゥ!
ちなみに今はモデリングとかしたり…
今回もキャラとかについて書き書きします。
【文について】
せっかく出たのに全然活躍できなかった…今後はバシバシ出てきますのでご安心を。一応こちらで補足しますと冥哭童ではたてが天界に行って大いなる母に記憶をぐちゃぐちゃにされており、ほぼ廃人みたいになっちゃってます。ルーネさんが言っていたのははたての事です。戻ってきたはたてに事情を聞くも答えは帰って来ず。なので独自で調査に乗り出しているみたいです。
【霊夢さんについて】
霊夢さんです。霊夢さんは霊夢さんです。色々と改変してるんですけど博麗の一族は今作で鍵を握る存在になってます。次回、暴れます(予告)
【零王(エーリ)について】
チルノに容姿がそっくりな女の子ですが、応急処置として一時的にチルノの身体を模倣しただけ…と言っていますが実は彼女の幼い姿そのものです。本当は年増…というより(ルーネさんも含め)ババァなのですが錬金術士って姿形とかあんま関係無い感じするし問題ナシ!(適当) 彼女の使う剣は『テュールン・フィング』という氷で出来た剣、クソデカです。取り回しが悪そうです…次回、暴れます(予告)
これくらいですかね…働かずに金が欲しい…こんな稚拙な作品に付き合ってもらっちゃって本当に申し訳ないです…皆様もお大事に…