チルノ&大ちゃんのアトリエ ~目覚めし幻想の錬金術士~ 作:すくすくAlma
動画派の方、読む際はご注意ください!
ガラスが割れる音に似た騒音が
空に鳴り響く。
チルノ
「くっ…おまえやるな!」
零王
「たかが人形風情が…
抵抗すれば痛苦が
増えるだけだとわからぬか。」
チルノ
「へっ! 大ちゃんを…
ともだちを守る為なら
アタイは痛いのなんか
気にしないからな!」
零王
「非合理的な判断だ。
到底理解出来ぬ。」
似通った二人だが
その実力は拮抗しているとは言い難く。
チルノは苦戦を強いられる。
零王の剣『テュールン・フィング』は
チルノの作り出した氷刃の
数倍の大きさを誇り、
刃が触れ合うたびに
重さから来る衝撃で
吹き飛ばされてしまう。
零王
「今の貴様にはそれが限界だ。
大人しく我が肉体の贄となれ。」
チルノ
「やだね! アタイはアタイが
認めたヤツしか助けてやらねー!」
零王
「笑わせるな、貴様に選択肢など
存在しない。あるのは
我が肉体の一部となる名誉だけよ。」
突然、零王が剣を
凄まじい速度で投擲してきた。
チルノ
「ぬぁ!?」
なんとか反応し、
氷刃で軌道を逸らしつつ
回避するがバランスを崩してしまう。
その一瞬の隙を狙い
零王はチルノとの距離を詰め、
首を掴み絞め上げる。
チルノ
「あぐッ…ぐ…るし…」
零王
「健闘した方だ。我が剣に数撃
耐えたのだからな…賞賛に値する。
チルノは暴れ、
どうにか零王の手を逃れようとするが
暴れれば暴れるほど
零王の絞める力が強くなっていく。
大妖精
「チルノちゃん!」
居ても立っても居られなくなった
大妖精は上空に飛び立ち、
二人の元へ向かう。
ルーミア
「大ちゃん!?」
大妖精を追い、
ルーミアも飛び立つ。
アリス
「…!」
アリスも向かおうとしたが
ルーネに腕を掴まれ
制止される。
アリス
「助けにいかなきゃ!」
ルーネ
「その必要は無さそうだよ。」
アリス
「何言って………!」
アリスはチルノ達の元へ
別の方向から向かってくる
二つの影を捉える。
巫女と魔法使い。
その二人は
既に臨戦態勢を整えていた。
零王
「…来たか。」
チルノ
「うぐぅ!?」
零王はチルノを
大妖精に向かって放り投げる。
大妖精
「あぅ…チルノちゃん大丈夫!?」
辛うじて投げられたチルノを
キャッチする。
チルノ
「大ちゃん…ごめ…げほ!」
ルーミア
「チルノ…」
ルーミアはチルノと大妖精を
庇うように零王の前に立ち塞がる。
零王
「…勇ましいな。
輓近の妖怪は皆そうなのか?」
ルーミア
「何?」
零王
「我々が見てきた妖とは
力こそあれど、
自身の身を顧みずに
仲間を守る者など居なかった。
自分自身が第一であったからな。」
ルーミア
「…別に…そんな
しっかりした意志があるわけじゃない。
ただ身体が勝手に動いているだけだぞ。」
零王
「意識的では無いか。
本能だとすれば俄然興味が沸いた。」
大妖精
「ルーミアちゃん!」
ルーミア
「無理はしない。
でも黙って見てられない…
そこのバカには
もう手を出させない…」
ルーミアは零王を
睨みつけるがその手は
震えていた。
零王
「…恐れる事は無い。
今の我には
相手をせねばならぬ者が居る。」
ルーミア
「…?」
零王はチルノ達とは
別の方角へと向き直る。
霊夢
「あんたがこの森に
でっかい模様を展開してるわけ?」
その先には霊夢と魔理沙が待機していた。
零王
「如何にも、この錬成陣は
我が肉体をより完璧な状態へと
再構築するためのもの。」
魔理沙
「錬金術士かこいつ…
気をつけろ霊夢。
一筋縄じゃいかないぜ。」
霊夢
「どうでもいいわ。
その身体…今にも崩れそうだし
退治するなら今がチャンスってわけね。」
零王
「ふん…流石は博麗の巫女か…
だが侮ってもらっては困るな。」
霊夢は大幣を手に取り構える。
霊夢
「知るか、あんたがなんだろうが
面倒な事起こそうってんなら
退治してやるまでのことよ。」
魔理沙
「要るか?」
霊夢
「要らない。」
魔理沙は霊夢から離れ
チルノ達の元へ飛んでくる。
魔理沙
「大丈夫か?」
大妖精
「魔理沙さん!
来てくれたんですね…!」
魔理沙
「悪ぃな…
ちょいと用事があって
来るのが遅れちまった。
チルノは大丈夫なのか?」
大妖精
「はい…
意識は朦朧としてますけど…」
ルーミア
「霊夢を手伝わなくていいのか?」
魔理沙
「あいつは今、機嫌が悪いからな。
私達が入り込める隙は無いぜ。」
霊夢
「………」
霊夢の身体から
膨大な量の霊気が溢れ出す。
オーラとも言えるそれは
あまりにも猛々しく、
攻撃的なものであった。
並みの妖怪であれば
容易に戦意喪失させる程の霊気…
つまりは博麗の巫女
であるからこそ成せる威嚇である。
零王
「………」
しかし零王は物怖じする様子は無く、
むしろ完全な戦闘態勢に入った
霊夢に対し笑みを浮かべる。
そして呼応するように
自らも霊気を放出する。
霊夢の燃え上がるような
赤の霊気とは対照的に
ありとあらゆるものを
凍てつかせてしまう
限りなく静寂な青の霊気を
身体に纏う。
それはまるで氷で
造られた鎧のように見えた。
そして先ほどチルノへ向かって
投げ飛ばした剣が
まるで意志を
持っているかのように
零王の元へ戻ってくる。
霊夢
「…骨はありそうね。」
零王
「無ければ抗えぬ。」
アリス
「何よ…あんな霊夢…
初めて見たわ…」
ルーネ
「相当おかんむりかな…」
アリス
「どうしてそんなに怒るのよ。」
ルーネ
「恐らくこの前の異変で
自分を嵌めた相手を
知ったんだろう。
文々。新聞…読んでる?」
アリス
「ええ…
霊夢が操られていたって…」
ルーネ
「あれはそれと関係のある存在。
だから巫女さんは
躍起になってるのさ。」
アリス
「零王から聞き出すつもりなのね。」
ルーネ
「まぁ…そうもいかんだろうね…」
アリス
「え?」
アリスがルーネの方へ
振り向いた瞬間、
金属同士がぶつかりあったような
重苦しい音と共に
凄まじい衝撃波に見舞われる。
アリス
「っ!? 何…!?」
ルーネ
「始まったね。」
チルノ
「う…」
魔理沙
「お前ら! 下がれ!」
チルノ達はある程度、
距離を取っていたが
発せられた衝撃波は
容易に届いた。
大妖精
「…これほど…とは…!」
ルーミア
「下がろう…大ちゃん…」
大妖精
「主様…」
チルノ達が離れていく一方、
霊夢と零王は
大幣と剣で力をぶつけ合う。
衝突時に発生した衝撃波は
お互いの衣服を激しく揺らした。
霊夢
「へぇ…耐えるなんてね。」
零王
「我に半端な攻めは通用せぬ。」
霊夢
「じゃあ付き合って
もらおうかしら!」
二人は姿を消す。
否、あまりに速い動作に
周囲の目が追いついていなかった。
霊気同士のぶつかり合いのおかげで
衝撃波は目に見える。
連続した爆音と共に
数々の暴風を巻き起こす。
力をぶつけ合う二人の姿は
未だに確認出来ない。
突如、衝突が収まると
二人はそれぞれ離れた位置に
姿を現した。
霊夢が無傷であるのに対し
零王は身体の随所が削れ、
氷を割ったような断面が見える。
霊夢
「その身体…」
零王
「醜く脆いこの肉体…
早急に作り替えねばならぬ。
邪魔をするな。」
霊夢
「…なるほどね…
なら駄目になるほど
邪魔しまくって…」
霊夢が言い終わる前に
氷で造られたクナイに似た弾が
高速で飛んでくる。
霊夢
「やるわよっと…!」
大幣で弾き落とす。
霊夢
(驚くほど弱々しい弾…
そろそろ限界ってわけね…
畳み掛けてやるわ…)
霊夢は御札を数枚、零王に向けて飛ばす。
零王
「拘束呪符…
やはり血は争えぬということか。」
しかし零王に届く前に
御札は黒ずみ、崩れ落ちてしまう。
霊夢
(なるほど…
何かしら結界を張っている…
厄介な奴ね…面倒だわ…)
御札が有効ではないと判断し、
霊夢は大幣を振り回し
結界を展開する。
霊夢
(妖精にしては結界を扱うなんて
ずいぶんと賢いじゃない。
あのバカとは大違いね。)
零王の周囲に張られた
目視不可能の結界を
霊夢は自身の展開する空間結界で
侵食しようと試みる。
零王
「………」
しかし空間結界同士が
触れ合った途端に
霊夢の結界は砕け散ってしまう。
霊夢
「っ!?」
零王
「貴様の空間結界は既に
何度も解を算出している。
単純な構造を継承している辺り、
やはり末裔だと言わざる負えぬ。」
霊夢
(奴の空間結界…いえ…
そもそも奴は結界なんて
展開していないんだわ…
恐らく私が結界だと見ていた範囲が
今の奴のテリトリー…
私の術を無効化する
何かしらの能力を
発揮出来る有効射程ってこと…)
それは距離のあいた攻撃は
一切効果が無いこと意味していた。
霊夢
(つまり、殴ればいいってことね!)
霊夢は大幣をしまい、
手足に霊気を集中させる。
零王
「………」
相手はその様子を
見るや否や
剣を宙に放り投げる。
霊夢
「…!」
剣は氷解の音と共に
姿形を変え、
複数の物体に分裂する。
剣の形を保っていた
テュールン・フィングは
容易く分裂、変形し
複数本の槍へと変貌を遂げる。
霊夢
「そんなのアリ…?」
霊夢が目を見開き驚きを
露にしているのも束の間、
宙で静止していた槍は
霊夢に向かって高速で
突撃してくる。
霊夢
(今からじゃ防御は
間に合わない…なら…!)
次々と降りかかる槍を
霊夢は徒手空拳で弾く。
零王
「ほう…」
霊夢の機転を利かせた対応に
零王は感嘆の声を漏らす。
常人であれば、
無慈悲に降り注ぐ槍を
武器も持たずに弾く事など不可能。
しかし博麗の巫女である霊夢は
霊気により強靭に肉体を強化する術を
身につけている為、
このような芸当を可能としている。
そして槍を全て捌き切った瞬間、
攻撃が止んだタイミングで
霊夢は超速飛行で
零王の懐に入り込む。
霊夢
「もらったわ。」
霊夢の拳が零王の
腹部を貫く。
氷の砕ける音と共に、
零王の肉体に
大きな風穴が開いた。
大妖精
「…!」
大妖精が目を見開く。
その手は小刻みに震え、
彼女は今にも
飛び出してしまいそうだった。
チルノ
「…大…ちゃ…」
大妖精
「は…チルノちゃん…」
チルノ
「アタイ…あいつに…
会った…気がする…」
チルノの発言に
過去の記憶が思い起こされる。
比那名居天子との闘いの後、
疲れから深い眠りに落ちた
チルノが目を覚ました時、
確かに零王の名を口にした。
主の名を。
大妖精
(つまりチルノちゃんは
リボンを通して
主様と出会っていた…?
でもさっきは初対面みたいに…)
考えを巡らせる。
まずチルノの肉体は
零王の肉体をベースとして
錬成されたもの。
そのスペックは零王の魂を
宿らせる依代としては
申し分なく、
日常生活をする事はもちろん
一割程度、
力を使いこなせる耐久性もある。
大妖精
(主様にとってはチルノちゃん
の魂を消し去って乗っ取る事において
価値がある人形だったはず…)
ではリボンを通して会った時、
何故乗っ取らなかったのかという
疑問が浮かんでくる。
大妖精
(様子見…ううん…
散々リボンの中で
チルノちゃんを見てきた。)
あの時
乗っ取る事をせず
わざわざ精神的接触を…
答えが出ない中、
チルノがふと口を開く。
チルノ
「アタイ…あいつに…
お願いされたんだ…」
大妖精
「お願い…?」
チルノ
「でも…思い出そうとすると…
すごく頭が痛くなって…」
何を頼むというのか
人形風情だと見下す態度は
やはり変わっていない。
そんな相手にわざわざ何を…?
チルノもその頼みを
覚えていないのだ。
大妖精
(計算高い主様にしては
あまりにも非合理的過ぎる…)
零王が「零」の名を冠する理由
絶対零度、凍てつく冷気を
自在に操るだけではなく、
如何なる状況であれ、
確実な方法のみを選択し
そこに感情は存在せず
冷酷無比である事に起因する。
その冷徹さは古き時代に
あらゆる国、組織から危険視され
一部の王達は
零王の為だけに
同盟を結ぶことすらあった。
その様子を間近で
見ていた大妖精が
零王の行為に
疑問を抱く事は至って自然
従者であった己が
考えついてはいけない結論が
脳裏に過る。
「零王は満身創痍なのかもしれない」
恐らくチルノの身体を
乗っ取るだけの力は
残っていなかった可能性が高い。
藁にもすがる思いだったのか、
はたまた何か意図が
あってのことなのか。
博麗の巫女に追い詰められている
現状では確かめることもままならない。
胴体に大きな穴が開いた零王は
特に苦痛を感じる様子も無く、
霊夢と距離を取る。
霊夢
(魂は別の場所に在る…?
妖怪なら今ので多少は
よろけるものだけれど…)
零王
「貴様は何の為に闘う。」
霊夢
「愚問だわ。
面倒なのが嫌いだからよ。
それ以外に何があるの?」
零王
「巫女も地に堕ちたものだ。
時の流れは無情だな…」
霊夢
「あんたの価値観を
押し付けないでくれる?
博麗の巫女がどうとか
覚悟がどうとか
私にはどうでもいいから。」
零王
「ほう、ならば
我が何をしようと
貴様に止める責務は無いが?
妖精が少々消えたところで
何の不都合もなかろう。」
霊夢
「勘違いしないことね。
私は面倒なのは嫌いだけど
ここに住んでる連中を
自分勝手な都合で理不尽に
傷つけるヤツは許さないわよ。」
零王
「…なかなか口の大きい小娘だ。」
零王の胴体に開いた穴は
内側から氷が突き出て
徐々に塞がっていく。
霊夢
(あの身体…氷で出来てるわけ…?
でもそんなんだったら
私にやられた時点でバラバラに
砕け散ってもおかしくないけれど…)
アリス
「霊夢が手こずってる…?」
ルーネ
「そう見えるかい?」
アリス
「え?」
ルーネ
「あの巫女さんは
退治しようだなんて
端から思ってないさ。」
アリス
「…霊夢…」
地上から激闘を繰り広げる
二人を見据えるアリスは
不安な表情を浮かべる。
ルーネ
「アリス、今のうちに
英気を養っておいてくれ。」
ルーネはアリスから離れ、
別の方角へと歩み出す。
アリス
「え、どうして?」
ルーネ
「…事態はどう転ぶか
わからないからね…」
そう言い残して姿を消してしまう。
アリス
「…」
彼女の言葉の意味を
考えながら霊夢の方へと
視線を戻す。
ルーミア
「どうして霊夢は
トドメをささないのか?」
大妖精
「警戒してるわけでも無さそう…
もしかしたら主様を…」
チルノ
「…れー…む…」
魔理沙
「ッ…」
零王
「…随分と余裕そうだ。」
霊夢
「そりゃねぇ、
今のあんたに本気出すのも
何か気が引けたから。」
零王
「戯けた事を…その判断、
一生後悔する事になるぞ。」
霊夢
「知るか…
なら今度こそマジで
退治してやるわよ。」
零王
「残念だが既に時間切れだ。」
霊夢
「…何ですって?」
霊夢が一瞬、気を抜いた間に
零王は地上に瞬間移動する。
霊夢
「…!?」
アリス
「…な…!」
零王が降り立ったのは
アリスの傍だった。
零王
「邪魔だ。」
零王が手を突き出すと
アリスは何かの力で吹き飛ばされる。
アリス
「きゃ…ッ!?」
ルーネ
「おっと…」
それをルーネが受け止める。
アリス
「あ、ありがと…
ってどこ行ってたのよ!」
ルーネ
「ちょっと細工をね。」
零王
「…仕方があるまい。
博麗の巫女の存在がある以上、
我も動けぬ…貴様らには
こちらに来てもらおうか…」
零王が地面に手をつけると
展開されていた錬成陣が
眩く光り出す。
その場に居た全員が
零王を止めに向かう。
しかし、周囲は
完全に白き光に包まれてしまい
視界が真っ白になった。
光が収まった時…
その場には霊夢と魔理沙だけが
取り残されていた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
チルノ
「う…なん…だ…?」
チルノが目を覚ますと
そこには見渡す限りの
荒れた大地が見える。
紅く照りつける日光が
大地を更に禍々しく見せる。
チルノ
「ここは…アタイたちは…」
周囲を見渡す。
どうやら周囲よりも
標高のある台地に
揃って飛ばされたようだ。
台地の中心には石畳の道、
台地からは石の階段で
降りることが出来る。
そして欠けた二本の柱…
大妖精、ルーミア、アリス
なぜかパチュリーやにとり、
文までもがこの場に居た。
自分と同じように
今、目が覚めたという感じだ。
チルノ
「みんなが居る…」
大妖精
「チルノちゃん…大丈夫?」
チルノ
「うん、なんか
さっきの苦しいのも
全部キレイに無くなってる。」
どういうわけか
チルノの体調は回復していた。
パチュリー
「皆無事?」
大妖精
「パチュリーさん!
どうしてここに…」
にとり
「文に呼ばれてね、
君達がピンチだって。」
文
「ルーネさんに頼まれたのよ。
あの森に来るよう伝えてと…」
パチュリー
「でも来る途中で
謎の光に包まれて…」
チルノ
「…は…そういえばあの
アタイのニセモノは!?」
ルーミア
「…姿は見当たらないぞ…」
アリス
「ごめんなさい…
私が一番近くに居たのに…」
大妖精
「そんな! アリスさんは
悪くないですよ!」
アリス
「ありがとう。
でもルーネはどこに…」
にとり
「すまないが…
チルノのニセモノと
ルーネについて
教えてもらえないか?」
ルーミア
「大ちゃんが一番詳しいかも…」
パチュリー
「周囲を探索しながら
話を聞きましょう。」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
一方取り残された霊夢と魔理沙は
途方に暮れていた。
霊夢
「ちッ…探知できないわ…
まさか異世界にでも
飛ばされたってわけ?」
魔理沙
「くそッ…!
このままじゃあいつら
どんな目に遭わされるか…」
霊夢
「…紫!」
霊夢は空に向かって叫ぶが
反応は返ってこない。
魔理沙
「どうしたんだあいつ…」
霊夢
「なによあいつ
どうでも良い時に来るくせに…」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
チルノ達一行は
それぞれの情報共有と
台地の周囲に広がる荒れ地を
探索していた。
チルノ
「大ちゃんが…そんな…
あいつにぞっこんなのか!?」
大妖精
「え、えっと…
主様の事は心の底から
尊敬してるよ? でも
今はチルノちゃんの方が大事で…」
パチュリー
「つまり零王とルーネという人物は
どちらも錬金術士で
元々は争っていた宿敵だと…」
大妖精
「そうなりますね…」
アリス
「霊夢と魔理沙は居ないし…
ルーネも見当たらないわね…」
チルノ
「結局、あのニセモノは
何がしたいんだ?」
大妖精
「私達を材料にして
完全な肉体を
手に入れたいんだと思う。」
文
「ええ…材料って…
妖精と妖怪なんて材料になるかしら…」
パチュリー
「不可能ではないわ。
ヒトを材料にした
錬金術だってあったらしいから。」
文
「末恐ろしいわ…
文々。新聞終わっちゃうし
何としても止めねば…!」
ルーミア
「こんな時に新聞の心配か…」
にとり
「仕方ない…
一度あの台地に戻ろう。」
一行は来た道を引き返す。
見渡す限り、
荒れた大地しか見えない。
台地に残った僅かな遺構だけでは
現在の居場所の特定も
叶わないだろう。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
そんな中、台地には1つの影があった。
零王
「時間稼ぎは十分…
新たな錬成陣を展開せねばならぬ…」
台地の中心に陣取る零王。
再び陣を展開し始める。
零王
「あの小娘、流石は
博麗の血を引く者だ…
我に傷をつけるとはな。」
ルーネ
「そうだねぇ…
つまりもう君は終わりってことさ。」
零王
「………来たか。」
零王は一度作業を止め、
声の方へ振り向く。
右側の欠けた柱に
寄りかかりこちらを
見ているルーネを捉える。
ルーネ
「そろそろチルノちゃん達が
君を止めにくるよ。」
零王
「貴様に言われずとも把握している。」
ルーネ
「…いつまで続けるつもりなんだい?
人形のように糸でつられて。」
零王
「それはお互い様だ。
貴様とて、大いなる母に
忠誠を誓ったではないか。」
ルーネ
「ああ、そうだね…
誓わされたの間違いじゃないか。」
零王
「………」
ルーネ
「私が君を助けたのは
そんな君を見たかったから
じゃないんだけどね。」
零王
「相変わらずふざけたことを抜かすな。」
ルーネ
「大真面目さ。
あの子達を見て思ったんだ。
あれは間違いなく君自身だよ。」
零王
「あのような無能と
我と同等の存在だと?
貴様、目が腐っておるのではないか。」
ルーネ
「ははっ、目どころか
全身腐ってるだろうね。
前からそうだから。」
零王
「…何故、何もせぬ。」
ルーネ
「あの子達が
君をどうにかしてくれるからさ。」
零王
「…なるほど、
余計な連中まで
こちらに引き入れてしまったのは
貴様の仕業だったか。」
ルーネ
「念には念を…ね…
いくら君のその身体が
限界を迎えていても
あの子達だけじゃ心許ない。
あ、もちろん
私も加わるけどいいよね?」
零王
「敵に許しを乞う者が居るか。」
ルーネ
「敵…か…
私達はいったいいつまで
同士討ちをすればいいんだか。」
零王
「果てるまでだ。」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
チルノ達一行は
台地の頂上を目指すべく、
一度下りた石の階段を
上っていく。
大妖精
「…!
主様の気配を感じます…」
アリス
「じゃあこの台地に…」
にとり
「準備は出来てるよ。」
パチュリー
「こっちもいけるわ。」
文
「カメラは任せてください!」
ルーミア
「撮影が目的じゃないぞ。」
文
「やだなぁわかってますよ。」
大妖精
「チルノちゃん…」
チルノ
「…守るよ。
アタイが大ちゃんを…守るよ。」
チルノの表情は髪に隠れて見えない。
大妖精は彼女の声が
酷く震えているのを感じていた。
大妖精
「チルノちゃん。」
チルノの手を取る。
チルノ
「…!」
大妖精
「私…嬉しかったよ…
チルノちゃんの事を
人形だって思ってた私でも…
『ともだち』だって
思ってくれたこと…
本当に嬉しかったよ。」
チルノ
「当たり前だよ。
だって大ちゃんは
アタイのなんだからな。
大ちゃんに嫌われたって
アタイは大ちゃんを
放したりなんかしないぜ。」
大妖精
「…ありがとう。
二人ともごめんね?
酷い事言って…」
ルーミア
「バカ二人の相手は
大ちゃんも疲れるってことだな…」
チルノ
「あ! またバカって…二人?」
チルノはいつも通り
ルーミアに反発しようとするが
表情を見て勢いが失せる。
チルノ
「やっぱりおまえもバカじゃん!」
ルーミア
「うるさい!
おまえに付き合ってやってるだけだ。」
チルノ
「アタイもルーミアに
付き合ってるだけだもーん。
別にバカじゃないもーん。」
アリス
「全く…この子達は…」
大妖精
「あはは…すいません…」
アリス
「でもおかげで緊張がほぐれたわ。」
文
「微笑ましいですねぇ」
パチュリー
「…ふふ…」
遂に台地の頂上に辿り着く。
そこには零王とルーネが対峙していた。
チルノ
「居た! お姉さんも!」
アリス
「ルーネ! 探してたのよ?」
ルーネ
「おっと…来てくれたね。
さて…どうなるか…」
零王
「有象無象がいくら集まろうと
我を止める事は叶わぬ。」
一行の視線の先には零王が
宙に浮遊しながら腕を組んでいた。
にとり
「………」
パチュリー
「あれが零王………にとり?」
あんぐりと口を開け、
固まっているにとりに
パチュリーは声を掛ける。
にとり
「河水…か…?」
全員が零王に対し
視線を向ける中、
にとりのみが
ルーネへ視線を向けていた。
ルーネ
「…? ああそうか…この身体だと…」
ルーネがそれを感じて
にとりの方へ振り向く。
にとり
「なんで本から出てるの…
封印されてたはずじゃ…」
ルーネ
「積もる話もあるだろうが
今はあれをどうにかしないといけない。
すまないが後にしてくれるかい?」
にとり
「…わかった…
でも後できっちり説明してもらうよ。」
ルーネ
「ああ…ありがとう…」
パチュリー
「知り合い?」
にとり
「…わからない…雰囲気が
本人じゃないみたいだ…
とにかく今は目の前の
相手に集中することにするよ。」
パチュリー
「ええ…」
文
「しかし…寒いわね…
あれのせい?」
大妖精
「はい、主様が
周囲に冷気を放出しています。」
チルノ
「げっアタイと同じとか
真似るにしてもすごいな!」
ルーミア
「褒めるところじゃないぞ。」
アリス
「でもそうなると
私達も何かしら対策をしていないと
忽ち凍らされてしまうわね…」
文
「とりあえず、あの冷気が
こちらへ来ないように
風で操作しましょう。」
パチュリー
「助かるわ。」
一行は構え、零王と対峙する。
数では圧倒的に不利にも関わらず
零王は顔色一つ変えない。
指を鳴らし
剣状のテュールン・フィングを
異次元から発現させた。
それと同時に零王の後方に
氷で出来た蔓のようなものが
次々と生み出され、
それらが絡まり
一本の巨大な樹木を形作る。
チルノ
「なんだ…あれ…」
ルーネ
「アヌトリプス=トゥリ。
彼女が完全な肉体を得るための
錬金設備だよ。」
アリス
「錬金術に使う設備を
自分で作り出すなんて…」
ルーネ
「厳密には自身の力を
幾分か削り出して
再現しているって感じ。
機能を持ったレプリカだね。」
パチュリー
「つまりあれを作り出すだけで
消耗しているということね。」
にとり
「となれば好都合だ。」
チルノ
「おっしゃ! リベンジだぜ!」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
???
「入りますよ、総領娘様。」
天子
「ん…」
天子は天界に存在する館の一つで
羽を休めていた。
天子
「なんのよぅ…?」
髪はくしゃくしゃに乱れ、
服は床に脱ぎ捨てて
ベッドに寝転がっている。
気だるげに入室した者へ
声をあげる。
???
「いつまでそうなさるおつもりです?」
その者は緋色の瞳を持ち、
特徴的な帽子と羽衣を纏った背の高い女性。
彼女は永江 衣玖。
比那名居一族に仕える妖怪である。
天子
「関係ないでしょ…」
衣玖
「そうもいきません。
あなたがそのままですと
他の方々に示しがつきません。」
天子
「…ジジィにとっては
大したことないわよ…
私なんて居ても居なくてもね…」
衣玖
「いつも以上に情けないですね。」
天子
「………」
天子はルーネと刃を交えた日、
天界に戻り、
映姫、そして大いなる母の分身と
対話していた。
映姫
「今何と?」
天子
「あんた達のやり方に従ってたら
いつまで経ってもあいつを
封印なんて出来ない!
もうやってらんないわ!」
映姫
「口を慎みなさい。
上に向かって無礼ですよ。」
???
「構わぬ、映姫。
では問おう、お前は何故
ルーネに対し躊躇しているのだ。」
天子
「…!」
???
「わからぬと思ったか。
お前は嘘をつくのが
致命的に下手なのだ。
偽りの態度もあの人形に
軽く崩されてしまう。」
天子
「うるさい…」
???
「偽りの天人…
お前は天人の度量も
器も持ち合わせていない。」
天子
「うるさいッ!」
???
「ならば失せろ。
お前は自由だ。
どこにでも行くがよい。
私はもうお前に指図はしない。」
天子
「………クソが…」
天子は悪態をつきながら
その場から立ち去る。
映姫
「よろしいので?」
???
「そろそろエーリが動く頃だ。
捨て置いて構わん。」
映姫
「………」
天子
「笑いなさいよ…
これが私なんだから。」
衣玖
「…惨めで笑えません。」
天子
「…なら出てって…」
衣玖
「総領娘様はなぜ
天人であることを
続けているのですか?」
天子
「わかんない…」
衣玖
「総領娘様であり続けるためでは
無かったのですか?」
天子
「うっさいわね!
あんたに何がわかるって言うのよ!」
天子は苛立ちを見せ
枕を衣玖にぶつける。
しかし衣玖は全く動じず
天子の瞳を見下ろす。
衣玖
「わかりません。
わかるのは総領娘様だけです。」
天子
「なんなのよ…今日はやけに
突っかかってくるじゃない…」
衣玖
「…零王が動きました。」
天子
「…!?」
衣玖
「上様から言伝てです。
『お前は自由だ、
自ら考えそれに従うがいい。』
そう仰っていました。」
天子
「今さら…そんな事言ったって…」
言ったって…
そう言い続けて
これから先も逃げ続けるのかな…
「地子? 居ないの?」
「………」
懐かしい声…
前からそうだ。
上手くいかない時は
こうやって狭い場所に籠る。
本当の私なんて見せたくないから…
「おらぁー!!」
「!?」
でも…
扉を壊して無理矢理にでも
私を連れ出す者達が居た。
あれは…私の…私の…!
天子
「…ッ!」
身体が勝手に動く、
自分でも何が何だか
わからなかった。
気がつくと衣玖は
部屋を去っていて
整えられた衣服が
机の上に置かれていた。
天子
「待ってなさいよ…
今度は私があんた達を…」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
一方、チルノ一行は
零王を無力化するどころか
一撃すら与えられていなかった。
その要因は
霊夢との戦いで見せた
見えない結界にある。
にとり
「なんでも分解してしまうのか…?」
アリス
「霊気だけじゃなく物理的にも
零王に到達出来てない
ということは恐らくね。」
チルノ
「やっぱり近づいて
殴るしかないか!」
ルーミア
「さっき首を絞められてたぞ…」
チルノ
「あれはちょっとしたミスだ!」
パチュリー
(地面からの土魔法も
防がれている…つまり
あの結界は球体状で
零王を覆い尽くしているのね。)
にとり
「お手上げって感じかな。」
文
「時間稼ぎかもしれないわね。」
零王
「…我の錬金術は磐石なり。
貴様らには理解出来ぬ。」
チルノ
「そんなことない!
アタイたちは絶対に勝つ!」
零王
「見苦しいぞ小娘、
何がそこまで自信を持たせる。」
チルノ
「おまえが一人だからだよ。」
零王
「…どれだけ頭数を揃えようと
我には敵わぬ。それが
貴様にはわからぬのか?」
チルノ
「数の話をしてるんじゃないぜ。
おまえが一人だって
言ってるんだよ。」
零王
「到底理解出来ぬ。」
零王は右手から氷の棘を生み出し
チルノへ向かって放つ。
大妖精
「チルノちゃん!」
氷の棘をチルノは
抱え込むように受ける。
チルノの胴体を貫く棘に
一行に緊張が走る。
零王
「何の真似だ。」
チルノ
「へっ…アタイはおまえを
一人にはしないぜ。」
零王
「失望したぞ。
貴様がそこまで能無しだとはな。」
ルーネ
「…チルノちゃん…君は…」
チルノ
「…こんなもん…
アタイには効かねー!」
氷の棘をへし折り
残りが身体に突き刺さったまま
チルノは零王に距離を詰める。
零王
「まさか…」
チルノ
「どうりゃぁああ!」
チルノの拳が零王を捉えた。
アリス
「あ、危ない!
近づいたら結界が…」
しかしチルノは
結界に干渉されることなく、
零王への攻撃を完了する。
パチュリー
「…!」
ルーミア
「入った!?」
ルーネ
「………」
零王
「ッ…」
零王は受けた衝撃で後退りする。
チルノが与えた一撃は
零王の胴体に亀裂を生む。
チルノ
「はぁ…よっしゃ…!」
しかしチルノも同様、
負傷した身体は
負担が積み重なって
悲鳴をあげていた。
零王
「なるほど、
貴様を侮っていたようだ。」
チルノ
「ぜぇ…はぁ…」
零王
「だが裏目に出たな。
今の貴様に避けられまい。」
零王が右手に持っていた
テュールン・フィングが
独りでに宙に浮き、
槍へと姿を変えチルノを捉える。
チルノ
「っ!?」
大妖精
「だめっ!」
一行は揃って
チルノへの攻撃を
阻止しようとするが
テュールン・フィングの
圧倒的な変形速度に
反応が間に合わない。
一番近くに居た大妖精は
チルノの前に割って入る。
チルノ
「…大ちゃん!!」
その時、零王は笑みを浮かべた。
刹那
零王の後方にそびえる氷樹から
大量の蔓が伸び
大妖精に巻き付いた。
大妖精
「な…これは…あぅ!?」
埒外な力で引っ張られ
氷樹に張りつけに
されてしまった大妖精。
チルノ
「やめろ…!」
パチュリー
「!」
パチュリーは零王から氷樹に
標準を合わせ
魔法を放つが
零王と同様、氷樹にも
結界が展開されていた。
パチュリー
「くっ…」
アリス
「ルーネ! あの技を使って…」
ルーネ
「いや無理だ。
ああなっては
こちらとしては
どうしようもない。」
アリス
「だからって…!」
チルノ
「大ちゃんを返せ!!」
チルノは我を忘れ
零王に突撃するが
軽々と避けられてしまう。
チルノ
「う!?」
そこへ膝蹴りをかまされ
身体が宙に浮く。
ルーミア
「チルノ!」
吹っ飛ばされたチルノを
ルーミアがキャッチする。
ルーミア
「ぐぐ…ぅ!」
チルノ
「うっ…ルーミア…大ちゃんは…」
ルーミア
「だめだ…
あの樹に縛り付けられて…」
大妖精は意識が
朦朧としている様子で
頭がふらふらと揺れる。
文
「樹に力を吸われているわ!」
にとり
「…弾丸も弾幕も通らない…
さっきチルノがやった技は
もう通用しないだろうし…
クソッ…手詰まりか…!」
アリス
「だめ…諦めちゃだめよ!」
大妖精
「皆さん…私に構わず…主様を…」
零王
「彼奴らに我を倒す力は無い。
貴様はそのまま我が贄となれ。」
大妖精
「そんなことありません…
チルノちゃん達は…
絶対に負けません。」
零王
「やはりあの小娘と関わった事で
毒されたようだな。
貴様はもう用済みだ。」
大妖精
「…私はチルノちゃんを…信じます…」
ルーミア
「チルノ…?」
その時、チルノはルーミアから離れ
零王の前に立つ。
チルノ
「大ちゃん…アタイが…絶対に…」
零王
「目障りだ、失せろ。」
新たな氷の棘がチルノを襲う。
同時に凄まじい暴風と尖った氷の破片が
一行を包み込んだ。
アリス
「あっ!?」
にとり
「防ぎ切れない…!?」
一行の者達が纏っていた結界が破れ
突如として吹き荒れる
凶弾の嵐に見舞われる。
パチュリー
「これは…効くわ…」
文
「悠長な事言ってる
場合じゃないですよー!
私でもどうにもならないなんて!」
ルーミア
「チルノ…チルノ!!」
しばらくして熾烈な攻撃は止んだが
一行が目にしたのは
チルノの無惨な姿だった。
身体の至る所に擦り傷が刻まれ
羽はボロボロに崩れ落ち
額から血が流れていた。
零王
「耐えるとはな。」
チルノ
「はぁ…はぁ…」
ルーミア
「…!」
ルーミアはチルノに向かって
駆け出そうとしたが
身体に走った激痛に
思わず膝をついてしまう。
ルーミア
「あぐっ!?」
身体が動かない。
一部を除き他の者も皆、
チルノを援護するどころでは
無くなっていた。
チルノ
「…う…はぁ…ぁ…」
視界に靄がかかる。
意識が遠のいていく。
零王とその先に捉えられた大妖精。
チルノ
「大…ちゃ…」
チルノは糸が切れたように
ばたりと倒れた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「………」
声が聞こえる。
「起きて…チルノ…」
目をゆっくりと開く。
そこには零王によく似た
一人の少女が
こちらを覗き込んでいた。
チルノは氷で出来た部屋の床に
倒れていた。
チルノ
「おまえは…」
エーリ
「ひさしぶり。
って言っても初めまして…かな?」
チルノ
「う…なんだろう…
アタイは…おまえに負けた…?」
エーリ
「まだ負けてないよ。」
チルノ
「え?」
エーリ
「大丈夫、チルノは
まだ負けてなんかいないよ。」
チルノ
「…おまえは…誰…?」
エーリ
「わたしはエーリ。
会うのは二度目だけど
チルノにとっては初対面だよね。」
チルノ
「エーリ…あ…あああ!?」
チルノは飛び起きる。
チルノ
「エーリ! 思い出したぞ!?」
エーリ
「え、よく思い出せたね。
ここでの記憶は消されたはずなのに…」
チルノ
「アタイは死んだのか!?」
エーリ
「まだ辛うじて生きてるよ。
でも今のままじゃ
殺されちゃうかも…
大ちゃんもルーミアもみんなも…」
チルノ
「…! そんなの絶対だめだ!
早く戻らないと…」
エーリ
「まぁ落ち着いて、
わたしの話を聞いて欲しいの。」
チルノ
「話?」
エーリ
「チルノはこの前
わたしがしたお願い…覚えてる?」
チルノ
「…おう! でもアタイは
絶対そんなことしないからな!」
エーリ
「零王はわたしなの。」
チルノ
「え…」
エーリ
「あれはわたしの抜け殻。
ううん…孤独の人形…」
チルノ
「何言ってるんだ?
抜け殻とか言っても
あいつは好き勝手やってるぜ?」
エーリ
「うん。だからチルノに
止めてほしかったの…」
チルノ
「なんだそういうことか
じゃあアタイがきっちり………」
チルノは気合を入れて
頼みを快諾しようと思ったが、
ふとした考えが過る。
チルノ
「エーリは…どうなるんだ?」
エーリ
「…消えるよ。」
チルノ
「出来るわけないだろ!?」
エーリ
「チルノ!」
エーリはチルノの手を取り
身を寄せる。
エーリ
「大ちゃんたちは
チルノの大切な
『ともだち』でしょ?
失ってもいいの?」
チルノ
「やだよ! でもエーリだって
もうアタイの
『ともだち』なんだよ!」
エーリ
「チルノとのお話は楽しかった…
でもきっと…
大ちゃんやルーミア達と一緒に
居る時間のほうが
チルノにとっては大事な時間だよ。」
チルノ
「アタイはエーリと話した時間が
大ちゃん達との時間よりも
悪いだなんて思って無いぞ!」
エーリ
「チルノ…時には
選ばなきゃいけない事もあるんだよ?
今、あそこに居るわたしは
チルノの大切な時間を奪おうとしてる。」
チルノ
「そう…だけど…」
エーリ
「わたしはチルノから
奪いたくなんてないのよ!」
チルノ
「…!?」
チルノが見たものはエーリの涙だった。
零王の涙だった。
それはあまりにも美しく、
感情に満ち溢れていた。
チルノ
「エーリ…」
エーリ
「お願い…もうわたしに…」
チルノ
「連れてくよ。」
チルノはエーリを抱きしめる。
チルノ
「ここから…」
エーリ
「チルノ…」
チルノ
「アタイは…『ともだち』の
泣いてるとこなんて
見たくないからな…!」
とびっきりの笑顔をエーリに見せる。
エーリ
「…ありがとう…チルノ…」
チルノ
「おう!」
部屋が崩れ始めた。
チルノ
「また崩れて…」
エーリ
「わたし…チルノに全て託すよ…
だから…絶対に止めてね…」
チルノ
「…任せとけ!」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ルーミア
「チルノ…だめだ…消えちゃ…」
ルーミアはどうにか力を振り絞り、
目の前で倒れたままのチルノへと
近づいていく。
にとり
「ちくしょう…滅茶苦茶にやられた…」
アリス
「…どうにか糸を…」
一行が壊滅状態であることを
確認した零王は氷樹の蔓を操り、
チルノの元へ向かわせる。
零王
「そのしぶとさは認めてやろう。
貴様も贄としてくれる。」
蔓がチルノの身体へ
触れようとした時、
鈍い金属音と共に
蔓が次々と粉々になっていく。
ルーミア
「!?」
ルーネは抜刀した状態で
チルノの前に立っていた。
零王
「邪魔をするか、この期に及んで。」
ルーネ
「まぁね…少し事情が変わった…」
ルーネの身体は傷一つ無く、
万全の状態だ。
パチュリー
「彼女はいったい…」
アリス
「ルーネ…無事だったのね…」
文
「…無傷だなんて…怪しいわ…」
零王
「…」
ルーネ
「チルノちゃんは君に勝つよ。
本当はわかっているんだろう?」
零王
「そこの小娘は既に虫の息。
貴様ともあろう者が
どう計算を間違えれば
その結論に至るのだ?」
ルーネ
「人間臭いかもしれないけれど…
彼女を…君を信じているからさ。」
零王
「詭弁を弄するならば
貴様も消し去ってくれよう。」
零王はテュールン・フィングを
剣へと変化させ
目にも止まらぬ速さで斬りかかる。
ルーネ
「…詭弁じゃない。」
それを刀で弾き、
袈裟斬りを放つ。
零王
「仮初めの肉体で
我に挑むとは貴様も
堕ちたものだな。」
剣で受け止め、
互いに距離を詰める。
ルーネ
「お互い様だろう。」
ルーネが刀に力を込め斬り飛ばすと
零王は氷樹の方へ少し押される。
零王
「相も変わらず猪口才な…」
ルーネ
「ふふ…そうかい?」
居合の構えを取ったルーネを見て
零王はテュールン・フィングを
傘状に変形させ、盾として運用する。
抜刀から納刀までの時間は
一秒にも満たない
非常に短い時間であった。
その所作は抜きん出た動体視力を持つ
零王が神経を集中させ、
自身の感覚の流れを周囲に
流れる時間の数倍の速さに
加速させる事でようやく視認出来るほど
素早く流麗であった。
納刀の音が聞こえたのは
傘状に展開されていた
テュールン・フィングが
バラバラに砕け散り、
地面に落ちた後であった。
零王が防御手段を失ったと判断した
ルーネは即座に懐へと潜り込み斬り上げる。
しかし零王はそれに反応し
上体を後方へ逸らし回避する。
続けて零王の肩の辺りに
蒼の紋様が複数現れる。
ルーネ
「…!」
それはルーネを狙った氷の凶弾であった。
凄まじい速度で発射された
三発の氷弾は風を切り、
ルーネの右肩と左膝を直撃。
頬をかすめた。
ルーネは右足で地面を蹴り、
零王と距離を取る。
ルーネ
「やっぱり厳しいか…」
零王
「…詰みだ…潔く散れ。」
地面に転がっていた破片が
集まりテュールン・フィングが
剣状に蘇る。
零王は柄を握り、
一行へ剣先を向ける。
零王
「貴様らには
名誉ある死をくれてやる。
我が贄となるまでは死ねず、
凍り付いた時の中で過ごすのだ。」
剣が蒼い光を放ち、
膨大な霊気が剣先へと集中する。
パチュリー
「あれは…どうにかしないと…」
文
「くッ…先ほどの攻撃で
身体が動かない…!」
にとり
「最悪だ…こんなとこで…」
零王は勝利を確信し、
視線を一行から逸らした。
大妖精
「…だ…め……やめ…て…」
大妖精は今にも気を失いそうだが
必死に主へと声を掛け続ける。
ルーミア
「う…くっ…」
ルーミアは倒れ伏したまま動かない
チルノの元へどうにか這い寄った。
ルーミア
「チルノ…私は…」
チルノの背中に手を置く。
ルーミア
「…幸せだったぞ…
お前が守ってくれて…
私は幸せだった…」
背中にあった羽は
ボロボロに崩れ、
もはや原型を留めていなかった。
ルーミア
「…だから…次も…よろしくな…」
零王は絶対零度の光線を
一行へと撃ち放った。
凄まじい威力を誇り
その余波で周囲の地面に
氷の結晶が生み出される。
零王
「………」
零王は目を瞑り、
一行の成れ果てた姿を見る事も無く、
大妖精が縛り付けられた
アヌトリプス=トゥリへと歩み寄る。
大妖精は既に気を失っており、動かない。
激戦の舞台となった台地は
凍てついた静寂に包まれる。
チルノ
「…まだアタイたちが居るぜ。」
零王
「…!」
零王は静寂を打ち破るその声に
思わず振り返る。
そこには先ほどの光線が
防がれた事を示すように
凍りついていない一行の姿と
それを庇うように仁王立ちする少女。
零王
「貴様…!」
チルノ
「エーリ…一緒に行くぞ…!」
ボロボロの身体ながらも
立ち塞がるチルノの姿があった。
to be continued ~
皆様お疲れ様です。新人トレーナーAlmaです。
ここまで読んでくださりありがとうございます!
霊夢さんや一行と零王との激戦を書きました。なにぶん文章が稚拙なので状況説明が出来ていないと思いますが…ただ何回も書き直したり見直しはしたので今の所これが限界ですね…言い回しとか表現とかアドバイスいただけると幸いです。
【大ちゃんの立ち位置質問の回答】
「大ちゃんの立ち位置がいまいちわからんけど」という質問を頂きました。ありがとうございます。簡単に言うと、零王の友となった妖精です。文章の中にもありましたが零王の錬金術によって肉体は妖精とは異なるもの(チルノも同様)となってはいますが幻想郷では妖精としてチルノのお守、監視役として長らく過ごしていました。遥か昔に零王が国を創る際、唯一の国民として仕える事を誓い、零王の居城とその周辺の守護を担っていた事があります(大ちゃんがルーネさんと知り合ったのもこの頃)。また錬金術における欠けの無い完全な構成の力を宿しており、それがアルス=マグナの第二のトリガー(ルーネさんは第一のトリガー)となっています。零王にとってはその力を持っているだけでより完全な肉体を得るには十分過ぎるため、大ちゃんさえ確保出来ればそれ以外はどうでもいいようです(妨害する者には容赦ありませんが)。一方大ちゃんは主のために自分の身を捧げようとしていましたが、ルーネさんとアリスによって封じられてしまいます。ただルーネさんの言う通り、チルノか零王か迷っていたので零王の肉体を錬成する術はどのみち失敗していました。今は一応気持ち的にチルノ側ですね。
今回はこれくらいですかね…次回で前編が終了します。
チルノの活躍に乞うご期待!