チルノ&大ちゃんのアトリエ ~目覚めし幻想の錬金術士~   作:すくすくAlma

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EP8 約束

声が聞こえる…

 

 

 

優しい声…

 

 

 

 

明るくて…

 

 

 

 

 

あたたかい…

 

 

 

 

 

「ニア! 起きて!」

 

 

 

 

 

大妖精

「う…ぁ…?」

 

 

 

視界に主様…

 

 

 

…若き日の主様…?

 

 

 

 

エーリ

「起きた! おはよ~う!」

 

大妖精

「…おはよう…ございます…」

 

エーリ

「寝坊なんて珍しいね?」

 

大妖精

「ごめんなさい…

 エーリさんにご迷惑を…」

 

エーリ

「いいのいいの!

 それより今日はお墓、

 一緒に行く予定でしょ?」

 

大妖精

「はい、すぐに支度しますね。」

 

エーリ

「あ、わたしはもう

 出来てるから手伝うよ!」

 

大妖精

「それは…

 ありがとうございます。」

 

 

 

私が約束の日に

 

寝坊をしても咎める事も無く、

 

満面の笑みを浮かべる彼女…

 

 

 

エーリ

「そういえば…

 第二種霊気媒体錬成具。

 やっと作れるようになってね?」

 

大妖精

「え? 本当ですか…!」

 

エーリ

「ほら!」

 

 

 

彼女が手を前に伸ばすと

 

氷で出来た剣が発現した。

 

 

 

大妖精

「これは…なんと精巧に…」

 

エーリ

「えへへ…すごいでしょ!

 薊にも自慢するんだー!」

 

大妖精

「そ、それはやめておいた方が…」

 

エーリ

「ほぇ…? なんで?」

 

大妖精

「あ…いえ…なんとなく…

 そう思っただけです…」

 

エーリ

「ふーん。」

 

 

 

第二種霊気媒体錬成具。

 

小難しい名前だが

 

要は霊気を元にして

 

錬金術で創られる道具の事。

 

 

 

生成上の特徴として

 

物質を元にして

 

存在している道具と違い、

 

概念である霊気を

 

高密度に圧縮した上で

 

錬金術をベースに

 

異次元に存在する物、

 

もしくは概念だけのものを呼び出す

 

『現界』という作業を行う。

 

 

 

つまり高位の錬金術である。

 

 

 

第二種は現界させたとはいえ、

 

霊気の集合体である事は

 

変わりないので

 

術の行使者が存在しており

 

尚且つ傍に居なければ

 

消失してしまうという特徴がある。

 

 

 

第一種はより高い技術を必要とし、

 

霊気を概念から物質へと昇華させ

 

第二種での欠点を持たない

 

完全な道具として現界させたもの。

 

この頃の主様には少し厳しい…

 

 

 

 

 

 

 

巨大な一本桜が咲き誇る

 

墓場へとやってきた。

 

 

 

この墓場はヒトが住む里から

 

少し離れた位置にある。

 

 

 

エーリ

「ここにはね、薊の大切な人たちの

 魂が眠っているんだって!」

 

大妖精

「…埋まってはいないのですね。」

 

エーリ

「そうみたい。

 でも薊は墓だけでも

 作りたかったんじゃないかな。」

 

墓石には何も刻まれていないが

 

何やら複数の霊を感じる。

 

 

「やぁ、二人ともよく来てくれたね。」

 

 

 

こちらに声を掛け

 

墓場にやってきたのは

 

赤みがかった黒い長髪を

 

後ろに束ね、

 

紅い瞳を持ち

 

巫女に近い白い服装をした

 

少し大人びた少女。

 

 

 

傍に青い長髪に

 

紅い瞳と白い肌を持ち

 

一風変わった服を着た少女を連れている。

 

 

 

 

巫女服のようなものを

 

纏っているのは黒百合 薊。

 

ヒトの里で祭事を取り仕切る他

 

舞を踊る役目を持つ『御子』。

 

 

 

もう片方は比那名居 地子。

 

詳しくは知らないけれど

 

皆に認められるために

 

日々努力しているとか…

 

 

 

エーリ

「薊! 久しぶりだね!」

 

薊は飛びついてきた

 

エーリを優しく抱き留める。

 

「おおっと…そうだね。

 元気そうで何よりだよ。」

 

エーリ

「そっちの子は?」

 

「ああ、最近知り合った子でね。」

 

地子

「地子です…その…

 よろしくお願い…します…」

 

もしかしたら人見知り

 

なのかもしれない。

 

大妖精

「よろしくお願いします。」

 

エーリ

「うん! よろしく!

 お人形さんみたいで可愛いね!」

 

地子

「なっ…可愛いだなんて

 私はそんなんじゃないから!」

 

顔を真っ赤にし、慌てた様子を

 

見ていると知らぬ者と話す事に

 

慣れていないようにも取れる。

 

褒められた経験が浅いのか…

 

エーリ

「あ、真っ赤になったー!」

 

「こらこらいけないなエーリ。

 からかうのはだめだよ?」

 

エーリ

「はーい。」

 

大妖精

「地子さんはどうしてこちらに?

 薊さんと一緒に居るということは

 やはり墓へ?」

 

地子

「そうなんです。

 確かに綺麗な桜だとは思いますが

 まさか墓参りとこれだけのために

 来させるなんて…

 私は暇じゃないのよ?」

 

「あはは…それは悪いことをしたな。

 でも地子にも

 お参りしてもらいたくてね。

 私の挨拶に付き合ってくれたまえよ。」

 

大妖精

「挨拶…」

 

 

 

薊は幼い見た目に反して

 

二十を越えている。

 

 

 

若い頃に生まれ育った国を失い、

 

長い長い旅の途中で

 

とある組織に囚われていた主様を

 

救い出し、ここにやってきたのだという。

 

 

 

ある意味、主様と私がここで出会えたのは

 

この人のおかげなのかもしれない。

 

 

 

「私をここまで導いてくれた皆に

 感謝しなければね…」

 

エーリ

「お花も持ってきたよー!

 ニアと二人で集めたんだよ?」

 

「ありがとう、早速お供えしよう。」

 

 

 

花束といくつかお供えものをして

 

四人で墓石の前に並び、

 

黙祷を捧げる。

 

 

 

 

 

 

 

「さて…里で食事でもしないかい?」

 

エーリ

「え、でもわたしたち妖精だから…」

 

「安心していいよ。

 私が傍についているからね。」

 

薊は御子ということもあって

 

里で一番の有名人であり

 

権力者の一人でもあった。

 

 

 

人外に対し異常なまで

 

排他的な人間たちも

 

薊が傍に居れば

 

下手な事は出来ない。

 

 

 

地子

「む…私は忙し…」

 

「腹が減っては戦は出来ぬと

 この地域の人達は言うそうだよ。」

 

地子

「はぁ…わかったわよ。」

 

エーリ

「じゃあ皆で手つないでいこう!」

 

大妖精

「え…」

 

地子

「うぇ!?」

 

「おお、名案だね。

 そうしようそうしよう。」

 

 

 

 

 

四人で騒ぎながら歩いた記憶が

 

とてもあたたかく

 

それと同時に

 

私から遠ざかっていく…

 

手の届かないところへ…

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

チルノ

「はぁッ!!」

 

零王

「………」

 

大妖精が瞼をゆっくりと上げると

 

そこには凄まじい勢いで

 

ぶつかり合う二人の姿があった。

 

 

 

チルノの右手には

 

零王のテュールン・フィングに

 

対抗するように

 

大振りの剣が握られていた。

 

 

 

二人の剣戟によって

 

霊気が弾け広がり、

 

周囲に雪が降り注ぐ。

 

 

 

アリス

「なんて力なの…」

 

にとり

「お互いに身体が崩れかけていないか…?」

 

 

 

にとりの指摘通り

 

零王は続く連戦で随所に亀裂が入り、

 

氷の断面のようなものが

 

見えるところもある。

 

一方チルノも零王ほどでは無いが、

 

手足や首元の亀裂から

 

光が漏れ出している。

 

 

 

パチュリー

「あれは…流石に危険だわ…」

 

 

 

パチュリーの見解は正しい。

 

チルノはエーリによる錬金術を用いて

 

自身を高濃度の

 

霊気集合体と融合させた。

 

その結果、一時的に

 

エネルギーを引き出している。

 

しかし代償として

 

本来はそのような使用を

 

想定されていないチルノの肉体は

 

規格外の力によって

 

内側から破壊され始めている。

 

 

 

チルノ

「くッ…」

 

チルノは覚悟の上であった。

 

アヌトリプス=トゥリに

 

捕らえられた友を救うため。

 

零王からここに居る者達を守るため。

 

 

 

既に想像を絶する苦痛が

 

チルノを襲っている。

 

 

 

しかしそれは零王も同じであった。

 

 

 

零王

「非合理極まりない。」

 

チルノ

「何だと…?」

 

零王

「貴様は肉体を犠牲にしてまで

 この人形を助けようとしている。

 しかしそれは1を0にし、

 0を1にする…つまり

 足しにも引きにもならぬ

 全くもって無駄な行為。」

 

チルノ

「おまえが

 どう思おうが勝手だけど…

 大ちゃんは人形じゃない…」

 

零王

「戯けた事を。

 貴様らには自覚が足りぬのだ。

 この世に生まれたのであれば

 皆、等しく大いなる母の駒に

 過ぎぬというのに。」

 

零王は地に足をつけ、

 

テュールン・フィングを

 

地面に突き立てる。

 

 

 

チルノ

「…!」

 

チルノは攻撃を予測し

 

横に回避するが、

 

零王の攻撃はチルノを

 

狙ったものではなかった。

 

 

 

零王を起点に

 

地面から無数の氷棘が

 

直線上に突き出る。

 

その行き先は

 

ルーミアであった。

 

 

 

チルノ

「ぐ!?」

 

チルノがそれに気がついたのは

 

零王の攻撃が発生してから

 

わずか0.1秒。

 

 

 

しかし攻撃の速度は一秒足らずで

 

ルーミアに届くほどで

 

チルノが相殺させるには

 

時間が無かった。

 

 

 

ルーミア

「っ…!」

 

ルーミアは覚悟を決め、

 

目を瞑る。

 

 

 

血肉を貫く音が響き渡った。

 

 

 

ゆっくりと瞳を開く。

 

 

 

そこにはルーミアを

 

身を挺して守るチルノの姿があった。

 

 

 

氷の壁を創り出し防ぐには

 

多少の時間が掛かる。

 

 

 

それ故にチルノが取った行動は

 

自己犠牲であった。

 

 

 

ルーミア

「…ぁ…!」

 

目を見開く。

 

血飛沫がルーミアを襲った。

 

 

 

チルノ

「うぁああ!?」

 

叫びが轟く。

 

零王

「今、ここで、楽にしてやろう。」

 

チルノの肉体は

 

既に限界を迎えていた。

 

そこへ追い討ちをかけられる。

 

零王

「貴様は自らの核に殺されるのだ。」

 

チルノに突き刺さっている

 

氷棘を利用し、

 

過剰なエネルギーを注ぎ込む事で

 

崩壊を試みる零王。

 

ルーミア

「やめろ!」

 

ルーミアは最後の力を振り絞り

 

チルノに刺さった氷棘に触れる。

 

零王

「…小癪な…」

 

零王の右肩辺りに

 

紋様が二つ浮かび上がる。

 

現れた二本の槍は

 

ルーミアに照準を合わせる。

 

ルーミア

「…!」

 

 

 

チルノ

「ルーミア! 離れろ!」

 

しかし時すでに遅し。

 

 

 

放たれた二本の剛槍は

 

ルーミアに向かって

 

凄まじい速度で撃ち出された。

 

 

 

チルノ

(…ルーミア…!)

 

 

 

ルーミアの脳裏に記憶が過る。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

行方知れずとなった

 

大妖精を探していた時の事…

 

ルーネ

「チルノちゃんの役に立ちたい?」

 

ルーミア

「…あいつ…前からずっと

 私を守ってばっかり…

 きっと私が居ると

 足手まといになって動けない…」

 

ルーネ

「なるほどね…君は何か

 大きな勘違いをしているみたいだ。」

 

ルーミア

「どういうこと?」

 

ルーネ

「チルノちゃんは君が居ないと

 本気にはなれないだろう。

 君と大ちゃんが居ないとね。」

 

ルーミア

「そんな事…」

 

ルーネ

「守るものがある者は

 どんな奴であれ手強いぞ。

 君もそうなんじゃないのかい?」

 

ルーミア

「私の守りたい…もの…」

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

零王

「…ぬ…」

 

零王は思わず驚きの表情を見せる。

 

ルーミアは能力を駆使し、

 

真っ黒な刃で

 

迫りくる剛槍を弾き飛ばしたのだ。

 

 

 

ルーミア

「私だって…いつまでも

 足手まといはごめんだ…!」

 

 

 

ルーミアの手を介して

 

黒い霧が流れ込み、

 

チルノに突き刺さっていた

 

氷棘が崩れ落ちる。

 

 

 

チルノ

「…助かったぜルーミア…!」

 

ルーミア

「お互い様…」

 

 

 

二人は背中を合わせる。

 

 

 

チルノ

「アタイの後ろに隠れてろよ。」

 

ルーミア

「ふん…そっちこそ…」

 

 

 

チルノは剣を構え、

 

ルーミアは刃を構える。

 

 

 

にとり

「…ルーミアはどうして動けるんだ…」

 

パチュリー

「霊気とは異なる

 何か別の力で動いているようね…」

 

 

 

零王

「我の計算が狂うとは。

 貴様が動ける要因…興味深い。」

 

 

ルーミアの身体は零王の攻撃で

 

満身創痍であったはずが、

 

難なく動いている。

 

 

 

ルーミア自身、何故動くのか。

 

そんな力は残っていないはずだと

 

思っていた。

 

 

 

ルーミア

「…ただ…

 こいつの傍に居たいだけだ…

 ここを…守りたいだけ…」

 

チルノ

「…!」

 

 

 

ルーミアは自分の事を

 

足手まといと嘆いていた。

 

魔理沙にも

 

それを打ち明けた事がある。

 

 

 

肝心な時に誰かを助ける力が

 

欠けているのだと。

 

 

 

チルノはルーミアの言葉を聞き

 

彼女の抱えていた想いを

 

初めて感じ取ったのだ。

 

 

 

チルノ

「ルーミア。」

 

ルーミア

「…?」

 

チルノ

「ずっとだからな…」

 

ルーミア

「うん…」

 

二人は空いている手を

 

お互いに握りしめる。

 

特に意識したわけではない。

 

自然とそうしただけだ。

 

 

 

エーリ

(これなら…)

 

この行為により、

 

チルノに宿るエーリは

 

賭けに出ることが出来た。

 

 

 

構造の変異を狙って行う

 

錬金術の離れ業により、

 

互いの霊気とその源泉となる

 

概念を中和。

 

二人の肉体それぞれに

 

適応する核を錬成したのだ。

 

 

 

これにより

 

相容れないはずの霊気が

 

チルノとルーミアの間で

 

循環可能となった。

 

 

 

「なんと…あんなことしたら

 普通ぶっ壊れちゃうわよ…」

 

ルーネ

「…流石だ…」

 

霊気の奔流は手を介して

 

肉体に行き渡る。

 

 

 

零王

「変わった真似をしてくれる。

 貴様らは優れた素材ではなく

 優れたモルモットとして

 使うことにしてやる。」

 

 

 

チルノ

「アタイは…」

 

ルーミア

「私は…」

 

息を合わせ高速で飛び上がる。

 

零王はテュールン・フィングを

 

盾状へと変形させ備える。

 

 

 

チルノ・ルーミア

「道具じゃねぇッ!!」

「道具じゃないッ!!」

 

 

 

まさに一心同体とも言える

 

一秒たりとも時間差の無い

 

二人の攻撃。

 

 

 

それぞれの刃が

 

盾状テュールン・フィングに

 

突き刺さる。

 

 

 

僅かな時間、

 

数秒の間

 

攻撃は阻まれたかに思えた。

 

 

 

訪れた静寂

 

反撃の準備に入る零王

 

 

 

チルノとルーミアは

 

ただ一点に視線を向ける。

 

 

 

ひたすら真っ直ぐに

 

 

 

氷の壁の向こう

 

 

 

さらにその奥の友へと…

 

 

 

 

 

氷解の音が

 

静寂を打ち破った。

 

 

 

盾状テュールン・フィングに

 

亀裂が生まれ、

 

一気に崩壊

 

 

 

二人の刃は零王の胴体を貫く。

 

 

 

零王

「………」

 

一瞬で激変した状況に

 

零王は理解が追い付かず

 

言葉を失う。

 

 

 

にとり

「通った…ッ!」

 

アリス

「すごい…これなら!」

 

 

 

テュールン・フィングを崩し

 

霊夢によって傷ついた

 

零王の胴体に追い討ちを

 

かけることに成功した

 

チルノとルーミア。

 

 

 

ほとんどの者が

 

この瞬間、勝利を確信しただろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

直後にアヌトリプス=トゥリが

 

輝き出し、零王と蔓で繋がる。

 

 

 

パチュリー

「まさか…」

 

「あの子を犠牲に!?」

 

 

 

その動きが何を意味するかは

 

全員がすぐに理解出来た。

 

 

 

大妖精を起点に蔓を通り

 

零王へとエネルギーが

 

注がれている。

 

 

 

チルノ

「やらせるかッ!」

 

ルーミア

「ッ!」

 

 

 

チルノとルーミアは

 

零王へ追撃を試みようとしたが

 

二人の刃は零王の胴体に

 

突き刺さったまま

 

氷漬けにされてしまっていた。

 

チルノ

「な…こいつは…!」

 

それが二人に

 

一瞬の隙を作らせるには十分であった。

 

 

 

零王は二人に向けてそれぞれ

 

手を突き出す。

 

 

 

その動作は今まで行ってきた

 

攻撃の予備動作と比較すれば

 

ゆっくりな動きと言える。

 

 

 

しかし自らの攻撃で

 

零王から離れられなくなった

 

チルノとルーミアの

 

反応の遅れは

 

放たれた凶刃を通してしまった。

 

 

 

チルノ

「うッ…!?」

 

ルーミア

「かはッ!?」

 

 

 

零王の両手から

 

突き出した巨大な氷棘。

 

 

 

ドリルとも言い表せる

 

それは二人の胴体を

 

削りながら貫いた。

 

 

 

アリス

「そんな!?」

 

パチュリー

「くッ…」

 

 

 

貫かれた勢いで

 

後方へと吹き飛ばされる。

 

 

 

一同の前で

 

地面に身体を強く打ち付けられる。

 

 

 

にとり

「チルノ! ルーミア!」

 

「これは…早くしないと

 本当に消えてしまう…!」

 

チルノ達のピンチを

 

どうにかせねばという

 

焦りとは反対に

 

身体が凍てついて動かない。

 

 

 

零王の放った氷嵐は

 

肉体を切り裂き

 

霊気を外に放出させた上、

 

氷漬けにすることで

 

実質行動不能に陥らせた。

 

 

 

あの攻撃に晒された者達は

 

凍てついた身体を

 

動かそうにも

 

霊気が足らず

 

形状を変化させて

 

抜け出す事もままならない。

 

 

 

零王

「小娘が…我を

 手こずらせるとはな。」

 

バラバラに砕け散った

 

テュールン・フィングが

 

剣状に復元され

 

零王の手元へと戻る。

 

 

 

零王

「些か面倒ではあるが

 我が直々にトドメを刺してやる。

 光栄に思うがいい。」

 

 

 

まさに独壇場。

 

一行には誰一人

 

動ける者は居ない。

 

 

 

チルノの元へ

 

ゆっくりとゆっくりと

 

零王の足が近づいてゆく。

 

 

 

零王

「まずは目障りな

 貴様からだ小娘。」

 

 

 

零王と同じく胴体に

 

風穴を開けられたチルノは

 

大量の血と霊気が漏れ出ていた。

 

仮に穴を塞いだとしても

 

再起は絶望的だろう。

 

 

 

零王

「…さらばだ人形よ。」

 

 

 

テュールン・フィングを

 

突き立てようとしたその時、

 

チルノの右手が

 

零王の足をがっしりと掴む。

 

 

 

チルノ

「…おまえの…

 目的は…なんだ…」

 

零王

「能力の使用に耐えうる肉体と

 完全な賢者の石を手にすることだ。」

 

チルノ

「…わっかんねー…」

 

零王

「?」

 

チルノ

「おまえの心が

 全く見えねーんだよ…」

 

零王

「であろうな。

 貴様のような小娘が

 我が崇高なる思想を

 理解しようとはあまりにも酷な事だ。」

 

チルノ

「ちげーよ。

 もしそうならなんで

 大ちゃんをいつまでも守ってんだ。」

 

ルーミア

「…!」

 

 

 

闘いの最中、

 

零王と一行の衝突により

 

大妖精はアヌトリプス=トゥリに

 

守護されていた。

 

 

 

無造作に飛んでくる

 

氷の破片や霊気の塊を

 

氷の蔓が撥ね除けていたのを

 

チルノは見逃さなかった。

 

 

 

大妖精の肉体を傷つけないよう…

 

守っていたのだ。

 

 

 

零王

「愚問だな。

 材料の品質を蔑ろにする

 錬金術士がどこに居る?」

 

チルノ

「…おまえは大ちゃんの

 カラダには興味無い…

 大ちゃんが持つ

 なんかスゴイ力が欲しいだけ…」

 

 

 

チルノは零王の足を

 

掴む力を強くする。

 

 

 

チルノ

「それなのにあんなに

 大事そうに守って…

 なんでなんだよ…!」

 

零王

「貴様のような左巻き…

 虫唾が走る…」

 

 

 

チルノの右肩に剣を突き立てる。

 

チルノ

「うああぁ!?」

 

ルーミア

「チルノ…!」

 

チルノ

「はぁ…安心しろルーミア…ッ…

 こいつには絶対…負けない…」

 

零王

「まだわからぬか。

 馬鹿を通り越して呆れたわ。」

 

追い撃ちとして

 

突き立てた剣を振り、

 

肉を抉り取るような動きをする。

 

チルノ

「うぐぅ…ああぁ!!」

 

 

 

アリス

「な…なんてことを…」

 

 

 

零王

「刮目せよ。

 この小娘の死に様を。」

 

 

 

パチュリー

「…ッ…」

 

パチュリーは凄惨な状況を

 

目の当たりにして

 

力を込めても

 

動くことが出来ない自分に

 

腹が立っていた。

 

 

 

チルノ

「…痛くねー…痛くなんか…」

 

チルノはそう言いながらも、

 

襲い来る激痛と共に

 

零王の足を掴んでいた手が

 

ずるりと落ち、

 

動かない事を確認した。

 

零王

「強がりも大概にせよ。

 もう貴様の右腕は動かぬ。

 次は左か?」

 

チルノ

「…やれるもんならやってみろよ…」

 

 

 

チルノの挑発は意味を成さず。

 

零王は無表情のまま躊躇無く

 

左肩に剣を突き立てる。

 

 

 

チルノ

「ぐあぁぁあああ!!」

 

ルーミア

「くッ…!」

 

ルーミアは思わず目を逸らす。

 

零王

「見せしめにもならぬ。

 貴様らの未来は

 我が奪ったのだからな。」

 

チルノ

「なに勝手に勝った気でいるんだ…

 アタイはこんなにピンピンしてる…」

 

零王

「その心意気は賞賛しよう。

 だが貴様はここまでだ。

 もはや我に抗う術を持たぬ。」

 

チルノ

「…へっへっ…それはどうかな…」

 

 

 

零王は剣を引き抜き、

 

チルノの胴体に開いた穴の

 

少し上に剣先を当てる。

 

零王

「笑止、状況を理解する

 思考能力も持たなかったようだな。」

 

 

 

剣先がチルノの皮膚に少し沈んだ

 

その時だった。

 

 

 

チルノ

「今だ! エーリ!」

 

 

 

零王

「…何…」

 

チルノの掛け声と共に

 

アヌトリプス=トゥリが輝きを放つ。

 

 

 

零王

「自律形態だと…

 我との接続が断たれたのか。」

 

 

 

大妖精が浮遊しながら

 

蔓から解き放たれ、

 

地面にゆっくりと寝かされる。

 

 

 

ルーミア

「大ちゃんが…」

 

にとり

「チルノが何かしたのか!?」

 

ルーネ

「いいや…違うね…」

 

 

 

零王

「猪口才な…」

 

アヌトリプス=トゥリは

 

拘束対象を失ったはずだが

 

形態を維持し続けている。

 

大妖精が囚われていた場所に

 

うっすらと影が見えた。

 

 

 

チルノ

「…アタイは…

 絶対に大ちゃんを助ける…

 どんな事をしても…」

 

 

 

チルノは自らテュールン・フィングに

 

突き刺さりながら身体を起こす。

 

 

 

零王

「…!」

 

 

 

チルノ

「だから…アタイは負けない!

 おまえに負けられないんだぁッ!!」

 

チルノから発せられた

 

凄まじい衝撃波に

 

零王はテュールン・フィングを

 

手放さざるおえない。

 

 

 

背中から剣が突き刺さった者と

 

胴体に二本の刃が突き刺さった者が

 

対峙するという

 

異様な光景がそこには広がっていた。

 

 

 

チルノ

「…エーリ! これで終わりにする!」

 

 

 

アヌトリプス=トゥリは

 

眩い光を放ちながら

 

大量の光粒となって崩れ去る。

 

 

 

空中に散りばめられた光粒は

 

チルノに吸収されていった。

 

 

 

零王

「…まさか…」

 

 

 

零王は目を見開き一歩後ろへ下がる。

 

 

 

チルノの肉体が一時実体を失い

 

テュールン・フィングが

 

音を立てながら地面に落ちる。

 

 

 

零王

「…ッ…」

 

それと同時に零王の胴体に

 

突き刺さったままだった

 

チルノの剣とルーミアの刃が

 

独りでに零王から離れる。

 

 

 

 

チルノが両手で

 

それぞれを掴み取った。

 

チルノ

「………」

 

ゆっくりと目を瞑り、

 

オーラのようなものを

 

徐々に発してゆく。

 

 

 

チルノ

「アタイが助けたいのは…

 ここのみんなや

 大ちゃんだけじゃない。」

 

 

 

目を見開き、

 

オーラを二本の刃に乗せる。

 

チルノ

「受け取れ! アタイの想い!

 そしてこれがエーリの想いも

 乗せた唯一無二の錬金剣だぁッ!!」

 

 

 

チルノが放った二発の斬撃は

 

零王の身体を

 

Vの字に斬り裂いた。

 

 

 

零王

「………痛み…か…」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イレギュラーが嫌いだった。

 

 

 

結果に影響するからだ。

 

 

 

大いなる母は

 

我の完全無欠の技術を買い

 

王を統べし者の座を与えた。

 

 

 

世界は美しく

 

彩られていたはずなのに

 

我はいつしか結果だけを

 

求めるように変貌していった。

 

 

 

 

 

 

過程は研究対象に過ぎない。

 

結果が伴わなければ

 

誰も我を認めてはくれない。

 

 

 

 

 

大いなる母が指し示す

 

レールの上を完璧に、

 

完全に走らねば

 

結果は出ないのだ。

 

 

 

 

我は結果に関係するもの以外を

 

全て遮断し、

 

己の殻に閉じこもった。

 

 

 

 

 

かつての友は

 

我を気遣ってくれた。

 

だが我はその全てを

 

自らの手で突き放した。

 

 

 

 

王としてあるべき姿なのだと

 

言い聞かせて。

 

 

 

 

 

力を持つ者は

 

それ相応の責務を負わねばならない。

 

 

 

 

 

アルス=マグナの贄として

 

我が肉体を失った時、

 

我を手に掛けた友は

 

苦悶に満ち溢れた顔を見せた。

 

 

 

 

 

その時に決意したのだ。

 

 

 

 

「大いなる母を滅ぼし

 ありとあらゆる手段で

 世界を解放する

 『救世主』となってみせると。」

 

 

 

 

 

 

 

だが、我がそれを

 

果たす必要はもう無いのだろう。

 

 

 

 

 

イレギュラーの塊とも言える

 

人形が…いや…彼女がきっと…

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

零王

「……ッ…」

 

零王は膝をつく。

 

 

 

チルノ

「はぁ…はぁ…はぁ…」

 

その様子を息を荒げながら

 

見届けるチルノ。

 

 

 

零王

「そうか…救世主は

 既に…そこに居たのだな。」

 

 

 

無表情の零王が

 

初めて笑みを浮かべた瞬間だった。

 

 

 

チルノ

「…!」

 

 

 

エーリ

(そうだよ…チルノは

 わたしを救い出してくれたの…

 大いなる母のレールから…)

 

零王

「ふざけた小娘だ…

 創造主に逆らう

 人形が何処に居る…」

 

エーリ

(まるでどこかの誰かさんみたい…)

 

エーリの姿はチルノにしか

 

見えていなかったが

 

零王の肩に手を置いて

 

今にも同化しようとしていた。

 

 

 

チルノ

「…エーリ…!」

 

エーリ

(大丈夫だよチルノ…

 わたしは彼女と一緒に行くから…)

 

チルノ

「ど、どこに…」

 

エーリ

(みんなが見えるところだよ…)

 

 

 

言葉の意味はわかっていなかった。

 

 

 

それでもエーリが

 

どこか遠くへ行ってしまう…

 

チルノはそう感じ取っていたのだろう。

 

 

 

チルノ

「だめだ…やっぱりだめだ…!」

 

エーリ

(欲張りさんだねチルノは…

 でもそういうところ…好きだよ…)

 

チルノ

「…エーリ…」

 

 

 

エーリは零王の肉体へと

 

完全に取り込まれる。

 

 

 

 

零王

「…ありがとう…

 私の大切なものを…

 守ってくれて…」

 

 

 

チルノ

「っ…!」

 

チルノは残りの力を

 

振り絞り、零王に向かって駆け出す。

 

 

 

そして力強く抱きしめる。

 

 

 

チルノ

「さよならみたいに言うなよ!

 ずっとアタイと一緒に居ろよ!」

 

零王

「…ごめんね…それは出来ない…

 わたし達の役目は終わり…

 あとは…今を生きるあなた達の役目…」

 

チルノ

「…役目なんて…

 そんなの…そんなのは…!」

 

零王は一度ルーネへ視線を向ける。

 

ルーネ

「………」

 

ルーネは目を細めた後、

 

零王から視線を逸らす。

 

零王

「チルノ…生きて…

 あなたなら…きっと…」

 

零王の肉体が徐々に崩れていく。

 

チルノ

「あ…あぁ!」

 

風にあおられていく

 

零王を構成していた光粒を

 

チルノは必死に掴もうとする。

 

 

 

零王

「…ありがとう…チルノ…」

 

 

 

 

 

 

 

チルノが抱きしめていたものは

 

光粒の群れとなって何処へと

 

消えていった。

 

 

 

 

一行はその様子を黙って見守る。

 

 

 

チルノ

「…エーリ…ありがとな…」

 

チルノはアヌトリプス=トゥリが

 

あった場所に倒れ込む大妖精を見ながら

 

その場に倒れる。

 

 

 

 

 

ルーミア

「…!」

 

ルーミアは苦痛に耐えながら

 

チルノを抱き上げる。

 

ルーミア

「チルノ…! しっかり!」

 

揺さぶると少し目を開く。

 

チルノ

「…ルー…ミア…」

 

ルーミア

「…大丈夫…か?」

 

もちろん、その場に居た者達は

 

誰一人無事ではない。

 

ルーミア自身もなぜ動けるのか

 

不思議なほど負傷しているのだ。

 

 

 

大妖精

「…ん…チルノ…ちゃん…」

 

 

 

大妖精は意識が戻り、

 

ゆっくりと起き上がる。

 

 

 

視線を向けた先には

 

瀕死のチルノとルーミアの姿。

 

 

 

大妖精

「…チルノちゃん…ルーミアちゃん…!」

 

目を見開いて二人の元へ駆け寄る。

 

 

 

ルーミア

「大…ちゃん…チルノが…」

 

大妖精

「チルノちゃん!?

 そんな…こんなになるまで…」

 

チルノ

「…ごほ! けほっ!」

 

吐血と共に胴体の

 

塞がり切っていない穴から

 

大量の血が垂れる。

 

ルーネ

「霊気を外に漏らし過ぎたようだ…

 肉体の再生と構築が間に合っていない。

 このままだと消えてしまうな…」

 

大妖精

「どうにか出来ませんか!?」

 

ルーネ

「出来ない事はない。

 肉体に刺激を与えない

 最小限の霊気を送り

 再生を補助すればね。」

 

大妖精

「私の霊気を使ってください!

 お願いしますッ!!」

 

ルーネ

「だめだ。」

 

にとり

「なら私のはどうだ…」

 

アリス

「私のもチルノにあげるわ…

 元を言えば私達が

 守ってあげられなかったから…」

 

パチュリー

「それを言うなら

 私の落ち度でもあるわ。

 こっちも使って頂戴。」

 

「私もなんだかんだ

 助けられたし…」

 

ルーミア

「…使えるなら…」

 

どうにか身動きが取れるまで

 

回復した一行は

 

チルノの元へ集まっていた。

 

ルーネ

「他者の霊気を注ぎ込むというのは

 想像以上に危険だ…

 特に今のチルノちゃんは

 ごくわずかな影響で

 バラバラに崩壊しかねない…」

 

ルーミア

「…!

 それなら…さっきチルノが

 やったみたいに

 霊気そのものを変えて…」

 

ルーネ

「あれは逆効果だ。

 力は手に入るだろうが

 肉体は耐えられない。」

 

大妖精

「チルノちゃん…

 私…どうしたら…」

 

ルーネ

「方法は一つだけある。

 チルノちゃん自身のあるものを

 チルノちゃんの

 霊気に変換する方法。」

 

パチュリー

「あるもの…とは?」

 

 

 

 

 

ルーネ

「『記憶』だよ。」

 

 

 

 

 

 

それを聞き一同は固まる。

 

大妖精

「それって…つまり…

 記憶を失う代わりに…

 チルノちゃんを…」

 

ルーネ

「ああ…そうさ…

 でもそれ以外に

 有効な手段は存在しない。」

 

ルーミア

「…」

 

大妖精

「…お願いします。」

 

にとり

「い、いいのかい?」

 

大妖精

「チルノちゃんが

 消えちゃうくらいなら…

 記憶を失ってても

 生きてて欲しいんです…」

 

ルーミア

「私も同じだ…」

 

アリス

「二人とも…」

 

パチュリー

「尊重しましょう…

 この子達も本気よ…」

 

ルーネ

「本当にいいんだね?」

 

大妖精

「はい、チルノちゃんは…

 こうなることをわかって

 それでも私を守ってくれました。

 例え記憶を失っても…

 私はチルノちゃんのともだちで

 あり続けたい…

 そのためにはチルノちゃんが

 生きててくれないと…だめなんです。」

 

ルーミア

「大ちゃん…」

 

大妖精

「二人とも…ありがとう…

 皆さんも本当に

 ありがとうございました。」

 

ルーネ

「…わかった…」

 

周囲の景色が森の奥地に戻る。

 

上には星空が広がっている。

 

 

 

チルノ

「だ…い…ちゃ…」

 

 

 

大妖精

「!?」

 

 

 

チルノは今にも息絶えそうな

 

枯れた声で大妖精を呼ぶ。

 

 

 

大妖精

「チルノちゃん!」

 

 

 

チルノ

「あ…たい…

 忘れ…たく…ないよ…」

 

 

 

手を強く握りしめる。

 

 

 

大妖精

「…チルノちゃん…

 私も…忘れて欲しくないよ…

 みんなの事も…忘れて欲しくない…」

 

 

 

チルノ

「…ぅ…ん…」

 

 

 

大妖精

「チルノちゃん…大好きだよ。

 やんちゃなところも…

 悪いことは悪いって言うところも…

 ともだちを大切にするところも…

 みんな…みんな大好きだからね…」

 

 

 

チルノ

「…大…ちゃ…あた…い…も…」

 

 

 

大妖精はこみ上げる想いを

 

必死に堪えながら

 

精一杯の笑顔を向ける。

 

 

 

大妖精

「また一緒に…たくさん遊ぼうね…

 今度はたくさんの人達と…

 みんなで一緒に…」

 

 

 

チルノ

「………」

 

 

 

チルノは僅かに頷いた。

 

 

 

大妖精

「…おやすみなさい…チルノちゃん…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大妖精

「私の大切な『救世主(ともだち)』…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

エーリ

「…」

 

 

 

エーリが目を覚ますと

 

そこには満天の星空が広がっていた。

 

 

 

エーリ

「…ここは…チルノ達は…」

 

大妖精

「主様。」

 

 

 

隣から大妖精の声が聞こえる。

 

 

 

エーリ

「ニア…?」

 

大妖精

「どうですか…?

 相変わらず綺麗ですよね…」

 

エーリ

「…」

 

大妖精

「主様? どうかされたのですか?

 『約束』したじゃないですか。

 また一緒に星空を見に行くと…」

 

 

 

エーリ

「う…ぁぁ…うぁあああんっ!」

 

 

 

泣き崩れるエーリを見て

 

大妖精は一瞬目を丸くしたが、

 

優しくエーリを抱きしめる。

 

 

 

大妖精

「主様、ご安心ください…

 もうあなたを縛るものは

 ございませんよ…」

 

 

 

エーリ

「うん…うん…!」

 

 

 

号泣と共に頷き返す。

 

 

 

 

 

 

発光する蟲が暗闇を青く彩る。

 

 

 

 

少女の涙から哀しみは失せ

 

喜びの色に染まる。

 

 

 

 

星々がまるで二人を祝福するように

 

夜空に煌めいていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「ふーん…そうなったわけね…」

 

リゾート…大勢の人々が

 

海で遊戯に勤しんでいる観光地。

 

太陽が照りつける砂浜

 

パラソルの影で

 

サマーベッドに寝転がりながら

 

水晶を眺める女性。

 

 

 

 

セミロングの青髪に

 

赤と白を基調とした

 

クロス・ホールター・ビキニを着ている。

 

蒼い瞳で水晶を覗き込むその様は

 

まるで玩具に興味津々な子供のようだ。

 

 

 

 

彼女はヘカーティア・ラピスラズリ。

 

三界の地獄を司る女神である。

 

 

 

ヘカーティアが寝転がっている隣に

 

もう一つのサマーベッドがあり、

 

そこにも女性が横になっていた。

 

 

 

そちらは腰辺りまで伸びた

 

真っ白なロングヘアーに

 

ヘカーティアと色違いで

 

紫色を基調にした水着を着ており

 

サングラスをしている。

 

 

 

ヘカーティア

「ちょっとえばー

 これなかなか面白く

 なってるけど?」

 

ヘカーティアは水晶を覗きながら

 

隣の女性に言い放つ。

 

???

「見ている。

 エーリが逝ったようだな。」

 

ヘカーティア

「悲しくないわけ?」

 

???

「なぜ悲しむ行為が必要なのだ?」

 

ヘカーティア

「だって曲がりなりにも

 あなたの育てた子供じゃないのよ?」

 

???

「子供…か…

 問題児ばかりで使い物にならぬ。」

 

ヘカーティア

「あ、でもあの子は新入りよね。」

 

???

「映姫か…扱いづらいものよ。

 閻魔であるならばとは

 期待していたのだがな。」

 

ヘカーティア

「あら、えばーが

 期待なんてするのね?

 木偶人形だと思ってたのに。」

 

???

「勘違いするなよ。

 私は管理の為だけに

 創られた存在。

 結果を期待しただけに過ぎない。

 そこには何の感情も

 抱いていないのだ。

 故に木偶人形という認識で

 なんら問題は無い。」

 

ヘカーティア

「…本当に堅くて

 嫌になっちゃうわ…

 まるで『やつら』を

 見ている気分…」

 

???

「今回はイレギュラーが過ぎる。

 慎重に出ねばならぬようだ。」

 

ヘカーティア

「はいはいそうね…そういえば

 これって何番だっけ?」

 

???

「3911。」

 

ヘカーティア

「三千台は結構優秀じゃない。」

 

???

「お前はイレギュラーを

 優れたものだと

 思っているということか?」

 

ヘカーティア

「なんでもかんでも

 ルールに則れば良いって

 わけじゃないわ。」

 

???

「そうか、頭の片隅に入れておこう。」

 

 

 

ヘカーティアの覗き込む水晶には

 

ルーネに治療されるチルノが映る。

 

 

 

ヘカーティア

「吉と出るか凶と出るか…

 もっと楽しませてもらおうかしら♪」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

翌日、ルーネはにとりと共に

 

人里外れの一本桜がある墓前に来ていた。

 

 

 

 

 

にとり

「一応感謝するよ。

 チルノをあそこまで治してくれて。」

 

ルーネ

「君もチルノちゃんに

 負い目を感じているのかい?」

 

にとり

「零王の攻撃を侮っていたのは事実さ。

 もっと備えていれば…」

 

ルーネ

「たらればはほどほどにしておきなよ。

 じゃないと『彼女』みたいになるよ。」

 

にとり

「…!」

 

ルーネは墓に花束を供える。

 

にとり

「君は…河水なのかい?」

 

ルーネ

「そうとも言えるし

 違うとも言える。」

 

にとり

「私の事も知っているのはどうしてだい?」

 

ルーネ

「記憶を受け継いでいるからね。

 君の事もよーくわかったよ。

 胸囲が彼女より…」

 

にとり

「ああああああああああああ

 それで?

 記憶は持ってるけど

 河水とは別人なんだよね。」

 

ルーネ

「その認識で問題無いよ。」

 

にとり

「…そっか…はぁ…」

 

ルーネ

「がっかりしたかい?」

 

にとり

「ううん、なんかちょっと

 ホッとしたんだ。」

 

ルーネ

「おや、どうして?」

 

にとり

「本当に河水だったら

 どうやって接すればいいのか

 わかんなくてさ…

 『生きる理由』だなんて

 大口叩いてしまったけど

 到底そんなのにはね…」

 

ルーネ

「…彼女にとっては

 いつも通りで

 よかったんじゃないかな。

 もっとも、この先

 会える機会があるとは思えないが。」

 

にとり

「え?」

 

ルーネ

「ところで河城にとり。

 君に提案したい事があるんだけど…

 聞いてくれるかな?」

 

にとり

「あ、あぁ…聞くよ。」

 

 

 

 

 

ルーネ

「私の『復讐』に協力する気はないか?」

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

チルノはルーネの処置によって

 

肉体が万全な状態まで修復された。

 

 

 

しかしその精神は

 

身体を限界まで酷使した影響からか

 

目覚めるのに時間がかかる。

 

 

 

大妖精

「…こうやって…チルノちゃんの

 寝顔を見てると…安心する…」

 

ルーミア

「…大ちゃん?」

 

大妖精

「…ごめんなさい…」

 

 

 

己の行動が引き起こした事態。

 

主と友の間を彷徨った結果だ。

 

 

 

大妖精はひたすら

 

自身を責め立てていた。

 

 

 

ルーミア

「………」

 

掛ける言葉に困っていた。

 

 

 

というのも

 

大妖精の捜索を

 

途中で辞めていたら

 

取り返しのつかない事態に

 

発展していた

 

可能性が高いからだ。

 

 

 

辞めていれば

 

零王が目覚める事も無く、

 

チルノが自らを犠牲にすることも

 

無かったのかもしれないが

 

代わりに大妖精がどうなっていたか…

 

 

 

ルーミアはただただ

 

チルノに身を寄せて泣き崩れる

 

大妖精の姿をそっと

 

見守る事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

数日してチルノが目を覚ました。

 

大妖精

「…おはよう…チルノちゃん…」

 

チルノ

「………」

 

その場には零王との決戦の場に

 

居た者達の他、

 

霊夢や魔理沙も居合わせていた。

 

 

 

チルノは一人ずつ顔を確認している。

 

 

 

大妖精

「…覚えて…ないよね…」

 

チルノ

「…いた…い…」

 

頭痛に苛まれているようで

 

額を抑えている。

 

大妖精

「…大丈夫…?」

 

チルノ

「う…ん…」

 

一同は静かに二人の様子を

 

見守っていた。

 

チルノ

「ルーミア…みんな…

 無事…なの?」

 

大妖精

「…!」

 

記憶を失ってはいなかった。

 

 

 

大妖精

「…良かった…チルノちゃん…

 本当に良かった…ッ!」

 

 

 

 

 

そう思った。

 

 

 

チルノ

「あなた…は…だれ?」

 

 

 

大妖精

「!?」

 

 

 

 

 

チルノは大妖精との

 

記憶だけを失っていた。

 

 

 

 

 

 

大妖精の事を

 

思い出すという行為を

 

無意識に拒否しているのだった。

 

 

 

他の者達はしっかりと…

 

 

 

エーリの事さえ覚えていた。

 

 

 

大妖精だけを記憶の底に

 

封じ込めていたのだ。

 

 

 

ルーネは原因を

 

『限界を越えた痛みに対する

 反射的な拒否反応』

 

とした。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

数日後…

 

 

 

チルノと大妖精の作業場となった

 

霧雨魔法店の二階にて。

 

 

大妖精

「チルノちゃん居る?

 次はこの依頼が…」

 

チルノ

「あ、大ちゃん!

 ごめんね、ちょっと今

 手が離せなくて…

 良かったら来てくれる?」

 

大妖精

「はーい。」

 

チルノは錬金術士としての

 

才能を開花させ、

 

アリスやルーネからの指導もあり、

 

幻想郷の至る所から依頼が

 

舞い込むほど人気になっていた。

 

 

 

ルーミア

「…お疲れ様、大ちゃん。」

 

大妖精

「ルーミアちゃんもお疲れ様。

 どう? チルノちゃん。」

 

ルーミア

「…バカじゃなくなった…」

 

ルーミアは眼鏡を外し、

 

大妖精に微笑みを向ける。

 

大妖精

「あはは…そっか…」

 

ルーミアは錬金釜と作業台を

 

行き来するチルノを

 

サポートするため、

 

同じ部屋に大きめの机を

 

持ち込み、書類や資料の整理、

 

依頼も管理している。

 

小鈴に頼み込んで

 

多くの文字を読めるようになった。

 

 

 

チルノ

「おまたせ!

 いつも悪いね二人とも…」

 

大妖精

「ううん。

 調子は良さそうだね。」

 

チルノ

「二人がサポートしてくれてるから

 とっても捗ってるよ。

 大ちゃんも今度やろっか。

 その時はわたしが手伝うから。」

 

大妖精

「あ…いや…私はいいかな…

 ちょっと錬金術は…」

 

ルーミア

「………」

 

大妖精の表情が異様に暗くなる。

 

ルーミアはその様子を見逃さなかった。

 

チルノ

「そっか、わかった。えっと…

 あ、パチュリーからのもあるんだね。」

 

ルーミア

「チルノ、悪いが少し外すぞ。

 大ちゃんも借りる。」

 

チルノ

「え、うん。いいよ?」

 

大妖精

「る、ルーミアちゃん? ちょっと…」

 

ルーミアは大妖精の手を引いて

 

部屋を後にする。

 

 

 

 

 

 

 

ルーミア

「…本当に大丈夫なのか…」

 

大妖精

「…な、何のこと?」

 

ルーミア

「あれからずっと…

 落ち込んだまま…

 チルノの前だからって

 無理をし過ぎだぞ。」

 

大妖精

「無理なんかしてないよ…」

 

ルーミア

「…私にはそうは見えない…」

 

大妖精

「変なこと言わないでよ。

 せっかくチルノちゃんが

 戻ってきたのに…」

 

大妖精はルーミアに

 

掴まれた手を振り払う。

 

ルーミア

「大ちゃん…」

 

大妖精

「私は二人が

 居てくれさえすればいいの。

 それが私の幸せなんだよ?

 確かにチルノちゃんは

 私の事を思い出したくないの

 かもしれないけど…

 それなら新しい思い出を

 作っていけばいいんだよ。」

 

ルーミア

「嘘が下手だ…」

 

大妖精

「もういいでしょ? 戻ろう?

 チルノちゃんが心配しちゃう。」

 

 

 

ルーミアは二階に戻っていく大妖精を

 

黙って見送る。

 

 

 

その背中から感じ取れるものは

 

以前の大妖精とは全く異なり

 

冷え切っていた。

 

 

 

実際、ルーミアは

 

掴んだ手から温もりが

 

感じられなかった事に

 

内心驚いていた。

 

 

 

ルーミア

「…」

 

 

 

表向きは何一つ変わっていない。

 

それなのにまるで

 

別人のように感じる。

 

 

 

チルノだってそうだ。

 

 

 

目覚めてから一度も

 

言い合いになっていない。

 

 

 

ルーミア自身、

 

以前ではそこまで

 

抱く事のなかった感情に

 

困惑している。

 

 

 

チルノ

「ルーミア?」

 

ルーミア

「…!」

 

二階からチルノが顔を出した。

 

大妖精だけが戻ったのを

 

不思議に思ったのかもしれない。

 

ルーミア

「チルノ…」

 

チルノ

「どうしたの?

 何か困ったことがあったら

 わたしに言ってよ。」

 

ルーミア

「…覚えて…いるか?

 よく口喧嘩をしていたこと…」

 

チルノ

「え? うん。

 なんだか懐かしいけど

 ちょっと嫌な思い出かな…

 ルーミアを傷つけたかもしれないし…」

 

ルーミア

(やはり違う…

 嫌な思い出? そんなはずない…)

 

チルノ

「ごめんね?

 あの時は色々迷惑かけたね

 …うわっ!?」

 

チルノに抱きつく。

 

ルーミア

「チルノ…私は…

 どうすればいい…

 どうしたら…おまえと…

 大ちゃんを取り戻せる…」

 

チルノ

「る、ルーミア…?」

 

今にも泣きだしそうな声で

 

ルーミアは問う。

 

チルノは困惑しつつも

 

優しく背中を擦る。

 

チルノ

「…や、やだなぁルーミア。

 大ちゃんもわたしも

 ここに居るよ?」

 

ルーミア

「違う…違うんだ…私は…!」

 

チルノ

「ルーミア…」

 

 

 

 

役に立ちたい。

 

どんな形であれ

 

チルノと支え合う関係を

 

築きたいと思っていたルーミア。

 

 

 

願いは叶ったはずだった。

 

それでも満たされていなかった。

 

 

 

ルーミア

(今のチルノは私の事を

 ちゃんと見てくれてる…

 鬱陶しいほどにきちんと…

 でもそれじゃあ彼女は…)

 

 

 

感じる違和感。

 

驚くべきはそれに対して

 

好意とも呼べる感情が

 

同時に湧き出ていること。

 

 

 

ルーミア

(私は結局チルノに

 何を求めているんだろう…)

 

 

 

ルーミア自身、

 

このような事で

 

頭を悩ませるとは

 

微塵も思っていなかった。

 

 

 

チルノ

「ルーミア、あのね。」

 

優しく手を握られる。

 

ルーミア

「…?」

 

チルノ

「ルーミアが無理をして

 倒れた時…胸の奥が

 ズキズキって苦しくなったの。」

 

恐らくパチュリーから

 

錬金術の本を借りた時の話だ。

 

チルノ

「だから二度とあんな

 思いをしないために…

 ルーミアの事を

 しっかり守らなきゃって

 心に決めてたんだ。

 でも…この前ルーミアを

 守り切れなくて…」

 

ルーミア

「違う。」

 

チルノ

「え?」

 

ルーミア

「私は確かにお前に守られた。

 私よりもよっぽど

 傷ついていたのに

 お前は身を呈して

 守ってくれた…」

 

自分でも驚くほど

 

言葉がすらすらと出てきた。

 

ルーミア

「だから…私は

 お前についていく…

 足手まといにはならないと

 あの時誓った…」

 

チルノが握ってきた手を

 

力強く握り返す。

 

ルーミア

「でも…上手く言えないけど…

 変なんだ…チルノが

 チルノじゃないみたい…」

 

チルノ

「わたしが…わたしじゃない…」

 

ルーミア

「…大ちゃんの様子が

 変になったのも

 チルノが変わった時から…」

 

チルノ

「…やっぱり…

 わたしが大ちゃんを

 覚えてなかったから…」

 

ルーミア

「記憶を失うのは

 どうしようもなかった…

 それは覚えているだろ…」

 

チルノ

「でも! 大ちゃんが

 一番の友達だって

 皆が言ってるのに

 わたしが大ちゃんだけを

 忘れてるなんて…

 あまりにもひどいよ…!」

 

ルーミア

「…元々…大ちゃんも

 わかってた…

 その上で決めた事だ…」

 

本当は言いたくなかった。

 

チルノが傷つく姿を

 

見たくなかったはずなのに。

 

 

 

チルノ

「わたしが大ちゃんだったら

 絶対に耐えられない…!」

 

 

 

それ以上に大妖精の

 

瞳が魂の抜けたように

 

荒んでいるのを

 

見ていられなかった。

 

 

 

ルーミア

「すまない…」

 

チルノ

「ううん…ごめんね…」

 

 

 

チルノは何も悪くない…

 

わかっていたのに。

 

 

 

力があれば…

 

零王に真っ向から

 

立ち向かえる力があれば…

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

これは私への罰。

 

 

 

チルノちゃんを犠牲にして

 

主様を選ぼうとした私への…

 

 

 

誰も悪くない。

 

全ての元凶は私だった。

 

 

 

大妖精

「…」

 

こうして窓から外を眺めても

 

あの時の光景が甦る。

 

 

 

チルノちゃんは私を

 

何がなんでも守るという

 

揺るがない意志で

 

見事に守り切った。

 

 

 

それに比べて私は

 

ずっと揺れていたんだ。

 

 

 

口先ではともだちを騙って、

 

いざとなれば

 

主様と行ったり来たりを

 

繰り返して

 

半端者になっていた。

 

 

 

誰も私を責めない。

 

誰も私を否定してくれない。

 

 

 

逆にそれがとてつもなく痛い…

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

美しい氷の城。

 

凍てついた玉座。

 

その前にあぐらをかいて

 

座るルーネ。

 

 

 

ルーネ

「世界は美しいものだと

 思っていたんだ。

 地平線に落ちてゆく日…

 七色の山並み…

 どこまでも広がる水溜まり…

 何もかもが新鮮だった。」

 

ルーネの言葉に玉座は静寂を返す。

 

ルーネ

「エーリ、私はいつしか

 君と旅をしたかった。

 何の目的も持たずに

 日が出ているうちは

 広大な野原を進み

 日が落ちた後は

 星空をじっくりと眺める。

 私はそういう旅をしたかった…」

 

ルーネは黙り込み、

 

しばらくして

 

ゆっくりと重い腰を上げる。

 

 

 

ルーネ

「君は本当に、

 実に素晴らしい人形だったよ。」

 

踵を返し、

 

凍りついた玉座の間を後にする。

 

 

 

 

 

ルーネ

「ご苦労様…今まで本当に…」

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

アリス

「珍しいわね…」

 

魔理沙と家でお茶会の約束を

 

していたアリス。

 

魔理沙が一向に現れない事に

 

不安を感じていた。

 

アリス

「………」

 

大いなる母が裂空異変で

 

霊夢や自身を

 

操っていたのではないか

 

という見解で魔理沙は

 

激昂していた。

 

アリスにはすぐにわかった。

 

明らかに声色が変わっていた。

 

 

 

霊夢は特に気にしていない

 

素振りをしているが

 

魔理沙の瞳には何が映ったのか。

 

 

 

霧雨魔法店にも最近は

 

顔を出していないと聞く。

 

 

 

アリスは手にぎゅっと力を込める。

 

そして空を眺め続ける。

 

魔理沙が箒に乗って

 

やってくると信じて…

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

チルノ

「…大ちゃん?」

 

チルノ達が戻ると大妖精が

 

姿を消していた。

 

 

 

 

 

 

 

書き置きを残して。

 

 

 

 

 

 

 

「チルノちゃんは私が守る」

 

 

 

 

 

 

この一言が書かれた紙一枚。

 

チルノはポケットにしまい

 

今でも持ち歩いている。

 

 

 

 

 

 

 

幻想郷で姿が

 

見られなくなったのは

 

大妖精だけでは無かった。

 

 

 

複数の人物が

 

行方をくらましたのだ。

 

 

 

 

 

しばらく時が経ち、

 

気配も何も

 

感じ取れなくなった者達を

 

探すため、遂に巫女と

 

複数の妖が

 

大規模な捜索に乗り出す。

 

 

住人が風に雲が散るように、

 

すっかりと消えてなくなって

 

しまったことから

 

残った住人の間では

 

『雲散異変』と囁かれることとなる。

 

 

 

 

チルノ

「ルーミア。」

 

ルーミア

「ん?」

 

チルノ

「大ちゃんは…

 必ず幻想郷に居る…

 気配とかじゃないけど

 心から感じるの。」

 

ルーミア

「場所の見当は?」

 

チルノ

「なんとなくで

 どこかまではわからない…

 でもこの捜索で

 見つかる気がする…」

 

ルーミア

「そうか…信じる。

 いや、信じたい。」

 

チルノ

「…大ちゃんだけじゃなくて

 みんなも見つかるといいな…」

 

 

 

大妖精の他に

 

魔理沙、にとり、ルーネも

 

同じく行方不明となっている。

 

 

 

またチルノ達とは

 

関わりの無かった者達も

 

消えたとのことだ。

 

 

 

故に博麗神社に召集されたのは

 

地上の者だけでは無く、

 

地底の者達も捜索に加わる。

 

 

 

 

 

 

 

 

チルノ

「大ちゃん…絶対に見つけるから…

 それで…ちゃんと話をしなきゃ…」

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

一方、大妖精が

 

身を置いていたのは

 

蒼い氷に包まれた部屋で

 

白を基調とした机に向かっていた。

 

 

 

その姿は喪服のような黒い衣に

 

身を包み、リボンを外し

 

髪を後ろに伸ばしており

 

以前の面影は消えていた。

 

 

 

大妖精

「………」

 

虚ろな瞳は

 

開かれたノートの

 

真っ白なページを凝視している。

 

 

 

ルーネ

「ごぎげん…」

 

部屋の扉を開き、

 

入室しようとしたルーネの胸元に

 

白光を放つ槍が突き刺さる。

 

 

 

そのまま槍先が

 

廊下の壁に突き刺さり、

 

張り付けにされる。

 

ルーネ

「…よう…っと…

 ずいぶんなご挨拶だね。

 何をそんなに怒っているんだい。」

 

大妖精

「怒る? 私が?

 私はただ城への侵入者を

 排除しようとしているだけです。」

 

ルーネ

「魔法使いや河童君たちはいいのに

 私だけ仲間外れかい?

 なんだか悲しいよ。」

 

大妖精

「…」

 

槍が消失し、

 

ルーネは解放される。

 

槍で貫かれたはずの位置には

 

不思議と傷が全く無い。

 

殺傷力の無い技だったようだ。

 

大妖精

「あなたは前からそう…

 ヒトを騙し…利用し…

 だから嘘ばかり…

 嘘しか吐けない醜い化け物…」

 

ルーネ

「…あはは…化け物か。

 聞き飽きた言葉だ…」

 

 

 

 

二人はそのまま

 

並んで廊下へ歩き出す。

 

 

 

大妖精

「準備が整ったんですか?」

 

ルーネ

「ああ、これで『異変』を

 起こすことが出来そうだよ。」

 

大妖精

「チルノちゃんと

 ルーミアちゃんは

 対象では無いですよね。」

 

ルーネ

「もちろん。

 無駄な犠牲を現段階で

 出したくは無いからね。」

 

 

 

凍てついた廊下に

 

二人の足音が響き渡る。

 

 

 

大妖精

「…ルーネさん。」

 

ルーネ

「なんだい?」

 

大妖精

「チルノちゃんに手を出したら、

 私はあなたを許しません。

 あなたが私の恩人だとしても。」

 

ルーネ

「ふふ…覚悟しておくよ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ルーネ

「さぁ、『復讐(ゲーム)』を始めよう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新たな異変

 

 

 

その予感をチルノは感じながら、

 

大妖精と他の行方不明者達の

 

捜索に乗り出すのだった。

 

 

 

to be continued ~




【皆様お疲れ様です】
ここまで読み進めていただきありがとうございました。今回のEP8にて前半となる『心を得し人形編』は完結です。当初は100UAくらいを目指していたのですが1000UAも達成させていただけて嬉しいです。嬉しくて8回爆発して我が家の電子レンジが巻き添えを喰らい故障しました。

EP9から後半に入っていきますが正直、ここから先は某少年漫画並みにインフレしていきますし、リョナい展開もストーリーの関係上、詰め込んでいるので耐性がある方でないと厳しいと思います。



改めてではございますがここまで書くことが出来たのは読者の皆様、ニコニコ動画の視聴者様、フォロワーの皆様、友人、家族、私に関わる全ての方のおかげです。深く感謝すると共に今後ともご指導ご鞭撻のほどお願い出来ればと思います。

作品に対するご意見、ご質問がありましたら遠慮なく連絡いただければ幸いです。

非常に多忙な昨今ですがプライベートでは最優先させていただきます。



それではちょっとした設定やらなんやらをカキカキします。今回は多めです。



【零王とエーリの関係性について】
同一人物とされているのに性格も異なっていて挙句には別々に話しているので読者様の中には気づいていた方も多いかとは思いますが二重人格です。元からあった人格はエーリで後から新たに生まれたのが零王です。原因としては『大いなる母』の下で結果以外の物を徹底的に排除していく上で、自身の感情をどうしても排除する事が出来ず、無理に抑え込もうとした事で精神崩壊を招き、どうにか元の人格を守るために零王という人格が生まれました。人形としてチルノを創り出した際に二つの人格を別々にリボンへと封印したことで互いが混ざり合わずに別々の存在として独立することとなりました。



【霊気の互換性について】
妙にややこしくなっているので一応説明致します(Almaの作品に限った設定として)。霊気とは本来「存在そのものが放つ気」なのですが、これが『存在』によって各々構造が異なる概念であり、もちろん規格が異なる部品がハマらないのと同じで異なる『存在』の霊気を混ぜ合わせたり合体させる事は基本的に不可能なので互換性はありません。エーリはチルノとルーミアそれぞれの『霊気の一部』を錬金術によって一度『分解』し、彼女らに一番合う霊気の型を解析して『再構築』を行い二人の間を介して循環させるというとんでもない荒業をやってのけましたが、全く噛み合わないパーツを元に一つの装置を完成させるのと等しい、奇跡とも呼べる所業です。




【比那名居地子について】
言わずもがな天子ちゃんの幼少期。貧乳。他人に対しては滅茶苦茶礼儀正しいデキる子です。なお、薊と関わりを持った頃は『とある大災害』の後で母を失い、天人になるための修行中です。



【黒百合薊について】
百合は合字なのですが環境で打てないのでそのまま百合にしてます。貧乳。古の時代の人里にて妖怪と祭事に関連する物事全般を担う『御子』という役職についていました。巫女に近しい存在ではありますが当時は『白の巫女』と呼ばれる者が居り、彼女が国を担当しているのに対し薊は人里とその近辺のみを担当しているという違いがあります。妖怪とはよく交流していて特に妖精のエーリや大ちゃんと一緒に居る様子が頻繁に目撃されていました。『黒の御子』や『桜花爛漫』といった二つ名を持ち、人里に住む人達からも信頼されていたようですが…



【アヌトリプス=トゥリについて】
零王がかつてアルス=マグナの術式構築の過程で開発した巨木の姿の錬金設備です。ありとあらゆる錬金方法に対応し、零王のアトリエで長きにわたり活躍しました。原型は既に存在せず、零王は模造品を自らの力で具現化させ大ちゃんを素材として新たな肉体を再構築するための設備として運用しようと試みましたが、チルノに宿りチャンスを伺っていたエーリが自ら拘束される事で彼女に乗っ取られています。結果的にアヌトリプス=トゥリそのものが零王由来の膨大な霊気の塊であったため、それをエーリが利用してチルノの力へと変換されて消失しました。零王と蔓で繋がった『接続形態』と繋がっていない『自律形態』があります。



【ヘカ様について】
初登場が我々の世界によく似た惑星のリゾート地となりました地獄の女神です。わよんわよん言わなくて残念な方もいらっしゃるとは思いますが、幻想郷に居るヘカ様はきちんとわよんしてるのでご安心ください。傍観を決め込んでおり謎の女性と共にチルノ達を観察しています。(もちろん彼女が出たら色々と終了するので戦いませんが今後はちょろちょろと出てきます。)おっぱいでかい。



これくらいですかね。次回はいつ更新できるかわからないですが今後ともよろしくお願いいたします。

しつこいとは思いますがここまで読んでくださりありがとうございました!
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