ふすまの隙間から光が差す。もう朝らしい。
昨日は寝るのが遅かったため、僕はまだ寝たりなさを感じている。
大きな欠伸が出る。もう一度布団に入って惰眠を貪りたい。でも僕は居候の身だしなぁ。
そろそろ身体が全開に向かっている。僕もこの家の手伝いとかを始めないとな。療養のため、居候していると言っても流石に心苦しい。
でも、この眠気には勝てないな。今日の昼からでも……
「おっはよーユキ!」
「――うわぁ!!」
狗の耳が弾く様に跳ねた。いきなり音を立て開いたふすまの前には、同じ時間に寝たはずの彼女が。
「う、うどんげっ? お、おはよう」
「お、ちゃんと起きてるね。関心、関心」
布団畳むね、と言って部屋に入ってくる。
「あ、うん。お願いします」
良くわからないけど、なにか勢いがある。それに気負されてか、僕もそれ以上なにも言えない。
「そうだ。今日から、私もこっちでご飯を食べるから」
「え?」
「だって、ユキも片目での箸使いも上手になってきたし。ユキが食べて、私が食べてって時間の無駄でしょ」
それは言えてる。その方が時間効率も良いか。
「そだね。そうしよっか」
「うん。布団を片付けたら、用意するからね」
わかった、と言って、僕は寝巻から巫女服に着替える。早苗さんが守矢神社から持ってきてくれた、『ちゃんとした巫女服』だ。腋の部分が開いていたり、無駄に装飾が多かったり。それらが一切ない。普通の巫女服だ。ちなみに、袴の色は青。
髪を父様の形見である鈴のついた元結で、後ろ髪を高めに結わえる。
「そう言えばユキ、髪長いよね」
その行為を視てかうどんげが布団を押し入れに詰めながら言った。
「うん。女の子に見えなきゃいけなかったからね」
「そっか。切らないの?」
「今は現状維持かな。これより伸びてきたら、ちょっと切ろうかな」
自分の髪を触りつつ答える。
「あ、その時は私が切ってあげるよ」
「本当? ありがとう、助かるよ」
自分で切ると、稀に凄い失敗をする。だからこの申し出はありがたい。
布団で良く見えなかったが、右手で握りこぶしを作って、ナイス私っ、と言っていた。ないすって何だろう。
とりあえず、邪魔にならないよう、部屋の隅で正座をして朝ご飯まで待っているのだった。
「今日はね、庭の掃除と、薬品庫の整理があるんだけど、その間ユキは何してる?」
朝ご飯を食べている途中、うどんげは僕に予定を聞いた。
「特にする事は無いんだけど……」
そうだ、と僕は閃いた。
「ねぇ、うどんげ。そのお仕事、僕も手伝える事無いかな」
「ユキが?」
お味噌汁を飲んでいたうどんげは少しびっくりしたように顔を向けた。
「でもユキは居候って言っても療養の為なんだよ? まだ身体も治りきってないのに」
「ずっと何もしないってのも失礼だし、何もしなかったらまた筋肉痛とかになっちゃうよ。ねぇ、いいでしょ?」
僕はうどんげに両手を合わせてお願いした。
「うー……わかったわよぅ。とりあえず今日は庭の掃除を手伝ってもらうね」
「やったっ。ありがとう、うどんげ!」
「――っ! ど、どういたしまして……」
昨日の様にまた顔を真っ赤にして俯く。
「ま、まぁ一緒に手伝うなら一緒にいれる時間も延びるしね……」
「? 一緒がどうかした?」
「い、いいや、なんでもないよっ」
変なうどんげ、と思いつつも、僕は漬物を一口食べた。うん、丁度良い塩加減だ。
変なうどんげと言えば。僕は彼女を呼んだ。
「昨日、あの後走って逃げたじゃない。どうして逃げたの?」
そう言うと、彼女は視線を逃がす様に
「あ、あーっと……私も眠かったのよ」
目が泳いでいる。嘘だなぁ。
「……すいません、恥ずかしかったんです。だから逃げました」
正直に白状したうどんげ。それに対して僕は、
「恥ずかしかったって?」
「そりゃあ……き、キスが……」
……キス? ってなに? 僕は問い掛けた。
「き、ききキスってのはねっ……せっ、接吻の事よ……」
白い耳まで真っ赤になっている。僕も、うどんげの回答に、少し赤くなった。
「そ、そっか。そりゃ恥ずかしいよね」
そこから僕らは、無言でご飯を食べ続けた。話す言葉が見つからなかったのもあるけど。
「「ごちそうさまっ!」」
「……ぷっ」
「はははっ」
二人同時に食べ終わり、僕らは笑ってしまった。
「食器下げるの手伝うよ」
「そうね、一緒に行きましょう」
僕らは部屋を出て、台所を目指す。うどんげは箸やお盆を、僕は食器を。
二人仲良く肩を並べ歩く。その空から、僕らに向かって飛んでくる物体。それに気づいた僕はうどんげを呼びとめた。がそれが仇となった。
彼女は足を止めて僕の方を向いてしまったのだ。
――スコーン!
「なぁに? ユ――ぴぎゃ!!」
その物体は見事にうどんげの頭を直撃したのだった。彼女は真横に吹っ飛ぶ。
「う、うどんげ、大丈夫?!」
「ま、まぁなんとか……それより、なにが起きたのよ……」
僕が飛んできたものを指差すと、彼女はそれを拾い上げた。
「『文々。新聞(ぶんぶんまるしんぶん)』じゃない。号外かしら」
「あ。射命丸さんの?」
「あら、あの天狗を知ってるの?」
頷くと、僕は昨日取材された事を伝えた。
「へー、あの時にそんな事が。これで貴方も有名人ね」
うどんげが、三つ折りにされていた新聞を開き、目を通すと。
「な、なによこれぇぇぇえええ!!」
早苗side * * * *
朝、目が覚めると、身体にだるさを覚えた。それに少し寒い。
この頃、暇があるたびに永遠亭に足を運んでいたからか、休む事がなかった。それが体調として現れたのだろう。ふすまを開けて空を見る。太陽の位置が高い。
「……って、もう昼前じゃないですかぁ!」
私はすぐさま着替えて、台所に向かう。神奈子さまも諏訪子様もご飯を待っていらっしゃるだろう。
ドタドタと廊下を走っていると、丁度お二人が廊下を曲がり、私に気付いた。
「あ、早苗おはよー」
「早苗おはよう。もう昼になるけどね」
私は申し訳なさを感じつつも、お二人に挨拶をした。
「お二人とも、おはようございますっ! 今ご飯の用意をしますね!」
私はまた走って台所に向かおうとした。だが、右肩を神奈子様、左肩を諏訪子様に掴まれてしまった。
「いやー。朝ごはんも大事だけどさー」
と諏訪子様。
「そんなことより大事な事があるんだよ」
神奈子様がちらりと紙の束らしきものを見せてくる。これは、新聞?
「? ご飯よりも、ですか?」
「毎日永遠亭に行っていると思ったら、まさか、こういう事だったとは」
「神奈子の読みは合ってたんだねー」
「――! 貸して下さい!」
その台詞を聞いて、私は新聞を奪う様に貰い、記事に目を通す。
「な、ななななんですかこれぇぇぇぇぇええええ!!」
「「さぁ、洗いざらい吐いてもらおうか」」
私が解放されたのは昼過ぎになってからだった。
* * * * *
『永遠亭の兎、守矢の巫女 骨抜きにされる』
先日未明、永遠亭の住民が増えた、と情報が入った。にわかには信じがたかったのだが、その情報を頼りに記者は永遠亭に足を運ぶと、永遠亭の兎「鈴仙・優曇華院・イナバ」と守矢の巫女「東風谷 早苗」が、見知らぬ妖怪と仲よさげに話を交わしているのを発見。その後、その妖怪と話をする事に成功。彼に「永遠亭に住んでいるのか」と聞くと、確かにうなずいた。なんと本当に住民が増えていたのだ。記者は取材協力を頼むと快く引き受けてくれた。彼の名前は「鈴宮 雪正(すずのみや ゆきまさ)」齢は15である。彼の容姿は狗族らしき耳に、片目にはなんらかの傷、女性と見間違えるほどの可愛らしい顔。
(中略)
どうして永遠亭に住むようになったのかを聞いたが、はぐらかされてしまった。まだなにかあるらしい。記者はこれを機に彼を追う事を決める。
ちなみに、「鈴仙・優曇華院・イナバ」「東風谷 早苗」の両人は、彼と話している時は、とても楽しそうで、女の顔をしていた。
第一章 完
10話です。自他共に認める3日坊主の自分がまさか10話も書いてしまうとは。正直驚きです。これからも精進してまいります。ですが、亀更新はご容赦ください。
第1章が終わりました。1章はいわば、うどんげ章。次の章は誰がメインなのでしょうか(次回のサブタイトルでわかります)実はもう2章の途中までは書き終わっていたり。でも日を改めてまた自分の書いた文を見ると、所々に穴が。やはり見直しは必要です。
なお、「誤字脱字」「この表現おかしくない?」「○○ってなに?」等がございましたら、感想とともに記載して頂けると大変嬉しゅうございます。
〈軽い説明〉
元結…昔の日本語で『髪ゴム』