東方人妖期   作:黎悠明

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第二章 ~守矢の巫女と鈴宮の巫女~
第二章 ~守矢の巫女と鈴宮の巫女~


 鈴宮神社が襲撃されて3週間が経った。神社の所々が崩れ、廃屋と言っても仕様のないほどになってしまった。荒れ果てた境内に人影が二つ。一つは人。腰や肩ひもには色々な形の瓶や壺が下げられている身体つきの良い男。もう一つ。人の形をしているのだが、獣の様な耳が生え、白い尻尾が生え、手足には尖った爪がある。その獣が口を開いた。

 「――ふむ。ここに居るのも飽きてきたな」

 「そう言うな。次の場所を襲うのにも、蟲を育てなければ意味がない」

 「おぬしの僕は有能なのだが、そこが欠点だな」

 「仕方なかろう。万全の準備をしなければ、足元を掬われる」

 「そこには否定はしない。だが私は戦いたいのだ」

 「お前はそれしか能がないのだな」

 「元々そういう契約ではないか。おぬしは『禁じられた蟲』を作る書物を探す。私は戦う。この能こそが私の存在意義」

 「そうであったな。だが、この神社の書庫にもなかった。また次の場所を襲うまで」

 「ま、私は戦えればどこでも良い。少し腹が減った。動物でも狩ってこよう、おぬしのは?」

 「いただこう。私は此処で蟲を育てている」

 「わかった。行ってくる」

 獣は、森へ駆けた。凄まじい速さで、男の前から居なくなっていた。

 獣は走りながら、ふとあの時の少女を思い出す。匂いを追った。すると微かに同族の――戦狗の匂いがする。戦狗は笑った。

 

 「くたばらなかったか。一〇年後が楽しみだ」

 

*     *     *     *     *

 

 

~第二章~ 守矢の巫女と鈴宮の巫女

 

 

 「まったく、兎に角この記事を撤回してもらわないと」

 「う、うどんげっ。歩くの早いよ!」

 ズンズンと山道を歩くうどんげ。僕の声に、ごめん、と言って歩調を合わせてくれる。

 僕らは妖怪の山に来ていた。理由はもちろん、あの新聞だ。

 

 永遠亭で新聞に狙撃されたうどんげは記事を読むなり、「あんの天狗め」と言っていきなり走り出したかと思うと、薬品庫の整理を凄い速度でし始めた。それを見た僕は何も言わずに、外の掃除を始めた。箒はてゐちゃんが場所を教えたくれたので、探す事無く掃除をする事が出来た。

 掃除がひと段落した時、丁度うどんげが庭に出てきていきなり、

 「妖怪の山に行くわよ! 大丈夫、お師匠様には許可をもらったわ!」

 僕は半ば拉致の様な状況で、腕を引っ張られ迷いの竹林を抜けていた。

 

 まぁ、妖怪の山に行く前に、仕事を全て終わらせてから行くのは良い事だけど、僕を連れていく必要はあったのかなぁ。

 「とりあえず。まずは射命丸さんを探さないといけないよね」

 「その点は大丈夫。この山の中腹辺りに少し開けた集落があるのよ。多分そこに居るわ」

 斜面になった砂利道を二人で歩く。でも歩けど歩けど木ばかりで、里の様なものは一切見えない。

 慣れない坂道に頭を上下に動かしながら歩く。元結についた鈴が、リン、リンと小刻みに鳴る。

 「でもさ、もう歩いて、結構しない?」

 息が上がり、途切れ途切れに言葉を紡ぐ。

 「そう? まだ歩いて一時間くらいじゃない」

 やっぱり、この世界の住人はとても体力があるらしい。

 

 あれからまた三〇分ほど山道を歩いたが、一向に集落など見えて来なくて、流石に僕も足が動かなくなってしまった。僕はうどんげに休憩しようと申し出て、僕らは今、木陰で座って休憩している。

 「……もう足が動かない気がする」

 僕は木の幹に背中を預け、未だに上下する肩を落ち着かせている。

 「もうっ、軟弱だなぁユキは」

 「運動したのは三週間前で、まだ所々怪我も残ってて、今の今まで動けなかったのを知ってるうどんげが、それを言うんだね」

 ジトっとした目で彼女を見つめる。

 「まぁ、そうよね。ちょっと待ってて。川から水でも汲んでくるわ」

 「お願いするよ。僕は此処で休んでるね」

 了解と言って、うどんげは川があるであろう方向に進んでいった。

 身体が少し重い。久々の長距離の歩行、それも山道でだからか。僕はそれを治すかのように息を吐く。

 「またため息ですか? 幸運が逃げると言ったはずですよ」

 「うわぁ!」

 僕の頭上から声が聞こえた。見上げるとそこにはうどんげが会いたがっていた人の姿があった。

 「射命丸さん! ビックリさせないで下さいよ!」

 「あやや、それは失礼。でも妙な所で会いますね。此処は私達の住処の近くですよ?」

 いつの間にか、中腹近くまで来ていたらしい。僕は少し安堵した。

 「射命丸さんに会いに来たんです。こんな険しい山道を通って」

 会いたがっている本人は今川に水を汲みに行っているけど。

 「またまたぁ。ご冗談を。本当は東風谷さんに会いに来たのでしょう?」

 「え? どうして早苗さんが出てくるんです?」

 「おや、ご存じないので? 山頂に守矢神社があるのですよ」

 守矢神社の巫女とは聞いていたけど、どこに神社があるかなんて聞いてなかった。

 「今初めて知りましたよ。それなら後で会ってこようかな」

 「――って事は、本当に私に会いに……ですか?」

 射命丸さんは目を大きく見開いている。

 「ここらに知り合いは多くないです。貴方も知ってるじゃないですか」

 すると、彼女は顔を赤くして、

 「わたっ、私に会いに? ……そう言ってくれた殿方は貴方が初めてです……」

 真っ赤になって、語尾が小さくなっていき、最後の台詞はもはや聞こえないほどだった。

 「まぁ、用があるのはうどん――」

 「みつけたあああああああああぁぁぁあああああ!!!」

 いきなりの大声にビックリしながらも、声の先には見慣れた兎が、

 「おや、鈴仙さんではないですか。どうしました、そんなに血相変えて」

 「どーもこーもないわよ! 見たわよ、今日の新聞!」

 「おや、ご覧いただきありがとうございます。いかがでした?」

 「いかが、ですって?」

 すると、うどんげは右の人差し指を真っ直ぐ伸ばし、まるで射命丸さんに『何か』を向けるかのように構えた。

 「――これが、答えよ!!」

 その指の先から何かが生まれ、光り、線の様に伸び、飛んで行った。

 「おお、こわいこわい」

 と言いつつも、射命丸さんは飛び、『線』を簡単に避けて見せた。

 「感想を聞くと、決まって弾が飛んでくる。何故でしょうか」

 「それは、あんたが変な記事を書くからでしょう!」

 うどんげは、こちらに向かって走りながらも、撃つ事をやめない。

 うどんげが撃った『線』が、射命丸さんの服を掠めた。

 「あやや、ひとまず退散ですかね」

 「逃がさないわよ!」

 彼女らは、今の僕には到底追いつけない速度で、どこかに走って(飛んで)行ってしまった。

 「……あれ、僕は無視なの?」

 僕は、木の幹に腰かけながら、小さくなっていく彼女達の背中を眺めていた。

 

*     *     *     *     *

 

 先ほどの騒動から数分が経った頃。息も整い、足も多少楽になってきた所だった。

 そう言えば、うどんげから水を貰うのを忘れていた。

 僕は喉の渇きを覚え、この場から移動しようと考えた時だった。

 「さっきの騒動は此処あたりかな?」

 突然、僕の視界に大きな鞄が映った。

 「ふむ……特に何もないか」

 その大きな鞄は僕の目の前できょろきょろと辺りを見回している。

 「音が聞こえた所は、騒動があった後。誰も居なくなった後には何か落ちていたりするんだけどな……ちっ、しけてんな」

 「落ちてるというか、まだ僕が居るんですけどね」

 この頃、初対面の人(妖怪)でもあまり緊張せずに話せるようになってきた気がする。

 「ん? 貴方は?」

 振り向くと、とても綺麗な青い目をした女の子だった。

 「僕は鈴宮雪正といいます。貴女は?」

 「私は、河童のにとり。河城(かわしろ) にとりさ。よろしく」

 彼女の格好は寒色が主体であった。緑色の帽子、緑色の鞄、水色の髪、水色の上下服。

 異彩を放つのは、赤い髪飾りと、胸元の金に光る鍵。とても特徴のある格好だった。

 「貴方は……見た所、白狼天狗に似ているけど、妖気が全く感じられないな」

 「あ、それは僕がくぉーたー妖怪だから……」

 「クォーター? どういう事?」

 「少し話が長くなるんですけど……」

 僕は掻い摘んで妖怪となった経緯を説明した。

 

 「えーっと、つまり雪正は元々人間?」

 「人間を辞めたつもりはないですが、つまりそういう事です」

 そうなんだ、と呟くと、河城さんは笑みをこぼし、

 「じゃあ、雪正は盟友だ!」

 「盟友、ですか?」

 河城さんは頷き、

 「そうとも。大抵の河童はみんな人間が好きなんだ。雪正が人間だというなら、雪正も盟友さ」

 両腕を腰にあて、僕の前でふんぞり返る。

 「でも僕、見た目人間じゃないですよ? 四分の一で妖怪ですよ?」

 「それでもいいさ。雪正には人見知りしなかったんだし」

 その台詞の後、河城さんは、ボソッと呟いた。

 「……人見知りの私からしたらクォーター位が丁度いいのかもしれないし」

 その四分の一の血で出来た耳のお陰で、バッチリ聞こえましたが。

 「なにはともあれ、改めてよろしく、雪正!」

 「よ、よろしくお願いします、河城さん」

 「なんでそんなに他人行儀なんだよ。もう少し柔らかくいこうよ」

 河城さんの顔が少し不機嫌そうに見える。なんで此処の住人はみんな名前で呼んで欲しいのだろうか。

 「うぅ……まだ慣れてないんです。じゃあ、にとりさんでいいですよね」

 「んー。まあ及第点かな。追々『さん』は無くすように」

 で、盟友は何か困ってる事はあるかな、と、にとりさんが質問してきた。

 「とりあえず、連れとはぐれたんですが」

 「雪正、迷子だったのか」

 くつくつと笑うにとりさん。僕は少しムッとした目で見つめた。

 「ごめんごめん。連れってどんな人?」

 その表情を見てか、すぐに謝ってくれた。

 「うどんげです。永遠亭の」

 「ああ、あの兎と知り合いなんだ。さっき川で見たんだけど、珍しい所で見たなって思ってたんだ」

 川に水を汲みに行った時かな。

 「でも、この山でうどんげを探すのは無理がありそうです」

 「そうだねぇ。此処で待つかい?」

 「そうですねぇ……」

 そうだ、丁度良いし、あそこに行こうかな。此処でずっと待っているよりは良いだろう。

 「にとりさん、道案内お願いできます?」

 

 




 第2章突入です。サブタイトルでおわかりでしょうが、どうぞお付き合い下さい。今回の主役は誰なんでしょうね。見当がつきませんね。
 お気に入りが20件に到達しました。こんな駄文を読んで頂けることだけでもありがたいのに、お気に入りにもして頂けるなんて。
 TAKAYA様から評価をいただきました。こんな高得点につけていただき。本当に感無量です。
 そして気付けばUAも1500を越しているという。本当に皆様ありがとうございます。

 なお、「誤字脱字」「この表現おかしくない?」「○○ってなに?」等がございましたら、感想とともに記載して頂けると大変嬉しゅうございます。
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