東方人妖期   作:黎悠明

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~トランプ遊び、心遊び~

 

 

 その日の夜。僕はいつも通りに晩ご飯を食べた後だった。

 「ねぇ! 今日も泊まって良いよね? 私まだユキと遊んでないよ!」

 このフランの言葉に便乗してか、早苗さんまで、

 「フランさんが泊まるなら私も泊まりたいなーなんて。ほら雪正さんの風邪がぶり返したらいけないじゃないですか」

 それは確かにそうだけど、正直ぶり返す感じはしない。でも、フランともちゃんと遊んではいない。それは流石に可哀想だ。

 うどんげは反対の合図を送っていたけれども、僕は頷き賛成した。それを見たうどんげはすぐさま、

 「ユキ! ダメよ! 病み上がりで遊べるわけないでしょ!」

 「遊ぶって言っても身体を動かさなきゃ大丈夫だよ」

 それでもうどんげは中々折れない。

 「お願いうどんげ! この通り」

 僕はうどんげに向かって何度もお願いした。それが通じたのか、ようやく、

 「わかったわよ。身体を動かさないなら、許してあげる」

 「ありがとう、うどんげ!」

 両手を上げて喜ぶフランと僕。それを見ていた早苗さんとうどんげ。

 「いつもいつも、あの笑顔に負けるのよね」

 「なんとなくわかる気がします。彼の笑顔、可愛すぎるんですよね」

 

 それから、僕らはなにで遊ぶかを決めた。

 「んー……これ! って持ってない数字だ。ちぇ」

 外で遊べないのだから室内で遊ぶしかない。しかももう夜である。行燈の明かりを多めに着け、僕らは札を使って遊んでいる。

 「あ、さっきフランが持っていった数字。早苗、手札が減らないじゃない」

 「人の所為にしないで下さい。どれにしようかな……これにしますっ――ってババじゃないですか!!」

 「あ、それって持ってちゃダメな奴だったの? よかった。ん、同じ数字だ。ありがとフラン」

 「へへー、どういたしまして」

 「普通、喜んじゃダメじゃない」

 僕らは、とらんぷでばば抜きをしていた。

 

 ――とらんぷ? なにそれ?

 「暇つぶしになると思って持ってきたの! これで遊ぼう!」

 「いいですね。人数的にも丁度良いですし」

 「身体も動かさないし賛成」

 フランが持ってきた奇妙な札の束。みんなはそれを「とらんぷ」と言った。

 「そっか、ユキはトランプ知らないのね。じゃあ簡単な遊びから始めましょう」

 

 そういう経緯で始まったとらんぷ大会。この大会が色々と大変な事になるとはまだ僕は思い知らされていなかった。

 

 「うぅー……かぁーてぇーなぁぃいいいい」

 寝転んで手足をバタバタとさせるフラン。

 「貴女、ババ抜き弱かったのね」

 「というか、表情に出ちゃうからだと思うんです」

 結構な回数ババ抜きを行ったのだが、全てフランの負け。答えは簡単。フランは顔に出るのだ。ババを掴もうとしたら喜び、他を取ろうとすると悲しそうな顔をする。とてもわかりやすいのだ。

 「もっかい! もっかいしよう!」

 「仕方ないわね。ユキ、それでいい?」

 「うん。皆がそれでいいなら」

 「私も構いませんよ」

 こうして何度目かわからないババ抜きがまた始まった。

 

 「はい、上がりです」

 うどんげが1抜けをし、今度は早苗さんが2番目に抜けた。残りは僕とフランである。

 「負けたくない負けたくない負けたくない……」

 フランの手札は2枚。僕が1枚。残った札は、だいやの4。ババはフランが持っている。

 さぁ、引くのは僕だ。フランの手札に手を伸ばす。

 「――っ」

 一瞬身体を強張らせる彼女。なにもそこまで緊張しなくても……

 僕から見て右の札に触れると――泣きそうな顔をした。

 やはりわかりやすい。こっちか。これを取ると僕は勝てるのか。

 「……うぅー……」

 でも、なんだか可哀想だな。そう思った僕はスッとその隣の札を掴み引きぬいた。

 「……はぁ、甘いんだから」

 「まぁまぁ」

 僕らには聞こえないくらいの声で呟く先抜け組。でもそれはこの耳の僕には聞こえてしまう。わかってるよそのくらい。

 案の定引いた札はババ。目の前には喜んでいるフラン。だがここからが問題だ。フランが引く手札は変えようがない。

 さぁ、どうしよう。フランが見た事のない真剣な顔で僕の2枚の札を睨んでいる。

 彼女の手が恐る恐るこちらに伸びてくる。

 

 ……そうか、こっちか。

 

 僕は手札を混ぜ、フランの目の前に裏にして置いた。

 

*     *     *     *     *

 

 「僕、ちょっとお手洗いに行ってくるね」

 喜んでいるフランを横目に、厠に向かう。

 用を足して、水瓶の水を柄杓で掬い、軽く手を洗い流す。

 「雪正さん」

 ひょこっと出てきたのは緑色の髪。

 「あ、早苗さん、どうしたの? 早苗さんも?」

 「女の子にデリカシーのない事を言っちゃいけません。そうじゃなくってですね」

 彼女は僕の耳にそっと囁いた。

 「能力、使ったでしょう」

 「……バレてたんだ」

 はい、と頷く彼女。そう、僕はあの時、『未来を視た』。考察をしたのだ。フランが取ると視た方に数字の札をわざと置いたのだ。

 「と、言ってもあの場でわかってるのは私くらいですよ」

 でも、なぜ早苗さんだけわかったのだろうか。僕はそう問いかけた。

 「それは詳しくはわかりませんが、同じ現人神だったからじゃないですかね。感覚的にですよ」

 根拠は無いが、納得できた。僕もついこの間までは現人神の様に過ごしていたから。

 「言わないでくれてありがとう」

 僕は素直にお礼を言った。

 「どうしてです?」

 「早苗さんが言わないでくれたお陰で、今フランがとっても喜んでるから」

 そう言うと、僕は二人の待つ部屋に戻ろうとする。が早苗さんが僕の目の前で通せんぼをした。

 「もう……そういう所が素敵なんですよ。貴方は――」

 彼女が動くのと数秒後には、

 

 頬に彼女の唇の感触があった。

 

 「……えっ、えええ?」

 「ほっぺにキス、しちゃいましたっ。きゃっ」

 なにが「きゃ」だよ……と、気付けば自分の顔全体が熱を感じた。

 「あら、顔が赤いですよ。風邪がぶり返したんですか? それは大変です、急いで部屋に戻りましょー」

 棒読み感丸出しで捲し立てると、僕の手を掴み、歩き始めた。

 「雪正さん、手。冷たいですね」

 「そりゃあ手を洗ったからで……って放してよ、歩きづらいよっ」

 「だめでーす。――ふふっ」

 「急いで」と言う割には、ゆっくりと歩く早苗さんはどこか嬉しそうで。僕はその温かい手を握り返したのだった。

 

 

 第2章 完




 17話です。第2章も終わりを迎えましたね。次はどういう動きを見せるんでしょうか。予定では多分あそこです。
 2章は早苗章。いやはや、うどんげも早苗もお姉さんポジションですね。そろそろお姉さんじゃないキャラが欲しい物です。頑張れフランちゃん。
 先日のifストーリーはうどんげに決定ですね。これから考えます。正直書けるかどうか怪しかったりします。人妖期に今長屋。育児譚と書く物いっぱい。幸せです。

 なお、「誤字脱字」「この表現おかしくない?」「○○ってなに?」等がございましたら、感想とともに記載して頂けると大変嬉しゅうございます。
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