東方人妖期   作:黎悠明

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第三章 ~紅い屋敷、蒼髪の嬢~
第三章 ~紅い屋敷、蒼髪の嬢~


 

 第三章 ~紅い屋敷、蒼髪の嬢~

 

 「咲夜」

 薄暗い屋敷の中、少女とメイドは居た。

 「どうなさいましたか、お嬢様」

 凜とした態度で咲夜と呼ばれたメイドは答える。

 「フランがどこに行ったか知らない? 部屋に居ないのよ」

 「妹様、ですか? そう言えば図書館でお会いしてから、見ていないですね」

 「それって、いつの話?」

 「一昨日の夕方の話です。その後は見かけていないですね」

 「そう。なにか可笑しな所とかなかった?」

 咲夜は顎に手をあて考える様子をし、やがて答えが出た様な顔をした。

 「お菓子と紅茶が残っていたんです。いつもは全て召し上がっているのですけど」

 図書館でお菓子と紅茶を差し上げた事。新聞が気にかかり、持って行ってしまった事を伝えた。

 「クッキーは残っていて、新聞は無かった。となると、新聞の記事に感化されたのかしら。全く、天狗が絡むと良い事が無いわ」

 彼女は考えを巡らせる。ふと窓の外を見やると、門番の姿が。

 「――でもないわね。咲夜。あそこで気持ち良くお昼寝をしている美鈴の枕、取って来てもらえるかしら」

 「……かしこまりました。ついでに枕も換えてきますね。ちょっと尖ってますけど」

 咲夜はナイフを取り出しながら玄関に向かって歩き出す。

 「枕を汚しちゃだめよ。これから読むのだから」

 その後、門番は頭から刃物を生やしたまま仕事をしていた事はまた別の話。

 

 *     *     *     *     *

 

 その日は朝から雨だった。

 空を見上げながら落ちてくる雨粒を見つめる。しとしとと鳴りやまない雨音に心地良さを感じる。

 「ここに居たんですね」

 目を瞑って、ただ雨音だけに耳を傾けていた。静かな永遠亭の縁側に、最近聴きなれた巫女の声が耳に入って来た。

 「そろそろお暇しようと思って、挨拶でもと」

 「そっか。神奈子さん達も待ってるもんね」

 玄関まで送っていく、と二人で廊下を歩く。

 雨の日は好きだった。幻想郷に来る前、雨の日は参拝客が少ないため、仕事は早めに終わる。その後の家族の時間がたまらなく好きだった。父様と遊んだり、母様と裁縫をしたり。そんな大切な記憶がある。

 「そう言えば、フランは?」

 昨日、夜中になるまで遊ぶのを止めなかった彼女の姿を僕はまだ見ていなかった。

 「まだ寝ていますよ。吸血鬼ですから」

 ああ、朝が苦手なんだっけ。

 「ついでに、彼女は水も苦手です。だからこんな朝は外にすら出たくないでしょうね」

 微笑みながら隣を歩く早苗さん。ふと、彼女を盗み見る。綺麗な長い緑の髪、蛇の髪飾りで束ねられている一房の髪が歩調に合わせユラユラと揺れるのが目に入る。

 そのまま、髪、首、顎と上へと目線は変わり、口で止まった。桃色をした柔らかそうな唇である。

 彼女の唇を見ているだけで、ほんの少し顔が熱くなる感じがした。

 「……今、雪正さんが考えてる事を教えて差し上げましょうか?」

 ドキンと胸が高鳴った。自分の目線を彼女の綺麗な瞳まで上げる。

 「昨日の夜。ほっぺにキス」

 ピクッと身体が反応した。本当にお見通しだった。僕はそれを隠そうと、目線を逸らしたのだが、

 「……えっちですね」

 当然バレていた訳で。意識してしまうのは仕方ない事だと思う。あんな不意打ちで接吻されるとは思ってもいなかった。

 「ご、ごめんっ」

 視線を外し、謝る。が隣ではくすくすと笑う彼女の姿。

 「冗談ですよ」

 その台詞に安堵しながらも、やはり意識してしまう僕だった。

 

 玄関を開けると、袴の裾をほんの少しだけ濡らした。

 「そう言えば、帰るって言っても雨降ってるけど……」

 僕は彼女に問いかける。すると困った様な声を返してくれた。

 「そうなんですよねぇー。雨の中を帰るってのもありますけど、まだ病み上がりですし」

 病み上がりの二人で空を見上げる。灰色をした雨雲が空一面を覆っている。唐傘を差して行こうにも竹林を越え待っているのは山道だ。得策とは言えない。

 さて、どうしよう。……と考えていた所だった。

 「二人揃って玄関で何やっているんだ」

 現れたのは、赤もんぺの妹紅さんだった。唐傘を差し、煙草を咥えてこちらに歩いてきた。その時丁度風向きが変わったからか、雨の滴が煙草の火を消した。

 「またか。だから雨の日は嫌いなんだ。力を無駄に消費する」

 ポイと濡れてしまった煙草を投げ捨てる。

 「ポイ捨ては駄目ですよ。拾って下さい」

 玄関の彼女は注意する。それを渋々とした顔で取りに行く妹紅さん。

 妹紅さんが横に移動して、ようやく唐傘がもう一本差されていたのがわかった。

 「そうだ、客だよ。吸血鬼の従者だ」

 

 *     *     *     *     *

 

 「歩くの疲れたぁ……ユキぃ。おんぶしてぇ」

 僕らは竹林を抜け、湖の見える砂利道を歩いていた。

 「駄目です。雪正さんは病み上がりなんです。自分で歩いて下さい」

 隣を歩くのは早苗さん。僕の肩に抱きつこうとするフランを一喝する。

 口を尖らせながらも従う彼女は、唐傘を差しながら僕の後ろを歩く。

 「妹様、屋敷に着きましたら、ケーキを焼くのですが、ご希望はございませんか?」

 前を歩く、白と黒の『めいど服』に身を包んだ先ほどの客人の台詞にすぐさま答える。

 「ベリータルト!」

 「ベリータルトですね、かしこまりました」

 その言葉で元気になったフランは、足取りが軽くなったようだった。流石はフランの家の従者さん。

 「……私は神社に帰るつもりだったんですが、どうしてこうなったんでしょうか」

 その台詞に僕はただ苦笑いをするだけだった。

 

 どうして僕らが雨の中、唐傘を差しながらとある屋敷へ向かっているかというと。簡単に言うと『親が子を迎えに来た』という事だ。だが、唐傘を差してきた客人。十六夜 咲夜(いざよい さくや)さんの用件はそれだけでは無かったのだ。

 「雪正さん。お嬢様が貴方にお会いしたい。と仰っております」

 そう言われた僕は、永琳さんにその旨を伝えると、

 「あら、行って来たらいいじゃない」

 と即答。ついでに朝から見なかったうどんげを誘おうとして、居場所を聞くと、

 「鈴仙? そうねぇ……今頃は花畑で歌でも歌っているんじゃないかしら」

 なるほど。だから朝から見なかったのか。と納得し、僕が第二の犠牲者になる前に永琳さんの部屋から逃げた。

 そんなこんなで、フランを起こし、いざ向かおうとした時。

 「え、鈴仙さんは行かないのですか? それなら私も行きます」

 と、なぜかやる気に満ちた早苗さんが同行を願った。

 

 それが一刻前の出来事。

 砂利道を歩きながら、湖を眺める。雨で向こう岸は見えないが、それでも良い景色である。そういえば、湖を見るのは生まれて初めてだ。僕は初めての湖を珍しいものを見ているかのように眺めていた。

 すると、雨の中、空に黒い何かが浮いているのが微かだが見えた。

 ――いや、それは移動している。その物体は飛んでいたのだ。僕はそれが気になり、彼女達に聞いてみた。

 「ねぇ、あそこで飛んでいるのはなに?」

 次々と僕が指差す方向を向く彼女達。すると、

 「あぁ。あの方でしたか。あの方はたかり魔さんです」

 と早苗さん。

 「あの人はー、泥棒さんだよ」

 とフラン。

 「お二方とも間違ってはいませんが、魔法使いです」

 と十六夜さん。

 「……えーっと?」

 答えに悩む僕に早苗さんは、

 「つまりですね、よく人から食べ物を貰い、借りるという名目で本を盗る、職業が魔法使いの魔理沙さんです」

 良い印象が全く見受けられない紹介の仕方だった。

 「まぁ、ウチに向かってる様だし、多分会えるよ」

 フランはそう言って、僕の背中に飛び乗る。

 「また、雪正さんに抱きつく! やめてくださいって言ってるでしょう!」

 「ヤダ! もう歩くの疲れた! それに朝だし雨だし、元気でない!」

 「雪正さんは病み上がりなんです! 離れなさい!」

 「いーやーだーぁ!」

 僕の背中に乗っかるフランをどうにか剥がそうとしている早苗さん。女の子というのは二人集まったらケンカばかりする生き物なんだろうか。

 「屋敷が見えて参りましたよ」

 前を向く僕。すると目の前には真っ赤な屋敷が、でかでかと建っていた。多分、僕の家の神社より大きいんじゃないかって位の。

 「ユキ。ようこそ、紅魔館に」

 フランが僕にしがみつきながら言う。僕はこれから起こる事を『考察』すればよかったと、後になって後悔する事をまだ知らなかった。

 




 お久しぶりです。テスト、実習という長い長い拘束期間を越え戻ってきました明です。とても長かった……。まぁ、実習が終わったら次は就職活動なんですけどね。
 投稿を止めて約四ヵ月間。その内テスト、実習だったのは約2ヵ月間。ちょっと執筆サボってましたごめんなさい。これからものろのろとですがまた書いていきたいのでどうかよろしくお願いします。
 
 3章目です。おわかりの通り、紅魔館編。ここからは紅魔キャラが出てきます。今からどう書こうか悩んでおります。お楽しみを。


 なお、「誤字脱字」「この表現おかしくない?」「○○ってなに?」等がございましたら、感想とともに記載して頂けると大変嬉しゅうございます。
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