東方人妖期   作:黎悠明

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~頑張る決意と甘える決意~

 

 

 「……はぁ」

 静かな部屋にため息がこぼれる。これで何度目のため息だろうか。

 あれから僕は十六夜さんに案内され、とある一室に来ている。大きな台に乗っている布団――べっどと言うらしい――、小さな足の高い机に椅子。僕はベッドの隅に座り少し休憩をしている。

 休憩をとりながら目線を天井に向ける。

 ……いきなりあんなこと言われてもなぁ。

 従者になれといきなり言われてしまった僕。そもそも従者って何すればいいのかもわからないし……。正直僕なんかに出来る職業なんかじゃない気がするし。

 

 『5日あげるわ。紅魔館で過ごして私が貴方に相応しい主か判断なさい。もっとも、結果は見えていると思うのだけれど』

 と自信満々に言われてしまった訳で。

 

 『え、ユキ、ウチにお泊まりするの? ヤッター! 毎日遊ぼうね!』

 と、とても嬉しそうに言われてしまった訳で。

 

 でも、と僕は思う。実際に考えてみると、今は永遠亭で居候として過ごしているが、実際は職なしの家なしっ子。レミリアさんの従者になれば、職も家も一気に手に入るという訳だ。

 ともあれ、この紅魔館で5日間過ごし、レミリアさんを主として相応しいかを判断しなくてはいけない。兎にも角にも、その為にはレミリアさんの近くにいなければ。と思い、頭を上げる。

 ――コンッコンッ

 いざ立ち上がろうとした時、唐突に扉から音がした。どうぞ。と答えると、扉が開き、緑色の頭がひょこりと出てきた。

 「――早苗さん!」

 「雪正さん、ここに居たんですね」

 僕はどこか少し緊張していた気持ちが解れた。

 「うん。これからここが僕の部屋だって」

 先程、十六夜さんに伝えられた事だ。

 「そうなんですか……それにしても可笑しな事になりましたね」

 彼女は、扉を閉めると部屋に入り、べっどの隅、僕の右横に腰かける。

 「いきなりだからビックリしたけどね」

 彼女の顔を見ながら僕は話す。それからほんの少しの雑談を交わした。くっきーがどうだの、フランが喜んでいただの。僕らは笑いあいながら言葉を掛け合った。このお陰で僕は段々と気が楽になっていった。が、早苗さんはいきなり真顔になると、

 「雪正さんはレミリアさんが言った事に対して、なにも言わないんですね」

 言った事とは、多分「従者になれ」って事なのだろう。

 「ん……まぁね。最初は驚いたけどね」

 頬を掻きながら笑う。苦笑いの様な、そんな笑顔になってしまった。その顔を見てか、早苗さんは、

 「なにか考えている事でもあるんですか?」

 と、問い掛けてきた。僕はそれに頷く。

 「聞かせてもらっても良いですか?」

 彼女はいつになく真剣な表情を僕に向けた。僕はぽつぽつと話し始める。

 「僕ってね、今は療養の為に、永遠亭で居候しているって事になっているのは知ってるよね」

 僕は生憎の雨が降り続いている外を窓越しで眺めながら話した。彼女は僕の右隣に居る為姿は見えない。

 「だから怪我が治ったらあそこには居られないでしょ。そしたら僕は職なしで家なし」

 逆に見えなくて良かったのかもしれない。彼女の顔を見ていたら絶対に話すのを戸惑ってしまうだろうから。

 「だから、ここで従者として働くのもアリなのかなって思ってさ」

 僕の言葉に反応して「でも」という声が返ってくる。

 「でも、鈴仙さんは雪正さんの怪我が治っても、永遠亭に住まわせてくれると思いますよ」

 「うどんげだったらそうかもしれないけれど、永琳さんが言ったらどうする事も出来ないんじゃない?」

 そう言うと、早苗さんも言葉を無くす。実際、永遠亭の実権を握っているのは永琳さんだ。主の輝夜さんもそうだろうけど。僕は刺し傷の付いた右目の瞼に、そっと触れる。

 「怪我なんてもうこの眼くらいなんだ。しかもたまに痛む程度のね。だからそろそろ考えておかないと、って思って」

 でも、ちゃんと考えたのはついさっき。僕も考えなければずっと甘えていたのかもしれないけど、それじゃ悪い。

 少し暗い感じになってしまった。話を逸らそうかな。

 「でも、ここでの暮らしに馴染めそうになかったらどうしよう。文化の違いとかありそ――」

 「――だったら……」

 消え入りそうなくらいの声で入ってきた声は段々と大きくなる。

 

 「だったら、ウチに来たらいいじゃないですか!!」

 

 「……え?」

 今まで見ていなかった、彼女の顔を見ると、

 「……あっ……」

 すっごい真っ赤だった。いや、僕と眼が合ってから真っ赤になったのだ。しかも耳まで。

 「い、いや、あのですね。ほら……そう! 文化の違い! 文化の違いとかで戸惑うようでしたら私の所で住んだら良いんじゃないかなって思って! 私の所神社ですから雪正さんもすぐに仕事を覚えられると思いますしその方が私の――じゃない雪正さんのっ! 為になるんじゃないかなって!!」

 色々な方向に彼女の手が動く動く。まさに千手観音にもなれそうな速さだ。

 「あ、あの……本当に。御迷惑でなければ……なんですが」

 腕もうなだれ、今度は語尾が消え入るほど小さくなっていく。顔も俯き加減に下を向いて。

 「ありがとうね」

 僕は早苗さんの手を握る。彼女の顔も少しだが上がる。

 「早苗さんは、僕の緊張を解こうとそんなこと言ってくれたんでしょ? 嬉しいよ」

 「え、いや、私は本気で――」

 「早苗さん、僕頑張るよ。この5日間でなにか見つけてみるね」

 「あの……その……はい」

 最後に、頑張ってください。という声援を貰うと、僕は立ち上がった。

 「――正さんの、朴念仁……」

 「え、なに?」

 べっどが軋む音が思ったより強い。早苗さんの声は僕の耳には届かなかった。この耳だと大きな音が優先されて聞こえるからだきっと。

 「いえ、なんでもありませんよ。ほら、レミリアさんの所に行くんでしょう」

 早く行ったらどうですか。ちょっと強めな口調になってご機嫌斜めな早苗さん。一体どうしたんだろう。戸惑いながら頷き、扉の把手に手を掛ける。と、ちょっとだけど寂しさが込み上げ、扉を引くのをためらう。

 「どうしました?」

 幻想郷に来てからもう少しで1カ月になる。だけど、僕はここで初めて挑戦と言うものをする。そう思うと足が動かなくなってしまう。後一押しが欲しい。その一押しを、

 「ねぇ、早苗さん」

 僕は未だにべっどに腰かける彼女の顔を見る。怪訝な表情だ。

 「僕がさ、この5日間さ……頑張ったらさ」

 こういう時って、なかなか言葉が出て来ないな。ちょっと恥ずかしい。

 段々と彼女の顔が見れなくなる。段々と下を向き結果的に把手を掴む手を見つめる。

 「ちょっとでいいからさ、早苗さんに……甘えても、いいかな?」

 彼女を盗み見る。最初は目をパチパチと。そこから笑顔になって、

 「はい。いいですよ。存分に甘えちゃってください」

 「! が、頑張ってくる! 行ってきます!」

 一歩目が踏み出せた。僕はそう言って、広間に向かって歩いていった。

 

 いやぁ。やっぱり早苗さんって母様に似てるなぁ。

 

 早苗side  *     *     *     *

 

 「――行ってきます!」

 バタンと、ドアが閉まって、足音が遠のく。もういいかと私は、

 「……かっ」

 

 可愛いぃぃぃいいいいいいいいっ!!

 

 なにあの仕草! なにあの顔! 反則! 反則過ぎる!

 私は彼が使うであろうベッドでのた打ち回る。あれは我慢できない。

 「甘えても良いかな? だって! キャー!」

 あの顔で! しかも耳も垂れちゃって、本当に子犬みたいな顔して! 

 「そりゃOKしちゃいますよ! もう、可愛いったらありゃしない!」

 私が必死に想いを伝えた時は見事に勘違いしちゃった癖に。その時は、もう知らないと思ってたのに、先ほどのアレで許す。お釣りがくる。

 ひとしきり、ベッドでごろごろした私は立ち上がる。

 「ちゃちゃっと、ご飯用意してこっちに戻ってこーよぉっと!」

 一度守矢神社に戻って支度をして来よう。お二方とも理由を言えば納得してくれるだろう。

 「それに……」

 ここの主さんも「招かなくても勝手に来る」って言ってたし。

 




 20話です。……見事な早苗さん回になってしまった。早苗さん可愛いよ早苗さん。
 さぁ、ここから紅魔館の中を探索する訳ですが、果たして雪正を待ち受けてるモノは何なのでしょうか。この5日間はどうなるでしょうか。果たして5日後には早苗さんと……次回に続きます。

 なお、「誤字脱字」「この表現おかしくない?」「○○ってなに?」等がございましたら、感想とともに記載して頂けると大変嬉しゅうございます。

※把手(とって)・・・今回は扉の『とって』。ドアノブの事を表しています。雪正君は外来語がからっきしなので、ベッドも平仮名。
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