あてがわれた部屋から飛び出し、意気揚々とレミリアさんを探そうとしたはいいが、
「ここ、何処だろう」
広すぎて迷ってしまっては全く意味が無い。
あっちをきょろきょろ。こっちをきょろきょろ。階段を上がってみたりもした。誰かを探そうにも、広すぎて誰も居ない。仕方なく、わからない廊下を歩く歩く。僕は今どこあたりに居るのだろう。階段を上がったので結構上には居るのだろうけれど。
ふと、窓の外を見ると、僕らが入ってきた門が微かだが見えた。多分、屋敷の奥側まで来てしまったのだろう。
あ、そういえば、門の前に紅さんがいたな。多分レミリアさんの居場所もわかるんじゃないかなと思い、僕は戻ろうと踵を返す。
「――あれ?」
――と、半分の視界に渡り廊下が見えた。その先には大きな両開きの扉があるのも目視で確認できる。
もしかしたら、レミリアさんが居るかもしれない。僕はその部屋に立ち寄る事にした。
扉の把手を掴んで回す。鉄同士が擦れ合う音と共に把手は完全に回りきる。鍵は掛かってないらしい。ゆっくりと扉を押してみる。鼻に飛び込んでくるのは埃っぽさ。その後は薄暗い感じが左目に入ってくる。
「お邪魔しまぁす……」
誰が居るかもわからず、とりあえず言ってみる。が、部屋はしんと静まり返っていて反応は無い。
おそるおそる身体を部屋に通す。パタンと扉を閉めると、もっと暗くなり、辺りが良くわからない。
「あの、誰かいませんか?」
もう一度声を発しても、やはりなにも返ってこない。元結に付く鈴の音だけが耳朶に触れる。
段々とだが目が慣れてくる。目の前には色とりどりの鮮やかな壁があった。
「なんだこれ」
少し近づくとようやくわかる。――本棚だ。大きさが半端無い程の。
辺りを見渡すと、どこもかしこも本棚で、ほん、ホン、本の本ばかり。
凄い量だ。いや、凄いってもんじゃない。これ以上の形容詞が思いつかなかっただけであって。本当に凄い。
興味本位でその壁の様に大きい本棚から一冊、手に取り表紙を見る。――がこれは和の文字ではなく、僕には読めないものであった。
仕方なくその本を棚に戻し、すぐ隣にある本を出して見る。今度は漢字である事は確かではあるが、所々見た事のない字が。多分、清の国の字であろう。少し開いて読んでみる。
……金? この本はお金の本かな。
読める字体だけを読み、なんとか理解しようとしてみる。
金、虫、子、毒、壶……? 駄目だやはり読めそうにない。わからない字の方が多くて理解が出来ない。
――トサッ、ドサッ
僕が解読に夢中になっていると、部屋の奥で音が聞こえた。音が気になった僕はその本に目を落としていたのを止め、本棚にしまうと、音がした方へ歩いていった。
壁の様な本棚をいくつも越える。どさりと聞こえた音は止まず絶えず。近づくにつれ、段々と音が大きくなる。
通路を歩いていると、いきなり横から本が飛び出してきた。うわ、とほんの少しだが声を上げて驚いてしまう。だが、飛んできた本はそのまま床に落ち、ドサッと音を立てるとやがて動きを止めた。僕は音の正体を発見すると、本が飛び出て来た通路を覗き込む。
「――じゃない。これでもない……これか? いや、違うな」
ぶつぶつと呟きながら、本棚の本を投げる誰か。その誰かは金色の長い髪をしており、その上には独特な形をした先の尖った帽子。黒い上着にすかーと、胴衣は白のしゃつ。風貌からして女性だろう。そして、彼女の近くには濡れた外套となぜか箒。書架で箒。とても場違いな感覚であった。
隠れて見ている訳ではないので、身体の半分以上は見えている筈。だが本棚の隅から眺める僕に彼女は気付かない。きっと探し物に集中しているのだろう。
「多分なぁ……ここの本棚あった気がするんだよなぁ」
あーでもない、こーでもない。と呟く彼女。
そうだ、と僕は閃いた。彼女ならレミリアさんが居る所を知っているんじゃないだろうか。
意を決して、僕は金髪の彼女に「あのぉ……」と話しかける。
本を漁っていた手はピタリと止まり、こちらに目を向ける。綺麗な菜の花色をした瞳と眼が合う。
「んお? 誰だお前」
彼女に問われ、姿を目の前に晒し、自己紹介をする。
「お前、雪正っていうのか。私は霧雨 魔理沙(きりさめ まりさ)っていうんだ、よろしくな」
擬音で表すと『二カッ』という感じで歯を出して笑う彼女。
――ん? 魔理沙?
僕の怪訝な顔に彼女は「どうした?」と返してくれる。
「あ、いえ。何でもないです」
名前を知ると共に、数刻前のやり取りが思い出される。
その為、彼女達が教えてくれた事が事だけに、第一印象がちょっとよろしくない。
でも迷いながらもせっかく見つけた人だ。機嫌を損ねたくもないし。
――……ューキィー……
でも、やっぱり少し怖いな。聞く事だけ聞いたら早く立ち去ろう。ここ暗くて怖いし、なんか変な声もするし。
――ユーキィ!!
「あの、僕レミリアさんを探して――る゛っ!」
質問しようとした瞬間。とてつもない衝撃が背中にぶち当たり呼吸が止まった。
大きな衝突音が無くなると目の前が見えない。ただでさえ狭い視界が真っ暗になり何が起きたかわからない。
「ユキ! ここにいたんだ! ここね! 沢山マンガがあるんだよ! 一緒に読もう!」
この衝突が誰の差し金かは声で分かった。今僕の背中に乗っている彼女を叱ろうと声を張る。
「ちょ、フラン! いきなり突っ込んで来ないで!」
どうしてここに、とかマンガってなに、とかではなく、出てきた言葉がそれ。
「ジャストなタイミングだよ! 今から面白いマンガをユキの部屋に持ってって一緒に読もうと思ってたの!」
「『じゃすと』も『たいみんぐ』も『まんが』も意味わかんないけど、とりあえずどいてっ!」
「え、ユキ、マンガ知らないの?!」
「いいからどいてよ!」
ちぇ、という、ありがたい言葉を貰って、フランはやっと僕の背中から退いてくれた。
「なんだ、妹の野郎と知り合いだったんだな、雪正って」
「そうですけど、助けてくれてもよかったんじゃないですかね……」
「いや、なに。面白かったからそのまま見てたぜ」
ケタケタと笑う霧雨さんをジト目で見ながら、袴についた埃を払う。腰の痛みも段々とだが引いてきている様だ。
後ろで「ユキ」「ねぇ」という声を完全無視を決め込んで、
「話を戻すんですが、レミリアさん知りませんか? 探してるんですけど」
「それって、私より後ろのそいつに聞いた方が早くないか?」
「ですよね。僕も言ってから思い出しました」
指差す方を向かずともわかる。今丁度僕の首にぶら下がって興味を引こうとしている彼女の事だ。
「フランドールがそんなに懐いてるの、初めて見たぜ……それに、お前って面白い姿してるしな」
と、物珍しいものを見る様な目で僕らを眺める。確かに狼耳で袴姿ですが。
「――ま。それに、私はここしか大して知らないし」
本を手に取り、さらっと肩掛け鞄に入れていく。これが泥棒と言われるだけの所以か。
「何か失礼な事思ってないか?」
「いっ、いいえ、何も?」
顔に出ていただろうか……。
「それと、私は盗んでない。死ぬまで借りるだけだぜ」
「盗んでるのと大差ないですそれと僕の心を読まないで下さい!」
大声を出し、思いっきり埃を吸って、盛大に咳き込んでしまった事は反省である。
明けました。今年もどうぞよろしくお願い致します。
加えて、実習が終わった8月。その後すぐに始まった就職活動……ホントに辛かった……。精神的に削られた数ヶ月でした。
閑話休題。
21話です。魔理沙ご登場。東方主人公格の1人がやっとこさ。とりあえず、今の所は登場だけって感じですね。悲しきかな。
なお、「誤字脱字」「この表現おかしくない?」「○○ってなに?」等がございましたら、感想とともに記載して頂けると大変嬉しゅうございます。